JP4052018B2 - インクジェット記録体の製造方法及びインクジェット記録体 - Google Patents

インクジェット記録体の製造方法及びインクジェット記録体 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク吸収速度を向上させたインクジェット記録体の製造方法及び該製造方法を用いて製造したインクジェット記録体に関する。本発明の方法では、塗膜(記録層)の乾燥の程度(水分含量)を制御することにより、記録層のひび割れを抑制し、光沢度が高く、且つインク吸収性に優れたインクジェット記録体を安価に製造することができる。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方式は、インクの小液滴をノズルより飛翔させ、記録シートにインク液滴を付着吸収させて行う記録方法である。インクジェット記録方式を用いたプリンターは、多色印刷が容易であり、しかも他の記録方式のプリンターに比べて小型で低価格であるなどの特徴を有している。
【0003】
インクジェット記録方式では、プリンターの高精細化、高速化、フルカラー化に伴い、記録体に対してもより高度な特性が要求されるようになった。例えば、画像の多色化及び高濃度化に伴い、記録体に付着するインク量も増大するが、インクジェット用のインクには水や溶媒が多く含まれ、特に、プリンターヘッドの詰まりを防ぐために高沸点の溶媒が配合されているので、記録後、染料と溶媒とがすぐに吸収されずに記録層上に共存する。その結果、画像のにじみや色調の不安定性等の問題を生じ、良好な画質が得られないという問題を生じる。したがって、インク吸収速度が速く且つ吸収容量が大きい、インク吸収性に優れた記録体が求められている。
【0004】
近年、デジタルカメラの普及や、高精細な画像が出力可能で安価なインクジェットプリンターが入手可能となっていることから、カラー写真の印刷が一般的に行われている。銀塩写真に匹敵する高品質の画質を得るためには、記録体表面が、高い光沢度を有することが必要である。高い光沢度を有するためには、記録体表面が、ひび割れがなく、平滑であることが必要とされる。しかしながら、一般的に、記録体表面の平滑性を高めると、インク吸収性が低下し、上述したような画像のにじみや色調の不安定性等の問題が生じる。
【0005】
インク受容層のひび割れを改良する目的で、特開平7−117334号公報では、0.1μm以下の微粒子と重合度4000以上のポリビニルアルコールにより構成されるインク受容層が開示されている。
【0006】
インク吸収速度を高める技術として、特開2001−96895号公報及び特開2001−96903号公報は、支持体上に、無機微粒子(気相法シリカ等)及び親水性バインダー(ポリビニルアルコール等)を含有する塗工液を塗工して乾燥させた後、長時間加温する保温工程を設ける方法を開示している。これらの文献では、乾燥後のインクジェット記録用紙を30〜50℃程度の温度で数日間にわたって加温保存することにより、インク吸収速度を増加させている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平7−117334号公報記載の方法は、微粒子として一次粒子(コロイダルシリカ、アルミナゾルなど)の分散体を使用するので、成膜のためには一次粒子間にバインダーを介在させる必要があるが、バインダーにより一次粒子間の隙間が小さくなり、インク吸収容量も小さくなる。それゆえに、多量のインクを吸収させるには、インク受容層の塗工量を増やして層を厚くする必要があるが、塗工量を増やすと、乾燥等による塗膜のひび割れが生じやすくなる。すなわち、ひび割れ防止と吸収性向上の両方の要求を共に満足させることは困難である。
また、特開2001−96895号公報及び特開2001−96903号公報記載の方法は、乾燥後のインクジェット記録用紙を、包装した状態で長時間にわたって加温保存する必要があり、製造に要する時間及び手間がかかり、コストも高くなってしまう。
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、記録層のひび割れがなく、光沢及びインク吸収速度に優れ、銀塩写真に匹敵する高画質の多色印刷が可能なインクジェット記録体を、簡便に且つ安価に製造することができるインクジェット記録体の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らはインクジェット記録体の製造において、記録層中の水分含量を一旦非常に低い値に低下させることによって、光沢度が高く、インク吸収性に優れ、且つ記録層のひび割れが抑制されたインクジェット記録体を簡便に且つ安価に製造することが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下の実施様態を含むがこれらに限るものではない。
