JP4053810B2 - 異常分散性を有する光学ガラス - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、屈折率(nd)が1.48〜1.55未満、アッベ数(νd)が45〜55の範囲の光学定数を有し、異常分散性を示すΔθg,Fの値が+0.0010以上であり、正の異常分散性を有し、特にリヒートプレス成形に適した光学ガラスに関する。
【0002】
【従来の技術】
光学機器のレンズ系は、通常、異なる光学的性質を持つ複数のガラスレンズを組み合わせて設計されており、正または負の異常分散性ガラスを使用したレンズは、二次スペクトルを補正するために使用され、正の異常分散性をもつ低屈折率ガラスは、生産量は必ずしも多くはないが、多様化する光学機器のレンズ系の設計の自由度を広げることができるため技術的に重要である。
【0003】
大量に生産されない光学ガラスからレンズ等の光学素子を製造する方法としては、経済的に多品種少量生産に適していることから、板状もしくはブロック状に成形した常温の光学ガラスを切断または割断し、研磨し、所定重量に調整したガラス塊を再加熱して軟化させて保温してプレス成形(リヒートプレス成形)し、所望の光学素子に近似した形状のプレス成形品を得、プレス成形品を研磨して所望形状とし、研磨面にコーティングを施して光学素子とする方法が一般的である。
【0004】
上記リヒートプレス成形に適したガラス粘度に相当するガラスの温度は、ガラスの転移温度(Tg)より200℃〜300℃高い温度域であり、リヒートプレス成形は上記温度域の範囲内に保温したガラスを、ガラスとの焼き付きを防止するためガラスよりも低い温度に保温されているプレス成形型内に入れプレス成形して行われるが、プレス成形の際、高温のガラスとプレス成形型とが接触することプレス成形型の損耗を少なくするためにはガラスの温度は低い方が好ましいため、リヒートプレス成形は、ガラスをその転移温度(Tg)より200℃〜250℃の間に保温して行うことがより好ましい。転移温度(Tg)より200℃〜300℃高い温度域で30分間ガラスを保温して、ガラスに失透や、分相による乳白が生じなければガラスをリヒートプレス成形することができ、上述した理由から転移温度(Tg)より200℃〜250℃高い温度域で30分間ガラスを保温して、ガラスに失透や、分相による乳白が生じなければ、プレス成形型の損耗を少なくしてガラスをリヒートプレス成形することができる。
【0005】
ところが、失透や、乳白を生じやすいガラスの場合、ガラスを再加熱し、転移温度(Tg)より200℃〜300℃高い温度域で30分間ガラスを保温すると、失透や、分相による乳白が発生する。このような失透や、乳白が発生するガラスを、上記温度域で保温することなくさらに昇温させて、保温温度をより高くすればするほど、失透や、乳白は生じにくくなるが、Tg+250℃より高い温度で保温してリヒートプレス成形すると、上述した理由からプレス成形型が損耗しやすく、成形型の寿命が短くなるため好ましくない。また、Tg+300℃より高い温度で保温するとガラスの粘度が低くなり、ガラスをリヒートプレス成形することが困難になる。
【0006】
ところで、光学ガラスの成分のうち、PbOおよびAs23は、環境に悪影響を及ぼす物質として問題になってきており、これらのガラスを製造および加工する際に出るガラス屑やスラッジ等の廃棄物が環境を汚染するという問題があるため、廃棄物を処理する際に環境対策上の特別な配慮を講じる必要があり、ヨーロッパにおいては、PbOを含有する光学ガラスの使用を禁止する予定であることから、これらの成分を含まない光学ガラスが求められている。しかし、特にPbOは、ガラスの光学的および化学的性質に与える影響が大きいため、従来のPbOを含有するガラスと同等の光学的および化学的性質を有し、かつ、PbOを含有しない光学ガラスを開発することは、多大な困難を伴う。
【0007】
屈折率(nd)が1.48〜1.55未満、アッベ数(νd)が45〜55の範囲の光学定数を有する様々な組成のガラスが、非常に広い組成範囲を特許請求範囲とするドイツ特許第973350号公報の中に複数開示されている。それら様々な組成のガラスの中にSiO2−B23−Al23−K2O−PbO−As23−TiO2−F系のガラスがあるが、このガラスはPbOおよびAs23を含有しているため、上述した環境汚染の問題があることに加えて、ガラスを再加熱してその転移温度(Tg)より200〜250℃高い温度域で保温すると分相によりガラスが乳白化するという欠点がある。
【0008】
