JP3993325B2 - 厚膜型サーマルプリントヘッド、およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本願発明は、厚膜型サーマルプリントヘッドおよびその製造方法に係り、特に、発熱抵抗体の上面部にオーバーコートガラス層を介在させて高硬度保護ガラス層を形成するようにした厚膜型サーマルプリントヘッドおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、厚膜型サーマルプリントヘッドの製造過程おいては、基板上に共通電極や個別電極等の導体パターンを形成した後、共通電極および個別電極の上面部にわたって発熱抵抗体が厚膜形成される。この後においては、上記導体パターンの所定箇所などを除外して、上記基板の上面部にオーバーコートガラス層が形成される。
【0003】
詳述すれば、図5に示すように、セラミック等でなる基板51の上面部に対して、まず蓄熱グレーズ層52が形成された後に、共通電極や個別電極などの導体パターン53が、レジネート金を用いた印刷・焼成ないしフォトリソ法によるエッチングにより形成される。そして、その処理終了後の基板51の上面部に対して、抵抗体ペーストを印刷・焼成することにより、所定厚みの発熱抵抗体54が形成される。さらにこの後、その処理終了後の基板51の上面部に対して、ガラスペーストを印刷・焼成することにより、上記発熱抵抗体54および導体パターン53の上面部を覆うようにしてオーバーコートガラス層55が形成される。
【0004】
ところで、たとえばラベルプリンターは、その設置環境が悪くしかも使用される紙の質も悪いため、この種のプリンターに装備される厚膜型サーマルプリントヘッドについては、上記のようにオーバーコートガラス層55を形成するのみでは、特に発熱抵抗体54の上面部分における耐摩耗性や耐スクラッチ性などの耐久性に問題が生じる。そこで、同図に示すように、上記発熱抵抗体54を覆っているオーバーコートガラス層55の上面部には、さらに高硬度保護ガラス層56が形成される。この高硬度保護ガラス層56の形成は、高硬度特性を持たせる等のため、スパッタリングによる膜形成手法が採用される。
【0005】
この場合において、上記発熱抵抗体54の形成に際して使用される抵抗体ペーストは、酸化ルテニウムとガラスフリットとを溶剤に混入したものであって、この抵抗体ペースト中のガラスフリットの平均粒径は約5μmである。
【0006】
また、上記オーバーコートガラス層55は、その材質として例えば樹脂成分が約26.5%およびガラス成分が約73.5%とされた非晶質の鉛ガラスが使用される。そして、このガラス層55の形成に際して使用されるガラスペーストは、ガラスフリットを溶剤に混入したものであって、このガラスペースト中のガラスフリットの最大粒径は約10μmである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のようにオーバーコートガラス層55の上面部を高硬度保護ガラス層56でさらに覆うようにした構造であっても、特に発熱抵抗体54の上面部については、以下に示すような不具合が生じることになる。
【0008】
すなわち、上記抵抗体ペーストに含有されているガラスフリットの平均粒径は、上述のように約5μmと比較的大きいために、この抵抗体ペーストを印刷・焼成することにより所定処理終了後の基板51上に形成される発熱抵抗体54の表面あらさは、中心線平均あらさRaで表せば約0.6μmと比較的大きな値となる。また、上記ガラスペーストに含有されているガラスフリットの最大粒径についても、上述のように約10μmと比較的大きいために、このガラスペーストを印刷・焼成することにより所定処理終了後の基板51上に形成されるオーバーコートガラス層55の表面あらさは、中心線平均あらさRaで表せば約0.2μmと比較的大きな値となる。
【0009】
なお、上記のように発熱抵抗体54の表面における中心線平均あらさRaの値が大きければ、換言すれば下地層の表面状態が悪ければ、その上面部に形成されるオーバーコートガラス層55の表面状態も悪くなり、その中心線平均あらさRaの値も必然的に大きくなる。
【0010】
このように、オーバーコートガラス層55の表面における中心線平均あらさRaの値が大きければ、その上面部に形成される高硬度保護ガラス層56に対して悪影響を与える。詳述すれば、この高硬度保護ガラス層56はスパッタリングにより形成されるものであるため、その内部に残留応力が存在して内部応力が高い状態となっている。その場合に、下地層であるオーバーコートガラス層55の表面における凹凸の度合いが大きければ、たとえば衝撃力が付与されること等に伴って応力集中が生じ、これに起因してスクラッチが発生するなどして高硬度保護ガラス層56が剥離するという不具合を招くことになる。
