JP4018395B2 - 内接歯車ポンプ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、歯数差が1枚のインナーロータ(外歯歯車)とアウターロータ(内歯歯車)を組合わせた内接歯車ポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】
歯数がn枚(n≧3)のインナーロータと、歯数がn+1枚のアウターロータを偏心させてケーシングに収納し、両ロータの各歯の歯面間に形成される閉じ込み空間(ポンピングチャンバ)のロータ回転に伴う容積変化を利用して液体の吸入、吐出を行う内接歯車ポンプは、基本設計では、図5に示すように、インナーロータ1とアウターロータ2間の閉じ込み空間Aの面積が最大となる位置でその閉じ込み空間Aがケーシングに設けられた吸入ポート3と吐出ポート4から切り離されるように、吸入ポートの終端3aと吐出ポートの始端4aが左右対称位置に設定される。
【0003】
なお、吸入ポート3と吐出ポート4は、ケーシングのロータ端面と対向する面に設けられている。図中5、6は、面積最大となる閉じ込み空間を仕切る吸入ポート側ロータ噛み合い点と吐出ポート側ロータ噛み合い点を示す。7はインナーロータを回転させる駆動シャフトであり、アウターロータ2は従動回転する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
内接歯車ポンプでは、ロータ回転に支障をきたさないように、インナーロータとアウターロータの歯面間、ケーシング内径とアウターロータの外径間及びインナーロータの軸穴と駆動シャフト間にそれぞれ所定のクリアランス(隙間)が設けられる。
【0005】
そのため、吐出圧が作用するとインナーロータ1とアウターロータ2がクリアランスの範囲内で相反する方向に動き、両ロータの中心を通る軸が、図5(b)に示す設計上の基準軸Cの位置からC’の位置までロータの回転方向に(a°−X°)ずれる。図のa°は、インナーロータ1とアウターロータ2の設計上の中心を通る基準軸Cから設計上の吸入ポート側ロータ噛み合い点5までのインナーロータ中心Oを支点にした振角、X°は基準軸Cからロータ中心変位後の吸入ポート側ロータ噛み合い点5’(線B)までのインナーロータ中心Oを支点にした振角である。
【0006】
吸入ポート終端を設計上のロータ噛み合い点5の位置に配置すると、閉じ込み空間Aは実際の噛み合い点が設計上の噛み合い点5の位置から5’の位置に移る間は吸入ポートから切り離されているのにまだ膨張工程にあり、その空間A内が吸入ポートの圧力よりも更に負圧状態になる。
【0007】
にも拘らず、吸入ポートから切り離された閉じ込み空間Aは液体を吸入することができないためキャビテーションを誘発し、吸入効率悪化の問題も起こる。
【0008】
ロータの回転が高速化するにつれて閉じ込み空間の膨張、圧縮速度が速くなるため、キャビテーションの発生と容積効率の悪化はより顕著になり、その結果、ロータ、ケーシングの侵食や吐出量不足を引き起こす。
【0009】
さらに、キャビテーションの誘発により圧力脈動も増大し、ポンプの振動、騒音も激しくなってポンプ性能が著しく低下する。
【0010】
そこで、本出願人は、その問題の解決策を同時提出の特許出願によって提案した。
【0011】
その解決策では、吸入ポートの終端を、ロータ歯面間の閉じ込み空間が最大面積となる位置での設計上の吸入ポート側ロータ噛み合い点よりもロータの回転方向前方に延長して配置する。
【0012】
これにより、ロータ中心の変位に起因した閉じ込み空間の負圧状態が矯正され、キャビテーション発生時のポンプ回転数を高めることが可能になった。また、閉じ込み空間の液体吸入量が増加し、ポンプの容積効率も改善される。
【0013】
