JP4066652B2 - 鋼材の熱処理方法およびその装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、熱間圧延後の鋼材の熱処理方法および熱処理装置に関し、特に圧延ライン上に誘導加熱装置を配置したインライン熱処理技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
板厚が8 mm以上の厚鋼板は、高強度化、高靭性化を図るために、熱間圧延後の鋼板を焼入れや加速冷却によって急冷し、次いで焼戻し処理する方法により製造される場合が多い。
【0003】
近年、焼入れや加速冷却はオンラインで行われるようになって来たが、焼戻し処理は、相変わらずオフラインでガス燃焼炉を用いて行われているため長時間を要し、厚鋼板の生産性を著しく阻害している。
【0004】
また、焼入れや加速冷却された高強度鋼板では鋼板表面の硬度が上昇し、ラインパイプ等の用途に使用された場合、HIC特性の劣化を招く恐れがある。このため、焼戻し処理による表面の軟化処理が必要となるが、鋼板内部まで強度低下するため、焼戻し処理後に所定の強度を満足するように多量の合金元素の添加が必要である。
【0005】
生産性の向上のために、例えば、特開平9-256053号公報には、温度パターンを工夫して能率を上げる技術が提案されている。この技術では、炉内で鋼材を連続的に搬送して熱処理する場合において、鋼材の進行方向に向かって炉の設定温度を変化させ、炉の入り側を高温に、出側を低温に設定する。さらにこの技術では、炉の入り側を目的とする熱処理温度より200℃以上高く設定し、炉の出側に向かって段階的に設定炉温を低下させ、炉の出口前での炉の設定温度を目的とする熱処理温度±20℃以内とするというものである。
【0006】
また、特開平4-358022号公報記載の技術のように温度上昇速度を大きくとることで能率を上げる方法もあった。この技術は、焼戻し中の昇温速度を1℃/秒以上とすることにより、昇温中における転位の回復、組織・析出物の粗大化、固溶炭素原子の析出を防止し、強度、靱性を高めることができるというものである。
【0007】
一方、誘導加熱を用いる加熱方法も、熱延鋼板の加熱方法としては提案されている。例えば、特開平9-225517号公報では、熱延鋼板の製造プロセスにおいて、仕上圧延機入側で、粗圧延された粗バーを誘導加熱で加熱する方法が提案されている。この技術は、一定速度で通過する粗バーの温度が、長手方向で一様になるように、加熱するものである。
【0008】
また、特開昭51-148611号公報には、誘導加熱による鋼材の熱処理方法が提案されている。この技術は、鋼管の熱処理に用いられている高周波焼入れ装置を焼戻しにも適用し、鋼管の焼入れにより生じた表面硬化層に対して、高温で焼戻すことにより軟化を図るというものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特開平9-256053号公報記載の技術のように、ガス燃焼による加熱方式では、ガス燃焼炉による鋼材の熱処理において、熱の伝達は輻射や対流によるため、急速な加熱はできなかった。また、ガス燃焼炉では表層部と板厚中央部の温度は、板厚50mm以下の厚鋼板ではほとんど差が無いまま温度上昇するため、鋼板表層のみ加熱することは困難である。
【0010】
特開平4-358022号公報に記載された方法では、一挙に急速加熱による短時間の焼戻し処理を行っているため、鋼板の表面温度が目標温度を超えたり、鋼板の厚み方向に大きな温度差が生じて、鋼板を均一に焼戻し処理できないという問題がある。
【0011】
