JP4070892B2 - 電動式ブレーキ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動式ブレーキ装置に係り、特に、ブレーキモータを動力源としてブレーキパッドをディスクロータに押圧することで制動力を発生させる装置として好適な電動式ブレーキ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば国際公開明細書97−12794号に開示される如く、電動式ブレーキ装置が知られている。上記従来の装置は、ディスクブレーキを備えている。このディスクブレーキは、ブレーキモータを内蔵するキャリパと、車輪と共に回転するディスクロータとにより構成されている。上記のキャリパは、ブレーキモータの回転に伴って直進運動するスピンドルを備えている。また、キャリパは、マウンティングブラケットに固定される裏金に一体に形成されたブレーキパッドを備えている。ブレーキパッドは、裏金がスピンドルに押圧されることによりディスクロータに向けて変位する。
【0003】
上記従来の装置において、ブレーキモータは、外部から電力が供給されることによりブレーキパッドをディスクロータに押圧して、ディスクロータを挟持する力を発生する。従って、上記従来の装置によれば、ブレーキモータを適当に駆動することで、車両を制動させる制動力を発生することができる。
ところで、車両の制動が解除される場合には、ブレーキパッドとディスクロータとの間に所定のクリアランスが確保されるように、ブレーキパッドをディスクロータから離間させる必要がある。上記のクリアランスを確保するためには、ブレーキパッドがディスクロータに当接する際のスピンドルの位置を正確に検出することが重要である。以下、この位置を「パッド押圧開始位置」と称す。
【0004】
ブレーキモータにモータ電流が供給された場合、ブレーキモータは、ブレーキパッドがディスクロータに当接していない状況下では所定のトルクに従って加速する。そして、ブレーキパッドがディスクロータに当接すると、その間の摩擦力に起因して減速する。上記従来の装置においては、ブレーキモータの回転速度が検出されている。このため、上記従来の装置によれば、ブレーキモータの回転速度の変化を判断することで、パッド押圧開始位置を検出することができる。従って、上記従来の装置によれば、ブレーキパッドとディスクロータとの間を所定のクリアランスに確保することが可能となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の装置において、スピンドルに押圧され、ブレーキパッドを固定する裏金は、凹状曲面で形成されている。この場合、裏金は、スピンドルから大きな応力を受けることで、変形し易くなる。すなわち、裏金に固定されるブレーキパッドは、スピンドルに押圧される方向に反り返り易くなる。ブレーキパッドが反り返ると、ブレーキパッドの一部分のみがディスクロータに当接し易くなることで、ブレーキパッドが偏磨耗を引き起こすことになる。このため、上記従来の装置では、パッド押圧開始位置を正確に検出することができず、ブレーキパッドとディスクロータとの間を所定のクリアランスに確保することができなくなってしまう。
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、ブレーキパッドの押圧方向への反り返りを抑制することで、ブレーキパッドの偏磨耗を防止する電動式ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、請求項1に記載する如く、車輪と共に回転する回転体と、摩擦部材と、ブレーキモータを動力源として前記摩擦部材を前記回転体に押圧する変位部材と、を備える電動式ブレーキ装置において、
前記摩擦部材は、前記変位部材に向かって凸状に形成され、該変位部材により押圧される凸状曲面部を備え、
該凸状曲面部は、前記摩擦部材の中心位置に形成されて前記変位部材からの押圧時に該変位部材に当接する第1の曲面部と、該第1の曲面部の周囲に形成されて前記第1の曲面部の曲率に比して小さな曲率を有する第2の曲面部と、を有することを特徴とする電動式ブレーキ装置により達成される。
【0008】
