JP4045854B2 - 感熱転写記録用色素、感熱転写記録用インク及び感熱転写記録用シート - Google Patents
感熱転写記録用色素、感熱転写記録用インク及び感熱転写記録用シート Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は感熱転写記録、特に色素転写型感熱転写記録用に使用される感熱転写記録用色素と、この感熱転写記録用色素を用いた感熱転写記録用インク及び感熱転写記録用シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
色素転写型感熱転写記録は、ベースフィルム上に熱移行性の色素を含む色材層を有する感熱転写記録用シートと、色素受容層を表面に有する受像シートとを重ね合わせ、感熱転写記録用シートを加熱することにより感熱転写記録用シートの色材層中の色素を受像シートに転写することにより記録を行う記録方法である。本記録方法は、加熱エネルギーの大きさにより色素の転写量を制御して、階調表現を行うことができるため、ビデオプリンターなどのフルカラー画像記録用に応用されている。
【0003】
このような色素転写型感熱転写記録においては、転写シート及び転写シート用のインキ組成物に用いられる色素が、転写記録のスピード、記録物の画質、保存安定性などに大きな影響を与えることから、この色素の特性が非常に重要であり、このような色素としては、以下のような条件を満たすことが必要とされている。
(1) 熱記録ヘッドの作動条件で容易に昇華及び/又は熱拡散すること。
(2) 熱記録ヘッドの作動条件で熱分解しないこと。
(3) 色再現上、好ましい色相を有すること。
(4) 分子吸光係数が大きいこと。
(5) 熱、光、湿気、薬品などに対して安定であること。
(6) 合成が容易であること。
(7) インク化適性が優れていること。
(8) 安全性上問題のないこと。
【0004】
従来、このような感熱転写記録に用いられる色素のうち、キノフタロン系イエロー色素として、特開平5−229268号公報には、下記一般式(i)で表される色素を、色素転写型の感熱転写記録用の色素として用いることが記載されている。
【0005】
【化2】
(式中、Raは水素原子、炭素数が1〜8のアルキル基又はシクロアルキル基を示し、Rbは水素原子、ハロゲン原子、置換されていても良いアルコキシ基、置換されていても良いアルキルチオ基又は置換されていても良いアリールチオ基を示し、Rcは炭素数が3〜5の分岐アルキル基、O−置換オキシカルボニル基、N−置換基が環を形成しても良いN−置換アミノカルボニル基、又は窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1個以上の原子を少なくとも2個以上含む置換或いは非置換の複素環を示す。ただし、Raが水素の時はRcは炭素数が3〜5の分岐アルキル基、又は窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1個以上の原子を少なくとも2個以上含む置換又は非置換の複素環である。)
【0006】
そして、例えば、下記構造式で示される色素が、具体的に記載されている。
【0007】
【化3】
【0008】
また、特開平6−155929号公報には、下記一般式(ii)で表される色素を、色素転写型の感熱転写記録用の色素として用いることが記載されている。
【0009】
【化4】
(式中、Rdは置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアルコキシ基、置換又は非置換のアルキルカルボニルアミノ基、置換又は非置換のアルキルスルホニルアミノ基、置換又は非置換のアルキルアミノカルボニル基、置換又は非置換のアルキルアミノスルホニル基、或いはハロゲン原子を表し、Reは置換又は非置換のアルコキシカルボニル基、置換又は非置換のアルキルアミノカルボニル基、置換又は非置換のアルコキシ基、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のシクロアルキル基、複素環基、或いはハロゲン原子を表す。)
【0010】
そして、例えば、下記構造式で示される色素が、具体的に記載されている。
【0011】
【化5】
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来技術のいずれのものであっても、具体的に開示されている色素又は色素混合物では、後述する比較例に示すように、転写濃度が、要求される最近の高感度志向を満たすには未だ不十分な性能であった。このため、感度が高く、かつその他の性能も良好である、即ち、記録濃度が高く、記録物の色調が鮮明で、記録物の安定性が高い感熱転写記録用イエロー色素としての特性に総合的に優れた感熱転写記録用色素、インク及びシートの開発が望まれていた。
