JP3999894B2 - 腸内酪酸菌生育促進剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒトの腸内の酪酸菌に高選択的に利用されてその生育、増殖を促進する腸内酪酸菌生育促進剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
腸内菌であるクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)に属する酪酸菌は、食中毒病原菌に対して高い生育阻害活性を有すること(Japan. J. Pharmacol., 50, 495-498(1989)等)や急性及び慢性の消化器疾患に対しても有効であることが臨床試験により明らかにされている(新薬と臨床25, 1505-1509(1976)等)。さらに日和見菌であるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の増加によって発症する下痢症に対して酪酸菌が有効であることが報告されている(小児科臨床41, 2409-2414(1988)等)。このように腸内酪酸菌は、消化器疾患に対して有用な働きをする有用菌種であるが、その他酪酸生成による腸内pHの低下、腸管上皮細胞の活性化及び修復、大腸における水分吸収の促進、有害菌の増殖抑制や腸内腐敗物質の生成抑制といった効果が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしこうした有用菌種である酪酸菌の増殖に必要な因子、すなわち酪酸菌に高選択的に資化され、酪酸を効率よく生成させる物質はほとんど知られていなかった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ツラノース、パラチノースまたはその類縁体が、腸内の有害菌に利用されず、腸内の酪酸菌に高選択的に資化されて酪酸菌の生育を促進し、酪酸生成量を増加させ得ることを見出した。
【0005】
すなわち本発明は、ツラノースを有効成分とする腸内酪酸菌生育促進剤を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
一般にグルコースはビフィズス菌(Bifidobacteriaceae)や酪酸菌等の腸内有用菌のみならず、クロストリジウム パーフリンゲンス(Cl. perfringens)等の腸内有害菌やバクテロイデス ブルガタス(Bacteroides vulgatus)等の日和見菌にも資化される。またジフルクトース無水物、キシラン等の糖類は、有害菌、日和見菌に資化されないが、酪酸菌等の有用菌にも資化されない。本発明に用いるツラノース、パラチノースまたはパラチノース類縁体は、腸内有害菌や日和見菌等にほとんど資化されず、酪酸菌のみが資化して酪酸生成を促進するものであり、かかる性質を有する糖類はほとんど知られていなかった。
【0007】
ツラノース、パラチノースは、無水物、水和物のいずれでもよいが、パラチノースは1水和物が好ましい。パラチノース類縁体としては、例えばパラチノースの水素添加体(還元体)であるパラチニット、及びその最小構造単位である1−O−α−D−グルコピラノシル−D−マンニトール等のマンニトール誘導体、6−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルシトール等のグルシトール誘導体等が挙げられる。これらは市販品を用い得る。本発明においてはこれらを1種以上用い得る。ツラノース、パラチノース及びパラチノース類縁体は、液状、粉末状いずれの形態でも用い得る。
【0008】
本発明の腸内酪酸菌生育促進剤は、ツラノース、パラチノース及びパラチノース類縁体をそのまま用いてもよいが、これらの必須糖類以外に、トウモロコシ澱粉食物繊維等の食物繊維、セロビオース等のオリゴ糖、ビタミン類、ミネラル類等を配合すると、腸内酪酸菌の生育がさらに促進されるため好ましい。
【0009】
本発明の腸内酪酸菌生育促進剤は、任意の腸内酪酸菌の生育を促進し得るが、特にクロストリジウム ブチリカムに対する生育促進が特に著しい。
【0010】
本発明の腸内酪酸菌生育促進剤は、医薬品または飲食物とすることが好ましい。医薬品とする場合には、上記必須糖類の他に、必要に応じて上記食物繊維等、香料、着色料、矯味剤、安定化剤、保存剤、滑沢剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤等を適宜配合し、常法に従って例えば糖衣剤等の形態に製造できる。また飲食物とする場合には、上記必須糖類の他に、必要に応じて上記食物繊維等、香料、着色料、矯味剤等を適宜配合し、例えば菓子、清涼飲料等の形態に製造できる。
【0011】
本発明の腸内酪酸菌生育促進剤中の、ツラノース、パラチノースまたはパラチノース類縁体の配合量は、0.1〜20重量%(以下、単に%で示す。)、特に0.1〜10%が好ましい。医薬品として用いる場合は、1〜20%、特に1〜10%が好ましい。また飲食物として用いる場合は、0.1〜10%、特に0.1〜5%が好ましい。ツラノース、パラチノースまたはパラチノース類縁体の1日の合計摂取量は、年齢、体重、症状等に応じて異なるが、0.1〜10g、特に0.5〜7gが好ましい。これらを1日に1回または数回に分けて摂取することが好ましい。
【0012】
本発明の腸内酪酸菌生育促進剤は、食中毒、消化器疾患、日和見菌由来の下痢症及び便秘症等に有効である。
【0013】
【実施例】
【0014】
参考例1
