JP3989618B2 - セレン含有液の処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、6価セレンを含有する液中よりセレンを除去する処理方法、特に常温域での処理によって全セレンを確実に排水基準の規定値以下とする実用的な処理方法に関する。
【0002】
【従来技術とその課題】
着色ガラス製品の製造工場を始めとする各種工場の排煙脱硫装置の吸収塔より出る廃水、火力発電所における石炭がらの消火に供した廃水、金属の電解沈澱物の処理工程やセレン整流器の製造工程より発生する廃水等には、有毒なセレンが比較的高濃度で含まれている。このセレンの排水基準による規定値は0.1mg/L以下であるから、上記廃水についてはセレンを規定値以下まで除去する高度の処理を施す必要があり、またセレンは資源的に稀少であるために回収して再利用することが望ましい。しかるに、この廃水からのセレン除去について、従来より数多くの提案がなされているにも関わらず、未だに除去効率及び処理コストの面より充分に満足できる処理方法は確立されていない。
【0003】
一般的に、各種廃水中に含まれるセレンの多くはSeO3 2- (4価セレン)とSeO4 2- (6価セレン)の形態として共存している。前者の4価セレンについては、廃水中に第二鉄塩を溶解させて加水分解し、析出する水酸化第二鉄に吸着・共沈させる方法によって容易に除去できるが、この方法では6価セレンを殆ど除去できないことが知られている。そこで、近年において提案されているセレン含有廃水の処理方法では、還元剤を加えて6価セレンを還元した上で、鉄の析出物への吸着・共沈を行うのが一般的である。
【0004】
例えば、特開平9−150164号の処理方法では、前段の予備処理において、40〜80℃(好ましくは55〜65℃)に加熱したセレン含有廃水中に、後段の本処理後に固液分離して得られる水酸化第一鉄を含む沈澱物と中和剤を加えて予備還元し、沈降処理して沈澱物を濾過し、濾過残渣を分離除去する一方、濾液を沈降処理の上澄み液とともに本処理に供し、この本処理で液温を上記範囲に維持して硫酸第一鉄と中和剤を加えて還元し、同様の沈降処理及び濾過を行い、その濾過残渣を前段の予備処理に供すると共に、濾液と沈降処理の上澄み液を排出する。また特開平9−299964号の処理方法では、液温を50〜95℃(好ましくは80℃前後)としたセレン含有廃水中に第一鉄塩を加え、次いでpHを7〜13に調整して一定時間保持したのち、上記液温を維持しつつpHを前よりも2以上低く設定して一定時間保持させ、かくして還元されたセレンを固液分離により除去する。更に、特開平9−155363号の処理方法では、セレン含有廃水をフェロセレンの如きセレン合金に接触させて6価セレンを還元し、この還元後の被処理液中に第一鉄塩を加え、次いで中和して空気を吹き込むことにより、セレンを析出する鉄成分と共沈させて固液分離により除去する。
【0005】
しかしながら、これらの処理方法は、最終的にセレンを排水基準の0.1mg/L以下まで除去できるとしているものの、大量に発生する廃水の処理に適用する上で到底現実的な手段とは言い難い。すなわち、前二者の処理方法は、共に被処理液を高温に維持した状態で反応させる必要があり、大量の廃水を昇温させるためには膨大な熱エネルギーの消費を余儀なくされ、加えて還元剤としての鉄塩の使用量も多く、大量の処理残渣を生じることから、処理コストならびに環境保全の両面より採用困難である。また、後一者の処理方法は、高価なセレン合金を用いる必要があり、大量に発生する廃水の処理にはコスト的に到底見合わず、しかも還元に数十時間といった長時間を要するため、やはり非現実的である。
【0006】
