JP4024573B2 - 化粧シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築物の内装、建具の表面化粧、車両の内装等に用いられる化粧シートに関し、更に詳しくは、環境安全性が向上すると共に、層間密着性、耐スクラッチ性および意匠性に優れた化粧シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建築物の内装、建具の表面化粧、車両の内装等に用いられる化粧シートとして、基材シート、ベタインキ層を有するインキ層、接着剤層、透明樹脂層および表面保護層を順次積層させた化粧シートが一般に知られている。
【0003】
こうした化粧シートは、基材シートと透明樹脂層との間における養生処理(架橋反応を十分に行わせることを目的とした処理であって、所定温度で所定時間保持する処理をいう。)後の層間密着性、養生処理および耐候試験した後の層間密着性、および、養生処理および耐水試験した後の層間密着性、並びに、表面保護層の耐摩耗性等に優れることが要求されている。そうした要求を満たすため、従来より、2液性の溶剤系塗工剤が使用され、架橋反応により各層が形成されている。従来より使用されている2液性の溶剤系塗工剤の代表例としては、樹脂成分としてウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等、および/またはそれらの混合物が挙げられ、架橋剤としてイソシアネート基含有化合物が挙げられる。
【0004】
ところで、溶剤系塗工剤で形成される化粧シートにおいては、特開平11−198309号公報に記載のように、インキ層や接着剤層を、有機性揮発物質(以下、VOCという。)であるトルエン、キシレン等の芳香族溶剤およびメチルエチルケトンや酢酸エチル等の脂肪族溶剤を含む溶剤系塗工剤により形成することが一般に行われているが、近年、安全性を考慮して、こうしたトルエン、キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等のVOCの使用を減少させようという動きがある。具体的には、VOCを含有する溶剤系塗工剤の使用をできるだけ制限することにより、化粧シート製造時におけるVOCの揮発量を低下させて作業環境の安全性を高めたり、化粧シート中のVOC残存量を低下させて生活環境の安全性を高めたりする手段が提案されている。例えば、特開2000−62970公報には、インキ層や接着剤層を、VOCを含有しない水系塗工剤で形成することにより、上記の環境問題を解決することが記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ベタインキ層、接着剤層、表面保護層等を水系塗工剤で形成した化粧シートは、VOCの揮発量や残存量を少なくすることができるので、上述した環境問題を解決するのに有効であるものの、化粧シートを構成する基材シートと透明樹脂層との層間密着性に劣るものが多く、必ずしも十分な層間密着性を有しているとは言い得ないものであった。
【0006】
特に、ウレタン樹脂、アクリル樹脂またはそれらの混合物を樹脂成分とし、エポキシ基を持つ水性化合物を架橋剤として含有する従来のベタインキ層用水系塗工剤または接着剤層用水系塗工剤を使用してベタインキ層または接着剤層を形成した場合には、形成されたベタインキ層または接着剤層の強度が乏しく、基材シートと透明樹脂層の間における養生処理後の層間密着性、養生処理および耐候試験した後の層間密着性、または、養生処理および耐水試験した後の層間密着性に劣るという問題があった。
【0007】
なお、前記の水系塗工剤で各層を形成した後の化粧シートにおいては、約80℃で養生処理することにより、各層を十分に架橋させて上記層間密着性を向上させることができるが、約80℃という高い温度が化粧シートに加わると、化粧シートが収縮して意匠性が低下するという問題が生じる。優れた意匠性を保持するためには養生温度60℃が限界であるが、その温度では、前記の水系塗工剤で各層を形成した後の化粧シートの層間密着性に対しては未だ不十分であった。
【0008】
本発明は、上述の問題を解決すべくなされたものであって、その目的は、環境安全性、層間密着性、耐スクラッチ性および意匠性に優れた化粧シートを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の化粧シートは、基材シートと、ベタインキ層を有するインキ層と、接着剤層と、透明樹脂層と、表面保護層とを少なくとも有し、当該各層を順次積層してなる化粧シートにおいて、前記ベタインキ層、前記接着剤層および表面保護層の少なくとも1以上の層が水系塗工剤で形成されてなり、該水系塗工剤が、少なくとも1分子中に2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有することに特徴を有するものである。
【0010】
この発明によれば、ベタインキ層、接着剤層および表面保護層の少なくとも1以上の層が水系塗工剤で形成されるので、作業環境におけるVOCの揮発量および化粧シート中のVOC残存量を減少させることができ、その結果、化粧シート製造時における作業環境の安全性や生活空間での環境安全性をより向上させることができる。また、使用する水系塗工剤は、少なくとも1分子中に2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有するので、その架橋剤の作用により強固な層を形成することができ、その結果、基材シートと透明樹脂層との層間密着性を向上させることができる。また、表面保護層を形成した場合においては、強固な層を最表面に形成でき、その結果、耐スクラッチ性に優れた化粧シートとすることができる。また、本発明に係る水系塗工剤で形成した層は、室温での養生処理でも十分に架橋されるので、耐候性試験および耐水性試験後の層間密着性も優れている。
【0011】
本発明においては、前記透明樹脂層が、溶融押出し塗工法で形成されてなることが好ましい。
【0012】
また、本発明においては、前記イソシアネート基を持つ化合物が、自己乳化性を有し、下記化学式1に示すイソシアヌレート骨格を有する水性化合物であることが好ましい。下記化学式1において、nは1以上の整数であり、R1 、R2 、Rn+2 はジイソシアネート残基であり、少なくとも2個以上のイソシアネート基を有する。また、必要に応じて、親水性基および/または疎水基を導入してもよい。この発明によれば、架橋剤がイソシアヌレート骨格を有する水性化合物であるので、イソシアヌレート骨格が3次元的に架橋して立体的な分子構造を形成し、その結果、強固な層が形成されて基材シートと透明樹脂層との層間密着性をより一層向上させることができる。
【0013】
【化1】
【0014】
また、本発明の化粧シートにおいて、前記イソシアネート基を持つ水性化合物が、該水性化合物の持つ遊離イソシアネート基に化合物を結合させたものであって、当該遊離イソシアネート基に結合した化合物は、前記水系塗工剤の配合作業および/または塗工工程の温度では遊離イソシアネート基から解離し難く、前記透明樹脂層の形成時および/または形成後に加わる熱では遊離イソシアネート基から解離し易いことに特徴を有する水性化合物でもよい。このような水性化合物は、一般に「ブロックイソシアネート化合物」と呼ばれている。
【0015】
この発明によれば、水性化合物の持つ遊離イソシアネート基に結合させた化合物は、水系塗工剤の工程温度では遊離イソシアネート基から解離し難いので、水との反応を抑制することができ、耐熱性を低下させるウレア結合の生成を抑制することができる。さらに、水性化合物の持つ遊離イソシアネート基に結合させた化合物は、透明樹脂層の形成時および/または形成後に加わる熱では遊離イソシアネート基から解離し易いので、反応性の高い遊離イソシアネート基が現れ、架橋反応を促進させる。
【0016】
前記の化粧シートにおいて、前記水系塗工剤がベタインキ層および/または接着剤層に使用されることが好ましい。この発明によれば、耐熱性に優れたベタインキ層および/または接着剤層が形成され、化粧シートの耐熱性が向上すると共に、安定性に優れた水系塗工剤によりベタインキ層および/または接着剤層を効率的に形成できる。
【0017】
また、前記の化粧シートにおいて、遊離イソシアネート基に結合した前記化合物が、フェノール系、アルコール系、活性メチレン系、メルカプタン系、酸アミド系、酸イミド系、ラクタム系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、アミン系およびイミド系の化合物の群から選択される1の化合物であることが好ましく、前記透明樹脂層の形成時および/または形成後に加わる熱が、当該透明樹脂層の溶融押出し時の熱、当該透明樹脂層のドライラミネーション時の熱および前記表面保護層の表面への凹凸模様形成時の熱から選択される1または2以上の熱であることが好ましい。
【0018】
また、本発明においては、前記水系塗工剤が、水性ウレタン樹脂を少なくとも含有することが好ましい。この発明によれば、基材シートと透明樹脂層との密着性をより向上させることができる。
【0019】
本発明の具体的な態様としては、前記基材シートがポリオレフィン系エラストマーからなり前記透明樹脂層がポリオレフィン系樹脂からなること、前記透明樹脂層の表面側に凹凸模様が形成されていること、前記凹凸模様の凹陥部に着色層が形成されていること、前記基材シートの裏面に裏面プライマー層が形成されていること、が好ましい。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の化粧シート1の層構成の一例を示す断面図である。図1に示す本発明の化粧シート1は、基材シート2、ベタインキ層3、絵柄インキ層4、接着剤層5、透明樹脂層6、凹凸模様7、着色層8、表面保護層9が順次積層された形態であり、基材シート2の裏面には裏面プライマー層10を更に備えている。
【0022】
(基材シート)
基材シート2は、化粧シート1における必須の構成であり、オレフィン系樹脂を好ましく適用できるがその種類は限定されない。例えば、(イ)主原料がハードセグメントとしての高密度ポリエチレンまたはポリプロピレンのいずれかからなり、これにソフトセグメントとしてのエラストマーおよび無機充填剤を添加してなる混合物を基材シート2に用いることができる。また、(ロ)特開平9−111055号公報、特開平5−77371号公報、特開平7−316358号公報等に記載されるエチレン−プロピレン−ブテン共重合体を基材シート2に用いることもできる。また、(ハ)特公平6−23278号公報記載のハードセグメントであるアイソタクチックポリプロピレンとソフトセグメントとしてのアタクチックポリプロピレンとの混合物を基材シート2に用いることもできる。
【0023】
前記(イ)のオレフィン系樹脂におけるハードセグメントとしての高密度ポリエチレンとしては、好ましくは、比重が0.94〜0.96のポリエチレンであって、低圧法で得られる結晶化度が高く、分子に枝分かれ構造の少ない高分子である高密度ポリエチレンが用いられる。また、ハードセグメントとしてのポリプロピレンとしては、好ましくは、アイソタクチックポリプロピレンが用いられる。
【0024】
前記(イ)のソフトセグメントとしてのエラストマーとしては、ジエン系ゴム、水素添加ジエン系ゴム、オレフィンエラストマー等が用いられる。水素添加ジエン系ゴムは、ジエン系ゴム分子の二重結合の少なくとも一部分に水素原子を付加させてなるもので、ポリオレフィン系樹脂の結晶化を抑えて、その柔軟性を向上させる。ジエン系ゴムとしては、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、プロピレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム等がある。オレフィンエラストマーとしては、2種類または3種類以上のオレフィンと共重合しうるポリエンを少なくとも1種類加えた弾性共重合体であり、オレフィンとしてはエチレン、プロピレン、α−オレフィン等が使用され、ポリエンとしては、1,4ヘキサジエン、環状ジエン、ノルボルネン等が使用される。好ましいオレフィンエラストマーとしては、例えばエチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエンゴム、エチレン−ブタジエン共重合体ゴム等のオレフィンを主成分とする弾性共重合体が挙げられる。なお、これらのエラストマーは、必要に応じて有機過酸化物、硫黄等の架橋剤を用いて、過重架橋させてもよい。
