JP3766572B2 - 酸素センサ素子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関やボイラー等の各種燃焼機器において、排ガス中の酸素濃度を検出するために用いられる酸素センサ素子を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば自動車用内燃機関の排気系には、排ガス中の酸素濃度を測定し、この値を元に空燃比制御等を行うための酸素センサが設けられている。そして、前記酸素センサにはジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質体を用いた酸素センサ素子が配設されている。
【0003】
この種の酸素センサ素子では、例えば先端が閉塞し、後端が開口した有底筒状の固体電解質体の表面において、その内面の基準大気に晒される側に基準電極(内側電極)が設けられると共に、その対面の排気ガスに晒される側に測定電極(外側電極)が設けられ、更に、少なくとも測定電極上に、鉛(Pb)やリン(P)等の被毒物質から保護するための多孔質の電極保護層が被覆されてなるものが広く知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような酸素センサ素子にあっては、長時間高温下の排ガスに晒された場合に電極(測定電極)が固体電解質体から剥離してしまうことが懸念されることから、固体電解質体からの電極の剥離の抑制を目的として、そのような酸素センサ素子を製造するための方法が、従来より種々提案されているが、例えば、特公昭63−43706号公報にて開示されているように、前焼結されたジルコニア質からなる有底筒状の固体電解質体の内外側表面上に電極膜を噴霧または刷毛塗りにより施し、そして外側表面に施された電極膜に、多孔性被覆層(電極保護層)の被覆を例えば噴霧またはスリップ中への浸漬により行い、その後固体電解質体を電極と多孔性被覆層とからなる層複合体と共に焼結するようにした方法等が提案されている。
【0005】
ところで、上述した公報技術にあっては、いずれも固体電解質体の表面に形成された電極は、長時間高温下の排ガスに晒された場合にも、固体電解質体から剥離されにくくなるといった効果を奏するものとなる。しかしながら、本発明者等の検討によると、上述した公報技術を含む従来からの酸素センサ素子にあっては、例えば内燃機関の運転の繰り返し等により加熱・冷却サイクル(以下、「冷熱サイクル」という)が頻繁に繰り返されると、電極を被覆している電極保護層にクラックが発生したり、電極保護層と電極との密着性が低下することに起因して、電極保護層が電極から剥離してしまうといったおそれがあることが判明した。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、冷熱サイクルが繰り返された場合に、電極保護層にクラックが発生したり、電極保護層と電極との密着性が低下することに起因して発生する電極保護層の剥離を有効に抑制ないし防止することができる酸素センサ素子を製造するための方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段,発明の効果】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体と、該固体電解質体の表面に設けられた電極と、少なくとも該電極の表面に被覆された多孔質の電極保護層とを有してなる酸素センサ素子を製造する方法であって、前記固体電解質体の表面に未熱処理状態にある電極を被着し、20〜35kWの範囲内にプラズマ電力を保持させた状態でプラズマ溶射を行うことによって、前記電極の表面に前記電極保護層を被覆するのと同時に、該電極を熱処理するようにしたことを特徴とする。
【0008】
従来からの酸素センサ素子を製造する方法では、一般的に固体電解質体の表面に電極を被着した直後に、未熱処理状態にある電極を熱処理して多孔質の電極とする熱処理工程が独立して設けられ、その熱処理工程後に電極の表面に電極保護層を被覆するものであった。しかしながら、このようにして得られた酸素センサ素子にあっては、冷熱サイクルが繰り返されると、電極保護層が電極から剥離してしまうといったおそれがあった。
【0009】