ところが、閉じ込み空間の負圧状態が矯正されたものの、高圧使用時に液体を閉じ込めた閉じ込み空間が吐出ポートと連通する際の急激な圧力変化による局所的な負圧発生により、液中のエアが膨張してキャビテーションとなり、それによるロータ、ケーシングの侵食(エロージョン)の問題が生じた。
【0014】
この発明は、このロータ、ケーシングの侵食の問題も併せて解決することを課題としている。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
上記の課題を解決するため、この発明においては、吸入ポートの終端を、基本設計位置よりもロータの回転方向前方、即ちロータ歯面間の閉じ込み空間が設計上最大面積となる位置での吸入ポート側ロータ噛み合い点よりもロータの回転方向前方に延長して配置する。
【0016】
こうすると、閉じ込み空間Aが図5に示す設計上のロータ噛み合い点5を通り越した後にも吸入ポートから空間Aに液体が流入する。
【0017】
これにより、ロータ中心の変位による閉じ込み空間の負圧状態が矯正され、キャビテーションが発生するときのポンプ回転数を高めることができる。また、ポンプの容積効率も改善される。
【0018】
次に、高圧使用時に液体を閉じ込めた閉じ込み空間が吐出ポートと連通する際の急激な圧力変化による局所的な負圧発生により、液中のエアが膨張してキャビテーションとなり、それによるロータ、ケーシングの侵食を抑制するため、この発明においては、吐出ポート始端から吸入ポート終端側に延び出す薄溝を前記ケーシングに設け、設計上のアウターロータ中心とインナーロータ中心を通る基準軸に対するインナーロータ中心から前記薄溝先端に至る直線の振角Yと、前記閉じ込み空間が吸入ポートから切り離される位置での吐出ポート側ロータ噛み合い点とインナーロータ中心とを結ぶ直線と前記基準軸(C)との間の角度bの関係を、Y>bにした。
【0019】
吸入ポートの終端を基本設計位置よりもロータの回転方向前方に移すのに伴い、吐出ポートの始端も閉じ込み空間が吸入ポートから切り離された位置で閉じ込み空間から切り離される位置に移すが、閉じ込み空間が吐出ポートと連通したときに閉じ込み空間内の液体が急激に吐出ポートに吐き出されると、キャビテーションによるロータ、ケーシングの侵食や吐出ポートの圧力脈動が起こる。
【0020】
そこで、この発明では、吐出ポートの始端を閉じ込み空間が吸入ポートから切り離された位置での吐出ポート側ロータ噛み合い点よりも更にロータの回転方向前方に配置し、吐出ポート側ロータ噛み合い点が吐出ポートに到達する前に薄溝を介して閉じ込み空間内の液体を徐々に吐出ポートに流すようにした。これにより、閉じ込み空間が吐出ポートに直接連通するときの急激な圧力変化が抑制され、キャビテーションによるロータ、ケーシングの侵食、吐出ポートの圧力脈動を抑制することが可能になった。
【0021】
なお、吐出ポートの先端位置と薄溝の先端位置の設定のし方や薄溝の配置、形状などの好ましい態様については、実施形態の項で詳しく述べる。
【0022】
【発明の実施の形態】
図1乃至図4に、この発明の内接歯車ポンプの実施形態を示す。図1は、インナーロータ1とアウターロータ2をそれぞれ設計上の中心に置いた状態にして画いてある。図に示すように、閉じ込み空間Aの面積が最大となる位置での吸入ポート側ロータ噛み合い点5よりもロータの回転方向前方に吸入ポート3の終端3aがある。この吸入ポート終端3aは、クリアランスによるロータ中心の変位量を考慮し、変位後の吸入ポート側ロータ噛み合い点5’と重なる位置やその近傍に配置されている。
【0023】
また、吐出ポート4の始端4aは、基準軸Cからの振角(これはインナーロータ中心Oを支点にした振角。以下の振角も同じ)がZとなる位置に配置され、さらに、吐出ポート4の始端4aから吸入ポート終端3a側に向かって延び出す薄溝(深さの小さい溝)8がケーシングに設けられている。
【0024】