また、上記公報には、上記範囲の光学定数を有し、PbOを含有しないガラスも複数開示されているが、それらのガラスのほとんどは、環境汚染物質であるAs23を含有(0.3%〜5.0重量%)しており、さらに下記(1)〜(5)の諸欠点のうち少なくとも一つを有する。(1)ガラスを再加熱してその転移温度(Tg)より200〜250℃高い温度域で保温すると分相によりガラスが乳白化しやすい。(2)化学的耐久性が劣る。(3)可視光線波長域の短波長側における光線透過率が悪い。(4)溶融性が悪く、高温での溶融を必要とするため、弗素が揮発して均質かつ所望の光学的性質を有するガラスを得がたい。(5)Sb23を多く(3.0〜15.0重量%)含有しているため、溶融ガラス中のSb金属および/またはSbイオンと溶解装置の白金とが合金化しやすい。
【0009】
また、上記公報には、さらに上記範囲の光学定数を有し、PbOおよびAs23を含有しない組成ガラスも数例開示されているが、これらのガラスは、すべて、非常に大量のSb23(20.0〜30.0重量%)を含有しているため、上述した合金化がさらに起こり易い。高品質な光学ガラスを連続的に製造するため、現在、ほとんどの光学ガラスは、少なくとも溶融ガラスと接触する部分が白金で形成された溶解装置を使用して製造されているが、Sb金属および/またはSbイオンと白金とが合金化した場合、合金化した部分の耐熱性は非常に悪くなるため、穴が開いて溶融ガラスが流出する事故が起こり危険である。その場合直ちに溶融を中止して溶融中のガラスを廃棄しなければならないうえ、溶解装置を解体して、開口部を補修しなければならないため、長期間にわたり操業不能となる。さらに、白金は高価であるから廃棄せずに合金化した白金を再精製することとなり、合金化事故による危険性および経済的損失は非常に大きい。
【0010】
また、特開平6−92675号公報には、屈折率(nd)が1.48〜1.55未満、アッベ数(νd)が45〜55の範囲の光学定数を有し、PbOおよびAs23を含有せず、弗素を含有する光学ガラスの具体的な組成が複数開示されているが、これらのガラスも、上記(1)および(2)の欠点のうち少なくとも一つを有している。
【0011】
また、特開平8−290936号公報には、屈折率(nd)が1.48〜1.55未満、アッベ数(νd)が45〜55の範囲の光学定数を有し、PbOおよびAs23を含有しない光学ガラスの具体的な組成が複数開示されているが、これらのガラスは、正の異常分散性を有していない、または、ガラスが着色するという問題がある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記、従来技術の有する諸欠点を総合的に解決し、環境汚染物質であるPbOおよびAs23を含有せず、屈折率(nd)が1.48〜1.55未満、アッベ数(νd)が45〜55の範囲の光学定数を有し、ガラスを再加熱して、その転移温度(Tg)よりも200〜300℃高い温度域で保温しても乳白せず、特にその転移温度(Tg)よりも200〜250℃高い温度域で保温しても乳白せず、耐失透性、化学的耐久性および光線透過性が優れ、かつ、ガラス溶融中に白金が合金化することなく、安全に生産することのできる正の異常分散性を示す光学ガラスを提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、鋭意試験研究を重ねた結果、従来、具体的に開示されていないSiO2−B23−TiO2−Nb25−Al23−WO3−K2O−弗素系組成のガラスにおいて、前記目的を達成するガラスが得られることを見出し本発明をなすに至った。
【0014】
すなわち、前記目的を達成するための請求項1に記載の本発明の正の異常分散性を有する光学ガラスは、質量%で、SiO2 40〜60%、B23 3〜9%、TiO2 3〜15%、Nb25 0.1〜5.0%、Al23 3〜15%、WO3 0.5〜5.0%、MgO 0〜3%、CaO 0〜3%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、K2O 10%を超え21%まで、Na2O 0〜10%、Sb23 0〜1%および上記各金属元素の一種またはニ種以上の酸化物の一部または全部と置換した弗化物のFとしての合計量3〜10%を含有し、不純物としての不可避的な混入を除きPbOおよびAs23を含有せず、屈折率(nd)が1.48〜1.55未満、アッベ数(νd)が45〜55の範囲の光学定数を有し、異常分散性を示すΔθg,Fの値が+0.0010以上であることを特徴とする。
【0015】
