JP4051749B2 - 複合セラミックス薄膜の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は蒸着法により薄膜を作製する際に使用される蒸着材料に関し、特に、同一温度での蒸気圧が異なる2種類の化合物を主成分とする複合セラミックス薄膜を、エレクトロンビーム(EB)蒸着法により形成する場合に有用な蒸着材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
種々の基材表面にセラミックス等のコーティング膜を形成することによって、その基材が有する性能をさらに向上させようとする試みがあらゆる分野で行われている。
【0003】
コーティング膜の材質としては、従来、Al、カーボン、SiO2、Al23、MgO、ZrO2、TiO2などの金属やセラミックス等の単一組成物やこれらの材質を交互に積層したもの、さらには複合化したものが用いられている。しかし、近年コーティング膜に対する要求が高度になるとともに、より多くの材質を複合化したセラミックス等のコーティング膜が開発されるようになった。
【0004】
一方、セラミックス等のコーティング膜を形成する方法には真空中で行われるスパッタ法、蒸着法等があるが、一般的に、製膜速度やコスト面などの要素を重視する場合、蒸着法が使用されることが多い。蒸着法には、蒸発させる物質からなる蒸着材料の加熱方法により、電子線を用いたエレクトロンビーム(EB)蒸着法と抵抗加熱蒸着法とがあるが、蒸着材料が高融点材料の場合、加熱源に電子線を用いたエレクトロンビーム蒸着法が使用されることが多い。
【0005】
複数の材質が複合した複合セラミックスのコーティング膜を蒸着法により得る場合、特に加熱源に電子線を用いたエレクトロンビーム蒸着法で行う場合、得ようとする膜の組成に対応した数の蒸着材料を複数個の電子銃を用いて独立に蒸発させ、組成を制御しながら基板上で複合化されたセラミックスのコーティング膜を作製する場合が多い。
【0006】
また、別の方法としては、まず得ようとする複合セラミックスコーティング膜と同じ組成の蒸着材料を成形、焼結等の方法によって作製した後、エレクトロンビームを用いて、この蒸着材料を溶融、蒸発させ、蒸着材料と同一組成の複合組成の膜を基板上に形成していた。
【0007】
ところが、例えば酸化アルミニウムと酸化ケイ素からなる複合セラミックス膜の様に沸点または蒸気圧の異なる2種類の化合物からなる蒸着膜を作製する場合、得ようとするセラミックス膜と同組成の蒸着材料を成形、焼結によって作製し、これを蒸着材料として用いたのでは、酸化アルミニウムと酸化ケイ素との蒸気圧の違いから、長時間蒸着を行うと蒸気圧の高い酸化ケイ素が優先的に蒸発をおこし、形成された膜の組成がずれてしまい、その結果、得られる膜の組成を希望する組成に制御することができないという問題があった。また、蒸気圧の高いものが溶融部でガス化し、それによって突沸を生じるために、蒸気でなく粒子の状態で基板上に付着するというスピッティング現象を起こすという問題があった。
【0008】
一方、従来のように、電子銃を数個用いて成分となる化合物を独立に蒸発させ、基板上で複合化させる方法は、組成制御が複雑になるうえ、組成の変動が生じやすく、コストも高くなるという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、酸化アルミニウムと酸化ケイ素のように蒸気圧の異なる2種類の成分からなる複合セラミックス薄膜を蒸着法により作製する際、一つの電子銃を用いて、複合化した蒸着膜を組成ずれを起こさずに作製することのできる蒸着材料を提供することにある。このような蒸着材料を用いることにより、組成の変動のない安定した性能の膜を得ることを可能とし、また、蒸着時にスピッティングを起こさず、高分子フィルム等の基板に損傷を与えずに蒸着膜を形成しようと言うものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0011】
本発明の蒸着材料は、酸化アルミニウムと酸化ケイ素を主成分とする複合セラミックス薄膜を蒸着法により作製するために用いられる蒸着材料であって、当該蒸着材料が酸化アルミニウムと窒化ケイ素又は酸化アルミニウムと炭化ケイ素を主成分とする成形体からなる蒸着材料であり、また、ガラス形成剤として酸化ケイ素と酸化ケイ素以外の酸化物とをさらに含む成形体からなる蒸着材料である。このガラス形成剤を構成する酸化ケイ素以外の酸化物は、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属の酸化物及び希土類金属の酸化物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の酸化物の混合物であることが好ましく、例えば、酸化マグネシウムや酸化イットリウム等を例示することができる。
