JP4068721B2 - フサリウム属由来のd−アミノ酸オキシダーゼ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、D−アミノ酸オキシダーゼ、その製造法および微生物、およびそれを用いたD−アミノ酸の測定法に関し、詳しくは、診断用酵素として有用なD−アミノ酸オキシダーゼ、その製造法およびフサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)に属する微生物、およびD−アミノ酸オキシダーゼの働きによって消費する酸素量又は生成する過酸化水素量、又は2−オキソ酸を定量することによりD−アミノ酸を測定する発明に関する。
【0002】
【従来の技術】
D−アミノ酸オキシダーゼは、酸素の存在下D−アミノ酸を酸化し、過酸化水素、2−オキソ酸、アンモニアを生成する酵素で、国際生化学連合(IUB)の分類ではEC1.4.3.3に分類される。また、この酵素は、哺乳動物の器官および微生物に広く存在していることが知られている(酵素ハンドブック:丸尾文治、田宮信雄監修、朝倉書店)。
【0003】
D−アミノ酸オキシダーゼを産生する微生物としては、アスペルギルス ウスタス(特公昭55−35119号公報、特公昭59−15635号公報)、セファロスポリウム ポトロニイ(特公昭57−30479号公報)、トリゴノプシス バリアビリス(特公昭59−15635号公報、特公昭62−501677号公報、特開昭54−32694号公報、特開昭56−30988号公報、特開昭62−262994号公報、特開昭63−71180号公報)、グリオクラディウム属(特公昭60−57837号公報)等の報告がある。
【0004】
更に、D−アミノ酸オキシダーゼを産生する微生物としては、カンジダ属(特開昭55−23966号公報)、シュードモナス属(特開昭63−63377号公報)、フサリウム ソラニ(特開平2−200181号公報)、ロドトルラ グルチニス(特開平5−211890号公報、EP517200号公開公報)、不完全糸状菌クルブラリア(Curvularia)属、ロビラーダ(Robillarda)属、ミロセシウム トリアティスポリウム(Myrothecium striatisporum)属(特開平7−274957号公報)、アスペルギルス属(特開平9−75078号公報)、フサリウム イクイセチ(特開平10−52265号公報)等の報告がある。
【0005】
これらの酵素は、抗生物質前駆体の製造(特公昭55−35119号公報、特公昭57−18879号公報、特公昭57−30479号公報、特公昭59−15635号公報、特公昭60−57837号公報、特公昭62−501677号公報、特公平1−23473号公報、特開昭51−112594号公報、特開昭52−11890号公報、特開昭52−38092号公報、特開昭54−32694号公報、特開昭55−23966号公報、特開昭56−30988号公報、特開昭62−262994号公報、特開昭63−71180号公報、特開昭63−74488号公報、特開平2−200181号公報、特開平4−229190号公報、特開平4−504362号公報、特開平5−211890号公報、EP474211号公報、EP517200号公報)に利用されている。
【0006】
更に、これらの酵素は、DL−アミノ酸からのL−アミノ酸の製造(特開昭43−65484号公報、特開昭48−72314号公報、特開昭48−72391号公報、特開昭63−63377号公報)、ロイシンアミノペプチダーゼ活性測定法(特公昭59−2278号公報、特開昭53−65787号公報)抗生物質の分析法(EP181102号公開公報)などに利用されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
最近、血中のD−アミノ酸の測定が、腎不全の指標となる可能性が示された(Clinical Science,73,105−108(1987)、Journal of Chromatography,614,7−17(1993)、北里医学,23,51−62(1993))。また、アルツハイマー病患者の脳灰白質のタンパクではアミノ酸のラセミ化率が高いとの報告も見られる(D’Anielo A.et al.,Brain Res.,592,44(1992)、Fisher G.H.et al.,Neurosci.Lett.,143,215(1992))。白内障の悪化と共に眼レンズタンパク中のD−アミノ酸量が増加しているという報告も見られる(ファルマシア,Vol.32,No.10,1214−1218(1996))。
