JP4073055B2 - 有機過酸化物及び使用方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オンとその用途に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機過酸化物は、不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂(以下樹脂と略す)の硬化に使用される硬化剤や、ラジカル重合性を有する不飽和単量体(以下モノマーと略す)等の重合、共重合に使用される重合開始剤として使用されている。
【0003】
樹脂を硬化して得られる硬化成形物は、優れた機械的性質、被接着性、耐化学薬品性、耐熱性等を有し、広く使用されている。
【0004】
樹脂の硬化には、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、アセト酢酸エチルパーオキサイド等のケトンパーオキサイド(以下KPOと略す)が硬化剤として一般的に使用されている。
【0005】
樹脂を硬化する方法としては、上記のKPOと硬化促進剤としてコバルト石けんを併用し、樹脂に添加混合する方法が一般的に行われている。しかし現在の所、この硬化系では、求められる生産性向上のための速硬化や、冬期のような低温時における短時間での硬化が出来ない。
【0006】
モノマーとしては、スチレンモノマー、メタクリル酸メチルモノマー等が挙げられる。これらモノマーの重合、共重合方法としては、単独重合法、2種以上のモノマーを共存させて行なう共重合法、更にスチレンモノマー等にゴム状重合体を溶解して重合させる方法等がある。
【0007】
スチレン、メタクリル酸メチル、ゴム状重合体含有スチレンモノマーのようなモノマー又はそれを含有する組成物を懸濁、塊状或いは溶液重合プロセスでの重合若しくは共重合用を行なう場合の重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイドやt−ブチルパーオキシベンゾエートや1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)3,5,5−トリメチルシクロヘキサノン等の有機過酸化物が、それぞれのプロセス条件、あるいは要求ポリマー物性に応じて使い分けられているが、転化率の良い重合開始剤がない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
樹脂の硬化に好都合な硬化剤や、モノマーの重合、共重合を効率良く行うための重合開始剤として有用な有機過酸化物を開発することが要望されている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果α−アセチル−γ−ブチロラクトンと過酸化水素を反応させて得られる5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オンが樹脂の硬化やモノマーの重合、共重合に優れた効果を有する有機過酸化物であることを発見し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、
(1)下記式(1)で示される5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン
【化2】
Figure 0004073055
(2)α−アセチル−γ−ブチロラクトンと過酸化水素を反応させて得られる5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン
(3)(1)又は(2)に記載の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オンを含有する有機過酸化物混合物
(4)(1)又は(2)に記載の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン又は(3)に記載の有機過酸化物混合物を用いた、不飽和ポリエステル樹脂又はビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂の硬化方法
(5)(1)又は(2)に記載の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン又は(3)に記載の有機過酸化物混合物を用いた、ラジカル重合性を有する不飽和単量体又はそれを含有する組成物の重合又は共重合方法
(6)(4)に記載の硬化方法又は請求項5に記載の重合若しくは共重合方法によって得られる硬化物又は重合物
に関する。
【0011】
【実施の形態】
本発明を詳細に説明する。
本発明の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オンは、通常のケトンパーオキサイド製造方法に準じて、α−アセチル−γ−ブチロラクトンと過酸化水素とを酸触媒の存在下に10〜30℃、1〜2時間反応することで得られる。
【0012】
本発明の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オンは、室温で粘凋な液体であり、赤外線吸収スペクトルでは、3450cm-1の−OOH及び860、840、820cm-1のC−O−O−Cの吸収を有していた。このものは、単独で用いられる他、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、トリエチルホスフェート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の可塑剤、溶剤と混合して樹脂の硬化やモノマーの重合、共重合に使用出来る。
【0013】
本発明の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オンは、上記以外の有機過酸化物と混合した有機過酸化物混合物としても樹脂の硬化やモノマーの重合、共重合に使用出来る。
【0014】