【0012】
本発明における酸化アルミニウムと酸化ケイ素を主成分とする複合セラミックス薄膜とは、アルミニウム、ケイ素及び酸素を主たる構成元素とする複合セラミックス薄膜であり、例えば、アルミニウムとケイ素の複酸化物を主成分とする薄膜、主として酸化アルミニウムからなる部分と主として酸化ケイ素からなる部分との集合体を主成分とする薄膜あるいはそれらの混合体を主成分とする薄膜等を含むものである。この酸化アルミニウムと酸化ケイ素を主成分とする複合セラミックス薄膜は、その用途に応じて、マグネシウムやイットリウム等の他の元素を含むものであっても良い。
【0013】
また、本発明の成形体とは、酸化アルミニウム、窒化ケイ素又は炭化ケイ素等の原料粉末を混合し、加圧して特定の形状に形成した一体物や、それを焼成して焼結させた焼結体、あるいは、顆粒状に造粒されたもの、さらには、それを焼成して得られる顆粒状の焼結体等を含むものである。
【0014】
なお、本発明の蒸着材料は、高融点を有するため、エレクトロンビームを用いて蒸着材料の加熱を行うエレクトロンビーム蒸着法により蒸着膜を形成することが好ましい。
【0015】
本発明を更に詳しく説明すると、酸化アルミニウムと酸化ケイ素のような蒸気圧の異なる2種類の成分からなる複合セラミックス薄膜を蒸着法により作製する場合、得ようとする膜と同じ組成の酸化物焼結体を作製し、これを用いて蒸着膜を作製すると、蒸着の初期では酸化ケイ素が優先蒸発を起こし、ほとんど酸化ケイ素からなる蒸着膜が形成され、蒸着の後期になるとほとんど酸化アルミニウムからなる蒸着膜が形成されてしまう。このため、所望の組成の蒸着膜を得る事ができない。
【0016】
本発明が示す通り、酸化ケイ素の代わりにケイ素の窒化物あるいは炭化物を用いて、酸化アルミニウムと窒化ケイ素あるいは酸化アルミニウムと炭化ケイ素を主成分とする成形体からなる蒸着材料を用いることにより、ケイ素の優先蒸発が防がれ、蒸着材料中のアルミニウムとケイ素の組成比と同じ組成比の蒸着膜を得ることができる。したがって、蒸着材料の組成は、目的とする蒸着膜の組成に合わせて調整すれば良い。
【0017】
この酸化物と窒化物あるいは炭化物のみの成形体からなる蒸着材料は、場合によっては、蒸着時に激しくスピッティングを起こしてしまうという問題が生じることがあるが、本発明に示すとおり、蒸着材料中に酸化ケイ素を必須成分とするガラス形成剤を添加することによって、スピッティングを起こさず安定した蒸着が可能な蒸着材料を得ることが可能となる。ここで使用されるガラス形成剤は、酸化ケイ素を含むことが必ず必要であるが、この酸化ケイ素に加えてさらにアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物及び希土類酸化物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の酸化物を含むものであることが好ましく、特に酸化マグネシウムや酸化イットリウムを含むことが好ましい。その添加量は特に規定されないが、酸化ケイ素は、蒸着材料全量に対して0.01〜5wt%、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物及び希土類酸化物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の酸化物はそれらの合計で0.05〜10wt%、酸化マグネシウムと酸化イットリウムの場合も0.5〜10wt%が好ましいが、作製した膜の性能に影響を与えなければ良く、特には規定されない。また、酸化ケイ素の添加方法は、原料粉末として酸化ケイ素粉末を添加しても良いが、粉砕混合等の処理中に原料である窒化ケイ素又は炭化ケイ素の表面酸化により生じる酸化ケイ素を利用することができ、均一性等の観点からも原料である窒化ケイ素又は炭化ケイ素の酸化により生じる酸化ケイ素を活用することが望ましい。
【0018】
通常、蒸着膜の組成やスピッティングの発生は、電子銃のパワー等にも左右されるが、本発明の蒸着材料を用いることにより電子銃のパワーに影響されず、一定の組成割合で蒸着が可能となる。
【0019】
