JP3863444B2 - ハイメッシュ用の高強度オーステナイト系ステンレス鋼極細線 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スクリーン印刷用膜材、高精度濾過に用いうる高強度ステンレス鋼極細線、さらに詳しくは、スクリーン印刷用膜材、高精度濾過に用いることができ、強度特性を調整しハイメッシュ製品に織成加工する際の作業安定性に優れ、織目ずれなどを抑制しうるハイメッシュ用の高強度オーステナイト系ステンレス鋼極細線に関する。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼は、求められる特性、用途によって成分範囲、加工方法、成形条件などを決定しており、これら要素の組み合わせにより用途などに応じた製品が製造されている。例えばJISG4309では、一般用軟質線を対象とする“ステンレス鋼線”が規定され、またJISG4314では、ばねを対象とする“ばね用ステンレス鋼線”が、適用鋼種及び仕上げ区分とともに規定されている。
【0003】
ところで、特殊な分野の1つとして、特に精密フィルター、スクリーン印刷用膜材のためのハイメッシュ用の極細線があり、またこの用途のステンレス鋼極細線の改善のために、例えば、極細線への伸線性を高める為に原材料ロットの溶解をダブルメルト法によって非金属介在物の発生を抑える技術、特開昭59−93856号公報が提案するニッケル当量を所定範囲に調整することにより高強度、高伸び特性を兼備した極細線とすることの技術、特開平11−6037号公報が提案する、最終熱処理条件の調整によって材料結晶粒を微細化し高強度にすることの技術とともに、本出願人も、特願2000−255901号においてN:0.15〜0.3%を含みかつ他の各元素の成分バランスを調整することにより高強度とする技術を提案している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような種々な改善があるとはいえ、線径が50μm以下というハイメッシュ用のステンレス鋼極細線は、製織加工中での線の張力ムラ、僅かな引掛かり等によって断線し、あるいは線癖部分がメッシュ製品の平面性にムラを発生させることなどを防ぐためにさらに高強度であることが望まれており、もし所望の強度を達成しえないときには、得られたメッシュ製品においても織目が不揃いなものとなりやすく、製品特性として十分なものとは言い難い。
【0005】
また、メッシュ製品を例えば前記スクリーン印刷用膜材(スクリーン印刷に用いる印刷用膜材)として使用する場合、装着当初は緩み無く張設したとしても、印刷回数とともに徐々に張りがなくなり、やがては印刷精度に劣るものとなる。これは、強度は通常、材料の全伸びに対する弾性範囲と相関があり、製織時の張力、メッシュ使用中での過度の張力などによるわずかな変形によっても徐々に塑性変形を起こすことによるものと考えられる。そして一端このような張りを無くする現象が発生したメッシュは、交換せざるを得ず、機械停止など大きな損失の一因となっており、極細線としての寿命アップが強く求められている。特にこのような傾向は30μm以下の超極細線において顕著である。
【0006】
他方、メッシュ製品においては前記のように、高強度であることが望まれるが、その引張特性が例えば、図2に示すように、応力(荷重)と伸びとの関係がほぼ直線状態になるときには、極細線を塑性変形させ難く、したがってハイメッシュのように織目間隔を狭くしようとしても線自体の剛性により、スプリングバックによって直線性を維持する傾向が大きいものとなる結果、波付け変形させにくく、線同士の配置間隔も広いものとなり、微小メッシュの織成体をうることは困難となる。
【0007】
本発明は前記した課題を解決し、高強度でありながら、織成が容易であって、メッシュを微小化しうるハイメッシュ用の高強度オーステナイト系ステンレス鋼極細線の提供を目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、線径1〜50μmへの冷間伸線加工の後、温度550〜680℃の低温熱処理が施こされ、耐力2000〜2800MPaである。
【0009】
加うるに請求項1に係る発明は、引張試験での破断までの破断伸び(%)をAとし、この破断ポイントを通る荷重水平線aと、弾性域での描線bの延長線cとが交差する交点dまでの降伏伸び(%)をBとするとき、{(A−B)/A}×100で求められる伸び比率Xが15〜40%の範囲であることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下本発明の一実施の形態を図面とともに説明する。なお、本明細書では、各元素の成分量を質量(Mass)%により記載している。
