JP4068216B2 - 高強度ステンレス鋼極細線 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば精密フィルター用、プリント印刷用のハイメッシュ材などとして用いうるオーステナイト系ステンレス鋼からなる高強度ステンレス鋼極細線に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の急激な技術進歩は一方では新たな要求品質を備えた技術開発を必要とし、最近では精度的にも、ミクロンより小さい単位のナノ領域までにまでも及ぼうとする分野が見られ、こうした傾向はさらに加速拡大することが予想されている。
【0003】
金属極細線においても、これまでは例えばフィルター用あるいはプリント印刷用などのハイメッシュ用などとして使用されているものの、濾過精度特性や印刷精度の観点から、より微小かつ精密なメッシュ製品となるよう微細線材の開発が急がれているものの、反面、微細化に伴ってメッシュ製織時や取扱い時などにおける断線のトラブルが増加することから、より高強度ですぐれた品質を持つ材料の出現が待たれている。
【0004】
このような観点から本出願人は、先に特開昭59−93856号公報において、線径数10μm(例えば30μm)程度の極細線として、炭素0.08%以下、ケイ素1.00%以下、マンガン2.00%以下、リン0.045%以下、イオウ0.030%以下、ニッケル8.0〜11.0%、クロム17.0〜20.0%とし、さらに0.015〜0.10%の窒素と、若干のモリブデンを有し、かつNi当量を21〜23%とすることによって引張り強さと伸びをバランスさせた高強度のステンレス鋼細線を提案している。
【0005】
また、同様の提案としては特開平8−134598号公報も見られているが、この内容は非金属介在物を3μm以下とすることを特徴とするものである。
【0006】
このような先行技術は、ともに線径30μm程度の微小細線であること、介在物を抑制しかつ微量の窒素を含有させていること、さらに特性として1000N/mm2程度の引張り強さと大きな伸び率を有すること、などの点で共通している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これら先行技術はいずれも線径30μm以下の極細線を対象としているものの、軟質仕上げを前提としていることから引張り強さは例えば1000N/mm2程度に止まるものであって、線径の細さもあって、例えば数10g程度というような軽度の荷重でも容易に断線に至ることから、その取り扱いには大きな注意を必要とするものであった。
【0008】
また断線にまでは至らなくても、引張り強さより小さい荷重である降伏点を越える荷重が加わっただけでも、その部分は金属学的にすでに永久変形する領域であり、したがって例え荷重を除荷してももはや当初の状態には復帰し得ず、例えば硬度がアップしたり線径の細りが発生するなどして部分的に不均一なものとなる。
【0009】
この為、例えばメッシュ製品を製造する場合のちょっとした引っ掛かりなどによって張力付加すると、その部分の寸法や特性において不均一を招き、場合によってはそれによって網の目開きや厚さなど特性のバラツキを大きくし、メッシュ全体が不良品となり、その損失は計り知れない。
【0010】
また、メッシュ製品とした際においてもこうした必要以上の力が加わると部分的な波打ち(ダレ)を起こしやすくなり、製品寿命を短くする原因となっており、特に用途がスクリーン印刷用である場合には、印刷精度に直接作用する為に大きな問題である。
【0011】
結局、こうした問題を改善するためには従来の方向性、すなわち高強度特性をさらに高める必要があるものの、引張り強さだけを想定していたのでは問題解決とはなり得ないとの判断から、さらに検討し、ここに降伏特性を高める必要があるとの結論に至り、本発明を完成したものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明の請求項1に係る発明は、0.10〜0.50%のNを含有するSUS304ステンレス鋼からなる線径40μm以下のハイメッシュ用の極細線であって、該極細線は、JIS G0551による結晶粒の平均粒度番号(N)が10を越える微細組織となる伸線加工及び熱処理加工の付加によって、0.2%耐力値が1000〜1500N/mm2、伸び率が10〜20.6%、かつ引張り強さを前記0.2%耐力値の1.02〜1.40倍としたことを特徴とする高強度ステンレス鋼極細線である。
【0013】
また請求項2に係る発明は、前記極細線が、温度800〜960℃以下での軟質熱処理加工によって製造される。
【0014】
さらに請求項3に係る発明は、線径が5〜25μmであって200#以上、空間率40%以上のハイメッシュ製造用の高強度ステンレス鋼極細線である。
【0015】
このように請求項1に係る発明によれば、伸線加工と熱処理加工によって極細線のオーステナイト組織を所定粒度以上に微細化し、それによって0.2%耐力値を1000〜1500N/mm2でかつ伸び値を10〜20.6%としている。
【0016】
