JP4042343B2 - エーテル構造を有する多価アルコールの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はエーテル構造を有する多価アルコールの製造方法に関するものである。本発明によればエーテル構造を有する種々の多価アルコールを容易に製造することができる。
【0002】
【従来の技術】
多価アルコールは、ポリエステルやポリウレタンの原料として、また(メタ)アクリル酸と反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして塗料の原料として用いられるなど、重要な化学品である。多価アルコールを原料とする樹脂や塗料などの物性は、多価アルコールの構造に大きく影響されるので、種々の構造を有する多価アルコールが検討されている。多価アルコールのなかでも内部にエーテル構造を有するものは、単なる炭化水素鎖を骨格とするものに比して、最終的に得られる樹脂や塗料などに特異な性質を付与することができることが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
エーテル構造を有する多価アルコールのなかでも代表的なものは、ジエチレングリコールのようにエーテル酸素の両側が対称な構造を有するものである。これに対し、エーテル酸素の両側が任意の非対称な構造を有するものは、一般的には合成が困難である。例えば多価アルコールとエポキシドを反応させる方法では、エーテル酸素の片側はヒドロキシエチル基となり、ヒドロキシプロピル基やヒドロキシブチル基などエーテル酸素と水酸基との間のアルキレン鎖がトリメチレン基以上のものは合成できない。また、多価アルコールとハロゲン化アルコールとを、塩基の存在下にカップリングさせる方法は、副生物が多く生成することが予想され、工業的な製法としては採用できない。従って本発明は、エーテル構造を有する所望の多価アルコールを効率よく製造し得る方法を提供しようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、エチレン性二重結合及び保護されていてもよいカルボニル基を有する不飽和化合物と多価アルコールとを酸触媒の存在下で反応させて、水酸基及び保護されていてもよいカルボニル基、並びに新たに形成されたエーテル構造を有する化合物を生成させ、次いでこの化合物のカルボニル基を、これが保護されている場合には加水分解してカルボニル基を復元させたのち、水素添加して水酸基に変換することにより、エーテル構造を有する種々の多価アルコールを容易に製造することができる。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明では、先ずエチレン性二重結合及び保護されていてもよいカルボニル基を有する不飽和化合物と多価アルコールとを反応させて、エチレン性二重結合部分に多価アルコールの水酸基を付加させてエーテル構造を形成させる。原料の不飽和化合物は、鎖状化合物及び環状化合物のいずれであってもよい。鎖状化合物の場合にはその炭素数は通常は25以下であり、10以下であるのが好ましい。エチレン性二重結合は末端及び内部のいずれに存在していてもよいが、末端に存在しているのが好ましい。また、炭素鎖には、炭素数1〜23のアルコキシ基、炭素数6〜22のアリール基、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、ニトロ基などの置換基が存在していてもよい。原料の不飽和化合物が環状化合物の場合には、その炭素数は通常は10以下であり、8以下であるのが好ましい。
【0006】
また、環には炭素数1〜23のアルキル基、炭素数1〜23のアルコキシ基、炭素数6〜22のアリール基、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、ニトロ基などの置換基が結合していてもよい。
原料の不飽和化合物は、鎖状化合物又は環状化合物のいずれであるとを問わず、エチレン性二重結合及び保護されていてもよいカルボニル基の数は、通常はいずれも8個以下であり、3個以下であるのが好ましい。エチレン性二重結合と保護されていてもよいカルボニル基とは近接しているのが好ましく、両者の間に介在する炭素鎖の炭素原子は5個以下、特に3個以下であるのが好ましい。
【0007】
