JP4077701B2 - 繊維素材の処理方法及びその処理方法により得られる基材 - Google Patents

繊維素材の処理方法及びその処理方法により得られる基材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種の繊維素材に対し、ポリウレタンを付着させる場合に適した処理方法、及び、その処理方法により得られる基材に関するものである。さらに詳しくは、バインダーや風合い付与などの目的で、ポリウレタン水性液を用いて繊維素材を処理する方法に関するものであり、各種衣料、人工皮革、フィルター、断熱材、農業用資材、電子機器製造関連資材などの産業資材に幅広く使用できる基材を得ることができる。
【0002】
【従来の技術】
ポリウレタンは、柔軟でかつ強靱であり、極性が高いために各種素材との密着性に優れているという特徴を有している。これらの特徴より、ポリウレタンは各種繊維素材に対して、風合い付与の目的や、引っ張り強度や、耐摩耗性の向上の目的で使用されている。しかし、繊維素材にポリウレタンの水性液を付与させ、加熱乾燥させる過程において、ポリウレタン粒子の繊維素材表面へのマイグレーションが起こり、厚手の繊維素材を用いた場合は特に、表面のみにポリウレタンが付着した状態となり、内部にはポリウレタンの付着が殆ど認められない状態となる。このため、繊維素材の各種強度が充分に向上されない、表面の品位が悪くなるなどの問題を引き起こす。
【0003】
このマイグレーションを防止するための従来の方法では、例えばポリウレタン水性液と硫酸ナトリウムや塩化ナトリウム等の無機塩とを併用する処方がとられている(例えば、特許文献1参照)。しかし、これらのマイグレーション防止効果は必ずしも満足いくものではなく、効果があった場合でも、繊維素材に併用剤が残留するために、風合いが粗硬化したり、各種の強度低下を引き起こすなどの欠点がある。さらに、染色された繊維素材の場合は堅牢度にも劣るなど、種々の問題が残っている。このため、繊維素材にポリウレタン水性液を付与し乾燥させた後、洗浄して併用剤を除去し、再度乾燥させるといった工程を追加せざるを得ない。
【0004】
また、これらの併用剤は、ポリウレタン水性液の種類によりマイグレーション防止効果が現れないものがある。すなわち、乳化剤を用いて強制的に乳化したポリウレタン水性液を用いる場合にはかなり有効であるものの、ポリウレタン骨格中にイオン性基(イオンセンター)を導入した自己乳化型のポリウレタン水性液を用いた場合は効果が不十分である。加えて、併用剤を用いると機械類に錆が発生するという問題点があり、設備の面、得られる基材の面からも、より効果的なマイグレーション防止策が要求されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平6−316877号報(第3〜5頁)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、繊維素材の処理方法であって、特に自己乳化型のポリウレタン水性液を繊維素材に付与し乾燥させる際に、繊維素材表面へのポリウレタンのマイグレーションを防止し、繊維素材内部へも均一に付着させることのできる処理方法、及び、その処理方法により得られる、各種の強度や耐摩耗性に優れる基材を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、アニオン性ポリウレタン水性液とウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物とを含有する混合液を、繊維素材に付与することで、乾燥工程においてポリウレタン粒子の繊維表面へのマイグレーションが防止されることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は(1)アニオン性ポリウレタン水性液とウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物とを含む混合液を、繊維素材に付与した後に、加熱乾燥させることを特徴とする、繊維素材の処理方法、(2)アニオン性ポリウレタン水性液が、ポリイソシアネート、ポリオール、及び、アニオン性親水基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、鎖伸長反応して得られるアニオン性ポリウレタンの水性液である、第1項に記載の繊維素材の処理方法、さらに(3)アニオン性親水基と2個以上の活性水素とを有する化合物において、アニオン性親水基がカルボキシル基であり、該カルボキシル基の含有量がアニオン性ポリウレタンの重量に基づき0.2〜5.0重量%であることを特徴とする第2項記載の素材の処理方法に関する。
また本発明は(4)前記(1)〜(3)の本発明の繊維素材の処理方法により得られた基材に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
本発明の方法は、アニオン性ポリウレタン水性液と、ウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物とを含む混合液を繊維素材に付与し、その後に加熱乾燥させることを特徴とする。
(アニオン性ポリウレタン水性液)