すなわち、線径が例えば20μm程度のように微細な極細線では、軟質状態であるオーステナイト組織の結晶粒が線径程度にまで大きくなると、極細線は実質的に単結晶の連続体で構成されることとなり、当然強度的に劣るものとなる。逆に多結晶状態であるならば、結晶同士の結合界面も大きくなり、結果的に大きな耐力を備えることができる。
【0017】
本発明では、このような思想からJIS G0551における平均粒度番号(N)10を越える微細化組織とすることで、耐力値と伸び率を製織加工などに好適するよう前記範囲に設定している。
【0018】
通常、耐力値と伸び率は相反する傾向を示すものの、耐力値が大きい程荷重に対する弾性回復する範囲が広くなること、及び線径が40μm以下という極細線ではちょっとした取扱い中での不慣れや不注意が断線などの事故を招き易くすることとなる。
【0019】
この為、線自体の強度アップが必要であり、弾性領域である前記耐力値を800N/mm2未満としたものでは、その目的が達成されず、断線にまでは至らなくても特性変化による製織品での織りムラとなって現れ、一方、1600N/mm2を越える程大きくすることは線自体の剛性を大きくし伸び率を減じることとなり、製織加工に影響を及ぼすとともに織目間隔を小さくできないこともある。このため、前記のように、より狭い範囲の1000〜1500N/mm2を選択している。
【0020】
耐力がこのように高い値であることは、仮にその程度の荷重を付加してもこれを除荷して元の特性に復帰できる範囲が大きいことを意味しており、したがってメッシュ製品でも目開きのバラツキや波打ち発生などトラブル軽減に寄与する。
【0021】
次に、伸び率について説明すれば、極細な極細線に製織加工などの強加工に耐え、かつ微小な織目のハイメッシュ製品を製造するには材料自体が適度な伸び率を備えることが必要であって10%未満では製織加工に耐え難く、反面40%を越える程大きくすることは前記耐力値の関係から金属学的に困難である。従って、伸び率を10%以上、かつ上限を表1に記載のように、20.6%としている。
【0022】
本発明では、このような相反する両特性を線径40μm以下(好ましくは30μm未満)という極細線に付与させる為の手段として、これを構成する結晶粒を微細化することを特徴の一つとしており、その値(N)を10を越えるものとした。
【0023】
JIS G0551規格に基づく判定では、粒度番号を−3〜0〜10(粒度番号10の結晶粒の平均断面積は0.000122mm2に、また断面積1mm2あたりの結晶粒の数は8192個に相当)まで14ランクを規定し、それ以上微細なものについては明記されていないが、本発明ではそれよりも微細結晶である為に平均の粒度番号が前記最大値である10を越える値として表現しており、より好ましくは断面積1mm2あたりの結晶数が10,000個以上、さらに好ましくは15,000個以上存在するようにする。
【0024】
こうして多数の結晶を存在させることは、極細線に引張りや変形などを与えても各結晶同士の強い結合によって抵抗することができ、トラブルを防止するとともに、微細線径でありながら適度な率と高い耐力値を付与することができ、製織加工にも耐え得る材料となる。
【0025】
このような微細化結晶粒の極細線は、例えば高い加工率による強度の伸線加工とその後の熱処理加工条件を調整することによって製造することができ、例えば加工率を99%以上(好ましくは99.5%以上)を施し、一方、熱処理加工では比較的低温で行う方法がある。
【0026】
またそれ以外の手法として、例えば第三元素として0.10〜0.50%のN、0.05〜0.30%のNbなどのように、強度アップ、結晶粒の微細化などのように、強度アップ、結晶粒の微細化などのための特定元素を加えればさらに有効である。
【0027】
極細線の引張り強さは前記耐力値の1.02〜1.40倍としているが、その程度にまで耐力値を高めていることは実質的な永久変形する荷重範囲が大きいことを意味している。したがって、突発的な不均一部の発生を防止でき、例えば、材料を機械にセットして各種調整を行う場合にあっても比較的安定した条件での作業が可能となる。
【0028】
このような高強度の極細線とする為の手段として、結晶粒の微細化を促進するよう、前記伸線加工に続いて最終熱処理条件として好ましくは800〜960℃の比較的低温条件で処理することとしている。ステンレス鋼は熱処理の程度によって結晶粒径が大きく変化し、高温度で長時間加熱処理すると結晶粒もそれにつれて成長して粗大となり、例えば1100℃で10min.の熱処理による結晶粒度(N)は、3〜5とかなり大きくなり機械特性も変化してくる。
【0029】
本発明は、伸線加工で強加工を施し比較的軽度の熱処理を施すことで、微細結晶品とし、かつ機械的特性を所定範囲に規定することによって微細な極細線でありながらも製織などの加工に耐えることができるとの基本思想に基づきなされたものであって、さらに前記成分調整することも有効である。
【0030】
極細線は、機械的特性の向上によって線径5〜25μmと微細でありながらも200#以上、空間率40%以上のハイメッシュ用として用いることができ、高精度メッシュ製品の生産歩留りを高める。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、試験結果とともに具体的に説明する。
(試験例1)