一方、誘導加熱方式は、周波数を変更することで表層のみを加熱することは容易であるが、厚鋼板のように50mm程度の板厚があり、板幅も2000mmを超えるような鋼材の加熱では、板厚毎に表層の昇温特性を制御することは困難である。特に、周波数を変化させることは、誘導加熱装置のコイルやコンデンサの容量変更を必要とする。その場合、装置を置き換えることになるので、通常の操業では周波数の変更は困難であった。
【0012】
なお、薄鋼板の製造の際、熱延材料の温度低下を防止するため誘導加熱により粗バーを加熱することがあるが、粗バー加熱では、被加熱物がキュリー点以上の高温の鋼、すなわち常磁性体であるので、加熱浸透深さが深く、厚み方向に均等に発熱される。
【0013】
しかしながら、厚鋼板の熱処理においては、被加熱物の鋼材は、キュリー点以下、すなわち強磁性体であるので、加熱の浸透深さが浅く、厚み方向には表層のみが加熱される。従って、テンパー温度が厳格に決められている焼戻し処理では、連続した加熱では表層が許容テンパ温度をすぐに越えてしまい、そのとき、板厚方向に表層以外の部分は、所定のテンパ温度に到達しないという問題が生じていた。
【0014】
また、特開昭51-148611号公報記載の技術は、鋼管の高周波焼入れ装置を用いるため、鋼管外面のみの加熱冷却を行う。従って、鋼管を構成する鋼板については、片面のみの加熱冷却に関する技術であり、鋼板の表裏両面とも加熱冷却する場合には適用できない。
【0015】
本発明は、生産性を阻害せず、しかも鋼板の表面温度が目標温度を超えることなく厚み方向にわたって均一な焼戻し処理を行える鋼材の熱処理方法およびその装置を提供することを目的とする。また、鋼材表層のみの軟化等、鋼材板厚方向での焼き分けを行うことが可能な熱処理方法およびその装置を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
前述の課題は次の発明により解決される。
【0017】
その発明は、熱間圧延完了後、焼入れまたは加速冷却された鋼材の熱処理方法において、ソレノイド型誘導加熱装置により、鋼材表層の到達温度を鋼材内部の到達温度より高く設定して、鋼材の表層のみを熱処理することを特徴とする鋼材の熱処理方法である。
【0018】
この発明は、ソレノイド型誘導加熱装置により鋼材の表層を内部より予め定めた所定の温度以上の温度に誘導加熱する。これは、鋼材の板厚に応じて誘導加熱の際の浸透深さ等を調整することにより実施することができる。この熱処理方法により、鋼材表層に内部と異なる熱履歴を付与することができる。例えば、鋼材表層の到達温度を鋼材内部の到達温度より高く設定することができ、前工程で表層が硬化した鋼材の硬度の均一化や鋼材表層のみの軟化等、鋼材板厚方向の硬度調整を行うことができる。
【0019】
上記の発明において、鋼材の寸法に応じてソレノイド型誘導加熱装置の投入パワーを調節することを特徴とする鋼材の熱処理方法とすることもできる。
【0020】
この発明では、複数のソレノイド型誘導加熱装置を、鋼材の板厚、板幅等、寸法に応じて投入パワーを調節することにより、所望の温度パターンで加熱することが可能となる。なお、ここでは、板厚が厚い程、または板幅が広い程投入パワーを大きく設定する。その場合、鋼材の寸法を測定して投入パワーを制御することも可能である。
【0021】
また、熱間圧延完了後、焼入れまたは加速冷却された鋼材の熱処理方法において、間隔を離して設置した2つ以上のソレノイド型誘導加熱装置に、鋼材を通過させて、間欠加熱することを特徴とする鋼材の熱処理方法とすることもできる。
【0022】
この発明では、間隔を離して設置した複数のソレノイド型誘導加熱装置を用いて間欠的に加熱するので、鋼材の表層温度が一定値を超えないように鋼材全体を加熱することができる。特に、強磁性体である鋼材の加熱のように、表層のみが選択的に加熱されるプロセスで本発明は有効である。加熱される鋼材の表面温度は、磁気変態点やAc1変態点等の温度制御や材質上の観点から上限値が設定され、これを超えないように加熱条件を調整する必要がある。
