JP3671591B2 - 走査型プローブ顕微鏡 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は走査型トンネル顕微鏡や原子間力顕微鏡をはじめとする、走査型プローブ顕微鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】
走査型トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)等の走査型プローブ顕微鏡においては、一般に、探針または試料をxy方向(試料表面に沿う2次元方向)に走査するとともに、その走査中に、探針と試料間に作用するトンネル電流や原子間力等の特定の物理量を検出し、その検出値が設定値と一致するように探針または試料をz方向(探針と試料の接近/離隔方向)に駆動制御し、そのz方向への刻々の制御操作量を各走査位置における試料表面の画像データとして、CRT等の表示器に表示する。
【0003】
このような走査型プローブ顕微鏡により、反応の活性な表面や生体膜等の動画像を採取して、その構造の時間的変化を追跡することが行われている。現在、例えば1画面が256×256画素の分解能で、約10nm平方の領域の走査を5画面/秒の走査速度でデータ採取して、十分なコントラストの画像が得られている。
【0004】
また、このような動画像の採取以外の使用においても、走査型プローブ顕微鏡の走査速度を高める工夫が種々行われている。走査型プローブ顕微鏡における走査速度は、通常、トンネル電流や原子間力を一定に保つように動作するz方向への駆動を司るサーボ系の追従特性に応じて選択されるのであるが、分析試料の表面状態や、設定されている走査速度に応じて、適応的にサーボ系の定数を自動的に切り換えるようにしたものが知られている。すなわち、1画面の走査領域内において、凹凸の激しい領域が局在している場合があり、単に走査速度を高くしたのでは、凹凸の激しい領域においてz方向制御を司るサーボ系が追いつかず、トンネル電流や原子間力等の特定の物理量が設定値から偏差した状態で走査が行われ、測定精度が低下する。上記の対策では、このような凹凸の激しい領域において、サーボ系の定数を高応答側に自動的に切り換えることで、偏差を少なくしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
動画像の採取においては、変化の激しい構造を調べるために、上記した走査速度よりも更に高速走査をしたい要求が強い。
【0007】
本発明は、z方向への制御を司るサーボ制御系の定数を変更する方法を用いることなく、高い走査速度で高精度の画像を得ることのできる走査型プローブ顕微鏡を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、その実施の形態を表す図2に示すように、試料Wの表面に沿うxy方向に当該試料Wまたは探針2を走査するxy方向走査系10と、探針1と試料Wとが接近/離隔するz方向に探針2または試料Wを駆動するz方向駆動機構21,22およびそのサーボ制御系20を備え、探針2と試料Wをxy方向に相対的に走査しつつ、これらの間に作用する特定の物理量を検出して、その検出値が設定値に一致するようにz方向駆動機構21を制御し、そのz方向駆動機構21に与えた操作量から試料表面の画像データを得て表示器6に表示する走査型プローブ顕微鏡において、走査中に上記サーボ制御系20における特定物理量の設定値と検出値との偏差を刻々と記憶する記憶手段8と、その記憶手段8に記憶の刻々の偏差に基づいて、上記画像データを補正する画像補正手段9を備えていることによって特徴づけられる。
【0012】
本発明においては、走査中における物理量の設定値と検出値との偏差を逐次記憶しておき、z方向駆動機構21,22の追従性の低下に起因する試料画像のz方向情報の精度低下分をその偏差の大小によって補正することで、比較的高い速度で走査しても高精度の画像を得ようとするものである。
【0013】
すなわち、サーボ制御系20からの操作量信号により動作するz方向駆動機構21,22の試料表面に対する追従性は、系の応答が一定である場合において、サーボ制御系20における検出値と設定値との偏差の大きさに高い関連性がある。従って、走査中における刻々の偏差を記憶して、その偏差の大小に応じて画像データの各画素を補正することにより、高い走査速度のもとに得た画像データを高精度のデータに変換することができる。なお、偏差の大きさと補正量との関係は、例えば特定物理量の探針−試料間距離の依存性をあらかじめ調べておき、また、例えば走査速度を種々に変更して凹凸の異なる試料表面を実験的に測定する等によって、試料表面の状態に関連した系の特性を経験的に求めることにより、あらかじめ設定しておくことができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1は走査型トンネル顕微鏡の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図と電気的構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【0018】