【0025】
これらエラストマーの添加量としては、10〜60重量%、好ましくは30重量%程度である。10重量%より低いと一定荷重伸度の変化が急峻になり過ぎ、また、破断時伸度、耐衝撃性、易接着性の低下が生じ、60重量%より高いと透明性、耐候性および耐クリープ性の低下が生ずる。
【0026】
前記(イ)の無機充填剤としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等の平均粒径0.1〜10ミクロン程度の粉末が用いられる。添加量としては、1〜60重量%程度、好ましくは5〜30重量%程度である。1重量%未満では耐クリープ変形性および易接着性の低下が生じ、60重量%を超えると破断時伸度および耐衝撃性の低下が生じる。
【0027】
前記(ロ)のオレフィン系樹脂としては、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体樹脂からなる熱可塑性エラストマーが用いられる。ここで、ブテンとしては、1ブテン、2ブテン、イソブチレンの3種の構造異性体のいずれも用いることができる。共重合体としては、ランダム共重合体であって、非晶質の部分を一部含む。
【0028】
上記エチレン・プロピレン・ブテン共重合体樹脂の好ましい具体例としては、次の(a)〜(c)が挙げられる。
【0029】
(a)特開平9−111055号公報に記載されるエチレン、プロピレンおよびブテンの3元共重合体によるランダム共重合体。単量体成分の重量比率はプロピレンが90重量%以上であり、メルトフローレートは、230°C、2.16kgの条件下で1〜50g/10分であることが好ましい。このような3元ランダム共重合体100重量部に対して、上記ランダム共重合体は、燐酸アリールエステル化合物を主成分とする透明造核剤を0.01〜50重量部、炭素数を12〜22の脂肪酸アミド0.003〜0.3重量部を溶融混練してなるものである。(b)特開平5−77371号公報に記載されるエチレン、プロピレンおよびブテンの3元共重合体であって、プロピレン重量比率が50重量%以上の非晶質重合体20〜100重量%に、結晶質ポリプロピレンを80〜0重量%添加してなるエチレン・プロピレン・ブテン共重合体。(c)特開平7−316358号公報に記載されるエチレン、プロピレン、1ブテンの3元共重合体であって、プロピレンおよび/または1ブテン含有率が50重量%以上の低結晶質重合体20〜100重量%に、アイソタクチックポリプロピレン等の結晶性ポリオレフィン80〜0重量%を混合した組成物に対して、Nアシルアミノ酸アミン塩、Nアシルアミノ酸エステル等の油ゲル化剤を0.5重量%添加したエチレン・プロピレン・ブテン共重合体。
【0030】
上記(a)〜(c)のエチレン・プロピレン・ブテン共重合体樹脂は、単独で用いてもよいし、該エチレン・プロピレン・ブテン共重合体樹脂に必要に応じてさらに他のポリオレフィン樹脂を混合して用いてもよい。
【0031】
前記(ハ)のオレフィン系樹脂としては、特公平6−23278号公報記載の(A)ソフトセグメントとして数平均分子量Mnが25000以上、且つ重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mn≦7の沸騰ヘプタンに可溶なアタクチックポリプロピレン10〜90重量%と、(B)ハードセグメントとしてのメルトインデックスが0.1〜4g/10分の沸騰ヘプタン不溶性のアイソタクチックポリプロピレン90〜10重量%との混合物からなる軟質ポリプロピレンが挙げられる。
【0032】
上記(ハ)のオレフィン系熱可塑性エラストマーの中でも、アイソタクチックポリプロピレンとアタクチックポリプロピレンの混合物からなり、且つアタクチックポリプロピレンの重量比率が5〜50重量%のものが好ましく、アタクチックポリプロピレンの重量比率が20〜40重量%のものが特に好ましい。アタクチックポリプロピレンの重量比率が5重量%未満ではエンボス加工をしたり、3次元形状や凹凸形状の物品に成形加工する際にネッキングによる不均一なシートの変形や、その結果としての皺、絵柄の歪み等が生ずる。一方、アタクチックポリプロピレンの重量比率が50重量%を超えると、シート自体が変形し易くなり、シートを印刷機に通した時にシートが変形し、インキ層11の絵柄の歪み、多色刷の場合に見当が合わなくなる等の不良が発生しやすくなり、成形時においてはシートが破れ易くなる。
【0033】
基材シート2を形成する上述のオレフィン系樹脂中には、必要に応じて、着色剤、熱安定剤、難燃剤、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤等が添加される。
【0034】
着色剤としては、チタン白、亜鉛華、べんがら、朱、群青、コバルトブルー、チタン黄、黄鉛、カーボンブラック等の無機顔料、イソインドリノン、ハンザイエローA、キナクリドン、パーマネントレッド4R、フタロシアニンブルー等の有機顔料あるいは染料、アルミニウム、真鍮等の箔粉からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸亜鉛等の箔粉からなる真珠光沢顔料等が用いられる。また、必要に応じて、無機充填剤を添加してもよく、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)等の粉末等が挙げられ、その添加量は、通常、5〜60重量%である。着色剤は、基材シート2に化粧シート1として必要な色彩を持たせるために添加され、透明着色と不透明(隠蔽)着色のいずれでも構わないが、一般的には被着体15を隠蔽するために不透明着色が好ましい。
【0035】
熱安定剤としては、フェノール系、サルファイト系、フェニルアルカン系、フィスファイト系、アミン系等公知のものが使用でき、熱加工時の熱変色等の劣化の防止の向上を図る場合に用いられる。難燃剤は、難燃性を付与する場合に添加され、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの粉末が用いられる。紫外線吸収剤は、樹脂により良好な耐候性(耐光性)を付与するためのものであり、ベンゾトリアソール、ベンゾフェノン、サリチル酸エステル等の有機物、または、0.2μm径以下の微粒子状の酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタン等の無機物が用いられる。その他に、ベンゾトリアゾール骨格にアクリロイル基またはメタクリロイル基を導入した反応型紫外線吸収剤も用いられる。尚、これらの紫外線吸収剤の添加量は、通常0.5〜10重量%程度である。ラジカル捕捉剤は、紫外線による劣化を更に防止し、耐候性を向上させるためのものであり、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ビペリジニル)セバケート、ビス−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ビペリジニル)セバケート、その他、例えば特公平4−82625号公報に開示されている化合物等のヒンダード系ラジカル捕捉剤、ビペリジニル系ラジカル捕捉剤等が使用される。
【0036】
基材シート2は、上述した材料を任意に選択してブレンドしたものをカレンダー加工等の常用の方法により製膜して得ることができる。基材シート2の厚みは50〜200μm、好ましくは100μm程度である。
【0037】
化粧シート1の表面側(透明樹脂層6側)における基材シート2の表面には、易接着層の塗布、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理等の易接着処理を施すことが好ましい。易接着層(プライマー層またはアンカー層ともいう。)としては、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンを使用することができる。
【0038】
なお、上述したポリオレフィン系樹脂からなる基材シート2の他に、ポリエステルやビニロン等の有機樹脂等を用いた織布または不織布、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル等のアクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、三酢酸セルロース、セロハン、ポリカーボネート等の樹脂からなるシートまたはフィルムを用いることも可能である。また、薄葉紙、クラフト紙、チタン紙、リンター紙、板紙、石膏ボード紙、上質紙、コート紙、アート紙、硫酸紙、グラシン紙、パーチメント紙、パラフィン紙等の紙、あるいは、そうした紙にポリ塩化ビニルをゾル塗工またはドライラミネートしたいわゆるビニル壁紙原反を用いることができる。また、硝子繊維、石綿、チタン酸カリウム繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、炭素繊維等の無機質繊維からなるシートまたはフィルムを用いることも可能である。また、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、銅等の金属箔等を用いることもできる。さらに、こうした各基材材料を複数積層させたものを、基材シート2として用いることも可能である。
【0039】
(インキ層)
インキ層11は、化粧シート1における必須の層であり、少なくともベタインキ層3を有するものであるが、通常、ベタインキ層3および絵柄インキ層4から構成される。
【0040】
ベタインキ層3は、図1に示すように、基材シート2の地肌の隠蔽等の目的で設けられ、通常は模様のない全ベタ状の着色層として形成される。絵柄インキ層4は、一般に、図形、文字、記号、色彩、それらの組み合わせ等により、木目模様、石目模様、布目模様、皮絞模様、幾何学図形等からなる模様ないし色彩を有し、ベタインキ層3上に、平面状、凹凸状、凸状(図1を参照。)の層として形成される。なお、絵柄インキ層4がベタインキ層3の作用を兼ねる場合もあり、この場合には、絵柄インキ層4がベタインキ層3となる。
【0041】
ベタインキ層3を少なくとも有するインキ層11は、基材シート2表面の全面に設けても部分的に設けても何れでもよい。また、インキ層11は、図1に示すように、基材シート2の表面全面に設けたべタインキ層3と、そのベタインキ層3の表面に部分的に設けた絵柄インキ層4とから構成することもできる。
【0042】
本発明においては、ベタインキ層3、後述する接着剤層5、後述する表面保護層9の少なくとも1以上の層が水系塗工剤で形成されてなり、その水系塗工剤は、1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有することに特徴を有している。従って、ここで説明するベタインキ層3においても、1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有する水系塗工剤で形成することが好ましい。なお、本発明においては、絵柄インキ層4を形成する塗工剤の種類は特に限定されないが、ベタインキ層3を形成する水系塗工剤と同じ基本成分を有する水系塗工剤で形成することが好ましく、本発明の作用効果をより一層発揮することができる。
【0043】
先ず、ベタインキ層3を水系塗工剤で形成する場合について説明する。ベタインキ層3は、2液硬化型水性ウレタン樹脂を含有する水系塗工剤を使用し、その水系塗工剤を塗布・乾燥して形成される。こうした水系塗工剤は、VOCの使用を減少させるので、作業環境中または生活空間中へのVOCの発生を抑制することができ、作業環境の安全性や生活空間の安全性をより向上させることができる。さらに、その水系塗工剤で形成されたウレタン樹脂の作用により、基材シート2と透明樹脂層6との層間密着性を向上させることができる。ベタインキ層3をウレタン樹脂で構成することにより層間密着性が向上する理由は、柔軟性と追従性を併せもち、かつ、層中の内部凝集力が高いことであると推察される。この理由は、後述の接着剤層5や表面保護層9をウレタン樹脂で形成した場合も同じである。
【0044】
ベタインキ層用の水系塗工剤は、水性ウレタン樹脂と、1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物からなる架橋剤とを、水または水とアルコールと等とからなる混合溶媒に溶解または均一に分散させて調製した2液性の水性ウレタン樹脂を含有するものである。