最も好ましいのは、アクロレインやメタクロレインのようにエチレン性二重結合とカルボニル基とが直接結合している化合物である。なお、保護されたカルボニル基としては、カルボニル基がアセタール、ケタール、エステルなど、後の工程で加水分解により容易にもとのカルボニル基に復元し得る形になっているものを意味する。
原料の不飽和化合物としては、例えば次のようなものが用いられる。
【0008】
アクロレイン、メタアクロレイン、クロチルアルデヒド、2−ヘキセナール、シンナムアルデヒド、2−シクロヘキセンカルボアルデヒドなどのα、β不飽和アルデヒド、アクロレインジメチルアセタール、アクロレインジエチルアセタール、2−ビニル−1,3−ジオキソラン、2−ビニル−1,3−ジオキサンなどのアセタール類、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、3−ペンテン−2−オンなどのα、β不飽和ケトン類、ビニルメチルケトンジメチルケタール、2,2−エチルビニル−1,3−ジオキソランなどのケタール類、アクリル酸、メタアクリル酸、ケイヒ酸、2−シクロヘキセンカルボン酸などのα、β不飽和カルボン酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸−4−ヒドロキシブチルなどの不飽和カルボン酸エステル、また、γ−クロトノラクトンなどのラクトン類、さらにビニルアセテート、ビニルブチレートなどのビニルエステル類等が挙げられる。この中でもアクロレイン及びそのアセタールであるアクロレインジメチルアセタール、アクロレインジエチルアセタール、2−ビニル−1,3−ジオキソラン、2−ビニル−1,3−ジオキサンなどが好適である。
【0009】
上述の不飽和化合物と反応させる多価アルコールとしては、通常は炭素数2〜20、特に炭素数10以下のものを用いるのが好ましい。例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどが用いられる。
【0010】
酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸、種々のヘテロポリ酸類、更には強酸性陽イオン交換樹脂、ゼオライト、活性白土などの固体酸等を用いることができる。なかでも反応生成液からの分離が容易な点で固体酸を用いるのが好ましい。
反応は、原料の不飽和化合物と多価アルコールとの混合物に酸触媒を加えて、20〜200℃、好ましくは25〜180℃で反応させればよい。この温度範囲外でも反応は進行するが、低温では反応速度が遅く、また高温ではエチレン性二重結合の重合反応やカルボニル基のアルドール化反応、更には水酸基の脱水反応などの副反応が生起し易い。反応に供する不飽和化合物と多価アルコールとの比率は、通常、不飽和化合物1モルに対して多価アルコール1〜100モルであるが、不飽和化合物1モルに対して多価アルコール1〜95モル、特に1.2〜90モルの範囲が好ましい。酸触媒は不飽和化合物に対して通常、重量比で0.0001〜100倍であるが、0.001〜70、特に0.01〜50の範囲が好ましい。反応は通常は無溶媒で行うが、所望ならば反応に不活性な溶媒を用いることもできる。反応は通常は回分方式で行うが、連続方式で行うこともできる。例えば固体触媒の充填床に、不飽和化合物と多価アルコールとの混合物を連続的に通液する方式を採用することができる。
【0011】
不飽和化合物と多価アルコールとの反応生成物は、次いでカルボニル基を水素添加して目的とするエーテル構造を有する多価アルコールとする。通常は反応生成液から、蒸留、抽出など適宜の手段により、反応生成物を分離して水素添加反応に供するが、場合によっては反応生成液をそのまま水素添加反応に供することもできる。
なお、カルボニル基がアセタール、ケタール、エステルなどとして保護されている場合には、先ず加水分解により保護基を外す必要がある。この加水分解は酸触媒を用いて常法により行うことができる。酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸、ヘテロポリ酸、ランタノイドトリフラート等のルイス酸、更には強酸性陽イオン交換樹脂、ゼオライト、酸性白土などの固体酸を用いることができる。酸触媒の使用量は任意であるが、通常は基質に対して0.0001〜100重量倍であり、0.001〜70重量倍、特に0.01〜50重量倍が好ましい。加水分解は通常20〜200℃で行うが、40〜180℃で行うのが好ましい。温度が低過ぎると加水分解反応が著るしく遅延する。逆に高温に過ぎると水酸基の脱水などの副反応が生ずるおそれがある。
【0012】