【0008】
既に、D−アミノ酸オキシダーゼを使用して、酵素的にD−アミノ酸を測定する方法(Analytical Biochemistry,150,238−242(1985)、Clinical Science,73,105−108(1987))が長田らにより検討されているが、ブタの腎臓から抽出した酵素を使用しているため、酵素の安定生産および量的な確保に問題があった。D−アミノ酸オキシダーゼは様々な微生物から見出され、前述の通り特許出願も多数行われているが、実用化には至っておらず、上記ブタ腎臓由来のD−アミノ酸オキシダーゼにおいては、ユニット当たりの価格が高額であり、臨床分野で一般的に、また、大量に使用されている酵素(グルコースオキシダーゼ等)に比べて、数百倍〜千数百倍の価格となっている。
【0009】
一方で、これまでに報告されているD−アミノ酸オキシダーゼの至適温度は、その由来菌によって異なっており、40℃付近(アスペルギルス属由来D−アミノ酸オキシダーゼ(特開平9−75078号公報)、フサリウム イクイセチ(特開平10−52265号公報))等の報告が見られる。
【0010】
実際に臨床診断の現場で、D−アミノ酸オキシダーゼを用いてD−アミノ酸を測定する場合、また、D−アミノ酸の測定キット等の構成物としてD−アミノ酸オキシダーゼを使用する場合には、広い温度領域で高い活性を持つ酵素を用いることが望ましい。さらには、最近、多くの病院の検査室や検査センター等で普及が見られる自動分析機において、上記D−アミノ酸測定キットが用いられる場合を想定すると、自動分析機の設定温度である37℃を含んだ広い範囲において高い活性を持つ酵素を使用することが望ましい。
【0011】
これまでに報告されているD−アミノ酸オキシダーゼは、37℃付近に至適pHを持つものも存在するが、至適温度領域が十分には広くなく、至適温度を外れると活性の低下も見られることから、実際にD−アミノ酸を測定する際にD−アミノ酸オキシダーゼの最適の条件で反応をさせることは容易ではない。至適温度から外れた温度での測定においては、低下した活性を補うために、添加するD−アミノ酸オキシダーゼの量を増やすことでの対応も可能であるが、前述の通り、酵素の量産化が実用化されておらず、酵素の価格が高額であるため、結果として試薬キットの価格の上昇を招く。そのため、これまでは、臨床診断等で使用されるD−アミノ酸オキシダーゼおよび試薬キットを安価に提供することは困難であり、至適温度の広いD−アミノ酸オキシダーゼ(添加する酵素量を増やさなくても十分に活性が得られるもの)が求められていた。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記実情に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、広い範囲に至適温度を持つD−アミノ酸オキシダーゼを産生する菌を見出し、本発明に至った。即ち本発明の目的は、腎不全、アルツハイマー、白内障等の疾病の診断薬として有用なD−アミノ酸オキシダーゼを提供することにある。
【0013】
また、本発明によれば、前記D−アミノ酸オキシダーゼの製造法を提供することが可能である。さらに本発明によれば、フサリウム属に属するD−アミノ酸オキシダーゼ生産能を有する微生物が提供される。また、前記D−アミノ酸オキシダーゼを用いたD−アミノ酸の測定法も提供される。
【0014】
本発明のD−アミノ酸オキシダーゼは、次の理化学的性質を有している。
(1)作用 酸素の存在下、D−アミノ酸を酸化し、過酸化水素、2−オキソ酸およびアンモニアを生成する。
(2)基質特異性 D−アラニン、D−ヒスチジン、D−メチオニン、D−バリンに強く作用し、D−リジン、D−セリンにも作用し、L−アミノ酸にはほとんど作用しない。