本発明の有機過酸化物混合物は、本発明の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オンとケトンパーオキサイド類等の有機過酸化物と室温で混合することで得られる。
【0015】
本発明の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン及び本発明の有機過酸化物混合物は、通常の熱硬化性樹脂の硬化剤として、又ラジカル重合性を有するモノマーの重合又は共重合に使用されるが、好ましい熱硬化性樹脂としては不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂が挙げられる。
【0016】
使用されうる不飽和ポリエステル樹脂としては、不飽和二塩基酸を必ず1成分として含み、必要により飽和二塩基酸を併用してグリコール類と加熱脱水縮合させて得られる反応物を、スチレン等のビニル系単量体で希釈して得られたものを挙げることが出来る。
【0017】
上記不飽和ポリエステル樹脂の合成に用いうる不飽和二塩基酸の例としては、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等が挙げられる。又、同じく飽和二塩基酸の例としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、こはく酸、アジピン酸、セバチン酸等が挙げられる。同じくグリコール類の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキサンジオール、ビスフェノールA、プロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0018】
使用されうるビニルエステル樹脂としては、ポリエポキシドとα,βー不飽和一塩基酸の当量反応物をビニル系単量体で希釈して得られたものを挙げることが出来る。
【0019】
上記ビニルエステル樹脂の合成に用いうるポリエポキシドの例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のエピビス型グリシジルエーテル、ノボラック型グリシジルエーテル、臭素化グリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート等の含窒素ポリエポキシド、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等のグリシジルエステル、グリコール型グリシジルエーテル等が挙げられる。又、同じく不飽和一塩基酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸等が挙げられる。
【0020】
樹脂の硬化は、室温で樹脂に本発明の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン又は有機過酸化物混合物、硬化促進剤、場合によって硬化促進助剤を添加混合することにより行なわれる。
【0021】
本発明の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン又は有機過酸化物混合物の使用量は、樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部であり、好ましくは0.5〜3重量部である。0.1重量部未満では過酸化物組成物としての作用が不十分で、又5重量部以上を使用しても、過酸化物組成物としての作用が、5重量部程度のときとそれ程変わらないので経済性の面で不利である。
【0022】
本発明の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オンは、10℃といった低温においても樹脂の硬化に使用出来る。単独で用いても、又、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエートやターシャリーブチルパーオキシ2エチルヘキサノエート等の既知のパーオキサイドを併用しても良い。硬化は、通常の樹脂硬化と同様の方法、即ち樹脂に硬化剤等を添加混合してのち、ハンドレイアップやスプレイアップ等により成形し、これを5〜50℃で10分〜5時間静置することで行なわれる。
【0023】
本発明に使用されうる硬化促進剤としては、各種の金属石けんを用いることが出来る。金属石けんの金属成分としてはコバルト、マンガン、バナジウム等、石けん成分としてはステアリン酸、ナフテン酸等が挙げられる。使用量は、樹脂100重量部に対し6%金属換算で0.05〜2重量部の範囲で、好ましくは0.1〜1.0重量部の範囲である。金属石けんはあらかじめ樹脂に混合しておいても良いし、ハンドレイアップやスプレイアップ等の作業時に添加混合しても良い。また必要に応じてカリウム、ナトリウム、鉄、銅、すず、亜鉛、カルシウム等の有機酸塩類と同時に用いることも出来る。
【0024】
本発明の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン又は有機過酸化物混合物を使用して樹脂を硬化させる際、硬化促進助剤としてジメチルアニリン(以下DMAと略す)、ジエチルアニリン(以下DEAと略す)等の第3級芳香族アミンやアセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等のβ−ジケトン類を併用しても良い。これらは、樹脂に室温で添加混合しておくか、作業時に添加し混合使用しても良い。
【0025】
モノマーの重合、共重合は、反応容器にモノマー、必要であれば溶媒を入れ、溶液状態又は懸濁状態とし、攪拌しつつ所定の温度に保ち、本発明の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オンを除々に添加してゆけば良い。
【0026】
