JP4013262B2 - 無方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、大型回転機用鉄心とくにタービン発電機用鉄心の素材として好適な無方向性電磁鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
大型回転機用鉄心は、扇形に加工された数枚のセグメントから構成される場合が多く、素材の電磁鋼板としては特に圧延方向(L方向)の磁気特性に優れることが要求される。従って、この用途には、冷間または温間圧延によって最終製品板厚としたのち高温焼鈍により(110)[001]方位を持つ結晶粒を優先的に成長させるいわゆる2次再結晶現象を利用して製造される一方向性電磁鋼板が多用されてきた。
【0003】
しかしながら、大型回転機用鉄心材料として使用される一方向性電磁鋼板は、最終焼鈍に長時間加熱の箱焼鈍が必要であることから、コスト高になるという不利があった。また、焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布して高温の箱焼鈍を行うため、鋼板表面に酸化被膜が形成され、この酸化被膜の影響により無方向性電磁鋼板に比べると鋼板の打抜性がかなり劣るという問題があった。
これらの問題の解決策として、高価な箱焼鈍の代わりに連続焼鈍を利用した一方向性電磁鋼板の製造方法が提案された。
【0004】
例えば、特公昭51-20373号公報では、一方向性電磁鋼の冷延板を脱炭焼鈍し、1000〜1100℃における保持時間を5〜10分間という比較的短時間とすることからなる製造方法を提案している。
また特開昭49-95816号公報には、最終板厚とした冷延板を 500〜1000℃/minの加熱速度で急速加熱し、 950℃超、1200℃以下の温度で10分以内の仕上焼鈍を施すことからなる一方向性電磁鋼板の製造方法が開示されている。
さらに特開昭55-58332号公報には、C含有量を0.01wt%(以下単に%で示す)以下とし、脱炭焼鈍なしに、急速加熱、短時間均熱による仕上焼鈍を行う方法が示されている。
またさらに特開平5-70833号公報には、仕上焼鈍前に 0.5〜5%の冷間圧延を施すことにより、短時間仕上焼鈍を可能にする技術が開示されている。
しかしながら、上記の技術はいずれも、インヒビター(AlN, MnSなど)を利用して2次再結晶粒を発達させる技術であるため、短時間の連続仕上焼鈍ではどうしても2次再結晶粒の発達が不安定となり、磁気特性が安定しないという問題を抱えていた。
【0005】
なお、打抜性の改善策としては、研削による酸化被膜除去法や酸化被膜を形成しない箱焼鈍方法などが提案されているが、いずれの方法もコスト高となる問題を残していた。
【0006】
このような状況のもと、現在では、大型回転機用鉄心として一方向性電磁鋼板の代わりにハイグレードの無方向性電磁鋼板が使用されるようになってきた。
この無方向性電磁鋼板は、一方向性電磁鋼板に比べて製造コストが安く、また鋼板表面に酸化被膜を有しないので打抜性にも優れるという利点がある。
しかしながら、一方向性電磁鋼板に比べて圧延方向(L方向)の磁気特性が劣っていることから、その改善が熱望されている。
【0007】
従来、無方向性電磁鋼板の鉄損改善手段としては、SiやAlなどの合金元素の添加量を増やして鋼板の電気抵抗を高める方法が一般的に知られている。
しかしながら、現在の無方向性電磁鋼板のハイグレード品の鉄損レベルを一層向上させるためにSi, Alなどの添加量を増大することは、圧延性の面で問題が残る。
【0008】
また、鋼中の不純物元素および介在物、析出物個数を低減することにより鉄損を改善する方法がある(例えば特開昭59-74258号公報、特開昭59-74256号公報、特開昭60−152628号公報、特開平3−104844号公報)。
このような鋼中不純物の低減は、鉄損の低減に極めて有効ではあるが、高純度化は製銑・製鋼技術に依存するものであり、現在の製銑・製鋼技術では高純度化はほぼ限界まで達しているので、これらの技術による一層の鉄損改善は、製銑・製鋼技術の進歩を待たなければならない。
