JP4050873B2 - 探針走査制御方法および走査形プローブ顕微鏡 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、走査形トンネル顕微鏡や原子間力顕微鏡などの探針走査制御方法および走査形プローブ顕微鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】
走査形トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)や原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)などの走査形プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)は、探針を試料上で2次元的に走査させて試料像を得るものであり、試料上の非常に微小な領域を観察する顕微鏡である。
【0003】
このような微小領域を観察する走査形プローブ顕微鏡では、試料ドリフトが、試料の同視野の連続観察において大きな問題となる。すなわち、試料の同視野の連続観察を行うために、探針を試料上で同じように複数回フレーム走査させても、試料側がドリフトすると、観察視野がそのドリフトに応じて変化してしまう。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、これまで、このような試料ドリフトを抑える試料ステージなどの改良が行われてきたが、現在においても、上述した同視野の連続観察における問題は解決されていない。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みて成されたもので、その目的は、試料の同視野の連続観察を良好に行うことができる探針走査制御方法および走査形プローブ顕微鏡を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成する本発明の探針走査制御方法は、探針を試料上で走査させて試料像を得る走査形プローブ顕微鏡において、探針を試料上で複数回フレーム走査させて、複数枚の試料像の画像データを取得し、その画像データに基づく複数枚の試料像を表示手段画面上に表示させ、その表示手段画面上に表示される各試料像に対して同一の目標位置をそれぞれ指定し、その指定された目標位置に対応する試料位置での探針の走査時刻を、前記各試料像についてそれぞれ求めると共に、前記各試料像中における前記目標位置の位置に基づき、前記目標位置に対応する試料位置の移動距離および移動方向を求め、前記求めた探針の各走査時刻、前記求めた試料位置の移動距離および移動方向に基づき、試料側のドリフト量を求め、その求めたドリフト量に基づき、探針の試料上での1フレーム走査毎に、探針の試料上での走査開始位置を補正するようにした。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
【0008】
図1は、本発明の走査形プローブ顕微鏡の一例を示したものであり、本発明が適用された走査形トンネル顕微鏡を示したものである。
【0009】
まず、図1の装置構成について説明する。
【0010】
図1において1はチャンバであり、その内部の試料室2は、図示していない排気装置により排気されている。
【0011】
この試料室2には試料ステージ3が配置されており、x,yおよびz方向に移動可能な試料ステージ3は、たとえば特公昭61−30375号公報や特公昭61−30376号公報に記載されているような構成となっていて、試料ドリフトを抑えるように構成されている。そして、試料4が試料ステージ3上にセットされている。
【0012】
また、図1に示すように、探針5が前記試料4に対向かつ接近して配置されていて、探針5は、圧電体で出来たスキャナ6に取り付けられている。このスキャナ6は、xy方向に移動可能なxyスキャナ7と、z方向に移動可能なzスキャナ8で構成されていて、スキャナ6はチャンバ側の取付部9に取り付けられている。
【0013】
また、図1において10は制御手段であり、制御手段10は、メモリ11と、探針走査時刻算出手段12と、移動距離算出手段13と、ドリフト検出手段14を備えている。
【0014】
さらに制御手段10は、キーボードやマウスなどの指定手段15と、表示手段16と、前記xyスキャナ7を駆動制御するxyスキャナコントローラ17と、前記zスキャナ8を駆動制御するzスキャナコントローラ18と、探針5と試料4間に流れるトンネル電流を検出するトンネル電流検出手段19に接続されている。なお、図1には示されていないが、探針5と試料4間には所定のバイアス電圧が印加されている。
