JP3989702B2 - 一方向クラッチ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ころを係合子として用いた一方向クラッチに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ころを係合子とする一方向クラッチとして、特開昭47−43645号公報に開示されたものがある。この一方向クラッチは、図5および図6に示すように、外方部材51の内周面と内方部材52の外周面との間に、ころ53が相互に係合し合うように内方部材52を取り囲んで、いわゆる総ころ状態で配され、各ころ53が外方部材51の内周面に設けられた複数の傾斜カム面54に楔効果で一方向にロックされるようにしたものである。この一方向クラッチでは、外方部材51を時計回りに回転するか、または内方部材52を反時計回りに回転するときに、各ころ53が各カム面54にロックされ、トルクが伝達される。
【0003】
図5に示した一方向クラッチは、ころ53が内方部材52の全周を囲む状態で配され、外方部材51または内方部材52が回転するときのころ53との間の摩擦力により、ころ53をカム面54にロックさせるようにしている。この実施例ではいずれか一つのころ53に摩擦力が作用すると、相互のころ53の係合で全てのころ53がカム面54にロックされるとしている。
【0004】
図6に示した一方向クラッチは、総ころ状態で配されたころ53の一つをばねローラ55で置き換えたものであり、その弾性変形に伴う弾性力でばねローラ55と当接するころ53を押圧することにより、相互に係合し合う全てのころ53をカム面54にロックさせる。なお、ばねローラ55の替わりに、ゴム等の弾性ローラや板ばね等の弾性体を使用してもよいとしている。
【0005】
これらの総ころ形式の一方向クラッチは、ころの配置本数を増加させてトルク伝達能力を増大するとともに、ころの保持器を不要としてコンパクトな設計を可能とするものであるが、前者は、前記摩擦力の発生が不安定であるので、傾斜カム面にころを確実にロックさせることができない。また、後者は、総ころ状態に配されたころの間に介在するばねローラ等の弾性体が、弾性変形により過大に縮むことがあるので、いずれかのころ同士の間、または弾性体ところとの間に隙間が生じ、弾性体の押圧力を確実、かつ瞬時に全てのころに伝達することができず、トルク伝達能力の低下や、クラッチ入切の遅れが生じる問題がある。
【0006】
これらの問題点を解消するため、本出願人は、特願2000−34811号に記載した一方向クラッチを発明した。この一方向クラッチは、図7に示すように、係合子としてのころ53をカム面54に係合される方向に付勢する舌片56aを有する鋼板製のばね56を、外方部材51の内周面または内方部材52の外周面に係止することにより、弾性体をころ53の間に介在させず、総ころ状態で配された全てのころ53が常に相互の当接状態を保てるようにし、弾性体としてのばね56の付勢力を確実、かつ瞬時に全てのころ53に伝達できるようにしたものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述したころを付勢する弾性体として舌片を有する鋼板製のばねを用いた一方向クラッチは、ばねが舌片の基部で局所的に弾性変形するので、ばねの変位量に対する荷重の変化が大きく、カム面の寸法にばらつきがあるときに、ころを付勢する力が変化しやすい。
【0008】
このため、ころを付勢する力が弱いときは、ころをカム面に係合させる力が不足することがある。また、逆にころを付勢する力が強いときは、空転トルクが大きくなるのみでなく、ばねの舌片に永久変形や折れ等の損傷が生じる懸念がある。
【0009】
また、鋼板製のばねは寸法が小さいので係止部への組み込みが難しく、クラッチの組み立てに手間がかかる問題もある。
【0010】
そこで、この発明の課題は、トルク伝達能力とクラッチ入切の応答性が優れ、かつ、組み立てが容易で弾性体が損傷し難い一方向クラッチを提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、この発明は、外方部材の内周面または内方部材の外周面のいずれか一方に複数の傾斜カム面を設け、他方を円筒面に形成し、前記各カム面と対向する位置にころを収容し、これらのころを係合子として弾性体により前記カム面に係合される方向へ付勢した一方向クラッチにおいて、前記各ころを周方向両側で直接相互に当接させるか、またはこれらのころよりも小径の補助ころを介して相互に当接させて配し、前記弾性体を前記外方部材と内方部材間の環状空間に沿ってその軸方向端部に配置される少なくとも一つのC形ばねとして、その一端を前記外方部材または内方部材に係止し、その他端に前記環状空間側へ突き出すフック部を設け、このC形ばねを弾性縮径して、前記フック部を前記ころまたは補助ころの円筒面に押圧し、この押圧力を前記相互に当接するころを介して全てのころに伝達して、各ころを前記カム面に係合される方向へ付勢した構成を採用した。