[1]:支持体上に、平均二次粒径が1.2μm以下の微細顔料およびバインダーを含有し、細孔直径分布の極大値が90nm以下のみである少なくとも1層の記録層を設けたインクジェット記録体の製造方法であって、
前記微細顔料としてシリカを含有し、前記バインダーとして重合度3500以上、ケン化度95%以上のポリビニルアルコールを含有する塗工液を支持体上に塗工する塗工工程と、前記塗工液の塗膜を80〜140℃で乾燥させ、赤外線水分計により測定される水分含量を3%以下にする乾燥工程とを行うことによって前記記録層を形成することを特徴とするインクジェット記録体の製造方法。
[2]:支持体上に、平均二次粒径が1.2μm以下の微細顔料およびバインダーを含有し、細孔直径分布の極大値が90nm以下のみである少なくとも1層の記録層を設けたインクジェット記録体の製造方法であって、
前記微細顔料としてシリカを含有し、前記バインダーとして重合度3500以上、ケン化度95%以上のポリビニルアルコールを含有する塗工液を支持体上に塗工する塗工工程と、前記塗工液の塗膜を80〜140℃で乾燥させ、赤外線水分計により測定される水分含量を1%以下にする乾燥工程とを行うことによって前記記録層を形成することを特徴とするインクジェット記録体の製造方法。
[3]:前記乾燥工程が、記録層の塗工後に記録体を乾燥する第一乾燥工程と、第一乾燥工程後に一旦巻き取った記録体を再度乾燥する第二乾燥工程とからなることを特徴とする[1]又は[2]に記載のインクジェット記録体の製造方法。
[4]:前記記録層を、前記第一乾燥工程において水分含量X%(3<X≦20)にまで乾燥させ、その後、前記第二乾燥工程において水分含量Y%(Y≦3)にまで乾燥させることを特徴とする[3]に記載のインクジェット記録体の製造方法。
[5]:前記記録層が2層以上で構成され、該記録層の最表層が、比表面積200m/g以上、平均二次粒径300nm以下のフュームドシリカを含有することを特徴とする[1]から[4]のいずれか1項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
[6]:前記記録層を設けたインクジェット記録体の75°の光沢度(JIS−P8142)が30%以上であることを特徴とする[1]から[5]のいずれか1項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
[7]:前記支持体が非吸収性支持体であることを特徴とする[1]から[6]のいずれか1項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
[8]:[1]から[7]のいずれか1項に記載のインクジェット記録体の製造方法を用いて製造したインクジェット記録体。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法では、支持体上に、平均二次粒径が1.2μm以下の微細顔料およびバインダーを含有し、細孔直径分布の極大値が200nm以下のみである少なくとも1層の記録層を、前記微細顔料としてシリカを含有し、前記バインダーとして重合度3500以上、ケン化度95%以上のポリビニルアルコールを含有する塗工液を支持体上に塗工する塗工工程と、前記塗工液の塗膜を80〜140℃で乾燥させ、水分含量を3%以下、好ましくは1%以下にする乾燥工程とを行うことによって、光沢度及びインク吸収性に優れたインクジェット記録体を製造することができる。なお、水分含量とは固形分(微細顔料等)に対する水分質量%を意味する。
【0011】
本発明で使用される微細顔料は二次粒子を有しており、二次粒子とは、シリカ等の微細な粉体(一次粒子)が複雑な形に凝集したものである。二次粒子を用いて成膜された記録層中には、粒子間に微細で複雑な構造の空隙(細孔)が形成される。この細孔内にインクが吸収されるため、記録層のインク吸収性はこの細孔の直径や容量に左右される。
【0012】
細顔料としては、シリカが用いられる。シリカとしては、気相法により合成されたもの(フュームドシリカ)や湿式法により合成されたもの(ゲル法シリカや沈降法シリカ)等がある。
【0013】
高い光沢度の記録層を得るために、本発明においては、平均二次粒径1.2μm以下、好ましくは30〜1000nmのシリカを用いる。ここで、平均二次粒径とは、5%シリカ分散液をホモミキサーにて5000rpm、30分撹拌分散した直後に分散液を塗工してサンプルとし、電子顕微鏡(SEMとTEM)で観察し、1万〜40万倍の電子顕微鏡写真を撮り、5cm四方中の二次粒子のマーチン径を測定して平均したものである(「微粒子ハンドブック」、朝倉書店、p52、1991年参照)。
