JP4043412B2 - 水処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は伏流水、井戸水等の地下水から生活用水および産業用水を生成するシステムにおいて、水質基準を満たすべく一定以上の鉄を除去するために、地下水を接触酸化ろ過する水処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄は、飲料水等の生活用水においてはもちろん、各種の産業用水においても製品や配管、機器等に多大の悪影響を与え、わが国の水道法による水質基準では鉄0.3mg/L以下となっている。
【0003】
地下水中において、鉄の多くは重炭酸鉄[Fe(HCO32]や硫化鉄[FeSO4]の形で存在し、従来、地下水中の重炭酸鉄[Fe(HCO32]や硫化鉄[FeSO4]を酸化することにより水酸化第2鉄[Fe(OH)3]といった不溶性の水酸化物を析出させ、これらを凝集して沈殿やろ過により除去していた。このときの鉄の酸化方法としては、地下水を曝気する方法や、地下水に酸化剤として塩素系酸化剤を添加する方法等が用いられ、鉄の酸化速度が遅い場合等には、図1〜図4のように、さらに、接触酸化ろ過を行うことで瞬時に鉄を酸化し除去していた。尚、ここでいう接触酸化ろ過とは、酸化触媒をろ過材として用いたろ過のことで、実際には、鉄については、ろ過材表面のオキシ水酸化鉄[FeOOH]の触媒作用により地下水中の鉄を瞬時に酸化する。
【0004】
図1のシステムでは、地下水層1内の被処理地下水は揚水ポンプ2により配管14内を流れ、途中、タンク8に保存されている次亜塩素系酸化剤がポンプ9によって注入管10から添加された後、接触酸化ろ過装置3に導入される。地下水に次亜塩素系酸化剤を添加することで、地下水中の鉄イオンが酸化されて接触酸化ろ過装置3に充填されている接触酸化ろ過材4に捕捉される。尚、このときの次亜塩素系酸化剤は鉄イオンを酸化する目的と同時に、接触酸化ろ過材の接触酸化能力を維持するための酸化剤としても使用される。
【0005】
図2のシステムでは、エアーコンプレッサー11からの圧縮空気を管12から導入して行われる。尚、この場合の酸化剤は空気中の酸素である。図3、図4のシステムでは、図1のシステムに貯水槽(原水槽)15を追加し、地下水を一旦、貯水槽(原水槽)15に貯めてから処理する。
【0006】
図3のシステムと図4のシステムの違いは次亜塩素系酸化剤の添加位置のみであり、図3のシステムでは貯水槽15の入口側の配管経路において次亜塩素系酸化剤が添加され、図4のシステムでは貯水槽15の出口側の配管経路において次亜塩素系酸化剤が添加されている。この場合の貯水槽15は、凝集沈殿が可能な体積容量と滞留時間を確保するために必要な容量のものではなく、単に地下水を汲み上げて一時的に貯留するためだけのものである。
【0007】
ところが、地下水中に可溶化シリカイオンが40mgSiO2/L以上含有している場合、鉄の酸化速度が遅くなると水酸化第2鉄は数μm程度の微細粒子となってコロイド化する傾向にあり、この微細粒子がろ過材を通り抜けて除去出来ないという現象が生じていた。これは、可溶性シリカイオンが水酸化第2鉄の粒子相互の凝集を妨げているものと考えられる。
【0008】
特に、図2のシステムでは空気酸化による鉄の酸化速度は遅いので、最もこの除鉄障害が起きやすく、図4のシステムでは、次亜塩素酸により空気酸化より迅速に鉄が酸化されるが、地下水が処理前に貯水槽15に貯められるため、この貯水槽で地下水の水面が空気に触れることにより地下水中の鉄の一部が空気酸化され、ろ過できない水酸化第2鉄の微細粒子が生成されていた。図1、図3のシステムでは、空気と接触しないか、空気と接触する前に次亜塩素酸により迅速に鉄の酸化反応が進むため、空気酸化による影響は受けない。しかし、地下水に多量のアンモニウムイオンや有機物が存在すると、これらを分解するために次亜塩素酸が消費されて鉄の酸化速度を遅延させるため、同様の除鉄障害を引き起こしていた。
【0009】
そこで、ろ過前の地下水に硫酸アルミニウム(硫酸バンド)やポリ塩化アルミニウム(以下、PAC)といったアルミニウム系凝集剤をタンク5に保存してポンプ6、管7で添加することにより、水酸化第2鉄の微細粒子を凝集して鉄を除去していた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
