JP4007198B2 - (メタ)アクリル酸の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、(メタ)アクリル酸の製造方法に係り、特にプロパン、プロピレン又はアクロレイン、或いはイソブチレン又はt−ブチルアルコールの気相接触酸化により得られる(メタ)アクリル酸溶液を共沸蒸留塔で精製する際の(メタ)アクリル酸の重合を防止して、(メタ)アクリル酸を長期に亘り安定に蒸留精製する(メタ)アクリル酸の製造方法に関する。
【0002】
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸との総称であり、そのいずれか一方でも良く双方でも良い。
【0003】
【従来の技術】
従来のアクリル酸の製造工程図を図2,3に示す。
【0004】
図2において、プロパン、プロピレン及び/又はアクロレインを分子状酸素含有ガスを用いて気相接触酸化して得られたアクリル酸含有ガスは、アクリル酸捕集塔に導入され、水と接触してアクリル酸水溶液となる。
【0005】
なお、上記アクリル酸含有ガスには、N2,CO2,酢酸,水なども含有されている。酢酸及び水の一部と、N2,CO2は捕集塔の塔頂からベントガスとして抜き出される。
【0006】
この捕集塔からのアクリル酸水溶液は、共沸剤と共に共沸蒸留塔に供給され、その塔頂から水及び共沸剤からなる共沸混合物が留出され、塔底からは酢酸を含む粗アクリル酸が得られる。共沸蒸留塔の塔頂から留出した水及び共沸剤からなる共沸混合物は貯槽に導入され、ここで主として共沸剤からなる有機相と主として水からなる水相とに分離される。有機相は重合防止剤が添加された後、共沸蒸留塔に循環される。一方、水相はアクリル酸捕集塔に循環され、アクリル酸含有ガスと接触させる捕集水として用いられる。なお、必要に応じて水返送ラインに対し水が補給される。また、水返送ライン中の水から共沸剤を回収するため、水を共沸剤回収塔(図示せず)に通してから、アクリル酸捕集塔に循環させる場合もあり、一部を廃水としてプロセス外へ排出する場合もある。
【0007】
共沸蒸留塔の塔底から抜き出された粗アクリル酸は、残存する酢酸を除去するために酢酸分離塔に導入され、その塔頂から酢酸が分離除去される。塔頂からの酢酸はアクリル酸を含むので、一部がプロセスへ戻される場合がある。
【0008】
酢酸分離塔の塔底からは実質的に酢酸を含まないアクリル酸が得られる。このアクリル酸は精留塔に導入され高沸点物が分離除去され、高純度の製品アクリル酸となる。精留塔塔底液(高沸物)は高沸物分解反応器(図示せず)に導かれる。
【0009】
図3は、図2において脱水と酢酸分離の機能を一つにまとめた共沸蒸留塔を設けたアクリル酸製造方法を示すフローシートである。
【0010】
捕集塔からのアクリル酸水溶液は、共沸剤の添加を受けて共沸蒸留塔に導入される。この共沸蒸留塔の塔頂からは水、酢酸及び共沸剤が留出し、共沸剤は共沸蒸留塔に戻され、水と酢酸は、捕集塔へ戻され、一部が捕集塔ベントガスとして系外に排出される場合と、これに加えて共沸蒸留塔の塔中段よりアクリル酸を含んだ酢酸、水が抜き出され、酢酸回収塔(図示せず)で酢酸が回収される場合もある。共沸蒸留塔塔底液の処理フローは図2の酢酸分離塔底液の処理フローと同じである。
【0011】
一方、メタクリル酸は、イソブチレン又はt−ブチルアルコールを出発原料とし、上記と同様の酸化、精製プロセスを経て製造される。
【0012】
(メタ)アクリル酸は、易重合性化合物であり、その精製工程、特に加熱・気化の行われる蒸留工程において、(メタ)アクリル酸の重合物が生成し易いことはよく知られている。生成した重合物は、蒸留塔の内壁、充填物、或いはトレイに付着し、これにより、処理品質を低下させる恐れがある。また、この付着物が蓄積して、蒸留塔が閉塞(以下「重合閉塞」と称す。)に到り、運転を継続し得なくなるような事態をも招く。蒸留塔における処理品質を維持し、安定的に稼動させるためには、定期的に蒸留塔を分解して、内壁、充填物或いはトレイに付着した重合物を除去する必要があるが、このような分解作業には多大な手間と時間を要し、生産性を大きく低下させる原因となる。
【0013】
従来、このような重合物による問題を解決するために、蒸留塔にハイドロキノン、p−メトキシフェノール、フェノチアジンなどの重合防止剤を添加することが行われており、また、重合防止剤と共に酸素ガスを導入することが、特公昭52−34606号公報や特開2001−129388号公報に提案されている。