試料Wを試料台1上に載せられ、それに対向して探針2が配置されている。試料台1は、圧電素子をアクチュエータとするxy方向駆動部11とxy方向走査回路12からなるxy方向走査系10により、探針2に対して、試料Wの表面に沿った2次元方向であるxy方向に走査が与えられる。
【0019】
探針2は、同じく圧電素子をアクチュエータとすz方向駆動部21と、そのz方向駆動部21を制御するための後述するサーボ制御系20並びに予見操作量信号発生部7により、試料台1に対して接近/離隔する方向であるz方向に移動される。
【0020】
探針2と試料Wとの間には、トンネル電圧電源3によって所定の電位差が与えられ、この電位差によって探針2と試料Wとの間に流れるトンネル電流は、トンネル電流増幅回路4によって増幅された後、サーボ制御系20に対してトンネル電流検出値として取り込まれる。
【0021】
サーボ制御系20は、z方向駆動部21の圧電素子に対して駆動用の電圧信号を供給する圧電ドライバ22と、その圧電ドライバ22に対して加算点23を通じて操作量信号を供給するコントローラ24と、そのコントローラ24に対してトンネル電流設定値を供給するためのトンネル電流設定器25を主たる構成要素とし、コントローラ24は、そのトンネル電流設定値とトンネル電流増幅回路4からのトンネル電流検出値との偏差εを入力し、その偏差εに応じた操作量信号を発生し、加算点23を通じて圧電ドライバ22に供給する。
【0022】
圧電ドライバ22に対して供給される操作量信号は、A−D変換器(図示せず)でデジタル化された後に画像メモリ5に格納される。画像メモリ5には、同時に、xy方向走査系10による試料台1のxおよびy方向への刻々の走査データも供給されており、上記した操作量信号はxy走査データと関連づけて画像メモリ5に格納され、従って、この画像メモリ5には、試料Wの各走査位置における探針2のz方向操作量データが格納されていくことになる。この画像メモリ5の内容は、CRT6によって画像化されて試料WのSTM像となる。
【0023】
さて、この実施の形態の特徴は、前記した加算点23により、コントローラ24からの操作量信号と予見操作量信号発生部7とが加算され、その加算後の信号が圧電ドライバ22に対して操作量信号として供給される点である。
【0024】
予見操作量信号発生部7は、画像メモリ5に格納されている前回の各走査位置における操作量信号、換言すれば前回の画像データを用いて、次回に供給すべき操作量を予見的に生成して出力する機能を有するもので、この例では、前回の走査時における刻々の操作量と同じ操作量が次の走査時において圧電ドライバ22に供給されるように予見操作量信号が生成される。具体的には、画像メモリ5内に格納されている前回の操作量信号を読みだし、次の走査時におけるxy走査信号をタイミング信号に用いて、同じxy走査位置で同じz方向操作量が得られるように予見操作量信号が生成される。なお、この予見操作量信号の与え方は、z方向のバイアスのドリフトが生じやすいため、変化量に対応した与え方を行うことが望ましい。
【0025】
以上の本発明の実施の形態において、加算点23で予見操作量信号発生部7からの予見操作量信号がコントローラ24からの操作量信号に対して加算されるのは、試料Wの同じ領域を繰り返し測定して動画像を得る場合においてのみであり、以下、そのような動画像の採取時における動作について述べる。
【0026】
試料Wの同じ領域を繰り返し測定する場合、試料Wの表面状態に全く変化がなく、かつ、何らの外乱が存在していない場合には、各走査位置において前回と同じ操作量が与えられるような予見走査量信号の供給により、トンネル電流設定器25からの設定値とトンネル電流増幅回路4からの検出値が一致するが故に偏差εは生じず、また、前回と同じ画像データが得られるはずである。試料Wの表面状態が変化した場合、あるいは何らかの外乱が存在している場合には、上記のような予見走査量信号を供給することにより、表面状態の変化部分ないしは外乱の影響のある部分のみの走査中に偏差εが発生する。
【0027】