本発明において、ブレーキモータを動力源として回転体に押圧される摩擦部材は、変位部材に向かって凸状に形成されたその変位部材により押圧される凸状曲面部を備えている。変位部材は、摩擦部材を押圧する際、凸状曲面部に当接する。この場合、摩擦部材の凸状曲面部は、アーチ構造になり、内側に曲がりにくくなる。このため、摩擦部材の反り返りが有効に抑制され、これにより、摩擦部材が回転体に当接する際に生じる摩擦部材の偏磨耗が防止される。
【0010】
本発明において、摩擦部材の凸状曲面部は、摩擦部材の中心位置に形成されて変位部材からの押圧時にその変位部材に当接する第1の曲面部と、その第1の曲面部の周囲に形成されて第1の曲面部の曲率に比して小さな曲率を有する第2の曲面部とから構成されている。変位部材は、摩擦部材を押圧する際、第1の曲面部に当接する。凸状曲面部は、変位部材に当接する部位が大きな曲率を有するほど内側に曲がりにくい。また、変位部材に当接する部位が大きな曲率を有するほど、凸状曲面部の当接部位は限定される。従って、上記の構成によれば、摩擦部材の反り返りが有効に抑制されると共に、変位部材による凸状部材の当接部位の安定化が図られる。摩擦部材の反り返りが抑制されれば、摩擦部材が回転体に当接する際に生じる摩擦部材の偏磨耗が防止される。また、変位部材による摩擦部材の当接部位の安定化が図られれば、変位部材が摩擦部材に当接する際に生じる変位部材と摩擦部材との間のこじれが防止される。この場合にも、摩擦部材の偏磨耗が防止される。
【0011】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の一実施例である電動式ブレーキ装置のシステム構成図を示す。本実施例の電動式ブレーキ装置は、電子制御ユニット(以下、ECU10と称す)10を備えている。本実施例の電動式ブレーキ装置は、ECU10に制御されることにより、ブレーキ操作量に応じた制動力を発生する。
【0012】
本実施例の電動式ブレーキ装置は、ブレーキペダル12を備えている。ブレーキペダル12は、作動軸14を介してストロークシミュレータ16に連結されている。ブレーキペダル12が踏み込まれると、作動軸14がストロークシミュレータ16に進入する。ストロークシミュレータ16は、作動軸14の進入量に応じた反力を発生する。このため、ブレーキペダル12には、ペダルストロークに応じた反力が伝達される。
【0013】
ブレーキペダル12の近傍には、ペダルスイッチ18が配設されている。ペダルスイッチ18は、ブレーキペダル12の踏み込みが解除されている場合にオフ状態を維持し、ブレーキペダル12の踏み込みが行われている場合にオン信号を出力する。ペダルスイッチ18の出力信号は、ECU10に供給されている。ECU10は、ペダルスイッチ18の出力信号に基づいてブレーキ操作が行われているか否かを判断する。
【0014】
作動軸14には、ストロークセンサ20が配設されている。ストロークセンサ20は、ペダルストロークに応じた電気信号を出力する。ストロークセンサ20の出力信号は、ECU10に供給されている。ECU10は、ストロークセンサ20の出力信号に基づいてペダルストロークを検出する。
ECU10には、後述するモータ軸56の外周に配設される回転センサ21が接続されている。回転センサ21は、後述の如く、磁束の強度に応じた電気信号を出力する。回転センサ21の出力信号は、ECU10に供給されている。ECU10は、回転センサ21の出力信号に基づいて、モータ軸56の基準位置からの回転量θおよび回転速度Vを検出する。
【0015】
ECU10には、モータドライバ22,24が接続されている。モータドライバ22,24には、それぞれ第1バッテリ26の正極端子または第2バッテリ28の正極端子が接続されている。また、モータドライバ22には、右前輪FRに配設されるブレーキモータ30、および、左後輪RLに配設されるブレーキモータ32が接続されている。一方、モータドライバ24には、左前輪FLに配設されるブレーキモータ34、および、右後輪RRに配設されるブレーキモータ36が接続されている。
【0016】
モータドライバ22,24は、第1バッテリ26または第2バッテリ28を電力供給源としてブレーキモータ30〜36を駆動する回路である。モータドライバ22,24は、ECU10から供給される指令信号に応じてブレーキモータ30〜36をそれぞれ独立に制御する。左右前輪FL,FRおよび左右後輪RL,RRには、ブレーキモータ30〜36を動力源とするディスクブレーキ40が配設されている。このディスクブレーキ40は、ブレーキモータ30〜36の作動状態に応じた制動力を発生する。
