JP3995803B2 - セレン含有液の処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、6価セレンを含有する液中よりセレンを除去する処理方法、特に常温域での処理によって全セレンを排水基準の規定値以下とする実用的な処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
着色ガラス製品の製造工場を始めとする各種工場の排煙脱硫装置の吸収塔より出る廃水、火力発電所における石炭がらの消火に供した廃水、金属の電解沈澱物の処理工程やセレン整流器の製造工程より発生する廃水等には、有毒なセレンが比較的高濃度で含まれている。このセレンの排水基準による規定値は0.1mg/L以下であるから、上記廃水についてはセレンを規定値以下まで除去する高度の処理を施す必要があり、またセレンは資源的に稀少であるために回収して再利用することが望ましい。しかるに、この廃水からのセレン除去について、従来より数多くの提案がなされているにも関わらず、未だに除去効率及び処理コストの面より充分に満足できる処理方法は確立されていない。
【0003】
一般的に、各種廃水中に含まれるセレンの多くはSeO3 2- (4価セレン)とSeO4 2- (6価セレン)の形態として共存している。前者の4価セレンについては、廃水中に第二鉄塩を溶解させて加水分解し、析出する水酸化第二鉄に吸着・共沈させる方法によって容易に除去できるが、この方法では6価セレンを殆ど除去できないことが知られている。そこで、近年において提案されているセレン含有廃水の処理方法では、還元剤を加えて6価セレンを還元した上で、鉄の析出物への吸着・共沈を行うのが一般的である。
【0004】
例えば、特開平9−150164号の処理方法では、前段の予備処理において、40〜80℃(好ましくは55〜65℃)に加熱したセレン含有廃水中に、後段の本処理後に固液分離して得られる水酸化第一鉄を含む沈澱物と中和剤を加えて予備還元し、沈降処理して沈澱物を濾過し、濾過残渣を分離除去する一方、濾液を沈降処理の上澄み液とともに本処理に供し、この本処理での液温を上記範囲に維持して硫酸第一鉄と中和剤を加えて還元し、同様の沈降処理及び濾過を行い、その濾過残渣を前段の予備処理に供すると共に、濾液と沈降処理の上澄み液を排出する。また特開平9−299964号の処理方法では、液温を50〜95℃(好ましくは80℃前後)としたセレン含有廃水中に第一鉄塩を加え、次いでpHを7〜13に調整して一定時間保持したのち、上記液温を維持しつつpHを前よりも2以上低く設定して一定時間保持させ、かくして還元されたセレンを固液分離により除去する。更に、特開平9−155363号の処理方法では、セレン含有廃水をフェロセレンの如きセレン合金に接触させて6価セレンを還元し、この還元後の被処理液中に第一鉄塩を加え、次いで中和して空気を吹き込むことにより、セレンを析出する鉄成分と共沈させて固液分離により除去する。
【0005】
しかしながら、これらの処理方法は、最終的にセレンを排水基準の0.1mg/L以下まで除去できるとしているものの、大量に発生する廃水の処理に適用する上で到底現実的な手段とは言い難い。すなわち、前二者の処理方法は、共に被処理液を高温に維持した状態で反応させる必要があり、大量の廃水を昇温させるためには膨大な熱エネルギーの消費を余儀なくされ、加えて還元剤としての鉄塩の使用量も多く、大量の処理残渣を生じることから、処理コストならびに環境保全の両面より採用困難である。また、後一者の処理方法は、高価なセレン合金を用いる必要があり、大量に発生する廃水の処理にはコスト的に到底見合わず、しかも還元に数十時間といった長時間を要するため、やはり非現実的である。
【0006】
なお、これら以外にもセレン含有排水の処理に関して多くの提案がなされているが、処理コスト等で実用性に乏しい、実際には謳われるほどの高いセレン除去効率が得られない、といった難点があるため、いずれも確立した処理方法として定着していない。
【0007】