ここで、異常分散性を示すΔθg,Fの値は、以下の方法により算出したものである。すなわち、下記の式1により、部分分散比(θg,F)をもとめ、縦軸に部分分散比(θg,F)、横軸にアッベ数(νd)をとり、異常分散性を示さない正常な光学ガラスのうち、下記の表1に示す部分分散比(θg,F)およびアッベ数(νd)を有する2種類の光学ガラス、NSL7およびPBM2(共にオハラ商品名)を基準分散ガラスとして選び、これら2種類の光学ガラスの座標(θg,F、νd)を直線で結び、この直線と、比較するガラスのθg,Fおよびνdを示す座標との縦座標の差(Δθg,F)を部分分散比の偏り、すなわち異常分散性を示す値とした。このようにして算出したΔθg,Fの値がプラスの場合、すなわち、ガラスの座標(Δθg,F、νd)が上記直線より上方に位置している場合、そのガラスは正の異常分散性を有している。
【0016】
θg,F=(ng−nF)/(nF−nc) −式1
(ngは、光源が水銀で波長が435.835nmのスペクトル線に対するガラスの屈折率、nFは、光源が水素で波長が486.13nmのスペクトル線に対するガラスの屈折率、ncは、光源が水素で波長が656.27nmのスペクトル線に対するガラスの屈折率を意味し、(nF−nc)を主分散と称す。)
【0017】
【表1】
Figure 0004053810
【0018】
また、前記目的を達成するための請求項2に記載の本発明の正の異常分散性を有する光学ガラスは、質量%で、SiO2 40〜60%、B23 3〜9%、TiO2 3〜15%、Nb25 0.1〜5.0%、Al23 3〜15%、WO3 0.5〜5.0%、ただし、TiO2+WO3 4〜20%、MgO 0〜3%、CaO 0〜3%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、K2O 10%を超え21%まで、Na2O 0〜10%、ただし、K2O+Na2O 25%未満、Sb23 0〜1%および上記各金属元素の一種またはニ種以上の酸化物の一部または全部と置換した弗化物のFとしての合計量3〜10%を含有し、不純物としての不可避的な混入を除きPbOおよびAs23を含有せず、屈折率(nd)が1.48〜1.55未満、アッベ数(νd)が45〜55の範囲の光学定数を有し、異常分散性を示すΔθg,Fの値が+0.0010以上であることを特徴とする。
ここで、異常分散性を示すΔθg,Fの値は、前記段落番号0015〜0017に記載した方法により算出したものである。
【0019】
また、前記目的を達成するための請求項3に記載の本発明の正の異常分散性を有する光学ガラスは、請求項1または2に記載の正の異常分散性を有する光学ガラスにおいて、ガラスの転移温度(Tg)よりも200〜300℃高い温度域で30分間保温して、ガラスが乳白および失透しないことを特徴とする。本発明の構成による作用は、リヒートプレス成形に適したガラス粘度に相当する温度域であるガラスの転移温度(Tg)より200℃〜300℃高い温度域で30分間保温して、ガラスが乳白および失透しないため、光学ガラスから、多品種少量生産に適したリヒートプレス成形によりプレス成形品を成形できるという効果を奏する。
【0020】
また、前記目的を達成するための請求項4に記載の本発明の正の異常分散性を有する光学ガラスは、請求項1または2に記載の正の異常分散性を有する光学ガラスにおいて、ガラスを再加熱し、ガラスの転移温度(Tg)よりも200〜250℃高い温度域において30分間保温して、ガラスが乳白および失透しないことを特徴とする。本発明の構成による作用は、プレス成形型に与える高温によるダメージが少なくかつリヒートプレス成形に適したガラスの転移温度(Tg)より200℃〜250℃高い温度域で30分間保温して、ガラスが乳白および失透しないため、リヒートプレスに使用するプレス成形型の損耗を抑制する効果を奏する。
【0021】
また、前記目的を達成するための請求項5に記載の本発明の正の異常分散性を有する光学ガラスは、請求項1、2、3または4に記載の正の異常分散性を有する光学ガラスにおいて、日本光学硝子工業会規格JOGIS06-1999「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)」により測定するガラスの耐水性が級1であることを特徴とする。本発明の構成による作用は、ガラスの耐水性が優れているため、プレス成形品を研磨する工程中から研磨面にコーティングを施す前までの間に特に発生しやすいガラス研磨面の白ヤケが生じにくいという効果を奏する。
【0022】