さて、試料Wの同領域の繰り返し測定に際して、1回目の測定においては画像メモリ5にデータが格納されていないから、圧電ドライバ22にはサーボ制御系20のコントローラ24からの操作量信号が供給され、従来の走査型トンネル顕微鏡と全く同様の測定が行われる。2回目以降の測定に際しては、画像メモリ5に格納されている前回の操作量と同等の操作量が各走査位置において加算点23に供給される。試料Wの表面状態が前回の状態から変化している場合には、外乱による影響を除いた場合、探針2がその変化部分を走査中においてのみ偏差εが生じ、圧電ドライバ22に供給される操作量信号が前回のものに対して変化し、画像データが変化するが、それ以外の領域の走査中には偏差εが生じない。従って、加算点23および予見操作量信号発生部7のない通常のサーボ制御系20を用いる場合のように、一定のトンネル電流設定値に対するトンネル電流検出値との偏差εが生じたときにこれを打ち消すように動作する場合に比して、この実施の形態において現れる偏差εの量が小さくなる確率が高く、探針2の試料Wの表面に対する追従性は、走査速度を同じとした場合にはより良好なものとなり、同等の追従性でいい場合には走査速度をより高速化することが可能となる。
【0028】
ここで、予見走査量信号の生成の仕方は、以上のように同じ走査位置において前回の操作量と同じ操作量が得られるようにするほか、前回の操作量に対して、前回走査時における刻々の偏差量や、探針の動特性を加味した操作量を与える方法、あるいは、過去何回かの操作量の平均値が得られるようにする等の変形が可能である。
【0029】
また、上記のようにして得られた同じ領域での時系列画像を、同一画素間で差分演算を行うことによって得た差分像を表示する機能を付加すれば、測定領域中における試料表面の変化領域の認識が容易化される。また、このような差分画像を表示する画面上で、操作者が指定した任意の領域に走査領域を変更できる機能を設けることは、動画像の採取による試料の分析作業の容易化を図るうえで極めて有効である。
【0030】
次に、本発明の実施の形態について述べる。図2はその発明を走査型トンネル顕微鏡に適用した構成図であり、機械的構成を表す模式図と電気的構成を表すブロック図とを併記して示している。
【0031】
この図2においては、図1に示したものと同等の機能を有する部材については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
この実施の形態の特徴は、探針2のz方向への駆動を司るサーボ制御系20のトンネル電流設定値とトンネル電流検出値との偏差εが、コントローラ24に供給されると同時に、偏差メモリ8に刻々と格納されるとともに、その偏差メモリ8の内容を用いて、画像メモリ5の各画素データが画像補正部9によって補正されたうえでCRT6に表示される点である。
【0032】
サーボ制御系20の定数が一定である場合、走査中における刻々の偏差εの大きさは、試料Wの表面の凹凸に対する探針2のz方向への追従性に強い関連性があり、偏差εが大きければ大きいほど追従性は悪くなる。そこで、この偏差εと追従性との関係をあらかじめ実験的に調べ、また、トンネル電流の探針2−試料W間の距離依存性を調べておき、あるいは、同じサンプルを走査速度を十分に遅くして偏差εが0またはその近傍を維持するようにして得た画像データを基準として、その同じ領域をより高速の走査速度のもとに走査したときの偏差εの大きさと画像データから、偏差εの量と画像の補正量との関係を表す補正係数を求めておけば、その補正係数と刻々の偏差εを用いて画像データを補正することができる。
【0033】
すなわち、偏差メモリ8には、刻々の偏差εがxy方向走査信号と合わせて格納され、従ってこの偏差メモリ8には、画像メモリ5に格納されている各画素データに対応してそれぞれの画素データを得たときの偏差εが格納される。この各画素ごとの偏差εと、あらかじめ求めておいた補正係数を用いることにより、比較的高速の走査速度のもとに得た画素データを、実質的に偏差εが0またはその近傍を維持できるような走査速度のもとに得られるであろう画素データに補正することができ、高い走査速度で高精度のSTM像が得られる。
【0034】
以上の実施の形態において、偏差メモリ8に記憶した刻々の偏差εを画像とともに表示する機能を設けても、画像の信頼性を表す目安となり得る。
次に、他の実施の形態について述べる。図3はその機械的構成を表す模式図と電気的構成を表すブロック図とを併記して示す構成図であり、この図3においても、図1,図2に示したものと同等の機能を有する部材については、同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0035】
この実施の形態の特徴は、探針2のz方向への駆動を司るサーボ制御系20のトンネル電流設定値とトンネル電流検出値との偏差εが、あらかじめ設定されている所定範囲内に収まっているか否かを判別する偏差量判別部101を設けるとともに、その偏差量判別部101により偏差εが所定範囲内に収まっていると判断されたときにのみ、xy方向走査系100が次画素へのステップ走査を行うようにした点に特徴がある。
【0036】