【0045】
水性ウレタン樹脂は、ポリイソシアネート化合物とイソシアネート基と反応し得る活性水素を分子中に2個以上含有する含有化合物、また、必要に応じて、親水性原子団または中和により親水性となりうる原子団を有する化合物から製造される。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。イソシアネート基と反応し得る活性水素を分子中に2個以上含有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ブテンジオール、メチル−1,5−ペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの低分子量ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどの他官能ポリオール、ポリエチレン−ポリプロピレングリコール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリオレフィンポリオール、動植物系ポリオール等が挙げられる。親水性原子団または中和により親水性となりうる原子団としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、スルホネート基、第3級アミノ基、第4級アミノ基あるいはエチレンオキサイドの繰り返し単位等が挙げられ、各水性ウレタン樹脂の製造時に共重合することができる。また、中和剤としては中和あるいはイオン化できるものであれば特に制限はないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の不揮発性塩基;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類、アンモニア等の揮発性塩基;塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸;蟻酸、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸等の有機酸;塩化メチル、臭化メチル、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、塩化ベンジル、p−ニトロベンジルクロライド、臭化ベンジル、エチレンクロルヒドリン、エチレンブロムヒドリン、エピクロルヒドリン、ブロムブタン等の4級化剤が挙げられる。
【0046】
1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物としては、水または水とアルコール等とからなる混合溶媒に溶解または均一に分散する水分散性のものであれば特に限定されないが、実用上効果的な水性化合物としては、多価イソシアネートを親水性処理したものが好ましく用いられる。親水性処理される多価イソシアネートとしては、例えば、ジイソシアネート化合物と活性水素基含有化合物との反応による末端イソシアネート基含有化合物、あるいはジイソシアネート化合物の反応による末端イソシアネート基含有化合物等にさらに親水性基を導入した化合物を挙げることができる。ジイソシアネート化合物と活性水素基含有化合物との反応による末端イソシアネート基含有化合物、あるいはジイソシアネート化合物の反応による末端イソシアネート基含有化合物等の例としては、ウレタン構造をもつ末端イソシアネート基含有化合物、ウレア構造をもつ末端イソシアネート基含有化合物、ウレトジオン構造をもつ末端イソシアネート基含有化合物、イソシアヌレート構造をもつ末端イソシアネート基含有化合物、カルボジイミド構造をもつ末端イソシアネート基含有化合物、ウレトンイミン構造をもつ末端イソシアネート基含有化合物、ビウレット構造をもつ末端イソシアネート基含有化合物、アロファネート構造をもつ末端イソシアネート基含有化合物およびこれらの混合物等が挙げることができる。特に、イソシアヌレート構造をもつ末端イソシアネート基含有化合物が好ましい。
【0047】
上記ジイソシアネート化合物の例としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等およびこれらの異性体からなる芳香族ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、シクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、1,4−ジイソシアネートシクロヘキサン等の脂環式ジイソシアネートおよびこれらの混合物等が挙げることができ、特に脂肪族、脂環式およびこれらの混合物が好ましい。
【0048】
本発明においては、自己乳化性を有するイソシアネート基を持つ化合物であることが好ましく、特に好ましい水性化合物として、以下の化学式1に示されるイソシアヌレート骨格を有する水性化合物を挙げることができる。下記化学式1において、nは1以上の整数であり、R1 、R2 、Rn+2 はジイソシアネート残基であり、少なくとも2個以上のイソシアネート基を有する。また、必要に応じて、親水性基および/または疎水基を導入してもよい。
【0049】
【化2】
【0050】
親水性処理は、上述した末端イソシアネート基含有化合物に、活性水素基を1個以上有する親水性極性基含有化合物を反応させればよい。活性水素基を有する親水性極性基含有化合物における親水性極性基には、ノニオン性極性基、アニオン性極性基、カチオン性極性基が挙げられる。本発明においては、それぞれ単独で用いてもよいし、異なる種類の親水性極性基を用いてもよい。得られるイソシアネート基を持つ水性化合物の安定性を考慮すると、本発明における末端イソシアネート基含有化合物に導入する親水性極性基は、ノニオン性極性基が好ましい。
【0051】
活性水素基を有するノニオン性親水基含有化合物としては、エチレンオキサイドユニットが50モル%以上、繰り返し数は3〜90、特に好ましくは繰り返し数が5〜50であるポリ(オキシアルキレン)エーテルモノオール、ポリ(オキシアルキレン)エーテルポリオール、ポリ(オキシアルキレン)脂肪酸エステルモノオール等が挙げられる。本発明で好ましいものは、ポリ(オキシアルキレン)エーテルモノオール、ポリ(オキシアルキレン)エーテルポリオールであり、より好ましくはポリ(オキシアルキレン)エーテルモノオールである。
【0052】
上記のポリ(オキシアルキレン)エーテルモノオールの製造における開始剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、フェノールが挙げられる。ポリ(オキシアルキレン)エーテルポリオールの製造における開始剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、アニリン、トリメチロールプロパン、グリセリン等が挙げられる。
【0053】
また、上記のポリ(オキシアルキレン)脂肪酸エステルモノオールの製造に用いられる脂肪酸としては、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、i−酪酸、n−吉草酸、i−吉草酸、カプロン酸、グリコール酸、乳酸、メトキシ酢酸等が挙げられる。
【0054】
活性水素基を有するアニオン性親水基含有化合物は、活性水素基を1個以上有する有機酸と中和剤とからなる。
【0055】
有機酸としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩、チオスルホン酸塩等が挙げられ、これらの基は、独立で導入されてもよいし、キレートのように関連付けられてもよい。
【0056】
活性水素基を1個以上有する有機酸としては、α−ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシコハク酸、ジヒドロキシコハク酸、ε−ヒドロキシプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、ヒドロキシ酢酸、α−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、リシノエライジン酸、リシノステアロール酸、サリチル酸、マンデル酸等、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸をヒドロキシル化したヒドロキシ脂肪酸、グルタミン、アスパラギン、リジン、ジアミノプロピオン酸、オルニチン、ジアミノ安息香酸、ジアミノベンゼンスルホン酸等のジアミン型アミノ酸、グリシン、アラニン、グルタミン酸、タウリン、アミノカプロン酸、アミノ安息香酸、アミノイソフタル酸、スルファミン酸等のモノアミン型アミノ酸、または、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等のカルボン酸含有ポリオール、イミノジ酢酸とグリシドールの付加物のようなキレートタイプ、5−ナトリウムスルホイソフタル酸や5−カリウムスルホイソフタル酸を用いたポリエステルポリオール、水やカルボキシル基含有アルコールを開始剤としたポリカプロラクトン、活性水素基含有ポリエステルまたは活性水素基含有ポリカーボネートとカルボキシル基含有アルコールとのエステル交換物が挙げられる。また、長鎖ポリオール類や前述の低分子ポリオールや低分子ポリアミンと、ポリカルボン酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基を含有するハーフエステル混合物やハーフアミド混合物も使用可能である。特に、無水ピロメリット酸等の酸無水物にポリオールを付加させた場合、2個のカルボン酸が生成するため、ポリエステルポリオールの分子鎖内に親水性極性基を導入できる。その他のアニオン性親水基として、リン酸等が挙げられる。なお、ここに挙げた長鎖ポリオールとは、前述のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等がある。
【0057】
中和剤としては、アンモニア、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−アミノ−2−エチル−1−プロパノール等の有機アミン類、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの無機アルカリ類等が挙げられるが、乾燥後の耐候性や耐水性を向上させるためには、熱によって容易に解離する揮発性の高いものが好ましく、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミンが好ましい。
【0058】
なお、これら有機酸類および中和剤は、それぞれ単独または2種以上の混合物でも使用することができる。
【0059】
活性水素基を有するカチオン性親水基含有化合物は、活性水素基を1個以上有する3級アミンと、無機酸および有機酸の中和剤、4級化剤のいずれから選択されるものとからなる。
【0060】
活性水素基を1個以上有する3級アミンとしては、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジプロピルエタノールアミン、N,N−ジフェニルエタノールアミン、N−メチル−N−エチルエタノールアミン、N−メチル−N−フェニルエタノールアミン、N,N−ジメチルプロパノールアミン、N−メチル−N−エチルプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−メチルジプロパノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、N−フェニルジプロパノールアミン、N−ヒドロキシエチル−N−ヒドロキシプロピル−メチルアミン、N,N′−ジヒドロキシエチルピペラジン、トリエタノールアミン、トリスイソプロパノールアミン、N−メチル−ビス−(3−アミノプロピル)−アミン、N−メチル−ビス−(2−アミノプロピル)−アミン等が挙げられる。また、アンモニア、メチルアミンのような第1アミン、ジメチルアミンのような第2アミンにアルキレンオキサイドを付加させたものも使用できる。
【0061】
無機および有機酸としては、塩酸、酢酸、乳酸、シアノ酢酸、燐酸および硫酸等が挙げられる。4級化剤としては、硫酸ジメチル、塩化ベンジル、ブロモアセトアミド、クロロアセトアミド、または、臭化エチル、臭化プロピル、臭化ブチル等のハロゲン化アルキルが挙げられる。