(3)至適温度 至適pHが30〜40℃である。さらに詳しくは30℃の時の活性を100とした場合の相対活性が、35℃で98.8%、40℃では97.9%である。また、20〜50℃で実用的に使用が可能である。
(4)至適pH 至適pHは7.5〜8であり、pH6〜10で実用的に使用が可能である。
(5)分子量 ゲル濾過法で測定した分子量は約162,000である。
【0015】
前記D−アミノ酸オキシダーゼは、フサリウム属(Fusarium)に属する菌を栄養培地に培養し、培養微生物にD−アミノ酸オキシダーゼを生成蓄積せしめ、これを採取することにより得ることが出来る。
【0016】
D−アミノ酸オキシダーゼ生産能を有する微生物としては、フサリウム オキシスポラム S−1F4(Fusarium oxysporum S−1F4FERM BP−5010)又はその変異株を挙げることが出来る。
【0017】
本発明のD−アミノ酸オキシダーゼを用いることにより、D−アラニン、D−ヒスチジン、D−メチオニン、D−バリン、D−リジン、D−セリン等のD−アミノ酸の簡易な測定が可能となる。
【0018】
以下に本発明を詳細に説明する。
先ず、本発明のD−アミノ酸オキシダーゼの製造法について説明する。本発明のD−アミノ酸オキシダーゼ生産能を有する微生物としては、フサリウム(Fusarium)属に属するフサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、例えば、Fusarium oxysporum S−1F4(工業技術院生命工学工業技術研究所寄託番号、FERM BP−5010)があげられる。本発明においては、上記菌株の変異株も使用できる。変異株は、紫外線、エックス線などの放射線または化学的変異剤(NTG)などの処理によって得られる。
【0019】
上記の菌株(以下、本菌株と略称する)の菌学的性質は、下記の通りである。菌の分類は、おおむねブース(C.Booth)著の「ザ・ジーナス・フサリウム(The Genus Fusarium)」(CMI.1971)の記述に準拠した。
【0020】
(1)培地における生育状況
PDA培地、ポテト・シュークロース寒天培地、オートミール培地、酵母MY培地等における生育は、いずれにおいても非常に良好である。25℃の恒温器で培養すると、フェルト状に菌糸体が広がり、白〜薄い紫色を呈する。
(2)分類学的性質
本菌株の同定は、オートミール培地での培養時に、分生子(conidia)や分生子柄(conidiophor)などの顕微鏡下の形態観察から行った。その結果、本菌株のコロニーは白色から薄い紫色であり、ミクロコニディア(microconidia)とマクロコニディア(macroconidia)および厚膜胞子を多数形成すること。また、ミクロコニディアの形状が卵〜長円形であり、小型分生胞子を擬頭状に形成すること、マクロコニディアの形状が三日月型であり、3〜5の隔壁を有していることから、フサリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)と同定された。本菌株は、工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM BP−5010の下で寄託されている。
【0021】
本菌株の培養時には、通常のカビ用培地が使用でき、炭素源、窒素源、無機物その他使用菌が必要とする微量栄養素を程良く含有するものであれば、合成培地、天然培地のいずれも使用可能である。炭素源としては、グルコース、フルクトース、ラクトース、シュークロース、キシロース、デキストリン、澱粉、グリセリン、糖蜜などが使用できる。窒素源としては、ペプトン、カゼイン消化物、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスチープリッカー等の窒素含有天然物、又は、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類、又はL−リジン、L−グルタミン、L−バリン、DL−アラニン等のアミノ酸類が利用可能である。各種アミノ酸を使用する際には、各種アミノ酸のD体を加えることにより、D−アミノ酸オキシダーゼの生産量を向上させることも可能である。無機物としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化第二鉄等、通常の培地に含有されるものを用いることが出来る。
