JP4050891B2 - ガラス状炭素製パイプの製造方法およびガラス状炭素製パイプ製造用中子 - Google Patents
ガラス状炭素製パイプの製造方法およびガラス状炭素製パイプ製造用中子 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、パイプ状に成形された熱硬化性樹脂成形品を高温下(約850〜1000℃前後またはそれ以上の高温域)で炭化焼成してガラス状炭素製パイプを製造する方法に関するものである。本発明法によって得られるガラス状炭素製パイプは、耐熱性、ガス不透過性や耐腐食性に優れることは勿論のこと、真円度が高く、割れやクラックなどの欠陥も見られないことから、CVD装置用インナーチューブなど、半導体製造用装置部材に好適に用いられる。
【0002】
【従来の技術】
ガラス状炭素は熱硬化性樹脂を炭化焼成して得られる炭素材料であり、ガラス状の非常に均質、緻密な構造を有している。この材料は、一般の炭素材料の特徴である熱伝導性、化学的安定性、耐熱性、高純度などの性質に加え、構成粒子の脱落がないという優れた特徴を備えていることから、半導体製造装置部材などの用途に汎用されている。
【0003】
本発明者らは、ガラス状炭素製パイプを得るための前駆体(予備成形体)として、熱硬化性樹脂を含む原料を使用し、遠心成形法によってパイプ状の熱硬化性樹脂成形体を製造する方法を開発し、すでに特許出願を済ませている(特開2000−159575号、および特願2000−155387号)。
【0004】
上記方法により、気孔や膨れなどのない高品質の熱硬化性樹脂パイプを効率よく製造することができ、ひいてはこの樹脂パイプを常法に従って炭素化(焼成)処理することにより、半導体製造用CVD装置の構成部材、特にインナーチューブなどとして優れた性能を示すガラス状炭素製パイプを生産性よく製造することが可能となった。
【0005】
ところで、上記のような樹脂パイプからガラス状炭素製パイプを得るに当たっては、炭化焼成時に所定の直径と真円度を確保すべく、黒鉛製の中子を、焼成前の樹脂円筒内部に配置することが提案されている(特開平11−189470号、および特開平11−189471号)。
【0006】
上記技術のように中子を用いる場合、特にガラス状炭素製パイプの真円度を向上させる点では、焼成による樹脂の収縮を考慮して、得られるガラス状炭素製パイプの内径にできるだけ近い外径を有する中子を使用することが望ましい。
【0007】
しかしながら、焼成後のガラス状炭素製パイプの内径と、中子の外径との差があまりに小さい場合には、炭化焼成後にガラス状炭素製パイプと中子が強く密着するため、中子からガラス状炭素製パイプを取り外すことが困難であり、この取り外しの際に該パイプが破損する場合もあった。こうした現象は、100mm〜200mm程度以上といった口径(内径)の大きなガラス状炭素製パイプの製造において特に問題となっていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、炭化焼成後のガラス状炭素製パイプを中子から容易に取り外し可能としつつ、高い真円度を確保し得るガラス状炭素製パイプの製造方法と、該方法に用いられる中子を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明のガラス状炭素製パイプの製造方法とは、熱硬化性樹脂を用いてパイプを成形し、該パイプの内側に中子を配して炭化焼成することによってガラス状炭素製パイプを製造するに当たり、前記中子の外周の少なくとも一部を構成する材料の線膨張係数をa(K-1)、前記ガラス状炭素の線膨張係数をb(K-1)、とするとき、下式(1)を満足する中子を用いるところに要旨を有するものである。
a−b ≧ 3×10-6(K-1) (1)。
【0010】
なお、本発明でいう「線膨張係数」とは、室温(25℃)と炭化焼成温度の間の平均線膨張係数を意味する。
【0011】
上記中子は、外周のうち、少なくともガラス状炭素製パイプの端部に対応する位置部分が、線膨張係数a(K-1)の材料によって構成されるものであることが好ましい。
【0012】
中子を構成する線膨張係数a(K-1)の材料としては、金属材料、好ましくはステンレス鋼が挙げられる。
【0013】