【0013】
本発明は、感熱転写記録用色素に要求される前記の(1)〜(8)のすべての特性において総合的に優れた性能を有し、特に、高感度で、記録濃度が高く、記録物の色調が鮮明で、記録物の安定性が高い感熱転写記録用色素と、この感熱転写記録用色素を用いた感熱転写記録用インク及び感熱転写記録用シートを提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の感熱転写記録用色素は、下記一般式(I)で表されることを特徴とする。
【0015】
【化6】
(式中、環Aは無置換のベンゼン環を表し、R2は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルコキシ基、置換基を有していても良いアリールオキシ基、置換基を有していても良いアルキルチオ基又は置換基を有していても良いアリールチオ基を表し、R3 は置換基を有していても良いアルキルカルボニルオキシ基、又は置換基を有していても良いアルコキシカルボニルオキシ基を表す。)
【0016】
なお、上記一般式(I)で表されるキノフタロン系色素は、電子の非局在化で、水素原子が共役の別の原子に結合することにより、上記一般式(I)で表される構造と、下記一般式(I−a)で表される構造と、上記一般式(I−b)で表される構造と、これらの一般式(I)、(I−a)及び(I−b)の相互の中間構造をとり得るものであり、これらの構造のいずれのものであっても良い。即ち、本発明に係るキノフタロン系色素は電子の非局在化により、水素原子が共役の別の原子に結合することを示す下記一般式(I−x)で表される構造のすべてを包含する(なお、下記(I−x)式において、点線部分は電子の非局在化部分を示す。)。
【0017】
本発明においては、従来からの慣用的な表記方法に従って、これらのすべての構造を採り得るキノフタロン骨格を代表して、前記一般式(I)で表した。従って、前記一般式(I)で表されるキノフタロン骨格は、前記一般式(I)で表されるキノフタロン骨格に限らず、下記(I−a)式,(I−b)式或いはこれらの中間の構造を包含する、下記(I−x)式で表される形態のいずれであっても良い。
【0018】
【化7】
【0019】
本発明の感熱転写記録用インクは、このような本発明の感熱転写記録用色素と媒体とを含有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の感熱転写記録用シートは、このような本発明の感熱転写記録用色素と結着剤とを含む色材層を基材上に形成してなることを特徴とする。
【0021】
前述の如く、従来のキノフタロン系色素は感熱転写記録において、転写感度の点で不十分であった。本発明では、特定のキノフタロン系色素を選択することで、色調、転写濃度、耐光性等の総合的に優れた色素を実現した。
【0022】
本発明に係る特定のキノフタロン系色素を選択することによる、このような作用機構の詳細は明らかではないが、特開平5−229268号公報に記載される前記一般式(i)で表される色素は、Rcとして炭素数3〜5の分岐アルキル基、O−置換オキシカルボニル基、N−置換アミノカルボニル基が挙げられているが、これらの置換基に比べて、本発明に係る上記特定の置換基R3を導入することによって高感度となるために、後述する比較例に示すように、より高い転写濃度が達成され、また、色調、転写濃度、耐光性においても総合的に優れたものが得られるものと考えられる。
【0023】
本発明の感熱転写記録用色素、インク及びシートは、それぞれ感熱転写記録用イエロー色素、感熱転写記録用イエローインク、感熱転写記録用イエローシートとして好適であり、色素の最大吸収波長(λmax)が350〜480nmに相当するものを好適に得ることができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
まず、本発明の感熱転写記録用色素について説明する。本発明の感熱転写記録用色素は前記一般式(I)で表されるキノフタロン系色素(前述の如く、このキノフタロン骨格は、前記一般式(I)で表されるキノフタロン骨格に限らず、前記(I−a)式,(I−b)式或いはこれらの中間の構造を包含する、前記(I−x)式で表される形態のいずれであっても良い。)である。
【0026】