【0017】
図2は、本実施例である電動式ブレーキ装置が備えるディスクブレーキ40の構成図を示す。尚、図2は、右前輪FRに配設されるディスクブレーキ40の構造である。本実施例の電動式ブレーキ装置が備えるディスクブレーキ40は、構成および動作において異なるところがない。このため、以下では、右前輪FRに配設されるディスクブレーキ40についてのみ、その構成および動作について説明する。
【0018】
本実施例のディスクブレーキ40は、車輪と共に回転するディスクロータ42、および、ディスクロータ42の外周部に配設されたキャリパ44を備えている。ディスクロータ42は、鋳鉄性の耐熱性材料により構成された環状の部材である。キャリパ44は、車体に固定されたマウンティングブラケットに、ディスクロータ42の軸方向に移動可能に支持されている。キャリパ44には、固定部44aが形成されている。キャリパ44の固定部44aには、上記のブレーキモータ30が固定されている。
【0019】
ブレーキモータ30は、永久磁石で構成された回転子48、および、コイル50とコア52とを有する固定子54を備えるDCブラシレスモータで構成されている。ブレーキモータ30の回転子48は、固定子54にモータ電流が供給されていない場合には、回転子48に作用する摩擦力により実質的に回転が禁止されている状態となる。また、固定子54にモータ電流が供給されている場合には、回転子48にモータ電流に応じた回転トルクが発生する状態となる。
【0020】
ブレーキモータ30の回転子48は、モータ軸56に固定されている。モータ軸56は、ベアリングを介してキャリパ44の固定部44aに回転可能に支持されている。ブレーキモータ30は、固定子54に適当なモータ電流が供給されることによって生ずる磁界により、モータ軸56を固定部44aに対して回転させる。
【0021】
モータ軸56には、外周に複数の歯を有するロータ(図示せず)が嵌挿されている。ロータの歯は、外周に所定間隔毎に設けられている。また、モータ軸56の外周側には、ホール素子からなる上記の回転センサ21(図示せず)が配設されている。更に、回転センサ21の上部には、マグネットが配設されている。回転センサ21およびマグネットは、キャリパ44の固定部44aに固定されている。マグネットが発する磁束は、所定の経路を辿って還流する。回転センサ21は、還流する磁束の強度に応じた電気信号を出力する。
【0022】
上記の経路を還流する磁束の強度は、回転センサ21がロータの歯のいずれかに対向している場合に大きく、対向していない場合に小さくなる。従って、回転センサ21は、ロータ、すなわち、モータ軸56が回転することにより、その近傍をロータの歯のいずれかが通過する毎にパルス信号を発生する。回転センサ21のパルス信号は、ECU10に供給されている。ECU10は、上述の如く、回転センサ21のパルス信号に基づいて、モータ軸56の基準位置からの回転量θおよび回転速度Vを検出する。
【0023】
キャリパ44は、遊星歯車機構60を備えている。遊星歯車機構60は、サンギヤとして機能する上記のモータ軸56、モータ軸56に係合するプラネタリギヤ62、および、モータ軸56と同軸でプラネタリギヤ62に係合するリングギヤ64を備えている。リングギヤ64は、キャリパ44の固定部44aに固定されている。上記の構成において、プラネタリギヤ62は、モータ軸56の回転に伴って所定の比率でモータ軸56の外周を公転する。
【0024】
プラネタリギヤ62は、モータ軸56の外周に複数個設けられており、それらのプラネタリギヤ62は、互いに所定の間隔が保持されるようにキャリア66に固定されている。キャリア66は、ベアリング68,69を介してキャリパ44の固定部44aに回転可能に支持されている。キャリア66は、プラネタリギヤ62の公転に伴ってモータ軸56の軸を中心に回転する。
【0025】
キャリア66には、中空ロッド部66aが形成されている。中空ロッド部66aの内径には、ボールねじ70を介してスピンドル72が螺合されている。キャリア66は、軸方向への変位を許容されていない。一方、スピンドル72は、軸方向への変位を許容されている一方、軸回りの回転を許容されていない。上記の構成によれば、キャリア66の回転運動をスピンドル72の直線運動に変換することができる。尚、ECU10は、上記のモータ軸56に回転量θに基づいて、スピンドル72の変位位置Sを検出することができる。
