JP3991873B2 - (メタ)アクリル酸の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は(メタ)アクリル酸の製造方法に係り、特に、気相接触酸化により得られた粗(メタ)アクリル酸を連続蒸留精製することにより高純度の(メタ)アクリル酸を安定に製造する方法に関するものである。
【0002】
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸との総称であり、そのいずれか一方でも良く双方でも良い。
【0003】
【従来の技術】
アクリル酸は、高吸水性樹脂の原料として、また、各種アクリル酸エステルの原料として工業的に重要であり、最近では、プロピレンの接触気相酸化反応によって製造されている。
【0004】
プロピレンを酸化してアクリル酸を得る方法には、アクロレインまでの酸化と次の段階のアクリル酸までの酸化の条件が異なるため、それぞれを別の反応器で行う二段酸化プロセスと、一段酸化で直接アクリル酸まで酸化するプロセスとがある。このような接触気相酸化反応により得られたアクリル酸含有ガスは捕集塔(凝縮塔)にて水と接触させてアクリル酸水溶液とし、これに適当な抽出溶剤を加えて抽出塔にて抽出し、溶剤分離塔にて該抽出溶剤を分離する。次いで、酢酸分離塔にて酢酸を分離し、更に精留塔にて副生物を分離することによりアクリル酸精製物が得られる。
【0005】
近年では、上記のアクリル酸水溶液からのアクリル酸の回収を、抽出溶剤を用いて行う溶剤抽出法の代りに、後述の図1のように水と共沸溶剤を用いて蒸留し、共沸分離塔の塔頂から水と共沸溶剤との共沸混合物を留出させ、塔底からアクリル酸を回収する共沸分離法も行われている。
【0006】
アクリル酸は非常に重合性が高く、蒸留精製の過程でしばしば重合反応により固形物が生成し、装置類の閉塞などのトラブルを引き起こし、安定な連続操業に支障をきたすこととなる。このため、蒸留過程で各種の重合防止剤(ハイドロキノン、フェノチアジン、カルバミン酸銅塩、N−オキシル化合物、空気など)を添加し、また、高温部、滞留部を極力減じて、この好ましくない重合反応を抑制するための運転上、装置上の工夫がなされている(アクリル酸とそのポリマー[I]:昭晃堂発行、特開平7−252477号公報、特開平7−228548号公報、特開平10−175912号公報、特開平8−239341号公報)。
【0007】
しかし、これらの対策だけではこのアクリル酸の精製工程での重合の抑制は不十分であり、安定して連続運転を達成するために、より一層確実にアクリル酸の重合を防止し得る技術の出現が望まれている。
【0008】
なお、従来においてアクリル酸の重合を防止するために、上述の如く、種々の検討がなされているが、本発明において濃度制御の対象としている(メタ)アクリル酸の2分子付加物、即ちβ−アクリロキシプロピオン酸又はβ−メタクリロキシイソ酪酸が、(メタ)アクリル酸の蒸留精製工程での重合トラブルに関与するという報告はなされていない。
【0009】
【特許文献1】
特開平7−252477号公報
【特許文献2】
特開平7−228548号公報
【特許文献3】
特開平10−175912号公報
【特許文献4】
特開平8−239341号公報
【非特許文献1】
アクリル酸とそのポリマー[I]:昭晃堂発行
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、(メタ)アクリル酸の蒸留精製工程における(メタ)アクリル酸の好ましくない重合反応を抑制し、装置類の閉塞などによるトラブルを回避し、長期に亘り安定して連続運転を行うことができる(メタ)アクリル酸の製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
請求項1の(メタ)アクリル酸の製造方法は、気相接触酸化により得られた粗(メタ)アクリル酸を、水と(メタ)アクリル酸との分離を主目的とする蒸留塔に供給して水を分離する工程を有する(メタ)アクリル酸の製造方法において、該蒸留塔のフィードストリーム中の(メタ)アクリル酸の2分子付加物の含有質量濃度を、該フィードストリーム中の(メタ)アクリル酸の含有質量濃度の50分の1以下に制御する(メタ)アクリル酸の製造方法であって、該フィードストリームがオフスペックタンクの液を含み、該オフスペックタンク中の(メタ)アクリル酸の2分子付加物の含有質量濃度が5重量%以下であることを特徴とする。
