JP4046965B2 - 成形用制電性シート - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、真空成形性、帯電防止性等に優れた成形用制電性シートに関する。詳しくはIC、LSI、シリコンウエハー、ハードディスク、液晶基板、電子部品等の電子材料の保管、移送、装着に際し、それらの電子部品を静電気等による破壊やゴミ付着等から守るために使用される容器やキャリアテープに、容易に真空及び圧空成形により成形でき得る成形用制電性シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、小型電子部品、特にIC、ダイオード等のチップ型電子部品の需要が伸びてきている。また、パソコン及びハードディスク等の部品製造場所と、部品組立場所とが全世界的に点在して来ている。従って、部品の小型化、半製品部品等の保管、移送、装着の機会が多くなって来ている。また、電子部品の搬送トレー等は、その部品の多様性により、設備投資が小さくてすむ真空成形、熱プレス成形がその大部分を占める。
【0003】
その際、使用されるトレー、キャリアテープ等の容器に関しても、静電気の帯電による部品の静電破壊や確実な装着を困難にして来ている。
これらの問題点を解消するため、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等の成形用押出シートに制電性(帯電防止性)を付与するために、カーボンブラック(CB)や低分子量の界面活性剤を練り込んだり、界面活性剤を塗布することがよく採用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、低分子量の界面活性剤を練り込んだり、塗布する方法は、透明性及び初期の制電効果は確保できるが、下記の欠点を持つ。
(i)湿度の影響が大きい。
(ii)水洗いにより制電性能が無くなる傾向にあり、永久制電性とは言い難い。
(iii )成形用シートの表面の滑性が悪くなるので成形不良を起こす。
【0005】
また、これらの欠点を補うため、高分子型永久帯電防止ポリマーのポリエーテルエステルアミドを、15重量部以下充填した樹脂組成物による射出成形容器等も報告されている(特開平9−14323号公報)。しかし、実際には、押し出し成形では、この充填量では充分な制電効果は得られず、また、充分な制電効果を得ようとすると、ポリエーテルエステルアミドの充填量が多くなり、シートの腰が弱くなるとともに、コスト的にも実用上問題があった。
【0006】
これら上記の欠点を解消するため、図3に示すように、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂製の芯層22の表裏両面に、カーボンブラックをポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂に充填した樹脂製の外層23を形成した成形用制電性共押出シートが提案され(特許2930872号)、実用化されている。
【0007】
また、トレーとしての物性を確保するために、表層のみ表面抵抗率を1010
Ω以下にするという提案もされている(特表2000−507891号)。
しかし、近年、部品の集積度及び小型化により、静電気により繊細になってきており、部品への影響を考えると、体積的(厚み方向)にも静電気の散逸性を確保しておかなければ、制電性が完全とは言い難くなってきている。
【0008】
そこで、この問題を解消するため、単純に、シート全体を導電材を練り込んだ樹脂で形成することが考えられるが、コスト、材料物性確保、成形性確保に問題が山積している。
【0009】
本発明は前記の問題に鑑みてなされたものであって、その第1の目的は必要な物性(強度)を有し、かつ信頼性の高い制電性を備えた搬送用トレー等の成形品を、真空成形や圧空成形で容易に得ることができる成形用制電性シートを提供することにある。第2の目的はさらに透明性も良好な成形品を容易に得ることができる成形用制電性シートを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは前記要求に応えるべく、鋭意研究を重ねた結果、前記目的を達成することができる発明を完成した。
【0011】
前記第1の目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、熱可塑性樹脂製の芯層と、前記芯層を挟むように形成されるとともに、導電性の充填材が充填された熱可塑性樹脂からなる外層を有する成形用制電性シートであって、前記外層は一部において前記芯層をシートの厚さ方向に貫通して連続する連続部により表裏両層が接続されている。
【0012】