なお、これら以外にもセレン含有排水の処理に関して多くの提案がなされているが、処理コスト等で実用性に乏しい、実際には謳われるほどの高いセレン除去効率が得られない、といった難点があるため、いずれも確立した処理方法として定着していない。
【0007】
本発明は、上述の状況に照らし、6価セレンを含有する液中よりセレンを除去する処理方法として、特に常温域での処理により、低コストで且つ短時間に全セレンを排水基準の規定値以下まで確実に除去できる、極めて実用的な手段を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行う過程で、まず従来において満足なセレン除去方法が確立されていない要因について、各処理操作時の水中におけるセレンの挙動が充分に把握されていなかった点にあると捉え、この挙動を正確に知るために以下に述べる種々の試験を行った。
【0009】
これら試験では、全処理工程を通して非加熱(室温24℃,液温の到達最高温度29℃)とし、還元処理工程は空気との接触を遮断するために密栓状態とした。なお、被処理液には、一般的なセレン含有廃水の組成に合わせるために、通常の該廃水中に含まれて且つ6価セレンの還元を妨害する成分でもある硫酸イオン及び無機塩類として、硫酸ナトリウムと塩化ナトリウムを各々15000mg/Lの高濃度で添加している。また、還元剤としての第一鉄塩には0.4Nの塩酸溶液に硫酸第一鉄(FeSO4 ・7H2 O)を溶解させたもの、4価セレンには酸化セレン(SeO2 )を水に溶解して亜セレン酸(H2 SeO3 )としたもの、6価セレンにはセレン酸ソーダ(Na2 SeO4 )を水に溶解したものをそれぞれ使用すると共に、pH調整には苛性ソーダと塩酸を用いた。
【0010】
<試験1>
〔被処理液中の成分濃度〕
硫酸ナトリウム(Na2 SO4 として)・・・15000mg/L
塩化ナトリウム(NaClとして) ・・・15000mg/L
硫酸第一鉄(Fe2+として) ・・・・1500mg/L
4価セレン(Se4+として) ・・・・・・20mg/L
〔試験方法〕
上記組成の被処理液を後記表1記載の各pHに調整しながら非加熱下(室温24℃)で液中に空気を吹き込むことにより、20分間の曝気を行って第一鉄イオンを酸化させたのち、No.5C濾紙にて濾過し、濾液中の全セレン(T−Se)と4価セレン(Se4+)の濃度を測定した。その結果を次の表1に示す。
【0011】
【表1】
Figure 0003989618
【0012】
上記表1から明らかなように、元の被処理液には6価セレンが含まれていないにも関わらず、20分間の曝気によってpH10以下の領域で6価セレンが生成している。従って、この6価セレンは、4価セレンが酸化して生成したもの、言わば先祖帰り現象によって生成したものに他ならない。これは、廃水中の6価セレンを第一鉄塩の添加によって4価セレンに還元しても、この還元生成した4価セレンあるいは元の廃水中に存在する4価セレンが次の曝気による酸化の過程で6価セレンに戻り得ることを意味しており、セレンを排水基準の0.1mg/L以下まで除去する上で致命的な問題となる。なお、表1より、6価セレンの生成はpHが低いほど増加する一方、4価セレンの析出鉄成分への吸着による除去率はpHが低いほど高くなることが判る。
【0013】
<試験2>
〔被処理液中の成分濃度〕
硫酸ナトリウム(Na2 SO4 として)・・・15000mg/L
塩化ナトリウム(NaClとして) ・・・15000mg/L
塩化第二鉄(Fe3+として) ・・・・1500mg/L
4価セレン(Se4+として) ・・・・・・21mg/L
〔試験方法〕
上記組成の被処理液を試験1と同様にして後記表2記載の各pHに調整しながら20分間の曝気を行ったのち、No.5C濾紙にて濾過し、その濾液中の全セレン(T−Se)と4価セレン(Se4+)の濃度を前記同様に測定した。