【0023】
ここで、1台の誘導加熱装置では、鋼材の表面温度が一定値を超えないように鋼材の板厚中心まで目標温度まで加熱することは困難であるため、2つ以上の誘導加熱装置を直列的に配置する。ソレノイド型誘導加熱装置の間の部分では鋼材の表層は加熱されず、鋼材の内部への熱伝導により鋼材表層の温度は低下する。これを繰り返して鋼材内部まで加熱する。ここで、各ソレノイド型誘導加熱装置の加熱条件は、鋼材の表層温度が目的に応じて設定された上限値を超えないよう調整しておく。このようにして、加熱途中では所定の温度差を生じさせ、かつ最終的に鋼材全体を目標温度に加熱することができる。
【0024】
また、この発明では、間隔を離して設置した2つ以上のソレノイド型誘導加熱装置に、鋼材を往復させて通板することにより、鋼材を多数回に分けて加熱することができる。特に、板厚の厚い鋼板の場合は、複数回に分けて断続的に加熱する必要があるが、往復移動させることによりソレノイド型誘導加熱装置の台数を減らすことができる。
【0025】
また、この発明では、鋼材の表面温度が前の誘導加熱装置で加熱された最高到達温度より下がったら、次の誘導加熱装置による加熱を開始することによって、鋼材の表層と内部の温度差が過大となることを防ぐことができる。好ましくは、鋼材の表面温度が厚み方向の平均温度以下になってから次の誘導加熱装置で加熱することより、確実に表面と内部の温度差を均一化できる。ここで、厚み方向の平均温度は、ある断続的加熱パターンに対し予め計算によって求めた温度である。
【0026】
ソレノイド型誘導加熱装置の間の部分では、鋼材の内部への熱伝導により温度差は縮小し均熱化する。鋼材の表面温度が厚み方向の平均温度以下になる前に加熱すると、表面のみが高温となり上限値を超えてしまう。このように制御するためには、誘導加熱装置間の距離に応じて、鋼材の板厚毎に搬送速度を調整すればよい。このように鋼材の表層は、加熱と均熱化を繰り返すので、熱処理中の鋼材内部との温度差を所望の範囲内に抑えることができる。これは、熱処理中の変形や割れの防止に効果がある。
【0027】
さらに、上記の発明において、個々のソレノイド型誘導加熱装置の周波数を、2つ以上の異なる周波数に設定することを特徴とする鋼材の熱処理方法とすることもできる。
【0028】
この発明では、複数のソレノイド型誘導加熱装置を、異なる周波数に設定して浸透深さを変えることにより、鋼材の加熱中の温度分布を変えることができる。例えば、周波数を高く設定して浸透深さを浅く設定したソレノイド型誘導加熱装置により、加熱の初期には鋼材表層のみ加熱して鋼材内部との温度差を大きくし、その後、周波数を低く浸透深さを深くした誘導加熱装置により均熱化を図るというような温度履歴とすることができる。
【0029】
これらの発明において、さらに個々のソレノイド誘導加熱装置の投入電力パワーを、少なくとも後半の加熱において減少させること特徴とする鋼材の熱処理方法とすることもできる。
【0030】
この発明は、ソレノイド型誘導加熱装置の投入パワー(電力投入パワー)を、順次同一ないし減少させることにより、表層部の過加熱、即ち変態点等の制限温度を超える温度上昇を防止することができる。特に、熱処理の能率を圧延ピッチ以上にする上では、目標温度を超えない範囲内でできるだけ大きな電力を投入することが好ましいので、前半の加熱の際に投入する電力を最大とし、後半の加熱において電力を減少させることが望ましい。
【0031】
なお、誘導加熱装置の投入パワーは、鋼材の通過する順番、即ち鋼材の通過する方向に、個々の誘導加熱装置の投入パワーを同一ないし順次減少させればよいが、鋼材を往復させて通過させる場合は、鋼材の各通過ごと(パスごと)に同一ないし減少させてもよい。いずれの場合も、後半の誘導加熱装置、あるいは後半パスの誘導加熱装置全体の電力を減少させることが望ましい。