【0011】
本願発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、基板上に形成される発熱抵抗体および/またはオーバーコートガラス層の表面状態を改善することにより、高硬度保護ガラス層が剥離するという不具合を回避し、信頼性に優れた厚膜型サーマルプリントヘッドを提供することをその課題としている。
【0012】
【発明の開示】
上記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0013】
すなわち、本願発明の第1の側面によって提供される厚膜型サーマルプリントヘッドは、基板上に形成された共通電極および個別電極上に発熱抵抗体を厚膜形成するとともに、少なくとも上記発熱抵抗体の上面部に、ガラスペーストを印刷・焼成することによって形成されるオーバーコートガラス層を介在させて高硬度保護ガラス層をスパッタリングによって形成してなる厚膜型サーマルプリントヘッドであって、上記発熱抵抗体の表面あらさは、中心線平均あらさRaが0.3μm以下とされているとともに、上記オーバーコートガラス層の表面あらさは、中心線平均あらさRaが0.1μm以下とされていることを特徴としている。
【0014】
このような構成によれば、発熱抵抗体の表面における中心線平均あらさRaが0.3μm以下とされて、その表面が従来に比して大幅に滑らかになることに伴って、その上面部に形成されているオーバーコートガラス層の表面についても、凹凸の度合いが大幅に低減された状態となる。これにより、上記オーバーコートガラス層の表面の凹凸が原因となって高硬度保護ガラス層に応力集中が生じるといった事態が回避され、スクラッチが生じる事などに起因する高硬度保護ガラス層の剥離の発生が可及的に低減されることになる。
【0015】
本願発明の好ましい実施の形態においては、上記発熱抵抗体の厚膜形成に際して使用される抵抗体ペーストは、その構成物質であるガラスフリットの平均粒径が2μm以下とされているとともに、上記オーバーコートガラス層の形成に際して使用されるガラスペーストは、その構成物質であるガラスフリットの平均粒径が1.5μm以下または最大粒径が6μm以下とされている。
【0016】
このような構成によれば、低抗体ペーストに含有されているガラスフリットの平均粒径が2μm以下とされて、従来の平均粒径の半分以下となることから、この低抗体ペーストを用いて印刷および焼成を行うことにより極めて滑らかな表面特性を有する発熱抵抗体が形成される。また、オーバーコートガラス層の表面における中心線平均あらさRaが0.1μm以下とされて、その表面の凹凸の度合いが従来に比して大幅に低減された状態となる。
【0021】
本願発明の第2の側面によって提供される厚膜型サーマルプリントヘッドの製造方法は、基板上に形成された共通電極および個別電極上に発熱抵抗体を厚膜形成するとともに、少なくとも上記発熱抵抗体の上面部に、オーバーコートガラス層を介在させて高硬度保護ガラス層を形成してなる厚膜型サーマルプリントヘッドの製造方法であって、上記発熱抵抗体は、平均粒径が2μm以下のガラスフリットを含有する抵抗体ペーストを印刷・焼成することにより、中心線平均あらさRaが0.3μm以下の表面あらさとなるように形成し、上記オーバーコートガラス層は、平均粒径が1.5μm以下または最大粒径が6μm以下のガラスフリットを含有するガラスペーストを印刷・焼成することにより、中心線平均あらさRaが0.1μm以下の表面あらさとなるように形成し、かつ、上記高硬度保護ガラス層は、スパッタリングによって形成することを特徴としている。
【0022】
このような製造方法によれば、形成された発熱抵抗体の表面は、従来に比して極めて滑らかな状態となる。したがって、この後の工程において、この発熱抵抗体の上面部に形成されたオーバーコートガラス層の表面も必然的に従来に比して滑らかな状態となる。この結果、さらにこの後の工程において、上記オーバーコートガラス層の上面部に形成されたオーバーコートガラス層の表面が滑らかであることに起因して、高硬度保護ガラス層の剥離の発生率が大幅に低減されることになる。
【0025】
本願発明のその他の特徴および利点は、以下に行う発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本願発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0027】