一方、本発明の製造方法では、固体電解質体の表面に電極を被着した直後に、未熱処理状態にある電極の表面にプラズマ溶射を行うことで電極保護層を被覆するものである。尚、ここでいうプラズマ溶射とは、例えばプラズマガンの内部に配設された電極間に所定のプラズマ電力によりアークを発生させ、その後方からアルゴンガス等からなる作動ガスを供給し、高温、高速のプラズマジェットを発生させる。そして、このプラズマジェットのフレームの中に溶射させる耐熱性粉末を投入して溶融させ、この溶融した耐熱性粉末をターゲットに吹き付けることで被膜を形成させるものである。
【0010】
ここで、本発明では、電極保護層を形成するためのプラズマ溶射を行うに当たって、プラズマ電力を20〜35kWに保持させた状態にて行うことが重要となる。つまり、上述した範囲内にプラズマ電力を保持させた状態でプラズマ溶射を行うことにより、溶射させる耐熱性粉末を適度に溶融させることができると共に、この溶融した粉末に適度な熱を蓄積させた形態でターゲットである電極に連続的に衝突させて、付着させることができるのである。それにより、電極保護層を構成するための材料である耐熱性粉末は適度に溶融され、被着直後の未熱処理状態にある電極に対して良好に付着されることになる。更には、溶融した粉末が電極に対して連続的に付着したときに、この溶融した粉末に蓄積された熱が未熱処理状態にある電極に対して連続的に伝導される等の要因から、未熱処理状態にある電極に熱処理を施すことが可能となるのである。
【0011】
即ち、本発明では、プラズマ電力を上述した範囲内に保持させた状態でプラズマ溶射を行うことにより、電極保護層の形成と未熱処理状態にある電極の熱処理とを同時に行うことを可能とするのである。それより、電極と電極保護層との互いを強固に密着させることが可能となる。従って、冷熱サイクルが繰り返された場合に、電極保護層にクラックが発生したり、電極保護層と電極との密着性が低下することに起因して発生する電極保護層の剥離を有効に抑制ないし防止することが可能となることから、従来ならば電極の被着直後に必要であった熱処理工程を省略することができ、酸素センサ素子の製造効率を向上させると共に、酸素センサ素子を安価に提供することができる。
【0012】
また、請求項2に記載のように、平均粒径が20〜50μmの耐熱性粉末を用いて前記プラズマ溶射を行うことにより、前記電極保護層を形成するようにするとよい。
上述したようにプラズマ電力を20〜35kWの範囲内に保持させた状態で、かつ、溶射される耐熱性粉末の平均粒径を20〜50μmの範囲内に調整した上でプラズマ溶射を行うことにより、電極と電極保護層とを互いに強固に密着させることが可能になると共に、15〜40%の範囲内の気孔率を満たす電極保護層を形成することが可能となる。
【0013】
耐熱性粉末の平均粒径が20μm未満である場合には、プラズマ溶射により形成される電極保護層の気孔率が15%未満になり易く、そのために排気ガスが電極保護層を通過しにくくなるためにその排気ガスが電極に達することが困難となり、酸素センサ素子の応答速度や出力に悪影響を及ぼすおそれがある。一方、平均粒径が50μmを越える場合には、電極保護層の気孔率が40%を越え易く、そのために電極保護層が過度に多孔質化してしまって、排気ガスの流量を抑制することができなくなるおそれがあり、更には、PbやP等の被毒物質が電極保護層を素通りし、電極に付着してしまうおそれがある。
【0014】
更に、請求項3に記載のように、請求項1または請求項2に記載の酸素センサの製造方法において、前記固体電解質体の表面において、少なくとも前記電極が被着される表面が凹凸形状に形成されているとよい。
少なくとも電極が被着される固体電解質体の表面が、凹凸形状に形成された上で電極が被着されると、この電極は、固体電解質体の表面に形成された凹凸形状に対応して凹凸形状に有する形態で被着されることになる。そして、その電極の表面に上述したプラズマ溶射を行うと、電極の表面を被覆する電極保護層は、電極の凹凸形状により付着面積が増大した形態で電極に付着される(即ち、電極を被覆する)ことになる。それにより、電極保護層を電極に対してより一層強固に付着させることができ、その結果、冷熱サイクルが繰り返された場合における電極保護層の剥離をより有効に抑制ないし防止することができる。
【0015】