【0012】
請求項2の(メタ)アクリル酸の製造方法は、請求項1の(メタ)アクリル酸の製造方法により得られた粗(メタ)アクリル酸を、(メタ)アクリル酸と酢酸との分離を主目的とする蒸留塔に供給して酢酸を分離する工程を有する(メタ)アクリル酸の製造方法において、該蒸留塔のフィードストリーム中の(メタ)アクリル酸の2分子付加物の含有質量濃度を、該フィードストリーム中の(メタ)アクリル酸の含有質量濃度の40分の1以下に制御することを特徴とする。
【0013】
即ち、本発明者らは、上記課題を解決するべく、各種の検討を行った結果、(メタ)アクリル酸の製造時に副生する(メタ)アクリル酸の2分子付加物が、蒸留精製工程における(メタ)アクリル酸の重合トラブルに大きく関与していること、蒸留塔に供給されるフィードストリーム中の(メタ)アクリル酸の2分子付加物を特定濃度以下とすることにより、重合トラブルを発生させることなく、安定的に連続運転することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
例えば、アクリル酸の蒸留精製工程に存在する不純物としては、低沸点不純物として、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、蟻酸、酢酸、共沸蒸留溶剤、水などがあり、高沸点不純物として、プロピオン酸、クロトン酸、ベンズアルデヒド、フルフラール、安息香酸、フェノール、β−ヒドロキシプロピオン酸、β−アクリロキシプロピオン酸、重合防止剤などがある。これら多数の不純物の中で、本発明において濃度を制御すべき対象の不純物は、アクリル酸の2分子付加物、即ちβ−アクリロキシプロピオン酸である。このβ−アクリロキシプロピオン酸は、下記反応式でアクリル酸のアクリル基に別のアクリル酸がミカエル型の付加反応を行って生成する(以下、このアクリル酸の2分子付加物を「アクリル酸ダイマー」と称すことがある。)
2CH2=CHCOOH→CH2=CHCOOCH2CH2COOH
【0015】
アクリル酸の重合トラブルにこのアクリル酸ダイマーが大きく関わることの理由の詳細は明かではないが、本発明者らの研究により蒸留塔のフィードストリーム中に含まれるβ−アクリロキシプロピオン酸の濃度が増加すると、アクリル酸が重合し易くなること、及び不溶性の重合物質が増加する事実が見出された。
【0016】
なお、メタクリル酸の製造時に副生するメタクリル酸の2分子付加物とは、下記の二量化反応で生成するβ−メタクリロキシイソ酪酸である。
2CH3=C(CH3)COOH
→CH2=C(CH3)COOCH2C(CH3)HCOOH
【0017】
本発明では、後述の如く、オフスペックタンクに貯蔵した液をフィードストリームとして蒸留塔に供給する。オフスペックタンク中の(メタ)アクリル酸の2分子付加物の含有質量濃度は5重量%以下である。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照して本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法の実施の形態について詳細に説明する。図1はアクリル酸の製造工程の一例を示す系統図である。
【0019】
なお、以下においては、本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法を、アクリル酸の製造方法に従って説明するが、本発明はイソブチレン及び/又はt−ブチルアルコールの接触気相酸化反応によるメタクリル酸の製造方法にも、アクリル酸の製造の場合と全く同様に適用することができる。本発明をメタクリル酸の製造に適用する場合、アクリル酸の製造に適用する場合のβ−アクリロキシプロピオン酸に代えて、蒸留塔に供給されるフィードストリーム中のβ−メタクリロキシイソ酪酸の含有量を制御する。
【0020】