【0015】
以上、図1の装置構成について説明したが、以下に動作説明を行う。
【0016】
まずオペレータは、試料観察に先立って試料ドリフトの測定を行うために、試料ドリフトの測定を開始させるための入力を指定手段15により行う。すると、ドリフト測定の指示信号が指定手段15から制御手段10に送られる。
【0017】
そして、ドリフト測定の指示信号を受けた制御手段10は、試料4の凹凸像をまず1枚得るために、探針5を試料4上で1フレーム走査させるための走査信号(xi,yj)(i=1,2,…,m、j=1,2,…,n)をxyスキャナコントローラ17に送る。このxyスキャナコントローラ17は、制御手段10からの前記走査信号(xi,yj)に基づいてxyスキャナ7をxy方向に駆動させるので、探針5は試料4上を2次元的にxy走査する。
【0018】
この探針のxy走査時、探針5と試料4間に流れるトンネル電流はトンネル電流検出手段19で検出されており、その検出信号は制御手段10に送られる。そして制御手段10は、前記検出信号に基づき、前記トンネル電流を一定に保つための探針高さ制御信号zij1(i=1,2,…,m、j=1,2,…,n)をzスキャナコントローラ18に送る。このzスキャナコントローラ18は、制御手段10からの探針高さ制御信号zij1に基づいてzスキャナ8をz方向に駆動させるので、探針のxy走査時において、探針5と試料4間の距離は常に一定に保たれる。
【0019】
このようにして探針の試料上での1フレーム走査が行われ、制御手段10は、試料4の凹凸を表す上述した探針高さ制御信号zij1を探針5の各走査位置(xi,yj)に対応させて、画像データ(xi,yj,zij1)として前記メモリ11に記憶する。こうして、1枚目の試料凹凸像I1の画像データがメモリ11に記憶されるが、このときに制御手段10は、その試料凹凸像I1の画像データに対して、像取得開始時刻T01,探針5の試料上での走査範囲S1,探針5の走査スピードυ1および探針5の走査点数P1を付加情報としてメモリ11に記憶する。ここで、これらの付加情報について図2を用いて説明する。
【0020】
図2は、上述した試料凹凸像I1の画像データを取得したときの、探針5の試料4上でのxy走査の様子を示したものであり、探針5は図2に示す矢印に沿って試料4上をxy走査する。すなわち、探針5は、座標(x0,y0,z0)を走査原点とするxy走査位置(x1,y1)を走査開始位置として、xy走査位置(x2,y1),…,(xm,y1),(xm,y2),(xm−1,y2),…,(x1,y2),…,(xi,yj),…,(x1,yn),…,(xm,yn)の順に走査位置を変える。
【0021】
このとき、上述した像取得開始時刻T01とは、探針5が前記xy走査位置(x1,y1)を走査開始したときの時刻であり、内部に時計を備えた前記制御手段10は、その時刻T01を測定してメモリ11に記憶する。
【0022】
また、前記走査範囲S1とは、図2に示す探針のx方向の走査幅Sxと探針のy方向の走査幅Syであり、前記制御手段10は、その走査範囲S1(Sx×Sy)をメモリ11に記憶する。
【0023】
また、探針の走査スピードυ1とは、探針のxy走査時の速度であり、探針は試料上を一定速度υ1でxy走査する。
【0024】
そして、探針の走査点数P1とは、デジタル走査信号によってステップ状にxy走査される探針の走査点の数であり、その走査点数は図2に示すように(m×n)である。
【0025】
以上、前記試料凹凸像I1の画像データの付加情報T01,S1,υ1,P1について説明したが、このうちの付加情報S1,υ1,P1は、ドリフト測定前にオペレータによって制御手段10側に入力されている。そして制御手段10は、その入力された情報に基づいて前記走査信号(xi,yj)を作成してxyスキャナコントローラ17に供給している。
【0026】
さて、1枚目の試料凹凸像I1の画像データ(xi,yj,zij1)が得られると、制御手段10は、2枚目の試料凹凸像I2の画像データを得るために、探針5を試料4上で1フレーム走査させるための走査信号(xi,yj)(i=1,2,…,m、j=1,2,…,n)をxyスキャナコントローラ17に送る。このときに制御手段10からxyスキャナコントローラ17に送られる走査信号(xi,yj)は、試料凹凸像I1の画像データを得たときの走査信号(xi,yj)とまったく同じ信号であるので、xyスキャナコントローラ17によるxyスキャナ7の駆動によって、探針5は試料凹凸像I1の画像データを得た時と同様に試料4上を2次元的にxy走査する。