【0022】
本菌株は好気性であり、培養は通常、振とう培養または通気攪拌培養で行う。培養温度は通常15〜40℃、好ましくは20〜35℃の範囲であり、培地のpHは、通常3〜13、好ましくは5〜10の範囲である。培養期間は、通常1〜7日間、好ましくは2〜4日間である。斯かる方法で培養することにより、培養物中、特に菌体内にD−アミノ酸オキシダーゼを生成蓄積することが出来る。
【0023】
培養物中からD−アミノ酸オキシダーゼを得る方法は、タンパク質における通常の精製方法が利用できる。すなわち、菌を培養後培養液を濾過して菌体を集菌し、次いで、適当な方法で菌体を破砕し、破砕液から遠心分離などによって上清液を得る。この上清液中に含まれるD−アミノ酸オキシダーゼは、塩析、透析、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過、電気泳動などの適当な精製操作を組み合わせることによって精製できる。
【0024】
次に、本発明によって得られたD−アミノ酸オキシダーゼの用途について説明する。D−アミノ酸オキシダーゼは、酸素の存在下にD−アミノ酸の酸化反応を触媒し、過酸化水素、2−オキソ酸およびアンモニアを生成する酵素であるから、この反応による変化が利用できるものであれば、用途は特に制限されない。
【0025】
直接反応生成物を利用するものとしては、2−オキソ酸の製造法および前駆原料のD−アミノ酸側鎖を酸化し、抗生物質の原料などを製造する方法、例えば、セファロスポリンCからの7−セファロスポラン酸の製造が挙げられる。また、間接的に利用するものとしては、DL−アミノ酸からD体だけを酸化し、L−アミノ酸を製造する方法および反応生成物の量的変化を直接または間接的にシグナルとして検出する基質のD−アミノ酸、抗生物質などの測定法が挙げられる。
【0026】
また、D−アミノ酸の生成を伴う別な酵素反応系の後にD−アミノ酸測定系を結合した、末端にD−アミノ酸を有する前駆基質、例えば、ペプチド等の測定法、逆に、D−アミノ酸を有する合成ペプチドを基質として添加するエキソプロテアーゼ、ペプチダーゼ等の酵素活性の測定法、例えば、ロイシンアミノペプチダーゼ活性の測定などが挙げられる。
【0027】
また、D−アミノ酸オキシダーゼおよびD−アミノ酸の検出に必要な後述する試薬を調整し、D−アミノ酸の測定キットとして診断薬に組み立てることが出来る。
【0028】
本発明のD−アミノ酸オキシダーゼの酵素活性(力価)は、下記の方法により測定できる。
(1)生成する過酸化水素を比色法により測定する方法。
A.速度法
45mM4−アミノアンチピリン、60ユニット/mlパーオキシダーゼ溶液、及び60mM フェノール溶液それぞれ100μlと、0.1Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)1ml、及び酵素溶液50μlを混合し、全量を蒸留水で3.0mlとする。30℃で2分間インキュベートした後、100mMD−アラニン(D−Ala)溶液50μlを添加し、505nmにおける吸光度を経時的に測定する。生成するキノン色素の分子吸光係数(5.16×103M-1cm-1)から、1分間に生成する過酸化水素のマイクロモルを算出し、この数字を酵素活性単位(ユニット:U)とする。
【0029】
B.終末法
上記A法と同様に処理し、基質添加後、30分間30℃でインキュベートした後の505nmにおける吸光度を測定し、予め作成された検量線に基づいて酵素活性を求める。
【0030】
上記AおよびBの方法は反応生成物の量に基づいてD−アミノ酸の測定を行う方法である。D−アミノ酸とD−アミノ酸オキシダーゼとの反応によって、過酸化水素及び2−オキソ酸が生成される。過酸化水素の測定には上記に示した試薬を用いる方法の他に、当該技術分野で既知の方法、例えば、発色法や、過酸化水素電極を用いる方法で過酸化水素を測定し、予め作成された検量線に基づいてD−アミノ酸を定量する方法も使用することが出きる。ただし、D−アミノ酸オキシダーゼの活性量は、常に一定であることが必要であり、必要であれば緩衝液による希釈を行う。過酸化水素の比色法における発色系としては、ペルオキシダーゼの存在下で4−アミノアンチピリン(4AA)、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)等のカップラーとフェノール等の色原体との酸化縮合により色素を生成する系を用いることができる。