この発明の成形用制電性シートでは、芯層は、シートの物性及び成形性を保証するため、抵抗率がさほど小さくない。しかし、導電性の充填材が充填されて抵抗率が小さい外層の表裏層の一部が、芯層を厚さ方向に貫通して連続する連続部によって接続されているため、シート全体としての体積抵抗率が小さくなる。その結果、シートは、永久帯電防止性に優れ、かつ搬送時に支障を来す変形を防止できる物性を有する成形品を真空成形及び圧空成形により容易に成形できる。なお、「永久帯電防止性」とは帯電防止性能が長期に渡って保たれることを意味する。
【0013】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記芯層及び前記外層は、共押出しにて成形されたものである。従って、この発明の成形用制電性シートは、共押出しにより容易に製造することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記芯層に使用される熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂であり、前記外層に使用される樹脂は、カーボンブラックをポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂に充填したものである。この発明では、導電性の充填材としてカーボンブラックが使用されているため、コストを安くできる。なお、「ABS系樹脂」には、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−ジエン−スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル−アクリルスチレン)樹脂が含まれる。
【0015】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の発明において、前記ポリスチレン系樹脂は、耐衝撃性のポリスチレン系樹脂である。従って、この発明では、シートに必要な物性及び成形性を確保するのが容易となる。
【0016】
また、第2の目的を達成するため、請求項5に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記芯層に使用される熱可塑性樹脂は、透明ポリスチレン系樹脂又は透明ABS系樹脂であり、前記外層に使用される樹脂は、ポリエーテルエステルアミドを透明ポリスチレン系樹脂又は透明ABS系樹脂に充填したものである。従って、この発明では、さらに透明性も良好な成形品を容易に得ることができる。
【0017】
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の発明において、前記熱可塑性樹脂がスチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとからなる共重合体である。この発明では、ポリエーテルエステルアミドの分散性と成形品に必要な物性を確保するのが容易になる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した実施の形態を説明する。
図1に示すように、成形用制電性シート11は、熱可塑性樹脂製の芯層12と芯層12を挟むように形成された外層13とを有する。外層13は、導電性の充填材が充填された熱可塑性樹脂で形成されている。外層13は、成形用制電性シート11の表面となる部分13a及び裏面となる部分13bが、その一部において芯層12をシートの厚さ方向に貫通する連続部13cにより接続されるように形成されている。この実施の形態では外層13は、成形用制電性シート11の幅方向(図1の左右方向)の両端部においても、部分13a,13bが互いに連続するように形成され、芯層12は外層13によって全体が被覆されている。
【0019】
芯層12及び外層13は共押出しにより形成され、円を扁平に押しつぶした断面形状の芯層12が外層13で覆われたものが、複数幅方向において互いに並んで接続された状態に形成されている。
【0020】
芯層12は、基本的に成形用制電性シート11の物性及び成形性を保証する役割を果たす。芯層12の材質は熱可塑性樹脂であれば特に制限されず、成形用制電性シート11を真空成形により、搬送トレー等に成形した際の該トレーの剛性を確保できるものであればよい。前記剛性を確保するには、熱可塑性樹脂の常温(23℃)での引張弾性率が900MPa以上であればよく、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂が好適である。
【0021】