本発明の製造方法においては、上記中子の表面と上記パイプの内面の間に、可圧縮性を有する耐熱性緩衝材を介在させて焼成させることが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法は、特に内径が100mm以上のガラス状炭素製パイプの製造に好ましく適用される。
【0015】
さらに、上記の中子、すなわち、外周の少なくとも一部を構成する材料の線膨張係数をa(K-1)、ガラス状炭素の線膨張係数をb(K-1)とするとき、上式(1)を満足するガラス状炭素製パイプ製造用中子も本発明に包含される。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、熱硬化性樹脂パイプを炭化焼成してガラス状炭素製パイプを製造するに当たり、高い真円度を確保すること、および、中子からガラス状炭素製パイプを容易に取り外し可能であること、の双方を達成し得る製造方法について鋭意検討を重ねてきた。その結果、特定の線膨張係数を有する材料から構成される中子を用いることで、これらの課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成したのである。
【0017】
本発明の製造方法の基本概念を、図1を用いて説明する。図1は、熱硬化性樹脂パイプを炭化焼成してガラス状炭素製パイプとし、冷却する工程を示したものであり、横軸は工程時間を、左軸は製品(ガラス状炭素製パイプ)の内径および中子の外径を、右軸は温度を、夫々示している。
【0018】
ガラス状炭素製パイプの内径は、炭素化前(熱硬化性樹脂パイプ)では大きく、焼成により炭素化が進行するに従い収縮して小さくなる。また、炭素化が完了した後は、通常、室温まで冷却してパイプを取り外すが、この冷却により、パイプの内径、中子の外径とも、収縮して小さくなる。
【0019】
中子の外径は、ガラス状炭素製パイプの真円度を高めるため、図1中の炭素化処理温度(炭化焼成温度)において、パイプの内径との差が極めて小さくなるように、パイプの上記収縮の程度を見込んで決定される。しかし、従来用いられていた中子の材料(黒鉛やカーボン繊維など)では、上記冷却過程での収縮率が非常に近い。よって、炭化焼成後、室温まで冷却した状態においても、パイプの内径と中子の外径の差は小さく、パイプを中子から取り外すことが困難であった。
【0020】
そこで、ガラス状炭素製パイプを構成するガラス状炭素の線膨張係数よりも、所定値以上大きな線膨張係数を有する材料から構成される中子を用いることとした。このような中子であれば、ガラス状炭素製パイプの形状矯正が求められる高温下(炭化焼成温度下)においては、該パイプの内径とほぼ等しい外径を有していても、室温まで冷却した際には、該パイプよりも大きく収縮するため、該パイプとの間に隙間が生じる。よって、ガラス状炭素製パイプを中子から容易に取り外し得るのである。
【0021】
本発明の製造方法では、中子の外周の少なくとも一部を構成する材料の線膨張係数をa(K-1)、ガラス状炭素の線膨張係数をb(K-1)とするとき、上式(1)を満足する中子を用いることと規定した。
【0022】
上記の中子であれば、例えば、100mmの内径のガラス状炭素製パイプを、1000℃の炭化焼成温度で製造するに当たり、該炭化焼成温度でのパイプの内径と中子の外径を等しくした場合に、炭化焼成後室温まで冷却すると、パイプの内径と中子の外径に0.3mm程度の差が生じる。パイプと中子の間にこの程度の隙間が生じれば、パイプを中子から容易に取り外すことができる。よって、極めて高い真円度のガラス状炭素製パイプを、中子からの取り外し時の割れなどを防止しつつ製造できるのである。
【0023】
上式(1)に係る「a−b」が3×10-6(K-1)を下回る場合では、ガラス状炭素製パイプの真円度を高めるために、炭化焼成温度での中子の外径をパイプの内径とほぼ等しくなるようにすると、炭化焼成後、室温まで冷却した場合に、パイプと中子の間の隙間が非常に小さく、パイプを中子から取り外すこととが困難となり、場合によっては該取り外し時にパイプが破損してしまう。一方、ガラス状炭素製パイプの中子からの取り外しが容易となるように中子の外径を設定すると、炭化焼成温度での中子の外径と、パイプの内径の差が大きくなり、高度な真円度のパイプを製造することができない。上記「a−b」の好ましい下限は6×10-6(K-1)、より好ましい下限は9×10-6(K-1)である。