本発明者らの検討によれば、従来において満足なセレン除去方法が確立されていない要因は、各処理操作中におけるセレンの水中挙動が充分に掌握されていなかった点にあると考えられる。そこで、本発明者らは先に、セレンの水中挙動を詳しく調べた上で、得られた知見に基づき綿密な実験研究を行うことにより、6価セレン含有液から全セレンを排水基準の規定値以下まで確実に除去し得る極めて実用的なセレン除去方法を究明し、これを特願平10−109014号として既に提案している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記提案に係る処理方法は、第一鉄塩を還元剤として6価セレンを4価セレンに還元し、この還元後に曝気及び中和を経て沈澱物を固液分離するか、該還元後に全濾過を行うものであるが、各段階でのpH設定により、処理全体を通して加熱を必要とせず、且つ短時間で処理が完了するという利点を有する。従って、この方法は、処理コスト、処理能率、セレン除去率等のいずれの面からも、セレン含有排水の処理手段として充分な実用性を備えるものであるが、敢えて難点を挙げるとすれば、還元途上で処理液のpHを変化させる等の幾分繁雑な工程を含むことから、既存の処理設備を利用する場合に若干の設備改造が必要になるという点である。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みて、6価セレン含有液の処理方法として、上記提案の処理方法と同様に非加熱下での処理を基本とし、且つ既存の処理設備をできるだけ改造せずに高いセレン除去効率を達成し得る手段を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
非加熱下の処理にてセレン除去を行う場合の最大の問題点は、6価セレンから4価セレンへの還元が効率よく進行しないことである。例えば、本発明者らの処理試験によると、Se6+濃度20mg/Lの被処理液(Na2 SO4 及びNaClを各15000mg/L含有)について、還元剤としてFe2+換算で1500mg/Lの硫酸第一鉄を加えて常温域で還元する場合、還元時間を80分としても最終的に0.4mg/L程度の6価セレンの残留が認められている。そこで、先の提案手段では、還元途上でのpH変更で系の相平衡をシフト(吸着にて4価セレンの液中濃度を低下)させることより、系内の4価及び6価セレンの濃度と存在形態を変えて処理効率を高めるようにしているが、このpH設定のために既存の処理設備を利用する場合はある程度の設備改造を強いられることになる。
【0011】
本発明の課題は既存の処理設備をできるだけ改造せずに利用可能とする点にあるから、先の提案手段のような還元途上でのpH変更を採用できない。そこで、本発明者らは、還元途上でのpH変更を行う代わりに、還元によって生成する4価セレンの吸着を促進させて反応効率を高めるという観点から、下記のように被処理液中に予め第二鉄イオンを加えて還元を行うことを試みた。これは、第一鉄塩を還元剤として被処理液中の6価セレンを還元する場合、この還元反応に伴う酸化ならびに液中の溶存酸素による酸化によって第一鉄が第二鉄に転化し、析出する水酸化第二鉄によって還元生成した4価セレンが吸着されるから、予め第二鉄イオンを加えて吸着を促進することによって前記相平衡のシフトと同様の効果が得られることを期待したものである。
【0012】
この試験では、全処理工程を通して非加熱(室温24℃,液温の到達最高温度29℃)とし、還元処理工程は空気との接触を遮断して行った。なお、被処理液には、一般的なセレン含有廃水の組成に合わせるために、通常の該廃水中に含まれて且つ6価セレンの還元を妨害する成分でもある硫酸イオン及び無機塩類として、硫酸ナトリウムと塩化ナトリウムを高濃度で添加している。また、還元剤としての第一鉄塩には0.4Nの塩酸溶液に硫酸第一鉄(FeSO4 ・7H2 O)を溶解させたもの、6価セレンにはセレン酸ナトリウム(Na2 SeO4 )を水に溶解したものをそれぞれ使用すると共に、pH調整には水酸化ナトリウムと塩酸を用いた。