更に、請求項4に記載のように、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸素センサ素子の製造方法において、前記電極の表面を前記電極保護層により被覆した後に、前記電極及び前記電極保護層を別途熱処理した場合にも、電極保護層が電極から剥離することを有効に抑制ないし防止することに効果的であることが、後述する試験結果から確認されている。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明を適用することにより形成される酸素センサ素子Sの概略構成を示す縦断面図である。この酸素センサ素子Sは、先端が閉塞し、後端が開口した有底筒状の固体電解質体6と、固体電解質体6の内側表面に設けられた多孔質の基準電極(内側電極)12と、固体電解質体6の外側表面に設けられた多孔質の測定電極(外側電極)14と、少なくとも測定電極14の表面を被覆した多孔質の電極保護層16と、から構成されている。
【0017】
この酸素センサ素子Sは、図示しないケース内に配設され、所定の電力取り出しのための各種の配線(リード線)等が施された上で、基準電極12が設けられた固体電解質体6の内側を大気(即ち、空気)に晒し、測定電極14が形成された固体電解質体6の外側(即ち、電極保護層16側)を排ガス中(例えば、自動車の排気ガス)に晒すようにして配置されるものである。そして、酸素センサ素子Sをこのように配置させることで、固体電解質体6の内側の大気中の酸素がイオン化し、更に、大気の方が排ガスよりも酸素濃度が高いことから、大気と排ガスとの間に生じる酸素濃度差に従って酸素イオンが固体電解質体中を排ガス側に拡散し、これに伴って起電力が発生する。この起電力を検出信号として外部に取り出せば、例えば、自動車エンジンの空燃比の微調整に利用することが可能となる。
【0018】
次に、本実施形態の酸素センサ素子Sの製造に当たっての工程を、以下に示す第1〜第3工程に分けて説明する。尚、第1〜第3工程は順に実施されるものである。
[第1工程]
第1工程は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体を形成する工程であり、順に実施する1−a〜1−eの計5つの小工程に分かれている。
【0019】
(1−a)
90〜96mol%のZrO2の原料に4〜10mol%安定化剤を添加した上で、湿式にて、例えば粒径10μm以下の粒子となるように70時間、粉砕混合し、この粒子を乾燥して粉体を得る。尚、前記安定剤としては、イットリア(Y2O3)が代表的なものであるが、Y2O3の他に、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)等の2〜3価の金属酸化物が挙げられる。また、ベースとなるZrO2は酸化ハフニウム(HfO2)が含有されていてもよい。
【0020】
(1−b)
1−aにて得られた粉体を、電気炉にて、例えば1300℃にて1時間仮焼成して、ZrO2に対して安定化剤を固有させた仮焼成粉体を得る。
(1−c)
1−bにて得られた仮焼成粉体を、湿式にて、例えば粒子の80%が2.5μm以下となるように50時間、ボールミル粉砕して、微粉砕粒子を得る。更に、この微粉砕粒子に有機バインダを加えてスラリーとし、このスラリーをスプレードライヤーにかけて平均粒径70μm程度の造粒粒子を得る。
【0021】
(1−d)
1−cにて得られた造粒粒子の水分が1%になるように調製し、例えば、ラバープレス法等の加圧成形法によって、一方が閉じた有底筒状の成形体を得る。
(1−e)
1−dにて得られた成形体を、例えば1600℃の酸化性雰囲気下にて1時間焼成することにより、酸素イオン伝導性を有する有底筒状の固体電解質体を形成する。
【0022】
[第2工程]
第2工程は、固体電解質体上に電極を被着する工程である。第1工程にて得られた固体電解質体の内外側表面を洗浄した後、その内外側表面にそれぞれ電極(大気電極及び測定電極)を構成する材料としての貴金属成分を、例えば無電解メッキ法により被着させる。尚、貴金属成分としては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、金(Au)及びこれらの合金が挙げられる。また、貴金属成分を固体電解質体の表面に被着する手法としては、前記無電解メッキ法の他に、電解メッキ法、真空蒸着法、化学蒸着法、或いは、分解する金属の塩を塗布した後、加熱して金属を分解付着させる方法が挙げられる。
【0023】
[第3工程]
第3工程は、固体電解質体の表面に被着された少なくとも測定電極(未熱処理状態の測定電極)の表面を多孔質の電極保護層にて被覆するのと同時に、未熱処理状態にある電極を熱処理する工程である。尚、電極保護層にて測定電極を被覆する手段並びに熱処理する手段として、本実施形態では、電極保護層を構成する材料である耐熱性粉末をプラズマ溶射することにより行う。
【0024】