本発明の対象となるアクリル酸の製造方法は、プロパン、プロピレン及び/又はアクロレインを出発原料として、接触気相酸化反応を行ってアクリル酸を製造する酸化工程、酸化工程からのアクリル酸含有ガスを、図1に示す如く、捕集塔で水と接触させてアクリル酸をアクリル酸水溶液として捕集する捕集工程、このアクリル酸水溶液から適当な共沸溶剤(共沸剤)を用いて脱水塔でアクリル酸と水を蒸留分離する工程、引き続き酢酸分離塔で低沸点不純物の酢酸をアクリル酸と蒸留分離する工程、更に精留塔で高沸点不純物を蒸留分離する工程を含む製造方法を基本とする。
【0021】
即ち、図1において、プロパン、プロピレン及び/又はアクロレインを分子状酸素含有ガスを用いて接触気相酸化して得たアクリル酸含有ガスは、アクリル酸捕集塔に導入され、水と接触してアクリル酸水溶液となる。なお、上記アクリル酸含有ガスには、N2,CO2,酢酸、水なども含有されている。酢酸及び水の一部と、N2,CO2は捕集塔の塔頂からベントガスとして抜き出される。
【0022】
この捕集塔からのアクリル酸水溶液は、共沸剤と共に脱水塔に供給され、その塔頂から水及び共沸剤からなる共沸混合物が留出され、塔底からは酢酸を含むアクリル酸が得られる。脱水塔の塔頂から留出した水及び共沸剤からなる共沸混合物は貯槽に導入され、ここで主として共沸剤からなる有機相と主として水からなる水相とに分離される。有機相は重合防止剤が添加された後、脱水塔に循環される。一方、水相はアクリル酸捕集塔に循環され、アクリル酸含有ガスと接触させる捕集水として用いられる。なお、必要に応じて水返送ラインに対し水が補給される。また、水返送ライン中の水から共沸剤を回収するため、水を共沸剤回収塔(図示せず)に通してから、アクリル酸捕集塔に循環させてもよい。
【0023】
脱水塔の塔底から抜き出された粗アクリル酸は、残存する酢酸を除去するために酢酸分離塔に導入され、その塔頂から酢酸が分離除去される。塔頂からの酢酸はアクリル酸を含むので、一部がプロセスへ戻される場合がある。
【0024】
酢酸分離塔の塔底からは実質的に酢酸を含まないアクリル酸が得られる。このアクリル酸は精留塔に導入され高沸点物が分離除去され、高純度の製品アクリル酸となる。精留塔塔底液(高沸物)は分解反応器に導かれる。
【0025】
更に、メチルイソブチルケトン、酢酸イソプロピル、メチルエチルケトン、トルエンなどの抽出溶剤を用いてアクリル酸をアクリル酸水溶液から抽出し、この抽出されたアクリル酸中の抽出溶剤と残存する水を蒸留分離する工程を経るアクリル酸の製造方法、また、アクリル酸の製造過程で副生するミカエル付加物を分解する工程や、蒸留分離された酢酸を更に蒸留精製する工程、或いは、蒸留分離された水留分をさらに蒸留して溶剤などを回収する工程、高純度アクリル酸を製造するための付加的な精製工程を有するアクリル酸の製造方法などにも本発明が適用される。
【0026】
本発明方法において、β−アクリロキシプロピオン酸濃度の制御は、上記アクリル酸の精製に供されるすべての蒸留塔のフィードストリームが対象とされる。例えば、水とアクリル酸との分離、酢酸とアクリル酸との分離等を主目的とする蒸留塔のフィードストリームが挙げられる。なお、複数のフィードストリームがある際は、その合計の組成が本発明の規定の対象となる。
【0027】
これらのフィードストリーム中に含有されるβ−アクリロキシプロピオン酸の濃度制御は、これらフィードストリーム中のアクリル酸の濃度との質量濃度の相対値を対象とする。具体的なβ−アクリロキシプロピオン酸のアクリル酸に対する質量濃度比(以下、単に「相対濃度」と称す場合がある。)の管理値は、水とアクリル酸との分離を主目的とする蒸留塔にあっては、50分の1以下、より好ましくは60分の1以下である。酢酸とアクリル酸との分離を主目的とする蒸留塔にあっては、40分の1以下、より好ましくは50分の1以下である。
【0028】
蒸留塔のフィードストリーム中のβ−アクリロキシプロピオン酸及びアクリル酸の含有質量濃度を測定する方法は、特に限定されないが、ガスクロマトグラフィーを用いる方法が簡便で好ましい(大森英三著:アクリル酸とそのポリマー[I]:昭晃堂発行)。
【0029】