【0062】
また、その他のカチオン性極性基含有化合物として、第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、ピリジニウム塩等のカチオン性化合物が挙げられる。
【0063】
また、第3級アミン含有ポリオールとスルトンとの反応で生成するスルホベタイン基等の両性極性基も導入できる。
【0064】
アニオン性およびカチオン性極性基における中和剤、4級化剤の添加、反応時期は、有機ポリイソシアネートと、活性水素基を有する有機酸および/または3級アミンとの反応後でもよいし、活性水素基を有する有機酸および/または3級アミンと中和剤や4級化剤を反応させてから、この反応物と末端イソシアネート基含有化合物を反応させてもよい。スルホン酸は、末端イソシアネート基含有化合物との反応前に中和するほうが好ましい。
【0065】
本発明におけるイソシアネート基を持つ水性化合物は、必要に応じて、活性水素基を有する疎水基含有化合物と反応させてもよい。この活性水素基を有する疎水基含有化合物としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル等の低分子モノオール類、エチルアミン、ブチルアミン、アニリン等の低分子第1モノアミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルアニリン等の低分子第2モノアミン類、活性水素基含有ポリエステル、エチレンオキサイドユニットが50モル%未満の活性水素基含有ポリエーテル、活性水素基含有ポリカート、活性水素基含有ポリオレフィン、炭素数6以上のヒドロキシ高級脂肪酸やそのエステル等が挙げられる。
【0066】
末端イソシアネート基含有化合物と活性水素基含有化合物との反応における反応温度は、10〜120℃、好ましくは30〜100℃である。また、必要に応じて用いられる活性水素基を有する疎水基含有化合物は、親水基導入と同時でもよいし、異なっていてもよい。このとき、必要に応じて、ジブチルチンジラウレート、トリエチレンジアミンのようなウレタン化触媒を添加してもよい。
【0067】
本発明におけるイソシアネート基を持つ水性化合物の平均官能基数は、2.0〜8.0、好ましくは、2.0〜4.0である。その平均官能基数が2.0未満の場合には、架橋密度が小さくなるため、接着強度が不十分となりやすい。また、その平均官能基数が5.0を越える場合は、硬化物の架橋密度が不必要に大きくなるため、塗工膜の柔軟性が不十分となりやすい。
【0068】
このようにして得られたイソシアネート基を持つ水性化合物は親水性基が付加され、疎水性のイソシアネート基(イソシアヌレート骨格を有する基を含む。以下同じ。)がその親水性基により立体的ないし3次元的に囲まれる。その結果、水分やポリオールに対して反応し易い疎水性のイソシアネート基が親水性基により保護されるので、水系塗工剤を調製してから長時間経過した後に塗工する製造工程中において、水または水系の混合溶媒を含有した水系塗工剤中に溶解または分散する水分散性イソシアネート基含有化合物の失活を防ぐことができる。すなわち、イソシアネート基に長い鎖状の親水性基が付加された水性化合物は、その立体障害により、イソシアネート基と水との反応が抑制されるので、調製してから長時間経過した後の水系塗工剤であっても、架橋剤としての作用を失活させることなく架橋反応を行うことができる。
【0069】
本発明において、上記の水性化合物の分子中のイソシアネート基の数としては、2個以上存在することが必要である。一方、分子中のイソシアネート基の数が多すぎる場合には、それによって決定的な弊害が生じるわけではないが、一般に、形成された層の可とう性が劣り、層間密着性が低下することがある。従って、分子中のイソシアネート基の数の範囲については、必ずしも厳密には定義し難いが、通常、2〜10程度、好ましくは2〜8程度である。
【0070】
本発明において、2液性の水性ウレタン樹脂を含有する水系塗工剤を用いた場合における樹脂成分と架橋剤成分との比は、樹脂成分:架橋剤成分=100:2〜100:200であり、特に、100:10〜100:50であることが好ましい。
【0071】
上記の水系塗工剤を構成する2液性の水性ウレタン樹脂は、ウレタン樹脂成分を、溶解、エマルジョン化、マイクロカプセル化またはその他の方法で水性化することにより得ることができる。なお、本発明において「水性の樹脂」というときは、本来的に水溶性の樹脂、水溶性処理された樹脂、本来的に水分散性の樹脂、水分散性処理された樹脂等をいう。
【0072】
また、水系塗工剤として、2液性の水性ウレタン樹脂と他の水性樹脂とを混合したものを用いることもできる。他の水性樹脂としては、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリスチレン−アクリレート共重合体、ロジン誘導体、スチレン−無水マレイン酸共重合体のアルコール付加物、セルロース系樹脂等を好ましく挙げることができる。より具体的には、例えば、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエチレンオキシド系樹脂、ポリN−ビニルピロリドン系樹脂、水溶性ポリエステル系樹脂、水溶性ポリアミド系樹脂、水溶性アミノ系樹脂、水溶性フェノール系樹脂、その他の水溶性合成樹脂;ポリヌクレオチド、ポリペプチド、多糖類等の水溶性天然高分子;等も使用することができる。また、例えば、天然ゴム、合成ゴム、ポリ酢酸ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン−ポリアクリル系樹脂変性ないし混合樹脂、その他の樹脂を使用することもできる。上記のような樹脂は一種または二種以上使用される。また、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル系モノマー;アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のニトリル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド系モノマー;それらのアミド系モノマーのN−アルコキシ置換体やN−メチロール置換体;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー;ジアリルフタレート、アリルグリジジルエーテル、トリアリルイソシアヌレート等のアリル系モノマー;酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン等の重合性二重結合を有するモノマー;等の一種または二種以上と、カルボキシル基を有するアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、その他等の不飽和カルボン酸の一種ないしそれ以上との共重合体からなるアルカリ溶液可溶性(メタ)アクリル系共重合体を使用することもできる。
【0073】
2液性の水性ウレタン樹脂とそれ以外の種類の樹脂とを混合した水系塗工剤においては、その水系塗工剤を塗布・乾燥して得られた層中のバインダー成分中のウレタン樹脂が25重量%以上含有するように、2液性の水性ウレタン樹脂とそれ以外の種類の樹脂とを混合しておくことが好ましく、50重量%以上であることがより好ましい。層中のバインダー成分中のウレタン樹脂の含有量が25重量%未満では、ウレタン樹脂による層間密着性の向上作用が不十分となり、基材シート2と透明樹脂層6との密着性を改善することができない場合がある。一方、層中のバインダー成分中のウレタン樹脂の含有量の上限は特に限定されないが、全てウレタン樹脂からなる場合を含めて、その上限は100重量%である。
【0074】
特に、2液性の水性ウレタン樹脂と水性アクリル樹脂との混合樹脂でインキ層11を形成する場合においては、その水系塗工剤を塗布・乾燥して得られた層中のバインダー成分中のウレタン樹脂が25重量%以上100重量%未満含有するように、ウレタン樹脂とアクリル樹脂とを混合しておくことが望ましく、50重量%〜95重量%であることがより好ましい。
【0075】
水系塗工剤の溶媒である水は、従来より水系塗工剤に使用されているグレードの工業用水が使用される。また、水とアルコール等とからなる混合溶媒を、水系塗工剤の溶媒として使用することもできる。そうした混合溶媒を構成するアルコール等としては、エタノール、イソプロピルアルコール、N−プロピルアルコール等の低級アルコール、グリコール類およびそのエステル類等を挙げることができる。なお、これら低級アルコール、グリコール類およびそのエステル類等の溶媒は、水系塗工剤の流動性改良、被塗工体である基材シート2への濡れの向上、乾燥性の調整等の目的で使用されるものであり、その目的に応じてその種類、使用量等が決定される。本発明で使用される水系塗工剤は、ベンゼン、トルエン、キシレン等の危険性の高い芳香族炭化水素系の有機性揮発物質が用いられておらず、また、その他の有機溶剤の使用も抑えているので、VOCの発生を減少させることができる。
【0076】
水とアルコール等とからなる混合溶媒においては、それらの配合割合を、水:アルコール等(例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、nプロピルアルコール等が挙げられる。)=20:80〜100:0の範囲で調整できる。
【0077】
ベタインキ層3や絵柄インキ層4に使用される水系塗工剤には、着色顔料や染料等の着色剤が配合される。また、ワックス類、分散剤、消泡剤、レベリング剤、安定剤、充填剤、潤滑剤、滑剤、その他等の添加剤を任意に添加し、水または水とアルコール等とからなる水系の混合溶媒を使用し、ミキサー等で十分に混合して、水系塗工剤が調製される。
【0078】
着色顔料としては、通常使用される有機または無機系の顔料を使用することができる。こうした着色顔料のうち、黄色顔料としては、モノアゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系顔料、イソインドリノン等の有機顔料、黄鉛、黄色酸化鉄、カドミウムイエロー、チタンイエロー、アンチモン黄等の無機顔料を使用することができる。また、赤色顔料としては、モノアゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系顔料、キナクリドン等の有機顔料、べんがら、朱、カドミウムレッド、クロムバーミリオン等の無機顔料を使用することができる。また、青色顔料としては、フタロシアニンブルー、インダスレンブルー等の有機顔料、紺青、群青、コバルトブルー等の無機顔料を使用することができる。また、黒色顔料としては、アニリンブラック等の有機顔料、カーボンブラック等の無機顔料を使用することができる。また、白色顔料としては、二酸化チタン、亜鉛華、三酸化アンチモン等の無機顔料を使用することができる。また、シリカ等のフィラー、有機ビーズ等の体積顔料、中和剤、界面活性剤等を任意に含有させることができる。
【0079】
ベタインキ層3や絵柄インキ層4は、上述した水系塗工剤を塗工または印刷等によって設けた後、乾燥させて形成される。更に詳しく説明すれば、通常、ベタインキ層3は、ベタインキ層用の水系塗工剤を塗工または印刷した後、乾燥硬化させて形成され、絵柄インキ層4は、絵柄インキ層用の水系塗工剤を印刷した後、乾燥硬化させて形成される。塗工方法としては、公知の各種方法、例えばロールコート、カーテンフローコート、ワイヤーバーコート、リバースコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、エアーナイフコート、キスコート、ブレードコート、スムーズコート、コンマコート、スプレーコート、かけ流しコート、刷毛塗り等の方法を用いることができ、乾燥後の膜厚が1.0〜10μm程度になるように塗工される。また、印刷方法としては、グラビア、活版、フレキソ等の凸版印刷、平版オフセット、ダイリソ印刷等の平版印刷、シルクスクリーン等の孔版印刷、静電印刷、インキジェットプリント等の公知の各種方法を用いることができる。
【0080】