【0009】
その他の鉄損改善手段として、冷間圧延条件に工夫を加えて鉄損を改善する方法がある。
例えば特公昭56-22931号公報等にその技術が開示されているが、これらの集合組織最適化による鉄損改善技術は、磁気異方性を小さくすること(面内無方向)による磁性改善であり、その評価も、圧延方向(L方向)と圧延方向に対して垂直な方向(C方向)の試料を同数だけ用いたエプスタイン測定による特性値いわゆる(L+C)方向磁性で行われていた。
このように、従来は、単に(L+C)磁性のみが考慮されていただけで、一歩進んだ(L+C)磁性の良好な状態でのL方向磁性の改善には考慮が払われておらず、また実際、(L+C)磁性を劣化させずにL方向の磁性を改善することは極めて困難でもあった。
【0010】
特開平2−232319号公報に、2回冷延法による無方向性電磁鋼板のハイグレード品の製造方法が開示されている。しかし、この技術は、中間焼鈍に長時間の箱焼鈍を必要とするため、生産性が劣るという問題があった。
また特開平5−209224号公報に、冷延−焼鈍を2回以上繰り返す無方向性電磁鋼板のハイグレード品の製造方法が開示されている。しかしながら、この製造方法は、前述したところと同様、(L+C)磁性の改善のみを目的としており、L方向磁性の改善については全く考慮が払われていない。
【0011】
さらに、磁気異方性制御による磁性改善方法として、特開昭58−120733号公報に、仕上焼鈍時の炉内張力制御によって鉄損を改善する方法が開示されている。しかしながら、張力制御により磁気異方性を大きくしてL方向磁性を高めようとする場合、(L+C)磁性が劣化するという問題があった。
また、特開昭59-74225号公報には、不純物の低減により磁気異方性を小さくして鉄損を改善する製造方法が開示されている。
しかし、この技術を利用して、不純物を増加して磁気異方性を大きくした場合には、上記と同様、(L+C)磁性が劣化するという問題があった。
【0012】
以上説明したように、従来の無方向性けい素鋼板の開発は、磁気異方性を小さくすることによる鉄損改善技術が主であり、無方向性電磁鋼板のハイグレード品のL方向磁性を改善することによる大型回転機の鉄心に適した無方向性電磁鋼板については検討はほとんど行われておらず、L方向およびC方向とも磁気特性が良好で、なおかつ特にL方向の磁気特性に優れた安価な材料を提供することはできなかった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記の現状に鑑みて開発されたもので、圧延方向および圧延方向に対して直角な方向の磁気特性が共に良好で、しかもL方向の磁性にとりわけ優れた安価な大型回転機鉄心用材料としての無方向性電磁鋼板を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
さて発明者らは、上記の要請に応えるべく、良好な磁気特性を有する安価な大型回転機鉄心用電磁鋼板について鋭意検討を重ねた結果、所期した目的達成のためには、鋼中Al量および最終冷延工程が極めて重要であることの知見を得た。
この発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0015】
すなわち、この発明は、
C:0.006 %以下、 Si:2.5 〜5.0 %、
Al:0.7 〜2.0 %、 Mn:0.05%以上を、
Si+Al+Mn:3.5 %以上
の範囲において含有し、残部はFe および不可避的不純物の組成になり、かつ板厚中心部における結晶組織の(200), (310), (110), (211)および(222) 面からの回折X線の、ランダム組織の対応する面からのそれに対する強度比を、それぞれI(200),I(310),I(110),I(211) およびI(222) としたとき、これらが次式(1), (2)
I(200) +I(310) −5・I(110) ≦2 ---(1)