【0027】
このときの探針のxy走査時においても、制御手段10は、試料凹凸像I1の画像データを取得した時と同様、前記トンネル電流検出手段19からの検出信号に基づき、前記トンネル電流を一定に保つための探針高さ制御信号zij2(i=1,2,…,m、j=1,2,…,n)をzスキャナコントローラ18に送る。このため、zスキャナコントローラ18によるzスキャナ8の駆動によって、探針のxy走査時において、探針5と試料4間の距離は常に一定に保たれる。
【0028】
このようにして探針の試料上での1フレーム走査が行われ、制御手段10は、試料凹凸像I1の画像データ取得時と同様、得られた2枚目の試料凹凸像I2の画像データ(xi,yj,zij2)をメモリ11に記憶する。このとき、制御手段10は、得られた試料凹凸像I2の画像データに対して前記付加情報をメモリ11に記憶する。すなわち、制御手段10は、試料凹凸像I2の画像データに対して、像取得開始時刻T02,探針5の試料上での走査範囲S2,探針5の走査スピードυ2および探針5の走査点数P2を付加情報としてメモリ11に記憶する。この場合、S2=S1、υ2=υ1、P2=P1である。
【0029】
こうして2枚目の試料凹凸像I2の画像データが得られると、制御手段10は、3枚目の試料凹凸像I3の画像データを得るために、探針5を試料4上で1フレーム走査させるための走査信号(xi,yj)をxyスキャナコントローラ17に送る。このときに制御手段10からxyスキャナコントローラ17に送られる走査信号(xi,yj)は、試料凹凸像I1とI2の画像データを得たときの走査信号(xi,yj)と同じ信号なので、探針5は試料凹凸像I1とI2の画像データを取得したときと同様に試料4上をxy走査する。
【0030】
このときも制御手段10は、探針5と試料4間の距離が常に一定に保たれるように探針高さを制御する。
【0031】
そして制御手段10は、得られた試料凹凸像I3の画像データ(xi,yj,zij3)をメモリ11に記憶する。このとき制御手段10は、試料凹凸像I3の画像データに対して、像取得開始時刻T03,探針5の試料上での走査範囲S3,探針5の走査スピードυ3および探針5の走査点数P3を付加情報としてメモリ11に記憶する。この場合、S3=S2=S1、υ3=υ2=υ1、P3=P2=P1である。
【0032】
以上のようにして、3枚の試料凹凸像I1,I2,I3の画像データが得られると、制御手段10は、それらの画像データを順に読み出して表示手段16に供給する。これらの画像データを受け取った表示手段16は、図1に示すようにその表示画面A上に、試料凹凸像I1,I2,I3を同時に表示する。
【0033】
さて、図1の表示画面A上に表示された試料凹凸像I1,I2,I3において、各試料凹凸像中における円形の像I0は、試料4上の同一対象物に関するものである。このため、試料ドリフトが発生していなければ、各試料凹凸像I1,I2,I3中における前記像I0の位置は同じとなる。しかしながら、図1からもわかるように、各試料凹凸像I1,I2,I3中における像I0の位置は異なっており、このことは試料ドリフトが発生していることを表している。
【0034】
そこで次にオペレータは、表示画面A上に表示されているカーソルKを指定手段15を操作して画面A上で移動させ、各試料凹凸像I1,I2,I3に対して、試料凹凸像中における同一の目標位置にカーソルKを位置させてそれぞれ位置指定する。この場合にオペレータは、上述した像I0の中心位置を目標位置と決め、図1に示すように、試料凹凸像I1については像I0の中心位置M1にカーソルKを位置させて位置指定を行い、また、試料凹凸像I2については像I0の中心位置M2にカーソルKを位置させて位置指定を行い、そして、試料凹凸像I3については像I0の中心位置M3にカーソルKを位置させて位置指定を行う。
【0035】
なお、この位置指定については、たとえばキーボードの特定キーを押して位置指定を行ったり、マウスをクリックすることによって位置指定を行うようにすればよい。
【0036】
このようにして、試料凹凸像I1,I2,I3に対して、同一の目標位置M1,M2,M3が指定されると、試料凹凸像I1中におけるM1の位置を表す位置指定信号(M1)と、試料凹凸像I2中におけるM2の位置を表す位置指定信号(M2)と、試料凹凸像I3中におけるM3の位置を表す位置指定信号(M3)が、表示手段16から制御手段10に送られる。そして、制御手段10の探針走査時刻算出手段12は、それらの位置指定信号に基づき、各試料凹凸像I1,I2,I3について、前記目標位置M1,M2,M3に対応する試料4上の点MSでの探針走査時刻T1,T2,T3をそれぞれ求める。ここで、この探針走査時刻T1,T2,T3の求め方について説明する。