【0032】
また、この発明では、各誘導加熱装置のコイル長さを順次長くすることにより、表層加熱、あるいは均一加熱をより精度よく行うことができる。
【0033】
表層のみを加熱したい場合、前段の周波数の高い誘導加熱装置のみを用いて、誘導電流の浸透深さを浅くする。前段の誘導加熱装置の長さが短ければ、表層が過度に加熱されることを防止しつつ、連続的に表層のみを急速加熱することができる。
【0034】
また、鋼板内部まで均一に加熱する場合も、前段での表面過加熱を防止できる。さらに、後段にかけて誘導加熱装置の長さを順次増加させることで、加熱領域がより内部まで拡大して均一に加熱することができる。さらに、前段から後段にかけて、周波数を順次低下させて浸透深さを深くすると、より効果的である。
【0035】
熱間圧延後、焼入れまたは加速冷却された鋼板には、圧延歪や冷却歪が発生する場合がある。このため、レベラー等の鋼板を平坦化する工程で鋼板を平坦化してから誘導加熱装置で加熱することにより、板幅、板長方向全体にわたり均一な加熱を行うことができる。また、加熱終了後にレベラー矯正を行えば、加熱歪のない平坦度の優れた鋼板を製造することができる。
【0036】
上記の発明において、誘導加熱装置の電力投入パワーを鋼材の寸法に応じて順次減少させることを特徴とする鋼材の熱処理装置とすることもできる。
【0037】
この発明では、鋼材の寸法に応じて複数のソレノイド型誘導加熱装置の投入パワーを調節することにより、より確実に表層部の過加熱を防止することができる。特に、板厚が薄く、板幅の広い鋼材では、局所的な過加熱が発生しやすいため、板厚に合わせて投入パワーを調節することの効果は大きい。
【0038】
以上の発明にも用いることのできる鋼材の熱処理装置の発明は、製造工程の上流側から下流側に沿って、順次、熱間圧延機、焼入れ装置または加速冷却装置と、2台以上のソレノイド型誘導加熱装置とを有することを特徴とする鋼材の熱処理装置である。
【0039】
この発明では、圧延ライン上にソレノイド型誘導加熱装置が設置されているため、効率的に大量の熱処理を行うことができる。また、複数のソレノイド型誘導加熱装置を、間隔を離して設置しており、その中に鋼材を通過させる手段とを備えているので、上記の熱処理方法の発明で述べた種々の熱処理方法を実現することができる。
【0040】
さらに、2つ以上のソレノイド型誘導加熱装置の間に、鋼材を搬送するローラテーブルを設置することもできる。ここでは、複数のソレノイド型誘導加熱装置の間に鋼材を搬送するローラテーブルを備えているので、ソレノイド型誘導加熱装置の中に鋼材を通過させることができる。また、ローラテーブルにより鋼材を移動させながら熱処理を施すことができるので、鋼材長手方向に同一の熱履歴を付与することができる。
【0041】
また、ローラテーブルの駆動手段として、正逆両方向に回転可能な駆動系を用いることにより、鋼材の順送と逆送を行うことができる。これにより、同一のソレノイド型誘導加熱装置について、鋼材を複数回通過させることが可能となる。
【0042】
上記の発明は、焼入れ装置または加速冷却装置と2台以上のソレノイド型誘導加熱装置との間に、レベラーを有することを特徴とする鋼材の熱処理装置とすることもできる。また、2台以上のソレノイド型誘導加熱装置の下流側に、レベラーを有することを特徴とする鋼材の熱処理装置とすることもできる。
【0043】
これらの発明では、レベラーをソレノイド型誘導加熱装置の前面に設置することにより、均一な加熱を行うことが可能となる。また、レベラーをソレノイド型誘導加熱装置の後面に設置することにより、加熱歪のない平坦な鋼板の製造が可能となる。