加水分解反応は平衡反応なので、反応を完結させるには大過剰の水を存在させなければならない。これを避ける一つの方法は、加水分解と水素添加反応とを同時進行させることである。この場合には、加水分解により生成したアルデヒド基などが水酸基に転換されて平衡関係から離脱するので、少量の水を存在させるだけで加水分解反応を進行させることができる。
【0013】
カルボニル基の水素添加は常法により行うことができる。通常は水素を用いて接触還元を行うのが好ましい。触媒としてはラネーニッケルや白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウムなどの貴金属を用いるのが好ましい。なかでもルテニウムを主成分とする触媒は副反応が少ないので好ましい。これらの貴金属はカーボン、シリカ、ゼオライトなど適宜の担体に担持させて用いるのが好ましい。加水分解と水素添加とを同時進行させる場合には、固体酸に貴金属を担持した触媒を用い、加水分解触媒と水素添加触媒との両者の機能を発現させることもできる。水素添加反応は1kPaという低い水素圧でも進行するが、通常は0.01〜50MPaの範囲で行う。0.05〜20MPa、特に0.1〜10MPaの範囲で行うのが好ましい。反応溶媒は通常は不要であるが、所望ならばアルコールその他の溶媒を用いることもできる。加水分解によるカルボニル基の保護基の脱離反応と水素添加反応とを同時進行させる場合には、アルコールの存在により反応が促進されることがある。これはアルコールが水と基質との混和を促進すること、及びアルコールがカルボニル基の保護基と交換反応し、カルボニル基をより加水分解され易い形に変化させることによるものと考えられる。
還元反応は室温でも十分に進行するが通常10〜200℃、特に25〜180℃で行うのが好ましい。反応温度が高過ぎると、基質やアルコールの水素化分解が進行し易くなるので注意を要する。
【0014】
【実施例】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
アクロレイン100gと1,3−プロパンジオール400gの混合液に、乾燥したイオン交換樹脂(Amber1ist15、ロームアンドハース社製品)5gを加え、室温で3時間撹拌した。炭酸水素ナトリウムを5mm厚さに敷きつめた濾紙で反応液を濾過した。濾液を蒸留し2−ビニル−1,3−ジオキサンを得た。アクロレイン基準の収率は87%であった。
2−ビニル−1,3−ジオキサン177gと1,3−プロパンジオール300gの混合物に乾燥したイオン交換樹脂(Amberlist15)5gを加え、80℃で3時間撹拌した。濾過してイオン交換樹脂を除去し、濾液に炭酸水素ナトリウム1gを加えた。さらに発泡がなくなるまで炭酸水素ナトリウムを少量づつ添加したのち、10分間撹拌して濾過した。濾液を減圧蒸留し2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを得た。2−ビニル−1,3−ジオキサン基準の収入率は88%であった。
【0015】
ミクロオートクレーブに、2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサン20gと水40gを仕込み、これにカーボン担持ルテニウム触媒(ルテニウム担持量5重量%)2g及びゼオライトUSY(Zeolyst international Si/Al=55)2gを加え、オートクレーブを水素で置換した。80℃に加熱して撹拌下に加水分解反応と水素添加反応とを同時進行させた。この間、水素分圧は0.7MPaに維持した。
水素吸収が見られなくなってからオートクレーブを冷却し、濾過して触媒を除去した。濾液を蒸留して4−オキサヘプタン−1,7−ジオールを得た。2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサン基準の収率は99%であった。
【0016】
実施例2
アクロレイン100g及び1,3−プロパンジオール400gの混合液に乾燥したイオン交換樹脂(Amber1ist15)5gを加え、室温で3時間撹拌した。炭酸水素ナトリウムを5mm厚さに敷きつめた濾紙で濾過し、濾液から軽沸点成分(未反応のアクロレイン及び水)を留去した。残液にイオン交換樹脂(Amberlist15)5gを加え、80℃で3時間撹拌した。濾過してイオン交換樹脂を除き、濾液に炭酸水素ナトリウム1gを加えた。さらに発泡が見られなくなるまで炭酸水素ナトリウムを少量づつ添加したのち、10分間撹拌して濾過した。濾液を減圧蒸留して2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを得た。アクロレイン基準の収率は80%であった。
