JP4069291B2 - 金属錯体溶液からの金属イオンの分離方法 - Google Patents

金属錯体溶液からの金属イオンの分離方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属錯体から効率よく簡単な操作で金属イオンを分離する技術に関する。本発明の方法は、例えば、放射性廃棄物や重金属汚染土壌などの洗浄廃液処理において有用である。
【0002】
【従来の技術】
有機酸などが金属イオンに配位して形成される金属錯体を含む溶液では、金属錯体を金属イオンと錯化剤に分離することが難しい。例えば、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)に代表されるキレート剤やクエン酸などの有機酸と金属イオンとを分離する方法として、次式で示されるFenton反応を利用した分解方法が知られている。この方法は、過酸化水素によって2価の鉄を3価の鉄に酸化し、ここで発生した水酸ラジカル(・OH)の酸化力を利用して金属イオンに配位した有機物を酸化分解する方法であり、例えば、放射性核種が有機酸等と金属錯体を形成している放射性廃液の処理を対象としている(特開平6−130188号等)。しかし、過酸化水素を利用した分解方法は有機酸などの有機物を完全に無機化するために大量の過酸化水素を必要とする問題がある。
Fe2++H22 → Fe3++HO-+・OH
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、金属錯体から金属イオンを分離する方法において、従来の上記問題を解決したものであり、少ない試薬量で効率良く金属イオンを金属錯体から分離する方法を提供する。
【0004】
【課題を解決する手段】
すなわち、本発明によれば、(1)金属を吸着した捕集材に錯化剤である有機酸溶液を通じて金属錯体を溶離させ、この金属錯体を含む有機酸溶液をイオン交換体に接触させて金属錯体の状態でイオン交換体に吸着させる工程、該イオン交換体から金属錯体の状態で溶離する工程、溶離した金属錯体を含む水溶液をpH6〜10に調整する工程、このpH調整した水溶液をキレート吸着材に通液し金属イオンの状態で吸着させて水溶液から分離する工程を有することを特徴とする金属イオンの分離方法に関する。
このように、錯化剤溶液(有機酸溶液)を通じて金属を金属錯体の状態で溶離させ、金属錯体を含む溶液を金属錯体のままイオン交換体に吸着させて錯化剤溶液から分離し、次にこの金属錯体をイオン交換体から溶離し、pH調整してキレート吸着材に金属イオンのみを吸着させることによって、有機酸などの錯化剤を無機化せずに金属イオンを水溶液から分離するので、酸化剤を大量に使用する必要がなく、しかも効果的に金属イオンを金属錯体から分離することができる。
【0005】
本発明の分離方法は、(2)金属錯体を含む溶液を透析して金属錯体を濃縮する工程を含み、濃縮した金属錯体をイオン交換体に吸着させる方法を含む。透析操作は必ずしも必要ではないが、透析を行って金属錯体を濃縮すれば効率良く金属イオンを分離することができる。さらに透析を行うことにより、金属錯体を形成しない遊離の錯化剤がイオン交換樹脂に吸着する割合を減らすことができ、遊離の錯化剤をイオン交換樹脂に吸着させずに再使用することができる。
【0006】
さらに本発明の分離方法は、(3)金属錯体を吸着したイオン交換体に酸性水溶液または塩基性水溶液を接触させて金属錯体を水溶液中に溶離させ、さらに溶離後のイオン交換体を再使用する方法を含む。イオン交換体に吸着した金属錯体は酸性水溶液または塩基性水溶液に錯体の状態で溶離するので、有機酸などの錯化剤溶液に含まれる金属錯体をイオン交換体に吸着させた後に酸性または塩基性の水溶液に溶離させることによって、金属錯体を錯化剤溶液から分離した水溶液とし、錯化剤溶液と分離して処理することができる。
【0007】
本発明の分離方法は、(4)上記pH調整した水溶液をキレート吸着材に通液して金属イオンを吸着させ、水溶液から分離する工程の後に、このキレート吸着材に鉱酸を接触させて金属イオンを溶離させる工程を含む。さらに、本発明の分離方法は(5)上記方法において、溶離した金属イオンを含む溶液を溶媒抽出ないし沈澱形成によって金属化合物を回収し、必要に応じて焼成する工程を含む。上記(4)に示すように、解離した金属イオンを回収する具体的な手段としては、例えばキレート樹脂などを用いることができる。金属イオンをキレート樹脂に吸着させ、これを鉱酸に溶離させる。さらに上記(5)に示すように、金属イオンを含む鉱酸は溶媒抽出や沈澱処理などによって金属分を分離し、必要に応じて焼成し、金属分を回収することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。本発明の処理工程の一例を図1に示す。図示するように、本発明の金属イオン分離方法は、金属を吸着した捕集材に錯化剤である有機酸溶液を通じて金属錯体を溶離させ、この金属錯体を含む有機酸溶液をイオン交換体に接触させて金属錯体の状態でイオン交換体に吸着させる工程、該イオン交換体から金属錯体の状態で溶離する工程、溶離した金属錯体を含む水溶液をpH6〜10に調整する工程、このpH調整した水溶液をキレート吸着材に通液し金属イオンの状態で吸着させて水溶液から分離する工程を有することを特徴とする金属イオンの分離方法である。