【0014】
本発明の記録層を構成する平均二次粒径1.2μm以下のシリカの製造方法は、特に限定しないが、例えば、一般市販の合成無定型シリカなどの塊状原料や、液相での化学反応によって得られた沈殿物を機械的手段で粉砕する方法や、金属アルコキシドの加水分解によるゾル−ゲル法、気相での高温加水分解等の方法によって得ることができる。機械的手段としては、超音波、高速回転ミル、ローラミル、容器駆動媒体ミル、媒体撹拌ミル、ジェットミル、サンドグラインダー、ナノマイザー等が挙げられる。
【0015】
また、シリカの比表面積は、特に限定されないが、150m/g以上であることが好ましい。ここで、シリカの比表面積とは、シリカを105℃にて乾燥し、得られた粉体試料の窒素吸脱着等温線をCoulter社製のSA3100型を用いて、200℃で2時間真空脱気した後測定し、比表面積をt法により算出したものである。比表面積は、シリカの質量あたりの表面積であり、その値が大きいほど一次粒子が小さく、二次粒子の形状が複雑になりやすく、細孔内の容量が大きくなり、インク吸収性が向上すると考えられる。
【0016】
本発明において、細孔直径分布とは、記録層中の粒子間に形成される空隙(細孔)の直径の分布を水銀圧入法により測定したものである。細孔直径分布は、水銀圧入法により求めた空隙量分布曲線から細孔直径分布(微分曲線)を計算して求めることができる。水銀圧入法とは、水銀ポロシメトリーとも呼ばれ、耐火物41巻、6号297〜303頁/1989年に述べられているように、多孔質体の細孔構造(細孔直径や細孔容積)を測定するのに広く用いられている方法である。その測定の原理には、水銀は表面張力が大きいので、圧力をかけないと多孔質体の細孔内に侵入できないことを利用している。すなわち、水銀に加わる圧力とその時に水銀が侵入できる細孔直径との関係は下記一般式(1)に示される。
P = −4σcosθ/D (1)
ここで、P :水銀が細孔内に侵入するために要求される圧力(psi)
σ :水銀の表面張力 (480dyn/cm)
θ :水銀の接触角 (140°)
D :細孔直径 (μm)
である。上記(1)式にσ、θの値を代入することにより、細孔直径Dを求めるための一般式(2)を得る。
D =213/P (2)
【0017】
細孔直径分布は、上記の原理を利用して、水銀に加える圧力Pを除々に変化させ、そのときに細孔内に侵入した水銀の体積すなわち細孔容量Vを測定し、上記(2)式に従って換算した細孔直径Dと細孔容量Vとの関係を描き、この関係曲線の微分係数(dV/dD)を求めて縦軸とし、細孔直径Dを横軸にすることで求められる。その細孔直径分布曲線は、通常、1〜2個の極大値を有する。
【0018】
細孔直径が小さいほど、記録層の光沢度は高い。本発明においては、銀塩写真様の高い光沢度のインクジェット記録体を得るために、細孔直径分布の極大値が存在するのは200nm以下のみとする。200nmより大きい極大値が存在すると、光沢度が低下し、さらに、記録層がひび割れしやすくなってしまう。上記条件の細孔直径分布を得るためには、平均二次粒径が1.2μm以下のシリカを用い、重合度3500以上、ケン化度95%以上のポリビニルアルコールを用いる。
【0019】
本発明のインクジェット記録体の記録層の成膜においては、通常、前記微細顔料に対して一種又はそれ以上のバインダーを混合する。記録層中のバインダーの混合量は、微細顔料に対し3〜30質量%が適当である。バインダーが3質量%より少ないと記録層にひび割れが生じやすく、30質量%より多いと、微粒子が作る細孔をバインダーが塞ぎ、インク吸収容量の低下を招いてしまう可能性がある。
【0020】
バインダーとしては、重合度3500以上、ケン化度95%以上のポリビニルアルコール(以下、PVAという)を使用することができる。重合度3500以上のPVAを用いると、塗料の粘度が高くなるため、熱風による塗膜のひび割れを抑制することができる。また、ケン化度95%以上のPVAを用いると、PVAの膨潤が大きく抑えられ、表面張力も高くなるため、インク吸収性が向上する。
【0021】