【0026】
キャリパ44は、ブレーキパッド74,76を備えている。ブレーキパッド74,76は、耐磨耗性および耐熱性に優れた材料で構成された部材であり、マウンティングブラケットに固定された裏金78,79とそれぞれ一体となるように形成されている。ブレーキパッド74はディスクロータ42に対して車体内側に、ブレーキパッド76はディスクロータ42に対して車体外側に、それぞれディスクロータ42の表面に対向するように配設されている。
【0027】
スピンドル72は、その端面が平面状となるように形成されている。ブレーキパッド74は、裏金78がスピンドル72に押圧されることによってディスクロータ42に向けて変位する。スピンドル72は、ブレーキペダル12が踏み込まれていない状態で、ブレーキパッド74とディスクロータ42との間に所定のクリアランスが形成されるように配置されている。また、ブレーキパッド76は、後述するキャリパ44のリアクション部44bの変位によってディスクロータ42に向けて変位する。リアクション部44bは、ブレーキペダル12が踏み込まれていない状態で、ブレーキパッド76とディスクロータ42との間に所定のクリアランスが形成されるように配置されている。
【0028】
図3は、本実施例である電動式ブレーキ装置のディスクブレーキ40が備える裏金78を図2に示すIII 矢視で表した平面図を示す。図4は、本実施例である電動式ブレーキ装置のディスクブレーキ40が備えるブレーキパッド74および裏金78を図3に示すIV-IV 直線に沿って切断した際の断面図を示す。また、図5は、本実施例である電動式ブレーキ装置のディスクブレーキ40が備えるブレーキパッド74および裏金78を図3に示すV-V 直線に沿って切断した際の断面図を示す。
【0029】
裏金78は、スピンドル72に押圧される面が凸状に形成された凸状曲面部78aを備えている。また、裏金78の凸状曲面部78aは、スピンドル72に当接する部位に球面状の大曲率部78bと、大曲率部78bの周囲に大曲率部78bの曲率に比して小さな曲率を有する小曲率部78cとを備えている。大曲率部78bは裏金78の中心位置に形成されており、裏金78は大曲率部78bの中心がスピンドル72の軸上になるように配設されている。ブレーキパッド74は、耐熱性および耐磨耗性に優れた材料が裏金78に接着剤等により固定され、加熱成型されることによって形成される。このため、ブレーキパッド74は、裏金78の凸状曲面部78aの大曲率部78bおよび小曲率部78cの内面に沿うように、大曲率部74bと小曲率部74cとを有する凸状曲面部74aを有している。
【0030】
図2に示す如く、キャリパ44には、また、ディスクロータ42を跨ぐようにリアクション部44bが形成されている。リアクション部44bは、ブレーキパッド74がスピンドル72の変位によってディスクロータ42に押圧された場合に、その反力によって図2における右方に変位する。リアクション部44bには、ブレーキパッド76を押圧するための爪部が形成されている。従って、上記の構成によれば、ブレーキモータ30を動力源として作動するキャリパ44によってブレーキパッド74,76がディスクロータ42に押圧されることで、車両を制動させることができる。
【0031】
本実施例のディスクブレーキ40において、ブレーキモータ30が作動していない場合、ディスクロータ42とブレーキパッド74,76との間には、上述の如く、所定のクリアランスが確保されている。かかる状況下、ブレーキペダル12が踏み込まれると、ECU10は、ペダルストロークに基づいて運転者が要求する制動力が発生するように、かつ、右前輪FRの制動力と左後輪RLの制動力とが所定の比率となるように、ブレーキモータ30を制御する。具体的には、ECU10は、ブレーキモータ30に適切にモータ電流が供給されるように、モータドライバ22に指令信号を出力する。
【0032】