硫酸アルミニウム(硫酸バンド)やポリ塩化アルミニウム(PAC)といったアルミニウム系凝集剤は水酸化アルミニウムをフロックとし、本来pHが7〜8の処理水に対して良好な凝集効果を発揮する。しかし、日本の地下水は揚水直後のpHが7以下の低いpHである場合が多く、このようなpHが7以下の地下水にアルミニウム系凝集剤を使用した場合、凝集のために必要なアルカリ分が少なく、さらに、地下水中に多量の可溶性シリカイオンが存在すると、アルカリシリカ反応を起こしてシリカイオンがアルカリ分を消費してしまうので、継続使用しているうちに鉄の除去処理の結果が思わしくなくなることがあった。
【0011】
また、アルミニウム系凝集剤を使用するが故にろ過処理水中にアルミニウムが残留してしまう問題も生じた。日本では、飲料水の水質基準において快適水質に関する項目で残留アルミニウムは0.2mg/L以下とされており、アルミニウム系凝集剤を多量に使用するとこの基準を超えてしまう恐れがある。さらに、プール水や浴槽水等の循環水では残留アルミニウムがさらに蓄積される恐れがあり、近年、アルミニウムによるアルツハイマー症等の神経系疾患も懸念されている。
【0012】
そこで、本発明は、アルミニウム系凝集剤を使用せずに地下水中の鉄やマンガンを良好に除去することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明では鉄シリカ系無機高分子凝集剤(PSI)を用いることを主たる特徴とし、次の(1)により課題を解決する。
(1)特徴構成1の水処理方法は、地下水を接触酸化ろ過する水処理方法において、接触酸化ろ過前の被処理地下水に酸化剤と鉄シリカ系無機高分子凝集剤を添加する水処理方法であって、
可溶性シリカイオンを40mgSiO 2 /L以上含有している被処理地下水に対して、前記酸化剤として、空気、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムまたは次亜塩素酸カルシウムのうちの少なくとも1種を用いること、並びに、前記鉄シリカ系無機高分子凝集剤を45mg/L以上添加することを特徴とする。
鉄シリカ系高分子凝集剤(PSI)は本来、特公平4−75796号や特許2732067号に記載されている通り、重合ケイ酸溶液に第2鉄塩を添加して生成され、主に処理水の濁質を凝集沈殿させる目的で用いられている。
これに対し本発明では、処理水中の鉄イオンを酸化して水酸化第2鉄を析出させるとき、多量の可溶性シリカイオンが水酸化第2鉄粒子相互の凝集を妨害するのを阻止し、接触酸化ろ過による除鉄処理能力を向上させることを主たる目的として鉄シリカ系高分子凝集剤(PSI)が用いられる。
【0014】
以下に本発明の作用について説明する。鉄シリカ系無機高分子凝集剤(PSI)は分子式が[SiO2]n・[Fe23]であって、pH5.5〜7.0の範囲で有効に働くので、pHが7以下の地下水に添加した場合にも良好な凝集効果を発揮し、特に地下水中に可溶性シリカイオンが40mgSiO2/L以上含有し、かつ、鉄の酸化速度が遅い場合にも、鉄シリカ系無機高分子凝集剤(PSI)を用いることで、アルミニウム系凝集剤使用時よりも鉄の除去処理能力が向上する。これは地下水のpHによる影響以外に、可溶性シリカイオンが水酸化第2鉄より添加された鉄シリカ系無機高分子凝集剤の重合ケイ酸の方に強く引き付けられて、可溶性シリカイオンによる水酸化第2鉄粒子のコロイド化が抑えられたためとも考えられる。その上、地下水中の含有マンガンに対しても、除去効果を発揮する。
【0015】
さらに、アルミニウム系凝集剤を用いないことで、処理水中にアルミニウム系凝集剤によるアルミニウムが残留することがない。そのため、飲料水や工業用水中に一定量以上のアルミニウムが残存する可能性が低くなるので、これまで危惧されていたアルミニウムによる弊害を抑えることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なおこれによりこの発明が限定されるものではない。
−第1実施形態−