外層13は、基本的に成形用制電性シート11の表面及び厚さ方向の静電気散逸性を保証する役割を果たす。成形用制電性シート11の表面抵抗率ρsが1010Ω以下、かつ体積抵抗率ρvが1010Ω・cm以下であれば、帯電防止効果は大きく制電性に問題がない。成形用制電性シート11の表面抵抗率ρsが1012Ω以下かつ体積抵抗率ρvが1012Ω・cm以下であれば、帯電防止効果はあるが完全とは言い難いが、実用上さほど問題はない。成形用制電性シート11の表面抵抗率ρsが1012Ωより大きいか、又は体積抵抗率ρvが1012Ω・cm以上であれば、帯電防止効果はあるが制電性に問題がある。従って、外層13は、成形用制電性シート11の表面抵抗率ρsが1012Ω以下かつ体積抵抗率ρvが1012Ω・cm以下を満足する導電性を有する必要がある。
【0022】
外層13の材質は、導電性の充填材が充填された熱可塑性樹脂であれば、特に制限されないが、コスト的にはカーボンブラックを充填したポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂が好適である。カーボンブラックと熱可塑性樹脂との混合割合は、カーボンブラック5〜30重量%、熱可塑性樹脂95〜70重量%の範囲が好適である。
【0023】
成形用制電性シート11に透明性が要求される場合は、ポリエーテルエステルアミドを透明ポリスチレン系樹脂又は透明ABS系樹脂に充填(分散)したものが好適であり、ポリエーテルエステルアミドと熱可塑性樹脂との屈折率の差が0.03以内となる組合せが好ましい。外層13の表面抵抗率を1010Ω以下とするためには、ポリエーテルエステルアミドと熱可塑性樹脂との混合割合が、ポリエーテルエステルアミド35〜70重量%、熱可塑性樹脂65〜30重量%の範囲が好適である。透明ポリスチレン系樹脂としては、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとからなる共重合体を使用するのが好ましい。ポリエーテルエステルアミドとしては屈折率1.53の市販品を好適に使用できる。
【0024】
前記スチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等を上げることができる。また、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等を用いることができる。ここで上記(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを示している。
【0025】
スチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとの比率は、ポリエーテルエステルアミドの屈折率に近くなるように選択されるが、通常30〜90/70〜10重量%の範囲で溶融粘度等他の特性も考慮しながら適宜調整される。
【0026】
本発明において最も好適に用いられるスチレン系モノマーはスチレンであり、一方、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーはメチルメタクリレート(MMA)及びブチルアクリレート(BA)である。この理由は、工業的に非常に多く生産されているため原料としてのコスト性に優れ、しかも重合時の反応性が高い共重合が可能なためである。
【0027】
本発明で用いられるポリエーテルエステルアミドは、特に制限されるものはないが、一般に下記の3構成単位から構成される。
(i)炭素原子数6以上のアミノカルボン酸又はラクタム、もしくは炭素数6以上のジアミンとジカルボン酸の塩。
【0028】
アミノカルボン酸としては、ω−アミノエナント酸、ω−アミノカプロン酸等が挙げられる。ラクタムとしてはカプロラクタム、エナントラクタム等が挙げられる。ジアミンとジカルボン酸の塩としては、ヘキサメチレンジアミン−アジピン酸塩等が挙げられる。
(ii)ポリエーテル
ポリエチレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等が挙げられる。
(iii)ジカルボン酸
テレフタル酸等の炭素数4〜20のジカルボン酸が挙げられる。
【0029】
また、芯層12及び外層13の材質を構成する熱可塑性樹脂としてポリスチレン系樹脂を使用する場合、耐衝撃性のポリスチレン系樹脂を使用すると、成形用制電性シート11に必要な物性及び成形性を確保するのが容易となる。耐衝撃性のポリスチレン系樹脂としては、HIPS(High Impact Polystyrene)やゴム状弾性体を分散させたゴム状弾性体分散ポリスチレン系樹脂が使用される。
【0030】
成形用制電性シート11を構成する芯層12及び外層13の厚さは、成形用制電性シート11が前記の特性を満たせば特に制限はないが、材料コスト及び真空成形用シート総厚等を考慮すると次の範囲が好ましい。
【0031】