【0009】
金属錯体を含む有機酸溶液は、金属捕集材に吸着されている金属を有機酸によって錯体を形成して溶離させたものである。具体的には、例えば、海水中のウラン、チタン、コバルト、バナジウムなどの有価金属に対して、アミドキシム基やイミドジオキシム基を有する捕集材を用いて吸着し、捕集した金属を回収することが知られている。この捕集された金属と強固に配位する有機錯化剤を含む溶液を金属捕集材に接触させて金属錯体として溶離させれば、鉱酸を用いるよりも穏和な条件下で捕集材中の金属を離脱させることができ、従って、捕集材を損傷せず、捕集性能の劣化を防止することができる。本発明の分離方法はこのような金属錯体に対して効果的に適用することができ、例えば、放射性廃棄物や重金属汚染土壌などの洗浄廃液が金属錯体を含む有機酸溶液である場合などには、本発明の処理方法を効果的に適用することができる。
【0010】
因みに、有機錯化剤としては、シュウ酸、クエン酸、ギ酸、マレイン酸、マロン酸、酒石酸、リンゴ酸、酢酸、フタル酸、プロピオン酸、エチレンジアミン4酢酸、カテコール、カテコールスルホン酸類、スルホサリチル酸、クロモトローブ酸、キノリノール類、キシレノー ルオレンジ等の有機酸を用いることができる。なお、十分に高い溶解度を得るには、形成した金属錯体が高い水溶性を持つことが好ましく、スルホン基などの顕著な親水性官能基を錯形成に関係せずに有するものが好ましい。
【0011】
〔透析工程〕
金属錯体をイオン交換体に吸着させる際に、予め金属錯体を含む溶液を透析して金属錯体を濃縮すると良い。透析工程は必須工程ではなく、経済性および処理効率を勘案して行えば良い。一般に透析を行って金属錯体を濃縮することによってイオン交換体への金属錯体の吸着濃度が向上し、他方、金属錯体を形成しない遊離の錯化剤を予め分離することができるので、遊離の錯化剤を再使用するのに都合が良い。透析方法は限定されない。濃度差を駆動力とする拡散透析、電位差を駆動力とする電解透析などが知られているが、何れの方法も適用することができる。
【0012】
〔イオン吸着工程〕
金属錯体を含む溶液を、経済的に有利なら透析を行って遊離の錯化剤を分離した後に、イオン交換体に接触させて金属錯体の状態のままイオン交換体に吸着させて、金属錯体を溶液から分離する。陽イオン交換樹脂や陰イオン交換樹脂などのイオン交換体の種類は金属錯体の種類に応じて選択すれば良い。金属錯体を含む溶液にイオン交換樹脂を浸漬し、あるいはイオン交換樹脂を充填した容器に金属錯体を含む溶液を通液して、イオン交換樹脂に金属錯体を吸着させる。
【0013】
〔溶離工程〕
金属錯体を吸着したイオン交換体に、陰イオン交換体の場合には水酸化ナトリウムやアンモニア水などの塩基性水溶液、陽イオン交換体の場合には酸性溶液を接触させ、金属錯体ごと溶離する。金属錯体を溶離した後のイオン交換体は再び金属錯体の吸着に用いることができる。具体的には、例えば、バナジウムのシュウ酸錯体を吸着した塩基性イオン交換樹脂にアンモニア水溶液を通液して上記シュウ酸錯体をアンモニア水溶液に溶離させる。
【0014】
〔pH調整〕
イオン交換体から溶離した金属錯体を含む溶液のpHを中性付近、概ねpH6〜10の中性付近に調整する。例えば、上記シュウ酸バナジウム錯体を含むアンモニア水溶液に硫酸を添加してpH7付近に調整する。溶離工程で酸性溶液を用いた場合にはアルカリを添加して中性付近に調整する。水溶液の液性を中性付近に調整することによって、次工程でキレート吸着材に金属イオンのみを吸着させるのが容易になる。
【0015】
〔キレート吸着〕
pH調整した水溶液を、キレート基を含む吸着材(キレート吸着材と云う)に通液し、金属イオンのみを吸着させて錯化剤と分離する。キレート基としては、イミノジ酢酸、ポリアミンなどのアミノ酸類、リン酸類、アミノリン酸類、チオール類、ジチオカルバミン酸、アミドキシム、グルカミン等がある。なお、これらに限定されない。吸着材中に吸着した金属イオンは、硫酸などの鉱酸を用いて溶離する。なお、キレート吸着材は鉱酸に対して比較的耐性のあるものが望ましい。鉱酸を通液した後のキレート吸着材は金属イオンが溶離しているので、これを再び使用する。