【0037】
まず探針走査時刻算出手段12は、試料凹凸像I1を取得したときに、前記目標位置M1に対応する試料位置MS上を探針5が走査した時刻T1を求めるために、前記位置指定信号(M1)に基づき、前記目標位置M1に対応する試料位置MSでの探針5のxy走査位置(xi,yj)M1を求める。この求められた探針のxy走査位置(xi,yj)M1が、たとえば図2に示す(x2,yn−1)のとき、探針走査時刻算出手段12は、次式(1)に基づいて前記時刻T1を求める。
【0038】
T1=T01+N1×t …(1)
この式(1)において、T01は、試料凹凸像I1の付加情報としてメモリ11に記憶された前記像取得開始時刻T01である。
【0039】
また、式(1)におけるN1は、前記xy走査位置(x2,yn−1)における探針5の走査順番であり、この場合には、N1は図2に示すように47番目である。探針走査時刻算出手段12は、このときのN1を、前記xy走査位置(x2,yn−1)と、試料凹凸像I1の付加情報としてメモリ11に記憶された前記走査点数P1と、図2に矢印で示した探針の走査方向に基づいて求めている。
【0040】
また、式(1)におけるtは、探針5が1つの走査点にとどまる時間(s)である。探針走査時刻算出手段12は、この時間t(s)を、試料凹凸像I1の付加情報としてメモリ11に記憶された前記走査範囲Sx、探針速度υ1、およびx方向の走査点数mから、t(s)=Sx/(υ1×m)により求めている。
【0041】
こうして、探針走査時刻算出手段12は前記時刻T1を求めると、次に探針走査時刻算出手段12は、試料凹凸像I2を取得したときに、前記目標位置M2に対応する試料位置MS上を探針5が走査した時刻T2を求めるために、前記位置指定信号(M2)に基づき、前記目標位置M2に対応する試料位置MSでの探針5のxy走査位置(xi,yj)M2を求める。この求められた探針のxy走査位置(xi,yj)M2が、たとえば図2に示す(x3,yn−2)のとき、探針走査時刻算出手段12は、次式(2)に基づいて前記時刻T2を求める。
【0042】
T2=T02+N2×t …(2)
この式(2)において、T02は、試料凹凸像I2の付加情報としてメモリ11に記憶された前記像取得開始時刻T02である。また、N2は、前記xy走査位置(x3,yn−2)における探針5の走査順番であり、この場合には、N2は図2に示すように35番目である。探針走査時刻算出手段12は、このときのN2を、上述したN1を求めたときと同様にして求めている。また、式(2)におけるtは、上述した式(1)におけるtと同じである。
【0043】
さらに、探針走査時刻算出手段12は、試料凹凸像I3を取得したときに、前記目標位置M3に対応する試料位置MS上を探針5が走査した時刻T3を求める。この時刻T3の求め方については、上述した時刻T1とT2の求め方と同じである。なお、このときの目標位置M3に対応する試料位置MSでの探針走査位置(xi,yj)M3を(x4,yn−3)とする。
【0044】
以上のようにして、探針走査時刻算出手段12は時刻T1,T2,T3を求めると、次に制御手段10の移動距離算出手段13は、前記位置指定信号(M1)と(M2)に基づき、前記試料4上の点MSが時刻T1から時刻T2にかけて移動した距離d12を求める。この際、移動距離算出手段13は、位置指定信号(M1)に基づいて前記探針走査時刻算出手段12で求められた探針走査位置(xi,yj)M1=(x2,yn−1)と、位置指定信号(M2)に基づいて前記探針走査時刻算出手段12で求められた探針走査位置(xi,yj)M2=(x3,yn−2)から、d12を√((x3−x2)2+(yn−2−yn−1)2 )により求める。
【0045】
また、移動距離算出手段13は、前記位置指定信号(M2)と(M3)に基づき、前記試料4上の点MSが時刻T2から時刻T3にかけて移動した距離d23を求める。この際、移動距離算出手段13は、位置指定信号(M2)に基づいて前記探針走査時刻算出手段12で求められた探針走査位置(xi,yj)M2=(x3,yn−2)と、位置指定信号(M3)に基づいて前記探針走査時刻算出手段12で求められた探針走査位置(xi,yj)M3=(x4,yn−3)から、d23を√((x4−x3)2+(yn−3−yn−2)2 )により求める。