【0013】
<試験1>
〔被処理液中の成分濃度〕
硫酸ナトリウム(Na2 SO4 として)・・・15000mg/L
塩化ナトリウム(NaClとして) ・・・15000mg/L
6価セレン(Se6+として) ・・・・・・20mg/L
硫酸第一鉄(Fe2+として) ・・・・1500mg/L
塩化第二鉄(Fe3+として) ・・後記表1に記載の濃度
〔試験方法〕
上記組成の被処理液を三角フラスコに入れ、マグネットスターラにて攪拌をしつつ液のpHを9.0に調整し、密栓状態で30分間の還元処理を行ったのち、pHを11.5に調整しながら液中に空気を吹き込むことにより、20分間の曝気を行って第一鉄イオンを酸化させ、次いでpHを6.5に調整して15分間の吸着処理を行ったのち、No.5C濾紙にて濾過し、濾液中の全セレン(T−Se)と4価セレン(Se4+)の濃度を測定し、両濃度の差から6価セレン(Se6+) の濃度を求めた。その結果を次の表1に示す。
【0014】
【表1】
【0015】
上記表1の結果は、前記の期待とは全く逆に、第二鉄イオンの外部添加によって処理効率に著しい悪影響が現れることを示している。そこで、このような現象の原因について検討を重ねた結果、まず第一の原因として還元反応を担うべき第一鉄が析出した水酸化第二鉄の沈澱によって表面汚染され、第一鉄の還元剤としての機能が阻害されることが推測された。すなわち、第一鉄塩を還元剤として被処理液中の6価セレンを還元する場合、一般に処理液のpHは9前後に設定され、このpH領域では第一鉄は殆ど水酸化第一鉄として析出して懸濁状態で存在するから、6価セレンの還元は固液反応として進行することになるが、外部添加した第二鉄は液中で水酸化第二鉄の沈澱として存在するため、この沈澱によって水酸化第一鉄粒子の表面が汚染されると、6価セレンと第一鉄との接触頻度(接触面積)が減少して還元効率の低下を招くことになる。
【0016】
また、第二の原因として、マグネタイトの形成が還元された4価セレンを6価セレンに先祖帰りさせることも推測された。すなわち、試験1において、第二鉄イオンの外部添加、特に高濃度の添加に伴い、還元工程中でのマグネタイト形成が明らかに認められており、このマグネタイトは次の反応式にて示すように4価セレンを6価セレンに酸化する可能性があることが既に知られている。
Fe3 O4 +SeO3 2- +3H2 O→SeO4 2- +3Fe(OH)2
【0017】
しかるに、上記試験によって認められた現象は、セレン除去を非加熱下で効率よく行うための重要な指標を示唆している。すなわち、上記試験では被処理液中の6価セレン濃度を20mg/Lとしているが、第二鉄イオンの外部添加なしに同様条件で行う還元処理工程において、液中酸素濃度を10mg/Lと仮定した場合、生成する第二鉄の濃度は次のように算出される。
a)金属セレンまでの還元反応に伴う生成・・・84.9mg/L
b)4価セレンまでの還元反応に伴う生成・・・28.3mg/L
c)溶存酸素による第一鉄の酸化にて生成・・・69.8mg/L
【0018】
ここで、通常の還元処理条件での6価セレンの還元は殆ど4価止まりである点と、大気遮断の処理条件である点とを考慮すれば、6価セレン濃度20mg/Lの被処理液を対象とした第一鉄塩による還元処理では最低でも100mg/L前後(前記b+c)の第二鉄が生成することになる。しかして、前記表1より、外部添加による第二鉄の量が20mg/Lでも処理効率の顕著な低下を生じていることからすれば、外部添加なしに生じる前記第二鉄の濃度においても処理効率への負の影響を与えていることが容易に想定される。従って、この生成する第二鉄による負の影響、つまり水酸化第一鉄の表面汚染ならびにマグネタイトの形成を排除できれば、還元反応が速やかに進行することになるから、非加熱下での処理においても充分な処理効率を達成できる可能性がある。
【0019】