【0031】
色原体として、フェノール誘導体、アニリン誘導体、トルイジン誘導体等があり、例えば、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、2,4−ジクロロフェノール、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)等が挙げられる。又ペルオキシダーゼの存在下で酸化されて呈色するロイコ型発色試薬も用いることができ、そのようなロイコ型発色試薬は、当業者に既知であり、o−ジアニシジン、o−トリジン、3,3−ジアミノベンジジン、3,3,5,5−テトラメチルベンジジン、N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4−ビス(ジメチルアミノ)ビフェニルアミン(DA64)、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(DA67)、等が挙げられる。
【0032】
(2)酵素反応による酸素吸収を測定する方法
0.1Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)1mlとD−アミノ酸オキシダーゼ50μlを混合し、蒸留水で全量を3.0mlとし、ランクブラザーズ社の酸素電極のセルに入れる。30℃で攪拌し、溶存酸素と温度を平衡化した後、50mM D−アラニンを100μl添加し、酸素吸収を記録計で連続的に計測し初速度を得る。標準曲線から1分間に吸収された酸素量を求め、これを酵素単位とする。
【0033】
(3)生成する2−オキソ酸をDNP法により測定する方法
0.1Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)1ml、0.1MのD−アラニン1mlおよび蒸留水0.95mlを試験管に添加し、37℃で5分間インキュベート後、D−アミノ酸オキシダーゼ50μlを加えて攪拌し、10分間反応させる。反応後、30%トリクロロ酢酸1mlを加えて反応を停止させる。反応液2mlを別の試験管に取り、0.05%2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNP)の2M塩酸溶液2mlを加えてよく攪拌し、室温下に5分間放置後、トルエン6mlを加えて強く攪拌する。次いで、上層(トルエン層)5mlを別の試験管に移し、これに10%炭酸ナトリウム溶液5mlを加えて強く攪拌し、DNP反応物を水層に抽出する。下層(水層)3mlを別の試験管に取り、これに4M水酸化ナトリウム溶液1mlを加えてよく攪拌後、470nmにおける吸光度を測定する。酵素活性は、あらかじめピルビン酸カリウム(mM単位)で作成した検量線の値(PmM)から算出する。
【0034】
基質を測定する方法の一例として、D−アラニンの定量法を使用して詳しく説明する。D−アラニンが基質の場合のD−アミノ酸オキシダーゼが触媒する反応の式を以下に示す。
【0035】
D−アラニン+O2+H2O → ピルビン酸+H2O2+NH3
【0036】
上記の反応式から明らかなように、反応生成物のピルビン酸、過酸化水素、アンモニアのいずれかを検出してもD−アラニンを定量することが出来る。具体的には、反応生成物のピルビン酸を検出する場合、通常の生化学検査で使用されている乳酸脱水素酵素を利用するピルビン酸の測定方法、前述の2−オキソ酸のDNP検出法などが利用出来る。
【0037】
反応生成物の過酸化水素を検出する場合、過酸化水素の検出法として公知の方法が利用でき、例えば、前述の速度法および終末法を例示することが出来る。反応生成物のアンモニアを検出する場合、通常のアンモニア測定法が利用でき、例えば、グルタミン酸脱水素酵素を使用するアンモニアの測定系がある。