また、前記目的を達成するための請求項6に記載の本発明の正の異常分散性を有する光学ガラスは、請求項1、2、3、4または5に記載の正の異常分散性を有する光学ガラスにおいて、厚さ10±0.1mmのガラスを、反射損失を含む分光透過率80%で透過する光線の波長が390nm以下であることを特徴とする。本発明の構成による作用は、可視光線波長域の短波長側における光線透過率が優れていることから、ガラスをレンズ等の光学素子として使用する上で望ましくない透過光量低下を回避できるという効果を奏する。
【0023】
【発明の実施の形態】
前記のとおり、ガラスの各成分の組成範囲を限定した理由は以下のとおりである。
SiO2は、本発明において、ガラス形成酸化物として欠くことができない成分であるが、40%未満では、安定なガラスが得られにくく、化学的耐久性も不充分になる。また、その量が60%を超えると、本発明が目的とする前記光学定数を有するガラスを得ることが困難になり、ガラスの溶融性も悪くなる。
【0024】
23は、ガラスの溶融性および耐失透性を改善する効果があるため、本発明のガラスにおいて必須の成分であるが、 3%未満ではこれらの効果を充分に得ることができず、その量が9%を超えると、ガラスを再加熱して、その転移温度(Tg)よりも200〜250℃高い温度域で保温した際に、ガラスが非常に乳白化しやすくなり、また、ガラスの化学的耐久性および光線透過性も悪くなる。
【0025】
TiO2は、屈折率を高め、分散大きくする(アッベ数を小さくする)成分であり、光学定数を本発明が目的とする前記範囲内に調整する効果があり、さらに、本発明において、後述するWO3 成分と共存させることにより、ガラスを再加熱して、その転移温度(Tg)よりも200〜250℃高い温度域で保温した際に発生するガラスの乳白化を防止する効果を見出した重要な成分であるが、3%未満では上記効果が充分に得られず、その量が15%を超えると、本発明が目的とする光学定数が得られず、光線透過性の悪化が顕著になる。
【0026】
Nb25 は、光学定数を本発明が目的とする前記範囲内に維持する効果があり、かつ、ガラスの溶融性および耐失透性を向上させる効果があるので、本発明において必須の成分であり、0.1%未満では上記効果が充分に得られず、その量が5.0%を超えると、本発明が目的とする前記範囲の光学定数が得られない。
【0027】
Al23 は、ガラスの化学的耐久性を向上させる効果があり、3%未満ではその効果が充分に得られず、その量が15%を超えると、ガラスの失透性が増大する傾向がある。
【0028】
WO3は、上述したNb25 と同様の効果を有するうえに、本発明において、TiO2成分と共存させることにより、ガラスを再加熱して、その転移温度(Tg)よりも200〜250℃高い温度域で保温した際に発生するガラスの乳白化を防ぐ効果が大きいことを見出した重要な成分であり、0.5%未満では上記効果が充分でなく、その量が5.0%を超えると、失透が発生する等、かえってガラスが不安定になる傾向がある。
【0029】
また、WO3およびTiO2成分の合計量を4%以上にすると、特にガラスの乳白化を防ぐ効果が顕著になるため、これら両成分の合計量を4〜20%の範囲とすることがより好ましい。
【0030】
MgO、CaO 、SrO、BaOおよびNa2Oは、光学定数の調整およびガラスの溶融性の向上を目的として、必要に応じて任意に添加し得るが これらの成分の量が、それぞれ3%、3%、3%、3%および10%を超えると、ガラスの化学的耐久性が低下する。
【0031】
2Oは、ガラスの溶融性を改善し、かつ、本発明が目的とする前記範囲内の光学定数を有するガラスを得るために必須な成分であるが、10%以下ではガラスの溶融性が悪く、その量が21%を超えるとガラスの化学的耐久性が著しく低下する。
【0032】
また、特に化学的耐久性が優れたガラスを得るためには、Na2OおよびK2O両成分の合計量を25%未満とすることがより好ましい。
【0033】
Sb23は、ガラスを清澄し、均質化する効果があり、任意に添加し得るが、上記効果を得るためには、その量は1%までで充分である。
【0034】
弗素は、上述の各金属元素の一種またはニ種以上の酸化物の一部または全部と置換した弗化物、例えばKHF2、KF、AlF3、NaF、CaF2、BaF2およびBaSiF6等としてガラスに含有させることにより、ガラスに正の異常分散性を与える効果があるため、本発明のガラスにおいて必須の成分であり、また、屈折率を低下させて光学定数を調整し、ガラスの溶融性を向上させる効果も有する。しかし、上述の各金属元素の一種またはニ種以上の酸化物の一部または全部と置換した弗化物の弗素(F)としての合計量が、3%未満では、上記効果が充分に得られず、10%を超えると、ガラスに脈理等が生じ、ガラスの品質が著しく低下する。
【0035】
【実施例】