【0046】
さて、図3は、横軸に上述した探針走査時刻T、縦軸に上述した試料位置MSの移動距離dをとったグラフであり、制御手段10のドリフト検出手段14は、前記探針走査時刻算出手段12で求められたT1,T2,T3および前記移動距離算出手段13で求められたd12,d23に基づき、図3のLで示す直線(検量線)を求める。このようにドリフト検出手段14は、前記試料位置MSの移動速度を直線Lで近似すると、ドリフト検出手段14はその直線Lから、前記試料位置MSの移動速度V(=Δd/ΔT)(m/s)を求める。すなわち、ドリフト検出手段14は、試料4および試料ステージ3を含む試料側のドリフト速度V(=Δd/ΔT)(m/s)を求める。
【0047】
さらにドリフト検出手段14は、前記位置指定信号(M1)と(M2)に基づき、前記試料4上の点MSが時刻T1から時刻T2にかけて移動したときの試料位置MSの移動方向D12を求める。図4(a)は、このときに求められた移動方向D12をベクトルで示したものであり、この場合、ベクトルD12の長さは前記距離d12に対応しており、また、ベクトルD12の方向はx軸方向に対してy軸方向に45度傾斜した方向である。
【0048】
またドリフト検出手段14は、前記位置指定信号(M2)と(M3)に基づき、前記試料4上の点MSが時刻T2から時刻T3にかけて移動したときの試料位置MSの移動方向D23を求める。図4(b)は、このときに求められた移動方向D23をベクトルで示したものであり、この場合、ベクトルD23の長さは前記距離d23に対応しており、また、ベクトルD23の方向は前記ベクトルD12と同じく、x軸方向に対してy軸方向に45度傾斜した方向である。
【0049】
そしてドリフト検出手段14は、求めたドリフト方向D12とD23に基づいて、試料側のドリフト方向Dを求める。この際、ドリフト検出手段14は、図4(a)に示したベクトルD12と図4(b)に示したベクトルD23を加算して、図4(c)に示すベクトルDを求めることにより、上述した試料側のドリフト方向Dを求める。この場合、ドリフト方向Dは、x軸方向に対してy軸方向に45度傾斜した方向であり、θ=45度である。
【0050】
このようにして、ドリフト検出手段14は、試料側のドリフト量、すなわちドリフト方向D(θ=45度)とドリフト速度V(=Δd/ΔT)(m/s)を求めると、これらの情報から、試料側のx方向のドリフト速度Vx=Vcosθ(m/s)と、試料側のy方向のドリフト速度Vy=Vsinθ(m/s)をそれぞれ求める。
【0051】
以上、図1の装置における試料ドリフト測定について説明したが、上述したように図1の装置においては、3枚の試料凹凸像に基づき、試料側のドリフト方向を1方向Dとして求めている。このように、試料側のドリフト方向を1方向Dで代表させても問題とならない理由は、図1の試料ステージ3は構成上、そのドリフト方向が変わらずにほぼ同じ方向Dであるためである。このように本発明は、試料側がほぼ一定方向にドリフトする場合に用いて有益である。
【0052】
次に、図1の装置において、試料4の同視野の連続観察を行う場合について説明する。説明の便宜上、上述した試料凹凸像I1,I2,I3を得たときと同じ探針走査によって、試料4上の領域SAを連続観察する場合について説明する。
【0053】
まず、制御手段10は、前記試料領域SAに関する1枚目の試料凹凸像ISA1の画像データを得るために、探針5を試料領域SA上で1フレーム走査させるための走査信号(xi,yj)(i=1,2,…,m、j=1,2,…,n)をxyスキャナコントローラ17に送る。このxyスキャナコントローラ17は、制御手段10からの前記走査信号(xi,yj)に基づいてxyスキャナ7をxy方向に駆動させるので、探針5は前記試料凹凸像I1,I2,I3を取得したときと同様に試料4上を2次元的にxy走査する。
【0054】
このときの探針のxy走査時においても、制御手段10は、試料凹凸像I1,I2,I3の画像データを取得したときと同様、前記トンネル電流検出手段19からの検出信号に基づき、前記トンネル電流を一定に保つための探針高さ制御信号zijSA1(i=1,2,…,m、j=1,2,…,n)をzスキャナコントローラ18に送る。このため、zスキャナコントローラ18によるzスキャナ8の駆動によって、探針のxy走査時において、探針5と試料4間の距離は常に一定に保たれる。
【0055】