すなわち、図4にこの実施の形態の走査時における動作を表すフローチャートを示すように、偏差量判別部101は所定の微小インターバルごとに刻々と偏差εを取り込み、その偏差εの値が所定範囲内に収まっているか否かを判別する。xy方向走査系100のxy方向走査回路120は、偏差εが所定範囲内に収まっているときに限ってxy方向駆動部11に対してx方向への走査指令を継続的に出力するが、偏差εが所定範囲内に収まっていない状態では、走査指令を与えずに停止させたまま上記インターバルで偏差εを取り込み、偏差εが所定範囲内に収まるまで時間待ちをする。
【0037】
従って、この例におけるxy方向走査回路120からxy方向駆動部11に対して供給される走査用の電圧信号は、図5(A)に例示するように、試料Wの表面状態等に応じて適宜にステップ走査の有無が繰り返され、この種の装置における通常の走査用の電圧信号が同図(B)に示されるように定常的に変化していくのと相違したものとなる。
【0038】
この実施の形態によれば、xy方向走査系100は、実質的に、偏差εが所定範囲内に収まっていることを確認したうえで、次画素へのステップ走査を行うことになり、換言すれば偏差εが所定範囲内に収まっていることを保証したうえで走査を行うことになり、画像メモリ5には高精度の画像データが蓄積されていくことになる。従って、当初の走査速度を比較的高速度に設定していても、試料Wの表面状態に適応して走査速度が自動的に変化しつつ、高精度のSTM像が得られる。
【0039】
なお、以上の各実施の形態においては、各発明を走査型トンネル顕微鏡に適用した例を示したが、原子間力顕微鏡等、探針と試料との相互作用により得られる他の物理量を検出する走査型プローブ顕微鏡に対しても、各発明を等しく適用し得ることは勿論である。
【0041】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、z方向への制御を司るサーボ制御系における特定物理量の設定値と検出値との偏差を刻々と記憶し、その記憶内容を用いて各走査位置における画像データを補正するから、偏差量が大きくなるような高速の走査速度に設定しても高精度の画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 走査型プローブ顕微鏡の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図と電気的構成を表すブロック図とを併記して示す図
【図2】 本発明の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図と電気的構成を表すブロック図とを併記して示す図
【図3】 走査型プローブ顕微鏡の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図と電気的構成を表すブロック図とを併記して示す図
【図4】 図3の実施の形態の動作を示すフローチャート
【図5】 図3の実施の形態のxy方向走査回路120から出力される走査用電圧信号波形の例の説明図
【符号の説明】
1 試料台
10 xy方向走査系
11 xy方向駆動部
12,120 xy方向走査回路
2 探針
20 サーボ制御系
21 z方向駆動部
22 圧電ドライバ
23 加算点
24 コントローラ
25 トンネル電流設定器
3 トンネル電圧電源
4 トンネル電流増幅回路
5 画像メモリ
6 CRT
7 予見操作量信号発生部
8 偏差メモリ
9 画像補正部
101 偏差量判別部
W 試料
Claims (1)
- 試料の表面に沿うxy方向に当該試料または探針を走査するxy方向走査系と、探針と試料とが接近/離隔するz方向に探針または試料を駆動するz方向駆動機構およびそのサーボ制御系を備え、探針と試料をxy方向に相対的に走査しつつ、これらの間に作用する特定の物理量を検出して、その検出値が設定値に一致するようにz方向駆動機構を制御し、そのz方向駆動機構に与えた操作量から試料表面の画像データを得て表示器に表示する走査型プローブ顕微鏡において、走査中に上記サーボ制御系における特定物理量の設定値と検出値との偏差を刻々と記憶する記憶手段と、その記憶手段に記憶の刻々の偏差に基づいて、上記画像データを補正する画像補正手段を備えていることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
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JP08311297A JP3671591B2 (ja) | 1997-04-01 | 1997-04-01 | 走査型プローブ顕微鏡 |
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-
1997
- 1997-04-01 JP JP08311297A patent/JP3671591B2/ja not_active Expired - Fee Related
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