JP4056665B2 - 酸素センサの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は酸素センサの製造方法に関する。更に詳しくは、酸素センサ素子に設けられる検出電極を保護するための保護層が形成された酸素センサの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
酸素センサの検出部位である検出電極は測定対象である対象気体に晒されるため、対象気体中の塵や活性物質等の不純物によって影響を受け、特性の変化が生じる。このため、通常はこの検出電極の表面に保護材を溶射して保護層を形成し、該検出電極を覆うことで、検出電極を上記不純物から保護する。
【0003】
このような保護層は、不純物に対する保護機能を有するとともに、対象気体を検出電極表面にある程度滞留させ、対象気体が電極表面で反応する時間を増やす機能も有する。そのため、電極表面上のガス交換に対する影響が大きく、酸素センサの応答性を決定する一構成要素となる。
このため、従来より保護層の品質を一定に保ち、酸素センサの応答時間のばらつきを抑えるため、単位時間当たりに溶射装置に投入する保護材の量や、溶射装置の出力を調整することが行われていた。この品質の指標となるのは酸素センサの応答性であり、実際に酸素センサの応答性を測定を行い、その測定結果に基づいて前述の調整を行う場合があった。また、応答性に対して最も影響のある保護層の気孔率の測定を行い、その測定結果に基づいて前述の調整を行う場合があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記いずれの方法においても、保護層の状態を測定するには時間がかかるため、測定を頻繁に行うことで、溶射条件の調節を頻繁に行うことができなかった。その結果、測定間隔が長い場合は、溶射条件に変化が生じて不良の保護層が形成される場合があった、この場合、酸素センサの不良が最終チェックの段階で検出されるため、保護層形成工程以降の工程が無駄となってしまう問題が生じた。
更に、上記不良を出さないように頻繁に溶射条件を調整するには、保護層の状態を測定する間、ラインを停止する必要があるため、作業効率が悪いという問題があった。
【0005】
また、特にプラズマ炎を用いる溶射装置の場合は、溶射ノズルの消耗によって溶射条件が刻々と変化するという特性を有するため、上記事情が工程の合理化において問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するものであり、酸素センサ素子の検出電極を保護するための保護層を形成する保護層形成工程において、安定した保護層を形成することができ、酸素センサの応答性を安定したものとすることができる酸素センサの製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本第1発明の酸素センサの製造方法は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に検出電極及び基準電極を設けて酸素センサ素子とする素子形成工程と、保護材を溶射装置によって該検出電極の表面に溶射し、該検出電極の表面に保護層を形成する保護層形成工程と、を備える酸素センサの製造方法において、上記保護層形成工程の前後における酸素センサ素子の重量変化及び溶射時間より溶射装置の単位時間当りの溶射量を求め、該単位時間当りの溶射量が所定の範囲内となるように該溶射装置の出力を設定することを特徴とする。
【0008】
また、第2発明に示すように、上記保護層形成工程は上記溶射時間と、単位時間当りの上記溶射装置に投入する上記保護材の量とを一定値に制御し、且つ、該保護層形成工程の前後における該酸素センサ素子の重量変化を測定し、該重量変化を標準重量変化と比較して、上記溶射装置の出力を設定することができる。
【0009】
上記「酸素イオン伝導性を有する固体電解質体」(以下、固体電解質体という。)」は、各種のセラミックスを選択することができるが、ジルコニアを主成分とするセラミックスが好適である。この固体電解質体は、例えば酸化ジルコニウム等の原料粉末と、酸化イットリウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム等の焼結助剤の粉末とを混合し、造粒した後、所定形状に成形し、必要に応じて仮焼し、その後、焼成することにより酸素センサ素子とすることができる。
【0010】
上記「検出電極」及び上記「基準電極」は、触媒作用を有する元素である貴金属元素、例えば白金、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム等からなるか、これら貴金属元素を主成分とする導電性材料からなる薄膜状の電極として形成される。特に検出電極は、優れた触媒作用を有する白金のみにより、或いは白金を主成分とし、これにロジウム、パラジウム等を1〜30重量%程度配合した導電性材料により形成される。これら電極の形成は、メッキ法、スパッタリング法及び電極金属の塩の熱分解による方法等、任意に選択することができる。