その結果を次の表2に示す。
【0014】
【表2】
Figure 0003989618
【0015】
上記表2から明らかなように、被処理液を第二鉄塩の存在下で曝気しても6価セレンは殆ど生成していない。この試験2と前記試験1の結果の違いは理論的には解明困難であるが、曝気処理工程中において4価セレンが酸化して6価セレンを生成する先祖帰り現象は、三価鉄(Fe3+)のみによっては誘発されず、二価鉄(Fe2+)の共存によって引き起こされていることを示唆している。
【0016】
しかして、試験1,2の結果から、第一鉄塩を還元剤として還元−曝気−吸着の工程を経るセレン除去における各処理工程の条件設定に対する重要な指標が得られる。すなわち、最終的に全セレン濃度を廃水基準の規制値以下とする上で、まず還元処理において被処理液中の6価セレン濃度を0.1mg/L以下まで低下させ、次いで曝気処理では前記の先祖帰り現象を回避するためにpH11以上に設定して二価鉄を酸化させ、その後の吸着処理ではpHを低くして4価セレンを効率よく析出鉄成分に吸着させる、ということである。次の試験は、6価セレンを含む被処理液を上記指標に基づく条件設定で処理するものである。
【0017】
<試験3>
〔被処理液中の成分濃度〕
硫酸ナトリウム(Na2 SO4 として)・・・15000mg/L
塩化ナトリウム(NaClとして) ・・・15000mg/L
硫酸第一鉄(Fe2+として) ・・・・1500mg/L
6価セレン(Se6+として) ・・・・・・20mg/L
〔試験方法〕
上記組成の被処理液(原液pH1.5)を非加熱下(室温24℃)でpH8.5〜9.5に調整しつつ、処理Iでは50分間、処理IIでは80分間保持して6価セレンを還元し、次いでpHを11.5に調整しつつ液中に空気を吹き込むことにより、20分間の曝気を行って第一鉄イオンを酸化させたのち、pHを6.5に調整しつつ15分間保持してセレンを析出鉄成分(主として水酸化第二鉄)に吸着させ、次いでNo・5C濾紙にて濾過し、濾液中の全セレン(T−Se)と4価セレン(Se4+)の濃度を測定した。その結果を各処理段階のpH及び保持時間と共に次の表3に示す。
【0018】
【表3】
Figure 0003989618
【0019】
表3の結果から明らかなように、還元工程を80分と長くとっても6価セレンは0.41mg/Lとかなりの割合で残留している。これは常温域での還元処理では長時間をかけても6価セレンを充分に還元できず、最終的な全セレン濃度を排水基準の規制値以下にすることが基本的に困難であることを表している。
【0020】
前記の試験1〜3の結果と従来より知られる技術情報に基づくセレンの水中挙動を総括すると、次のようになる。
▲1▼ 4価セレンは水酸化第二鉄の如き析出鉄成分によく吸着されるが、6価セレンは殆ど吸着されない。
▲2▼ 4価セレンは、2価鉄の共存下で空気と接触すると容易に酸化されて6価セレンとなる傾向があるが、3価鉄のみの存在下ではその傾向を示さない。
▲3▼ 4価セレンの析出鉄成分への吸着率はpHが低いほど高くなる一方、前▲2▼項の酸化による6価セレンの生成はpHが高いほど少なくなる。
▲4▼ 金属セレンは希薄な酸及びアルカリに安定であるが、殆どの処理方法において6価セレンの還元は4価セレン止まりであり、金属セレンまで還元されることは少ない。
▲5▼ 第一鉄塩による6価セレンの還元は、常温域では単に時間を長くするだけでは不完全である。
【0021】