このようにして、探針の試料上での1フレーム走査が行われ、制御手段10は、得られた1枚目の試料凹凸像ISA1の画像データ(xi,yj,zijSA1)をメモリ11のメモリ部M0に記憶する。
【0056】
また、制御手段10は、前記画像データ(xi,yj,zijSA1)のメモリ部M0への書き込みを行う一方、その書き込み速度よりも高速に、メモリ部M0に書き込まれた画像データを順に繰り返し読み出して表示手段16に供給する。この結果、この画像データを受け取った表示手段16は、図5(a)に示すようにその画面A上に、試料凹凸像ISA1を表示する。
【0057】
さて、1枚目の試料凹凸像ISA1の画像データ(xi,yj,zijSA1)が得られると、制御手段10は、1枚目と同じ視野の2枚目の試料凹凸像ISA2の画像データを得るために、探針5を走査開始位置(x1,y1)に戻すための信号をxyスキャナコントローラ17に送る。すると、xyスキャナコントローラ17によるxyスキャナ7の駆動によって、探針5は前記走査開始位置(x1,y1)に位置する。
【0058】
ところで、上述した試料凹凸像ISA1取得時における探針5の1フレーム走査時間をta(s)、また、2枚目の試料凹凸像ISA2の取得開始にあたって、探針5を走査位置(xm,yn)から前記走査開始位置(x1,y1)に戻すのに要する時間をtb(s)とすると、このta+tb(s)間においても、試料側は前記Vx=Vcosθ(m/s)の速度でx方向に、また前記Vy=Vsinθ(m/s)の速度でy方向にドリフトしている。そこで、制御手段10は、前記ドリフト検出手段14で検出されたVx=Vcosθ(m/s)と前記時間ta+tb(s)から、試料4が時間ta+tb(s)間にx方向にドリフトした距離dx1=(ta+tb)×Vcosθ(m)を求める。また、制御手段10は、前記ドリフト検出手段14で検出されたVy=Vsinθ(m/s)と前記時間ta+tb(s)から、試料4が時間ta+tb(s)間にy方向にドリフトした距離dy1=(ta+tb)×Vsinθ(m)を求める。
【0059】
そして制御手段10は、探針5を、現在の走査開始位置(x1,y1)からx方向に前記dx1、y方向に前記dy1だけ移動させるための信号をxyスキャナコントローラ17に送る。すると、xyスキャナコントローラ17によるxyスキャナ7の駆動によって、探針5は位置(x1+dx1,y1+dy1)に位置する。
【0060】
このようにして、探針5の走査開始位置が、事前に求められた試料ドリフト量に基づいて変更されると、制御手段10は、前記試料領域SAに関する2枚目の試料凹凸像ISA2の画像データを得るために、探針5を試料凹凸像ISA1取得時と同じ走査幅だけxy走査させるための走査信号をxyスキャナコントローラ17に送る。このxyスキャナコントローラ17によるxyスキャナ7の駆動によって、探針5は試料4上を2次元的にxy走査する。
【0061】
このときの探針のxy走査時においても、制御手段10は、試料凹凸像ISA1の画像データを取得した時と同様、前記トンネル電流検出手段19からの検出信号に基づき、前記トンネル電流を一定に保つための探針高さ制御信号zijSA2をzスキャナコントローラ18に送る。
【0062】
このようにして探針の試料上での1フレーム走査が行われ、制御手段10は、得られた2枚目の試料凹凸像ISA2の画像データ(xi,yj,zijSA2)を、メモリ11のメモリ部M0に順に上書きしていく。そして、制御手段10においては、メモリ部M0に書き込まれていく画像データが高速で繰り返し読み出されて表示手段16に供給されるので、表示手段16の画面A上には、前記試料凹凸像ISA1の上に新しく試料凹凸像ISA2が上書きされていく。
【0063】
図5(b)は、探針5の2回目のフレーム走査が終了したときの、表示画面A上に表示される試料凹凸像ISA2を示したものである。図5(a)の像と比較してわかるように、図5(b)の像と図5(a)の像はほぼ同じであり、試料ドリフトによる影響は像上にあらわれていない。
【0064】
以後、前記同様にして、探針走査開始位置が試料ドリフト量に基づいて補正されてから、探針5が試料凹凸像ISA1取得時と同じ走査幅だけxy走査される。このため、図1の装置においては、試料の同視野の連続観察を良好に行うことができる。
【0065】
以上、図1の装置の動作を説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、種々の変形例を含むものである。
【0066】