ここで、プラズマ溶射は、図2に示すように、プラズマガン8を用いて行うことができる。プラズマガン8は、陰極である中心電極と陽極からなるノズルとの間に高電圧を印加し、この電極間に20〜35kWのプラズマ電力を保持させた状態でアークを発生させ、その後方からアルゴンガス等からなる作動ガスを供給し、プラズマ状態とする。プラズマ状態となったガスは、著しい温度上昇により体積膨張を起こし、ノズル出口18から高温・高速のプラズマジェットとなって噴出する。
【0025】
そして、耐熱性粉末供給装置2から一定流量のガスで供給される耐熱性粉末を、ノズル出口18におけるプラズマジェットに対して投入し、この耐熱性粉末を溶融・加速させ、ターゲットである固体電解質体6に設けられた測定電極14の表面等に連続的に衝突させる。このとき、固体電解質体6は回転可能な治具4に取り付けられ、この治具4を回転させながら、プラズマガン8を上下方向に移動させて、溶融した耐熱性粉末を測定電極14の表面を覆うように衝突させ、付着させる。
【0026】
そして、このようにして耐熱性粉末をプラズマ溶射することによって、耐熱性粉末は適度に溶融され、電極に対して強固に付着することになる。更には、溶融した耐熱性粉末が電極に対して連続的に付着したときに、この溶融した粉末に蓄積された熱が未熱処理状態にある電極に連続的に伝導される等の要因から、被着直後の未熱処理状態にある電極に熱処理を施すことが可能となる。
【0027】
ここで、電極保護層を構成する材料である耐熱性粉末としては、MgO・Al2O3スピネルが代表的なものであるが、MgO・Al2O3スピネルの他に、アルミナ(Al2O3)、ZrO2、CaO、ムライト等の群より選ばれる1種類以上からなる粉末が挙げられる。また、プラズマ電力を上述したような範囲内に保持させると共に、溶射される耐熱性粉末の平均粒径を20〜50μmの範囲内に調整することによって、プラズマ溶射により形成される電極保護層は、15〜40%の範囲内の気孔率を満たす電極保護層として形成させることが可能となる。尚、ここでいう気孔率とは電極保護層の緻密さの度合いを示すものである。
【0028】
また、プラズマ溶射により形成される電極保護層の厚み(測定電極の表面に対して直交する向きの距離)は、50〜500μmであることが望ましい。電極保護層の厚みが50μm未満である場合には、測定電極を被毒物質から保護する電極保護層の効果が十分に得られないおそれがある。一方、500μmより厚い場合には、電極保護層が厚すぎるため、排気ガスが電極保護層を通過するのに要する時間が長くなり、酸素センサ素子の応答速度や出力に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0029】
以上に説明したように、第1〜第3工程を実施して、更に固体電解質体の内側表面に被着された大気電極に適宜熱処理を施すことにより、固体電解質体6と、大気電極12及び測定電極14と、電極保護層16とを備えた酸素センサ素子Sを形成することができる(図1参照)。とりわけ、本発明では、20〜35kWの範囲内にプラズマ電力を保持させた状態でプラズマ溶射を行うことによって、電極保護層の形成と未熱処理状態にある電極の熱処理とを同時に行う(上述した第3工程に相当)ようにしたことが注目すべき点である。それにより、電極保護層と電極(測定電極)とを互いに強固に密着させることが可能となり、冷熱サイクルが繰り返された場合に、電極保護層にクラックが発生したり、電極保護層と電極との密着性が低下することに起因して発生する電極保護層の剥離を有効に抑制ないし防止することができる酸素センサ素子を製造することが可能となるのである。
【0030】
以上、本発明について一実施形態を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
例えば、上述した第1〜第3工程を経た後に、以下に説明する第4工程を実施して酸素センサ素子を形成してもよい。
【0031】
[第4工程]
第4工程は、上述した第3工程にて得られた電極保護層及び測定電極を別途熱処理する工程である。ここでは、電極保護層で被覆された状態の固体電解質体を、例えば800℃〜1200℃の酸化性雰囲気中に1時間晒すことにより、電極保護層及び測定電極を熱処理する。
【0032】
また、上述した第1工程において、1−eの小工程を、以下に説明する1−e′として実施することにより、固体電解質体の表面に凹凸形状を形成してもよい。
[第1工程]
(1−e′)