上記の▲1▼,▲2▼及び▲4▼項は、6価セレンを含む廃水からセレンを高度に除去することの困難さを表している。すなわち、通常の第一鉄塩による還元処理では6価セレンは4価セレンまでしか還元されず、4価セレンは次の2価鉄を酸化するための曝気過程で誘発される▲2▼項の先祖帰り現象によって6価セレンに戻り易く、この6価セレンは▲1▼項の性質によって析出した鉄成分に吸着されずに残留することになる。一方、▲3▼項は▲2▼項の先祖帰り現象を回避して4価セレンの吸着除去率を高めるための条件を示唆するが、このような条件を設定しても▲5▼項によって常温域での処理では6価セレンを充分に除去できないことが判る。しかるに、6価セレンの残留防止のために被処理液を加熱したり、6価セレンを金属セレンまで還元し得る特殊な還元剤を使用する手段は、実際の廃水処理では既述のように到底採用できない。
【0022】
そこで、本発明者らは、更に鋭意検討を重ねた結果、還元時間を長くしても未還元の6価セレンが残留するのは反応系の相平衡によって還元反応が進まなくなることに起因すると判断し、還元処理中のpH変化で系の相平衡をシフトさせることにより、系内の4価及び6価セレンの濃度と存在形態を変えて処理効率を高めるという考え方に到達した。すなわち、4価セレンは前記▲4▼項のように高pHほど析出鉄成分による吸着率が低下つまり液中濃度が上昇する傾向を有するが、還元処理のpH範囲(8.5〜9.5程度)は4価セレンが充分に吸着される環境ではないから、反応系は〔Se6+⇔Se4+⇔吸着〕という相平衡を有することになる。この相平衡においては6価セレンの濃度は必然的に4価セレンの濃度によって支配されているが、処理中にpHを低い側に変化させると、4価セレンの析出鉄成分への吸着量が増加し、その分だけ4価セレンが反応系から除外されるから、次にpHを再び元の領域まで上昇させると、上記の相平衡はpH変化を行う前に比較して確実に低い濃度で成立し、もって6価セレンの濃度が低下することになる。
【0023】
しかして、上記知見に基づいて、第一鉄塩を還元剤として還元−曝気−吸着の工程を経るセレン除去を常温域で行う場合に、還元処理中のpHを低い側に振った上で戻すというpH変化を伴う処理方法について綿密な実験研究を重ねた結果、この方法によって全セレンを排水基準の規制値以下まで確実に除去でき、しかも処理コストや処理能率の面でも優位であり、大量に発生する排水の処理手段として高い適性を備えることが判明し、本発明に係る第一のセレン含有液の処理方法が確立された。すなわち、この処理方法によれば、常温域での処理であるにも関わらず還元処理を短い時間で能率よく行えると共に、上記のpHを低い側に振った際の新たに見出された4価セレンの特異な挙動により、第一鉄塩の使用量を少なくしても充分な還元効率を達成でき、もって最終の固液分離による固形分の発生量が少なくなる上、この固形分中にセレンが高濃度に濃縮するため、被処理液中のセレンを高濃度の濃縮状態で効率よく回収できるという利点がある。
【0024】
更に、本発明者らは、上記のpHを低い側に振った際の4価セレンの特異な挙動に着目し、この挙動を利用したより能率のよい処理手段の可否について更なる検討を重ねた結果、前記第一の処理方法と同様のpH変化を伴う還元処理後に処理物の全濾過を行った場合に、被処理液中のセレンが濾過残渣中に集中し、濾液中には殆どセレンが存在しない状態となり、もって前記第一の処理方法における曝気−吸着の処理工程を省略できることを見出し、本発明に係る第二のセレン含有液の処理方法を構築することに成功した。
【0025】
すなわち、上記の4価セレンの特異な挙動とは、想定されていた析出鉄成分による吸着に加えて、4価セレンである亜セレン酸が2価の鉄イオンと容易に結合して難溶性の亜セレン酸鉄を生成することである。この亜セレン酸鉄は、アルカリ側領域と強酸性領域で溶解する性質があるが、pH2.5〜8の範囲では充分に低い溶解度を有している。従って、前記pH変化を伴う充分な還元処理を行ったのち、pHを前記の低い範囲に設定して全濾過を行えば、被処理液中に含有されていたセレンの略全量が析出鉄成分(主として水酸化第二鉄)への吸着分と亜セレン酸鉄として濾過残渣に含有され、且つ余剰の2価鉄は溶解して濾液側に移行するため、前記第一の処理方法に比較して濾過残渣は更に少量となり、セレンをより高濃度の濃縮状態として回収でき、それだけ再利用が容易になる。