【0012】
すなわち、ころを付勢する弾性体として、大きなリング状部を有し、このリング状部で広範囲に弾性変形するC形ばねを採用することにより、弾性体を変位量に対する荷重の変化が小さく損傷し難いものとするとともに、このC形ばねを弾性縮径して、その一端を外方部材または内方部材に係止し、その他端に設けたフック部でころまたは補助ころの円筒面を押圧することにより、全てのころが常に直接または補助ころを介して相互の当接状態を保つようにして、弾性体の押圧力を確実、かつ瞬時に全てのころに伝達できるようにした。
【0013】
前記C形ばねの一端を係止する手段としては、前記カム面を設けた外方部材の内周面または内方部材の外周面に、その軸方向に延びる溝を少なくとも一つ設け、前記C形ばねの一端に前記溝内に突き出すフック部を設ける方法を採用することができる。
【0014】
前記外方部材の外径に、トルク伝達手段を一体に形成することにより、部品点数を減らすとともに、クラッチの組み込み作業を簡素化することができる。
【0015】
前記トルク伝達手段は、前記外輪の外径に形成された凹凸とすることができる。
【0016】
前記外方部材または内方部材の少なくともいずれか一方を、焼結金属または鋼板の打ち抜き加工もしくはファインブランキングにより形成することにより、製造コストを安価にすることができる。
【0017】
【実施の形態】
以下、図面に基づき、この発明の実施形態を説明する。図1(a)、(b)は、第1の実施形態を示す。この一方向クラッチは、外方部材としての焼結金属製の外輪1の内周面に複数の傾斜カム面2が設けられ、これらのカム面2と内方部材としての回転軸3の外周面との間に複数のころ4が総ころ状態で配されている。なお、各カム面2は、1つの平面で形成されている。
【0018】
前記外輪1と回転軸3の間の環状空間の軸方向端部には、弾性体としてのC形ばね5が環状空間に沿って配置され、このC形ばね5が弾性縮径されて、その一端に設けられたフック部5aが、外輪1の内周面に設けられた溝6に嵌め込まれて係止され、他端に設けられたフック部5bが環状空間に挿入されて、溝6の右方に配置されたころ4aの円筒面を、カム面2に係合される時計回りの方向に押圧している。したがって、C形ばね5の弾性復元力による押圧力は、ころ4aから相互に当接するころ4を介して全てのころ4に伝達され、各ころ4がカム面2で一方向にロックされるようになっている。
【0019】
前記外輪1の外径にはトルク伝達手段としての複数の突条7が一体に形成され、一方向クラッチは、側板8を介して止め環9で回転軸3に抜け止めされている。この実施形態では、回転軸3が時計回りに回転すると、全てのころ4がカム面2でロックされて、回転軸3のトルクが外輪1に伝達され、回転軸3が反時計回りに回転すると、トルクの伝達が解除される。
【0020】
前記C形ばね5は、図2(a)に示すように、断面寸法が0.5mm×0.5mmのばね鋼線材で形成され、開放状態で直径が16mm、両端の開き中心角が60°のものである。なお、図2(b)は、図7に示した鋼板製ばね56であり、その板厚が0.05mm、幅が8mm、舌片56aのころに当接されるアーム長さが1.23mm、その基部曲率半径が0.45mmのものである。
【0021】
図3は、図2に示したC形ばね5と鋼板製ばね56について、それぞれの荷重Pと変位量δの関係を計算で求めた結果を示す。この計算結果からも分かるように、C形ばね5は変位量δに対する荷重Pの変化が比較的緩やかであるので、カム面2の寸法にばらつきが生じても、ころ4aを押圧する力の変化が小さく、したがって、各ころ4を安定した付勢力でカム面2に係合させることができる。
【0022】
図4(a)、(b)は、第2の実施形態を示す。この一方向クラッチは、外方部材としての外輪11と内方部材としての内輪12とが、鋼板をファインブランキングして形成されており、内輪12の外周面に複数の傾斜カム面13が設けられ、これらのカム面13と外輪11の内周円筒面との間に、複数のころ14と一つの小径補助ころ15が総ころ状態で配されている。なお、補助ころ15は外輪11側に押し当てられており、各カム面13は、2つの平面を組み合わせて形成されている。
【0023】
この実施形態では、外輪11と内輪12の環状空間の軸方向端部に配置されたC形ばね16の一端のフック部16aが、内輪12の外周面に設けられた溝17に係止され、他端に設けられたフック部16bが環状空間に挿入されて、溝17の右方に配置された補助ころ15に当接するころ14aの円筒面を、カム面13に係合される時計回りの方向に押圧している。したがって、この実施形態の場合も、C形ばね16の押圧力は、ころ14aから全てのころ14に伝達され、各ころ14がカム面13で一方向にロックされる。
【0024】