【0038】
基質D−アミノ酸を測定する場合、基質を含有する試料およびD−アミノ酸オキシダーゼを約pH7〜8の緩衝液に加えて反応させればよい。D−アミノ酸オキシダーゼは、溶液状態の他、必要に応じて凍乾品、マイクロカプセル化または担体に固定し、不溶化して使用することも出来る。緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、グリシン−NaOH緩衝液、グッドバッファーなどが使用される。
【0039】
生成した過酸化水素の検出には、比色法、蛍光法、化学発光法、電極法などのいずれも使用出来る。前述の通り、比色法では、ペルオキシダーゼ等の触媒により、過酸化水素でペルオキシダーゼの基質を酸化発色させ、発色濃度を分光光度計で測定する。
【0040】
蛍光法では、ペルオキシダーゼ等の触媒により、過酸化水素で基質を酸化して蛍光物質を生成させ、その蛍光強度を蛍光光度計で測定する。ペルオキシダーゼの基質としては、p−ヒドロキシフェニル酢酸、p−ヒドロキシフェニルプロピオン酸などが利用できる。
【0041】
化学発光法では、ペルオキシダーゼ等の触媒により、過酸化水素で基質を酸化して発光させ、その発光光度をルミノメーターで測定する。化学発光する基質としては、ルミノール化合物、ルシゲニン、アリルシュウ酸エステル類の化合物などが利用出来る。
【0042】
電極法では、白金電極、炭素電極等の電極により、過酸化水素の定量が可能となる。D−アミノ酸の量が微量である場合、又は試料中に電極への影響を与える妨害物質が共存する場合には、作用極(陽極)、対照極(陰極)に加えて参照極を加えた3極法の電極を使用することにより、正確な定量が可能となる。
【0043】
【発明の実施の形態】
(実施例1) フサリウム オキシスポラム S−1F4によるD−アミノ酸オキシダーゼの製造。
検討には、フサリウム オキシスポラム S−1F4(FERM BP−5010)を使用した。同菌株を10mlのGPYM培地に接種し、30℃で2日間振とう培養し、これを種培養液とした。振とう速度は111rpmとした。GPYM培地は下記に示す組成とした。
Glucose 1.0%
Pepton 0.5%
Yeast extract 0.3%
Malt extract 0.3%
(pH5.5〜6.0、120℃・20minオートクレイブにて滅菌)
【0044】
次にこの種培養液を本培養の培地に植え継ぎ、さらに2日間の培養を行った。本培養は丸菱バイオエンジ社製ジャーファーメンターを用いて通気攪拌培養により行った。攪拌の速度は300rpmとし、30℃にて培養した。本培養の培地は下記に示す組成とした。
Glucose 2.0%
Lysine 1.0%
K2HPO4 0.1%
NaH2PO4 0.1%
MgSO4・7H2O 0.05%
CaCl2・2H2O 0.01%
Yeast extract 0.2%
(pH5.5〜6.0、120℃・20minオートクレイブにて滅菌)
培養終了後、濾過により菌体を集菌して重量(湿重量)の測定を行った。7Lの培地を用いた培養により、156.2gの菌体が得られた。
【0045】
得られた菌体50gを2mMジチオスレイトールを含む0.1Mトリス-塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁し、冷却化にビードビーダーを用いて破砕した。破砕には直径0.5mmのガラスビーズを使用し、1分間の破砕と2分間の冷却を6度繰り返した。破砕終了後ガラスビーズを濾過により分離した後、濾液を4℃、8000rpm、40分で遠心分離して菌体残差を取り除いた。
【0046】
次いで、上記遠心上清のD−アミノ酸オキシダーゼ活性を測定した。反応液の組成については下に示した。測定時のブランクは、D−アラニンの変わりに蒸留水を加え、前述の過酸化水素の測定法(速度法)から活性値を求めた。
蒸留水 395μl
0.1M トリス−塩酸緩衝液(pH8.0) 300μl
3mM 4−Aminoantipyrine 30μl
3mM TOOS 30μl
60U/ml POD 30μl
0.1M D−アラニン 15μl
遠心上清 100μl