【0024】
なお、「a−b」の上限は特に限定されず、中子に使用できるような性質(特に後述する耐熱性)を有する材料のうち、最大の線膨張係数を有するものの該線膨張係数(a)と、ガラス状炭素の線膨張係数(b)との組合せによって決定される。
【0025】
なお、各材料の線膨張係数は、公知の測定法(例えば、JIS R 1618に規定の測定方法など)を用いて求めればよい。一例を挙げると、ガラス状炭素では、例えば熱機械分析装置(リガク社製「TMA8140」など)を用い、試料を長さ20mm、長さ方向に垂直な断面が2mm×2mmの角柱状とし、該長さ方向に微小荷重を掛けながら5℃/分で昇温した時に測定される該試料の長さ方向の寸法変化から求められる。
【0026】
本発明に用いられる中子の形状は、円筒状であっても円柱状でもよく、できるだけ真円に近い形状であることが好ましい。ただし、目的に応じて、楕円形状であってもよいし、あるいは、パイプの長手方向に段付き状またはテーパー状に径が変化しているものであってもよい。
【0027】
ただし、所望の真円度を確保するためには、中子外周の形状は、焼成前の樹脂パイプ内周の形状と相似していることが好ましい。また、既述の通り、焼成により、樹脂パイプの収縮率に応じて該パイプの内周長さ(内径)が収縮するのに対応して、中子の外周長さ(外径)を調整することが好ましい。詳細には、パイプの肉厚、内径、材料、中子の材料などによっても変化し得るが、概ね、中子の外周長さは、焼成前のパイプの内周長さに対し、70〜90%の範囲に調整することが推奨される。
【0028】
なお、ガラス状炭素製パイプの全長に亘って、高い真円度が要求される場合は、全外周が、上式(1)を満足する材料で構成される中子を用いればよい(例えば、全体が該材料で構成されている中子など)。他方、ガラス状炭素製パイプの一部にのみ、高い真円度が要求される場合は、外周のうち、ガラス状炭素製パイプの該箇所に対応する位置部分は、上式(1)を満足する線膨張係数を有する材料で構成され、他の部分については、上式(1)を満たさない材料で構成される中子を用いてもよい。
【0029】
後者の中子の場合、炭化焼成後室温まで冷却した際に、該パイプを中子から容易に取り外すことができるように、ガラス状炭素製パイプのうち、高い真円度が要求されない部分に対応する該中子の位置部分では、室温における外径が、該パイプの内径よりも十分小さくなるように設計する。
【0030】
例えば、ガラス状炭素製パイプを半導体製造用装置などに用いる場合、通常、該パイプの接合部分、すなわち端部にのみ高い真円度が要求されるため、該パイプの製造に用いられる中子は、外周のうち、少なくとも該パイプの端部に対応する位置部分が、上式(1)を満足する材料で構成されていればよい。
【0031】
外周の特定箇所のみが上式(1)を満足する材料で構成される中子としては、例えば、上式(1)を満たさない材料からなる円筒や円柱のうち、該特定箇所に該当する位置部分の外周を削り、該位置部分に上式(1)を満足する材料で構成されるリングを嵌合したものなどが挙げられる。また、上式(1)を満たさない材料からなる円筒や円柱の端部の外周を削り、該部分に、位置ずれが起きない程度の内径の円筒[上式(1)を満足する材料で構成されるもの]などを被せるように積み重ねたものなどを用いてもよい。勿論、これらの方法に限定されず、他の方法によって得られる中子を用いることも可能である。
【0032】
中子を構成する材料は、炭化焼成温度に耐え得る(変形や変質しない)程度の耐熱性を有するものでなければならない。このうち、上式(1)を満足し得るものとしては、例えば、ステンレス鋼などの耐熱性鉄基合金;ニッケル基合金;アルミナ(Al2O3、線膨張係数:6.6〜6.8×10-6K-1)、ステアタイト(MgO・SiO2、線膨張係数:6.9×10-6K-1)、フォルステライト(2MgO・SiO2、線膨張係数:10×10-6K-1)などのセラミックス材料;などが挙げられ、これらの中から、採用する炭化焼成温度に応じて、十分な耐熱性を有する材料を適宜選択すればよい。
【0033】
例えば、900℃以上の炭化焼成温度を採用する場合に用い得る材料としては、具体的には、SUS310S、アルミナセラミックス、インコネルなどが代表的なものとして挙げられる。