図1は、本願発明に係る厚膜型サーマルプリントヘッド1の要部概略構成を示す平面図である。同図に示すように、セラミック基板2の上面部には、導体パターンの構成要素として、共通電極3と個別電極4とが形成されている。上記共通電極3は櫛歯状の単位電極部3aを有しており、これらの各単位電極部3aの相互間に存在している間隙にその一端部が位置されるようにして各個別電極4が配列されている。また、これらの各個別電極4の他端部はボンディング用パッド4aとされており、これらの各ボンディング用パッド4aはそれぞれ、図外の駆動ICの出力パッドに対して導通状態とされている。
【0028】
そして、上記共通電極3の単位電極部3aおよび個別電極4の上面部には、これらに共通的に導通されるようにして、一直線状に延びる発熱抵抗体5が厚膜形成されている。この発熱抵抗体5においては、隣接する単位電極部3aの各相互間に各発熱ドットが区画形成されるようになっており、上記駆動ICがこれらの発熱ドットを所定個数ずつ担当して駆動するように構成されている。
【0029】
この基板2上の構造について、さらに詳述すれば、図2に示すように、上記基板2の上面部には畜熱グレーズ層6が形成されているとともに、その上面部には上述の共通電極3や個別電極4が形成され、さらにその上面部には上述の発熱抵抗体5が形成されている。そして、これらの発熱抵抗体5および各電極3,4の上面部には、これらを覆うようにしてオーバーコートガラス層7が形成され、さらにその上面部には高硬度保護ガラス層8が形成されている。
【0030】
次に、上記構成からなる厚膜型サーマルプリントヘッド1の製造方法について説明する。
【0031】
まず、材料となる基板2の上面部に対して、畜熱グレーズ層6を形成した後に、共通電極3および個別電極4を、レジネート金を用いた印刷・焼成ないしフォトリソ法によるエッチングにより形成する。この後、共通電極3と個別電極4との両者の上面部にわたって、発熱抵抗体5を、低抗体ペーストを用いた印刷・焼成により形成する。
【0032】
この場合において、上記低抗体ペーストは、酸化ルテニウムとガラスフリットとを溶剤に混入したものであって、この抵抗体ペースト中のガラスフリットの平均粒径は2μm以下と極めて細粒化されている。したがって、この低抗体ペーストを用いて形成された発熱抵抗体5の表面は、凹凸の度合いが大幅に低減されて極めて滑らかな面となっている。そして、この発熱抵抗体5の表面あらさは、中心線平均あらさRaが0.3μm以下となっている。なお、この発熱抵抗体5の厚みは、約9μmである。
【0033】
この後においては、上記発熱抵抗体5や各電極3,4の上面部を覆うようにして、オーバーコートガラス層7を、ガラスペーストを用いた印刷・焼成により形成する。このガラスペーストは、ガラスフリットを溶剤に混入したものであって、このガラスペースト中のガラスフリットの平均粒径は1.5μm以下または最大粒径は6μm以下と極めて細粒化されている。したがって、このガラスペーストを用いて形成されたオーバーコートガラス層7の表面も、凹凸の度合いが大幅に低減されて極めて滑らかな面となっている。そして、このオーバーコートガラス層7の表面あらさは、中心線平均あらさRaが0.1μm以下となっている。なお、このオーバーコートガラス層7の厚みは、約6μmである。
【0034】
さらに、この後においては、上記オーバーコートガラス層7の上面部を覆うようにして、高硬度保護ガラス層8を、スパッタリングにより形成する。なお、この高硬度保護ガラス層8の厚みは、約4μmである。そして、この高硬度保護ガラス層8は、スパッタリングにより得られたものである関係上、所要の高硬度特性を有してものの、その内部には残留応力が存在した状態となっている。しかしながら、その下地層である上記オーバーコートガラス層7の表面が極めて滑らかな状態となっているため、たとえばこの高硬度保護ガラス層8に衝撃力が付与された場合であっても、応力集中の発生率が著しく低減される。この結果、高硬度保護ガラス層8にスクラッチが生じるといった不具合や、高硬度保護ガラス層8が剥離するといった不具合が回避されることになる。
【0035】