【0026】
本発明の請求項1に係る第一のセレン含有液の処理方法は、6価セレンを含有する液中に第一鉄塩水溶液を添加して非加熱下で行う還元処理において、処理中の液のpHが第一段階で8.5〜9.5、第二段階で1.5〜7.5、第三段階で8.5〜9.5となるように、pHを連続的に3段階に調整し、この還元処理後に液のpHを11以上に維持しつつ液中に空気を吹き込んで第一鉄を酸化し、次いで液をpH5.8〜7に中和したのち、沈澱物を固液分離することを特徴とするものである。また本発明の請求項2に係る第二のセレン含有液の処理方法は、6価セレンを含有する液中に第一鉄塩水溶液を添加して非加熱下で行う還元処理において、処理中の液のpHが第一段階で8.5〜9.5、第二段階で1.5〜7.5、第三段階で8.5〜9.5となるように、pHを連続的に3段階に調整し、この還元処理後に液のpHを2〜7.5に低下させて全濾過を行うことを特徴とするものである。
【0027】
しかして、これら第一及び第二の処理方法においては、還元処理における第一段階の保持時間を5分以上、第二段階の保持時間を1分以上、第三段階の保持時間を5分以上にそれぞれ設定する請求項3を好適態様として挙げることができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明の第一及び第二のセレン含有液の処理方法では、非加熱下で6価セレンを含有する液中に第一鉄塩水溶液を添加して還元処理を行うが、この還元処理中の液のpHを調整し、第一段階でpH8.5〜9.5の範囲に設定したのち、第二段階ではpHを1.5〜7.5の範囲まで低下させ、次いで第三段階では元のpH8.5〜9.5の範囲へ戻すことにより、6価セレンの還元を最大限に進行させ、もって最終的な固液分離を経た液中の全セレンを排水基準の規制値である0.1mg/L以下に低減させる。
【0029】
すなわち、還元処理の第一段階のpH範囲では、反応系の〔Se6+⇔Se4+⇔吸着〕という相平衡が成立しており、6価セレンの濃度は4価セレンの濃度によって支配されているが、第二段階でpHを低下させることにより、4価セレンのかなりの割合が析出鉄成分への吸着の増加と亜セレン酸鉄の生成とによって反応系から除外される。従って、次に第三段階としてpHを再び元の領域まで上昇させると、上記の相平衡はpH変化を行う前に比較して確実に低い濃度で成立することになるから、この第三段階においては、第一段階では前記相平衡によって妨げられていた6価セレンの還元が減少した4価セレンの濃度に支配される該低濃度の相平衡に達するまで進行する。従って、還元処理工程の終了時点で残留する未還元の6価セレンは、排水基準の規制値である0.1mg/Lを充分に下回る低い濃度となる。
【0030】
前記の第一段階及び第三段階のpHは、8.5〜9.5の範囲より高低いずれの側に外れても6価セレンの還元効率が低下するために望ましくない。また第二段階のpHは前記のように強酸性域から中性域と広いが、7.5よりもアルカリ側では前記の相平衡の低濃度側へのシフトが生起せず、還元処理工程の終了時点で残留する未還元の6価セレンの量が急激に増加する。なお、pH調整には、例えば苛性ソーダや塩酸のような従来よりpH調整用として汎用される一般的なアルカリ成分及び酸成分を使用できる。
【0031】
ここで、前記還元処理における各段階の好ましい保持時間としては、第一段階が5分以上、第二段階が1分以上、第三段階が5分以上程度であり、いずれの段階でも上記範囲より短過ぎては6価セレンの還元が不充分になり、逆に長過ぎては6価セレンの還元には支障はないけれども処理全体に時間がかかって非能率である。しかして、この還元処理は、常温域で行うにも関わらず、全体を通して僅か数分から数拾分程度で済むため、極めて処理能率がよいと言える。