また、記録層中には、微細顔料やバインダーのほかにも以下に示すようなものも混合することができる。例えば、一般に、インクジェット用インクにはアニオン性染料が使用されているので、インクの定着性を更に向上させ、印字後のインク耐湿性、耐水性を向上させる目的で、各種のカチオン性樹脂を記録層に配合することもできる。カチオン樹脂としては、例えばポリエチレンアミンやポリプロピレンポリアミンなどのポリアルキレンポリアミン類、またはその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。その他、一般塗被紙製造において使用される各種顔料、分散剤、増粘剤、消泡剤、着色剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤が適宜添加される。
【0022】
本発明では、形成する記録層は1層であっても多層であってもよい。記録層が多層の場合、用いる微細顔料は各記録層毎に変えることができる。このとき、例えば記録層が2層構造の場合、最表層を光沢度を高くするために非常に微細な粒子とし、それによって最表層単独のインク吸収性が低下しても、第二層の細孔直径を大きくするなどしてインク吸収性を高めることによって、光沢度とインク吸収性を共に維持又は向上させることができる。
【0023】
記録層が多層の場合、該記録層の最表層には、特に、比表面積200m2/g以上であり且つ平均二次粒径300nm以下のフュームドシリカを含有することが好ましく、これにより、光沢度の高いインクジェット記録体を得ることができる。
【0024】
また、多層、例えば二層の場合、記録層の最表層、第二層とも、細孔直径分布曲線の極大値が200nm以下のみにすると、インク(特に重色部分のインク)が最表層で吸収しきれなかった場合でも、第二層でのインクの広がりも防ぐことができるので、より高濃度で繊細な画像が得られる。
【0025】
なお、記録層表面は、銀塩写真様の風合いを得るためには平滑であることが好ましく、その平滑度は、特に限定はないが、300秒(王研式、J.TAPPINo.5)以上であることが好ましい。
【0026】
記録層は、溶媒中に微細顔料を分散させ、バインダーを混合した塗工液を支持体に塗工する塗工工程と、前記塗工液の塗膜を80〜140℃で乾燥させ、水分含量を3%以下、好ましくは1%以下にする乾燥工程とを行うことによって形成される。塗工液の溶媒としては、特に限定はないが、塗工適性などの理由で水系溶媒が好ましい。
塗工工程は1回でもよく、また、複数回行ってもよい。塗工工程を複数回行うと、記録層を多層とすることもできる。また、塗工液を複数回に分けて塗工することで、ひび割れの発生を抑制しながら多くの塗工液を塗工することができ、記録層のインク吸収容量を大きくすることができる。
塗工液の塗工方法としては公知の塗布手段、例えばバーコーティング法、ロールコーティング法、ブレードコーティング法、エアーナイフコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、カーテンコーティング法などを用いることができる。
【0027】
記録層の塗工量は、乾燥後の重量として15〜30g/m2程度とすることが望ましく、さらに好ましくは18〜28g/m2程度である。塗工量が15g/m2より少ないと、インクの吸収が不十分となるおそれがある。塗工量が30g/m2を越えると、記録層にひび割れが発生しやすくなり、コストもかさむので望ましくない。
【0028】
前記塗膜の乾燥工程は、例えば、塗工後すぐに、1段階で水分含量を3%以下として行うことができる。また、塗工した塗工液は、水分含量を20%以下にすると膜を形成するので、20%以下、3%より高い水分含量にまで乾燥させて成膜した後、記録体を一旦巻き取ってから水分含量を3%以下とする2段階の乾燥工程で行ってもよい。
通常、支持体に塗工液を塗布した後、その支持体を同じ製造ライン上にて乾燥させ、乾燥した後、ロール状に巻き取っていく。乾燥工程を1段階で行う場合、水分含量を3%以下にするまでに時間がかかるため、巻き取るまでの時間も長くなり、その結果、製造ラインを長くする必要がある。しかしながら、乾燥工程を2段階で行うと、まず短時間の乾燥で成膜させ、これを巻き取るので、製造ラインを長くする必要がない。したがって、製造に必要なスペースや装置を大きくする必要がない。
【0029】
塗工後の塗料を乾燥する方法としては、特に限定はないが、従来から公知公用の熱風乾燥、ガスヒータ乾燥、高周波乾燥、電気ヒータ乾燥、赤外線ヒータ乾燥、レーザ乾燥、電子線乾燥等の各種加熱乾燥方式が適宜採用される。このなかで、熱風乾燥が乾燥能力が高いことから好ましく、熱風の温度は、80〜140℃である。80℃より低いと乾燥時間が長くなり、140℃より高いとインク受容層にひび割れが発生しやすくなる。
【0030】