前記一般式(I)において、置換基R2は水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等のハロゲン原子、或いは、その合成反応においてハロゲン原子から置換可能な基、即ち、置換基を有していても良いアルコキシ基、置換基を有していても良いアリールオキシ基、置換基を有していても良いアルキルチオ基又は置換基を有していても良いアリールチオ基である。R2のアルキル基に置換する置換基の例としては、アルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基等が挙げられる。また、アリール基に置換する置換基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基等が挙げられる。
【0027】
置換基R2としては、好ましくは水素原子、塩素原子又は臭素原子が挙げられ、より好ましくは水素原子又は臭素原子が挙げられる。
【0028】
置換基R3 は置換基を有していても良いアルキルカルボニルオキシ基、又は置換基を有していても良いアルコキシカルボニルオキシ基である。
【0029】
R 3のアルキルカルボニルオキシ基及びアルコキシカルボニルオキシ基に置換する置換基の例としては、アルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0030】
置換基R3としては、好ましくは置換基を有していても良い炭素数6〜12の、アルコキシカルボニルオキシ基、又はアルキルカルボニルオキシ基が挙げられ、より好ましくは、無置換の炭素数6〜12の直鎖又は分岐鎖状のアルキルカルボニルオキシ基、無置換の炭素数6〜12の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシカルボニルオキシ基、アルコキシ基で置換された炭素数6〜12のアルキルカルボニルオキシ基、又はアルコキシ基で置換された炭素数6〜12のアルコキシカルボニルオキシ基が挙げられる。
【0031】
通常、キノフタロン系色素は感熱転写記録用のインク溶媒への溶解性が低く、溶解性の向上には有機性を上げる必要があるが、特に置換基R 3の炭素数が大きくなるほど溶解性が高くなる傾向がみられる。感熱転写記録用のインク媒体への溶解性を考慮すると、置換基R3の炭素数は6以上、特に8以上であることが好ましい。
【0032】
なお、本明細書において、例示した基の好適な炭素数は、当該基が置換基を有する場合は、その置換基の炭素数も含めた合計の炭素数を示す。
【0033】
本発明に好適なキノフタロン系色素は、前記一般式(I)において、環Aは無置換のベンゼン環を表し、置換基R2は水素原子又は臭素原子を表し、置換基R3は置換基を有していても良い炭素数6以上の、アルキルカルボニルオキシ基、又はアルコキシカルボニルオキシ基を表すものである。
【0034】
本発明においては、前記一般式(I)で表される色素を用いる限りにおいて、本発明の効果を得ることができるが、本発明の効果を十分に発現させるために、前記一般式(I)で表される骨格部分及びその他の置換基等の部分構造も含めて、当該キノフタロン系色素の分子量が通常800以下、特に700以下、とりわけ400〜600であることが好ましい。
【0035】
前記一般式(I)で表される色素の具体例を、下記表1〜表2に例示するが、本発明の感熱転写記録用色素は何らこれらに限定されるものではない。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
これらの色素は、例えば、特開昭60―53565号公報に記載された方法に従って、下記一般式(II)で表される化合物と下記一般式(III)で表される化合物から下記一般式(IV)で表される化合物を得、場合により更にハロゲン化、置換反応等を経て下記一般式(V)で表される化合物を製造し、一般式(IV)又は(V)で表される化合物のヒドロキシ基を常法によりR3−X(R3は一般式(I)におけると同義であり、Xはハロゲン原子を表す。)で表される化合物と反応させることにより製造することができる。
【0039】
【化8】
(式中、環Aは一般式(I)におけると同義である。)
【0040】
【化9】
【0041】
【化10】
(式中、環Aは一般式(I)におけると同義である。)
【0042】
【化11】
(式中、環A及びR2は一般式(I)におけると同義である。)
【0043】
本発明の感熱転写記録用インク及び感熱転写記録用シートにおいて、上記発明のキノフタロン系色素は、単独でイエロー色素として用いることもできるが、本発明の効果を妨げない範囲で、その他のキノフタロン系色素、その他のイエロー色素と混合して用いることもできる。
【0044】
その場合の、混合比率としては、本発明のキノフタロン系色素とその他の色素が、99:1〜1:9(重量比)、特に8:2〜2:8であることが好ましい。