【0044】
これらの発明においては、さらに、誘導加熱装置の電力投入パワーを制御する装置を備えていることを特徴とする鋼材の熱処理装置とすることもできる。
【0045】
この発明は、誘導加熱装置の電力投入パワーを制御する装置、即ち電力投入パワー制御装置を備えている。従って、電力投入パワーを電源のタップ切り替え等で設定する場合よりも、より確実に表層部の過加熱を防止することができる。
【0046】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図1を用いて説明する。熱間圧延機1によって熱間圧延を施した鋼材2に対して、水冷装置3による焼入れ処理を施す。その後、矯正機4で歪みを矯正して、誘導加熱装置5によって熱処理を行う。
【0047】
誘導加熱装置5としては、トランスバース型とソレノイド型があるが、本発明では、被加熱物の表層近傍の発熱量を制御する目的から、原理的に被加熱物の表層に発熱が集中するソレノイド型誘導加熱装置を用いることが好ましい。
【0048】
この誘導加熱装置5は、図2に示すように、複数のソレノイド型誘導加熱装置6の中を被加熱物が通過するような装置構成となっている。ソレノイド型誘導加熱装置6の間には、被加熱物の搬送をサポートするローラ7が配置され、ローラテーブルを構成している。このローラテーブルの各ローラは、ローラ回転数が細かく制御できることが望ましい。これにより、被加熱物の表層近傍と板厚中央部の温度履歴に所定の温度差を生じさせるためには、ソレノイド型誘導加熱装置6の中を被加熱物が通過する時間を、細かく制御することができる。
【0049】
この装置には、図1に示すように、被加熱物の温度を測定する温度計8を設置し、測温結果に基づき誘導加熱装置5の出力を調整し、あるいは被加熱物の通過速度を調整するなどの制御を施すこともできる。特に、厚鋼板の熱処理においては、品質上の観点から表面の温度の推移を正確に把握する必要がある。そのためには、温度計8としては、厚鋼板の長手方向や幅方向の温度分布の同時計測が可能な、1次元あるいは2次元の走査型温度計を用いることが望ましい。
【0050】
複数のソレノイド型誘導加熱装置に、鋼材を複数回通過させる場合、誘導加熱装置の電力投入パワーを鋼材が通過する順番に減少させることが、表層部の過加熱を防止する点で好ましい。加熱能率を大きくしたい場合は、前半の加熱の際に投入する電力を最大とし、後半の加熱において電力を減少させることが望ましい。
【0051】
この場合も、各誘導加熱装置の間および装置の前後に温度計を設置し、それぞれの加熱装置で温度が設定値以上に上がらないよう、監視しながら電力投入パワーを制御することが望ましい。
【0052】
【実施例】
本発明の実施例として、前述の形式の誘導加熱装置を厚鋼板の製造ラインに適用した例について説明する。なお、誘導加熱装置5は、6台のソレノイド型誘導加熱装置を備えており、個々の装置の長さ(長手方向の寸法)は、入側からそれぞれ50,80,110,130,150,150cmとした。通過可能な板幅は最大4600mm、板厚は最大70mmである。
【0053】
この誘導加熱装置に、熱間圧延した板厚8mmの厚鋼板を、加速冷却装置により200℃まで冷却し、その後レベラー矯正してから図2の誘導加熱装置により650℃まで加熱した。このとき、1枚の鋼板は6-1の1台の誘導加熱装置で、もう1枚の鋼板は6-1、6-2の2台の誘導加熱装置で加熱した。図6、7にこのときの厚鋼板の表層と内部の温度履歴を示す。図6に示すように、1回の加熱では、表面温度が所定温度(この場合670℃)を超えないように板厚中心部を短時間で目標温度に加熱することは困難である。従って、図7に示すように、少なくとも2回に分けて加熱する必要がある。
【0054】