【0011】
ハイメッシュ用の高強度オーステナイト系ステンレス鋼極細線(以下、単にハイメッシュ用の高強度ステンレス鋼極細線、乃至高強度ステンレス鋼極細線というときがある)1は、線径1〜50μm、耐力1800MPa以上、本発明では耐力2000〜2800MPaとし、従来の固溶化熱処理した軟質極細線に比して耐力が大きく高強度として、メッシュ加工など強加工に耐え得る特性を具える。なお、耐力は該極細線の引張試験において、例えば精密歪み計によって計測した荷重−歪線図において0.2%歪を生じる荷重を断面積で除した応力として求められる。
【0012】
これにより、1〜50μmと極めて細いステンレス鋼極細線において、例えばメッシュ加工などにおいて生じたわずかな張力ムラなどによって生じがちな破断の危険性を減じる。またメッシュ製品を長期に亘って安定化するには、単に引張強さだけを大きくするだけでは不十分であるため、前記のように0.2%耐力を、耐力耐力2000〜2800MPaとして、従来のステンレス鋼極細線に比して大としている。しかし過度に大としたものは伸び性を減じ、メッシュ間隔を狭くできないことから、その上限は3000MPa以下とする。
【0013】
また、一般的にステンレス鋼は加工硬化現象によって引張強さは耐力とともに上昇し、例えばSUS304ステンレス鋼を加工率80%で冷間加工した場合の機械的特性は、図2に示すように、引張強さが3000MPa以上、伸びは1.5〜2.5程度の高強度特性のものとなるが応力と歪との関係はほぼ直線となり、その結果、耐力比(耐力/引張り強さ)は95%以上と大きいものとなる。かかる耐力比が大きい極細線は、型付けが困難となりメッシュ加工を困難とする。
【0014】
本発明の高強度ステンレス鋼極細線においては、メッシュ加工に適した特性とする為に、応力−歪線図において、伸び比率Xを10〜60%としている。伸び比率とは、図1に示すごとく、該極細線の引張試験における破断までの破断伸びA(%)と、この破断ポイントを通る水平線aが、引張り弾性域での描線bを延長した延長線cと交わる交点dにおける降伏伸びB(%)とにおいて、(A−B)/A×100で求める比をいい、この伸び比率Xを前記のように10〜60%の範囲とするのがよく、さらに本発明では、15〜40%としている。
【0015】
なお本発明では前記「降伏伸びB」として、便宜上、前記荷重−歪線図における延長線cが交差する交点dを用いることとしている。かかる値を採用することにより、ほぼ比例的に増加する弾性領域での描線b以降の変化が、仮に大きな円弧で描かれその境界を特定し難いような特性のものであっても、前記伸び比率Xをより正確に求めることができる。
【0016】
そして伸び比率Xをかかる範囲とすることにより、メッシュ加工の作業性を高める。この伸び比率Xが10%未満では単に冷間伸線加工したものと同様にスプリングバックが大きい極細線となり、波付け加工しにくい。また60%を超える程大きくしたものでは、高強度が得られない。従って本発明では前記したメッシュ加工の作業性のさらなる向上のために前記のように、15〜40%を選択している。、さらに好ましくは、20〜35%程度とする。これにより、さらに使用による弛みの発生を抑制しつつ織製加工を能率化し、メッシュ製品を長期に亘って安定化する。
【0017】
また本発明の高強度ステンレス鋼極細線は、従来の極細線と同様に例えばSUS304、SUS316、SUS316Lなど種々のオーステナイト系ステンレス鋼が適用できるが、好ましくは質量%でC≦0.15%、Si≦1.0%、Mn≦2.5%、Ni:7.0〜11.0%、Cr:17.0〜20.0%を含み、残部鉄及び不可避不純物からなる鋼に、N:0.1〜0.5%を添加したN含有ステンレス鋼としている。このようにN添加したものでは、結晶粒が微細化し、より高い耐力の極細線とすることができ、また耐熱特性や耐食性を高めるなどの利点も有する。
【0018】
前記した各元素量について、炭素(C)は、強力なオーステナイト生成元素であり、線材の強度向上を図る上で0.05%以上が好ましいが、反面過度に含有させた場合には炭化物を形成して粒界腐食や孔食などの組織的欠陥を招きやすい。こうした点から、C≦0.15%、好ましくは0.07〜0.10とする。