【0032】
本発明の第一の処理方法では、上記の還元処理後に液のpHを11以上に維持しつつ液中に空気を吹き込んで第一鉄を酸化し、次いで液をpH5.8〜7に中和したのち、沈澱物を固液分離する。すなわち、空気を吹き込んで曝気することにより、第一鉄が酸化加水分解されて主として水酸化第二鉄を析出し、この水酸化第二鉄を主とする析出鉄成分に、還元処理後の液中に溶存していた4価セレンが吸着して固形分側へ移行し、もって被処理液中に含有されていた殆どのセレンが後の固液分離による沈澱物と共に除去される。
【0033】
ここで、上記の曝気処理における液のpHを11以上に設定するのは、4価セレンが2価鉄の存在下での空気との接触によって酸化されて6価セレンに戻るという既述の先祖帰り現象を回避するためである。前記表1に示すように、このpHが11より低くなると先祖帰り現象が誘発されるため、最終的にセレン濃度を排水基準の規制値以下にすることが極めて困難になる。なお、この曝気時間は、2価鉄のほとんどが3価鉄に酸化されるまでとする。
【0034】
上記曝気後に液をpH5.8〜7に中和するのは、水酸化第二鉄を主とする析出鉄成分による4価セレンの吸着を促進するためであり、このpHが高過ぎては吸着が不充分となり、逆に低過ぎても4価セレンの吸着が不完全となり0.1mg/Lの排水規制値を満足しないという問題がある。さらに、pHの排水基準を考慮したとき、下限値はpH5.8とするのが好ましい。
【0035】
最後の固液分離には、シックナー等による沈降処理、適当な濾材による濾過、沈降処理とその沈澱物の濾過の組合せ等を採用でき、その際に固液分離を促進するための適当な凝集剤や沈降剤を添加してもよい。しかして、沈降処理の上澄み液及び濾液は、全セレン濃度が排水基準の規制値である0.1mg/Lよりも充分に低いため、そのまま排出可能である。一方、沈降処理の沈澱物や濾過残渣にはセレンが集中して含有されるが、既述のように還元剤として用いる第一鉄塩の量を少なくできるから、これら沈澱物や濾過残渣の量も少なくでき、もって被処理液中のセレンを高濃度の濃縮状態で回収することが可能となり、それだけセレンの再利用が容易になる。
【0036】
一方、本発明の第二の処理方法では、前記の還元処理後に液のpHを2〜7.5に低下させて全濾過を行う。
【0037】
この第二の処理方法にあっては、還元処理後に液のpHを2〜7.5に低下させた際、還元処理中の第二段階と同様に、液中に溶存していた4価セレンである亜セレン酸が2価の鉄イオンと結合して難溶性の亜セレン酸鉄を生成するため、該4価セレンを析出鉄成分への吸着によらずに固形分側へ移行させることができる。そして、後述する実施例2の結果でも示されるように、前記のpH変化を伴う充分な還元処理を行えば、被処理液中に含有されていたセレンの略全量が主として亜セレン酸鉄として全濾過した濾過残渣に含まれ、濾液には殆どセレンが存在せず、この段階においても排水基準の規制値を充分にクリアーできる。
【0038】
また還元処理後の液中に溶存していた余剰の2価鉄はそのまま濾過した濾液側に移行するため、濾過残渣の量は前記の曝気によって余剰の2価鉄を3価鉄として析出させる第一の処理方法に比較して格段に少量となる。従って、セレンを第一の処理方法よりも更に高濃度の濃縮状態として回収でき、より再利用を行い易くなる。
【0039】
なお、還元処理後に調整する液のpHが前記の2〜7.5の範囲を高低いずれの側に外れても、亜セレン酸鉄の溶出を生じる恐れがあり、この溶出によって4価セレンが濾液側へ移行するため、排水基準の規制値をクリアーすることが困難になる。なお、この還元処理後にpH2〜7.5に調整した状態での保持時間は1分以上とするのがよい。無論、この保持中においても液の加熱は全く不要である。