ここで、アニオン性ポリウレタン水性液とは、ウレタン骨格中に親水基としてアニオン基を有するポリウレタンの水性液を意味する。本発明の方法にかかるアニオン性ポリウレタンの水性液は、(a)ポリイソシアネート、(b)ポリオール、及び、(c)アニオン性親水基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、鎖伸長反応して得られるアニオン性ポリウレタンの水性液であることが好ましい。
【0010】
ここで、(a)ポリイソシアネートとしては、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に制限はない。例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート;トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートなどを挙げることができる。これらのポリイソシアネートは、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0011】
(b)ポリオールとしては特に制限はなく、例えばポリエチレンアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリジエチレンアジペートジオール、ポリエチレンテレフタレートジオール、ポリエチレンイソフタレートジオール、ポリヘキサメチレンイソフタレートアジペートジオール、ポリエチレンサクシネートジオール、ポリブチレンサクシネートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリ−ε−カプロラクトンジオールなどのポリエステルポリオール;ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなどのポリカーボネートポリオール;特開2000−119362号公報に記載されているようなアクリルポリオール、ダイマージオールが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
これらのポリオールの平均分子量は特に制限はないが、500〜4000であることが好ましい。
【0012】
(c)アニオン性親水基と2個以上の活性水素とを有する化合物としては、アニオン性親水基がカルボキシル基であり、活性水素がヒドロキシル基の水素である化合物を好適に用いることができる。
このような(c)成分としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸などを挙げることができる。また、このようなカルボキシル基含有ジオールとして、カルボキシル基を有するジオールと、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式カルボン酸などのジカルボン酸とから得られる、ペンダントカルボキシル基を有するポリエステルポリオールを用いることもできる。このとき、ジオール成分として、カルボキシル基を有しないジオールを混合したジオール成分を混合して反応させてもよい。これらのアニオン性親水基と2個以上の活性水素とを有する化合物は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0013】
また本発明においては(c)成分のアニオン性親水基がカルボキシル基であり、該カルボキシル基の含有量がアニオン性ポリウレタンの重量に基づき0.2〜5.0重量%であることが好ましい。カルボキシル基の含有量が0.2重量%未満であると、アニオン性ポリウレタンの自己乳化性が低下して水性液を得ることが困難になる、あるいは水性液の安定性が不十分となるおそれがある。カルボキシル基の含有量が5.0重量%を超えると、樹脂化したアニオン性ポリウレタンの耐水性が低下するおそれがある。
【0014】
前記(a)、(b)及び(c)成分を用いてイソシアネート基末端プレポリマーを調整する際には、必要に応じて低分子ポリオールや低分子ポリアミンなどの(d)プレポリマー伸長剤を用いることができる。ここで、低分子ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。低分子ポリアミンとしては、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、ピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボランジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明において、前記の成分からイソシアネート基末端プレポリマーを調製する方法としては、従来公知の1段式又は多段式のイソシアネート重付加反応法を挙げることができる。特に反応温度は50〜150℃程度であることが好ましい。また調製の際、必要に応じジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫−2−エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリンなどから選ばれる1種又は2種以上の反応触媒を添加することができる。また、反応段階あるいは反応終了後、イソシアネート基と反応しない有機溶媒を添加することもできる。このような有機溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどを挙げることができる。これらの有機溶剤は、そのまま水性液中に残留させてもよく、減圧等により除去してもよい。
【0016】