上述した1−a〜1−bの小工程にて得られた仮焼結粉体を、湿式にて、例えば、粒子の80%が2.5μm以下となるように50時間、ボールミル粉砕して微粉砕粒子を得る。更に、この微粉砕粒子に有機バインダを加えてスラリーとし、このスラリーをスプレードライヤーにかけて平均粒径60〜70μm程度の造粒粒子を得る。そして、この造粒粒子に有機バインダを水に解いて調製した有機バインダ液を加えることにより、流動性混合物を調製する。次いで、この流動性混合物1−dにて得られた有底筒状の成形体の外側表面(少なくとも第2工程にて電極が被着される外側表面)に100μm程度の厚さに塗布した上で、この成形体を、例えば1600℃の酸化性雰囲気下にて1時間焼成することにより、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体を得る。
【0033】
このようにして得られる固体電解質体では、その表面に凹凸形状が形成されることになり、上述した第2工程にて電極を被着すると、その電極は、固体電解質体の表面に形成された凹凸形状に対応して凹凸形状を有する形態で被着される。そして第3工程に移行して、その電極の表面にプラズマ溶射を行うと、電極保護層は電極の凹凸形状ににより付着面積が増大した形態で電極に付着される(即ち、電極を被覆する)ことになる。それにより、電極保護層を電極に対してより一層強固に付着させることが可能となる。
【0034】
【実施例】
本発明の効果を確認するために、以下の実験を行った。
まず、純度99.0%以上のZrO2の原料96mol%に対して、純度99.9%のY2O3を4mol%添加し、湿式にて粒径10μm以下の粒子となるように粉砕混合し、この粒子を乾燥して粉体を得る。そして、得られた粉体を電気炉にて1300℃、1時間仮焼成し、得られた仮焼成粉末を湿式にて粒子の80%が2.5μm以下となるようにボールミル粉砕して微粉砕粒子とする。次いで、得られた微粉砕粒子に有機バインダを加えてスラリーとし、このスラリーをスプレードライヤーにかけて平均粒径70μm程度の造粒粒子を調製し、得られた造粒粒子の水分が1%以下になるように調製した上で、ラバープレス法により一方が閉じた有底筒状の成形体を形成した。そして、この成形体を所望の形状に切削加工した後、1600℃の酸化性雰囲気下にて1時間焼成して、酸素イオン伝導性を有する複数の固体電解質体を得た。
【0035】
尚、複数得られる固体電解質体の内、いくつかのものは、上記仮焼成粉体を別途スプレードライヤーにかけて平均粒径60〜70μm程度の造粒粒子に調製し、この造粒粒子に有機バインダを水に解いて調製した有機バインダ液を加えて、流動性混合物を調製し、この流動性混合物を成形体の外側表面(少なくとも電極が被着される外側表面)に100μm程度の厚さに塗布した上で、この成形体を1600℃の酸化性雰囲気下にて1時間焼成することにより、表面に凹凸形状を有する固体電解質体として形成したものとする。
【0036】
そして、得られた固体電解質体の外側表面に、貴金属成分であるPtを無電解メッキ法により被着する。次いで、表1に示すプラズマ電力を保持した状態で、同じく表1に示す平均粒径を有するMgO・Al2O3スピネルを用いてプラズマ溶射を行うことにより、厚さ200μmの電極保護層にて少なくともPt電極(未熱処理状態にあるPt電極)の表面を被覆すると共に、このPt電極を熱処理し、図1に示すような酸素センサ素子をそれぞれ製造した(本実施例における酸素センサ素子の製造を説明するに当たり、固体電解質体の内側表面に形成される電極(大気電極)についての説明は割愛した)。
【0037】
尚、得られた複数の酸素センサ素子の内、いくつかのものには、電極保護層を形成した後に、この電極保護層と電極とを800℃または1200℃の温度域にて別途熱処理を行った。
そして、このようにして得られたそれぞれの酸素センサ素子について、以下に示す方法により、酸素センサ素子の冷熱サイクル試験、並びに電極保護層の気孔率の分析を行った。尚、その結果を表1に示した。また、本試験を評価する上で、前記固体電解質体の表面にPt電極を無電解メッキ法にて被着した直後に、そのPt電極を熱処理し、その熱処理工程後にPt電極の表面にMgO・Al2O3スピネルからなる厚さ200μmの電極保護層を被覆するようにした従来からの製造方法にて得られた酸素センサ素子についても、比較例として評価を行った。
【0038】
▲1▼冷熱サイクル試験:得られた酸素センサ素子のそれぞれを、50℃から1100℃まで加熱し、再度50℃まで冷却するのを1サイクル(1サイクルに要する時間は90秒)として、このサイクルを繰り返し行い、電極保護層が測定電極から何サイクルで剥離するかを評価した。