【0014】
特公昭52−34606号公報においては、酸素導入はアクリル酸に対してその蒸気流量の0.01〜5.0容量%の酸素濃度となるように蒸留塔の塔底のみから行われている。また、特開2001−129388号公報には、酸素は、蒸留を行う塔に対し、処理流体が流通する経路の何れかに供給すればよく、塔内酸素濃度はアクリル酸に対してその蒸気流量の0.1〜1.0容量%と記載されているが、実際の酸素の導入は蒸留塔の塔底のみから行なわれている。
【0015】
【特許文献1】
特公昭52−34606号公報
【特許文献2】
特開2001−129388号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
このように、従来においては、蒸留塔への酸素の導入については、種々検討されているにもかかわらず、蒸留塔内での重合物の生成を十分に抑制することはできず、生成した重合物の付着、蓄積で蒸留塔が閉塞に到り、蒸留塔の運転を継続することが不可能になるという問題があった。
【0017】
本発明は上記従来の問題点を解決し、共沸蒸留塔における(メタ)アクリル酸の重合物の生成及び重合閉塞を防止して、(メタ)アクリル酸を長期に亘り、安定に蒸留精製する方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題点を解決するべく、各種の検討を行った結果、種々の理由から十分な供給がなされていないために不足している共沸蒸留塔内の液、或いは共沸蒸留塔内ガスが凝縮して新たに形成される液の酸素含有量を増加させることで、極めて高い重合抑制効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
この理由の詳細は明らかではないが、次のように推定される。即ち、(メタ)アクリル酸の重合防止には酸素が必要であるが、この酸素を蒸留塔内で重合防止に有効に利用するには、蒸留塔内の液、及び蒸留塔内のガスが凝縮して形成する液に酸素が溶解していることが望ましく、従って、液中の酸素溶解度を上げることが有効であり、この為に、蒸留塔内の酸素分圧をできるだけ高くすることが好ましい。しかしながら、易重合性物質である(メタ)アクリル酸の蒸留では、重合抑制のために操作温度を低下させる目的で、減圧下で蒸留が実施されることから、酸素分圧を高めると蒸留塔内ガス量の増加と圧力維持のための減圧化設備の大きな能力が求められることになる。このため、酸素分圧を高めることは商業設備においては具現化されていなかった。
【0020】
また、蒸留塔内では、酸素は常に消費されているため、従来の酸素導入部位である塔底では濃度が濃く、塔頂では濃度が低い傾向になっている。減圧下の蒸留塔内では、また塔内酸素分圧そのものが低いこともあり、酸素と塔内液が平衡濃度に達するには時間がかかるため、すぐに十分な酸素濃度を得ることができない。
【0021】
このようなことから、従来において、蒸留塔の塔底のみから酸素を導入しても、十分な重合防止効果は得られなかった。
【0022】
これに対して、本発明に従って、共沸蒸留塔に導入する(メタ)アクリル酸溶液の溶存酸素濃度を高めることにより、酸素を(メタ)アクリル酸の重合防止に直接作用させることが可能となり、高い重合防止効果を得ることができる。
【0023】
本発明の要旨は次の通りである。
(1) 気相接触酸化により得られた(メタ)アクリル酸を含む反応ガスを吸収溶剤と接触させて(メタ)アクリル酸溶液とし、該(メタ)アクリル酸溶液を共沸蒸留塔に導入して(メタ)アクリル酸を精製する工程を有する(メタ)アクリル酸の製造方法において、該(メタ)アクリル酸溶液と酸素又は酸素含有ガスとを混合することにより、該(メタ)アクリル酸溶液の溶存酸素濃度を12〜40重量ppmに調整した後、該共沸蒸留塔に供給し、該共沸蒸留塔の塔底からも酸素又は酸素含有ガスを、該共沸蒸留塔の塔頂ガスの酸素濃度が0.01〜0.2モル%となる供給量にて供給することを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
(2) 上記(1)において、該共沸蒸留塔に導入する(メタ)アクリル酸溶液と酸素又は酸素含有ガスとを混合した後、気液分離し、その後該共沸蒸留塔に導入することを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