蒸留塔のフィードストリームにおけるβ−アクリロキシプロピオン酸の相対濃度を制御して、これを本発明の管理値内に維持してアクリル酸を製造するための具体的な方法は特に限定されないが、以下にいくつかの例を挙げる。まず、β−アクリロキシプロピオン酸の生成自体を抑制することが挙げられる。例えば、プロセス内でアクリル酸が存在する箇所での温度を極力低下させ、かつ、滞留時間を極力減少させるような設計を行う。具体的には、蒸留塔の設計操作圧力を低くすることで操作温度を低く保つ方法、タンク類の設計貯蔵温度を低くする方法、また、蒸留塔のホールドアップ量や底部容量、タンク容量等を極力小容量に設計することで滞留時間を低下させる方法などが挙げられる。また、実際の運転面でも、操作温度や液の蒸留塔底部やタンク等での滞留時間を最小化するための液面管理を行うなどの方法がある。
【0030】
β−アクリロキシプロピオン酸の相対濃度が予め設定された管理値を満足しない場合は、ただちに運転条件を変更して管理値を満足させるようにする。β−アクリロキシプロピオン酸の相対濃度を減少させるための運転条件の変更としては、運転ロードの増加、クエンチ塔、蒸留塔などの操作圧力の低下、タンクやベッセル類の制御液面の低下などが挙げられる。また、経時的な傾向を把握することで、常に管理値を満足させるよう運転条件の指針を設定するなどの制御方法も含まれる。
【0031】
また、本発明は、トラブル時、スタートアップ時などの非定常運転の場合も含み、これら非定常時には、プロセス流体を一旦、オフスペックタンクに貯蔵する必要が生じるが、タンク内での貯蔵温度、貯蔵期間を制御する方法も含まれる。即ち、オフスペックタンクとは、次の運転時に有価物を回収したり、プラントで利用したりするために、プラント運転停止時に生じる有価物を含むプラント内部に存在していたプロセス液を貯蔵するために用いられるものであり、本発明は、タンクに貯蔵された液をフィードストリームとして供給する。
【0032】
ただし、この場合、例えば80%アクリル酸水溶液を40℃で貯蔵した場合、1日経過するだけで0.25%のβ−アクリロキシプロピオン酸が生成する(大森英三著:アクリル酸とそのポリマー[1]、昭晃堂発行)。20日後にはアクリル酸に対し25分の1のβ−アクリロキシプロピオン酸が生成することになり、増加分だけで管理値を大幅に超えることになる。このように非定常時、定修時などのタンク内の貯蔵液は容易に管理値を上回る場合があるため、再スタートアップ時にこれらのβ−アクリロキシプロピオン酸を多く含むタンクの貯蔵液を処理する際は、特に管理値を満足させるための運転管理を強化しなければならない。具体的には、通常のストリーム中及び貯蔵液中のアクリル酸とβ−アクリロキシプロピオン酸濃度をガスクロマトグラフィーで測定し、制御すべき蒸留塔のフィードストリームにおけるβ−アクリロキシプロピオン酸の相対濃度が管理値以下となるように、貯蔵液の処理量を計算で求め、この結果に基づいて制御することで達成される。
【0033】
なお、オフスペックタンクに貯留した液を供給する場合、理由は定かではないが、オフスペックタンク貯留液中のβ-アクリロキシプロピオン酸濃度は5重量%以下とする。
【0034】
以上述べたガスクロマトグラフィーでの分析及びその結果を各流量、温度、圧力などへの操作条件にフィードバック制御する方法としては、オフライン分析、オンライン自動分析、手動制御、オンライン自動制御などを適宜組み合わせて行うことができる。
【0035】
なお、本発明の方法は、従来公知のアクリル酸の重合防止技術と組み合わせて実施するとより効果的にアクリル酸の精製工程での好ましくない重合反応を抑制でき、好ましい。この場合、採用し得る従来公知の方法はいかなる方法にも限定されないが、重合防止剤として、ハイドロキノンなどのフェノール系の重合防止剤、フェノチアジン、フェニレンジアミン類、N−オキシル化合物類などのアミン系の重合防止剤、ジアルキルジチオカルバミン酸銅塩、アクリル酸銅塩などの金属塩系の重合防止剤などと共にインヒビターエアーを蒸留塔に添加する方法などに代表される。また、高温部分、長滞留時間部分、滞留部(デッドスペース)、突起物などのアクリル酸の好ましくない重合反応を引き起こす因子を極力減じると、本発明の効果がより一層高められるので好ましい。
【0036】
本発明によれば、(メタ)アクリル酸を製造するための蒸留精製工程における(メタ)アクリル酸の2分子付加物の相対濃度を制御することにより、蒸留精製工程での(メタ)アクリル酸の好ましくない重合反応を抑制し、装置類の閉塞などによるトラブルを回避し、安定した連続運転を達成することができる。この連続運転が可能な期間は通常1ヶ月間以上であり、好ましくは半年間以上、さらに好ましくは1年間以上である。