【0034】
なお、中子を構成する材料の上記具体例は、特に代表的なものを例示したに過ぎず、これらに限定されるわけではない。
【0035】
また、上式(1)を満たさず、上式(1)を満足する材料と組み合わせて用い得る材料としては、従来から用いられている黒鉛、カーボン繊維(例えば、カーボンフェルトそのものを圧縮・成形したカーボン断熱材など)などが挙げられる。
【0036】
このように本発明の製造方法では、炭化焼成時に製品パイプの内径とほぼ等しい外径の中子を用いても、炭化焼成後、冷却した状態では、ガラス状炭素製パイプを中子から容易に取り外すことができるため、高い真円度のガラス状炭素製パイプを、割れやクラックなどの不良の発生を抑制しつつ製造することができる。
【0037】
本発明の製造方法は、得られるガラス状炭素製パイプの内径を特に限定するものではないが、特に100mm以上、さらには200mm以上の内径のガラス状炭素製パイプの製造に好適である。このように内径の大きなガラス状炭素製パイプでは、従来から採用されている機械加工などの適用が困難であるなど、従来の製法では高い真円度を確保し難いからである。
【0038】
ただし、上式(1)に係る「a−b」値が同じ値であっても、製造するガラス状炭素製パイプの内径が小さくなると、必然的にパイプと中子の間の隙間は小さくなる。本発明で規定する上記「a−b」値の下限は、本発明法が特に好ましく適用される比較的内径の大きなガラス状炭素製パイプ(例えば100mm以上)の製造において推奨されるものであり、比較的内径の小さなガラス状炭素製パイプの製造に当たっては、「a−b」値の上記好ましい下限を満足し得る材料から構成される中子を用いることが望ましい。
【0039】
また、ガラス状炭素製パイプの真円度を高めると共に、割れやクラックの発生を高度に抑制する点では、上記の中子の表面と該パイプの内周の間に、可圧縮性を有する耐熱性緩衝材を介在させて炭化焼成を行うことが好ましい。
【0040】
上記本発明の好ましい態様を、図2を用いて説明する。図2は、焼成前の樹脂パイプであって、樹脂パイプの内面と中子の表面との間に、耐熱性緩衝材(カーボンフェルト)を介在させたときの模式図である。なお、図2は、本発明の好ましい態様の一例を示したものに過ぎず、これに限定する趣旨ではない。
【0041】
図2に示す通り、樹脂パイプの内面と中子の表面との間には、耐熱性緩衝材が介在されている。なお、図2には、中子の外周全体に耐熱性緩衝材が巻き付いた態様が図示されている(中子と緩衝材との位置関係をわかり易くするため、中子の上端部および下端部が見えるように図示されている)が、これに限定されない。要するに、焼成過程でパイプが収縮しつつ中子に抱き付くことにより、パイプの真円度がコントロールできるような状態で、耐熱性緩衝材が樹脂パイプの内面と中子の表面との間に介在されていればよい。
【0042】
ガラス状炭素製パイプの一部でのみ、高い真円度が求められる場合は、この部分に対応する中子外周の位置部分に、耐熱性緩衝材が存在するようにすればよい。例えば、上述の、外周の一部のみが上式(1)を満足する材料で構成されている中子の場合は、該材料で構成されている外周部分にのみ、耐熱性緩衝材が存在するようにすれば、中子の該部分に対応する位置部分では、ガラス状炭素製パイプの真円度を極めて高くすることができると共に、炭化焼成後、該パイプを中子から取り外し易くすることができる。また、全外周(例えば、中子全体)が上式(1)を満足する材料で構成されている中子の場合などでは、適切な間隔をおき、数箇所に分けて耐熱性緩衝材を巻き付けるなどの方法を採用してもよい。
【0043】
上記の緩衝材は、焼成過程において、優れた耐熱性を有する(一般には、1000℃前後またはそれ以上の高温域で焼成されるが、1500〜1600℃といった極めて高温の焼成域においても、優れた耐熱性を示すこと)と共に、可圧縮性(好ましくは可圧縮率5〜80%)を備えていることが必要である。なお、上記の可圧縮率とは、JIS K 7181に規定される圧縮歪み(歪み率)を意味する。
【0044】