【0040】
本発明の前記第一及び第二の処理方法共に、処理対象とするセレン含有液は6価セレンを含むものであれは特に制約はないが、6価セレンの還元を妨害する成分である硫酸イオンや無機塩類を高濃度で含む場合でも支障なく、セレンを排水基準の規制値以下まで除去可能である。
【0041】
【実施例】
実施例1
〔被処理液中の成分濃度〕
硫酸ナトリウム(Na2 SO4 として)・・・15000mg/L
塩化ナトリウム(NaClとして) ・・・15000mg/L
硫酸第一鉄(Fe2+として) ・・・・1500mg/L
6価セレン(Se6+として) ・・・・・・20mg/L
上記組成の被処理液(原液pH1.5)について、非加熱下(室温24℃)で攪拌しつつ、苛性ソーダ及び塩酸を用いてpH調整することにより、各々後記表4に記載のpH及び時間条件とした第一〜第三段階を経る還元処理を行ったのち、pHを11.5に調整しつつ液中に空気を吹き込むことにより、20分間の曝気を行って第一鉄イオンを酸化して水酸化第二鉄を主とする3価鉄成分を析出させたのち、pHを6.5に調整しつつ15分間保持してセレンを析出鉄成分に吸着させ、次いでNo.5C濾紙にて濾過し、濾液中の全セレン(T−Se)と4価セレン(Se4+)の濃度を測定した。その結果を各工程の保持時間及びpHと共に次の表4に示す。
【0042】
【表4】
Figure 0003989618
【0043】
表4の結果から明らかなように、第一鉄塩を還元剤として還元−曝気−吸着の工程を経る常温域でのセレン除去処理において、還元処理中に液のpHを低い側へ一旦振った上で元のpHへ戻すという処理手段を採用すれば、最終的な処理後の全セレンを排水基準の規制値である0.1mg/L以下まで充分に除去可能である。しかして、上記のpHを低い側へ振る際(第二段階)のpH値は、処理A〜Fのように1.5〜7.5の広い範囲を採用できるが、処理G(pH8)のようにpH7.5を越える場合には未還元で残る6価セレンが著しく増加するために排水基準の規制値をクリアーできなくなることが判る。なお水酸化第一鉄の溶解度積定数から求められる第一鉄の溶解度はpH8では44mg/L程度、pH7.5では440mg/L程度であることから、少なくとも数百mg/L以上の第一鉄の存在において亜セレン酸第一鉄の十分な形成が行われていることが推測される。
【0044】
実施例2
〔被処理液中の成分濃度〕
硫酸ナトリウム(Na2 SO4 として)・・・15000mg/L
塩化ナトリウム(NaClとして) ・・・15000mg/L
硫酸第一鉄(Fe2+として) ・・・・1500mg/L
6価セレン(Se6+として) ・・・・・・50mg/L
上記組成の被処理液(原液pH1.5)について、非加熱下(室温24℃)で攪拌しつつ、苛性ソーダ及び塩酸を用いてpH調整することにより、第一段階ではpH9.10〜9.27にて10分間、第二段階ではpH3.44〜3.45にて4分間、第三段階ではpH9.08〜9.24の範囲で13分間、それぞれ保持する三段階を経る還元処理を行ったのち、pHを3.39に調整して5分間保持した上で、処理液全量をNo.5Cの濾紙にて濾過した。
【0045】
上記濾過後の濾液について、pHを11.4〜11.5の範囲に調整しつつ空気を吹き込んで15分間の曝気を行い、更にpH6.5に調整して10分間保持したのち、No.5Cの濾紙による濾過を行い、その濾液の全セレン(T−Se)と4価セレン(Se4+)の濃度を測定したところ、全セレンは0.033mg/L、4価セレンは0.018mg/L、6価セレンは0.015mg/Lという結果が得られた。
【0046】