【0037】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
実施例1
底部にリボイラー、塔頂部に凝縮器を有し、この凝縮器の出口は真空装置に接続され、内部にリップルトレイを30段設置した、直径1000mmの蒸留塔(脱水塔)を用いて、本発明に従って、アクリル酸の蒸留精製を行った。
【0039】
蒸留用の原料として用いたアクリル酸水溶液の平均組成は、質量濃度でアクリル酸55%、酢酸1.5%、β−アクリロキシプロピオン酸0.1%、残りは殆どが水であり、このアクリル酸水溶液を平均毎時1000kgで16段トレイに供給した。水との共沸溶剤としてはトルエンを用い、30段に毎時3100kgで還流して、脱水塔の運転を行った。脱水塔の塔頂圧は15.3kPaに制御し、塔頂部からは重合防止剤としてフェノチアジン及びハイドロキノンを缶出液中の濃度が各々500、800ppmとなるように供給し、塔底部からは空気を毎時500L供給した。この6時間後、蒸留塔が安定運転状態になった後、質量濃度でアクリル酸75%、β−アクリロキシプロピオン酸5%、残部としてトルエン、酢酸及び水等を含むオフスペックタンク貯蔵液を平均毎時200kgで供給した。このような流量条件に設定したことで、脱水塔へのフィードストリーム中のβ−アクリロキシプロピオン酸のアクリル酸に対する制御濃度は64分の1に設定した状態となる。
【0040】
脱水塔に供給されるフィードストリーム中のアクリル酸及びβ−アクリロキシプロピオン酸の濃度をガスクロマトグラフィーで1日に1回測定し、この設定値を維持するよう必要の都度、タンクから脱水塔へのタンク貯蔵液の供給量を制御した。
【0041】
このような制御方法のもと、塔頂温度44℃で、1ヶ月間の連続蒸留運転を行ったが、塔内での差圧(塔頂と塔底の圧力差)の上昇は観測されなかった。なお、この間、貯蔵タンクを15℃に制御したことで、タンク貯蔵液中のβ−アクリロキシプロピオン酸の経時増加はわずかで、質量濃度は5.2%に増加したのみであった。また、この間、脱水塔へのフィードストリーム中のβ−アクリロキシプロピオン酸のアクリル酸に対する質量濃度は、ガスクロマトグラフィーでの分析の結果、実際には62〜65分の1に制御されていた。
【0042】
比較例1
実施例1において、蒸留原料としてのアクリル酸水溶液の脱水塔への供給量を平均毎時900kg、オフスペックタンク貯蔵液の供給量を毎時300kgとしたこと以外は実施例1と同一の装置と圧力条件で、1ヶ月間脱水塔の連続蒸留運転を実施した。また、貯蔵タンクは実施例1と同様15℃で制御した。
【0043】
その結果、塔内の差圧は運転初期からの1ヶ月間で、0.7kPaの上昇が観測された。この間の脱水塔へのフィードストリーム中のβ−アクリロキシプロピオン酸のアクリル酸に対する質量濃度は、ガスクロマトグラフィーでの分析の結果、実際には42〜48分の1の状態となっていた。
【0044】
実施例2
底部にリボイラー、塔頂部に凝縮器を有し、この凝縮器の出口は真空装置に接続された棚段蒸留塔(30段)を酢酸分離塔として実施例1の脱水塔と直結し、実施例1の脱水塔の塔底液を原料として、アクリル酸から酢酸を分離する酢酸分離塔の運転を実施例1の脱水蒸留に連続して行った。原料液(脱水塔の塔底液)の平均組成は、質量濃度でアクリル酸93.9%、酢酸2.7%、β−アクリロキシプロピオン酸2.0%で、平均毎時741kgで酢酸分離塔の15段トレイに供給した。酢酸分離塔の塔頂圧は8.0kPaに制御し、塔頂部からは重合防止剤としてフェノチアジン及びハイドロキノンを缶出液中の濃度が各々700、1000ppmとなるように供給し、塔底部からは空気を毎時300L供給した。このような条件に設定したことで、酢酸分離塔へのフィードストリーム中のβ−アクリロキシプロピオン酸のアクリル酸に対する制御濃度は46分の1に設定された状態となる。
【0045】
フィードストリーム中のアクリル酸及びβ−アクリロキシプロピオン酸の濃度をガスクロマトグラフィーで1日1回分析し、設定値を外れる場合は、上流の脱水塔液面の制御値を変更する方法で制御しつつ、塔頂温度55℃、還流比2.0で、1ヶ月間の連続蒸留運転を行ったが、酢酸分離塔の塔内での差圧の上昇は観測されなかった。この間、酢酸分離塔へのフィードストリーム中のβ−アクリロキシプロピオン酸のアクリル酸に対する質量濃度は、ガスクロマトグラフィーでの分析の結果、実際には44〜47分の1で制御された。