次いで、イソシネート末端プレポリマーの中和物を、水に乳化分散させた後、鎖伸長反応させて、アニオン性ポリウレタンの水性液を得る。ここで、「イソシアネート基末端プレポリマーの中和物」とは、(c)成分由来のアニオン性親水基を、イソシアネート基末端プレポリマーの調製前又は調製後に中和して得られるものを意味する。アニオン性親水基の中和に用いる化合物に特に制限はなく、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチル−ジエタノールアミン、N,N−ジメチルモノエタノールアミン、N,N−ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニアなどを挙げることができる。これらのなかでも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミンなどの、ヒドロキシル基を有しない第三級アミン類が好ましい。
【0017】
また鎖伸長剤としては、水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上の化合物を用いることができる。鎖伸長剤に用いる水溶性ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどを挙げることができる。鎖伸長剤に用いる水溶性アミンの誘導体としては、例えば、ジ第一級アミン及びモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン、ジ第一級アミンのモノケチミンなどを挙げることができる。鎖伸長剤として用いるヒドラジン誘導体としては、例えば、分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有する化合物を挙げることができ、炭素数2〜4の脂肪族の水溶性ジヒドラジンが好ましい。炭素数2〜10のジカルボン酸のジヒドラジドとしては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどを挙げることができる。鎖伸長剤として用いる炭素数2〜4の脂肪族の水溶性ジヒドラジンとしては、例えば、1,1′−エチレンジヒドラジン、1,1′−トリメチレンジヒドラジン、1,1′−(1,4−ブチレン)ジヒドラジンなどを挙げることができる。鎖伸長反応は、反応温度20〜40℃で行うことが好ましく、反応時間は通常は30〜40分で完結する。
【0018】
(ウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物)
本発明において用いられるウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物とは、ウレタンプレポリマーであって、さらにそのウレタンプレポリマーの末端のイソシアネート基が重亜硫酸塩でブロックされた化合物であり、重亜硫酸塩が、加熱(50〜150℃程度)により脱ブロックして活性なイソシアネート基を生成し得るものを意味する。該化合物はかかる構造を有することから親水性を有し、かつ水溶液の状態で長期間保存可能である。
【0019】
かかるウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物を得るには、例えば有機ポリイソシアネートと、2個以上の活性水素を有する化合物とを反応させて末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを合成し、さらにその末端のイソシアネート基を重亜硫酸塩(例えば、ナトリウム塩)でブロックすることにより得ることができる。
【0020】
ここで、有機イソシアネートとしては、前記の(a)成分に例示したようなポリイソシアネートを同様に挙げることができ、それらから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。これらのなかでも、重亜硫酸ナトリウムとの反応性やブロックの解離温度を考慮し、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートを用いることがより好ましい。また、2個以上の活性水素を有する化合物とは、末端あるいは分子中に2個以上のヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基又はメルカプト基を有するものを意味する。前記(b)成分として例示したようなポリオールを好ましく使用することができ、特にポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオールが好ましい。
【0021】
ウレタンプレポリマーを合成するには、従来公知の1段式又は多段式のイソシアネート重付加反応が好ましく使用できる。反応温度は150℃以下、好ましくは50〜120℃の条件で、反応時間は5分〜数時間反応させるのが好ましい。さらにウレタンプレポリマーの合成時には、前記の(d)プレポリマー伸長剤で例示した化合物を用いて、ウレタンプレポリマーを鎖伸長させてもよい。
【0022】
ここで、イソシアネート基/活性水素のモル比は1以上とし、得られるウレタンプレポリマー中に遊離のイソシアネート基を残存させることが必須である。
遊離のイソシアネート基の含有量は、ウレタンプレポリマーの重量に基づき2〜15重量%であることが好ましく、3重量%以上であることがより好ましい。含有量が2重量%未満であると、マイグレーション防止効果が不十分になるおそれがある。