2・I(211) +I(222) ≦5 ---(2)
の関係を満足し、しかも圧延方向の鉄損W15/50(L)、圧延方向に対し直角方向の鉄損W15/50(C)および(L+C)方向の鉄損W15/50(L+C)が、それぞれ次式(3),(4)
1.35 ≦W15/50(C)/W15/50(L)≦ 2.00 ---(3)
W15/50(L+C)≦ 2.3 (W/kg) ---(4)
の関係を満足することからなる無方向性電磁鋼板である。
【0016】
またこの発明は、
C:0.006 %以下、 Si:2.5 〜5.0 %、
Al:0.7 〜2.0 %、 Mn:0.05%以上を、
Si+Al+Mn:3.5 %以上
の範囲において含有し、残部はFe および不可避的不純物の組成になる含けい素鋼熱延板を、熱延板焼鈍後、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚としたのち、仕上焼鈍を施す一連の工程によって無方向性電磁鋼板を製造するに当たり、
最終冷延前の中間焼鈍を 700〜1000℃の温度範囲で行うと共に、最終冷延を圧下率:1〜15%、圧延速度:1000 m/min以下の条件下で行うことからなる無方向性電磁鋼板の製造方法である。
【0017】
以下、この発明を由来するに至った実験結果について説明する。
まず、ターボジェネレーターにおける無方向性電磁鋼板の圧延方向(L方向)と圧延方向に対して垂直方向(C方向)の鉄損比W15/50(C)/W15/50(L)すなわちC/L比がステーターコアロスに及ぼす影響について調査した。
実験には、通常タービン発電機に使用される35P130クラスの一方向性電磁鋼板並びにC/L比が異なる種々の無方向性電磁鋼板を用いた。C/L比の異なる無方向性電磁鋼板は、2回冷延法の条件を変化させることによって作製した。
すなわち、転炉で吹練した溶鋼を脱ガス処理し、ついでSi:3.0 〜3.8 %、Al:0.8 %、Mn:0.2 %を目標にして合金成分を添加し、調整したその溶鋼を、連続鋳造してスラブとしたのち、熱間圧延により板厚:2.0 mmの熱延板とし、酸洗後、焼鈍を施してから、1回目の冷間圧延を施した。ついで、中間焼鈍を施したのち、圧下率を0%から20%まで種々に変化させた2回目の冷間圧延により最終板厚とした。その後、仕上焼鈍を施して最終製品とした。
【0018】
得られた製品を用いて、ステーターを作製し、コアバック磁束密度が 1.5T,50Hzの場合におけるステーターコアロスについて調べた結果を、W15/50(L+C)をパラメーターとしてC/L比との関係で図1に示す。
なお、L,C方向の磁気特性はそれぞれ25cmエプスタイン法により調べた。
また、W15/50(L+C)とは、L方向とC方向の試料を同数だけ用いたエプスタイン測定による鉄損すなわち(L+C)方向の鉄損のことである。
【0019】
同図より明らかなように、一方向性電磁鋼板におけるステーターコアロスの最小値は約3.25W/kgであるが、無方向性電磁鋼板であっても、(L+C)磁性(鉄損)が2.3 W/kg以下でしかもC/L比が1.35〜2.00の範囲を満足するものは、ステーターコアロスが一方向性電磁鋼板よりも小さくなることが判明した。
なお、(L+C)磁性が2.3 W/kgを超える場合には、C/L比が1.35以上でもステーターコアロスは一方向性電磁鋼板より小さくならないことも明らかとなった。
【0020】
このように、L方向の鉄損W15/50(L)、C方向の鉄損W15/50(C)および(L+C)方向の鉄損W15/50(L+C)が、それぞれ次式(3), (4)
1.35 ≦W15/50(C)/W15/50(L)≦ 2.00 ---(3)
W15/50(L+C)≦ 2.3 (W/kg) ---(4)
の関係を満足するようにすれば、大型回転機用鉄心材料として、一方向性電磁鋼板よりも優れた無方向性電磁鋼板が得られるというのが、今回見出した新規知見である。
【0021】
そこで発明者らは、次に、無方向性電磁鋼板における(L+C)磁性およびC/L比に及ぼす合金元素の影響について調査した。