本発明における蒸着材料はエレクトロンビームを用いた蒸着法に好適な蒸着材料であり、特に真空槽内に酸素を導入し、基板付近で酸化反応を行わせて、ケイ素の酸化状態を制御する蒸着方法を採用することにより、酸化アルミニウムと窒化ケイ素又は酸化アルミニウムと炭化ケイ素を主成分とする成形体からなる蒸着材料を用いても、酸化アルミニウムと酸化ケイ素を主成分とする複合セラミックス薄膜を形成することができる。
【0020】
なお、本発明のスピッティングとは、蒸着材料にエレクトロンビームを照射したときに、蒸着材料から小さな粒子が飛散する現象を言い、その飛散粒子は膜表面に当たり、膜表面に欠陥を生じさせる。
【0021】
以下に具体例により本発明をさらに詳しく説明する。
【0022】
蒸着材料の組成は、得ようとする膜組成によって決定されるが、例えば、蒸着膜中の酸化アルミニウムと酸化ケイ素の含有量の比が重量比で35:65の酸化アルミニウムと酸化ケイ素を主成分とする複合セラミックス膜を作製したい場合、例えば原料に酸化アルミニウムと窒化ケイ素を用い、含まれるアルミニウムとケイ素の比が酸化物換算で上記の組成比になるように、すなわち酸化アルミニウム:窒化ケイ素=40:60となるように秤量し、これに例えば酸化マグネシウムを5wt%添加して混合粉末を作る。粉末の混合には通常ボールミルを用いるが、振動ボールミルや更にジェットミルなどの乾式粉砕混合機を用いても良い。
【0023】
ガラス形成剤は酸化ケイ素と酸化ケイ素以外の酸化物(本例では酸化マグネシウム)からなるが、この酸化ケイ素の添加方法としては、酸化ケイ素粉末を別途加えても良いが、前記の原料粉末の粉砕混合の時、溶媒として例えば水を用いることにより、原料である窒化ケイ素粉末の表面が酸化されることにより作られる酸化ケイ素を用いることで、酸化ケイ素の分散に優れたものを得ることができる。このようにして得られた酸化アルミニウムと窒化ケイ素を主成分とし、酸化ケイ素と酸化マグネシウムを含む混合粉末を乾燥後、成形、焼成して焼結体を作製し成形体を得る。本発明においては焼結させることは必ずしも必要ではないが、成形体の強度の向上やスピッティングの防止のため、焼成を行い焼結体とすることが望ましい。
【0024】
本発明に用いられる酸化アルミニウム粉末、窒化ケイ素粉末の粒径は、特に規定されないが、焼結体の密度やスピッティングの防止やエレクトロンビームの衝撃に対する耐割れ性等を考慮すると平均粒径が10μm以下が好ましい。なお、窒化ケイ素粉末の代わりに炭化ケイ素粉末を使用する場合の炭化ケイ素粉末の粒径についても同様である。窒化ケイ素にはその結晶系が異なるα型とβ型の2種類があり、通常これらは混在している。窒化ケイ素全体に対するα型の割合をα分率と称しているが、本発明に用いる窒化ケイ素としては、このα分率はどの比率のものでも使用可能であるが、望ましくは70%以上のものが好ましい。また、焼結された成形体には、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、ガラス形成剤以外に生成相として、例えば、スピネル、サイアロン等が生成する。これらの生成相の生成率は、原料の混合粉末の組成や焼結温度などにより変化するが、これらの生成相は必ずしも存在しなくても蒸着材料の特性には影響しない。
【0025】
上記の焼結操作の際の雰囲気は、原料粉末の酸化を防止するため、窒素雰囲気中で行うのが好ましいが、窒化ケイ素の酸化が生じない低温では、空気中での焼成も可能である。焼成温度は特に限定されるものではないが、通常、500〜1800℃程度の条件が一般的である。なお、窒化ケイ素粉末の代わりに炭化ケイ素粉末を使用する場合の焼成温度についても同様である。
【0026】
蒸着材料の密度は、特には限定されないが、密度が高いとエレクトロンビーム照射時に破損する場合があるので、相対密度は、40〜70%にするのが好ましい。密度の調整は、出発原料の粒度、成形方法及びその条件、例えば、一軸プレスのプレス圧やCIP成形の圧力、焼成の際の焼成温度等の組み合わせによって行うことができる。なお、蒸着材料の理論密度には出発原料の混合粉末を構成する物質の密度の加重平均として得られる値を仮定する。この点についても、窒化ケイ素粉末の代わりに炭化ケイ素粉末を使用する場合についても同様である。
【0027】
本発明の蒸着材料を用いて蒸着を行う場合、ケイ素の酸化を制御して、蒸着膜中への窒素、炭素等の混入を抑制するために、基板付近に酸素を導入して、基板上に形成される蒸着膜を酸化させる必要がある。この酸素導入量は、作製する膜の酸化アルミニウムと酸化ケイ素の成分比、膜の大きさ等によって変える必要があるが、膜質を考えると真空槽内の圧力が10-3Torr以下に保たれるように酸素の導入が行われることが好ましい。