たとえば、上記例においては、探針の試料上での1フレーム走査毎に、事前に求めておいたドリフト量に基づいて探針の走査開始位置を補正するようにしている。これに代えて、探針の試料上での1フレーム走査中に、求めておいたドリフト量に基づいて探針の走査位置を補正するようにしてもよい。
【0067】
すなわち、探針の1フレーム走査における上記例のx方向の探針走査速度をυx,y方向の探針走査速度をυyとすると、前記求められた試料側のドリフト速度Vx,Vyを考慮して、探針の1フレーム走査におけるx方向の探針走査速度を(υx+Vx)、y方向の探針走査速度を(υy+Vy)に変更するようにしてもよい。このように、探針走査位置を試料ドリフトに同期させてリアルタイムに補正するようにすれば、同視野の連続観察を行うことができると共に、測定画像内におけるドリフトによる観察対象物の形状変形を抑制できる。
【0068】
なお、この場合、探針を走査開始位置(x1,y1)に戻す戻り走査においても、前記Vx,Vyに基づき、探針走査位置は試料ドリフトに同期してリアルタイムに補正される。
【0069】
また、上記例では、3枚の試料凹凸像を取得して試料側のドリフト量を求めるようにしたが、2枚の試料凹凸像を取得して試料側のドリフト量を求めるようにしてもよく、また、4枚以上の試料凹凸像を取得して試料側のドリフト量を求めるようにしてもよい。
【0070】
また、上記例では、ドリフト測定のために取得した試料凹凸像I1,I2,I3を同時に表示画面上に表示させたが、その試料凹凸像を1枚づつ表示させて前記目標位置を指定するようにしてもよい。
【0071】
また、本発明は走査形トンネル顕微鏡に限らず、原子間力顕微鏡や摩擦力顕微鏡などの走査形プローブ顕微鏡にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の走査形プローブ顕微鏡の一例を示した図であり、本発明が適用された走査形トンネル顕微鏡を示した図である。
【図2】 探針の試料上でのxy走査の様子を示した図である。
【図3】 試料のドリフト速度を説明するために示した図である。
【図4】 試料のドリフト方向を説明するために示した図である。
【図5】 表示手段画面上に表示される試料凹凸像を示した図である。
【符号の説明】
1…チャンバ、2…試料室、3…試料ステージ、4…試料、5…探針、6…スキャナ、7…xyスキャナ、8…zスキャナ、9…取付部、10…制御手段、11…メモリ、12…探針走査時刻算出手段、13…移動距離算出手段、14…ドリフト検出手段、15…指定手段、16…表示手段、17…xyスキャナコントローラ、18…zスキャナコントローラ、19…トンネル電流検出手段
Claims (2)
- 探針を試料上で走査させて試料像を得る走査形プローブ顕微鏡において、探針を試料上で複数回フレーム走査させて、複数枚の試料像の画像データを取得し、その画像データに基づく複数枚の試料像を表示手段画面上に表示させ、その表示手段画面上に表示される各試料像に対して同一の目標位置をそれぞれ指定し、その指定された目標位置に対応する試料位置での探針の走査時刻を、前記各試料像についてそれぞれ求めると共に、前記各試料像中における前記目標位置の位置に基づき、前記目標位置に対応する試料位置の移動距離および移動方向を求め、前記求めた探針の各走査時刻、前記求めた試料位置の移動距離および移動方向に基づき、試料側のドリフト量を求め、その求めたドリフト量に基づき、探針の試料上での1フレーム走査毎に、探針の試料上での走査開始位置を補正するようにしたことを特徴とする探針走査制御方法。
- 探針を試料上で走査させて試料像を得る走査形プローブ顕微鏡において、探針を試料上で複数回フレーム走査させて、複数枚の試料像の画像データを取得する手段と、その画像データに基づく複数枚の試料像を表示手段画面上に表示させる表示手段と、その表示手段画面上に表示される各試料像に対して同一の目標位置をそれぞれ指定するための指定手段と、その指定された目標位置に対応する試料位置での探針の走査時刻を、前記各試料像についてそれぞれ求める手段と、前記各試料像中における前記目標位置の位置に基づき、前記目標位置に対応する試料位置の移動距離および移動方向を求める手段と、前記求められた探針の各走査時刻、前記求められた試料位置の移動距離および移動方向に基づき、試料側のドリフト量を求める手段と、その求められたドリフト量に基づいて、探針の試料上での1フレーム走査毎に、探針の試料上での走査開始位置を補正する制御手段を備えたことを特徴とする走査形プローブ顕微鏡。
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