すなわち、転炉で吹練した溶鋼を脱ガス処理し、ついでSi:2.0 〜5.0 %、Al:0〜1.2 %、Mn:0.1 〜1%を目標にして合金成分を添加し、調整したその溶鋼を、連続鋳造してスラブとしたのち、熱間圧延により板厚:1.8 mmの熱延板とし、ついで焼鈍後、酸洗を施してから、1回目の冷間圧延を施した。ついで、中間焼鈍を施し、酸洗後、0〜15%の2回目の冷間圧延により0.5 mmの最終板厚とした。その後、仕上焼鈍を施して最終製品とした。
かくして得られた無方向性電磁鋼板の合金元素量(Si+Al+Mn量)と鉄損W15/50(L+C)との関係について調べた結果を、図2に示す。
【0022】
同図から明らかなように、(Si+Al+Mn)量が 3.5%未満では(L+C)方向の鉄損W15/50(L+C)を 2.3W/kg以下に低減することはできない。
この理由は、鋼中の(Si+Al+Mn)量が 3.5%に満たないと鋼板の電気抵抗が小さすぎるため、十分な鉄損の低減が図れないことによるものと考えられる。
従って、(Si+Al+Mn)量は 3.5%以上とする必要があることが判明した。
【0023】
次に、添加Al量と(L+C)方向の鉄損およびC/L比との関係について調べた結果を、図3に示す。
同図から明らかなように、C/L比は 0.7%以上というAlの多量添加によって効果的に増大する。また(L+C)方向の鉄損も、添加Al量の増加に伴う電気抵抗の増加によって改善される。
ここに、Al量が 0.7%以上になるとC/L比が著しく増大する理由についてはまだ明確に解明されてはないが、鋼中Al量の増加により集合組織のうち(110)成分が増加し、(200)成分が減少したためと考えられる。
【0024】
上記のように、(Si+Al+Mn)量を 3.5%以上としかつAlを 0.7%以上とすることによって、おおむね(L+C)方向の鉄損W15/50(L+C)が 2.3W/kg以下でC/L比が1.35以上、従ってステーターコアロスを 3.25 W/kg以下にすることができるわけであるが、成分調整だけでは必ずしも上記の特性を安定して得ることは難しかった。
そこで、この点についてさらに検討を重ねた結果、磁気特性の安定化のためには最終冷延工程における圧下率および圧延速度が重要な意味を持つことが判明した。
【0025】
すなわち、図4に示すとおり、最終冷延の圧下率を1〜15%の範囲とした上で、1000 m/min以下の速度で圧延して初めて、所望の特性が安定して得られることが究明されたのである。
なお、図4の実験に用いた鋼板は、次の条件で作製されたものである。
すなわち、C:0.002 %, Si:3.7 %, Al:0.71%, Mn:0.7 %, P:0.007 %, S:0.0010%, N:0.002 %およびO:0.0015%を含み、残部はFe および不可避的不純物の組成よりなる連鋳スラブを、冷却することなく1080℃に加熱した後、熱間圧延により2mm厚の熱延板とし、ついで 950℃, 45 minの熱延板焼鈍、温間での1次圧延、 850℃, 2 minの中間焼鈍、冷間での2次圧延および1000℃, 10sの仕上焼鈍を施して、板厚:0.35mmの製品板とした。
【0026】
上記したように、所望の特性を安定して得るには、成分調整のみならず圧延が重要な意味を持つということは、結局、鋼板に形成される集合組織が重要であることを示唆している。
そこで発明者らは、次に、本願発明で所期した磁気特性を得るのに必要な集合組織について、その解明を進めた。
前掲図1に示した各鋼板について、その板厚中心部の組織と特性との関係について調査した結果を、図5に示す。
なお、集合組織の判定には、結晶組織の(200), (310), (110), (211)および(222) 面を利用し、これらの面からの回折X線の、ランダム組織の対応する面からのそれに対する強度比I(200),I(310),I(110),I(211) およびI(222) で評価した。