本発明者らは、上記の知見に基づいて更に検討を重ねた結果、還元処理中に生成する第二鉄による負の影響を回避する上で、第二鉄イオンが水酸化第二鉄として析出するのを防止することが肝要であり、このためには第二鉄イオンを液中で安定した溶解状態に保たせる物質の添加が最も有効であるとの結論に達した。そして、このような物質として、アルカリ領域で第二鉄イオンに対するキレート形成能を有する有機化合物を使用すれば、非加熱下での処理において、前記の還元途上でのpH変更等の繁雑な工程を要することなく、効率のよいセレン除去が可能になることを見出し、本発明をなすに至った。
【0020】
すなわち、本発明の請求項1に係るセレン含有液の処理方法は、6価セレンを含有する液中に第一鉄塩を添加して非加熱下で行う還元処理において、アルカリ領域で第二鉄イオンに対するキレート形成能を有する有機化合物を処理液中に存在させると共に、処理液の初期pHを8.5〜9.5に設定して還元を行い、この還元処理後に液のpHを11以上に維持しつつ液中に空気を吹き込んで第一鉄を酸化し、次いで液を中和したのち、沈澱物を固液分離することを特徴とするものである。
【0021】
そして、上記請求項1のセレン含有液の処理方法において、請求項2の発明では前記有機化合物がpH7以下で第二鉄イオンとキレートを形成しないものである構成とし、また請求項3の発明では前記有機化合物が、グルコン酸、酒石酸、ソルビトール、これらの水溶性塩より選ばれる少なくとも一種からなる構成としている。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明によるセレン含有液の処理方法では、6価セレンを含有する液中に第一鉄塩水溶液を添加して非加熱下で還元処理を行うことにより、6価セレンを4価セレンに還元するが、この処理液中にアルカリ領域で第二鉄イオンに対するキレート形成能を有する有機化合物を存在させると共に、処理液の初期pHを8.5〜9.5に設定する。すなわち、この還元処理においては、還元剤の第一鉄が還元反応に伴って酸化されると共に液中の溶存酸素によって同様に酸化され、また空気遮断しない処理条件では空気中の酸素との接触によっても酸化され、もって第二鉄イオンを生成するが、この第二鉄イオンを前記の有機化合物がキレート化して液中に安定した溶解状態で保持するから、水酸化第二鉄として析出する第二鉄の割合が少なくなり、且つ4価セレンを6価セレンに酸化するマグネタイトの形成も抑制される。
【0023】
従って、前記pH領域の処理液中では還元反応を担う第一鉄が水酸化第一鉄の固形粒子として存在しているが、この固形粒子に対する水酸化第二鉄の沈澱による表面汚染を生じにくくなり、6価セレンと第一鉄との固液反応による還元が滞りなく速やかに進行するから、非加熱下の処理でも高い還元効率が得られ、またマグネタイトによる4価セレンの6価セレンへの酸化も抑制することができ、最終的に充分なセレン除去が可能となる。
【0024】
前記の有機化合物としては、アルカリ領域において第二鉄イオンに対するキレート形成能を発現するものであれば特に制約はなく、一般的には水酸基含有化合物、カルボン酸類、オキシカルボン酸類、ポリアミン系多価カルボン酸類等より、良好なキレート形成能を発現するものを適宜選択して用いればよい。なお、水酸基含有化合物としてはソルビトール、1−ヒドロキシエチりデン−1,1−ジホスホン酸、これらの水溶性塩等、カルボン酸類としてはシュウ酸、その水溶性塩等、オキシカルボン酸類としてはグルコン酸、酒石酸、クエン酸、グルクロン酸、リンゴ酸、グりコール酸、グロン酸−γ−ラクトン、ガラクトン酸−γ−ラクトン、これらの水溶性塩等、ポリアミン系多価カルボン酸類としてはエチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、これらの水溶性塩等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0025】