【0017】
実施例3
アクロレイン100g及び1,3−プロパンジオール400gの混合液に乾燥したイオン交換樹脂(Amber1ist15)5gを加え、室温で1週間撹拌した。濾過してイオン交換樹脂を除去し、濾液を水酸化ナトリウムを充填したカラムに通したのち減圧蒸留し、2−(6−ヒドロキシ−3−オキサヘキシル)−1,3−ジオキサンを得た。アクロレイン基準の収率は78%であった。
【0018】
実施例4
1,3−プロパンジオールの代りにエチレングリコールを用いた以外は、実施例1と全く同様にして反応を行った。アクロレインとエチレングリコールとの反応物である2−ビニル−1,3−ジオキソランの収率はアクロレイン基準で71%であり、2−ビニル−1,3−ジオキソランとエチレングリコールとの反応物である2−(5−ヒドロキシ−3−オキサペンチル)−1,3−ジオキソランの収率は2−ビニル−1,3−ジオキソラン基準で74%であった。また、最終目的物である3−オキサヘキサン−1,6−ジオールの水添収率は98%であった。
【0019】
実施例5
1,3−プロパンジオールの代りに1,2−プロパンジオールを用いた以外は、実施例2と全く同様にして、2−(5−ヒドロキシ−4−メチル−3−オキサペンチル)−4−メチル−1,3−ジオキソランと、2−(5−ヒドロキシ−5−メチル−3−オキサペンチル)−4−メチル−1,3−ジオキソランとの混合物を得た。アクロレイン基準の収率は85%であった。これを実施例1と同様にして水素添加して、1−メチル−3−オキサヘキサン−1,6−ジオールと2−メチル−3−オキサヘキサン−1,6−ジオールの混合物を水添収率99%で得た。
【0020】
実施例6
1,3−プロパンジオールの代りに1,2−ブタンジオールを用いた以外は、実施例2と全く同様にして、2−(5−ヒドロキシ−4−エチル−3−オキサペンチル)−4−エチル−1,3−ジオキソランと、2−(5−ヒドロキシ−5−エチル−3−オキサペンチル)−4−エチル−1,3−ジオキソランとの混合物を得た。アクロレイン基準の収率は92%であった。これを実施例1と同様にして水素添加して、1−エチル−3−オキサヘキサン−1,6−ジオールと2−エチル−3−オキサヘキサン−1,6−ジオールの混合物を水添収率99%で得た。
Claims (6)
- エチレン性二重結合及び保護されているカルボニル基を有する不飽和化合物と多価アルコールとを酸触媒の存在下で反応させて、水酸基及び保護されているカルボニル基、並びに新たに形成されたエーテル構造を有する化合物を生成させ、次いでこの化合物を酸触媒及び水素添加触媒の存在下に水及び水素と反応させて、保護されているカルボニル基の加水分解によるカルボニル基の生成と、生成したカルボニル基の水素添加による水酸基の生成とを同時進行させることを特徴とするエーテル構造を有する多価アルコールの製造方法。
- エチレン性二重結合と保護されているカルボニル基とを有する不飽和化合物が、末端にエチレン性二重結合を有するアセタール又はケタールであることを特徴とする、請求項1記載のエーテル構造を有する多価アルコールの製造方法。
- エチレン性二重結合と保護されているカルボニル基とを有する不飽和化合物が、アクロレインのアセタールであることを特徴とする、請求項1又は2記載のエーテル構造を有する多価アルコールの製造方法。
- 不飽和化合物と反応させる多価アルコールが、炭素数2〜20のジオールであることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の多価アルコールの製造方法。
- 不飽和化合物と多価アルコールとを反応させた後、該反応に用いた酸触媒を除去し、新たに酸触媒及び水素添加触媒を加えて、不飽和化合物と多価アルコールとの反応生成物の保護されているカルボニル基の加水分解によるカルボニル基の生成と、生成したカルボニル基の水素添加による水酸基の生成とを同時進行させることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の多価アルコールの製造方法。
- 新たに加える酸触媒及び水素添加触媒が、それぞれ、ゼオライト及びルテニウム触媒であることを特徴とする、請求項5記載の多価アルコールの製造方法。
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