外層13/芯層12/外層13=0.01mm〜0.50mm/0.50mm〜1.00mm/0.01mm〜0.50mm
ここで、芯層12及び外層13の厚さとは、成形用制電性シート11の幅方向における芯層12及び外層13の表面となる部分13a及び裏面となる部分13b平均の厚さを意味する。両部分13a,13bの厚さは同じでなくてもよい。
【0032】
芯層12及び外層13の表面となる部分13aと、裏面となる部分13bとを接続する連続部13cの数(表裏層の繋がり頻度)は、外層13の表面抵抗率ρsが1010Ωレベルで3本以上、105Ωレベルで1本以上が好適である。そして、連続部13cの幅の合計値は、成形用制電性シート11の幅に対して、1/20〜1/5程度となっている。
【0033】
次に前記のように形成された成形用制電性シート11の製造方法を説明する。成形用制電性シート11は共押出しにより形成される。成形用制電性シート11を共押出しで成形する際、芯層12及び外層13に使用する熱可塑性樹脂は、同一樹脂の方がその界面接着力の点から好ましいが、熱接着可能な樹脂同士なら異なっていても問題は無い。
【0034】
共押出しの設備的としては、一般的な共押出し設備で特に問題はない。例えば、2台の押出機(図示せず)を使用し、一方の押出機からは芯層12用の樹脂を溶融状態で押し出し、他方の押出機からは外層13用の樹脂を溶融状態で押し出す。そして、例えばフィードブロックを用いて、両溶融樹脂をダイ(口金)において合流させ、シート状に賦形し、キャスティングロールを通し、冷却・固化後にシートを巻き取ることで成形用制電性シート11が製造される。
【0035】
図2(a),(b)に示すように、フィードブロック15は、芯層用樹脂を供給するための供給口15aと、外層用樹脂を供給するための供給口15bとを有し、芯層用樹脂を円柱状に押し出し、外層用樹脂が該円柱状押出物の廻りを囲むように合流させる出口15cを複数備えている。
(実施例)
以下、実施例及び比較例によりさらに詳しく説明する。
【0036】
<実施例1>
芯層用配合としてHIPS(High Impact Polystyrene)(商品名:H8117:A&Mスチレン)、外層用配合としてカーボンブラックを25重量%HIPS(商品名:HT60:A&Mスチレン)に充填したものを使用した。
【0037】
芯層用配合をφ65mm押出機、外層用配合をφ40mm押出機にて溶融し、それぞれフィードブロック15へ供給し、フィードブロック15に固定された口金でシート状に賦形し、冷却・固化後にシートを巻き取ることで成形用制電性シート11を得た。シートは表裏層(外層)の厚さが30μm、芯層12の厚さが240μmであった。外層13の表裏層を接続する連続部13cは、シートの幅640mmに対して5箇所設けた。
【0038】
<実施例2>
芯層用配合として、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとからなる共重合体にゴム状弾性体を分散させたゴム状弾性体分散ポリスチレン系樹脂(商品名:クリアパクトTI350:大日本インキ化学工業(株))を使用した。外層用配合として、ポリエーテルエステルアミド(商品名:ペレスタットNC7530:三洋化成(株))40重量部と、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとからなる共重合体(商品名:クリアパクトTI350:大日本インキ化学工業(株))60重量部とをペレット混合したものを使用した。
【0039】
芯層用配合をφ65mm押出機、外層用配合をφ40mm押出機にて溶融し、それぞれフィードブロック15へ供給し、フィードブロック15に固定された口金でシート状に賦形し、冷却・固化後にシートを巻き取ることで成形用制電性シート11を得た。シートは表裏層(外層)の厚さが30μm、芯層12の厚さが240μmであった。外層13の表裏層を接続する連続部13cは、シートの幅640mmに対して5箇所設けた。
【0040】
<比較例1>
実施例1と同じ配合のものを使用し、フィードブロックとして芯層用樹脂と外層用樹脂の合流部が、通常のサンドイッチ状のシートを形成するため横向きのスリットを有するものを使用すること以外、同じ設備を使用して3層構造のシートを得た。シートは表裏層(外層)の厚さが30μm、芯層12の厚さが240μmであった。
【0041】
<比較例2>
実施例2と同じ配合のものを使用し、フィードブロックとして芯層用樹脂と外層用樹脂の合流部が、通常のサンドイッチ状のシートを形成するため横向きのスリットを有するものを使用すること以外、同じ設備を使用して3層構造のシートを得た。シートは表裏層(外層)の厚さが30μm、芯層12の厚さが240μmであった。
【0042】
前記実施例及び比較例の各サンプルを用いて、下記の測定試験及び評価を行った。結果を表1