同図に示したとおり、ステーターコアロスを 3.25 W/kg以下とするためには、上記の強度比で表して、次式(1), (2)
I(200) +I(310) −5・I(110) ≦2 ---(1)
2・I(211) +I(222) ≦5 ---(2)
の関係を満足する組織とする必要があることが判明した。
【0027】
また、図6には、{I(200) +I(310) −5・I(110) }とAl含有量との関係について示すが、同図に示したとおり、Al量が 0.7%以上であれば{I(200) +I(310) −5・I(110) }が2以下となり、従ってコアロスを 3.25 W/kg以下に低減することができる。
【0028】
さらに、冷延圧下率および圧延速度と集合組織との関係について調べた結果を図7に示すが、同図より明らかなように、圧下率が1〜15%の範囲でかつ圧延速度が1000 m/min以下であれば、前掲式(1), (2)の満足を満足する集合組織が形成され、ひいては式(3), (4)で規定される所望特性が得られるのである。
【0029】
【作用】
この発明において、鋼板の成分組成を前記の範囲に限定した理由は次のとおりである。
C:0.006 %以下
Cが 0.006%を超えて含有されると炭化物の析出による磁気時効を生じ、鉄損の劣化を招くので、Cは 0.006%以下に限定した。
【0030】
Si:2.5 〜5.0 %
Siは、固有抵抗を高めることによって鉄損を低減する有用元素であるが、含有量が 2.5%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 5.0%を超えると冷延性が阻害されるので、 2.5〜5.0 %の範囲に限定した。
【0031】
Al:0.7 〜2.0 %
鋼中Al量が 0.7%に満たないと、前掲図6に示したとおり{I(200) +I(310) −5・I(110) }を2以下にすることができず、ひいては前掲図3に示したとおり、1.35以上のC/L比が得られず、その結果、良好なL方向磁性が要求される大型回転機鉄心用電磁鋼板として適合しなくなる。一方 2.0%を超えると冷延性が阻害されるので、この発明ではAl量は 0.7〜2.0 %の範囲に限定した。
【0032】
Mn:0.05%以上
Mnは、鋼中のSと結合してMnSを形成するが、含有量が0.05%に満たないと微細なMnSが生成して磁気特性に悪影響を与えるので、かような微細MnSが生成しない0.05%以上を添加するものとした。
【0033】
Si+Al+Mn:3.5 %以上
この発明では、Si,AlおよびMnを上記の範囲に限定するだけでは不十分で、これらの合計量も併せて規制する必要がある。
すなわち、(Si+Al+Mn)量が 3.5%に満たないと、前掲図2に示したとおり(L+C)方向の鉄損W15/50(L+C)を 2.3 W/kg 以下まで低減することができないので、(Si+Al+Mn)量は 3.5%以上とする必要がある。とはいえ、(Si+Al+Mn)量が 5.5%を超えると冷延性に問題が生じるので、上限は 5.5%とすることが好ましい。
【0034】
以上、必須成分について説明したが、その他の不可避混入不純物については次のとおりである。
P:0.2 wt%以下
Pが、 0.2%を超えて含有されると冷延性が著しく劣化するので、0.2 %以下にすることが望ましい。
【0035】
S:0.01wt%以下
Sは、鉄損改善の面からは少ないほど好ましいので、0.01%以下に抑制することが望ましい。
【0036】
N:0.01wt%以下
Nが、0.01%を超えて含有されると多量の窒化物が生成し、磁気特性上好ましくないので、0.01%以下に抑制することが望ましい。
【0037】
O:0.005 wt%以下
O含有量が 0.005%を超えると磁気特性に悪影響を与えるので、 0.005%以下に抑制することが望ましい。
【0038】
次に、この発明法に従う無方向性電磁鋼板の製造方法について具体的に説明する。
鋼の溶製法およびスラブ製造法については特に限定されることはなく、常法に従えば良い。例えば、転炉−脱ガス装置を介して所定の成分組成に溶製した後、連続鋳造法または造塊−分塊圧延によってスラブとすれば良い。