しかして、これら有機化合物においても、pH7以下で第二鉄イオンとキレートを形成しない性質を有するものがより好適である。すなわち、例えばエチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等を用いた場合、最終的な処理水中の4価セレン濃度が高くなる傾向が認められており、その原因は、これら有機化合物によるキレート化がpH7以下でも発現されるため、曝気処理後に中和した段階でも第二鉄イオンが水酸化第二鉄として沈澱せずに溶解状態のままになり、このキレート化した第二鉄イオンが4価セレンの吸着に悪影響を及ぼしていると考えられる。従って、これらのキレート化がpH7以下でも発現する有機化合物を使用する場合には、キレートを解除する何らかの処置を講じることが望ましい。
【0026】
第二鉄イオンに対するキレート形成能がアルカリ領域で発現してpH7以下では発現しない性質を備える有機化合物の好適な具体例としては、グルコン酸、酒石酸、ソルビトール、これらのナトリウム塩の如き水溶性塩が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。そして、これら有機化合物の中でも、特にグルコン酸は、アルカリ領域で第二鉄イオンに対して強力なキレート化機能を発揮し、且つpH7以下では該キレート化機能を確実に喪失し、もって少量使用で高い処理効率が得られることに加え、天然抽出物に属して環境に優しく、また微生物によって簡単に分解されるために環境中で蓄積性がないという利点があることから、特に推奨される。
【0027】
上述した有機化合物は、還元処理中に生じ得る第二鉄(外部添加を含む)の量とアルカリ領域でのキレート形成能の強弱に対応して添加量を増減すべきであるが、第二鉄の全量のキレート化に要するほど多くの添加を必要としない。例えば、グルコン酸ナトリウムを使用する場合、後述する実施例2にて示すように、外部添加を含む第二鉄の推定濃度約200mg/L(3.58ミリモル濃度)に対してグルコン酸ナトリウム1ミリモル濃度(218mg/L)の添加により、第二鉄の還元効率への妨害を充分に抑止できることが判明している。しかるに、ある報告によれば、グルコン酸(Gとして示す)と第二鉄のキレート生成定数Kとして次式の値;
K= [Fe(G)2-] / [Fe3+][GH4 - ][OH]4=1037.2
が示されているが、この式からすれば第二鉄200mg/Lのキレート化に要するグルコン酸ナトリウムの量はpH8で2.51×104 mg/L、pH9で2513mg/L、pH10で251mg/Lとなるから、前記のグルコン酸ナトリウム218mg/Lという添加量は化学量論的に第二鉄を完全にキレート化する量よりも遙かに少ないことになる。
【0028】
なお、石炭火力発電所から排出されるセレン含有廃水には窒素化合物が含まれるため、一般に微生物を利用した脱窒素を中間処理として採用することが多く、この脱窒素工程では水素供与体として有機化合物を添加しているが、本発明のセレン処理に用いたオキシカルボン酸類等の有機化合物も水素供与体として機能するから、この種の廃水処理に本発明の処理方法を適用しても処理コストの負担は殆ど問題にならない。
【0029】
還元剤として添加する第一鉄塩としては硫酸第一鉄や塩化第一鉄が好適であり、これらは適当な濃度の水溶液形態で被処理液中に添加混合すればよい。しかして、その添加量は、被処理液中の6価セレンの濃度、妨害イオン等の共存成分の種類と量等の被処理液の性状、還元処理を空気遮断下で行うか否か等の処理条件その他に応じて、充分な還元を行えるように適宜設定すればよい。またpH調整には塩酸等の酸成分と水酸化ナトリウム等のアルカリ成分を使用する。
【0030】
本発明の処理方法では、上記の還元処理後に液のpHを11以上に維持しつつ液中に空気を吹き込んで第一鉄を酸化し、次いで液を中和したのち、沈澱物を固液分離する。すなわち、空気を吹き込んで曝気することにより、余剰の第一鉄が酸化加水分解されて水酸化第二鉄を析出すると共に、キレート化されていた第二鉄も中和段階で水酸化第二鉄として析出し、この水酸化第二鉄に還元処理後の液中に溶存していた4価セレンが吸着して固形分側へ移行し、もって被処理液中に含有されていた殆どのセレンが後の固液分離による沈澱物と共に除去される。