この誘導加熱装置に、熱間圧延を施した板厚50mmの厚鋼板を、水冷により30℃まで加速冷却する焼入れ処理を行い、続いて発生した歪みを矯正機で除去して平坦にした。その後、図2に示した6台のソレノイド型誘導加熱装置6−1〜6−6を通して、焼戻し温度である650℃まで加熱する熱処理を施した。この時、ソレノイド型誘導加熱装置6−1〜6−6の周波数、投入パワー(電力投入パワー)、厚鋼板の通板速度を、表1に示すように設定した。
【0055】
【表1】
Figure 0004066652
【0056】
[実施例1]
表1の実施例1は、急速な冷却により表層のみが硬化した厚鋼板の表層を焼戻し処理する熱処理パターンを示す。これは、厚鋼板の表層のみを、焼戻し温度である650℃±10℃まで一気に加熱するが、表層より内部については、表層からの熱伝導による熱だけで緩やかに温度上昇させるパターンである。この場合、第1のソレノイド型誘導加熱装置6−1のみを使用し、その他のソレノイド型誘導加熱装置6−2〜6−6の投入パワーをゼロとした。厚鋼板は、ソレノイド型誘導加熱装置6−1の中を30秒かけて通過した。
【0057】
この熱処理パターンにおける厚鋼板の表層と内部の温度履歴を図3(1)に示す。表層は、一気に650℃まで加熱されているが、板厚中央部は(第1の)ソレノイド型誘導加熱装置の出側では未だ400℃前後である。誘導加熱装置を出てから20〜30秒で、表層と板厚中央部ともにほぼ平均温度の520℃で均熱化し、その後、放冷により徐々に温度が降下する。
【0058】
この熱処理パターンは、表層のみが硬化した厚鋼板の表層を焼戻しに効果的である。すなわち、焼戻しが必要な表層のみは焼戻し温度の650℃まで加熱されるが、板厚中心部の温度上昇は小さいため、熱処理による強度の低下を防ぐことができる。。
【0059】
[実施例2]
表1の実施例2は、厚鋼板の表層下約15mmまでの部分を焼戻し温度である650℃±10℃まで一気に加熱するが、その部分より内部については、表層からの熱伝導による熱だけで緩やかに温度上昇させるパターンである。この場合、第1〜第4のソレノイド型誘導加熱装置6−1〜6−4を使用し、残りのソレノイド型誘導加熱装置6−5、6−6の投入パワーをゼロとした。厚鋼板は、4台のソレノイド型誘導加熱装置6−1〜6−4の中を3.5分かけて通過した。
【0060】
この熱処理パターンにおける厚鋼板の表層と内部の温度履歴を図3(2)に示す。表層は、650℃±10℃まで加熱されているが、板厚中央部は第3のソレノイド型誘導加熱装置の出側では未だ590℃前後で、第4のソレノイド型誘導加熱装置の出側で620℃である。その後、表層、板厚中央部ともに放冷により徐々に温度が降下する。
【0061】
各ソレノイド型誘導加熱装置の間の部分では、誘導加熱により厚鋼板の表層に発生した熱が、熱拡散により板厚中央部に拡散し、表層下約15mmまでの部分までが、焼戻し温度である650℃±10℃まで加熱される。
【0062】
[実施例3]
表1の実施例3は、厚鋼板のほぼ板厚中央部までの部分を焼戻し温度である650℃±10℃まで加熱する熱処理パターンである。この場合、第1〜第6のソレノイド型誘導加熱装置6−1〜6−6を使用した。厚鋼板は、6台のソレノイド型誘導加熱装置6−1〜6−6の中を3.5分かけて通過した。なお、実施例2、3とも周波数は一定とし、後段の誘導加熱装置の投入電力パワーを減少させた。
【0063】
この熱処理パターンにおける厚鋼板の表層と内部の温度履歴を図3(3)に示す。各ソレノイド型誘導加熱装置において、表層の温度が上昇するが、各ソレノイド型誘導加熱装置の間の部分では、誘導加熱により厚鋼板の表層に発生した熱が、熱拡散により板厚中央部に拡散し、次のソレノイド型誘導加熱装置に入る際にはほぼ均熱化している。その結果、第5のソレノイド型誘導加熱装置の出側で表層650℃、板厚中央部640℃となり、全断面が所望の焼戻し温度である650℃±10℃に加熱されている。