【0023】
次に、重亜硫酸塩水溶液と得られたウレタンプレポリマーとを混合してイソシアネート基をブロックする。ブロックのための反応条件は、ブロック剤とイソシアネート基の反応性に基づき、当業者であれば容易に選択することができるが、一般に反応温度は50℃以下が好ましく、特に好ましくは20〜40℃であり、5分〜2時間程度、充分に撹拌しながら反応させる。その後所望の濃度に水で希釈(一般的には10〜40重量%水溶液)して用いることができる。
【0024】
(処理方法)
本発明の処理方法は、上記説明したアニオン性ポリウレタン水性液と、ウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物とを含む混合液を、繊維素材に付与し、その後に加熱乾燥させることを特徴とする。
ここで、アニオン性ポリウレタン水性液とウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物とを含む混合液を調製する際には、アニオン性ポリウレタンとウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物との重量比が1:2〜30:1となるように混合することが好ましく、2:1〜20:1の範囲がより好ましい。ウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物の重量比率が上記範囲より低くなるとマイグレーションの防止効果が劣るおそれがあり、高くなるとポリウレタンを使用する主目的である基材の各種強度が使用用途に適さないものとなる場合がある。
【0025】
また、この混合液のpHは7〜10に調整することが好ましい。pHが7より酸性側であると、アニオン性ポリウレタンが不溶化するおそれがあり、混合液が不安定となるおそれがある。一方、pHが10よりアルカリ側となると、ウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物の使用量にもよるが、加熱時のブロック解離後もアニオン性ポリウレタンエマルジョンが安定に存在し、マイグレーション防止効果が充分に発揮されないおそれがある。pHの調整は通常用いられる酸、アルカリのいずれも用いることができるが、一般にpH調整前の混合液は、酸性であるため、トリメチルアミン、トリエチルアミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリを用いることができる。
【0026】
(繊維素材)
調製した混合液を適用し得る繊維素材としては、各種衣料、人工皮革、フィルター、断熱材、農業用資材、電子機器製造関連資材など産業資材の基材材料として用いられるものであって、前記の混合物を付着させ、乾燥した後樹脂成分による被膜の形成が可能なものであれば特に制限はない。例えば、離型紙、紙、天然繊維、合成繊維、及びこれらの混紡、混編、混織により作成された織物、編物、不織布などが挙げられる。
混合液を繊維素材に付与する方法としては、含浸、コーティング、噴霧などが挙げられ、付与後、好ましくは温度70〜200℃程度で加熱乾燥させて基材を得る。また、必要に応じて、加熱乾燥前に蒸気による湿熱加熱、高周波加熱、高周波誘電加熱させてもよい。
【0027】
本発明の処理方法により奏される優れたマイグレーション防止効果は次の通りに考えられる。まず、加熱乾燥時にウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物のブロックが解離して末端イソシアネート基が再生される。再生したイソシアネート基は水と反応して架橋構造を形成する。この反応過程でアニオン性ポリウレタンの粒子を取り込む形で樹脂化すると考えられる。さらに、ブロック解離により混合液のpHが酸性側となり、アニオン性ポリウレタンの不溶化が生じ樹脂化しやすくなると考えられる。これらの反応が相まって、溶媒であるところの水が存在するにも関わらず、アニオン性ポリウレタンの不溶化、樹脂化が生じ、マイグレーションが防止されるものと考えられる。
【0028】
また、アニオン性ポリウレタンのアニオン性親水基として特に本発明においてはカルボキシル基を採用することにより、アニオン性ポリウレタンがpHに対してより敏感になり、ウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物のブロック解離時に混合液が酸性となる際に、ポリウレタンが不溶化しやすくなり、マイグレーション防止効果がより向上するものと考えられる。
【0029】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
なお、実施例及び比較例で得られた基材の性能は、下記の通り評価した。
(1)マイグレーションの度合い
得られた基材の断面を、電子顕微鏡(倍率600倍)で観察し、中央部の樹脂成分の様子を5段階に評価した。
5;基材の中央部と表面部とで、樹脂成分の付着量に全く差異が認められず、マイグレーションが生じていない
4;基材の中央部と表面部とで、樹脂成分の付着量にほとんど差異が認められず、マイグレーションは殆ど生じていない
3;基材の中央部と表面部とで、樹脂成分の付着量にわずかに差異が認められ、全体の厚さに占める中央部の約10%部分にはポリウレタンの付着が認められない
2;基材の中央部と表面部とで、樹脂成分の付着量にかなり差異が認められ、全体の厚さに占める中央部の約30%部分にはポリウレタンの付着が認められない