本発明において製造されるインクジェット記録体の支持体としては、特に限定はなく、吸収性支持体、非吸収性支持体のいずれでもよいが、非吸収性支持体を用いる場合、支持体にインクが吸収されないために、特に本発明の効果が活かされる。吸収性支持体としては、例えば、上質紙、中質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙等が例示できる。非吸水性支持体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのプラスチックフィルムや合成紙、白色フィルム等が例示でき、また、吸水性支持体や非吸水性支持体を、非吸水性樹脂で被覆した樹脂被覆体などが適宜使用される。非吸収性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロースジアセテートまたはそれらの混合物等を主成分とするものを用いることができるが、密着性が良好なことから、特にポリエチレンが好ましい。
【0031】
本発明において、上記乾燥工程を設けることによってインク吸収性が改善される理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推定される。即ち、二次粒子を有する微細顔料を用いて成膜された記録層中には、粒子間に微細で複雑な構造の細孔が形成されており、この細孔にインクが吸収されるため、記録層のインク吸収性はこの細孔の状態に左右される。
通常の乾燥方法において、乾燥直後の記録層中の水分含量は5%程度であるがこの状態では細孔内に水塊が局在しており、インクの吸収経路が遮断されているものと考えられる。そこで、記録層中の水分含量を3%以下、とりわけ1%以下にまで乾燥させることにより、細孔内の水塊が除去されて、インク吸収経路が確保されるものと考えられる。また、一旦水塊が除去されれば、大気中に自然に存在する水分によって再び記録層中の水分含量が高くなっても、吸収された水分は細孔の壁部分を全体的に覆うように付着するので、インクの吸収経路を遮断するような水塊は形成されにくく、高いインク吸収性が維持されるものと考えられる。
【0032】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、これは本発明を制限するものではない。
本実施例では、支持体の影響をできるだけ避けるために、また、記録層自体の性能を評価するために、非吸収性支持体であるポリエチレン樹脂被覆体に記録層を設けて評価した。
実施例中の部及び%は、特に断らない限り、水分を除いた固形分であり、それぞれ質量部及び質量%を示す。塗工量は、特に断らない限り、乾燥重量である。
【0033】
実施例中の記録層の水分含量及び細孔直径分布は以下のようにして求めた。
[水分含量]赤外線水分計(株式会社ケット科学研究所製、KJT−100)を用いて測定した。
[細孔直径分布]マイクロメトリックス ポアザイザー9320(島津製作所製)を用い、水銀圧入法により細孔径を測定して調べた。
【0034】
[支持体の作成]
標準ろ水度(JIS P−8121)で250mlまで叩解した針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)と、標準ろ水度で280mlまで叩解した広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)とを、質量比2:8の割合で混合し、濃度0.5%のパルプスラリーを調製した。このパルプスラリー中にパルプ絶乾質量に対し、カチオン化澱粉2.0%,アルキルケテンダイマー0.4%,アニオン化ポリアクリルアミド樹脂0.1%,ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂0.7%を添加し、十分に攪拌して分散させた。
上記組成のパルプスラリーを長網マシンで抄紙し、ドライヤー、サイズプレス、マシンカレンダーを通し、坪量180g/m2、密度1.0g/cm3の原紙を製造した。上記サイズプレス工程に用いたサイズプレス液は、カルボキシル変性ポリビニルアルコールと塩化ナトリウムとを2:1の質量比で混合し、これを水に加えて加熱溶解し、濃度5%に調製したもので、これを紙の両面に合計で25ml/m2塗布して支持体の原紙を得た。
原紙の両面にコロナ放電処理を施した後、バンバリーミキサーで混合分散した下記のポリオレフィン樹脂組成物を原紙のフェルト面側に塗工量が25g/m2になるようにして、またポリオレフィン樹脂組成物をワイヤー面側に塗工量が20g/m2になるようにして、T型ダイを有する溶融押し出し機(溶融温度320℃)で塗布し、フェルト側を鏡面、ワイヤー側を粗面のクーリングロールで冷却固化して、平滑度(王研式、J.TAPPI No.5)が6000秒、不透明度(JIS P−8138)が93%の支持体を得た。