に示した。
【0043】
[引張弾性率]
引張弾性率をJIS K 7112に準拠して測定した。
評価は、常温(23℃)での引張弾性率が900MPa以上で成形後の剛性を確保できるので○、900MPa未満では成形後の剛性を確保できないので×とした。
【0044】
[表面抵抗率及び体積抵抗率]
表面抵抗率及び体積抵抗率をJIS K 6911に準拠して測定した。表面抵抗率は正方形の試験片で測定した。
【0045】
評価は、表面抵抗率ρsが1010Ω以下で、かつ体積抵抗率ρvが1010Ω・cm以下であれば帯電防止効果が大きく制電性に問題がないので○とし、表面抵抗率ρsが1012Ω以下かつ体積抵抗率ρvが1012Ω・cm以下であれば帯電防止効果はあるが完全とは言い難いので△とした。また、表面抵抗率ρsが1012Ωより大きいか、又は体積抵抗率ρvが1012Ω・cmより大きければ帯電防止効果はあるが、制電性に問題があるので×とした。
【0046】
[全光線透過率、ヘーズ]
全光線透過率、ヘーズをJIS K 7105に準拠して測定した。
評価は、全光線透過率が80%以上、ヘーズが40%以下のものを透明性が良好として○、それ以外のものを透明性が悪いと判断して×とした。
【0047】
【表1】
Figure 0004046965
表1から、物性に関しては実施例及び比較例とも良好であるが、比較例1,2では体積抵抗率ρvが1012Ω・cmより大きく、制電性が不充分となることが確認できる。特に実施例2と比較例1から、表面抵抗率ρsが高くても、外層13の表裏層を接続する連続部13cが存在しないと、体積抵抗率ρvが大幅に低下するが、連続部13cが存在すれば、外層の表面抵抗率ρsがそれほど小さくなくても体積抵抗率ρvが必要な値を確保できることが確認できる。
【0048】
この実施の形態では以下の効果を有する。
(1) 成形用制電性シート11が熱可塑性樹脂製で、基本的に成形用制電性シート11の物性及び成形性を保証する役割を果たす芯層12と、表面及び厚さ方向の静電気散逸性を保証する外層13とにより構成され、一部において芯層12をシートの厚さ方向に貫通して表裏層を接続する連続部13cを有する。従って、芯層12に導電性の充填材を充填しなくても、シート全体としての体積抵抗率が小さくなる。その結果、シートは、永久帯電防止性に優れ、かつ搬送時に支障を来す変形を防止できる物性を有する成形品を真空成形及び圧空成形により容易に成形できる。そして、その成形品を使用してIC、LSI、シリコンウエハー、ハードディスク、液晶基板、電子部品等の電子材料の保管、移送に際し、それらの電子部品を静電気等による破壊やゴミ付着等から守ることができる。
【0049】
(2) 成形用制電性シート11は、芯層12及び外層13を共押出して製造されるため、成形用制電性シート11を容易に製造することができる。
(3) 外層13に使用される熱可塑性樹脂に充填する導電性の充填材としてカーボンブラックを使用した場合、充填材として高分子型永久帯電防止ポリマー(例えば、ポリエーテルエステルアミド)を使用する場合に比較して、製造コストを安くできる。
【0050】
(4) ポリスチレン系樹脂として、耐衝撃性のポリスチレン系樹脂を使用した場合、シートに必要な物性及び成形性を確保するのが容易となる。
(5) 芯層12に透明ポリスチレン系樹脂又は透明ABS系樹脂を使用し、外層13にポリエーテルエステルアミドを透明ポリスチレン系樹脂又は透明ABS系樹脂に充填したものを使用した場合、さらに透明性も良好な成形品を容易に得ることができる。
【0051】
(6) 透明ポリスチレン系樹脂として、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとからなる共重合体を使用した場合、ポリエーテルエステルアミドの分散性と成形品に必要な物性を確保するのが容易になる。
【0052】
(7) 外層13の材質としてのポリエーテルエステルアミドと熱可塑性樹脂との混合割合を、ポリエーテルエステルアミド35〜70重量%、熱可塑性樹脂65〜30重量%の範囲にすることにより、表層の静電気散逸性を保証するための表面抵抗率である1010Ω以下の値を得るのが容易になる。
【0053】
(8) 芯層12及び外層13の厚さを、外層13/芯層12/外層13=0.01mm〜0.50mm/0.50mm〜1.00mm/0.01mm〜0.50mmの範囲にすることにより、成形用制電性シート11の真空成形性が良好で材料コストも満足できるものが得られる。
【0054】
実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
〇 外層13の材質として不透明な熱可塑性樹脂を使用した場合にも、導電性の充填材としてポリエーテルエステルアミドを使用してもよい。