こうした水系塗工剤でベタインキ層3および絵柄インキ層4からなるインキ層11を形成することにより、本発明の所期の目的である化粧シート1の環境安全性の向上と層間密着性の向上を達成することができる。特に、本発明においては、1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有する水系塗工剤が使用されるので、その架橋剤の作用により強固な層を形成することができ、その結果、基材シート2と透明樹脂層5との層間密着性を向上させることができる。また、そうした水系塗工剤で形成した層は、室温〜40℃程度の室温下での養生処理でも十分に架橋されるので、シートの収縮に基づく意匠性を損なわない範囲内で、耐候性試験および耐水性試験後の層間密着性も優れている。
【0081】
なお、本発明の化粧シート1は、ベタインキ層3、後述する接着剤層5および後述する表面保護層9の少なくとも1以上の層が水系塗工剤で形成され、その水系塗工剤が、1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有するものであることに特徴がある。従って、後述する接着剤層5や表面保護層9が上述の水系塗工剤で形成される場合においては、ベタインキ層3を上述の水系塗工剤で形成する必要は必ずしもない。しかし、それらの層の全てが水系塗工剤で形成されることが好ましく、また、ベタインキ層3および/または絵柄インキ層4、表面保護層9を水系塗工剤で形成し、接着剤層5を無溶剤型塗工剤で形成することが最も好ましい。
【0082】
次に、水系塗工剤に含有される水性化合物の他の形態について説明する。
【0083】
以下に説明する水性化合物は、上述した水性化合物の持つ遊離イソシアネート基に化合物を結合させたものであることに特徴があり、その化合物は、水系塗工剤の配合作業および/または塗工工程の温度では遊離イソシアネート基から解離し難く、透明樹脂層の形成時および/または形成後に加わる熱では遊離イソシアネート基から解離し易いことに特徴がある。
【0084】
そうした化合物としては、例えば、フェノール系、アルコール系、活性メチレン系、メルカプタン系、酸アミド系、酸イミド系、ラクタム系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、アミン系およびイミド系の化合物の群から選択される1の化合物が挙げられる。具体例としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール、2−ヒドロキシピリジン、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、2−エチルヘキサノール、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、アセトアニリド、酢酸アミド、コハク酸イミド、マレイン酸イミド、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ジフェニルアミン、アニリン、カルバゾール、エチレンイミン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0085】
こうした化合物は、水系塗工剤の工程温度では遊離イソシアネート基から解離し難いので、水との反応を抑制することができ、その結果、水系塗工液の安定性をより一層向上させることができると共に耐熱性を低下させるウレア結合の生成を抑制できる。さらに、こうした化合物は、透明樹脂層の形成時および/または形成後に加わる熱では遊離イソシアネート基から解離し易いので、反応性の高い遊離イソシアネート基が現れ、架橋反応が促進してウレタン結合化が効率的に進行する。
【0086】
化合物の解離が起こり易くなる温度は、遊離イソシアネートに結合した化合物の種類によって任意に調節される。このとき、化合物の解離が起こり易くなる温度が高すぎると、透明樹脂層の形成時および/または形成後に加わる熱によっても十分に解離が起こらないので、反応性の高いイソシアネート基が現れず、架橋反応の進行が妨げられる。その結果、形成されたインキ層および/または接着剤層に十分な密着強度を付与することができないことがある。一方、化合物の解離が起こり易くなる温度が低すぎると、その水系塗工剤の配合作業や塗工工程等のような水系塗工液を通常取り扱う温度(以下、工程温度とも言う。)でも容易に解離することとなるので、遊離イソシアネート基が現れ、水系塗工剤中の水成分と反応して耐熱性の低下をもたらすウレア結合を生成しやすくなる。その結果、耐熱性に乏しいベタインキ層や接着剤層が形成されることがある。
【0087】
化合物の解離が起こり易くなる好ましい温度は、水系塗工剤の工程温度よりも高い温度であればよい。そして、水系塗工剤の工程温度に対応して、所定の温度で解離が起こり易くなる化合物(ブロックイソシアネート化合物)が選定され、その所定の温度に対応して、透明樹脂層の形成時および/または形成後に加える熱およびその熱量が選択され所定の温度が印加される。
【0088】
例えば、水系塗工剤の工程温度の上限が60℃である場合には、選定された化合物の解離が起こり易くなる温度は、最低でも60℃を超える温度、より好ましくは、工程温度よりも約20℃以上高い温度である。透明樹脂層の形成時および/または形成後に加える熱およびその熱量は、そうした温度に到達するように印加される。
【0089】
上記の化合物が結合した水性化合物を有する水系塗工剤は、ベタインキ層および/または接着剤層に使用されることが好ましい。これにより、耐熱性に優れたベタインキ層および/または接着剤層を形成でき、安定性に優れた水系塗工剤でベタインキ層および/または接着剤層を効率的に形成することができ、化粧シートの耐熱性の向上と製造の効率化を達成することができる。
【0090】
透明樹脂層の形成時および/または形成後に加わる熱としては、透明樹脂層の溶融押出し時の熱、当該透明樹脂層のドライラミネーション時の熱および前記表面保護層の表面への凹凸模様形成時の熱から選択される1または2以上の熱であることが好ましいが、これらのうち特に好ましいのは、その熱量の点から、透明樹脂層の溶融押出し時の熱である。
【0091】
透明樹脂層の溶融押出し時の熱は、通常、200℃を超える温度で樹脂が溶融押出しされ、張り合わせの際には150〜170℃程度に加熱された状態となる。そのため、透明樹脂層の溶融押出し時の熱が加わる場合には、例えば、化合物の解離が起こり易くなる温度を約60〜170℃という広い範囲で設定することができ、それに対応して反応させる化合物が選定される。
【0092】
透明樹脂層のドライラミネーション時の熱は、通常、70〜80℃程度に加熱された状態となる。そのため、透明樹脂層のドライラミネーション時の熱が加わる場合には、例えば、化合物の解離が起こり易くなる温度を約60〜70℃という範囲で設定することができ、それに対応して反応させる化合物が選定される。
【0093】
表面保護層の表面への凹凸模様形成時の熱は、通常、180〜250℃程度に加熱された状態となる。そのため、表面保護層の表面への凹凸模様形成時の熱が加わる場合には、例えば、化合物の解離が起こり易くなる温度を約60〜250℃という範囲で設定することができ、それに対応して反応させる化合物が選定される。
【0094】
なお、透明樹脂層の溶融押出し時の熱を単独で用いてもよく、表面保護層の表面に凹凸模様を形成する場合にはその際の熱と併用して用いてもよい。また、透明樹脂層のドライラミネーション時の熱を用いる場合には、熱量がやや不足するので、表面保護層の表面に凹凸模様を形成する際の熱と併用することが望ましい。
【0095】
こうした他の形態の水性化合物は、それ以外の点では、上述した本願における通常の水系化合物と同じであり、何ら区別するところはない。
【0096】
次に、ベタインキ層3(絵柄インキ層4も含む。)を上述した水系塗工剤以外の塗工剤で形成する場合について説明する。この場合におけるベタインキ層用の塗工剤は、従来より一般的に使用されている1液性または2液性の溶剤系塗工剤や、1液性の水系塗工剤を使用できる。溶剤系塗工剤に含有される樹脂成分としては、油性アクリル樹脂と油性ウレタン樹脂との混合物を好ましく用いることができる。但し、アクリル樹脂とウレタン樹脂は相互に混ざりにくい性質を有するので、相互に混合可能なアクリル樹脂、ウレタン樹脂を選択、配合、重合等により製造する必要がある。具体的には、本発明において使用できるウレタン樹脂と混合可能なアクリル樹脂としては、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)、ジメチルアミノエチルメタクリレートの混合物が挙げられる。また、上記アクリル樹脂とよく混ざるウレタン樹脂としては、多価アルコールとしてのブタンジオール、イソシアネートとしてのイソホロンジイソシアネート(IPDI)、アジピン酸を原料として製造したものが挙げられる。但し、本発明において用いることができるアクリル樹脂とウレタン樹脂は、上記のものに限定されず、相互に混合可能なものであれば、適宜に選択、配合、合成または重合等して用いることができる。油性ウレタン樹脂と油性アクリル樹脂との混合樹脂でインキ層11を形成する場合においては、その溶剤系塗工剤を塗布・乾燥して得られた層中のウレタン樹脂がバインダー成分中の10〜100重量%含有するように、アクリル樹脂とウレタン樹脂とを混合しておくことが好ましく、20〜80重量%であることがより好ましい。層のバインダー成分中のウレタン樹脂含有量が10重量%未満では、基材シート2と透明樹脂層6との密着性を改善することができない場合がある。2液性の溶剤系塗工剤に含有される架橋剤としては、従来より一般的に使用されているイソシアネート系の架橋剤を使用できる。なお、溶剤としては、通常は、酢酸メチル、酢酸ブチル等のエステル系の有機溶剤や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系の有機溶剤等が用いられる。また、1液性の水系塗工剤としては、分子末端にイソシアネート基を有したプレポリマーを必須成分とする1液型湿気硬化ウレタン樹脂を好ましく用いることができる。
【0097】
(接着剤層)
接着剤層5は、図1に示すように、インキ層11と透明樹脂層6との間に設けられて、インキ層11が形成された基材シート2と透明樹脂層6との密着性を向上させるプライマー層ないしアンカー層としての役割を有するものであり、耐久性や長期に亘る外観維持性を向上させる作用がある。こうした作用は、形成された絵柄を長期間保持することができ、極めて有効である。
【0098】
本発明においては、接着剤層5を、1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有する水系塗工剤で形成することが最も好ましい。その水性化合物については、上述したベタインキ層3を形成するための水系塗工剤に含有させたものと同じものが使用される。すなわち、本発明においては、1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を含有する水系塗工剤を用い、その水系塗工剤を塗布・乾燥して接着剤層5を形成することにより、化粧シート製造時のVOC発生量および化粧シート中のVOC残存量を減少させることができ、その結果、作業環境の安全性や生活空間の安全性をより向上させることができる。さらに、少なくとも1分子中に2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有するので、その架橋剤の作用により強固な層を形成することができ、その結果、基材シート2と透明樹脂層5との層間密着性を向上させることができる。また、そうして形成された接着剤層5は、室温〜40℃程度の室温での養生処理でも十分に架橋されるので、シートの収縮に基づく意匠性を損なわない範囲内で、耐候性試験および耐水性試験後の層間密着性も優れている。
【0099】
接着剤層用の水系塗工剤に含有させる樹脂成分としては、上記のベタインキ層3の段落において説明した2液性の水性ウレタン樹脂が好ましく挙げられる。そうした水性ウレタン樹脂としては、上記のベタインキ層3の段落において説明した水性化合物からなる架橋剤を含有する2液硬化型の水性ウレタン樹脂が使用される。2液性の水性ウレタン樹脂は、ウレタン樹脂を、溶解、エマルジョン化、マイクロカプセル化またはその他の方法で水性化することにより得ることができる。2液性の水性ウレタン樹脂を用いた場合における樹脂成分と上記水性化合物からなる架橋剤成分との比は、樹脂成分:架橋剤成分=100:2〜100:200であり、特に、100:10〜100:30であることが好ましい。
【0100】