ブレーキモータ30にモータ電流が供給されると、ブレーキモータ30が作動し、モータ軸56が回転する。モータ軸56が回転すると、プラネタリギヤ62がモータ軸56の外周をその回転に対して所定の比率で公転すると共に、プラネタリギヤ62を固定するキャリア66が回転する。キャリア66が回転すると、スピンドル72が軸方向に変位する。スピンドル72が図2における左方に変位している状況下で裏金78に当接すると、裏金78に固定されるブレーキパッド74がディスクロータ42に向けて変位し始める。
【0033】
そして、ブレーキパッド74がディスクロータ42に押圧されると、その反力によりキャリパ44のリアクション部44bが図2における右方に変位する。かかる状況下でリアクション部44bが裏金79に当接すると、裏金79に固定されるブレーキパッド76がディスクロータ42に向けて変位する。更に、ブレーキモータ30が作動し続けると、ブレーキパッド76がディスクロータ42に押圧される。
【0034】
このため、ブレーキパッド74,76とディスクロータ42との間の摩擦力により、ディスクロータ42の回転が抑制される。従って、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、車両を制動させることができる。以下、制動力を増加させる場合のブレーキモータ30の回転方向を「正回転」と、スピンドル72の変位方向を「正方向」と、それぞれ称す。
【0035】
本実施例において、ブレーキパッド74,76がディスクロータ42に押圧されている状況下で、ブレーキペダル12の踏み込みが解除されると、ECU10は、発生している制動力が消滅するようにブレーキモータ30を制御する。この場合にも、ECU10は、ブレーキモータ30に適切にモータ電流が供給されるように、モータドライバ22に指令信号を出力する。
【0036】
スピンドル72が図2における右方に変位すると、裏金78へのスピンドル72の押圧力が減少する。この場合、ディスクロータ42へのブレーキパッド74の押圧力が減少すると共に、それに伴ってリアクション部44bが図2における左方に変位し、ブレーキパッド76の押圧力も減少する。このため、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、車両の制動を解除することができる。以下、制動力を減少させる場合のブレーキモータ30の回転方向を「逆回転」と、スピンドル72の変位方向を「逆方向」と、それぞれ称す。
【0037】
ところで、車両の制動が解除される場合には、ブレーキパッド74,76とディスクロータ42との間に所定のクリアランスが確保されるように、ブレーキパッド74,76をディスクロータ42から離間させる必要がある。この際、上記のクリアランスを確保するためには、ブレーキパッド74がディスクロータ42に当接し始める位置を正確に検出することが重要である。尚、以下では、ブレーキパッド74がディスクロータ42に当接し始める位置を「パッド押圧開始位置」と称す。
【0038】
以下、図6および図7を参照して、パッド押圧開始位置を検出するための処理の内容について説明する。
図6は、本実施例である電動式ブレーキ装置で実行されるパッド押圧開始位置を検出するための一例のフローチャートを示す。図6に示すルーチンは、所定時間毎に繰り返し起動される定時割り込みルーチンである。図6に示すルーチンが起動されると、まず、ステップ100の処理が実行される。
【0039】
ステップ100では、回転センサ21の出力信号に基づいて、モータ軸56の回転速度Vが検出される。
ステップ102では、ステップ100で検出されたモータ軸56の回転速度Vの変化率ΔVが所定値ΔV0 以下であるか否かが判別される。尚、所定値ΔV0 は、モータ軸56が無負荷の状態で回転する場合に生じ得る回転速度Vの最大の変化率である。本ステップ104においてΔV≦ΔV0 であると判別される場合は、モータ軸56が無負荷の状態から負荷が作用する状態に切り替わって回転していると判断できる。従って、この場合には、次にステップ104の処理が実行される。
【0040】
ステップ104では、モータ軸56の回転速度に関する速度低下フラグがオン状態であるか否かが判別される。速度低下フラグは、モータ軸56の回転速度が低下している状態を表示するためのフラグである。その結果、速度低下フラグがオン状態でないと判別される場合は、次にステップ106の処理が実行される。一方、速度低下フラグがオン状態であると判別される場合は、本ルーチンの処理が終了される。
【0041】