1;基材の中央部と表面部とで、樹脂成分の付着量に著しく差異が認められ、全体の厚さに占める中央部の50%以上の部分でポリウレタンの付着が認められない
【0030】
(2)摩耗試験
JIS L 1096(1999)のテーバ形法に準じ、テーバー摩耗試験機(安田精機製)により、硬質輪H−22を用い、荷重500gをかけ、1000回及び3000回摩擦させた後の、基材の重量減少を摩耗量として示す。摩耗量が少ないほど、基材の耐摩耗性が優れている。
【0031】
(実施例1)
アニオン性ポリウレタン水性液「ネオステッカー700」(日華化学(株)製、アニオン性ポリウレタン濃度37重量%)100g、トリエチルアミン0.2g、及びウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物「エバファノールAL−3」(日華化学(株)製、濃度30重量%)10gを均一になるまで混合し、pH8.5の混合液を調製した。
この混合液に、目付400g/m2、厚さ3mmのポリエステル不織布を浸漬した後、スリットマングルにてピックアップ400%で絞液し、ピンテンターにて140℃で10分間加熱乾燥し、基材を得た。
【0032】
(実施例2)
ネオステッカー700を100g、トリエチルアミン1g及びエバファノールAL−3を50g混合してpH8.5の混合液を調製した以外は、実施例1と同様に処理し、基材を得た。
【0033】
(比較例1)
混合液の代わりに、ネオステッカー700をそのまま用いた以外は実施例1と同様に処理し、基材を得た。
(比較例2)
ネオステッカー700を100gと硫酸ナトリウム20重量%水溶液10gを混合して混合液を調製した用いた以外は実施例1と同様に処理し、基材を得た。
(比較例3)
ノニオン性強制乳化型ポリウレタン水性液「エバファノールAP−12」(日華化学(株)製、不揮発分40重量%)100g及び硫酸ナトリウム20重量%水溶液10gの混合液を用いた以外は実施例1と同様に処理し、基材を得た。
(比較例4)
エバファノールAP−12を100g、エバファノールAL−3を10g、及びトリエチルアミン0.2gを混合して混合液を調製した以外は、実施例1と同様に処理し、基材を得た。
実施例及び比較例で得られた基材の各性能を表1にまとめた。
【0034】
【表1】
Figure 0004077701
【0035】
この結果から、実施例で得られた基材ではマイグレーションが充分に防止されており、基材の中央部にまで樹脂成分が付着されていることが分かる。また摩擦回数1000回後、3000回後の基材の摩耗がほとんどなく、耐摩耗性に非常に優れていることが分かる。
【0036】
一方、比較例で得られた基材ではマイグレーションが防止されておらず、基材表面近くには樹脂成分が付着されてはいたが、中央部には樹脂成分の付着が見られないことが分かった。また、摩擦1000回後の摩耗量は、実施例とほぼ同じであったが、摩擦回数3000回後では著しく摩耗量が増加しており、耐摩耗性に劣っていることが分かった。また基材の表面部に樹脂成分が多く付着しているために初期では良好な耐磨耗性を示すものの、摩擦回数を重ね、樹脂成分の多く付着している層を越えた段階で、急に摩耗が進むことが分かった。
【0037】
【発明の効果】
本発明の処理方法によれば、アニオン性ポリウレタン水性液とウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物とを含む混合液を、繊維素材に付与した後に加熱乾燥させることにより、ポリウレタン粒子の繊維表面へのマイグレーションを防ぐことができ、あるいは極めて少ない状態で繊維素材にポリウレタンを均一に付着させることができ、各種の産業資材に適した基材を提供することができる。
また、従来の無機塩等の併用剤を使用するものと比較して、マイグレーション防止効果が高いばかりでなく、後洗浄により併用剤を除去する必要もなく、加工の簡略化という利点をも備えている。

Claims (4)

  1. アニオン性ポリウレタン水性液とウレタンプレポリマー末端イソシアネートブロック物とを含む混合液を、繊維素材に付与した後に、加熱乾燥させて樹脂化させることにより、ポリウレタンのマイグレーションを防止することを特徴とする、繊維素材の処理方法。
  2. アニオン性ポリウレタン水性液が、ポリイソシアネート、ポリオール、及び、アニオン性親水基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、鎖伸長反応して得られるアニオン性ポリウレタンの水性液である、請求項1記載の繊維素材の処理方法。
  3. アニオン性親水基と2個以上の活性水素とを有する化合物において、アニオン性親水基がカルボキシル基であり、該カルボキシル基の含有量がアニオン性ポリウレタンの重量に基づき0.2〜5.0重量%であることを特徴とする請求項2記載の繊維素材の処理方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の繊維素材の処理方法により処理された基材。
JP2002278664A 2002-09-25 2002-09-25 繊維素材の処理方法及びその処理方法により得られる基材 Expired - Fee Related JP4077701B2 (ja)

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