表2〜表5に本発明の正の異常分散性を有する光学ガラスの実施例(No.1〜No.8)および従来の光学ガラスの比較例(No.A〜No.F)の組成を示し、各実施例および各比較例のガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、θg,F、Δθg,F、厚さ10±0.1mmのガラスを、反射損失を含む分光透過率80%で透過する光線の波長(T80)、転移温度(Tg)、耐水性(級)およびリヒートテストの結果を示した。ただし、比較例(No.D)のガラスは、ガラス全体が褐色となったため、上記諸物性を示していない。
なお、表2および表3において(K2O)の欄の数値は、弗化物により置換されたK2Oの質量%を示し、(F)の欄はK2Oを置換した弗化物のFとしての量(質量%)を示したものである。
【0036】
また、ここでθg,FおよびΔθg,Fはガラスのng、nFおよびncを測定し、前記段落番号0015から0017の記載に基づき算出したものである。
【0037】
また、T80は、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの着色度の測定方法」JOGIS02−1975に準じ、平行に対面を研磨した厚さ10±0.1mmのガラスの分光透過率を測定し、反射損失を含む分光透過率80%で透過する光線の波長を示したものであり、T80の数値が小さいほど。可視光線波長域の短波長側における光線透過率が優れていることを意味する。
【0038】
また、耐水性(級)は、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)」JOGIS06−1999に基づき、得られたガラスを粒度425〜600μmに破砕し、破砕したガラス試料を比重グラムとり、白金かごの中に入れ、白金かごを純水の入った石英ガラス製丸底フラスコに入れて、沸騰水浴中で60分間処理した後、処理後のガラス試料の減量率(%)を算出して、減量率が0.05%未満の場合を級1、減量率が0.05〜0.10%未満の場合を級2、減量率が減量率が0.10〜0.25%未満の場合を級3としたものであり、級の数が小さいほど、ガラスの耐水性が優れていることを意味する。
【0039】
また、リヒートテストは、横幅および厚さが15mmで長さが30mmの角柱としたガラス試料を、耐火物上に載せて電気炉に入れて再加熱し、常温から150分で各ガラス試料の転移温度(Tg)より250℃高い温度まで昇温し、その温度で30分間保温した後、常温まで降温し、炉外に取り出し、内部を観察できるよう対向する二面を研磨したガラス試料を目視観察する方法で行い。ガラスに乳白および失透が認められず無色透明なものを○とし、乳白または失透が認められたものを×として、リヒートテスト結果を示した。
【0040】
【表2】
(質量%)
Figure 0004053810
【0041】
【表3】
(質量%)
Figure 0004053810
【0042】
【表4】
(質量%)
Figure 0004053810
【0043】
【表5】
(質量%)
Figure 0004053810
【0044】
表4〜表5に示したとおり、比較例(No.A)のガラスは、リヒートテストの結果、ガラスが乳白し、リヒートプレス成形に適していない。また、比較例(No.B)のガラスは、正の異常分散性を有しておらず、耐水性が級2であり化学的耐久性が良好でない。また、比較例(No.C)のガラスは、リヒートテストの結果、ガラスが乳白し、リヒートプレス成形に適しておらず、耐水性が級3であり化学的耐久性が良好でない。また、比較例(No.D)のガラスは、上述したようにガラス全体が褐色となり、無色透明であることが要求される光学ガラスとして使用することができない。また、比較例(No.E)のガラスは、リヒートテストの結果、ガラスが乳白し、リヒートプレス成形に適しておらず、耐水性が級2であり化学的耐久性が良好でなく、T80が400nmであり、可視光線波長域の短波長側における光線透過率が良好でない。また、比較例(No.F)のガラスは、耐水性が級3であり化学的耐久性が良好でない。
【0045】
一方、表2〜表3に示したとおり、本発明の正の異常分散性を有する光学ガラスの実施例(No.1〜No.8)は、いずれも、屈折率(nd)が1.48〜1.55未満、アッベ数(νd)が45〜55の範囲内の光学定数を有し、異常分散性を示すΔθg,Fの値が+0.0010以上であり、正の異常分散性を有している。また、T80が390nm以下であり可視光線波長域の短波長側における光線透過率が優れており、耐水性が級1であって化学的耐久性が優れており、リヒートテストの結果、乳白および失透が認められず無色透明であり、リヒートプレス成形に適している。比較例(No.A〜No.F)と較べて、光線透過率、化学的耐久性およびリヒートテストの結果のうち少なくとも1以上の点において優れている。