(3) 上記(1)又は(2)において、該(メタ)アクリル酸溶液と酸素又は酸素含有ガスとの混合を、該(メタ)アクリル酸溶液を該共沸蒸留塔に導入する配管内、或いは該配管内に設置されたスタティックミキサー又はオリフィスで行うことを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
(4) 上記(2)又は(3)において、該気液分離手段が圧力制御装置を備える気液分離槽であることを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
(5) 前記(1)において、該(メタ)アクリル酸溶液の溶存酸素濃度の調整を、該共沸蒸留塔の上流側設備で行うことを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
なお、以下においては、本発明を共沸蒸留塔を採用したアクリル酸水溶液の精製に適用した実施の形態を説明するが、本発明はアクリル酸の製造に限らず、メタクリル酸の製造において、イソブチレン及び/又はt−ブチルアルコールの気相接触酸化により得られたメタクリル酸を含む反応ガスを吸収溶剤と接触させてメタクリル酸溶液とし、このメタクリル酸溶液を共沸蒸留塔で蒸留精製する場合にも全く同様に適用可能である。
【0026】
本発明においては、具体的には図2,3に示すようなアクリル酸の蒸留精製工程の共沸蒸留塔において、共沸蒸留塔に導入するアクリル酸溶液に重合抑制のために十分な量の酸素を溶解させた後、共沸蒸留塔に供給する。
【0027】
以下に、本発明に係るアクリル酸溶液、共沸蒸留塔で使用される共沸剤及び重合防止剤、酸素又は酸素含有ガスについて説明する。
【0028】
(1)アクリル酸溶液
本発明の対象となるアクリル酸溶液としては、特に限定されるものではないが、本発明は、プロパン、プロピレン、アクロレインの1種又は2種以上を分子状酸素を用いて気相接触酸化して生成した反応ガスを、冷却及び/又は水に吸収して得られた粗アクリル酸水溶液に適用するのが最も効果の得られる態様である。プロピレン等の接触酸化により得られる粗アクリル酸水溶液中には、目的物質であるアクリル酸の他、酢酸、ギ酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどの副生成物が含有されている。
【0029】
(2)共沸蒸留塔
共沸蒸留塔としては、好ましくは理論段3段以上のものを使用する。共沸蒸留塔の理論段の上限は特に限定されるものではないが、設備費用などを考えて通常は40段以下のものを使用する。より好ましい理論段は5〜25段である。本発明に用いられる共沸蒸留塔の形式には特に制限はなく、棚段塔や充填塔などを使用することができる。棚段塔の場合は、上記の好ましい理論段を与えるためには、通常10〜80段程度のトレイが用いられる。
【0030】
本発明の方法を適用するのに好適な共沸蒸留塔のトレイもしくは充填物としては、差圧が小さく、効率の高いもの、そして重合しやすいものを蒸留するという点からは、構造が単純で突起などの少ないものが好ましい。共沸蒸留塔としては、多孔板塔、泡鐘塔、充填塔、或いはこれらの組合せ型(例えば、多孔板塔と充填塔との組合せ)などがあり、溢流堰やダウンカマーの有無には制限はなく、いずれも本発明に使用できる。具体的なトレイとして、泡鐘トレイ、多孔板トレイ、バブルトレイ、スーパーフラッシュトレイ、マックスフラクストレイ、デュアルトレイ等が挙げられる。
【0031】
また、充填物としては、円柱状、円筒状、サドル型、球状、立方体状、角錐体状など、従来から使用されているものの他、近年、高性能充填物として市販されている特殊形状を有する規則的又は不規則的な充填物は本発明に好ましく用いられる。
【0032】
かかる市販品を例示すると、規則充填物として、例えば、スルーザーパッキング(スルザー・ブラザーズ社製)、住友スルーザーパッキング(住友重機械工業社製)、テクノパック(三井物産社)などのガーゼ型規則充填物、メラパック(住友重機械工業社製)、テクノパック(三井物産社)、エムシーパック(三菱化学エンジニアリング社製)などのシート型規則充填物、フレキシグリッド(コーク社製)などのグリッド型規則充填物等が挙げられる。その他、ジェムパック(グリッチ社製)、モンツパック(モンツ社製)、グッドロールパッキング(東京特殊金網社製)、ハニカムパック(日本ガイシ社製)、インパルスパッキング(ナガオカ社製)などがある。