本発明に用いられる緩衝材の可圧縮率は、5%以上80%以下であることが好ましい。5%未満では、緩衝効果が十分に得られない。より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上である。ただし、可圧縮率が80%を超えると、変形代が大きくなり、パイプの形状・寸法の矯正効果が不十分となる。より好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下である。
【0045】
このような耐熱性および可圧縮性の双方に優れた緩衝材としては、カーボン繊維を構成素材とすることが好ましい。具体的には、カーボン素材であって、製織、編成によらずに布にしたフェルトや不織布が挙げられ、中でもカーボンフェルトの使用が推奨される。
【0046】
上記緩衝材を中子に巻き付けた態様の場合、緩衝材による緩衝機能を有効に発揮させるためには、緩衝材の巻き厚み(厚み)を適切に制御することが推奨される。基本的には、焼成による樹脂パイプの収縮後の内径よりも小さい外径の中子を用い、該中子に、パイプ収縮後の内径となるまで上記耐熱性緩衝材を巻き付けることにより、所望の真円度を確保することができる。緩衝材の厚さが厚すぎると、圧縮効果が大きくなり過ぎて、焼成による樹脂パイプの変形を十分に防止することが困難となる。他方、緩衝材の厚さが薄すぎると、所望の緩衝効果が得られず、ガラス状炭素製パイプに割れなどが発生し易い。
【0047】
緩衝材の適切な巻き厚みは、使用する中子の外径と、焼成温度でのガラス状炭素製パイプの内径によって決定される。具体的には、中子やパイプの肉厚、内径、素材などによって変化し得るが、例えば厚さ1〜5mmのフェノール樹脂パイプの場合には、中子に緩衝材を巻き付けた状態での外径が、焼成温度でのパイプと同じか、せいぜい数mm(2mm程度)太めであることが好ましい。なお、本発明における「緩衝材の厚み」とは、中子に緩衝材を巻き付けた状態での最大厚み(最も緩い状態での厚み)を意味する。
【0048】
また、緩衝材を用いるか否かを問わず、中子の外径(ガラス状炭素製パイプにおいて、上述した高い真円度が要求される部分に対応する位置部分の外径)は、焼成温度でのガラス状炭素製パイプの内径と同じか、せいぜい数mm程度小さくすることが推奨される。
【0049】
このように、樹脂パイプと中子の間に耐熱性緩衝材を介在させれば、昇温および炭素化に伴う樹脂パイプの収縮、および昇温に伴う中子の膨張によって、パイプ−中子間に生じる応力を、耐熱性緩衝材が吸収する。よって、極めて高い真円度を確保できるような「中子外径+緩衝材の厚み」としても、ガラス状炭素製パイプの割れやクラックなどの発生を高度に抑制し得ると共に、中子からの取り外し易さも確保できる。さらに、中子に金属材料を用いる場合では、該金属とガラス状炭素製パイプに係る炭素との反応が懸念されるが、中子とパイプの間に上記耐熱性緩衝材を介在させることで、このような反応を防止し、従来と変わらない高品質のガラス状炭素製パイプを製造できる。
【0050】
なお、本発明に用いられる熱硬化性樹脂は特に限定されず、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。中でも、炭化収率の高いフェノール樹脂、フラン樹脂の使用が推奨される。
【0051】
また、上記の熱硬化性樹脂を用いてパイプを成形する方法は特に限定されず、熱硬化性樹脂パイプの製造に通常用いられている成形方法を採用することができる。具体的には、例えば、遠心成形法、注型法、射出成形法、押出成形法などが挙げられる。その他、あらかじめ適度に硬化された可撓性のある樹脂板をパイプ状に丸めたもの、樹脂棒を機械加工によりパイプ状に打ち抜いたものなども使用することができる。このうち、肉厚が均一で、内部に気泡の少ないパイプを得るためには、特に遠心成形法の使用が推奨される。
【0052】
また、炭化焼成する方法についても特に限定されず、通常の焼成方法を採用することができる。具体的には、不活性雰囲気中(通常、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス、窒素、水素、ハロゲンガスなどの非酸化性ガスの少なくとも一種の気体からなる酸素を含まない雰囲気;減圧若しくは真空下、または黒鉛粉、炭素粉などに埋没させて大気を遮断した雰囲気など)において、通常、約900℃以上の温度(好ましくは1000〜1600℃の温度)で炭化焼成した後、好ましくは1300〜3000℃で高温熱処理することにより、所望のガラス状炭素製パイプを得ることができる。