【0055】
○ 芯層12や外層13を形成する熱可塑性樹脂に、一般のプラスチック加工で使用される滑材、加工助剤を添加してもよい。ゴム状弾性体を分散させないポリスチレン系樹脂を使用する場合は、この方法で溶融粘度を調整するのが好ましい。また、必要に応じて安定剤、可塑剤、着色剤等を添加してもよい。
【0056】
○ フィードブロックを使用して芯層用の溶融樹脂と外層用の溶融樹脂を合流させる場合、芯層用樹脂を円柱状に押し出す代わりに四角柱状に押し出し、外層用の溶融樹脂が該四角柱状押出物の廻りを囲むように合流させてもよい。
【0057】
○ 芯層12及び外層13を共押出しする際、フィードブロックを使用する代わりに、マルチ流路あるいはサーモジナイザーを通り口金によって合流させ、シート状に賦形してもよい。サーモジナイザーによりタマネギ状に表裏層と芯層を合流させるのが好ましい。
【0058】
○ 芯層12に充填する導電性の充填材としてカーボンブラックやポリエーテルエステルアミド以外の充填材を使用してもよい。
○ 芯層用溶融樹脂及び外層用溶融樹脂の共押出しにより成形用制電性シート11を形成するのではなく、芯層12となるシートとして多数の孔が形成されたシートを先ず形成し、そのシートの両面に外層13となる溶融樹脂をコーティングして成形用制電性シート11を形成してもよい。例えば、押出ラミネート装置を使用し、基材として芯層12用のシートを使用し、外層13となる熱可塑性樹脂をコーティングする。
【0059】
前記実施の形態から把握される技術的思想(発明)について、以下に記載する。
(1) 請求項5又は請求項6に記載の発明において、前記外層の材質であるポリエーテルエステルアミドと熱可塑性樹脂との混合割合を、ポリエーテルエステルアミド35〜70重量%、熱可塑性樹脂65〜30重量%の範囲に設定した。
【0060】
(2) 請求項1〜請求項6のいずれかに記載の発明において、前記芯層及び外層の厚さを、外層/芯層/外層=0.01mm〜0.50mm/0.50mm〜1.00mm/0.01mm〜0.50mmの範囲に設定した。
【0061】
(3) 請求項1〜請求項6及び(1),(2)のいずれかに記載の発明において、前記芯層を常温(23℃)での引張弾性率が900MPa以上の熱可塑性樹脂で形成する。
【0062】
【発明の効果】
以上詳述したように請求項1〜請求項6に記載の発明の成形用制電性シートを使用することにより、必要な物性(強度)を有し、かつ信頼性の高い制電性を備えた搬送用トレー等の成形品を真空成形及び圧空成形で容易に得ることができる。また、請求項5及び請求項6に記載の発明では、さらに透明性も良好な成形品を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一実施の形態の成形用制電性シートの模式断面図。
【図2】 (a)はフィードブロックの模式断面図、(b)は(a)の矢印B方向から見た部分図。
【図3】 従来の成形用制電性シートの模式断面図。
【符号の説明】
11…成形用制電性シート、12…芯層、13…外層、13c…連続部。

Claims (6)

  1. 熱可塑性樹脂製の芯層と、前記芯層を挟むように形成されるとともに、導電性の充填材が充填された熱可塑性樹脂からなる外層とを有する成形用制電性シートであって、前記外層は一部において前記芯層をシートの厚さ方向に貫通して連続する連続部により表裏両層が接続されている成形用制電性シート。
  2. 前記芯層及び前記外層は、共押出しにて成形されたものである請求項1に記載の成形用制電性シート。
  3. 前記芯層に使用される熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂であり、前記外層に使用される樹脂は、カーボンブラックをポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂に充填したものである請求項1又は請求項2に記載の成形用制電性シート。
  4. 前記ポリスチレン系樹脂は、耐衝撃性のポリスチレン系樹脂である請求項3に記載の成形用制電性シート。
  5. 前記芯層に使用される熱可塑性樹脂は、透明ポリスチレン系樹脂又は透明ABS系樹脂であり、前記外層に使用される樹脂は、ポリエーテルエステルアミドを透明ポリスチレン系樹脂又は透明ABS系樹脂に充填したものである請求項1又は請求項2に記載の成形用制電性シート。
  6. 前記熱可塑性樹脂がスチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとからなる共重合体である請求項5に記載の成形用制電性シート。
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