【0033】
また、不規則充填物には、ラシヒリング、ポーリング(BASF社製)、カスケードミニリング(マストランスファー社製)、IMTP(ノートン社製)、インタックスサドル(ノートン社製)、テラレット(日鉄化工機社製)、フレキシリング(日揮社製)等がある。
【0034】
本発明において用いる充填物は、これらに限定されるものではなく、また必要に応じてトレイと充填物の組み合わせ等も使用することができる。
【0035】
共沸蒸留塔の圧力条件としては、10〜40kPa程度の減圧として操作温度を低くするのが一般的である。共沸蒸留塔の塔底温度は100℃以下に保つことが望ましい。
【0036】
(3)共沸剤及び重合防止剤
本発明の方法においては、脱水蒸留を効率良く行うために水と共沸する有機溶剤(共沸剤)を用いる。本発明において用いることができる共沸剤としては、水、及び酢酸と共沸するトルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、イソブチルエーテルや、酢酸とは共沸しないが水と共沸する酢酸ノルマルブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、メチルイソブチルケトンなどがあり、これらは単独で、或いは2種以上の混合物で使用される。本発明では、共沸剤の種類に特に制限はない。
【0037】
一般に、共沸剤はアクリル酸の希釈剤となるので、重合防止の観点からは共沸蒸留塔内部や缶出液中の共沸剤の濃度は高い方が良いが、その濃度は蒸留に要するエネルギー負荷とのバランスで定めればよい。
【0038】
また、本発明の方法においては、アクリル酸の重合防止のために、共沸蒸留塔の塔頂、缶底液中、及び共沸蒸留塔に導入するアクリル酸溶液のうちのいずれか1以上に重合防止剤を供給するのが好ましい。本発明に用いることのできる重合防止剤としては特に制限はなく、例えばハイドロキノン、p−メトキシフェノール、フェノチアジン等のフェノール系、ジフェニルアミン等のアミン系、或いはジアルキルジチオカルバミン酸銅塩、アクリル酸銅、酢酸銅などの銅系、N−オキシル化合物などを用いることができる。これらの重合防止剤はアクリル酸、共沸剤、水、及び/又はこれらの混合液として共沸蒸留塔の塔頂、塔底及び/又は蒸留用の液供給段から供給すればよい。
【0039】
(4)酸素又は酸素含有ガス
酸素としては、工業的に得られる酸素ガスを用いれば良い。
【0040】
酸素含有ガスは、酸素を希釈するためのガスを含んだものであり、希釈ガスとしては窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水、アルゴン等の1種以上を用いることができる。酸素含有ガスとして本発明で好ましいものは空気である。なお、空気を窒素等で希釈した酸素濃度5〜20容量%程度のものも用いることができる。
【0041】
前述の如く、共沸蒸留塔に供給するアクリル酸溶液は、プレピレン及び/又はアクロレインを分子状酸素を用いて気相接触酸化して生成した反応ガスを、捕集塔で水と接触させて得られるものであるが、この捕集塔における酸素濃度は、気相接触酸化で酸素が消費されることにより空気の酸素濃度よりも低く、このため、捕集塔の塔底から取り出されるアクリル酸水溶液の溶存酸素濃度は約5ppm程度で、一般に飽和溶解度の10%以下と非常に低い。
【0042】
従って、本発明においては、このように溶存酸素濃度の低いアクリル酸溶液の溶存酸素濃度を12〜40重量ppmに調整するには、通常、このアクリル酸溶液に酸素又は酸素含有ガスを供給して、酸素を溶解させることにより溶存酸素濃度を高める。
【0043】
アクリル酸溶液への酸素ガス又は酸素含有ガスの供給方法には特に制限がなく、例えば、アクリル酸溶液を共沸蒸留塔に導入する配管内に酸素又は酸素含有ガスの供給ノズルを設置して酸素又は酸素含有ガスを吹き込む方法、共沸蒸留塔の上流側設備(アクリル酸製造プロセスでは一般的には図2,3に図示されるアクリル酸含有ガス捕集塔)の塔底部に酸素又は酸素含有ガスの供給ノズルを設置して酸素又は酸素含有ガスを吹き込む方法等が挙げられる。
【0044】