【0028】
また、基板材料は、目的に応じて選ぶことができるが、ガラス、高分子フィルム、金属、セラミックス、プラスチック成形体等が用いられる。
【0029】
このようにして作製した蒸着材料を用いて蒸着を行うと、各成分ごとの蒸着材料を準備する必要がなく、スピッティングを起こさず、蒸着材料と同じ組成の複合化した膜を作製することができる。
【0030】
なお、このような方法で作製した膜は、食品包装材に用いられるガスバリアフィルム、反射防止膜等に利用される。
【0031】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
実施例1
酸化アルミニウム含有量が35wt%、酸化ケイ素含有量が65wt%である複合セラミックス薄膜を蒸着法により形成する際に用いられる蒸着材料を以下の操作により製造した。
【0033】
出発原料としては、平均粒径0.5μmの酸化アルミニウム(住友化学製、商品名「AKP−20」)と、平均粒径1μm、α分率98%以上の窒化ケイ素 (宇部興産製、商品名「E03」)を用いる。これらの原料粉末をアルミニウム及びケイ素の含有量が酸化物換算で35:65(重量比)となるように、重量比で40:60になるように秤量する。その後、ボールミルに秤量した粉末と水を入れ混合し、所定時間粉砕混合した後、エバポレーターで乾燥する。こうして得られた混合粉末を、直径25mmの金型で100kg/cm2の圧力で一軸プレスを行い円柱状に成形し、N2中、1500℃で2時間焼成して焼結を行い成形体を得た。
【0034】
このようにして作製された成形体からなる蒸着材料の相対密度は、約52%であった。X線回折の結果より、スピネルの生成が確認され、また、成形体中の窒化ケイ素のα分率は98%以上であった。
【0035】
エレクトロンビームによる蒸着は、次の通り行った。
【0036】
エレクトロンビーム蒸着装置チャンバー内のルツボに蒸着源として前述の蒸着材料を載置する。
【0037】
蒸着は次の条件で行われる。チャンバーに接続されているポンプでこの中を真空引きし、10-6Torrの圧力に設定する。蒸着時、基板付近に、酸素を導入して、真空度を10-4Torrにする。電子銃のパワーは、加速電圧6kVでカレント電流120mAである。基板は特には加熱しない。
【0038】
以上の条件下で、蒸着材料にエレクトロンビームを照射し、これにより蒸着材料を溶融、蒸発させ、厚さ100nmの蒸着膜を形成した。このときの蒸着速度は、1nm/secであった。
【0039】
このようにして作製された薄膜を蛍光X線によって組成分析した結果、蒸着膜は実質的にアルミニウムとケイ素と酸素からなることが認められた。また、連続して蒸着した際の蒸着膜の組成の変動を、横軸を蒸着開始からの蒸着時間の累積時間として示した結果を図1に示す。図1に示すように、蒸着初期から蒸着終了まで薄膜の組成の変動はほとんど見られず、蒸着膜の組成は所望する複合膜の組成、すなわち酸化アルミニウム:酸化ケイ素=35:65(重量比)に保たれている。
【0040】
しかし、蒸着時にスピッティングの観察を行った結果、時折激しいスピッティングの発生が観察された。
【0041】
実施例2
酸化アルミニウムの含有量と酸化ケイ素の含有量が重量比で35:65であるセラミックス薄膜を蒸着法により形成する際に用いられる蒸着材料を以下の操作により製造した。
【0042】
出発原料としては、平均粒径0.5μmの酸化アルミニウム(住友化学製、商品名「AKP−20」)と、平均粒径1μm、α分率98%以上の窒化ケイ素 (宇部興産製、商品名「E03」)、それにガラス形成剤の1成分として平均粒径1μmの酸化マグネシウム(旭硝子製)を用いる。なお、ガラス形成剤の必須の成分である酸化ケイ素は、以下の工程で形成される窒化ケイ素の酸化によるものを使用する。上記の各原料(酸化アルミニウム、窒化ケイ素及び酸化マグネシウム)を、重量比で40:60:5になるように秤量する。その後、ボールミルに秤量した粉末と水を入れ混合し、所定時間粉砕混合した後、エバポレーターで乾燥する。こうして得られた混合粉末を、直径25mmの金型で100kg/cm2の圧力で一軸プレスを行い円柱状に成形し、N2中、1500℃で2時間焼成して焼結を行い成形体を得た。
【0043】
このようにして作製された成形体からなる蒸着材料の相対密度は、約52%であった。X線回折の結果より、スピネルの生成が確認され、また、成形体中の窒化ケイ素のα分率は98%以上であった。