ステップ106では、速度低下フラグをオン状態とする処理が実行される。本ステップ106の処理が終了すると、次に、ステップ108の処理が実行される。
ステップ108では、モータ軸56の基準位置からの回転量θに基づいて検出されたスピンドル72の変位位置Sを、パッド押圧開始位置S0 として検出する処理が実行される。
【0042】
一方、上記ステップ102においてΔV≦ΔV0 でないと判別される場合は、モータ軸56が無負荷で回転していると判断できる。従って、この場合には、次にステップ110の処理が実行される。
ステップ110では、速度低下フラグをオフ状態とする処理が実行される。本ステップ110の処理が終了すると、今回の処理が終了される。
【0043】
上記の処理によれば、モータ軸56の回転速度Vが低下し始めた場合に、速度低下フラグをオフ状態からオン状態に切り換えることができる。そして、上記の処理によれば、速度低下フラグがオフ状態からオン状態に切り替わった時点でのスピンドル72の変位位置Sを、パッド押圧開始位置S0 とすることができる。パッド押圧開始位置S0 が検出されれば、車両の制動を解除する場合にブレーキモータ30に供給するモータ電流の制御を適切に実行することができる。すなわち、ブレーキパッド74,76とディスクロータ42との間に所定のクリアランスが確保されるように、モータ電流を制御することができる。
【0044】
図7は、本実施例である電動式ブレーキ装置で実行される制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。図7に示すルーチンは、その処理が終了する毎に繰り返し起動されるルーチンである。図7に示すルーチンが起動されると、まずステップ120の処理が実行される。
ステップ120では、ペダルスイッチ18の出力信号に基づいて、ブレーキペダル12の踏み込みが解除されているか否かが判別される。ブレーキペダル12の踏み込みが解除されていない、すなわち、ブレーキペダル12の踏み込みが実行されていると判別される場合は、ブレーキペダル12のペダルストロークに応じた制動力を発生させる必要がある。このため、上記の条件が成立しないと判別される場合は、次にステップ122の処理が実行される。
【0045】
ステップ122では、ストロークセンサ20の出力信号に基づいて検出されたペダルストロークに応じたモータ電流をブレーキモータ30に供給する処理が実行される。
一方、上記ステップ120において、ブレーキペダル12の踏み込みが解除されていると判別される場合は、制動力の発生を解除する必要がある。この場合、ディスクロータ42とブレーキパッド74との間に所定のクリアランスが確保されるようにブレーキモータ30を逆回転させる必要がある。このため、上記の条件が成立すると判別される場合は、次にステップ124の処理が実行される。
【0046】
ステップ124では、所定のモータ電流をブレーキモータ30に供給する処理が実行される。本ステップ124の処理が終了すると、次にステップ126の処理が実行される。
ステップ126では、スピンドル72の変位位置Sが、パッド押圧開始位置S0 から所定値αを減算した値以下であるか否かが判別される。尚、スピンドル72が裏金78を押圧する方向が正方向である。また、所定値αは、ブレーキパッド74,76とディスクロータ42との間に所定のクリアランスが確保される際のスピンドル72の逆方向への変位量である。
【0047】
本ステップ126の処理の結果、S≦(S0 −α)であると判別される場合は、スピンドル72が所定値αだけ逆方向に変位していると判断できる。従って、この場合は、次にステップ128の処理が実行される。一方、S≦(S0 −α)でないと判別される場合は、スピンドル72が未だ所定値αだけ逆方向に変位していないと判断できる。従って、この場合は、本ステップ126の処理が終了された後、今回のルーチンは終了される。
【0048】
ステップ128では、ブレーキモータ30に供給するモータ電流の供給を停止する処理が実行される。
上記の処理によれば、ブレーキペダル12の踏み込みが実行されている場合に、ペダルストロークに応じた制動力を発生させることができる。また、上記の処理によれば、ブレーキペダル12の踏み込みが解除されている場合に、ブレーキパッド74とディスクロータ42との間に所定のクリアランスが確保された時点でブレーキモータ30の回転を停止させることができる。