また、ベタインキ層用の水系塗工剤と同様に、接着剤層用の水系塗工剤として、水性ウレタン樹脂と他の水性樹脂とを混合したものを用いることもできる。他の水性樹脂としては、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリスチレン−アクリレート共重合体、ロジン誘導体、スチレン−無水マレイン酸共重合体のアルコール付加物、セルロース系樹脂なども併用できる。より具体的な樹脂は、上述のベタインキ層用の水系塗工剤において列記したものと同じであるので、この段落においては省略する。水性ウレタン樹脂とそれ以外の種類の樹脂とを混合した水系塗工剤においても、上述のベタインキ層3の場合と同様に、その水系塗工剤を塗布・乾燥して得られた接着剤層中のウレタン樹脂が25重量%以上含有するように、水性ウレタン樹脂それ以外の種類の樹脂とを混合しておくことが好ましく、50重量%以上であることがより好ましい。接着剤層中のウレタン樹脂の含有量が25重量%未満では、基材シート2と透明樹脂層6との密着性を改善することができない場合がある。一方、接着剤層中のウレタン樹脂の含有量の上限は特に限定されないが、全てウレタン樹脂からなる場合を含めて、その上限は100重量%である。
【0101】
水系塗工剤を構成する水および水とアルコール等とからなる混合溶媒の種類、配合割合、作用効果についても、上述したベタインキ層用の水系塗工剤の場合と同じであり、VOCの発生を好ましく抑制することができる。特に、ベタインキ層3、接着剤層5、後述の表面保護層9の全ての層を上述の水系塗工剤を用いて形成することにより、環境安全性、層間密着性、耐スクラッチ性、意匠性を顕著に向上させることができる。
【0102】
接着剤層用の水系塗工剤には、着色剤、ワックス類、分散剤、消泡剤、レベリング剤、安定剤、充填剤、潤滑剤、滑剤、その他等の添加剤を任意に添加され、水または水とアルコール等とからなる水系の混合溶媒を使用し、ミキサー等で十分に混合して、水系塗工剤が調製される。
【0103】
接着剤層5は、上述した水系塗工剤を、インキ層11上に塗工または印刷等によって設けた後、乾燥させて形成される。塗工方法としては、公知の各種方法、例えばロールコート、カーテンフローコート、ワイヤーバーコート、リバースコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、エアーナイフコート、キスコート、ブレードコート、スムーズコート、コンマコート、スプレーコート、かけ流しコート、刷毛塗り等の方法を用いることができ、乾燥後の膜厚が0.3〜30μm程度になるように塗工される。
【0104】
なお、本発明の化粧シート1においては、ベタインキ層3、接着剤層5および表面保護層9の少なくとも1以上の層が、1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有する水系塗工剤で形成されるので、前述したベタインキ層3または表面保護層9がそうした水系塗工剤で形成されている場合には、接着剤層5を、溶剤系塗工剤または無溶剤系塗工剤で形成してもよい。
【0105】
溶剤系塗工剤または無溶剤系塗工剤で接着剤層5を形成する場合においては、従来より一般的に使用されている溶剤系または無溶剤系の塗工剤を使用できる。
【0106】
溶剤系塗工剤としては、2液性の油性ウレタン樹脂、油性アクリル樹脂と油性ウレタン樹脂との混合物等を挙げることができる。2液性の油性ウレタン樹脂は、油性ウレタン樹脂と架橋剤であるイソシアネート化合物とを、樹脂成分:架橋剤成分=10:1〜10:60の範囲で含有する。また、油性アクリル樹脂と油性ウレタン樹脂との混合物は、例えば、油性ウレタン樹脂と、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)、ジメチルアミノエチルメタクリレート等との混合物が挙げられる。この場合において、溶剤系の塗工剤を塗布・乾燥して得られた接着剤層中のウレタン樹脂が10〜100重量%含有するように、油性アクリル樹脂と油性ウレタン樹脂とを混合しておくことが好ましい。
【0107】
一方、無溶剤系(ノンソル系)の塗工剤は、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とからなる。ポリオール化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリシロキサンポリオール等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等のポリイソシアネート単量体から誘導されたイソシアヌレート、ビウレット、アロファネート等の多官能ポリイソシアネート化合物、あるいはトリメチロールプロパン、グリセリン等の3官能以上のポリオール化合物との反応により得られる末端イソシアネート基含有の多官能ポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0108】
(透明樹脂層)
透明樹脂層6は、トップ樹脂層ともいわれ、絵柄インキ層4を擦り傷等から保護したり、化粧シート1の表面強度を向上させたり、塗装感を付与すること等を目的として、接着剤層5を介して絵柄インキ層4上に積層される。
【0109】
透明樹脂層6を構成する樹脂としては、上述した接着剤層5を介して絵柄インキ層4上に密着よく形成される透明な樹脂であれば特に限定されるものではないが、例えば、透明ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂を好ましく挙げることができる。透明樹脂層用の樹脂として使用できるオレフィン樹脂以外の樹脂としては、上述の基材シート2の構成材料と同じものを使用することができる。
【0110】
こうした透明樹脂層6を形成する樹脂には、必要に応じて、着色剤、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、マット剤等の公知の添加剤を添加して形成することができ、着色された透明樹脂層としたり、紫外線吸収特性を有する透明樹脂層とすることができる。
【0111】
透明樹脂層6の形成方法としては、接着剤層5上に、別個に形成された透明樹脂シートを積層したり、溶融押出し塗工法によって成膜したり、その他公知の方法で積層することができる。
【0112】
また、図2に示すように、透明樹脂層6を2層以上の複層構造にしてもよい。2層以上積層させてなる透明樹脂層16は、基材シート2側の透明樹脂層6’と表面保護層側の透明樹脂層6”とに異なる作用効果を持たせることができる点で有利である。具体的には、表面保護層側の透明樹脂層6”をフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂を主成分とした樹脂で形成することにより、優れた耐汚染性等の表面機能を付与することができ、基材シート側の透明樹脂層6’を熱可塑性アクリル樹脂等で形成することにより、接着剤層5との間の密着性等を向上させることができるように積層可能である。また、表面保護層側の透明樹脂層6”を耐候剤を添加したポリプロピレン系樹脂で形成することにより、優れた耐候性を付与することができ、基材シート側の透明樹脂層6’をエラストマーを含有したポリプロピレン系樹脂で形成することにより、耐候性と密着性の向上を図ることができるように積層可能である。
【0113】
2層以上の透明樹脂層16は、複数の樹脂組成物を溶融共押出しして形成したり、ドライラミネーションや熱ラミネーション等の各種のラミネート法で形成することができる。このとき、図3に示すように、プライマー層またはアンカー層として作用する接着剤層12を介して2以上の層からなる透明樹脂層16を形成することもできる。なお、この場合における接着剤層12は、透明樹脂層6’、6”と共に溶融共押出しして形成したり、上述した水性ウレタン樹脂を含有する水系塗工剤で塗布形成することもでき、その場合には、VOCの発生をより一層抑制することができる。
【0114】
透明樹脂層6の厚さは、20〜300μm程度となるように、15〜400g/m2 程度の塗布量で塗工する。
【0115】
(凹凸模様)
凹凸模様7は、エンボス模様ともいわれ、図1に示すように、必要に応じて上述の透明樹脂層6の表面に形成される。また、図2および図3に示すように2層以上の透明樹脂層16を形成した場合には、凹凸模様7を最表面の透明樹脂層に形成したり、最表面以外の透明樹脂層に形成したりすることができ、それぞれ任意に行うことができる。
【0116】
凹凸模様7は、特に限定されず、化粧シート1の用途に応じた模様であればよい。例えば、木目導管溝、木目年輪凹凸、浮造年輪凹凸、木肌凹凸、砂目、梨地、ヘアライン、万線状溝、花崗岩の劈開面等の石材表面凹凸、布目の表面テクスチュア、皮絞、文字、幾何学模様等の模様を挙げることができる。
【0117】
凹凸模様7を形成する手段としては、例えば、加熱加圧によるエンボス加工法やTダイ溶融押し出し法が挙げられる。加熱加圧によるエンボス加工法は、透明樹脂層6の表面を加熱軟化させ、その表面をエンボス版で加圧してエンボス版の凹凸模様7を賦形し、冷却して固定化する方法であり、公知の枚葉式または輪転式のエンボス機を用いることができる。エンボス加工法で形成する場合には、ラミネート加工により積層する前の透明樹脂層6とする樹脂シートに予めエンボス加工したり、透明樹脂層6とする樹脂シートを積層すると同時に(いわゆるダブリングエンボス法)行ったりすることができる。また、Tダイ溶融押出し法で透明樹脂層6を積層する場合には、賦形ローラを兼用させた冷却ローラを使用して、透明樹脂層6の成膜・積層と同時に凹凸模様7を形成することもできる。また、ヘアライン加工、サンドブラスト加工等によってもエンボス模様を形成することができる。
【0118】
(着色層)
着色層8は、凹凸模様7の凹陥部17にワイピング法により形成される。ワイピング法は、ドクターブレードコート法またはナイフコート法で凹陥部17を含む表面全面に着色層用の塗工剤を塗布した後、凹陥部17以外の表面から着色層用の塗工剤を除去することにより、凹陥部17のみに着色層8を形成する方法である。着色層用の塗工剤としては、有機顔料、無機顔料、光輝性顔料等の着色顔料と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化型樹脂等のバインダー樹脂とからなるインキや、エマルジョン型の水系タイプインキ等を使用できる。
【0119】
また、上述のベタインキ層3および/または絵柄インキ層4を形成する水系塗工剤を好ましく用いることもでき、そうした場合には、環境安全性の点でより好ましい。
【0120】
(表面保護層)
表面保護層9は、トップコート層またはオーバープリント層(OP層)ともいわれ、凹凸模様7を形成する凹陥部17やその凹陥部17に形成された着色層8の表面を被って、化粧シート1を保護することを目的として設けられるものである。
【0121】
本発明においては、表面保護層9を、上述したベタインキ層3または接着剤層5の段落で説明したのと同じ水系塗工剤、すなわち、1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有する水系塗工剤で形成することが最も好ましい。その水性化合物については、上述したベタインキ層3や接着剤層5を形成するための水系塗工剤に含有させたものと同じものが使用される。すなわち、本発明においては、1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を含有する水系塗工剤を用い、その水系塗工剤を塗布・乾燥して表面保護層9を形成することにより、化粧シート製造時のVOC発生量および化粧シート中のVOC残存量を減少させることができ、その結果、作業環境の安全性や生活空間の安全性をより向上させることができる。さらに、少なくとも1分子中に2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有するので、その架橋剤の作用により強固な層を形成することができ、その結果、耐スクラッチ性に優れた化粧シートとすることができる。また、そうして形成された表面保護層9は、室温〜40℃程度の室温での養生処理でも十分に架橋されるので、シートの収縮に基づく意匠性を損なわない範囲内で、耐候性試験および耐水性試験後の透明樹脂層6との密着性も優れている。
【0122】