【0019】
ケイ素(Si)は、脱酸剤として添加され、強力なフェライト生成元素でもある。一般にケイ素を含有することによって引張り強さや弾性限を高めることができるが、多量の添加は線材の靭性を減少させることとなることから、その上限を1.0%としており、より好ましくは0.4〜0.8%とする。
【0020】
マンガン(Mn)は、オーステナイト生成元素であって、脱硫や脱酸剤として作用するが、反面耐食性特に耐酸化性を劣化させることがあり、その上限を2.0%としており、より好ましくは1.3〜1.5%%とする。
【0021】
ニッケル(Ni)は、オーステナイト系ステンレス鋼の基本元素であって、オーステナイトを安定化させるとともに耐食性を向上するが、多量の添加は強度低下を招くことから、7.0〜11.0%、より好ましくは8.5〜10.0%%とする。
【0022】
またクロム(Cr)についてもステンレス鋼の基本元素であって、耐酸化性や耐食性を高める上で必要である。しかし多量の添加は機械的特性を低下させることとなることから、17.0〜20.0%とする。
【0023】
窒素(N)は、炭素と同様にオーステナイト系の生成元素であって、固溶させることによって耐力を高め、微細なチッ化物を形成して靭性を改善するとともに、結晶粒の微細化に有効である。こうした働きを得る為、0.1〜0.5%、好ましくは0.15〜0.3%とするのがよい。
【0024】
なおその他元素として、必要に応じて若干のニオブ(Nb)を添加し、特に細物線材での強度増大を図る事も有効である。これを添加する場合の分量としては0.1〜0.3%とするのがよい。
【0025】
前記伸線加工は例えば加工率90%以上(好ましくは95%以上、さらには99%以上)でのダイヤモンドダイスによる好ましくは連続伸線で行い、その後、温度400〜700℃の低温熱処理を施す。このように、本発明の高強度ステンレス鋼極細線は冷間伸線加工後に、温度400〜700℃での低温熱処理によって製造することができ、温度が400℃未満の低温処理では、大きな特性の向上は期待できず、一方700℃を越える処理では、材料組織内にシグマ相など不安定組織を招きやすく、耐食性を低下させるなどの危険性がある。より好ましくは、材料の種類に応じて550〜680°であり、本発明においてはこの数値範囲としている。
【0026】
本発明では前記伸び比率Xを必要に応じて任意特性に調整できるものであり、その為の手段として、例えばこのような熱処理温度や処理時間を調整することが有効である。すなわち、例えば前記伸び比率Xが大きい特性のものとする場合は、温度及び/又は時間をより大きくして材料が熱影響を受けやすいものとし、逆に、伸び比率Xを小さくする場合にあっては、例えば低温処理や短時間で熱影響を受けにくくするなどの調整が行われる。
【0027】
また、このような低温熱処理を施すことは、伸線加工で得られていた高強度特性をそれほど減ずることなく、加工歪を除去でき、例えば伸線加工時に発生していた線癖不良を改善し、キンクなどのない真直状の極細線にできるものでもあることから、線状改善の為の別工程を設ける必要はないものでもある。
【0028】
このように本発明による高強度ステンレス鋼極細線は、ステンレス鋼本来の特徴である機械的特性と耐食性を向上させ、またN添加したステンレス鋼では、さらにこれら機能とともに耐熱性をも改善できることから、例えば精密濾過用フィルタやスクリーン印刷用膜材としてのハイメッシュ金網用材料として用いることができる。さらにブラシ材料や繊維材料など種々の高強度用極細線としても有効に使用することができる。
【0029】
(具体例)
以下、本発明の高強度ステンレス鋼極細線について、その一例を以下に説明する。
【0030】
(実施例1)
表1に示す3種類のステンレス鋼線を極細用の湿式連続伸線機によって細径化し、直径19μmの極細素線を得た。使用したステンレス鋼は、いずれも真空溶解によって内部介在物の発生を抑えたものであり、また伸線加工については、ダイヤモンドダイスにより、合計加工率98%の強加工で行ったものである。この為、得られた線の表面は極めて緻密で光輝に優れたものであった。
【0031】
【表1】
【0032】
つぎに、この素線を不活性ガスを流したストランド焼鈍炉(炉長1m)内を通し、熱処理温度600〜800℃の温度範囲を選択し、かつ速度100m/min で低温熱処理し得た極細線の特性を表2に一覧し、またその代表例として試料A、630℃熱処理したものの荷重−歪線図を図1に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