【0049】
ところで、パッド押圧開始位置の検出時において、ブレーキパッド74が反り返っていると、ブレーキパッド74が偏磨耗を引き起こす場合がある。この場合、ブレーキパッド74の一部分のみがディスクロータ42に当接して、引き摺りが発生することになる。ディスクブレーキ40において引き摺りが発生している場合、モータ軸56の回転速度Vは、無負荷の状態に比して低く、ブレーキパッド74の全体がディスクロータ42に当接することで負荷が作用する状態に比して高くなる。このため、ブレーキパッド74が反り返った場合には、パッド押圧開始位置を正確に検出することができない事態が生じ、ブレーキパッド74,76とディスクロータ42との間に所定のクリアランスを確保することができなくなってしまう。従って、上記のクリアランスを確保するためには、ブレーキパッド74の反り返りを抑制し、ブレーキパッド74の偏磨耗を確実に防止することが必要である。
【0050】
本実施例の電動式ブレーキ装置は、ブレーキパッド74の反り返りを抑制し、ブレーキパッド74の偏磨耗を防止し得る点に特徴を有している。以下、本実施例の特徴部について説明する。
本実施例において、裏金78は、上述の如く、凸状曲面部78aを備えている。この凸状曲面部78aは、スピンドル72により押圧される。この際、スピンドル72による凸状曲面部78aの押圧面がアーチ構造とされていることで、裏金78に作用する押圧力は、主に、裏金78の面内方向における圧縮応力として伝達される。このため、裏金78に作用する曲げ応力が抑制されることで、裏金78は、押圧方向に曲がり難くなる。その結果、ブレーキパッド74の反り返りが生じ難くなる。
【0051】
ブレーキパッド74が反り返らないと、ディスクロータ42へのブレーキパッド74の当接時、ブレーキパッド74の全体がディスクロータ42に当接するようになる。このため、上記の構成によれば、ブレーキパッド74の偏磨耗を防止することができる。ブレーキパッド74の偏磨耗が防止されれば、モータ軸56の回転速度Vによって、無負荷の状態であるのか、あるいは、負荷が作用した状態であるのかを容易に判断することができる。
【0052】
このため、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、ブレーキパッド74がディスクロータ42に当接する位置を正確に検出することが可能となる。従って、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、ブレーキペダル12が踏み込まれていない状態で、ブレーキパッド74とディスクロータ42との間、および、ブレーキパッド76とディスクロータ42との間に所定のクリアランスを確保することが可能となる。
【0053】
また、本実施例において、上述の如く、裏金78の凸状曲面部78aは、大曲率部78bと小曲率部78cとを備えている。大曲率部78bは、小曲率部78cの曲率に比して大きい曲率を有している。スピンドル72は、その端部が凸状曲面部78aの大曲率部78bに当接しながら裏金78を押圧する。裏金78は、スピンドル72から押圧力を受ける際、当接部位の曲率が大きいほど曲がり難くなる。このため、ブレーキパッド74は、スピンドル72が大曲率部78bに当接する場合、大曲率部78bより小さい曲率を有する部位に当接する場合に比して反り返り難くなる。従って、上記の構成によれば、ブレーキパッド74の偏磨耗を更に防止することができる。
【0054】
更に、本実施例において、上述の如く、大曲率部78bは裏金78の中心位置に形成されており、裏金78は大曲率部78bの中心がスピンドル72の軸上になるように配設されている。また、凸状曲面部78aの当接面の凸形状が大きい曲率であるほど、スピンドル72は、大曲率部78bの極中心に当接し易くなる。このため、本実施例によれば、裏金78におけるスピンドル72の当接部位の安定化を図り、裏金78とスピンドル72との間にこじれが生じるのを防止することができる。上記のこじれが生じない場合でも、ブレーキパッド74の偏磨耗が防止される。
【0055】
このため、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、ブレーキパッド74がディスクロータ42に当接する位置を正確に検出することが可能となり、ブレーキペダル12が踏み込まれていない状態で、ブレーキパッド74とディスクロータ42との間、および、ブレーキパッド76とディスクロータ42との間に所定のクリアランスを確保することができる。