【0039】
▲2▼気孔率:電極保護層の一部分を研磨して断面をとり、この断面を画像解析にて測定することにより算出した。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果より、20〜35kWの範囲内にプラズマ電力を保持させた状態でプラズマ溶射を行うことによって、電極保護層の形成と電極(Pt電極)の熱処理とを同時に行った実施例2〜8の酸素センサ素子については、いずれも比較例と比較して、著しく電極保護層の剥離が生じにくいことが判明した。とりわけ、固体電解質体の表面に凹凸形状を形成したもの、または/及び、電極保護層を形成した後に、電極保護層と電極とに熱処理を施したものについては、より電極保護層の剥離が生じにくいことが判明した。
【0042】
一方、プラズマ電力を15kWに保持させた状態でプラズマ溶射を行った実施例1にあっては、冷熱サイクル試験の結果が、比較例と変わらなかった。この理由としては、プラズマ電力が低いことから、MgO・Al2O3スピネルが良好に溶融せず、それよりPt電極への付着力が低下したものと考えられる。他方、プラズマ電力を40kWに保持させた状態でプラズマ溶射を行った実施例9にあっては、プラズマ溶射後に電極が電極保護層ごと固体電解質体から剥離してしまっていた。そのため、酸素センサ素子としての機能をなさないことから、冷熱サイクル試験を実施しなかった。このような剥離が生じる理由としては、MgO・Al2O3スピネルの溶融度合が大きいことから、電極への付着は良好になされるものの、逆に付着される電極保護層にひずみやダレ等の不具合が発生し易いために、そのひずみ等の応力が電極にかかって、電極が固体電解質体から剥離するものと考えられる。
【0043】
また、20〜35kWの範囲内にプラズマ電力を保持させた状態で、かつ、溶射されるMgO・Al2O3スピネルの平均粒径を20〜50μmの範囲内に調整した上でプラズマ溶射を行った実施例2〜8の酸素センサ素子にあっては、電極保護層の気孔率が15〜40%の範囲内を満たすことが本実施例により判明した。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本実施例の製造方法が適用されることにより形成される酸素センサ素子の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】 プラズマ溶射による電極保護層の形成方法を示す説明図である。
【符号の説明】
S…酸素センサ素子、2…耐熱性粉末供給装置、4…治具、6…固体電解質体、8…プラズマガン、12…大気電極、14…測定電極、16…電極保護層、18…ノズル出口。
Claims (4)
- 酸素イオン伝導性を有する固体電解質体と、該固体電解質体の表面に設けられた電極と、少なくとも該電極の表面に被覆された多孔質の電極保護層とを有してなる酸素センサ素子を製造する方法であって、
前記固体電解質体の表面に未熱処理状態にある電極を被着し、20〜35kWの範囲内にプラズマ電力を保持させた状態でプラズマ溶射を行うことによって、前記電極の表面に前記電極保護層を被覆するのと同時に、該電極を熱処理するようにしたことを特徴とする酸素センサ素子の製造方法。 - 請求項1に記載の酸素センサ素子の製造方法において、
平均粒径が20〜50μmの耐熱性粉末を用いて前記プラズマ溶射を行うことで、前記電極保護層を形成することを特徴とする酸素センサ素子の製造方法。 - 請求項1または請求項2に記載の酸素センサ素子の製造方法において、
前記固体電解質体の表面において、少なくとも前記電極が被着される表面が凹凸形状に形成されていることを特徴とする酸素センサ素子の製造方法。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸素センサ素子の製造方法において、
前記電極を電極保護層にて被覆した後に、前記電極及び前記電極保護層を別途熱処理するようにしたことを特徴とする酸素センサ素子の製造方法。
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JP27428599A JP3766572B2 (ja) | 1999-09-28 | 1999-09-28 | 酸素センサ素子の製造方法 |
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