【0031】
ここで、上記の曝気処理における液のpHを11以上に設定するのは、4価セレンが2価鉄の存在下での空気との接触によって酸化されて6価セレンに戻るという先祖帰り現象を回避するためである。すなわち、次の試験2,3にて示されるように、曝気処理のpHが11より低くなると先祖帰り現象が誘発されるため、最終的にセレン濃度を排水基準の規制値以下にすることが極めて困難になる。なお、この曝気時間は、2価鉄のほとんどが3価鉄に酸化されるまでとする。
【0032】
<試験2>
〔被処理液中の成分濃度〕
硫酸ナトリウム(Na2 SO4 として)・・・15000mg/L
塩化ナトリウム(NaClとして) ・・・15000mg/L
4価セレン(Se4+として) ・・・・・・20mg/L
硫酸第一鉄(Fe2+として) ・・・・1500mg/L
〔試験方法〕
上記組成の被処理液を後記表2記載の各pHに調整しながら非加熱下で20分間の曝気を行って第一鉄イオンを酸化させたのち、No.5C濾紙にて濾過し、前記試験1と同様にして濾液中の全セレン(T−Se)と4価セレン(Se4+)及び6価セレン(Se6+)の濃度を調べた。その結果を後記表2に示す。なお、4価セレンには酸化セレン(SeO2 )を水に溶解して亜セレン酸(H2 SeO3 )としたものを用いた。
【0033】
<試験3>
〔被処理液中の成分濃度〕
硫酸ナトリウム(Na2 SO4 として)・・・15000mg/L
塩化ナトリウム(NaClとして) ・・・15000mg/L
4価セレン(Se4+として) ・・・・・・21mg/L
塩化第二鉄(Fe3+として) ・・・・1500mg/L
〔試験方法〕
上記組成の被処理液を後記表3記載の各pHに調整しながら非加熱下で20分間の曝気を行い、試験2と同様に濾過し、濾液中の全セレン(T−Se)と4価セレン(Se4+)及び6価セレン(Se6+)の濃度を調べた。その結果を後記表3に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
前記表2より、元の被処理液には6価セレンが含まれていないにも関わらず、20分間の曝気によってpH10以下の領域で6価セレンが生成しており、4価セレンの酸化を生じていることが判る。従って、6価セレンを第一鉄塩の添加によって4価セレンに還元しても次の曝気工程で6価セレンに戻り得ることになるが、この先祖帰り現象は表2より曝気時のpHが11以上では生じていない。一方、表3の結果から、被処理液を第二鉄塩のみの存在下で曝気しても6価セレンは殆ど生成していない。これは、曝気処理による前記の先祖帰り現象は、三価鉄(Fe3+)のみによっては誘発されず、二価鉄(Fe2+)の共存によって引き起こされていることを示唆している。
【0037】
上記曝気後に液を中和する際のpHは、前記の有機化合物にてキレート化されていた第二鉄を水酸化第二鉄として析出させることと、pHの排水基準とから、5.8〜7の範囲にするのがよい。
【0038】
最後の固液分離には、シックナー等による沈降処理、適当な濾材による濾過、沈降処理とその沈澱物の濾過の組合せ等を採用でき、その際に固液分離を促進するための適当な凝集剤や沈降剤を添加してもよい。しかして、沈降処理の上澄み液及び濾液は全セレン濃度を排水基準の規制値以下として排出可能であり、沈澱物や濾過残渣はセレンを高濃度の濃縮状態で含むから、これよりセレンを回収して再利用することが容易である。
【0039】
本発明で処理対象とするセレン含有液は6価セレンを含むものであれは特に制約はないが、6価セレンの還元を妨害する成分である硫酸イオンや無機塩類を高濃度で含む場合でも支障なく、セレンを排水基準の規制値以下まで除去可能である。
【0040】
【実施例】
実施例1
〔被処理液中の成分濃度〕
硫酸ナトリウム(Na2 SO4 として)・・・15000mg/L
塩化ナトリウム(NaClとして) ・・・15000mg/L
6価セレン(Se6+として) ・・・・・・20mg/L
硫酸第一鉄(Fe2+として) ・・・・1500mg/L