(ポリオレフィン樹脂組成物)
長鎖型低密度ポリエチレン樹脂(密度0.926g/cm3、メルトインデックス20g/10分)35部、低密度ポリエチレン樹脂(密度0.919g/cm3、メルトインデックス2g/10分)50部、アナターゼ型二酸化チタン(石原産業社製、商品名:A−220)15部、ステアリン酸亜鉛0.1部、酸化防止剤(チバガイギー社製、商品名:Irganox1010)0.03部、群青(第一化成社製、商品名:青口群青No.2000)0.09部、蛍光増白剤(チバガイギー社製、商品名:UVITEX OB)0.3部。
【0035】
実施例1
<分散液Aの調整>
平均粒径3μmの合成無定型シリカ(日本シリカ工業社製、商品名:Nipsil HD−2)をサンドグライダーにより粉砕分散した後、油圧式超高圧ホモジナイザー(みづほ工業(株)製、マイクロフルイタイザーM110−E/H)でさらに粉砕分散し、二次粒子の平均粒子径が500nmよりなる18%分散液Aを調整した。
<分散液Bの調整>
比表面積300g/m2のフュームドシリカ(日本アエロジル社製、商品名:AEROSIL300)100部を水に分散させた後、カチオン性化合物としてポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド(センカ社製、商品名:ユニセンスCP−103)15部を添加し増粘・凝集させた。これを、油圧式超高圧ホモジナイザー(みづほ工業(株)製、マイクロフルイタイザーM110−E/H)でくり返し分散を行い、二次粒子の平均粒子径が80nmよりなる6%分散液Bを調整した。
【0036】
上記の平均二次粒径500nmの分散液Aのシリカ100部とPVA(クラレ社製、商品名:PVA140、重合度:4000、ケン化度:98.5%)20部とを混合し、その16%水溶液を、メイヤーバーで、塗工量が24g/m2になるようにラミネート塗工紙の表面に塗工し、120℃の送風乾燥機で塗膜の水分含量が3%になるように乾燥した。この塗膜の上に、さらに、平均二次粒径80nmの分散液Bのフュームドシリカ100部とPVA(クラレ社製、商品名:PVA140)20部とを混合してその7.5%水溶液を塗工量が3g/m2になるように塗工し、120℃の送風乾燥機で塗膜の水分含量が3%になるように乾燥して、二層構造のインクジェット記録シートを製造した。その細孔直径分布曲線は図1の(a)に示すようになり、極大値は20nmと45nmであった。
【0037】
得られたインクジェット記録シート表面の75°光沢を、JIS−P8142に記載の方法に従って、光沢度計(ムラカミリサーチラボラトリ製、GM−26PRO/Auto)を用いて測定したところ、その光沢度は48%であった。
また、得られたインクジェット記録シート表面を、50倍率のルーペで目視評価したところ、ひび割れは見られなかった。
【0038】
このインクジェット記録シートに、インクジェットプリンター(EPSON製、PM800C)でグリーン及びブルーベタ部を印字(スーパーファインモード)して、そのインク吸収性を目視で下記のように四段階で評価した。
◎:インクの吸収速度が速く、溢れなし
○:インクの溢れなし
△:吸収ムラが見られる
×:インクが溢れる
【0039】
実施例2
<分散液Cの調整>
分散液Aの作製と同様に粉砕分散の操作を繰り返し、二次粒子の平均粒子径が1.1 μmよりなる18%分散液Cを調整した。
平均二次粒径500nmのシリカに代えて、平均二次粒径1.1μmの分散液Cのシリカを用いた以外、実施例1と同様の条件で二層構造のインクジェット記録シートを製造し、評価した。その細孔直径分布曲線は図1の(b)に示すようになり、極大値は20nmと90nmであった。得られたインクジェット記録シート表面の75°光沢は35%であった。また、ひび割れは見られなかった。
このインクジェット記録シートのインク吸収性を実施例1と同様に評価した。
【0040】
実施例3
水分含量が1%になるように乾燥した以外、実施例1と同様の条件で二層構造のインクジェット記録シートを製造し、評価した。その細孔直径分布の極大値は20nmと45nmであった。得られたインクジェット記録シート表面の75°光沢は49%であった。また、ひび割れは見られなかった。
このインクジェット記録シートのインク吸収性を実施例1と同様に評価した。
【0041】
実施例4
平均二次粒径500nmのシリカ100部とPVA(クラレ社製、PVA140)20部とを混合し、その16%水溶液を、メイヤーバーで、塗工量が24g/m2になるようにラミネート塗工紙の表面に塗工し、120℃の送風乾燥機で塗膜の水分含量が15%になるように乾燥して成膜した。このシートを一旦巻き取った後、再度、120℃の送風乾燥機で乾燥させ、塗膜の水分含量を1%とした。