【0016】
〔金属回収〕
溶離した金属イオンを含む鉱酸から溶媒抽出ないし沈澱形成によって金属化合物を回収し、必要に応じて焼成を行い、金属酸化物を回収する。なお、上記処理工程に示すように、金属錯体を含む水溶液のpHを調整し、これをキレート吸着材に接触させて金属イオンのみを吸着させるので、キレート吸着材から溶離させた金属イオンを含む鉱酸には錯化剤が殆ど含まれず錯化剤の濃度が極めて低い。従って、錯化剤に影響されずに溶媒抽出や沈澱形成を行うことができる。なお、金属分の回収手段は溶媒抽出や沈澱形成に限らない。
【0017】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、有機酸等の錯化剤を含む金属錯体溶液から、比較的少ない試薬消費量で金属イオンのみを効率良く分離することができる。使用するイオン交換体およびキレート吸着材は再生して繰り返し利用できるので廃棄物の発生量が少ない。
【0018】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。
〔実施例1〕
バナジウムを含むシュウ酸溶液(0.02g・V/L、1Mシュウ酸)を弱塩基性陰イオン交換樹脂(三菱化学社製品WA-20)に通液し、シュウ酸バナジウム錯体を飽和吸着量まで吸着させた。次に、この樹脂に1Mアンモニア水溶液を通液してシュウ酸バナジウム錯体を溶離させた。さらに、この溶離液に硫酸を添加してpH7に調整した後にキレート樹脂(三菱化学社製品CR-20)に通液した。その後、このキレート樹脂に1M硫酸を通液してバナジウムの硫酸溶液を得た。この溶液のシュウ酸濃度は極めて低く、ジ-2-エチルヘキシルリン酸〔Di(2-ethylhexyl)phosphoric acid〕などの溶媒を用いて容易にバナジウムイオンを抽出することができた。
【0019】
〔実施例2〕
バナジウムを含むシュウ酸溶液(0.02g・V/L、1Mシュウ酸)を、100ml/minで拡散透析装置に通液し、遊離の有機酸の大半を回収した。拡散透析装置を通過した後の溶液の遊離の有機酸濃度は最大で通過前の10%程度まで低下した。これを実施例1と同一の弱塩基性イオン交換樹脂中に通液し、主として金属錯体を吸着させた。これによって、単位体積あたりのキレート樹脂に吸着するバナジウムのシュウ酸錯体の飽和濃度が拡散透析装置を通過しない場合の2倍となった。以降は実施例1と同様に操作した。実施例1の場合に比べて、処理した溶液中のバナジウム濃度が増大し、収率が向上すると共に、操作に伴って生じる廃液量が減少した。また、弱塩基性イオン交樹脂に吸着することで失われるシュウ酸の量が減少し、再利用可能なシュウ酸の割合が向上した。
【0020】
〔実施例3〕
ウランおよびバナジウムをそれぞれ0.5g吸着したアミドキシム基重合不織布型捕集材を、その1kgに対して表1に示す錯化剤溶液20Lに浸漬し、液温50℃で24時間攪拌し、恒温槽中で振とうして、ウラン錯体およびバナジウム錯体を含む溶液を得た。各錯体溶液を実施例1と同様に処理し、ウラン、バナシウム溶液を得た。この溶液を表1に示す。
【0021】
【表1】
Figure 0004069291

【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の処理方法の一例を示す工程図

Claims (5)

  1. 金属を吸着した捕集材に錯化剤である有機酸溶液を通じて金属錯体を溶離させ、この金属錯体を含む有機酸溶液をイオン交換体に接触させて金属錯体の状態でイオン交換体に吸着させる工程、該イオン交換体から金属錯体の状態で溶離する工程、溶離した金属錯体を含む水溶液をpH6〜10に調整する工程、このpH調整した水溶液をキレート吸着材に通液し金属イオンの状態で吸着させて水溶液から分離する工程を有することを特徴とする金属イオンの分離方法。
  2. 金属錯体を含む溶液を透析して金属錯体を濃縮する工程を含み、濃縮した金属錯体をイオン交換体に吸着させる請求項1の金属イオン分離方法。
  3. 金属錯体を吸着したイオン交換体に酸性水溶液または塩基性水溶液を接触させて金属錯体を水溶液中に溶離させ、さらに溶離後のイオン交換体を再使用する請求項1または2の金属イオン分離方法。
  4. 上記pH調整した水溶液をキレート吸着材に通液し、金属イオンを吸着させて水溶液から分離する工程の後に、このキレート吸着材に鉱酸を接触させて金属イオンを溶離させる工程を含む請求項1、2または3の金属イオン分離方法。
  5. 請求項4の方法において、溶離した金属イオンを含む溶液を溶媒抽出ないし沈澱形成によって金属化合物を回収する工程を含む金属イオンの分離方法。
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