本発明の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オンは、スチレン又は(メタ)アクリル酸類を主成分とするモノマーの懸濁、塊状あるいは溶液重合プロセスでの重合又は共重合開始剤として、単独で、あるいは他の過酸化物と組み合わせて使用出来る。添加量はモノマー100重量部に対して0.05〜5重量部が望ましい。その他の重合条件、時間や温度は、モノマーの反応性や溶液重合、懸濁重合、塊状重合等といった重合方法により、適宜選ばれる。
【0027】
以下に合成例、実施例、比較例によって本発明を説明するが、何れも例示のためであり、本発明を限定するものではない。以下に記載の「部」は、いずれも「重量部」を表す。
【0028】
実施例1
α−アセチル−γ−ブチロラクトンと過酸化水素を反応させて得られる5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン(以下ABLPOと略す)の製造例
恒温槽に置かれた反応容器にα−アセチル−γ−ブチロラクトン26部、ジメチルフタレート40部、50%硫酸23.5部の混合液を入れ、30℃で60%過酸化水素水18部を40分かけて滴下ロートから滴下し、その後同温度で一時間反応させ、反応終了後室温にて廃液を分離、脱水してα−アセチル−γ−ブチロラクトンと過酸化水素を反応させて得られたABLPO溶液56部を得た。このもののヨード滴定法によって得た活性酸素量は、8.49%であった。ここで活性酸素量とは、次の式で定義される値をいう。
活性酸素量(%)={(過酸化結合の数×16)÷分子量}×純度(%)
【0029】
実施例2〜9、比較例1〜2
JIS−K−6901の常温硬化試験法に準拠して、10℃、各樹脂100重量部に対し硬化剤、硬化促進剤、硬化促進助剤を表1に示す添加量として、ゲル化時間(以下GTと略す)、硬化時間(以下CTと略す)を測定した。不飽和ポリエステル樹脂には、大日本インキ化学工業(株)製ポリライト8010(以下UPと略す)、ビニルエステル樹脂には昭和高分子(株)製リポキシR−806(以下VEと略す)、硬化促進剤は6%ナフテン酸コバルト(和光純薬工業(株)製試薬一級)、硬化促進助剤はアセト酢酸エチル(以下AAEと略す)、アセト酢酸メチル(以下AAMと略す。和光純薬工業(株)製試薬一級)、ABLPOは実施例1で製造したものを用いた。比較例1、2に用いたMEKPOは、市販のカヤメックM(化薬アクゾ(株)製)である。試験の結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
Figure 0004073055
【0031】
本発明のABLPOを用いれば、低温(10℃)において不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂のGTを短縮し、速硬化することが出来ることが分かる。この効果は、ビニルエステル樹脂に特に顕著である。
【0032】
実施例10、比較例3
スチレンの塊状重合
20ccのアンプルビンにスチレンモノマー(和光純薬(株)社製試薬特級)を10グラムと所定量のABLPOを入れ、窒素ガスでアンプルビン内の空気を窒素に置換した後、密封、昇温した。重合は、110℃で4時間及び10時間行なった。
得られたポリスチレンの転化率(コンバージョン、仕込みスチレンモノマー中のポリマーになったものの重量割合)を表2に示した。
【0033】
【表2】
Figure 0004073055
【0034】
実施例11、比較例4
メタクリル酸メチルの溶液重合
20ccのアンプルビンにトルエン(和光純薬(株)社製試薬特級)6グラム、メタクリル酸メチルモノマー(和光純薬(株)社製試薬特級)4グラムと所定量のABLPOを入れ、実施例10と同様の処理をして後、100℃で4時間及び10時間で重合させた。
得られたポリメタクリル酸メチルのコンバージョンを表3に示した。
【0035】
【表3】
Figure 0004073055
【0036】
表2及び表3の結果、本発明のABLPOを重合開始剤として使用すると、良好なコンバージョンが得られることが分かる。
【0037】
【発明の効果】
本発明の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン又は有機過酸化物混合物を熱硬化性樹脂の硬化剤として使用した場合低温における硬化が良好であり、同じくラジカル重合性を有する不飽和単量体の重合開始剤として重合又は共重合に使用した場合コンバージョンが高い。

Claims (8)

  1. 下記式(1)で示される5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン。
    Figure 0004073055
  2. α−アセチル−γ−ブチロラクトンと過酸化水素を反応させて得られる5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン、又はそれとケトンパーオキサイドとの有機過酸化物混合物を含む熱硬化性樹脂の硬化剤
  4. 請求項1又は請求項2に記載の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン、又はそれとケトンパーオキサイドとの有機過酸化物混合物を含むラジカル重合性を有する単量体の重合開始剤
  5. 請求項1又は請求項2に記載の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン又はそれとケトンパーオキサイドとの有機過酸化物混合物を用いた、熱硬化性樹脂の硬化方法。
  6. 請求項1又は請求項2に記載の5−ヒドロペルオキシ−5−メチル−4−(2’−ヒドロキシエチル)−1,2−ジオキソラン−3−オン又はそれとケトンパーオキサイドとの有機過酸化物混合物を用いた、ラジカル重合性を有する不飽和単量体又はそれを含有する組成物の重合又は共重合方法。
  7. 請求項に記載の硬化方法によって得られる硬化物。
  8. 請求項に記載の重合若しくは共重合方法によって得られる重合物。
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