【0046】
比較例2
実施例2と同一の装置を、比較例1の脱水塔に直結し、比較例1の脱水塔の塔底液を原料としたこと以外は実施例2と同一の圧力、還流比条件で、1ヶ月の間、酢酸分離塔の連続蒸留運転を比較例1の脱水塔に連続して行った。原料液(脱水塔の塔底液)の平均組成は、質量濃度でアクリル酸93.3%、酢酸2.7%、β−アクリロキシプロピオン酸2.6%で、平均毎時767kgで酢酸分離塔に供給した。酢酸分離塔の塔内の差圧は運転初期から1ヶ月間で、0.5kPaの上昇が観測された。この間の酢酸分離塔へのフィードストリーム中のβ−アクリロキシプロピオン酸のアクリル酸に対する濃度は、ガスクロマトグラフィーでの分析の結果、実際には33〜39分の1であった。
【0047】
比較例3
蒸留原料液組成、タンク貯蔵液組成以外は実施例1と全く同一の装置と条件で脱水塔の連続運転を1ヶ月実施した。
【0048】
蒸留原料液として用いたアクリル酸水溶液の平均組成は、質量濃度でアクリル酸55.2%、酢酸1.5%、β−アクリロキシプロピオン酸0.1%、残りは殆どが水で、タンク貯蔵液の初期組成は、質量濃度でアクリル酸76%、β−アクリロキシプロピオン酸5%を含むものであった。このような流量条件に設定したことで、脱水塔へのフィードストリーム中のβ−アクリロキシプロピオン酸のアクリル酸に対する制御濃度は64分の1となる。なお、貯蔵タンクの温度は何ら制御せず成り行きにまかせたところ、25〜35℃となった。
【0049】
脱水塔の塔頂温度44℃で、1ヶ月間の連続蒸留運転を行ったところ、塔内での差圧の上昇は初期の2週間は観測されなかったが、その後、上昇を始め、徐々に上昇速度を増し、1ヶ月後には1.0kPaの差圧上昇となった。なお、貯蔵タンクの温度制御は行わなかったため、1ヶ月後のタンク貯蔵液の組成をガスクロマトグラフィーで測定した結果、β−アクリロキシプロピオン酸の濃度が9.2%に増加していた。このため、脱水塔へのフィードストリーム中のβ−アクリロキシプロピオン酸のアクリル酸に対する濃度は36分の1まで上昇したことになる。
【0050】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法によれば、(メタ)アクリル酸の蒸留精製工程における(メタ)アクリル酸の好ましくない重合反応を抑制し、装置類の閉塞などによるトラブルを回避し、長期に亘り安定して連続運転を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 アクリル酸の製造工程の一例を示す系統図である。
Claims (2)
- 気相接触酸化により得られた粗(メタ)アクリル酸を、水と(メタ)アクリル酸との分離を主目的とする蒸留塔に供給して水を分離する工程を有する(メタ)アクリル酸の製造方法において、
該蒸留塔のフィードストリーム中の(メタ)アクリル酸の2分子付加物の含有質量濃度を、該フィードストリーム中の(メタ)アクリル酸の含有質量濃度の50分の1以下に制御する(メタ)アクリル酸の製造方法であって、
該フィードストリームがオフスペックタンクの液を含み、
該オフスペックタンク中の(メタ)アクリル酸の2分子付加物の含有質量濃度が5重量%以下であることを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。 - 請求項1の(メタ)アクリル酸の製造方法により得られた粗(メタ)アクリル酸を、(メタ)アクリル酸と酢酸との分離を主目的とする蒸留塔に供給して酢酸を分離する工程を有する(メタ)アクリル酸の製造方法において、該蒸留塔のフィードストリーム中の(メタ)アクリル酸の2分子付加物の含有質量濃度を、該フィードストリーム中の(メタ)アクリル酸の含有質量濃度の40分の1以下に制御することを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
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