【0045】
本発明の感熱転写記録用インクは、上記本発明のキノフタロン系色素を媒体に溶解ないし分散させたものである。
【0046】
この媒体としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、トルエン、キシレン、クロロベンゼンなどの芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレンなどの塩素系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、N,Nージメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの有機溶剤を挙げることができ、中でも有機溶剤を用いるのが、色素の溶解性が良好となるので好ましい。これらの媒体は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いても良い。
【0047】
本発明の感熱転写記録用インク中には、上記色素及び媒体の他に、必要に応じて有機、無機の非昇華性微粒子、分散剤、帯電防止剤、消泡剤、酸化防止剤、粘度調製剤などの添加剤を添加することができる。また、本発明の感熱転写記録シートの色材層を形成するための後述の結着剤を、後述の割合で添加することができる。
【0048】
本発明の感熱転写記録用インクにおいて、色素の合計濃度は、インク100重量部中において、0.5〜20重量部、特に1〜15重量部、とりわけ2〜15重量部とするのが好ましい。また、色素以外の上記のような添加剤の割合は、インク100重量部中において5重量部以下、特に3重量部以下であり、これらの添加剤を添加する場合の下限値としては0.01重量部以上、特に0.5重量部以上であることが好ましい。
【0049】
本発明の感熱転写記録用シートは、基材上に、本発明のキノフタロン系色素と結着剤を含む色材層を有するものである。なお、この色材層には、本発明の効果を妨げない範囲で、本発明のキノフタロン系色素以外のキノフタロン系色素、その他の構造のイエロー色素が含まれていても良い。
【0050】
基材上に色材層を形成する方法は特に限定されないが、通常、色素を結着剤と共に前述の媒体中に溶解或いは微粒子状に分散させることによりインクを調製し、該インクを、基材上に塗布、乾燥する方法が採用される。
【0051】
ここで使用される結着剤としては、セルロース系、アクリル酸系、澱粉系、エポキシ系などの水溶性樹脂や、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン、ポリカーボオネート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルブチラール、エチルセルロース、アセチルセルロース、ポリエステル、アクリロニトリル−スチレン共重合(AS)樹脂、フェノキシ樹脂などの有機溶剤に可溶性の樹脂を挙げることができ、色材層形成用の感熱転写記録用インク中の結着剤と色素との比率は、通常、結着剤:色素=1:2〜2:1(重量比)の範囲が適当である。なお、結着剤についても1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0052】
感熱転写記録用シート作成のためのインクを塗布する基材となるベースフィルムとしては、コンデンサー紙、グラシン紙のような薄葉紙、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミドのような耐熱性の良好なプラスチックのフィルムが好適であり、その厚さとしては、通常3〜50μmの範囲が適当である。
【0053】
上記のベースフィルムのなかでは、ポリエチレンテレフタレートフィルムが機械的強度、耐溶剤性、経済性などを考慮すると特に有利である。しかし、場合によってはポリエチレンテレフタレートフィルムであっても必ずしも耐熱性が十分でなく、サーマルヘッドの走行性が不十分であるので、ベースフィルムの色材層を形成した面とは反対側の面に、潤滑剤、滑性の高い耐熱性微粒子、界面活性剤及び結着剤などを含む耐熱性樹脂層を設けることにより、サーマルヘッドの走行性を改良したものを用いることができる。この場合、潤滑剤としては、例えばアミノ変性シリコーン化合物、カルボキシ変性シリコーン化合物等の変性シリコーン化合物が挙げられ、耐熱性微粒子としては、シリカ等の微粒子、結着剤としてはアクリル系樹脂等が挙げられる。この耐熱性樹脂層の厚みは、通常0.1〜50μmの範囲が好適である。
【0054】