表面保護層9は、耐擦傷性や耐汚染性等の物性向上を目的として用いられるため、熱硬化樹脂および/または電離放射線硬化型樹脂を用いることが好ましい。また、溶剤系塗工液で形成してもよいが、VOCの発生を抑制する環境安全性を考慮すると、上述したインキ層11や接着剤層5と同じ水系塗工剤、および無溶剤型塗工剤で形成するのが望ましい。無溶剤型の塗工剤を用いた場合には、電離放射線硬化型の塗工剤が好ましい。したがって、上述した水系塗工剤と同様に、2液性の水性ウレタン樹脂等の水性樹脂を用い、さらに、着色剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤、安定剤、充填剤、潤滑剤、滑剤、その他等の添加剤を任意に添加し、水溶媒または水とアルコール等とからなる混合溶媒を使用し、ミキサー等で十分に混合して調製した水系塗工剤を使用することができる。
【0123】
なお、表面保護層9は、耐擦傷性等の表面物性の向上のほか、シリカ等の公知の艶消し剤を添加して艶調整したり、塗装感等の意匠性を付与させたりすることもできる。また、表面保護層9には、より良好な耐候性または耐光性を付与するために、必要に応じて紫外線吸収剤、光安定剤を添加して形成することができる。そうした紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、サリチル酸エステル等の有機物、または、0.2μm径以下の微粒子状の酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタン等の無機物、を用いることができる。光安定剤としては、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート等のヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤、ピペリジン系ラジカル捕捉剤等のラジカル捕捉剤等を用いることができる。これらの紫外線吸収剤、光安定剤とも、通常、0.5〜10重量%程度となるように添加するが、一般的には紫外線吸収剤と光安定剤とを併用するのが好ましい。難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の粉末が用いられる。難燃剤の添加量は、高密度ポリエチレンと熱可塑性エラストマーとの合計量を100重量部に対し、10〜150重量部程度が好ましい。
【0124】
表面保護層9は、そのような各種の塗工剤を、グラビアコート法、リバースロールコート法、ナイフコート法、キスコート法、その他塗工法等の公知の塗工法で塗工形成して形成される。また、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷等の公知の印刷法で形成される。形成された表面保護層9の厚みは、3〜40μm程度が好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0125】
(裏面プライマー層)
裏面プライマー層10は、本発明の化粧シート1を各種の被着体15に接着させ易くすることを目的として、基材シート2の裏面側に形成される。裏面プライマー層10の形成には、アクリル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン等が使用されるが、上述したインキ層11や接着剤層5を形成するのに好ましく採用される水系塗工剤を用いることが環境安全性の観点から好ましい。
【0126】
(化粧シート)
上述の構成を有する本発明の化粧シート1は、他の被着体15(裏打材)に積層して用いられる。
【0127】
被着体15としては、図4に示すような立体形状物品41や、図5に示すような平板状、曲面状等の板材51、シート(或いはフィルム)等の各種形状の物品が対象となる。こうした被着体15は、木材単板、木材合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の木材板、木質繊維板等の木質板、鉄、アルミニウム等の金属、アクリル、ポリエステル、ポリスチレン、ポリオレフィン、ABS樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース系樹脂、ゴム等の樹脂、硝子、陶磁器等のセラミックス、石膏等の非セメント窯業系材料、上質紙、和紙等の紙、炭素、石綿、チタン酸カリウム、硝子、合成樹脂等の繊維からなる不織布または織布、等々を挙げることができる。
【0128】
化粧シート1と被着体15との関係において、化粧シート1の基材シート2または裏面プライマー層10の種類により、被着体15にそのまま熱融着等で接着できる場合には、化粧シート1と被着体15とを接着剤を用いずに積層させることができるが、化粧シート1の基材シート2または裏面プライマー層10の種類により、被着体15にそのまま熱融着等で接着できない場合には、適当な接着剤を用いて積層させる。なお、接着剤としては、酢ビ系、尿素系等の接着剤を挙げることができる。
【0129】
また、一般的な積層方法としては、例えば、(a)接着剤を介して被着体15に加圧ローラーで加圧して積層する方法、(b)特公昭50−19132号公報、特公昭43−27488号公報等に記載のように、化粧シート1を射出成形の雌雄両金型間に挿入して、両金型を閉じ、雄型のゲートから溶融樹脂を射出充填した後、冷却して樹脂成型品の成形と同時にその表面に化粧シート1を接着積層する射出成形同時ラミネート方法、(c)特公昭56−45768号公報、特公昭60−58014号公報等に記載のように、接着剤を介して成形品の表面に化粧シート1を対向させ、成形品側からの真空吸引による圧力差により化粧シート1を成形品表面に積層する真空プレス積層方法、(d)特公昭61−5895号公報、特公平3−2666号公報等に記載のように、円柱、多角柱等の柱状被着体の長軸方向に、接着剤を介して化粧シート1を供給しつつ、複数の向きの異なるローラーにより、柱状被着体を構成する複数の側面に順次化粧シート1を加圧接着して積層してゆくラッピング加工方法等が挙げられる。
【0130】
本発明の化粧シート1を積層した各種の被着体15は、所定の成形加工等を施して、各種装飾用素材等として用いることができる。例えば、壁、天井、床等建築物の内装、窓枠、扉、手摺等の建具の表面化粧、家具または弱電・OA機器のキャビネットの表面化粧、自動車、電車等の車輌内装、航空機内装、窓硝子の化粧用等の用途が挙げられる。
【0131】
【実施例】
以下に、実施例と比較例を挙げて、本発明について更に詳しく説明する。以下において、部とは重量部のことである。
【0132】
( 参考例1 )
基材シート2として三菱化学MKV株式会社製のポリプロピレン系エラストマー着色シートPB013(厚み60μm)を用い、その上にコロナ放電処理を施した後、線数54線/インチ、版深40μmのグラビア版を用いて下記配合のベタインキ層用の塗工剤A、絵柄インキ層用の塗工剤Bを順次グラビア印刷法にて塗布・乾燥し、約3.5g/m2 のベタインキ層3および絵柄インキ層4を順次形成した。
【0133】
さらにその上に、線数54線/インチ、版深40μmのグラビア版を用いて下記配合の接着剤層用の塗工剤aをグラビア印刷法にて塗布・乾燥し、約3g/m2 の接着剤層5を形成した。
【0134】
さらにその接着剤層5上に、三菱化学MKV株式会社製の透明ポリプロピレンフィルム「PE002C」(厚さ80μm)をドライラミネート方式で積層して透明樹脂層6を形成した。次に、その積層シートの表面にエンボス加工により凹凸模様7を形成し、さらにその上に、線数54線/インチ、版深40μmのグラビア版を用いて、表面保護層用の水系塗工剤(1)をグラビア印刷法にて塗布・乾燥し、約5g/m2 の表面保護層9を形成した。その後、25℃の温度で7日間養生処理して参考例1の化粧シートを得た。
【0135】
ベタインキ層用の水系塗工剤A;
水性ウレタン系白色インキ(ザ・インクテック製、オーデWKE):100部、水分散性イソシアヌレート結合含有イソシアネート架橋剤(日華化学株式会社製、X9003):10部、水:20部、イソプロピルアルコール:20部
【0136】
絵柄インキ層用の水系塗工剤B;
水性ウレタン系黄色インキ(ザ・インクテック製、オーデWKE):100部、水:20部、イソプロピルアルコール:20部
【0137】
接着剤層用の溶剤系塗工剤a;
ウレタン樹脂含有接着剤(大日精化工業株式会社製、E295L):100部、イソシアネート架橋剤(大日精化工業株式会社製、C55):10部、酢酸エチル:80部
【0138】
表面保護層用の溶剤系塗工剤▲1▼;
アクリル系オーバーコート剤(ザ・インクテック製、ACTクリア):100部、イソシアネート架橋剤(ザ・インクテック製、FG700):8部、メチルエチルケトン:20部
【0139】
( 参考例2 )
参考例1の表面保護層用の溶剤系塗工剤(1)に代えて、下記配合の表面保護層用の水系塗工剤(2)を用いた。その他は参考例1と同様にして参考例2の化粧シートを得た。
【0140】
表面保護層用の水系塗工剤▲2▼;
水性ウレタン樹脂(株式会社昭和インク工業所製、135):100部、水分散性イソシアヌレート結合含有イソシアネート架橋剤(日華化学株式会社製、X9003):10部、水:20部、イソプロピルアルコール:20部
【0141】
(参考例3)
参考例2の接着剤層用の溶剤系塗工剤aに代えて、下記配合の接着剤層用の無溶剤系(ノンソル)塗工剤bを用いた。その無溶剤系塗工剤bを80℃に加温し、ロールコート印刷法により接着剤層を形成した。その他は参考例2と同様にして参考例3の化粧シートを得た。
【0142】
接着剤層用の無溶剤系塗工剤b;
ポリエステル系ポリオール(三井武田ケミカル株式会社製、A665):100部、イソシアネート架橋剤(三井武田ケミカル株式会社製、A65):40部
【0143】
( 参考例4 )
参考例2の接着剤層用の溶剤系塗工剤aに代えて、下記配合の接着剤層用の水系塗工剤cを用いた。その他は参考例2と同様にして参考例4の化粧シートを得た。
【0144】
接着剤層用の水系塗工剤c;
ウレタン樹脂含有接着剤(日華化学株式会社製、H014):100部、水分散性イソシアヌレート結合含有イソシアネート架橋剤(日華化学株式会社製、X9003):10部、水:20部、イソプロピルアルコール:20部
【0145】
(参考例5)
参考例4のベタインキ層用の水系塗工剤A、絵柄インキ層用の水系塗工剤Bおよび表面保護層用の水系塗工剤(2)に代えて、下記配合のベタインキ層用の溶剤系塗工剤C、絵柄インキ層用の溶剤系塗工剤Dおよび上記配合の表面保護層用の溶剤系塗工剤(1)(参考例1を参照。)を用いた。その他は参考例4と同様にして参考例5の化粧シートを得た。
【0146】
ベタインキ層用の溶剤系塗工剤C;
ウレタンアクリル系白色インキ(株式会社昭和インク工業所製、PER白):100部、イソシアネート化合物(株式会社昭和インク工業所製、PER硬化剤):8部、メチルイソブチルケトン:40部
【0147】
絵柄インキ層用の溶剤系塗工剤D;
ウレタンアクリル系黄色インキ(株式会社昭和インク工業所製、PER黄〉:100部、メチルイソブチルケトン:40部
【0148】
( 参考例6 )
参考例5の接着剤層用の水系塗工剤cおよび表面保護層用の溶剤系塗工剤(1)に代えて、上記配合の接着剤層用の溶剤系塗工剤a(参考例1を参照。)および表面保護層用の水系塗工剤(2)(参考例2を参照。)を用いた。その他は参考例5と同様にして参考例6の化粧シートを得た。
【0149】
(実施例1)
参考例4のベタインキ層用の水系塗工剤Aおよび接着剤層用の水系塗工剤cに代えて、下記配合のベタインキ層用の水系塗工剤Fおよび接着剤層用の水系塗工剤eを用いた。下記配合のベタインキ層用の水系塗工剤Fおよび接着剤層用の水系塗工剤eに含有される水分散性イソシアネート化合物においては、遊離イソシアネート基に結合した化合物が解離し易くなる温度は、およそ120℃であった。
【0150】
また、参考例4の透明樹脂層の積層方法であるドライラミネート法に代えて、透明樹脂層を溶融押出し塗工法で積層した。透明樹脂層の溶融押出し塗工法は、透明樹脂として、ランダム重合ポリプロピレンに、フェノール系酸化防止剤0.2重量%、ヒンダードアミン系光安定剤0.3重量%、ブロッキング防止剤0.2重量%をそれぞれ添加した樹脂を、Tダイにより溶融状態で押出し、180℃の熱で厚さ80μmの透明樹脂層を積層した。その他は、参考例4と同様にして実施例1の化粧シートを得た。
【0151】
ベタインキ層用の水系塗工剤F;
水性ウレタン系白色インキ(ザ・インクテック製、オーデWKE):100部、遊離イソシアネート基にオキシム系化合物を結合させてなる水分散性イソシアネート化合物(三井武田ケミカル製、WB720):10部、水:20部、イソプロピルアルコール:20部