非金属介在物を3μm以下とすることができるようダブル真空溶解によって調整し、かつNを添加したSUS304ステンレス鋼細線を素材として用い、これをダイヤモンドダイスによる冷間伸線加工によって加工率99.5%を加えて線径19μmとした。そして、温度800〜960℃の範囲で0.2〜5secの条件を組み合わせた連続光輝熱処理により、試料A〜Eの5種類(発明品)と、比較試料として過度熱処理を施した試料F(比較品)の合計6種類の極細線を製造した。
【0032】
得られた極細線は、いずれも強加工によって優れた表面光沢を持っており、その特性を表1に示す。なお試料Gを参考比較品を硬質仕上げしたものの特性も例示した。
【0033】
【表1】
【0034】
なお、試料Aは温度800〜850℃、Bは温度870〜900℃で熱処理し、試料C、Dは920〜940℃、試料Eは960℃で処理したものであり、比較試料Fは1060℃で熱処理したものである。
【0035】
この結果から、結晶粒度が10を越える非常に微細な試料A〜Eの極細線は、引張り強さと耐力値は共に高く、また伸び率についても10〜約20%程度と満足できるものであったのに対し、試料Fは高い温度での熱処理により、結晶粒度が大きく、引張強さ、耐力ともに劣るものであった。
【0036】
なお、図1、2に本発明の極細線の断面の拡大顕微鏡写真を示し、図3には、極細線の引張試験における破断線の一例を示す。
【0037】
この図1は200倍に拡大し斜め切断した極細線の断面写真であって、図2は直角に切断した極細線の断面写真である。これらの写真から結晶粒は熱処理加工によって微細なオーステナイト相を呈していることが伺える。なお、同写真中の端部に示された比較的太い線材は比較の為のものであって、この線材もオーステナイト組織を呈しているものの結晶粒度ははるかに大きくなっていることが分かる。
【0038】
この両線材の断面写真を比較しても、本発明の極細線の粒度微細化が分かり、機械的特性においても従来極細線を越える優れた特性を示している。
【0039】
なお本発明の高強度ステンレス鋼微細線は200#以上、空間率40%以上のハイメッシュ用として用いられる。ここで200#とは1辺1インチ当たりにおける格子線が200本であることを意味し、空間率40%以上とは、織製品を面に対して直角に透過した時の単位面積における合計空間面積の比が40%であることを示している。
【0040】
(試験例2)
つぎに、試験例1で得られた極細線を用いて400メッシュの平織網長尺製品を製造する為に織機に供し、製織歩留りと網剛性の良否、目開き安定性、ならびに使用に伴う波打ち発現性などを評価した。
【0041】
製織歩留りは極細線の断線に伴う機械停止の回数で評価し、また目開き安定性は製造した網の目開きと網厚さを各々拡大鏡と厚さ計で測定し、各々最大:最小のバラツキ大小で比較しており、さらに波打ち発現性については、所定時間スクリーン印刷に供した時の波打ちの大小を官能的に比較したものである。
【0042】
【表2】
【0043】
この表2のように、発明品である試料A,B,Eは共に良好な評価が得られたのに対し、耐力と結晶粒とにおいて範囲外である試料Fは、製織時に断線も発生して目開きも不安定となり、さらに印刷に使用した時には幕面にたるみが発生して印刷不良となった。
【0044】
このことは、耐力値が低いことによって断線にまでは至らないものの、線引出し時の瞬間的な張力付加により部分的に永久変形を起こしたことによるものと思われ、断面HV硬度において若干の増加が見られた。また試料Gについては硬質仕上げ品であったために製織加工に困離をきたし、しかも織品では目開きが大きく厚さも厚いものとなった。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のステンレス鋼極細線は結晶粒を微細化するとともに耐力値を高め適度の伸び率を有することにより、例えばハイメッシュ製品に使用する時には、製造安定性を高めるとともに高精度化を可能とするものであって、新規利用分野を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 極細線を斜め切断し、その断面を200倍に拡大して示す金属組織の顕微鏡写真である。
【図2】 極細線を直角に切断し、その断面を200倍に拡大して示す金属組織の顕微鏡写真である。
【図3】 極細線の荷重、歪み曲線の一例を示す線図である。
Claims (3)
- 0.10〜0.50%のNを含有するSUS304ステンレス鋼からなる線径40μm以下のハイメッシュ用の極細線であって、該極細線は、JIS G0551による結晶粒の平均粒度番号(N)が10を越える微細組織となる伸線加工及び熱処理加工の付加によって、0.2%耐力値が1000〜1500N/mm2、伸び率が10〜20.6%、かつ引張り強さを前記0.2%耐力値の1.02〜1.40倍としたことを特徴とする高強度ステンレス鋼極細線。
- 前記極細線は、温度800〜960℃以下での軟質熱処理加工によって製造される請求項1に記載の高強度ステンレス鋼極細線。
- 線径が5〜25μmであって200#以上、空間率40%以上のハイメッシュ製造用の請求項1又は2に記載の高強度ステンレス鋼極細線。
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