【0011】
上記「保護材」は、上記検出電極及び上記固体電解質体を対象気体中の不純物による被毒や、被水による熱衝撃等から保護するためのものであり、第3発明に示すように任意の無機質耐熱材料を選択することができる。
この「無機質耐熱材料」としては、MgO・Al23等のスピネルや、CaTiO3等のペロブスカイト等の各種セラミックスが好ましいが、特に、スピネルが好適である。
【0012】
上記「溶射装置」は、上記保護材を溶融させた後、上記酸素センサ素子の上記検出電極の表面に吹きつけ、保護層を形成させることができる装置であれば特に問わないが、第4発明に示すようにプラズマ炎を用いた溶射装置が好ましい。
【0013】
上記「標準重量変化」とは、良品の酸素センサにおける上記重量変化の平均値である。例えば、保護膜形成工程における溶射装置の溶射ノズルを新調した際の初期設定の溶射条件において、1000個の酸素センサ素子を溶射し、溶射前後における酸素センサ素子の重量変化をそれぞれ測定する。そして、後述する応答性の評価において良品と判定されたものについて重量変化の平均値を求め、これを標準重量変化とする。
【0014】
「単位時間当りの溶射量が所定の範囲内」とするのは、単位時間当りの溶射量が所定の範囲内から大きくなると気孔率が大きくなるために応答時間が短くなり、単位時間当りの溶射量が所定の範囲内からが小さくなると気孔率が下がるために応答時間が長くなるからである。従って、単位時間当りの溶射量を所定の範囲内にすることで、応答時間を一定に保つことができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
(1)酸素センサ素子の作製
純度99%以上のZrO2に、純度99%のY23を5モル%配合し、湿式混合した後、1300℃の温度で仮焼した。この仮焼物に水を加え、ボールミルにより粉砕した後、水溶性バインダーを添加し、スプレードライ法によって造粒した。
【0016】
その後、ラバープレス法によって、中間部の外周に棚部を備えた有底円筒状の酸素センサ素子本体を成形し、砥石によって研削し、その形状を整えた。次いで、酸素センサ素子本体を約1500℃の温度で3時間焼成した後、この酸素センサ素子本体の外側に、厚さ1〜2μmの白金電極を無電解メッキ法により設け、検出電極とした。その後、酸素センサ素子本体の内側に、厚さ1〜2μmの白金電極を無電解メッキ法により設け、基準電極とした。次いで、大気雰囲気下、1200℃の温度で1時間熱処理し、検出電極の緻密性を向上させ、酸素センサ素子とした。
【0017】
更に、検出電極の外側表面にスピネルの粉末を溶射し、厚さ約100μmの保護層を形成した。この保護層形成工程は図4に示すような溶射装置5を用いて行う。即ち、保護材を形成する酸素センサ素子2を配置した後、プラズマガンである溶射装置5から発せられる10000〜15000℃のプラズマ炎中に、保護材供給口51より保護材を投入する。プラズマ炎中の保護材は、プラズマ炎によって溶融し、酸素センサ2の検出電極22に吹きつけられて、その後、硬化することで、保護層を形成する。
【0018】
(2)酸素センサの構成
上記のようにして得られた酸素センサ1を図1〜3に示す。図1は保護層形成前の酸素センサ素子2の正面図、図2は保護層を形成した酸素センサ1の正面図、図3は酸素センサ1の縦断面図である。また、図2、及び図3に示すように酸素センサ1は、酸素センサ素子2と保護層3を備える。更に、酸素センサ素子2は素子本体21と、検出電極22と、基準電極23とを備える。
この素子本体21はジルコニア製で有底円筒形状の固体電解質体である。また、検出電極22及び基準電極23は、それぞれ素子本体2の底部外周面及び底部内周面に設けられた白金電極である。更に、保護層3は検出電極22を覆うように設けられた多孔質体である。
【0019】
(3)酸素センサの応答時間と単位時間当りの溶射量との関係
酸素センサの応答時間と単位時間当りの溶射量(以下、溶射量とする。)との関係を調べるため、様々な溶射条件によって保護層を形成した酸素センサを用意した。これら酸素センサは、溶射装置の出力を一定とし、単位時間当りに溶射装置に投入する保護材の量を変化させた時に、溶射前後の重量変化が一定となるように溶射時間を調製することで作製した。
【0020】
▲1▼気孔率と応答時間の関係
上記作製した各酸素センサ素子の応答性を、次に示す測定方法を用いて測定した。まず、空気と可燃性ガス(プロパンと水素)とを所定の割合で混合した試験用ガスを約400〜450℃に加熱し、所定の流量で流す。この気流中に測定する酸素センサ素子を配置し、測定ガスをリーンの状態からリッチの状態に段階的に変化させる。その時の酸素センサの出力が、450mVに達するまでの時間を酸素センサの応答時間とした。また、酸素センサの保護層の気孔率は水銀圧入法を用いて測定した。