ベースフィルムへのインクの塗布は、グラビアコーター、リバースロールコーター、ロッドコーター、エアドクタコーター等を使用して実施することができ、インクは、色材層の乾燥後の厚さが0.1〜5μmの範囲となるように塗布するのが好ましい。
【0055】
本発明の感熱転写記録用シートは加熱手段としてサーマルヘッドのみならず赤外線、レーザー光なども利用することができる。また、ベースフィルムそのものに電気を流すことによって発熱する通電発熱フィルムを用いて、通電型染料転写シートとして用いることもできる。
【0056】
感熱転写記録では、通常、イエロー、マゼンタ、シアンの3色、或いはクロを加えた4色の転写シートについて熱記録操作を繰り返すことで、カラー印刷が行われる。得られる画像の色相については、CIELAB空間におけるL*値、a*値、b*値で表され、類似の色濃度及びL*値を有する画像におけるa*値及びb*値から色相を比較することができる。
【0057】
従来、耐光性が良いとされているインクにおいては、色濃度1.8を実現することは困難であったが、本発明のキノフタロン系色素を用いることにより、耐光性が良好で、かつ色濃度1.8以上の記録画像を得ることができる。
【0058】
また、本発明によれば、カラー画像の色再現上、イエロー色の色相として好ましい色相、即ち、D50光源を用いて、2度視野角に設定した場合の、色濃度1.0におけるa*値が、−13以上10以下、特に−13以上5以下、b*値が60以上、特に64以上であるものを達成することができる。なお、この範囲には、印刷工業に用いられるカラープルーフインクの色基準SWOP(Specifications Web Offset Publications)も含まれる。
【0059】
本発明のキノフタロン系色素を用いた本発明の感熱転写記録用インク及び感熱転写記録用シートは、前記の(1)〜(8)のすべての特性において総合的に優れた性能を有し、特に、感熱転写記録の記録濃度が高く、記録物の色調が鮮明で、記録物の安定性が高く、とりわけ記録物の耐光性に優れており、しかも、色素の製造も容易で工業的に有利に製造することができるという優れた特長を有する。
【0060】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
実施例1
(a)色素の合成
3−ヒドロキシ−2−メチル−4−キノリンカルボン酸5.08gとトリクロロベンゼン35mlを混合した液に3−ヒドロキシ無水フタル酸4.92gを添加し、160℃で5時間撹拌した後、200℃で5時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、メタノール20mlを添加後、析出した結晶を濾別し、メタノール洗浄した。得られた結晶を乾燥し、下記構造の化合物4.83gを得た(このものはマススペクトルでm/z:305のピークを有していた。)。
【0062】
【化12】
【0063】
得られた化合物2.0gとジメチルホルムアミド(DMF)20mlを混合した液にピリジン0.78gを添加し、クロロギ酸2−エチルヘキシル1.33gを滴下して、室温で2時間撹拌した。反応液を水30mlに排出後、析出した結晶を濾別し、水洗した。得られた結晶を乾燥した後、カラムクロマトグラフィーで精製し、前記表1中の色素No.1に示される化合物1.6gを得た。このものはマススペクトルでm/z:461のピークを有していた。また、融点は125.5℃、アセトン中での吸収スペクトル測定でλmax:439nm、分子吸光係数:48000であった。
【0064】
(b)感熱転写記録用インクの調製及び感熱転写記録用シートの制作、記録、評価
下記配合組成の混合物を超音波洗浄機で30分間処理してインクを感熱転写記録用調製した。
【0065】
[インクの配合(重量部)]
表1のNo.1の色素 :6.0
フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド社製「PKHJ」):10
テトラヒドロフラン :90
【0066】
得られたインクをワイヤバーを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(6μm厚)上に塗布、乾燥(乾燥膜厚約1μm)して色材層を形成した後、このポリエチレンテレフタレートフィルムの背面にアクリル樹脂(商品名:BR−80;三菱レイヨン(株)製)10重量部、アミノ変性シリコーンオイル(商品名:KF393;信越化学工業(株)製)1重量部、及びトルエン89重量部からなる液を塗布、乾燥(乾燥膜厚約1μm)することにより耐熱性樹脂層を形成して感熱転写記録用シートを得た。
【0067】