【0044】
実施例1と同様の蒸着条件で蒸着を行い、実施例1と同様に、作製された薄膜の組成を蛍光X線分析によって分析した結果、蒸着膜は実質的にアルミニウムとケイ素と酸素及び少量のマグネシウムからなることが認められた。また、連続して蒸着した際の蒸着膜中の酸化アルミニウムと酸化ケイ素の組成比の変動の様子を図2に示す。図2に示すように、蒸着初期から蒸着終了まで、薄膜中の酸化アルミニウムと酸化ケイ素の組成比の変動は見られず、所望する複合膜の組成比、すなわち酸化アルミニウム:酸化ケイ素=35:65に保たれている。
【0045】
また、蒸着時にスピッティングの観察を行った結果、スピッティングの発生は全く観察されなかった。
【0046】
比較例1
平均粒径0.5μmの酸化アルミニウム(住友化学製、商品名「AKP−20」)と平均粒径100μmの酸化ケイ素(UNIMIN Co.製IOTA4)を重量比で35:65になるように秤量した。その後、ボールミルで湿式混合し、エバポレーターで乾燥した。こうして得られた混合粉末を、直径25mmの金型で100kg/cm2の圧力で一軸プレスを行い円柱状に成形し、大気中、1500℃で4時間焼成して焼結を行い成形体を得た。
【0047】
実施例1と同様の蒸着条件で蒸着を行い、実施例1と同様に、蛍光X線分析によって測定した蒸着膜の組成変化の様子を図3に示す。
【0048】
この結果から明らかなように、蒸着源に酸化ケイ素を用いると、蒸気圧の高い酸化ケイ素の優先蒸発が起こり、蒸着の初期では、ほとんど酸化ケイ素からなる蒸着膜が、蒸着の後期ではほとんど酸化アルミニウムからなる蒸着膜が形成されてしまい、所望の組成の蒸着膜を得ることができない。
【0049】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、蒸着材料の蒸気圧の高い酸化ケイ素を非酸化物の窒化ケイ素又は炭化ケイ素に変え、ガラス形成剤を添加することによって、蒸着時にスピッティングを起こさず、長時間連続して蒸着しても蒸着初期と後期で組成ずれを起こさず、しかも簡単な操作で、所定組成の酸化アルミニウムと酸化ケイ素を主成分とする複合セラミックス薄膜を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の蒸着膜の組成変化を、累積蒸着時間に対して示した図である。
【図2】実施例2の蒸着膜中の酸化アルミニウムと酸化ケイ素の組成比の変化を、累積蒸着時間に対して示した図である。
【図3】比較例1の蒸着膜の組成変化を、累積蒸着時間に対して示した図である。

Claims (6)

  1. 酸化アルミニウムと酸化ケイ素を含んでなる複合セラミックス薄膜の製造方法において、蒸着材料として酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び窒化ケイ素を含んでなる成分を焼結してなる焼結体、又は酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び炭化ケイ素を含んでなる成分を焼結してなる焼結体を用い、エレクトロンビーム蒸着法により酸素存在下で成膜することを特徴とする複合セラミックス薄膜の製造方法
  2. 蒸着材料として、更に酸化ケイ素以外の酸化物含むことを特徴とする請求項1記載の複合セラミックス薄膜の製造方法
  3. 蒸着材料における酸化ケイ素以外の酸化物がアルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、希土類金属の酸化物のいずれか又はそれらを2種以上混合した混合物であることを特徴とする請求項2記載の複合セラミックス薄膜の製造方法
  4. 蒸着材料における酸化ケイ素以外の酸化物が酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の複合セラミックス薄膜の製造方法
  5. 蒸着材料における酸化ケイ素が、窒化ケイ素または炭化ケイ素の表面を酸化して形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の複合セラミックス薄膜の製造方法。
  6. 蒸着材料の相対密度が40〜70%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の複合セラミックス薄膜の製造方法
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