図1に示すシステムにおいて、地下水は兵庫県神戸市内の地下水を用いた。タンク5の凝集剤は、鉄シリカ系無機高分子凝集剤として水道機工(株)製 PSI-050(モル比 Fe:Si=1:0.5、鉄含量2.2wt%)と、水道機工(株)製 PSI-100(モル比 Fe:Si=1:1、鉄含量2.2wt%)とを用い、アルミニウム系凝集剤のPAC(Al23 10%品)と比較した。添加濃度は、配管14を流れる地下水の流量に対して、PSIを45mg/L、PACを15mg/Lとなるようにポンプ6でそれぞれ各別に連続添加し、さらに、地下水中の鉄とマンガンの酸化に必要な塩素の要求量が16mgCl2/Lであったので、12%有効塩素の次亜塩素酸ナトリウムをタンク8に保有し、配管14を流れる地下水の流量に対して130mg/Lとなるようにポンプ9で連続添加し、接触酸化ろ過装置3に導入した。接触酸化ろ過装置3に充填された接触酸化ろ過材4は東西化学産業(株)製デアイロンA−2(除鉄、除マンガンろ過剤)を使用し、接触酸化ろ過装置3出口にて除鉄処理水の水質を比較した。
【0017】
ここで接触酸化ろ過材として用いる東西化学産業(株)製デアイロンA−2は、次亜塩素酸酸化触媒としてMnO・Mn27がコーティングされたろ材であって、除鉄反応は以下のようになる。尚、Zはろ材の基材であるゼオライトを意味する。
▲1▼Z−[MnO・Mn27]+4Fe(HCO32
Z−[MnO23−[γ−FeOOH]4+4CO2+H2
▲2▼2Fe(HCO)3+NaClO+H2O→
2Fe(OH)3+4CO2+NaCl
▲1▼の反応は接触酸化されたγ−オキシ水酸化鉄がろ材に吸着するものであり、▲2▼の反応で次亜塩素酸ナトリウムにより酸化された水酸化第2鉄が不溶性となることでろ材を通過中にろ過されることとなる。
また、除マンガン反応は以下のようになる。尚、Zはろ材の基材であるゼオライトを意味する。
▲3▼Z−[MnO・Mn27]+2Mn(HCO32+3H2O→
Z−[MnO(OH)25+4CO2
▲4▼Z−[MnO・(OH)2]+2Mn(HCO32+NaClO→
Z−[MnO(OH)22+2CO2+NaCl
新しいろ材の時は▲3▼の初期反応が起き、以後▲4▼の反応が継続的に行われてマンガンが除去される。
【0018】
表1に各除鉄処理水の水質の測定結果を示す。表1より明らかな通り、凝集剤にPSIを用いることにより、ろ過処理水中にアルミニウムを残存させることなく地下水中の除鉄が行えた。ろ過処理水の鉄濃度を比較すると、PSI-100よりPSI-050の方が除鉄効果は高く、効果的であることがわかる。
【0019】
【表1】
Figure 0004043412
【0020】
−第2実施形態−
図2に示すシステムにおいて、地下水は大阪府泉佐野市内の地下水を用いた。タンク5の凝集剤は、鉄シリカ系無機高分子凝集剤として水道機工(株)製 PSI-050(モル比 Fe:Si=1:0.5、鉄含量2.2wt%)を用い、アルミニウム系凝集剤のPAC(Al23 10%品)と比較した。添加濃度は、配管14を流れる地下水の流量に対して、PSIを50mg/L、PACを20mg/Lとなるようにポンプ6でそれぞれ各別に連続添加し、圧縮空気は配管14を流れる地下水の流量に対して同等のNm3/H(0℃、1気圧時の体積流量であり、N=Normalの略)となるように連続添加し、接触酸化ろ過装置3に導入した。接触酸化ろ過装置3に充填された接触酸化ろ過材4は東西化学産業(株)製デアイロンA−4(除鉄ろ過材)を使用し、接触酸化ろ過装置3出口にて除鉄処理水の水質を比較した。
【0021】
ここで接触酸化ろ過材として用いる東西化学産業(株)製デアイロンA−4は、空気酸化触媒としてγ−FeOOHがコーティングされたろ材であって、除鉄反応は以下のようになる。尚、Zはろ材の基材であるゼオライトを意味する。
Z−[γ−FeOOH] n +4Fe(HCO32+O2
Z−[γ−FeOOH] n+4 +8CO2+2H2
となり、γ−オキシ水酸化鉄の酸化触媒作用と溶存酸素により原水中の重炭酸鉄を酸化してγ−オキシ水酸化鉄にえて、ろ材に吸着するものである。
【0022】
表2に各除鉄処理水の水質の測定結果を示す。表2より明らかな通り、凝集剤はPSIを用いることによりろ過処理水中にアルミニウムを残存させることなく地下水中の除鉄効果が得られた。ろ過処理水の鉄濃度を比較した場合、PACよりもPSI-050の方が除鉄効果は高く、効果的であることがわかる。
【0023】
【表2】
Figure 0004043412
【0024】
−第3実施形態−