その結果、0.0452U/mlの活性が得られ、総活性は17.11Uであった。
【0047】
(実施例2) フサリウム オキシスポラム S−1F4由来D−アミノ酸オキシダーゼの精製。
次いで、上記遠心上清からのD−アミノ酸オキシダーゼの精製を行った。遠心上清に氷冷下、攪拌を行いながら40%飽和になるように硫安を添加した。硫安添加時にはpHをモニターし、pH8.0を維持するように適時塩酸又は水酸化カリウム溶液を添加した。硫安添加終了後、氷冷化に1時間の攪拌を行った後、4℃、8500rpm、40分の遠心を行い、沈殿を除去した。上清にはさらに上記と同様の方法で硫安を75%飽和になるように添加し、氷冷下1時間の攪拌の後、4℃、8500rpm、40分の遠心分離を行い、沈殿を回収した。
【0048】
回収した沈殿を2mMジチオスレイトールを含む50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解し、同緩衝液で1夜透析した。透析の外液は6時間毎に2回交換した。次いで、透析を終了した酵素液をストリームライン(ファルマシア社)で精製した。ストリームラインには、ストリームラインDEAEゲル(ファルマシア社)を使用し、流速15ml/minでアプライを行った。次に2mMジチオスレイトールを含む50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)でゲルの洗浄を行った。流速は15ml/minとした。D−アミノ酸オキシダーゼの溶出には、あらかじめ、0.05MKCl及び2mMジチオスレイトールを含む50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で不要なタンパク質を溶出させた後、0.1MKCl及び2mMジチオスレイトールを含む50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)を用いて行った。この際の流速も上記と同様15ml/minとした。
【0049】
次いで、上記ストリームライン溶出液からゲル濾過によりD−アミノ酸オキシダーゼを精製した。ゲル濾過を行うにあたり、Centriprep(アミコン社)を用いて、ストリームライン溶出液の濃縮を行った。Centriprp使用の条件は、4℃、3000rpm、40分とした。ゲル濾過は以下の条件で行った。
上記の条件でゲル濾過を行い、フラクションは17mlずつ回収した。
【0050】
次いで各フラクションのD−アラニンに対する活性を確認した。活性の確認には下記の反応液を用いた。
蒸留水 465μl
0.1M トリス−塩酸緩衝液(pH8.0) 300μl
3mM 4−Aminoantipyrine 30μl
3mM TOOS 30μl
60U/ml POD 30μl
0.1M D−アラニン 15μl
各フラクション 30μl
その結果、フラクションNo.11および12において活性が見られた。総活性は8.95Uで、細胞破砕液の遠心上清からの精製の収率は約52.3%であった。
【0051】
(実施例3) フサリウム オキシスポラム S−1F4由来D−アミノ酸オキシダーゼの諸性質の確認。
フサリウム オキシスポラム S−1F4由来D−アミノ酸オキシダーゼの基質特異性について検討を行った。測定に際しては0.1Mに調整した各種アミノ酸、D−アラニン、D−ヒスチジン、D−リジン、D−メチオニン、D−バリン、D−セリン、D−アスパラギン酸を用意し、下記に示す反応液を用いてそれぞれのD−アミノ酸に対する活性を測定した。
蒸留水 485μl
0.1M トリス−塩酸緩衝液(pH8.0) 300μl
3mM 4−Aminoantipyrine 30μl
3mM TOOS 30μl
60U/ml POD 30μl
0.1M D−アミノ酸 15μl
D−アミノ酸オキシダーゼ 10μl
【0052】
その結果、下記に示す通り、フサリウム オキシスポラム S−1F4由来D−アミノ酸オキシダーゼは、D−アラニン、D−ヒスチジン、D−メチオニン、D−バリンに強く作用し、D−リジン、D−セリンにも作用し、D−アスパラギン酸にはほとんど作用しないことが判明した。また、L−アミノ酸には対しても活性を持たなかった。