また、アクリル酸溶液に酸素を溶解させるために、酸素又は酸素含有ガスとアクリル酸溶液との気−液接触をより効果的に行わせるための補助設備を設置することも好ましく、この補助設備のうち、上述の配管内に設けるものとしてはオリフィス、スタティックミキサー等が好ましいが、これらに限定されるものではない。また、共沸蒸留塔の上流側設備(例えば、アクリル酸含有ガス捕集塔)の塔底部で酸素又は酸素含有ガスを吹き込む方法においては、平板、多孔板等の邪魔板、ガススパージャー等が好ましいが、これらについても特に限定されるものではない。
【0045】
また、アクリル酸溶液を共沸蒸留塔に導入する配管内に酸素又は酸素含有ガスの供給ノズルを設置して酸素又は酸素含有ガスを吹き込む方法においては、供給された酸素又は酸素含有ガスは、共沸蒸留塔にアクリル酸溶液と共に供給しても良く、また、共沸蒸留塔の前段で気液分離することにより、共沸蒸留塔には供給しないようにしても良い。
【0046】
アクリル酸溶液に供給した酸素又は酸素含有ガスを気液分離する場合、共沸蒸留塔の前段に適当な気液分離設備を設ければ良い。この気液分離設備は、気液2相を形成できるものであれば良く、各種の気液分離槽が好ましく用いられる。この気液分離槽には、付帯設備として、当該槽に接続する排出配管に圧力制御装置(弁)を設置したり、ガスへの液の混入を抑制するためのミストセパレータを設置するのが良いが、これらの設備はなくても良い。
【0047】
図1は、捕集塔や蒸留塔等の装置から次の共沸蒸留塔に供給されるアクリル酸溶液に酸素又は酸素含有ガスを混合した後気液分離する溶存酸素濃度調整手段を示し、配管1内のアクリル酸溶液には、配管2より酸素又は酸素含有ガスが注入された後、気液混合ミキサー(スタティックミキサー)3で混合され、更に気液分離槽4に送給される。
【0048】
この気液分離槽4の内部にはミストセパレータ5が設けられており、上部のガス排出配管6には圧力制御弁7が設けられ、また、底部の液排出配管8には、液面制御弁9が設けられている。10は溶存酸素濃度計である。
【0049】
気液混合ミキサー3で酸素又は酸素含有ガスと混合されたアクリル酸溶液は気液分離槽4で気液分離され、溶存酸素濃度が高められたアクリル酸溶液は配管8より共沸蒸留塔へ供給される。また、分離されたガスは、配管6より抜き出され必要に応じて処理された後、排ガスとして排気されるか、或いは、プロセスの減圧蒸留塔に送給される。
【0050】
本発明においては、このようにして酸素又は酸素含有ガスを混合することにより、共沸蒸留塔に供給するアクリル酸溶液の溶存酸素濃度を、12〜40重量ppmとする。この溶存酸素濃度は、12重量ppm以上であれば、十分な重合防止効果が得られる。アクリル酸溶液の溶存酸素濃度は、1〜3気圧の空気を用いることにより12〜40重量ppmとなる。
【0051】
このように、共沸蒸留塔に供給するアクリル酸溶液の溶存酸素濃度を高めることにより、共沸蒸留塔内でのアクリル酸の重合を防止することができるが、共沸蒸留塔の塔底にも酸素又は酸素含有ガスを供給する。この共沸蒸留塔の塔底からの酸素又は酸素含有ガスの供給量は、共沸蒸留塔の塔頂ガスの酸素含有ガス濃度が0.01〜0.2モル%となるような供給量とする。
【0052】
【実施例】
以下に、実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、以下における「%」、「ppm」は全て重量基準の値である。
【0053】
実験例1
25℃のアクリル酸水溶液を濃度を変えて調製し、1気圧の酸素雰囲気下で溶存酸素濃度計により酸素の飽和溶解度を調べる実験を行い、結果を表1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例1
蒸留用の原料液として、図2のアクリル酸含有ガス捕集塔から得られた、質量濃度でアクリル酸55%、酢酸1.5%、ホルムアルデヒド0.3%及び若干のギ酸を含むアクリル酸水溶液を共沸蒸留塔(理論段9段)に導入してアクリル酸の共沸脱水蒸留を行った。共沸剤としてはトルエンを用いた。
【0056】
共沸蒸留塔の運転開始に当っては、トルエンを用いて蒸留し、共沸蒸留塔内を安定させた後、共沸蒸留塔に供給する前の上記アクリル酸水溶液に、希釈した酸素を混合し、溶存酸素濃度20ppmに調整して、共沸蒸留塔の16段トレイに毎時1100kgで供給した。酸素を混合する前の原液の溶存酸素濃度は7ppmであり、この原液の酸素の飽和溶解度は約85ppmであった。
【0057】