ロペラミドを5日間投与して人工的に便秘を誘発させたラット(n=5)の盲腸内容物中の低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸及び酪酸)を定量した。なお対照としてロペラミド未投与群を用いた。酢酸は、投与群が0.404%(盲腸内容物100gに対する生成%)、未投与群は0.378%であり、プロピオン酸は、投与群が0.224%、未投与群が0.184%であり、酪酸は、投与群が0.197%、未投与群が0.286%であり、酢酸及びプロビオン酸はロペラミド投与の有無による差はあまりなかったが、酪酸量は便秘により有意に減少した(p=0.08)。これから、腸内酪酸量は便秘により低下し、酪酸の生成量を高めることが便秘改善に有効であることが示唆された。
【0015】
試験例1 有用菌、有害菌及び日和見菌の各種糖類の資化性試験
有用菌としてビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)JCM−1217株、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bif. bifidum)JCM−1255株、ラクトバチルス アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus )L−54及びクロストリジウム ブチリカム JCM−1391株、有害菌としてクロストリジウム パーフリンゲンス JCM−1290株、並びに日和見菌としてバクテロイデス ブルガタス JCM−5826を用いた。表1及び2に示す各単糖類、少糖類、多糖類及び糖アルコールを単独で0.5%含有するPYF(Pepton Yeast extract Fildes solution)培地に、菌数が107 c.f.uとなるように、各菌を単独で接種した。これらを37℃で3日間、嫌気的に培養し、該培養液の濁度(OD600nm)及びpHを測定した。結果を表1に示す。
【0016】
【表1】
Figure 0003999894
【0017】
【表2】
Figure 0003999894
【0018】
ツラノース、パラチノース及びパラチノース類縁体であるパラチニット、1−O−α−D−グルコピラノシル−D−マンニトール、6−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルシトールは、有害菌及び日和見菌には全く資化されず、クロストリジウム ブチリカム JCM−1391株に高選択的に資化された。特にツラノース、パラチノースは、ポジティブコントロールであるグルコースよりも高い資化性を示した。
【0019】
試験例2 生成低級脂肪酸の定量
ツラノース、パラチノースまたはパラチノース類縁体を単独で0.5%含むPYF培地にクロストリジウム ブチリカム JCM−1391株を菌数が107 c. f. uとなるように接種し、37℃で3日間嫌気的に培養した。該培養液をフィルターで濾過後、高速液体クロマトグラフィーにより低級脂肪酸(乳酸、酢酸及び酪酸)を定量した。濁度、pH、各低級脂肪酸生成量、その合計生成量、及び該合計生成量に対する酪酸生成量を表3に示す。なお対照としてグルコースを用いた。
【0020】
【表3】
Figure 0003999894
【0021】
ツラノース、パラチノース、6−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルシトールを用いると、クロストリジウム ブチリカム JCM−1391により資化され、グルコースの場合と同等またはそれ以上の酪酸が生成した。またツラノース、パラチノースを用いると、低級脂肪酸の合計生成量が多く、ツラノース、6−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルシトールを用いると、低級脂肪酸合計生成量に対する酪酸生成量が多かった。
【0022】
試験例3 糞便培養試験法による各糖類の低級脂肪酸の定量
ヒトの新鮮便を40gとり、4倍重量のリン酸緩衝液(pH6.0)に均一に懸濁後、37℃で24時間嫌気的に前培養し、予め糞便中の栄養源を消費させた。次いで表4に示すオリゴ糖または食物繊維をそれぞれ糞便懸濁液と等量(終濃度0.5%)添加し、37℃で24時間嫌気的に本培養した。培養液を濾過後、高速液体クロマトグラフィーにより、生成した低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸及び酪酸)を定量した。尚、数値は糖液のかわりに水を用いたものをブランク値とし、各々ブランク値をさしひいた値を示した。結果を表4に示す。
【0023】
【表4】
Figure 0003999894
【0024】
ツラノース、パラチノース1水和物には、高い酪酸生成効果が認められた。これから、ツラノース、パラチノースを用いれば、腸内細菌叢により効果的に酪酸が生成されることが、間接的に立証された。
【0025】
実施例1及び2
表5及び表6に示す配合で飲料及び錠剤を常法に従い製造した。これらはいずれも腸内酪酸菌の生育を促進するものであった。
【0026】
【表5】
Figure 0003999894
【0027】
【表6】
Figure 0003999894
【0028】
【発明の効果】
本発明の腸内酪酸菌生育促進剤を用いれば、腸内の有害菌に利用されず、腸内の酪酸菌に高選択的に資化されて酪酸菌の生育を促進し、酪酸生成量を増加させることができる。

Claims (2)

  1. ツラノースを有効成分とする腸内酪酸菌生育促進剤。
  2. 酪酸菌がクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)属菌である請求項1記載の腸内酪酸菌生育促進剤。
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