ついで加熱および熱間圧延工程を経て熱延板とする。ここに、連続鋳造法で製造したスラブは一旦冷却してから加熱して熱間圧延を行っても、またスラブを降温することなく熱間圧延もしくは再加熱−熱間圧延を行っても良い。
【0039】
ついで、熱延板焼鈍後、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚に仕上げるわけであるが、ここに熱延板焼鈍は 770〜1100℃の温度範囲で5秒〜10時間程度が好適である。というのは、熱延板焼鈍温度が 770℃に満たないと(L+C)方向の鉄損を2.3 W/kg以下とすることが難しく、一方1100℃を超えると設備の面および製造コストの面で問題が生じるからである。また、熱延板焼鈍時間が5秒未満では、やはり(L+C)方向の鉄損を2.3 W/kg以下とすることが難しく、一方10時間を超えると生産性の低下および製造コストの上昇を招くからである。
【0040】
さて、この発明では、熱延板焼鈍後の冷延工程が重要であり、特に最終冷延前の中間焼鈍を 700〜1000℃の温度範囲で行うことと、最終冷延を圧下率:1〜15%、圧延速度:1000 m/min以下の条件下で行うことが肝要である。
すなわち、最終冷延前の中間焼鈍温度が 700℃未満では、圧延方向の鉄損が優れた電磁鋼板が得られない。この理由は、中間焼鈍温度が 700℃未満では中間焼鈍前の冷延による冷延組織の回復・再結晶が起こらず、2回目の圧延による圧延方向鉄損の改善効果が得られないことによるものと考えられる。
また、中間焼鈍温度が1000℃を超えると(L+C)方向の鉄損はかえって劣化する。この理由は、集合組織のうち (200)成分が減少しすぎたことによるものと考えられる。
従って、最終冷延前の中間焼鈍温度は 700〜1000℃の範囲に限定した。
【0041】
次に、最終冷延における圧下率が1%に満たないと、板厚方向中心部まで均一に加工歪が入らず、その結果、前掲図7に示したとおり、所望の集合組織が得られない。一方、15%を超えると、集合組織のうち (200)成分の減少に起因して(L+C)方向の鉄損が劣化する。
従って、最終冷延における圧下率は1〜15%とする必要がある。
また、圧延時における圧延速度が1000 m/minを超えると、やはり板厚方向中心まで均一な加工歪が入らないので、前掲図7に示したとおり、所望の集合組織が得られず、その結果、前掲図4に示したとおり、1.35以上のC/L比が得られないので、圧延速度は1000 m/min以下とする必要がある。
この圧延速度の下限は特に限定されることはないけれども、生産性を考慮すると200 m/min 以上が現実的である。
なお、圧延は冷間および温間のどちらで行っても構わない。また、脱スケール処理はどの工程間に行っても良好な特性が得られる。
【0042】
以上述べたとおり、成分組成を上記の適正範囲に調整した上で、上述した制御冷延を行うことによって、次式(1), (2)
I(200) +I(310) −5・I(110) ≦2 ---(1)
2・I(211) +I(222) ≦5 ---(2)
の関係を満足する集合組織が得られ、その結果次式(3), (4)
1.35 ≦W15/50(C)/W15/50(L)≦ 2.00 ---(3)
W15/50(L+C)≦ 2.3 (W/kg) ---(4)
の関係を満足する優れた磁気特性の無方向性電磁鋼板が得られるのである。
なお、{I(200) +I(310) −5・I(110) }については、その値があまりに小さいとティース部の鉄損が増大し、それに伴いステーターコアーロスも増大するので−7以上とするのが好ましい。
また、同様にC/L比が2.00を超えると、ティース部の鉄損が増大し、ステーターコアロスが増大するので、C/L比の上限は2.00に限定した。
【0043】
【実施例】