【0064】
[実施例4]
表1の実施例4は、実施例3と同じく板厚中央部までの部分を焼戻し温度である650℃まで加熱するパターンであるが、投入電力パワーと共に周波数も減少させた。その結果、図3(3)と同様の温度履歴が得られた。このように、周波数を高周波から低周波へ順次下がるように設定することで、誘導電流の浸透深さが順次深くなり、表層が過加熱されることなく板厚中心部まで均一に加熱することができる。一方、表層のみを加熱したい場合は、前段の周波数の高い誘導加熱装置のみを用いて、誘導電流の深さを浅くする。
【0065】
[実施例5]
板厚が比較的薄い場合の実施例について説明する。図4に示すように、厚鋼板の製造ラインに、装置の長さ(長手方向の寸法)50cmのソレノイド型誘導加熱装置6−1〜6−3を間隔80cmに隔離して3台配置した。それぞれの加熱装置の間および前後にローラ7を配置し、ローラテーブルを構成させ、鋼板2を往復通過させた。この加熱装置の通過可能な鋼板の最大寸法は、板幅4600mm、板厚70mmである。
【0066】
この誘導加熱装置に、熱間圧延を施した板厚20mm、板長10mの厚鋼板を、水冷により30℃まで加速冷却する焼入れ処理を行い、続いて発生した歪みを矯正機で除去して平坦にした。その後、図4に示した3台のソレノイド型誘導加熱装置6−1〜6−3を通して、焼戻し温度である650℃まで加熱する熱処理を施した。この時、ソレノイド型誘導加熱装置6−1〜6−3の周波数を1000Hz、投入パワー(電力投入パワー)を表2に示すようにそれぞれ設定した。
【0067】
【表2】
Figure 0004066652
【0068】
ここで、各パスの誘導加熱装置が1台だけの場合、加熱の能率を上げるためには、1パス当たりの投入パワーを下げて、ゆっくりと搬送する必要がある。それでも、板厚が薄い場合は、表層が過加熱されやすい。そこで、この実施例では、誘導加熱装置を複数台設け、表層の急速加熱と内部への熱拡散を短時間に複数回行う。
【0069】
鋼板の通板速度は、往復ともに0.1 m/sとし、3秒間の停止時間の後、逆方向に搬送した。このようにして、鋼板を1往復半搬送し、同じ誘導加熱装置については3パス通過させたことになる。
【0070】
誘導加熱装置の出力(電力投入パワー)は、加熱の進行に合わせて下がるように予め設定した。これは、鋼板の表層のみを、焼戻し温度である650℃±10℃まで速く加熱する際、上限温度を超えないようにするためである。なお、上限温度としては、例えば、逆変態により焼入れ効果が消失しないようにするには700℃とすればよい。
【0071】
この熱処理パターンにおける厚鋼板Top部の表層と内部の温度履歴を図5に示す。鋼板の表層は、過加熱されることなく、650℃まで効率的に加熱されている。このように、各パスで順次投入パワー(電力投入パワー)を下げることにより、表層の急速加熱と内部への熱拡散を短時間に複数回行い、表層の過加熱を防止しつつ、効率的に内部の温度を上昇させることができる。
【0072】
【発明の効果】
この発明は、鋼材をソレノイド型誘導加熱装置に通過させ、その鋼材の加熱中に表層と内部に所定の温度差を生じさせて加熱することにより、鋼材表層に内部と異なる熱履歴を付与することができる。その結果、板厚全体についての硬度の均一化や鋼材表層のみの軟化等、鋼材板厚方向の硬度調整を行うことができる。
【0073】
また、複数のソレノイド型誘導加熱装置を間隔を離して設置することにより、鋼材の内部への熱伝導を利用して鋼材表層の温度を低下させるので、鋼材の表層温度が一定値を超えないように鋼材全体を加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す図。