フサリウム オキシスポラム S−1F4由来D−アミノ酸オキシダーゼの基質特異性
D−アミノ酸 基質特異性(%)
D−アラニン 100
D−ヒスチジン 50.7
D−リジン 13.2
D−メチオニン 130.3
D−バリン 53.6
D−セリン 32.1
D−アスパラギン酸 0.2
【0053】
次いで、フサリウム オキシスポラム S−1F4由来D−アミノ酸オキシダーゼの至適pHについて測定を行った。至適pHの測定は、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH4〜7.5)、50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0〜9.5)、50mMグリシン−NaOH緩衝液(pH9〜13)を用意し、これらの緩衝液を酵素活性測定時に用いることにより、測定した。測定には下記の反応液を用いた。
蒸留水 485μl
各緩衝液 300μl
3mM 4−Aminoantipyrine 30μl
3mM TOOS 30μl
60U/ml POD 30μl
0.1M D−アラニン 15μl
D−アミノ酸オキシダーゼ 10μl
検討の結果、フサリウム オキシスポラム S−1F4由来D−アミノ酸オキシダーゼは、図1に示す通り、pH6〜10の間で活性を有し、その至適pHは7.5〜8であることが確認できた。
【0054】
次にフサリウム オキシスポラム S−1F4由来D−アミノ酸オキシダーゼの至適温度の確認を行った。測定に際しては、上記反応液の緩衝液を50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に固定し、0℃(氷冷)〜65℃の範囲において5℃間隔で測定を行った。その結果、図2に示す通り、フサリウム オキシスポラム S−1F4由来D−アミノ酸オキシダーゼの至適温度は30〜40℃であり、20〜45℃の広い範囲で高い活性を持つ酵素であることが確認できた。
【0055】
フサリウム オキシスポラム S−1F4由来D−アミノ酸オキシダーゼの分子量を測定するため、ゲル濾過クロマトグラフィーを行った。カラムはYMC−Pack Diol−200を使用し、30秒毎にフラクションを回収した。ゲル濾過の条件は回収したフラクションの活性を測定することにより、そのフラクションの溶出時間からフサリウム オキシスポラム S−1F4由来D−アミノ酸オキシダーゼの分子量を推定した。ゲル濾過により得られたフラクションのD−アミノ酸オキシダーゼ活性を前述と同様の測定法により測定したところ、フサリウム オキシスポラム S−1F4由来D−アミノ酸オキシダーゼの分子量はおよそ162,000であることが推察された。ゲル濾過の条件は以下の通りに行った。
【0056】
【発明の効果】
本発明により臨床診断薬として有用なD−アミノ酸オキシダーゼ及びその工業的生産に適した製造法が提供された。
【図面の簡単な説明】
【図1】 pH8(50mMトリス−塩酸緩衝液)における測定値を100として、各pHにおける測定値を換算値で示したグラフである。
【図2】 30℃における測定値を100として、各温度における測定値を換算値で示したグラフである。
Claims (3)
- フサリウム オキシスポラム S−1F4(Fusariumoxysporum S−1F4:FERM BP−5010)が生産するD−アミノ酸オキシダーゼであって、下記の理化学的特性を有するD−アミノ酸オキシダーゼ:
1)酸素の存在下で、D−アミノ酸を酸化し、過酸化水素、2−オキソ酸およびアンモニアを生成し;
2)ゲル濾過法で測定した分子量が約162,000であり;
3)至適pHが7.5〜8であり;
4)至適温度が30〜40℃である。 - D−アラニン、D−ヒスチジン、D−メチオニン、D−バリン、D−リジンおよびD−セリンに作用する請求項1に記載のD−アミノ酸オキシダーゼ。
- D−リジンおよびD−セリンと比較して、D−アラニン、D−ヒスチジン、D−メチオニンおよびD−バリンにより強く作用する請求項1〜2のいずれかに記載のD−アミノ酸オキシダーゼ。
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