また、上記濾過後の濾液について、全セレン(T−Se)と4価セレン(Se4+)の濃度を測定したところ全セレンは0.09mg/L、4価セレン0.073mg/L、6価セレン0.017mg/Lという結果が得られた。
【0047】
一方、前記の全濾過による濾過残渣について、水洗後に(1+1)塩酸による洗浄と1%苛性ソーダによる洗浄を別個に行い、酸性環境でビタミンCを溶解液に添加した所、いずれも夥しい赤色沈澱を生じた。ビタミンCは4価セレンと酸性環境にて赤色金属セレンを発生させることから、濾過残渣中の強酸性、或いは広範なアルカリ領域で溶解するセレンは4価セレンであり、これらの事象からセレンの還元はその大部分が4価セレン止まりであることが確認される。
【0048】
この実施例2の処理においては、セレンの還元が殆ど4価止まりであることを前提とし、被処理液中に酸素が10mg/L存在していると仮定しても、還元処理後の3価鉄の存在は理論的に135mg/L程度と推定され、この3価鉄に対してセレン濃度は50mg/Lと非常に多いが、その殆どが濾過残渣中に移行している。しかして、この濾過残渣中への移行が水酸化第二鉄による吸着のみでなされるとすれば、一般的に3価鉄が少なくともセレンの10倍は必要と考えられるが、この処理では上記のように2.7倍程度しか存在せず、また濾過残渣の生成量も少ないことを勘案すると、セレンの濾過残渣中への移行のかなりの割合が既述の亜セレン酸鉄の沈澱生成によって遂行されていると想定される。
【0049】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、6価セレンを含む被処理液よりセレンを除去する処理方法として、還元−曝気−吸着を常温域で行って固液分離する処理により、短時間で能率よく全セレンを排水基準の規定値以下まで確実に除去でき、しかも還元剤の使用量も少なくて済み、大量に発生する廃水等も低コストで処理できる上、セレンを高濃度の濃縮状態で回収できる極めて実用的な方法が提供される。
【0050】
請求項2の発明によれば、6価セレンを含む被処理液よりセレンを除去する処理方法として、常温域での還元後に全濾過を行うことにより、上記処理方法よりも更に能率よく全セレンを排水基準の規定値以下まで確実に除去できると共に、処理コスト及び設備コストがより低減され、しかも濾過残渣の発生量が少なく、セレンを再利用容易なより高濃度の濃縮状態で回収できる方法が提供される。
【0051】
請求項3の発明によれば、上記の処理方法において、還元処理を効率よく確実に行えるという利点がある。

Claims (3)

  1. 6価セレンを含有する液中に第一鉄塩水溶液を添加して非加熱下で行う還元処理において、処理中の液のpHが第一段階で8.5〜9.5、第二段階で1.5〜7.5、第三段階で8.5〜9.5となるように、pHを連続的に3段階に調整し、この還元処理後に液のpHを11以上に維持しつつ液中に空気を吹き込んで第一鉄を酸化し、次いで液をpH5.8〜7に中和したのち、沈澱物を固液分離することを特徴とするセレン含有液の処理方法。
  2. 6価セレンを含有する液中に第一鉄塩水溶液を添加して非加熱下で行う還元処理において、処理中の液のpHが第一段階で8.5〜9.5、第二段階で1.5〜7.5、第三段階で8.5〜9.5となるように、pHを連続的に3段階に調整し、この還元処理後に液のpHを2〜7.5に低下させて全濾過を行うことを特徴とするセレン含有液の処理方法。
  3. 還元処理における第一段階の保持時間を5分以上、第二段階の保持時間を1分以上、第三段階の保持時間を5分以上にそれぞれ設定する請求項1又は2のいずれかに記載のセレン含有液の処理方法。
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