【0053】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0054】
実験1
遠心成形法により、外径324mm、長さ1m、肉厚3mmの円筒状フェノール樹脂成形体を作製した。得られたフェノール樹脂パイプを220℃でポストキュアした後、以下の要領で焼成した。
【0055】
樹脂パイプの中心に、SUS310S(線膨張係数16.9×10-6K-1)製中子を配置した。中子のサイズは、樹脂パイプの収縮を見込んで、外径250mm、長さ850mmとした。
【0056】
上記中子を配置した状態で樹脂パイプを電気炉に入れ、窒素雰囲気中、2℃/hrの昇温速度で加熱し、900℃で1時間炭化焼成した。その後室温まで冷却し、中子から取り外してガラス状炭素製パイプを得た。
【0057】
上記と同様の方法で、ガラス状炭素製パイプを10本製造した。得られたガラス状炭素製パイプのうち、炭化焼成後冷却して電気炉から取り出した際に、既に割れやクラックの生じていたもの(焼成時破損)、中子からの取り外し不可能であったものや取り外しの際に割れやクラックが発生したもの(脱型不能)、および外径差(後述する真円度)が4mmを超えたもの(寸法不良)を不良とし、下式により不良率を算出した。
不良率(%)=100×(不良パイプ数)/(製造パイプ数)。
また、良好に得られたガラス状炭素製パイプについては、該パイプの長手方向に亘って真円度(製品外径の最大径と最小径との差)を測定した。
【0058】
中子の「a−b」値、室温(25℃)および炭化焼成温度(900℃)での中子の外径を表1に、ガラス状炭素製パイプの不良率、並びにガラス状炭素製パイプの真円度を表2に示す。なお、「a−b」値の算出に用いたガラス状炭素の線膨張係数(3.0×10-6K-1)は、熱機械分析装置(リガク社製「TMA8140」)を用い、試料を長さ20mm、長さ方向に垂直な断面が2mm×2mmの角柱状とし、該長さ方向に微小荷重を掛けながら5℃/分で昇温した時に測定される該試料の長さ方向の寸法変化から求めた値である。
【0059】
実験2〜4
中子の材料、および外径を表1に示すように変更した他は、実験1と同様にしてガラス状炭素製パイプを製造し、実験1と同様に評価した。結果を表2に示す。なお、中子に用いた材料の線膨張係数は、アルミナが6.8×10-6K-1、黒鉛が4.5×10-6K-1である。
【0060】
実験5
表1に示す材料および外径の中子にカーボンフェルト材を巻き付け、樹脂パイプの中心に配置して炭化焼成した他は、実験1と同様にしてガラス状炭素製パイプを製造した。得られたガラス状炭素製パイプは、カーボンフェルト材の周囲に均一に抱き付いていた。このガラス状炭素製パイプについて、実験1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0061】
実験6
中子の材料、および外径を表1に示すように変更した他は、実験5と同様にしてガラス状炭素製パイプを製造し、実験1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0062】
実験7
外径251mm、内径211mm、長さ850mmの円筒状黒鉛の片方の端部から100mm部分までの外周を切削し、該切削部分に外径246.8mm、内径236.8mm、長さ100mmのSUS310S製リングを嵌合したものを中子とし、このSUS310S製リング外周にカーボンフェルト材を巻き付けて用いた(表1)他は、実験5と同様にしてガラス状炭素製パイプを製造し、実験1と同様にして評価した。なお、真円度は、上記SUS310S製リング部分に対応する位置部分でのみ測定した。結果を表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
なお、表2において、実験7の「a−b」値は、上記リングに用いたSUS310Sの線膨張係数から求めた値であり、中子外径は、該リング部分の外径である。
【0066】
本発明法を採用した実験1,2および5〜7では、真円度(外径差)の良好なガラス状炭素製パイプが得られており、製品不良(破損、脱型不能、寸法不良)は発生しなかった。
【0067】