この塗膜の上に、さらに、平均二次粒径80nmのフュームドシリカ100部とPVA(クラレ社製、PVA140)20部とを混合してその7.5%水溶液を塗工量が3g/m2になるように塗工し、120℃の送風乾燥機で塗膜の水分含量が15%になるように乾燥して成膜した。このシートを一旦巻き取った後、再度、120℃の送風乾燥機で乾燥させ、塗膜の水分含量を1%として二層構造のインクジェット記録シートを製造した。その細孔直径分布の極大値は20nmと45nmであった。
得られたインクジェット記録シート表面の75°光沢は48%であった。また、ひび割れは見られなかった。
このインクジェット記録シートのインク吸収性を実施例1と同様に評価した。
【0042】
参考例1
PVA140(重合度:4000、ケン化度:98.5%)20部に代えて、重合度2400のPVA(クラレ社製、商品名:PVA124、ケン化度:98.5%)30部を混合した以外は実施例1と同様の条件で二層構造のインクジェット記録シートを製造し、評価した。その細孔直径分布の極大値は20nmであった。
得られたインクジェット記録シート表面の75°光沢は42%であった。また、ひび割れは見られなかった
このインクジェット記録シートのインク吸収性を実施例1と同様に評価した。
【0043】
参考例2
PVA140(重合度:4000、ケン化度:98.5%)20部に代えて、ケン化度88%のPVA(クラレ社製、商品名:PVA235、重合度:3500)18部を混合した以外は実施例1と同様の条件で二層構造のインクジェット記録シートを製造し、評価した。その細孔直径分布曲線は図1の(c)に示すようになり、極大値は16nmであった。
得られたインクジェット記録シート表面の75°光沢は47%であった。また、ひび割れは見られなかった。
このインクジェット記録シートのインク吸収性を実施例1と同様に評価した。
【0044】
実施例5
最表層にフュームドシリカを用いなかったこと以外は実施例1と同様の条件で一層構造のインクジェット記録シートを製造し、評価した。その細孔直径分布の極大値は20nmと45nmであった。
得られたインクジェット記録シート表面の75°光沢は20%であった。また、ひび割れは見られなかった。
このインクジェット記録シートのインク吸収性を実施例1と同様に評価した。
【0045】
比較例1
水分含量が5%になるように乾燥した以外、実施例1と同様の条件で二層構造のインクジェット記録シートを製造し、評価した。その細孔直径分布の極大値は20nmと45nmであった。
得られたインクジェット記録シート表面の75°光沢は48%であった。また、ひび割れは見られなかった。
このインクジェット記録シートのインク吸収性を実施例1と同様に評価した。
【0046】
比較例2
平均二次粒径500nmのシリカに代えて、平均二次粒径1.5μmのシリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールF80)を用い、PVA140(重合度:4000、ケン化度:98.5%)に代えて、重合度2400のPVA(クラレ社製、商品名:PVA124)を混合した以外は、実施例1と同様の条件でインクジェット記録シートを製造した。
その細孔直径分布曲線は図1の(d)に示すようになり、極大値は10nmと2.5μmであった。
また、得られたインクジェット記録シート表面にはヒビワレがみられ、その75°光沢は10%であった。
このインクジェット記録シートのインク吸収性を実施例1と同様に評価した。
【0047】
実施例1〜4、参考例1〜2、実施例5及び比較例1〜の結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
Figure 0004052018
【0049】
実施例1〜(本発明)で製造したインクジェット記録体はいずれもひび割れは発生していなかったが、平均二次粒径1.5μmのシリカを用い、200nmを越える細孔直径分布の極大値を有する比較例2の場合、記録層にひび割れが見られた。
また、実施例1〜では、乾燥工程において記録層の水分含量を3%以下とすることによって、比較例1と比較してインク吸収性が大幅に改善された。
また、本発明の実施例1と実施例2〜5および参考例1〜2とを比較することにより、以下のことがわかった。
(1)記録層の第二層(最表層と支持体の間)に用いる微細顔料の二次粒径を変えることなく、最表層に用いる微細顔料の二次粒径を小さくすると、インク吸収性が低下することなく、光沢度が向上する。