【0056】
本実施例において、スピンドル72は、大曲率部78bに当接しながら裏金78を押圧する。大曲率部78bは、凸状曲面部78aの一部分に限定されている。このため、ブレーキパッド74の厚みを厚くする必要はない。従って、本実施例によれば、ブレーキパッド74の厚みが厚くなることを抑制することができる。
【0057】
尚、上記の実施例においては、ディスクロータ42が前記請求項1記載の「回転体」に、裏金78が前記請求項1記載の「摩擦部材」に、スピンドル72が前記請求項1記載の「変位部材」に、大曲率部78bが前記請求項2記載の「第1の曲面部」に、小曲率部78cが前記請求項2記載の「第2の曲面部」に、それぞれ相当している。
【0058】
ところで、上記の実施例においては、凸状曲面部78aを、ディスクロータ42に対して車体内側に配設された裏金78にのみ形成しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、車体外側に配設された裏金79にのみ形成することとしてもよいし、あるいは、裏金78,79の両方ともに形成することとしてもよい。
【0059】
また、上記の実施例においては、回転センサ21を用いてブレーキモータ30の回転速度Vが低下したか否かを判別することで、パッド押圧開始位置を検出することとしているが、パッド押圧開始位置を検出する手法はこれに限定されるものではなく、ブレーキモータ30に流通するモータ電流が増加したか否かを判別することでパッド押圧開始位置を検出することとしてもよい。尚、両者の場合とも、ブレーキパッド74をディスクロータ42に押圧するスピンドル72に対するブレーキパッド74からの反力の変化を検出することで、パッド押圧開始位置を検出している。
【0060】
【発明の効果】
上述の如く、請求項1記載の発明によれば、摩擦部材の反り返りを抑制すると共に、変位部材のこじれを防止することで、摩擦部材の偏磨耗を防止することができる。このため、本発明によれば、摩擦部材が回転体に当接する位置を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である電動式ブレーキ装置のシステム構成図である。
【図2】本発明の一実施例である電動式ブレーキ装置が備えるディスクブレーキの構成図である。
【図3】本発明の一実施例である電動式ブレーキ装置のディスクブレーキが備える裏金を図2に示すIII 矢視で表した平面図である。
【図4】本発明の一実施例である電動式ブレーキ装置のディスクブレーキが備えるブレーキパッドおよび裏金を図3に示すIV-IV 直線に沿って切断した際の断面図である。
【図5】本発明の一実施例である電動式ブレーキ装置のディスクブレーキが備えるブレーキパッドおよび裏金を図3に示すV-V 直線に沿って切断した際の断面図である。
【図6】本発明の一実施例である電動式ブレーキ装置で実行されるパッド押圧開始位置を検出するための一例のフローチャートである。
【図7】本発明の一実施例である電動式ブレーキ装置で実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【符号の説明】
30 ブレーキモータ
40 ディスクブレーキ
42 ディスクロータ
72 スピンドル
74,76 ブレーキパッド
78,79 裏金
78a 凸状曲面部
78b 大曲率部
78c 小曲率部

Claims (1)

  1. 車輪と共に回転する回転体と、摩擦部材と、ブレーキモータを動力源として前記摩擦部材を前記回転体に押圧する変位部材と、を備える電動式ブレーキ装置において、
    前記摩擦部材は、前記変位部材に向かって凸状に形成され、該変位部材により押圧される凸状曲面部を備え、
    該凸状曲面部は、前記摩擦部材の中心位置に形成されて前記変位部材からの押圧時に該変位部材に当接する第1の曲面部と、該第1の曲面部の周囲に形成されて前記第1の曲面部の曲率に比して小さな曲率を有する第2の曲面部と、を有することを特徴とする電動式ブレーキ装置。
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