【0021】
このようにして測定した気孔率と応答時間との関係を表わすグラフを図5に示す。このグラフにより、保護層の気孔率が大きくなるに従い、応答時間が短くなることがわかる。
【0022】
▲2▼気孔率と溶射量の関係
次いで、気孔率と溶射量との関係を求めた(図6参照)。図6に示すように、溶射量が増加するにつれて気孔率が増加することが分かる。このような結果となるのは、溶射量が少ない場合は略溶融した保護材が検出電極に接触し、緻密な保護層を形成するためだと考えられる。また、溶射量が多い場合は保護材が完全に溶融しないまま、団塊状となって検出電極に接触し、粗密なまま硬化するためだと考えられる。
【0023】
▲3▼応答時間と溶射量の関係
更に、応答時間と溶射量の関係を求めた(図7参照)。図7に示すように、溶射量に比例して応答時間が変化することがわかる。このことから溶射量を一定にすることによって、応答時間を一定に保つことができる。
【0024】
(4)溶射量による溶射条件制御の評価
本発明の製造方法である溶射量が一定となるような溶射方法を用いて酸素センサを製造し、実験例1とした。この溶射条件は溶射量を4.0×10-3kg/sとし、溶射装置の出力は23.8〜24.6kWの範囲で変化させた。
また、比較例として従来の製造方法と同様に溶射装置の出力条件を一定とし、重量変化が一定となるように投入する溶射材の量を調製し、溶射装置の出力を24kWに固定して保護層を形成した酸素センサを製造し、実験例2とした(図8参照)。更に、両実験例1、2共、溶射時間を10秒とし、溶射前後の重量変化を250mgとした。
また、消耗させた溶射ノズルを用い、出力条件を変化させて保護層を形成した酸素センサを作製した。更に、これら酸素センサを▲1▼気孔率と応答時間の関係と同様の測定方法を用いて、応答時間を測定した。
【0025】
図8によれば、本発明の方法を用いた酸素センサの応答時間のバラツキは、実験例1に示すように、AVE:799、σ:28であり、762〜835msという狭い幅でバラツキが発生していたが、比較例の酸素センサの応答時間のバラツキは、実験例2に示すように、AVE:802、σ:50であり、バラツキが713〜873msと、実験例1より広い範囲のバラツキとなった。
このことから、本発明の製造方法を用いることによって、より応答時間のバラツキが少ない酸素センサを製造することがわかる。
【0026】
【発明の効果】
本各発明によれば、溶射により酸素センサ素子の保護層を形成する際に、単位時間当りの溶射量を測定して、それが一定になるように溶射条件を調整することで、酸素センサの保護層の応答性を安定させることができ、応答性のばらつきの少ない酸素センサ素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】酸素センサ素子の外観を説明するための模式図である。
【図2】酸素センサの外観をの説明するための模式図である。
【図3】酸素センサの構造を説明するための説明断面図である。
【図4】酸素センサに保護層を形成する工程を説明するための模式図である。
【図5】保護膜の気孔率と応答性との関係を示すグラフである。
【図6】保護膜の気孔率と粉末必要量との関係を示すグラフである。
【図7】保護膜の粉末必要量と応答性との関係を示すグラフである。
【図8】粉末必要量又は溶射条件を一定にして製造した素子の応答性のバラツキの様子を示すグラフである。
【符号の説明】
1;酸素センサ、2;酸素センサ素子、21;素子本体、22;検出電極、23;基準電極、3;保護層、5;溶射装置。

Claims (4)

  1. 酸素イオン伝導性を有する固体電解質体に検出電極及び基準電極を設けて酸素センサ素子とする素子形成工程と、
    保護材を溶射装置によって該検出電極の表面に溶射し、該検出電極の表面に保護層を形成する保護層形成工程と、を備える酸素センサの製造方法において、
    上記保護層形成工程の前後における酸素センサ素子の重量変化及び溶射時間より溶射装置の単位時間当りの溶射量を求め、該単位時間当りの溶射量が所定の範囲内となるように該溶射装置の出力を設定することを特徴とする酸素センサの製造方法。
  2. 上記保護層形成工程は上記溶射時間と、単位時間当りの上記溶射装置に投入する上記保護材の量とを一定値に制御し、
    且つ、該保護層形成工程の前後における該酸素センサ素子の重量変化を測定し、該重量変化を標準重量変化と比較して、上記溶射装置の出力を設定する請求項1記載の酸素センサの製造方法。
  3. 上記保護材は無機質耐熱材料からなる請求項1又は2記載の酸素センサ素子の製造方法。
  4. 上記溶射装置はプラズマ炎を用いた溶射装置である、請求項1、2又は3記載の酸素センサ素子の製造方法。
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