吸入ポート3から切り離された図1の面積SXの閉じ込み空間Aから吐出ポートの始端4aまでの距離が大きすぎると、低回転域では、閉じ込み空間の減少により歯先隙間もしくは端面空間から液体が漏れ出すことにより吐出量が低下する。高回転域では閉じ込み空間の圧縮による内部圧力の極度の上昇が生じ、ロータのいわゆるおどりによる騒音又は圧力差が大きいことによるキャビテーションが発生する。また、その距離が小さすぎると薄溝8の設置領域は小さくなり、薄溝経由での吐出液量が少なくなって圧力の急変防止効果が不十分になる。これ等の不具合を無くすために、吐出ポートの始端4aは、閉じ込み空間Aの面積がロータ回転により図1のSXから図3のSZに縮小した位置でその面積SZの閉じ込み空間を仕切る吐出ポート側ロータ噛み合い点の位置(基準軸Cに対する振角Zの位置)に配置する。
【0025】
また、閉じ込み空間Aが吸入ポート3から切り離された図1の面積SXの位置における基準軸Cから吐出ポート側ロータ噛み合い点6までの振角をb、基準軸Cから薄溝8の先端までの振角をYとして、Y>bの関係を成立させている。
【0026】
薄溝8は、振角Y〜Zの範囲におけるインナーロータ1とアウターロータ2の噛み合い位置に配置すればよいが、この薄溝8を吐出ポート4の内側径(インナーロータの歯底部径)を超えない範囲でインナーロータ中心側に偏らせると、キャビテーションによる侵食の抑制効果がより高まる。
【0027】
閉じ込み空間Aに流入した空気はロータ回転中にインナーロータ1の歯底周辺に滞まるが、インナーロータ中心側に偏らせた薄溝はそのインナーロータの歯底近くで閉じ込み空間に連通するので、閉じ込み空間Aが吐出ポート4に到達する前に滞った空気が薄溝8を通して拡散放出され、吐出ポート4に対する空気の一気の吐き出しが防止される。この作用で侵食の抑制効果がより高まる。
【0028】
なお、薄溝8は、溝幅と溝深さに変化の無い図4(a)の如き形状でもよいが、溝幅と溝深さが先端に向かって漸減する形状にすると好ましい。例えば図4(b)の三角錐状や図4(c)の半円錐状にすると、圧力急変の抑制効果がより強く引き出される。
【0029】
以下に、より詳細な実施例について述べる。各実施例とも図1〜図3に示す記号の定義は以下の通りとする。また、振角は、全てインナーロータ中心Oを支点にした基準軸Cからの振角とする。
a:閉じ込み空間Aが設計上最大面積となる位置での吸入ポート側ロータ噛み合い点の振角
X:吸入ポート終端3aの振角
b:閉じ込み空間Aが吸入ポートから切り離される位置での吐出ポート側ロータ噛み合い点の振角
Y:薄溝先端の振角
Z:吐出ポート始端の振角
S0:閉じ込み空間Aの設計上の最大面積
SX :閉じ込み空間Aが吸入ポートから切り離される位置での空間面積
SY :吐出ポート側ロータ噛み合い点が振角Yの線上に移動したときの空間面積
SZ :吐出ポート側ロータ噛み合い点が振角Zの線上に移動したときの空間面積
【0030】
−実施例1−
a=18°、S0=100.17(SX を100としたときの比率)、アウターロータ外径=85mm、ロータ厚み=10mm、ロータ偏心量e=3.35mmの体格を有する歯数9枚のインナーロータと、歯数10枚のアウターロータを吸入ポートと吐出ポートを有するケーシングに収納して構成される表1の諸元の内接歯車ポンプを用意した。各ポンプの吸入ポート終端は、いずれもX=13°の位置に設定されている。なお試料1は薄溝の無い比較品、試料2、3は薄溝を設けた発明品である。
【0031】
【表1】
【0032】
これ等の試作ポンプについて、吐出圧力:2.0MPa、回転数:7000rpm、油粘度:4.6Sc、時間:50時間の条件で耐久評価試験を行った。その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
−実施例2−