【0152】
接着剤層用の水系塗工剤e;
ウレタン樹脂含有接着剤(日華化学製、HO14):100部、遊離イソシアネート基にオキシム系化合物を結合させてなる水分散性イソシアネート化合物(三井武田ケミカル製、WB720):10部、水:10部、イソプロピルアルコール:10部
【0153】
(実施例2)
実施例1のベタインキ層用の水系塗工剤Fに代えて、上記配合のベタインキ層用の水系塗工剤Aを用いた。その他は実施例1と同様にして実施例2の化粧シートを得た。
【0154】
(実施例3)
実施例1の接着剤層用の水系塗工剤eに代えて、上記配合の接着剤層用の水系塗工剤cを用いた。その他は実施例1と同様にして実施例3の化粧シートを得た。
【0155】
(比較例1)
参考例1のベタインキ層用の水系塗工剤Aに代えて、下記配合のベタインキ層用の水系塗工剤Eを用いた。その他は参考例1と同様にして比較例1の化粧シートを得た。
【0156】
ベタインキ層用の水系塗工剤E;
水性ウレタン系白色インキ(ザ・インクテック製・オーデWKE):100部、水溶性エポキシ架橋剤(ナガセ化成工業株式会社製、EX614):10部、水:20部、イソプロピルアルコール:20部
【0157】
(比較例2)
参考例5の接着剤層用の水系塗工剤cに代えて、下記配合の接着剤層用の水系塗工剤dを用いた。その他は参考例5と同様にして比較例2の化粧シートを得た。
【0158】
接着剤層用の水系塗工剤d;
ウレタン樹脂含有接着剤(日華化学株式会社製、HO14):100部、水溶性エポキシ架橋剤(ナガセ化成工業株式会社製、EX614):10部、水:20部、イソプロピルアルコール:20部
【0159】
(比較例3)
参考例6の表面保護層用の水系塗工剤(2)に代えて、下記配合の表面保護層用の水系塗工剤(3)を用いた。その他は参考例6と同様にして比較例3の化粧シートを得た。
【0160】
表面保護層用の水系塗工剤▲3▼;
水性ウレタン樹脂(株式会社昭和インク工業所製、135):100部、水溶性エポキシ架橋剤(ナガセ化成工業株式会社製、EX614):10部、水:20部、イソプロピルアルコール:20部
【0161】
(比較例4)
比較例1の表面保護層用の溶剤系塗工剤▲1▼に代えて、上記配合の表面保護層用の水系塗工剤▲3▼(比較例3を参照。)を用いた。その他は比較例1と同様にして比較例4の化粧シートを得た。
【0162】
(比較例5)
比較例4の接着剤層用の水系塗工剤aに代えて、上記配合の接着剤層用の水系塗工剤d(比較例2を参照。)を用いた。その他は比較例4と同様にして比較例5の化粧シートを得た。
【0163】
(比較例6)
比較例5の養生温度25℃に代えて、養生温度80℃で行なった。その他は比較例5と同様にして比較例6の化粧シートを得た。
【0164】
(各特性の評価方法と結果)
実施例1〜3、参考例1〜6および比較例1〜6で得られた各化粧シートの層間密着性の評価、耐スクラッチ性試験、意匠性の評価を、下記の方法により行った。得られた結果を表1に示した。
【0165】
(層間密着性の評価方法と結果)
幅1インチにカットした化粧シート1の基材シート2と透明樹脂層6とをINSTRON5500引張試験機を用い、25℃の雰囲気中において引張速度100mm/分、基材シート2と透明樹脂層6との間の開き角180°の条件にて引張り、剥離強度で評価した。剥離強度が19.6N以上のものを合格として○で表し、19.6N未満のものを不合格として×で表した。結果を表1に示した。
【0166】
(耐候性試験後の層間密着性)
耐候性試験は、化粧シートの試験片をスガ試験機製サンシャイン・ウエザ・オ・メーター「WEL−300」にセットし、ブラックパネル温度63℃、120分間中18分間の雨ありサイクルの条件下で、1000時間紫外線を照射して行った。なお、120分間中18分間の雨ありサイクルとは、120分間の内18分間に、試験片に雨を擬した水を噴射することをいう。
【0167】
耐候性試験後の層間密着性は、耐候性試験後に上述した層間密着性を評価し、剥離強度が15N以上のものを合格として○で表し、15N未満のものを不合格として×で表した。
【0168】
(耐水性試験後の層間密着性)
耐水性試験は、化粧シートの試験片を、25℃の純水中に30日間浸漬させ、取り出して直ぐに風乾させることにより行った。
【0169】
耐水性試験後の層間密着性は、耐水性試験後に上述した層間密着性を評価し、剥離強度が15N以上のものを合格として○で表し、15N未満のものを不合格として×で表した。
【0170】
(耐スクラッチ性試験)
耐スクラッチ性試験は、得られた化粧シートをウレタン系接着剤(日本NSC社製、RL−96)を用いて化粧板用木質系基材に貼り合せ、その化粧板について、コインスクラッチ試験を行うことにより評価した。
【0171】
コインスクラッチ試験;各化粧板の化粧シート塗膜面に対し、10円硬貨を45度の角度で押しつけるようにそのエッジを塗膜面に当て、500gの荷重を掛けながら10円硬貨の平面と直角の方向に引っ張り、化粧板表面の外観を観察評価する。
【0172】
コインスクラッチ性評価基準;A:傷つきおよび絵柄界面剥離無し、B:傷つき軽微および絵柄界面剥離無し、C:傷つき有り但し絵柄界面剥離無し、D:絵柄界面剥離有り、とし、AおよびBは合格として○で表し、CおよびDは不合格として×で表した。
【0173】
(意匠性の評価)
意匠性は、所定の養生温度(25℃または80℃)前後での化粧シートに形成された木目柄の変化を目視で判断し、変化の著しいものを不合格として×で表した。
【0174】
【表1】
【0175】
(評価結果)
実施例1〜3及び参考例1〜6の化粧シートは、ベタインキ層3、接着剤層5および表面保護層9の何れか1層以上が、少なくとも1分子中に2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有する水系塗工剤で形成されることにより、25℃で養生処理しても、層間密着性(耐候性試験後および耐水性試験後の層間密着性も含む。)、耐スクラッチ性および意匠性に優れていた。なお、実施例1〜3によれば、安定性に優れた塗工剤で形成したので効率的に化粧シートが得られたと共に、架橋反応を促進させることができ、密着強度と耐熱性に優れた化粧シートが得られた。
【0176】
一方、比較例1、2、4、5の化粧シートは、ベタインキ層3または接着剤層5がエポキシ系の水系塗工剤で形成されるので、強固な三次元構造からなる層が形成されず、層間密着性(耐候性試験後および耐水性試験後の層間密着性を含む。)に劣る結果となった。また、比較例3〜5の化粧シートは、表面保護層9がエポキシ系の水系塗工剤で形成されるので、強固な三次元構造からなる層が形成されず、耐スクラッチ性に劣る結果となった。また、比較例6においては、ベタインキ層3、接着剤層5および表面保護層9の各層をエポキシ系の水系塗工剤で形成した場合であっても、80℃の養生処理を施すことにより、層間密着性(耐候性試験後および耐水性試験後の層間密着性も含む。)および耐スクラッチ性を向上させることができるが、その反面、80℃の養生温度により、シートの収縮が起こって歪みが生じ、意匠性が低下した。
【0177】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の化粧シートによれば、作業環境におけるVOCの揮発量および化粧シート中のVOC残存量を減少させることができ、その結果、化粧シート製造時における作業環境の安全性や生活空間での環境安全性をより向上させることができる。また、1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有するので、その架橋剤の作用により強固な層を形成することができ、その結果、基材シートと透明樹脂層との層間密着性を向上させることができる。また、表面保護層を形成した場合においては、強固な層を最表面に形成でき、その結果、耐スクラッチ性に優れた化粧シートとすることができる。また、本発明に係る水系塗工剤で形成した層は、室温での養生処理でも十分に架橋されるので、耐候性試験および耐水性試験後の層間密着性も優れている。また、イソシアヌレート骨格を有する水性化合物を架橋剤とすることにより、イソシアヌレート骨格が3次元的に架橋して立体的な分子構造を形成し、その結果、強固な層が形成されて基材シートと透明樹脂層との層間密着性をより一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の化粧シートの層構成の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の化粧シートの層構成の他の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の化粧シートの層構成の更に他の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の化粧シートの実施形態の一例を示す断面図である。
【図5】本発明の化粧シートの実施形態の他の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1、41、51 化粧シート
2 基材シート
3 ベタインキ層
4 絵柄インキ層
5 接着剤層
6、6’、6” 透明樹脂層
7 凹凸模様
8 着色層
9 表面保護層
10 裏面プライマー層
11 インキ層
12 接着剤層
15 被着体
16 多層からなる透明樹脂層
17 凹陥部
Claims (9)
- 基材シートと、ベタインキ層を有するインキ層と、接着剤層と、透明樹脂層と、表面保護層とを少なくとも有し、当該各層を順次積層してなる化粧シートにおいて、
前記ベタインキ層および前記接着剤層の少なくとも1以上の層が水系塗工剤で形成されてなり、該水系塗工剤は、少なくとも1分子中に2個以上のイソシアネート基を持つ水性化合物を架橋剤として含有し、
前記イソシアネート基を持つ水性化合物は、該水性化合物の持つ遊離イソシアネート基に化合物を結合させたものであり、
当該遊離イソシアネート基に結合した化合物は、前記水系塗工剤の配合作業および/または塗工工程の温度では遊離イソシアネート基から解離し難く、前記透明樹脂層の形成時に加わる熱では遊離イソシアネート基から解離し易いものであり、
前記透明樹脂層を溶融押出し塗工法で形成することにより、該工法において生ずる熱で、前記ベタインキ層および前記接着剤層の少なくとも1以上の層が架橋されていることを特徴とする化粧シート。 - 前記イソシアネート基を持つ水性化合物が、自己乳化性であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
- 前記イソシアネート基を持つ水性化合物が、イソシアヌレート骨格を有する水性化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の化粧シート。
- 前記化合物が、フェノール系、アルコール系、活性メチレン系、メルカプタン系、酸アミド系、酸イミド系、ラクタム系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、アミン系およびイミド系の化合物の群から選択される1の化合物であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の化粧シート。
- 前記水系塗工剤が、水性ウレタン樹脂を少なくとも含有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の化粧シート。
- 前記基材シートがポリオレフィン系エラストマーからなり、前記透明樹脂層がポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の化粧シート。
- 前記透明樹脂層の表面側に凹凸模様が形成されていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の化粧シート。
- 前記凹凸模様の凹陥部に着色層が形成されていることを特徴とする請求項7に記載の化粧シート。
- 前記基材シートの裏面に裏面プライマー層が形成されていることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の化粧シート。
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