前記外輪11の外径にはトルク伝達手段としての複数の突条18が一体に形成され、内輪12内径のコーナを丸められた矩形孔19に回転軸(図示省略)の軸端部が嵌合されるようになっている。また、一方向クラッチの両端には、クラッチ部を覆う側板20が取り付けられている。この実施形態では、外輪11が反時計回りに回転するか、内輪12が時計回りに回転すると、全てのころ14がカム面13でロックされ、外輪11または内輪12がこれらと逆向きに回転すると、ロックが解除される。
【0025】
上述した各実施形態では、C形ばねのリング状部を、外方部材と内方部材間の環状空間に沿って、その係止部からほぼ一周させた位置で、ころを押圧するようにしたが、ころを押圧する位置は、必ずしも係止部から略一周させた位置である必用はなく、例えば、リング状部を半円弧状のものとし、係止部から半周した位置のころを押圧することもできる。ただし、リング状部の円弧長を短くするほどC形ばねの弾性変形部が少なくなり、変位に対する荷重の変化量が大きくなるので、リング状部をあまり小さな部分円弧とすることは好ましくない。
【0026】
また、C形ばねの一端にフック部を設け、このフック部をカム面を設けた外方部材の内周面または内方部材の外周面に形成した溝に係止したが、これらのC形ばねの係止方法は、実施形態のものに限定されることはなく、例えば、外方部材または内方部材の周面または端面に穴を設け、この穴にC形ばねの一端を係止することもできる。
【0027】
さらに、ころを押圧する弾性体としてのC形ばねを複数とし、前記環状空間の周方向の異なる位置に複数の部分円弧状のC形ばねを係止して、それぞれが異なる位置のころを押圧するようにしてもよい。
【0028】
【発明の効果】
以上のように、この発明の一方向クラッチは、ころを付勢する弾性体として、大きなリング状部を有し、このリング状部で広範囲に弾性変形するC形ばねを採用し、このC形ばねを弾性縮径して、その一端を外方部材または内方部材に係止し、その他端に設けたフック部でころまたは補助ころの円筒面を押圧するようにしたので、その組み立てが容易で弾性体の損傷も生じることがなく、かつ、総ころ状態で配された全てのころが、常に直接または補助ころを介して相互の当接状態を保って、弾性体の押圧力を確実、かつ瞬時に伝達されるので、トルク伝達能力とクラッチ入切の応答性が優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】aは第1の実施形態の一方向クラッチを示す正面図、bはaの側面断面図
【図2】aは図1のC形ばねを示す正面図と側面図、bは図7の鋼板製ばねを示す正面図と側面図
【図3】図2のC形ばねと鋼板製ばねの荷重と変位量の関係を示すグラフ
【図4】aは第2の実施形態の一方向クラッチを示す正面図、bはaの側面断面図
【図5】従来の一方向クラッチを示す一部省略断面図
【図6】従来の一方向クラッチを示す一部省略断面図
【図7】従来の一方向クラッチを示す正面図
【符号の説明】
1 外輪
2 カム面
3 回転軸
4、4a ころ
5 C形ばね
5a、5b フック部
6 溝
7 突条
8 側板
9 止め環
11 外輪
12 内輪
13 カム面
14、14a ころ
15 補助ころ
16 C形ばね
16a、16b フック部
17 溝
18 突条
19 矩形孔
20 側板

Claims (5)

  1. 外方部材の内周面または内方部材の外周面のいずれか一方に複数の傾斜カム面を設け、他方を円筒面に形成し、前記各カム面と対向する位置にころを収容し、これらのころを係合子として弾性体により前記カム面に係合される方向へ付勢した一方向クラッチにおいて、前記各ころを周方向両側で直接相互に当接させるか、またはこれらのころよりも小径の補助ころを介して相互に当接させて配し、前記弾性体を前記外方部材と内方部材間の環状空間に沿ってその軸方向端部に配置される少なくとも一つのC形ばねとして、その一端を前記外方部材または内方部材に係止し、その他端に前記環状空間側へ突き出すフック部を設け、このC形ばねを弾性縮径して、前記フック部を前記ころまたは補助ころの円筒面に押圧し、この押圧力を前記相互に当接するころを介して全てのころに伝達して、各ころを前記カム面に係合される方向へ付勢したことを特徴とする一方向クラッチ。
  2. 前記C形ばねの一端を係止する手段が、前記カム面を設けた外方部材の内周面または内方部材の外周面に、その軸方向に延びる溝を少なくとも一つ設け、前記C形ばねの一端に前記溝内に突き出すフック部を設けたものである請求項1に記載の一方向クラッチ。
  3. 前記外方部材の外径に、トルク伝達手段を一体に形成した請求項1または2に記載の一方向クラッチ。
  4. 前記トルク伝達手段が、前記外輪の外径に形成された凹凸である請求項3に記載の一方向クラッチ。
  5. 前記外方部材または内方部材の少なくともいずれか一方を、焼結金属または鋼板の打ち抜き加工もしくはファインブランキングにより形成した請求項1乃至4のいずれかに記載の一方向クラッチ。
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