【図2】本発明の誘導加熱装置の1例を示す図。
【図3】本発明による厚鋼板の表層と内部の温度履歴を示す図。 (1) 実施例1 (2) 実施例2 (3) 実施例3
【図4】本発明の誘導加熱装置の別の1例を示す図。
【図5】本発明による厚鋼板の表層と内部の温度履歴の別の1例を示す図。
【図6】本発明による厚鋼板の表層と内部の温度履歴の1例を示す図。
【図7】本発明による厚鋼板の表層と内部の温度履歴の別の1例を示す図。
【符号の説明】
1 熱間圧延機
2 鋼材(厚鋼板)
3 水冷装置
4 矯正機
5 誘導加熱装置
6−1〜6−6 ソレノイド型誘導加熱装置
7 ローラ(ローラテーブル)
8 温度計

Claims (9)

  1. 熱間圧延完了後、焼入れまたは加速冷却された鋼材の熱処理方法において、間隔を離して設置した2つ以上のソレノイド型誘導加熱装置に、鋼材を通過させて、個々のソレノイド型誘導加熱装置の周波数を、2つ以上の異なる周波数に設定して間欠加熱する際、鋼材の表層温度が内部の温度より予め定めた所定の温度以上となるように誘導加熱し、鋼材の表層温度が磁気変態点またはAc1変態点を超えないようにすることを特徴とする鋼材の熱処理方法。
  2. 熱間圧延完了後、焼入れまたは加速冷却された鋼材の熱処理方法において、間隔を離して設置した2つ以上のソレノイド型誘導加熱装置に、鋼材を通過させて、個々のソレノイド型誘導加熱装置の周波数を、少なくとも後半の加熱において減少させて間欠加熱する際、鋼材の表層温度が内部の温度より予め定めた所定の温度以上となるように誘導加熱し、鋼材の表層温度が磁気変態点またはAc1変態点を超えないようにすることを特徴とする鋼材の熱処理方法。
  3. 熱間圧延完了後、焼入れまたは加速冷却された鋼材の熱処理方法において、間隔を離して設置した2つ以上のソレノイド型誘導加熱装置に、鋼材を通過させて、個々のソレノイド型誘導加熱装置の投入電力パワーを、少なくとも後半の加熱において減少させて間欠加熱する際、鋼材の表層温度が内部の温度より予め定めた所定の温度以上となるように誘導加熱し、鋼材の表層温度が磁気変態点またはAc1変態点を超えないようにすることを特徴とする鋼材の熱処理方法。
  4. 間隔を離して設置した2つ以上のソレノイド型誘導加熱装置に、鋼材を往復移動させて3回以上通過させ、間欠加熱することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の鋼材の熱処理方法。
  5. 各誘導加熱装置で加熱後、鋼材の表面温度が前の誘導加熱装置で加熱した最高到達温度未満になってから次の誘導加熱装置で加熱することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の鋼材の熱処理方法。
  6. 各誘導加熱装置で加熱後、鋼材の表面温度が厚み方向の平均温度以下になってから次の誘導加熱装置で加熱することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の鋼材の熱処理方法。
  7. 個々の誘導加熱装置での周波数および/または投入電力パワーを調整しつつ、個々の誘導加熱装置の長さを順次長くすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の鋼材の熱処理方法。
  8. 誘導加熱装置で加熱する前に、鋼板を平坦化する工程を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の鋼材の熱処理方法
  9. 請求項1乃至8のいずれか一つに記載の熱処理方法を熱処理工程に含むことを特徴とする鋼材の製造方法。
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