アクリル酸水溶液と混合した希釈酸素は、共沸蒸留塔へ供給する前に、アクリル酸水溶液と分離した。また、トルエンは共沸蒸留塔の30段トレイに毎時3100kgで供給した。共沸蒸留塔の塔底からは、窒素ガスにて3倍に希釈した空気を、共沸蒸留塔の塔頂ガス中の酸素濃度が0.05モル%となるよう供給した。塔頂圧力は14.0kPaに制御し、塔頂部から重合防止剤としてハイドロキノン及びフェノチアジンを供給し、缶出液中の重合防止剤濃度をハイドロキノン800ppm、フェノチアジン500ppmになるように供給量を調整した。また、塔底温度は83℃、塔頂温度は41℃とした。
【0058】
その結果、3ヶ月の連続運転後も共沸蒸留塔の塔内差圧の上昇は観測されず、重合閉塞が防止されていることが確認された。
【0059】
実施例2
実施例1において、希釈した酸素の代りに空気を共沸蒸留塔に供給する前のアクリル酸水溶液に混合し、溶存酸素濃度を15ppmとしたこと以外は実施例1と同様な操作を実施した。
【0060】
その結果、3ヶ月の連続運転後も共沸蒸留塔の塔内差圧の上昇は観測されず、重合閉塞が防止されていることが確認された。
【0061】
実施例3
実施例2において、アクリル酸水溶液と混合した空気を、アクリル酸水溶液と分離せずにそのまま共沸蒸留塔に供給したこと以外は、実施例1と同様な操作を行った。
【0062】
その結果、3ヶ月の連続運転後も共沸蒸留塔の塔内差圧の上昇は観測されず、重合閉塞が防止されていることが確認された。
【0063】
比較例1
実施例1において、共沸蒸留塔に供給するアクリル酸水溶液の溶存酸素量の調整を実施せず、原液をそのまま共沸蒸留塔に供給したこと以外は実施例1と同様な操作を実施した。
【0064】
その結果、3ヶ月の連続運転で2.8kPaの塔内差圧の上昇が観測された。
【0065】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法によれば、共沸蒸留塔における(メタ)アクリル酸の重合物の生成、更には重合閉塞を効果的に防止して、(メタ)アクリル酸を長期に亘り安定に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明で採用し得るアクリル酸水溶液の溶存酸素濃度調整手段の一例を示す系統図である。
【図2】 アクリル酸の製造工程図である。
【図3】 アクリル酸の製造工程図である。
【符号の説明】
3 気液混合ミキサー
4 気液分離槽
5 ミストセパレータ
7 圧力制御弁
9 液面制御弁
10 溶存酸素濃度計
Claims (5)
- 気相接触酸化により得られた(メタ)アクリル酸を含む反応ガスを吸収溶剤と接触させて(メタ)アクリル酸溶液とし、該(メタ)アクリル酸溶液を共沸蒸留塔に導入して(メタ)アクリル酸を精製する工程を有する(メタ)アクリル酸の製造方法において、
該(メタ)アクリル酸溶液と酸素又は酸素含有ガスとを混合することにより、該(メタ)アクリル酸溶液の溶存酸素濃度を12〜40重量ppmに調整した後、該共沸蒸留塔に供給し、
該共沸蒸留塔の塔底からも酸素又は酸素含有ガスを、該共沸蒸留塔の塔頂ガスの酸素濃度が0.01〜0.2モル%となる供給量にて供給することを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。 - 請求項1において、該共沸蒸留塔に導入する(メタ)アクリル酸溶液と酸素又は酸素含有ガスとを混合した後、気液分離し、その後該共沸蒸留塔に導入することを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
- 請求項1又は2において、該(メタ)アクリル酸溶液と酸素又は酸素含有ガスとの混合を、該(メタ)アクリル酸溶液を該共沸蒸留塔に導入する配管内、或いは該配管内に設置されたスタティックミキサー又はオリフィスで行うことを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
- 請求項2又は3において、該気液分離手段が圧力制御装置を備える気液分離槽であることを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
- 請求項1において、該(メタ)アクリル酸溶液の溶存酸素濃度の調整を、該共沸蒸留塔の上流側設備で行うことを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
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