得られた感熱転写記録用シートをオリンパス光学工業(株)製デジタルカラープリンタ「P−330N」の専用プリントパックオーバーコートセットP−60NOCのインクリボンとつなぎ合わせ、P−60NOC記録紙にオリンパス光学工業(株)製デジタルカラープリンタ「P−330N」で階調画像の記録を行ったところ、最高印字濃度が表3に示す色濃度の記録物が得られた。
【0068】
また、色濃度1.0で、D50光源を用いて、2度視野角に設定した場合の、CIELAB空間におけるa*値、及びb*値を測定し、結果を表3に示した。
【0069】
なお、色濃度、CIELAB a*値、b*値は、分光測色計(商品名:SPM−50、グレタグ社製)を用いて測定した。
【0070】
また、得られた記録物(色濃度約1.0のもの)について、キセノンウエザオメーターCi4000(アトラス社製)を用いて80時間耐光性試験を実施し(ブラックパネル温度:58±3℃)、試験前後の記録物のCIELAB色差(ΔE)を測定することにより耐光性を調べ、結果を表3に示した。
【0071】
実施例2〜6
実施例1において、色素として、表3に示すもの(表1中の色素No.)を用いたこと以外は同様にして、感熱転写記録用インクの調製、感熱転写記録用シートの作成、転写記録及び評価を行い、結果を表3に示した。
【0072】
比較例1〜3
実施例1において、色素として、下記構造式A〜Cで表されるものを用いたこと以外は同様にして、感熱転写記録用インクの調製、感熱感熱転写記録用シートの作成、転写記録及び評価を行い、結果を表3に示した。
【0073】
構造式A(特開平5−229268号公報の実施例17に示されている色素)
【化13】
【0074】
構造式B
【化14】
【0075】
構造式C
【化15】
【0076】
【表3】
【0077】
実施例7
実施例1で用いた感熱転写記録用インクのかわりに下記方法で調製したインクを用いて、実施例1と同様の方法により感熱転写記録用シートを作製、転写記録及び評価を行った結果、均一な色濃度の記録を得ることができ、また得られた記録物の耐光性は良好であることが確認された。
【0078】
[インクの配合(重量部)]
表1のNo.1の色素 :6.0
AS樹脂(製品名:デンカAS−S;電気化学工業(株)製品):10
トルエン :70
シクロヘキサノン :10
【0079】
上記の実施例及び比較例の対比からも明らかなように、本発明によれば、a*値、b*値がバランスして転写濃度の優れている記録物を得ることができることが明らかである。
【0080】
なお、比較例2で用いた構造式Bの色素は、前記した公知文献特開平6−155929号公報のNo.1−2の化合物と、前記一般式(ii)のRd部分が水素原子である点で異なるが、Rdの炭素数が多くなることによって、色素のインクへの溶解性が若干向上するものの、感熱転写記録用色素としての性能は基本的に同等であるものと予想される。
【0081】
また、比較例3で用いた構造式Cの色素は、前記した公知文献特開平5−229268号公報の実施例16及び17で記載された色素と、前記一般式(i)のRc部分が水素原子である点で異なるが、Rcの炭素数が多くなることによって、色素のインクへの溶解性が若干向上するものの、感熱転写記録用色素としての性能は基本的に同等であるものと予想される。
【0082】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば、感熱転写記録用色素に要求されるすべての特性において総合的に優れた性能を有し、感度が高く、記録濃度が高く、記録物の色調が鮮明で、記録物の安定性が高い感熱転写記録用色素、感熱転写記録用インク、及び感熱転写記録用シートが提供される。特に、本発明によれば、低エネルギーで高い濃度の鮮明な黄色を呈し、色調もイエロー色として好ましい色相で、耐光性も著しく良好な感熱転写記録物を得ることができ、最近の高感度志向にも十分に対応することができる。
Claims (5)
- 請求項1に記載の感熱転写記録用色素において、R 2は水素原子、塩素原子又は臭素原子を表すことを特徴とする感熱転写記録用色素。
- 請求項2に記載の感熱転写記録用色素において、R 2は水素原子又は臭素原子を表し、R3は置換基を有していても良い炭素数が8以上のアルキルカルボニルオキシ基、又は置換基を有していても良い炭素数が8以上のアルコキシカルボニルオキシ基を表すことを特徴とする感熱転写記録用色素。
- 請求項1ないし3のいずれかに記載の感熱転写記録用色素と媒体とを含有することを特徴とする感熱転写記録用インク。
- 請求項1ないし3のいずれかに記載の感熱転写記録用色素及び結着剤を含む色材層を基材上に形成してなることを特徴とする感熱転写記録用シート。
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