C:0.002 %, P:0.007 %, S:0.0010%, N:0.002 %およびO:0.0015%を含み、かつSi,AlおよびMnをそれぞれ表1に示す量だけ含有し、残部はFe および不可避的不純物の組成になるスラブを、熱間圧延によって2mm厚の熱延板としたのち、表1に示す条件で熱延板焼鈍、1次冷延、中間焼鈍、2次冷延および仕上焼鈍を施して板厚:0.5 mmの製品板とした。
得られた鋼板の集合組織および鉄損特性について調べた結果を表2に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表2より明らかなように、この発明に従い得られた無方向性電磁鋼板は、板厚中心部がI(200) +I(310) −5・I(110) ≦2,2・I(211) +I(222) ≦5を満足する集合組織となっており、その結果、W15/50(L+C)が 2.3 (W/kg) 以下でかつC/L比が1.35以上の良好な特性値が得られている。
【0047】
【発明の効果】
かくしてこの発明によれば、L方向およびC方向の磁気特性が共に優れ、しかもL方向の磁気特性が特に良好で、大型回転機用の鉄心材料に使用した場合に、一方向性電磁鋼板に勝る特性を有する無方向性電磁鋼板を安価に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】C/L比がステータコアロスに及ぼす影響を示したグラフである。
【図2】(Si+Al+Mn)量と(L+C)方向の鉄損との関係を示したグラフである。
【図3】添加Al量と(L+C)方向の鉄損およびC/L比との関係を示したグラフである。
【図4】最終冷延条件とC/L比との関係を示したグラフである。
【図5】鋼板中央部の集合組織とステータコアロスとの関係を示したグラフである。
【図6】回折強度{I(200) +I(310) −5・I(110) }とAl含有量との関係を示したグラフである。
【図7】最終冷延条件が集合組織に及ぼす影響を示したグラフである。
Claims (2)
- C:0.006 wt%以下、 Si:2.5 〜5.0 wt%、
Al:0.7 〜2.0 wt%、 Mn:0.05wt%以上を、
Si+Al+Mn:3.5 wt%以上
の範囲において含有し、残部はFe および不可避的不純物の組成になり、かつ板厚中心部における結晶組織の(200), (310), (110), (211)および(222) 面からの回折X線の、ランダム組織の対応する面からのそれに対する強度比を、それぞれI(200),I(310),I(110),I(211) およびI(222) としたとき、これらが次式(1), (2)
I(200) +I(310) −5・I(110) ≦2 ---(1)
2・I(211) +I(222) ≦5 ---(2)
の関係を満足し、しかも圧延方向の鉄損W15/50(L)、圧延方向に対し直角方向の鉄損W15/50(C)および(L+C)方向の鉄損W15/50(L+C)が、それぞれ次式(3),(4)
1.35 ≦W15/50(C)/W15/50(L)≦ 2.00 ---(3)
W15/50(L+C)≦ 2.3 (W/kg) ---(4)
の関係を満足することを特徴とする無方向性電磁鋼板。 - C:0.006 wt%以下、 Si:2.5 〜5.0 wt%、
Al:0.7 〜2.0 wt%、 Mn:0.05wt%以上を、
Si+Al+Mn:3.5 wt%以上
の範囲において含有し、残部はFe および不可避的不純物の組成になる含けい素鋼熱延板を、熱延板焼鈍後、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚としたのち、仕上焼鈍を施す一連の工程によって無方向性電磁鋼板を製造するに当たり、
最終冷延前の中間焼鈍を 700〜1000℃の温度範囲で行うと共に、最終冷延を圧下率:1〜15%、圧延速度:1000 m/min以下の条件下で行うことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
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