図3、図4に示すシステムにおいて、地下水は大阪府豊中市内の地下水を用いた。タンク5の凝集剤は、鉄シリカ系無機高分子凝集剤として水道機工(株)製 PSI-050(モル比 Fe:Si=1:0.5、鉄含量2.2wt%)を用い、アルミニウム系凝集剤のPAC(Al23 10%品)と比較した。添加濃度は、配管14を流れる地下水の流量に対して、PSIを45mg/L、PACを15mg/Lとなるようにポンプ6でそれぞれ各別に連続添加し、さらに、地下水中の鉄とマンガンの酸化に必要な塩素の要求量が17.4mgCl2/Lであったので、12%有効塩素の次亜塩素酸ナトリウムをタンク8に保有し配管14を流れる地下水の流量に対して145mg/Lとなるようにポンプ9で連続添加し接触酸化ろ過装置3に導入した。接触酸化ろ過装置3に充填された接触酸化ろ過材4は東西化学産業(株)製デアイロンA−2を使用し、接触酸化ろ過装置3出口にて除鉄処理水の水質並びに採水量(<0.3mgFe/L)を比較した。尚、ここでいう採水量(<0.3mgFe/L)とは、システムを連続運転した場合に、ろ過処理水中の鉄の濃度が水道法による水質基準値0.3mgFe/Lを超えて接触酸化ろ過材を逆洗洗浄する必要がある状態になるまでに得られた除鉄処理水量のことである。
【0025】
図3のシステムによる各除鉄処理水の測定結果を表3に、図4のシステムによる各除鉄処理水の測定結果を表4に示す。
【0026】
【表3】
Figure 0004043412
【0027】
【表4】
Figure 0004043412
【0028】
表3及び表4より明らかな通り、凝集剤はPSIを用いることによりろ過処理水中にアルミニウムを残存させることなく地下水中の除鉄効果が得られた。0.3mgFe/L濃度以下の除鉄処理水の採水量を比較すると、PSIを用いた場の採水量はPAC使用時に比べて最大5倍以上となっているので、PSIの除鉄処理能力がPACよりも高いことがわかる。
【0029】
尚、第3実施形態の図3、図4では、貯水槽15の入口側と出口側でPSIと酸化剤の投入位置を入れ替えているが、PSIと酸化剤を共に貯水槽15の入口側または出口側のいずれか一方のみから添加するようにしても良く、第3実施形態の図3、図4の添加順序に限定されるものではない。
【0030】
【発明の効果】
接触酸化ろ過前の被処理地下水に鉄シリカ系無機高分子凝集剤(PSI)を添加することで、地下水中に多量の可溶性シリカイオンが存在し、かつ、鉄やマンガンの酸化速度が遅い場合にも、鉄が良好に除去できる。さらに、接触酸化ろ過を用いた水処理システムにおいて、アルミニウム系凝集剤よりも鉄シリカ系無機高分子凝集剤(PSI)を用いた方が、長時間連続して接触酸化ろ過した処理水の鉄濃度が、水質基準値以下となる水処理が行えるので、水処理システム自体の運転効率が向上する。
【0031】
また、アルミニウム系凝集剤を用いないことで、処理水中に凝集剤によるアルミニウムが残留しない。そのため、飲料水や工業用水中に一定量以上のアルミニウムが残存される可能性がかなり低くなるので、これまで危惧されていたアルミニウムによる弊害を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】酸化剤として次亜塩素系酸化剤を用いた地下水の処理システムを示す図
【図2】酸化剤として空気を用いた地下水の処理システムを示す図
【図3】図1の地下水の処理システムに、貯水槽を追加した処理システムを示す図
【図4】図3の地下水の処理システムの変形例
【符号の説明】
1 地下水層
2 揚水ポンプ
3 接触酸化ろ過材
4 接触酸化ろ過装置
5 凝集剤用タンク
8 酸化剤用タンク
11 コンプレッサ
15 貯水槽

Claims (1)

  1. 地下水を接触酸化ろ過する水処理方法において、接触酸化ろ過前の被処理地下水に酸化剤と鉄シリカ系無機高分子凝集剤を添加する水処理方法であって、
    可溶性シリカイオンを40mgSiO 2 /L以上含有している被処理地下水に対して、前記酸化剤として、空気、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムまたは次亜塩素酸カルシウムのうちの少なくとも1種を用いること、並びに、前記鉄シリカ系無機高分子凝集剤を45mg/L以上添加することを特徴とする水処理方法
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