この結果から明らかなように、低温熱処理によって処理した極細線はいずれも耐力1800MPa以上の高強度特性を可能にでき、またその作業性も高強度特性であることから断線などのトラブルが軽減できた。
また、特にNを含有する試料B、Cでは、20〜30%程度の強度アップが図られている。なお、表2に示すように、試料Aは、630゜Cの耐力が2272MPaではあるが、670゜Cの耐力は1819MPaであるため、本発明のハイメッシュ用の高強度オーステナイト系ステンレス鋼極細線には包含されない。
【0035】
(比較例)
一方、比較用の極細線として、前記試料BよりさらにNを高めた0.23%N含有ステンレス鋼(304N)を線径19μmの細さに伸線加工したものを用いた。図2は、この線の伸線加工状態での荷重−歪曲線を示し、また、図3には従来の極細線と同様に、温度950℃で固溶化熱処理したものの結果を示している。
【0036】
このステンレス鋼は多量のNを含むことから、伸線加工状態である図2では引張強さ3500MPaの高強度特性となり、またそれに伴って破断伸びも若干増加しているものの、前記式による伸び比率Xはわずか4%と非常に小さいものである。したがって、この極細線では、塑性領域が小さく型付け性に劣るものであることが予測された。
【0037】
一方、これを固溶化熱処理した図3の極細線では、破断伸びが14%、伸び比率98%と大きく増加しているが、その引張強さは1400MPa程度に留まり強度的に劣るものである。
【0038】
(実施例2)
そこで、これら図1〜3に示す3種類の極細線により#290のハイメッシュシート(即ちスクリーン印刷用膜材)を各々製造し、さらに各メッシュ毎にスクリーン印刷を行い、その性能評価を行った。評価項目と結果は表3に示しており、製織加工での作業性と、印刷における寿命特性などについて行った。
【0039】
【表3】
【0040】
この結果より試料Aの極細線は、耐力が670゜Cの耐力は1819MPaであり本発明品に比しては耐力が劣っているとはいえ、比較例品1,2に比べては、目のバラツキの小さいメッシュを提供でき、また、印刷などによっても特性低下が少なく寿命の永いものであることが分かる。しかし、比較例品1,2については、いずれも目のバラツキや平面性に劣り、印刷による影響を受けやすいものであった。
【0041】
(実施例3)
前記実施例2で使用した極細線により、さらに精密な#400を織製加工した。試料Aはこの織製加工については特に問題なかったが、比較品1の硬質系極細線では全体厚さが増加し、織目ムラの大きいものとなった。
【0042】
【発明の効果】
このように高強度ステンレス鋼極細線は、高強度を有しながらも、破断伸びに対する降伏伸びの比率を前記所定範囲にすることによって、従来の軟質系極細線よりも高強度で使用によっても緩みなどの発生がなく、また熱処理しない硬質系極細線に比して織目のバラツキを抑え、型付けしやすいものであり、ハイメッシュ製織加工での作業性やメッシュ寿命を向上できる。又本発明では、耐力を2000〜2800MPaとし、従来の固溶化熱処理した軟質極細線に比して耐力が大きく高強度として、メッシュ加工など強加工に耐え得る特性を具える。さらに、本発明では前記したメッシュ加工の作業性のさらなる向上のために15〜40%を選択している。これにより、製織加工性と、メッシュ性能とを向上している。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施の形態の高強度ステンレス鋼極細線の引張試験における応力−伸び曲線を例示する線図である。
【図2】 比較例品1のステンレス鋼極細線の同応力−伸び曲線を例示する線図である。
【図3】 比較例品2のステンレス鋼極細線の同応力−伸び曲線を例示する線図である。
Claims (1)
- 線径1〜50μm、冷間伸線加工の後、温度550〜680℃の低温熱処理が施こされ、耐力2000〜2800MPa、かつ引張試験での破断までの破断伸び(%)をAとし、この破断ポイントを通る荷重水平線aと、弾性域での描線bの延長線cとが交差する交点dまでの降伏伸び(%)をBとするとき、{(A−B)/A}×100で求められる伸び比率Xが15〜40%の範囲にあることを特徴とするハイメッシュ用の高強度オーステナイト系ステンレス鋼極細線。
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