a=18°、S0=102.24(SX を100としたときの比率)、アウターロータ外径=94mm、ロータ厚み=10mm、ロータ偏心量e=3.74mmの体格を有する歯数9枚のインナーロータと、歯数10枚のアウターロータを吸入ポートと吐出ポートを有するケーシングに収納して構成される表3の諸元の内接歯車ポンプを用意した。いずれもX=2°の位置に吸入ポート終端が設定されている。なお試料4は薄溝の無い比較品、試料5、6は薄溝を設けた発明品である。
【0035】
【表3】
【0036】
これ等の試作ポンプについて、吐出圧力:1.8MPa、回転数:7000rpm、油粘度:4.6Sc、時間:25時間の条件で耐久評価試験を行った。その結果を表4に示す。
【0037】
【表4】
【0038】
上記の試験において、試料2、3及び5、6は侵食発生面積と油圧脈動幅がそれぞれ試料1、試料4に比べて格段に小さく、これから、本発明の効果が確認できる。
【0039】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明では、歯面間の閉じ込み空間が設計上最大面積となる位置での吸入ポート側ロータ噛み合い点よりもロータの回転方向前方に吸入ポート終端を配置してロータ中心の設計点からの変位に起因したキャビテーションや容積効率の低下を抑え、また、閉じ込み空間が吸入ポートから切り離される位置でのロータ噛み合い点よりも更に前方に吐出ポートの始端を配置し、吐出ポート側ロータ噛み合い点が吐出ポートに到達する前に吐出ポート始端から延び出させて設けた薄溝を介して閉じ込み空間内の液体を徐々に吐き出させるようにして高圧使用時に閉じ込み空間が吐出ポートと連通する際の急激な圧力変化のためのキャビテーションによるロータ、ケーシングの侵食と脈動を抑えるようにしたので、ポンプの高性能化と併せて圧力脈動及び振動、騒音の低減、耐久性向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のポンプの実施形態を示す一部省略図
【図2】ロータの回転で閉じ込み空間の面積が図1のSX からSY に変化した状態を示す図
【図3】ロータの更なる回転で閉じ込み空間の面積SZ に変化した状態を示す図
【図4】薄溝の具体例を示す図
【図5】従来の内接歯車ポンプの一部省略図
【符号の説明】
1 インナーロータ
2 アウターロータ
3 吸入ポート
3a 吸入ポート終端
4 吐出ポート
4a 吐出ポート始端
5 設計上閉じ込み空間が最大面積となる位置での吸入ポート側ロータ噛み合い点
6 吐出ポート側ロータ噛み合い点
7 駆動シャフト
8 薄溝
A 閉じ込み空間
a°、X°、b°、Y°、Z° 振角
SX 、SY 、SZ 閉じ込み空間の面積
Claims (2)
- 回転駆動させる歯数がn枚のインナーロータと、従動回転する歯数がn+1枚のアウターロータを、吸入ポートと吐出ポートを有するケーシングに偏心配置にして収納し、インナー、アウター両ロータ間の各歯の歯面間に形成される閉じ込み空間(A)のロータ回転に伴う容積変化で液体を吸入、吐出する内接歯車ポンプにおいて、吸入ポートの終端を、前記閉じ込み空間(A)が設計上最大面積Soとなる位置での吸入ポート側ロータ噛み合い点(5)よりもロータの回転方向前方に延長して配置し、さらに、吐出ポート始端から吸入ポート終端側に延び出す薄溝(8)を前記ケーシングに設け、設計上のアウターロータ中心とインナーロータ中心を通る基準軸(C)に対するインナーロータ中心から前記薄溝先端に至る直線の振角Yと、前記閉じ込み空間(A)が吸入ポートから切り離される位置での吐出ポート側ロータ噛み合い点(6)とインナーロータ中心(O)とを結ぶ直線と前記基準軸(C)との間の角度bの関係を、Y>bにしたことを特徴とする内接歯車ポンプ。
- 前記薄溝(8)を、吐出ポートの内側の径を超えない範囲でインナーロータ中心側に偏らせてインナーロータの歯底部近傍に配置した請求項1に記載の内接歯車ポンプ。
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