(2)水分含量を1%以下にすることによって、インク吸収性がさらに向上する。
(3)乾燥工程を2段階で行うことで、製造に必要とされるスペースや装置を大きくしなくても、高い光沢度及びインク吸収性を有するインクジェット記録体を製造することができる。
(4)重合度3500以上のPVAを用いると、重合度3500未満のPVAを用いる場合よりも記録層のヒビワレが抑制されて、インク吸収性が向上する。
(5)ケン化度95%以上のPVAを用いると、ケン化度95%未満のPVAを用いる場合よりもインク吸収性が向上する。
(6)記録層の最表層に、比表面積200m/g以上、平均二次粒径300nm以下のフュームドシリカを含有させると、インク吸収性に悪影響を与えることなく、光沢度が向上する。
【0050】
【発明の効果】
本発明の構成により得られたインクジェット記録体は、ひび割れがなく、光沢度及びインク吸収性がともに良好である。水分含量を3%以下、特に、1%以下にすることにより、光沢度が非常に高く且つインク吸収速度が速いインクジェット記録体を、記録層のひび割れを抑制しつつ、簡便且つ安価に製造することが可能である。
本発明の方法により製造されるインクジェット記録体は、インク吸収性及び光沢度に優れ、インクジェット方式による印刷、特にカラー写真印刷に適した光沢を備えており、銀塩写真に匹敵する高品質の画質を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1、2及び参考例2で製造したインクジェット記録体の細孔直径分布曲線を示すグラフである((a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は参考例2を示す)。
【図2】 比較例2で製造したインクジェット記録体の細孔直径分布曲線(d)を示すグラフである。

Claims (8)

  1. 支持体上に、平均二次粒径が1.2μm以下の微細顔料およびバインダーを含有し、細孔直径分布の極大値が90nm以下のみである少なくとも1層の記録層を設けたインクジェット記録体の製造方法であって、
    前記微細顔料としてシリカを含有し、前記バインダーとして重合度3500以上、ケン化度95%以上のポリビニルアルコールを含有する塗工液を支持体上に塗工する塗工工程と、前記塗工液の塗膜を80〜140℃で乾燥させ、赤外線水分計により測定される水分含量を3%以下にする乾燥工程とを行うことによって前記記録層を形成することを特徴とするインクジェット記録体の製造方法。
  2. 支持体上に、平均二次粒径が1.2μm以下の微細顔料およびバインダーを含有し、細孔直径分布の極大値が90nm以下のみである少なくとも1層の記録層を設けたインクジェット記録体の製造方法であって、
    前記微細顔料としてシリカを含有し、前記バインダーとして重合度3500以上、ケン化度95%以上のポリビニルアルコールを含有する塗工液を支持体上に塗工する塗工工程と、前記塗工液の塗膜を80〜140℃で乾燥させ、赤外線水分計により測定される水分含量を1%以下にする乾燥工程とを行うことによって前記記録層を形成することを特徴とするインクジェット記録体の製造方法。
  3. 前記乾燥工程が、記録層の塗工後に記録体を乾燥する第一乾燥工程と、第一乾燥工程後に一旦巻き取った記録体を再度乾燥する第二乾燥工程とからなることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録体の製造方法。
  4. 前記記録層を、前記第一乾燥工程において水分含量X%(3<X≦20)にまで乾燥させ、その後、前記第二乾燥工程において水分含量Y%(Y≦3)にまで乾燥させることを特徴とする請求項3記載のインクジェット記録体の製造方法。
  5. 前記記録層が2層以上で構成され、該記録層の最表層が、比表面積200m/g以上、平均二次粒径300nm以下のフュームドシリカを含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
  6. 前記記録層を設けたインクジェット記録体の75°の光沢度(JIS−P8142)が30%以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
  7. 前記支持体が非吸収性支持体であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
  8. 請求項1から7のいずれか1項に記載のインクジェット記録体の製造方法を用いて製造したインクジェット記録体。
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