なお、図3は、上記低抗体ペースト中におけるガラスフリットの平均粒径と、その低抗体ペーストにより形成される発熱抵抗体5の表面における中心線平均あらさRaとの関係を、本願発明者が行った実験の結果に基づいて示すグラフである。このグラフによれば、上記平均粒径の増加に略比例して上記中心線平均あらさRaが増加している。そして、このグラフにおけるA点は、従来における両者の関係、すなわち上記平均粒径が約5μmの場合には上記中心線平均あらさRaが約0.6μmであることを示している。また、このグラフにおけるB点は、上記平均粒径が2μmの場合には上記中心線平均あらさRaが0.2μmであることを示しており、本実施形態では、その平均粒径を2μm以下としていることから、上記中心線平均あらさRaも0.2μm以下となる。
【0036】
これと関連して、図4は、発熱抵抗体5の表面における中心線平均あらさRaと、スパッタリングによる処理を終えた後の検査工程における高硬度保護ガラス層8の剥離の発生率との関係を、本願発明者が行った実験の結果に基づいて示すグラフである。このグラフによれば、上記中心線平均あらさRaの増加に略比例して上記剥離の発生率が増加している。そして、従来においては、このグラフにC点として示すように、その中心線平均あらさRaが約0.6μmであったために、その剥離の発生率が約10%であった。これに対して、このグラフにおけるD点は、その中心線平均あらさRaが0.2μmである場合には上記剥離の発生率が1%程度であることを示しており、本実施形態では、その中心線平均あらさRaが0.2μm以下とされていることから、上記剥離の発生率も1%程度以下となる。
【0037】
本願発明に係る厚膜型サーマルプリントヘッドおよびその製造方法の具体的な構成は、上述の実施形態に限定されず、種々に設計変更自在である。
【0038】
たとえば、上記実施形態では、発熱抵抗体5の形成に使用される低抗体ペーストと、オーバーコートガラス層7の形成に使用されるガラスペーストとの両者のガラスフリットが細粒化された場合について説明したものであるが、上記低抗体ペーストと上記ガラスペーストとのうちのいずれか一方のみのガラスフリットが細粒化された場合であっても、充分な効果を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明に係る厚膜型サーマルプリントヘッドの実施形態を示す要部概略平面図である。
【図2】図1のII−II線に従って切断した要部拡大縦断側面図である。
【図3】本願発明に係る厚膜型サーマルプリントヘッドの実施形態に係る実験結果を示すグラフである。
【図4】本願発明に係る厚膜型サーマルプリントヘッドの実施形態に係る実験結果を示すグラフである。
【図5】従来例を示す要部拡大縦断側面図である。
【符号の説明】
1 厚膜型サーマルプリントヘッド
2 基板
3 共通電極
4 個別電極
5 発熱抵抗体
7 オーバーコートガラス層
8 高硬度保護ガラス層
Claims (3)
- 基板上に形成された共通電極および個別電極上に発熱抵抗体を厚膜形成するとともに、少なくとも上記発熱抵抗体の上面部に、ガラスペーストを印刷・焼成することによって形成されるオーバーコートガラス層を介在させて高硬度保護ガラス層をスパッタリングによって形成してなる厚膜型サーマルプリントヘッドであって、
上記発熱抵抗体の表面あらさは、中心線平均あらさRaが0.3μm以下とされているとともに、上記オーバーコートガラス層の表面あらさは、中心線平均あらさRaが0.1μm以下とされていることを特徴とする、厚膜型サーマルプリントヘッド。 - 上記発熱抵抗体の厚膜形成に際して使用される抵抗体ペーストは、その構成物質であるガラスフリットの平均粒径が2μm以下とされているとともに、上記オーバーコートガラス層の形成に際して使用されるガラスペーストは、その構成物質であるガラスフリットの平均粒径が1.5μm以下または最大粒径が6μm以下とされている、請求項1に記載の厚膜型サーマルプリントヘッド。
- 基板上に形成された共通電極および個別電極上に発熱抵抗体を厚膜形成するとともに、少なくとも上記発熱抵抗体の上面部に、オーバーコートガラス層を介在させて高硬度保護ガラス層を形成してなる厚膜型サーマルプリントヘッドの製造方法であって、
上記発熱抵抗体は、平均粒径が2μm以下のガラスフリットを含有する抵抗体ペーストを印刷・焼成することにより、中心線平均あらさRaが0.3μm以下の表面あらさとなるように形成し、
上記オーバーコートガラス層は、平均粒径が1.5μm以下または最大粒径が6μm以下のガラスフリットを含有するガラスペーストを印刷・焼成することにより、中心線平均あらさRaが0.1μm以下の表面あらさとなるように形成し、かつ、
上記高硬度保護ガラス層は、スパッタリングによって形成することを特徴とする、厚膜型サーマルプリントヘッドの製造方法。
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