なお、実験5〜7はカーボンフェルト材を用いた例であるが、このうち、実験6では、他の実験に比べると、やや真円度の低いガラス状炭素製パイプが得られている。これは、線膨張係数がガラス状炭素製パイプに近い材料(アルミナ)から構成される中子を用いたため、製品パイプの中子からの取り外し易さを考慮して、同じカーボンフェルト材を用いた実験5(SUS310S製中子使用)よりも、該中子の外径を小さくしたためである。
【0068】
他方、実験3および4は、本発明の要件を満足しない材料から構成される中子を用いた製造例である。このうち、実験3では、得られるガラス状炭素製パイプの真円度を考慮して、炭化焼成温度での外径が実験1や実験2のものと同等になるように設計した中子を用いたが、全ての製品パイプが不良(炭化焼成時破損、または脱型不良)であった。
【0069】
また、実験4では、ガラス状炭素製パイプを中子から取り外し易くするように室温での外径を決めた中子を使用したが、炭化焼成温度での熱膨張が小さいために該中子の外径が小さく、炭化焼成温度においても中子とパイプとの間の隙間が比較的大きい。よって、矯正効果が不十分であり、得られたガラス状炭素製パイプの真円度が劣っていた。
【0070】
【発明の効果】
本発明では、ガラス状炭素製パイプの製造に当たり、使用する中子の材料を特定のものとすることで、所望の真円度を確保しつつ、炭化焼成後のガラス状炭素製パイプを中子から容易に取り外し可能とすることができた。これにより、高い真円度のガラス状炭素製パイプを、割れなどの不良発生を抑制しつつ製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基本概念を説明する図である。
【図2】樹脂パイプの内面と中子の表面との間に、耐熱性緩衝材を介在させた態様を示す図である。
Claims (10)
- 熱硬化性樹脂を用いてパイプを成形し、該パイプの内側に中子を配して炭化焼成することによってガラス状炭素製パイプを製造するに当たり、
前記中子の外周の少なくとも一部を構成する材料の線膨張係数をa(K-1)、前記ガラス状炭素の線膨張係数をb(K-1)、とするとき、
a−b≧3×10-6(K-1)
を満足し、炭化焼成温度下において前記ガラス状炭素製パイプの内径とほぼ等しい外径を有する中子を用いることを特徴とするガラス状炭素製パイプの製造方法。 - 内径が100mm以上のガラス状炭素製パイプの製造に適用される請求項1に記載の製造方法。
- 前記中子の外周長さは、焼成前の前記パイプの内周長さに対し、70〜90%の範囲に調整されているものである請求項1または2に記載の製造方法。
- 外周のうち、少なくともガラス状炭素製パイプの端部に対応する位置部分が、前記線膨張係数a(K-1)の材料で構成されてなる中子を用いるものである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
- 前記線膨張係数a(K-1)の材料は、金属材料である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
- 前記金属材料は、ステンレス鋼である請求項5に記載の製造方法。
- 前記中子の表面と前記パイプの内面の間に、可圧縮性を有する耐熱性緩衝材を介在させるものである請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
- 熱硬化性樹脂を用いてパイプを成形し、炭化焼成してガラス状炭素製パイプを製造する際に使用される中子であって、外周の少なくとも一部を構成する材料の線膨張係数をa(K-1)、ガラス状炭素の線膨張係数をb(K-1)とするとき、
a−b≧3×10-6(K-1)
を満足し、炭化焼成温度下において前記ガラス状炭素製パイプの内径とほぼ等しい外径を有するものであることを特徴とするガラス状炭素製パイプ製造用中子。 - 内径が100mm以上のガラス状炭素製パイプの製造に適用される請求項8に記載のガラス状炭素製パイプ製造用中子。
- 前記中子の外周長さは、焼成前の前記パイプの内周長さに対し、70〜90%の範囲に調整されているものである請求項8または9に記載のガラス状炭素製パイプ製造用中子。
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