【0046】
なお、表2〜表3に示した本発明にかかる実施例のガラスは、いずれも、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗素化合物および水酸化物等の通常の光学ガラス用の原料を表2〜表3に示した組成になるように秤量、混合した後、白金製のるつぼに投入し、組成による溶融性の相違に応じて、1300〜1500℃の温度で3〜4時間、溶融し、攪拌して均質化した後、降温して金型等に鋳込み、冷却することにより容易に得ることができた。
【0047】
【発明の効果】
以上、述べたとおり本発明にかかる正の異常分散性を有する光学ガラスは、特定組成範囲のSiO2−B23−TiO2−Nb25−Al23−WO3−K2O−弗素系組成のガラスであるから、正の異常分散性を示すΔθg,Fの値が+0.0010以上であり、光学機器等の光学系のレンズ等として使用して二次スペクトルを補正するために有用であり、また、耐乳白性および耐失透性が優れているため、リヒートプレス成形に使用するのに好適である。さらに、高品質な光学ガラスに要求される化学的耐久性および光線透過性が優れていることに加えて、ガラス溶融中に白金が合金化することなく、安全に生産することができ、かつ、環境汚染物質であるPbOおよびAs23を含有していないという利点があり、産業上非常に有用である。

Claims (6)

  1. 質量%で、SiO2 40〜60%、B23 3〜9%、TiO2 3〜15%、Nb25 0.1〜5.0%、Al23 3〜15%、WO3 0.5〜5.0%、MgO 0〜3%、CaO 0〜3%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、K2O 10%を超え21%まで、Na2O 0〜10%、Sb23 0〜1%および上記各金属元素の一種またはニ種以上の酸化物の一部または全部と置換した弗化物のFとしての合計量3〜10%を含有し、不純物としての不可避的な混入を除きPbOおよびAs23を含有せず、屈折率(nd)が1.48〜1.55未満、アッベ数(νd)が45〜55の範囲の光学定数を有し、異常分散性を示すΔθg,Fの値が+0.0010以上であることを特徴とする正の異常分散性を有する光学ガラス。
  2. 質量%で、SiO2 40〜60%、B23 3〜9%、TiO2 3〜15%、Nb25 0.1〜5.0%、Al23 3〜15%、WO3 0.5〜5.0%、ただし、TiO2+WO3 4〜20%、MgO 0〜3%、CaO 0〜3%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、K2O 10%を超え21%まで、Na2O 0〜10%、ただし、K2O+Na2O 25%未満、Sb23 0〜1%および上記各金属元素の一種またはニ種以上の酸化物の一部または全部と置換した弗化物のFとしての合計量3〜10%を含有し、不純物としての不可避的な混入を除きPbOおよびAs23を含有せず、屈折率(nd)が1.48〜1.55未満、アッベ数(νd)が45〜55の範囲の光学定数を有し、異常分散性を示すΔθg,Fの値が+0.0010以上であることを特徴とする正の異常分散性を有する光学ガラス。
  3. ガラスを再加熱し、ガラスの転移温度(Tg)よりも200〜300℃高い温度域で30分間保温して、ガラスが乳白および失透しないことを特徴とする請求項1または2に記載の正の異常分散性を有する光学ガラス。
  4. ガラスを再加熱し、ガラスの転移温度(Tg)よりも200〜250℃高い温度域で30分間保温して、ガラスが乳白および失透しないことを特徴とする請求項1または2に記載の正の異常分散性を有する光学ガラス。
  5. 日本光学硝子工業会規格JOGIS06-1999「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)」により測定するガラスの耐水性が級1であることを特徴とする請求項1、2、3または4に記載の正の異常分散性を有する光学ガラス。
  6. 厚さ10±0.1mmのガラスを、反射損失を含む分光透過率80%で透過する光線の波長が390nm以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4または5に記載の正の異常分散性を有する光学ガラス。
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