グルコン酸ナトリウム ・・・・・・後記表4記載
上記組成の被処理液を三角フラスコに入れ、マグネットスターラにて攪拌しつつ液のpHを9.0に調整し、密栓状態で30分間の還元処理を行ったのち、pHを11.5に調整しながら液中に空気を吹き込むことにより、20分間の曝気を行って第一鉄イオンを酸化させ、次いでpHを6.5に調整して15分間の吸着処理を行ったのち、No.5C濾紙にて濾過し、濾液中の全セレン(T−Se)と4価セレン(Se4+)及び6価セレン(Se6+)の濃度を前記試験1と同様にして求めた。その結果を次の表4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
表4の結果から明らかなように、被処理液中にグルコン酸ナトリウムを100mg/L以上存在させることにより、常温域でのセレン除去処理によって最終的に全セレンを排水基準の規制値である0.1mg/L以下まで充分に除去できることが判る。また、グルコン酸ナトリウムが50mg/Lといった少量であっても、6価セレンは0.1mg/L以下まで除去されていることからして、還元後の処理工程において4価セレンの吸着効率をより高める条件の設定により、全セレンを前記排水基準の規制値以下にすることも可能であることが示唆される。
【0043】
実施例2
〔被処理液中の成分濃度〕
硫酸ナトリウム(Na2 SO4 として)・・・15000mg/L
塩化ナトリウム(NaClとして) ・・・15000mg/L
6価セレン(Se6+として) ・・・・・・20mg/L
硫酸第一鉄(Fe2+として) ・・・・1500mg/L
グルコン酸ナトリウム ・・・・・218mg/L
塩化第二鉄(Fe3+として) ・・・・・・後記表5記載
上記組成の被処理液について、実施例1と同様にして、還元、曝気、中和、固液分離し、濾液中の全セレン(T−Se)と4価セレン(Se4+)及び6価セレン(Se6+)の濃度を求めた。その結果を、グルコン酸ナトリウム及び塩化第二鉄を添加せずに行った場合の処理結果と共に次の表5に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
表5より、グルコン酸ナトリウム1ミリモル濃度(218mg/L)の添加により、外部添加による第二鉄の100mg/Lまでの悪影響が阻止されることが判る。
【0046】
実施例3
〔被処理液中の成分濃度〕
硫酸ナトリウム(Na2 SO4 として)・・・15000mg/L
塩化ナトリウム(NaClとして) ・・・15000mg/L
6価セレン(Se6+として) ・・・・・・20mg/L
硫酸第一鉄(Fe2+として) ・・・・1500mg/L
後記表6記載の有機化合物 ・・・・・1ミリモル濃度
上記組成の被処理液について、実施例1と同様にして、還元、曝気、中和、固液分離し、濾液中の全セレン(T−Se)と4価セレン(Se4+)及び6価セレン(Se6+)の濃度を求めた。その結果を、有機化合物を添加せずに行った場合の処理結果と共に次の表6に示す。
【0047】
【表6】
【0048】
表6の結果から、多くの有機化合物がアルカリ領域での第二鉄イオンのキレート化による6価セレン濃度の低減に有効に作用するが、とりわけグルコン酸ナトリウム、酒石酸、ソルビトール等は、少量の添加で最終的な全セレン除去率を大きく向上できることから、より好適であることが判る。しかるに、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等を使用した場合は、4価セレン濃度の低減が少ないために最終的な全セレン濃度は充分に低下していない。これは、キレート化作用がpH7以下でも発現されるため、キレート化していた第二鉄イオンが曝気処理後に中和した段階でも水酸化第二鉄として沈澱せずに溶解状態のままになり、このキレート化した第二鉄イオンが4価セレンの吸着に悪影響を及ぼしているものと推定される。
【0049】
この表6は有機化合物を1ミリモル濃度と少量添加した場合の結果であるから、表中の全セレン濃度が0.1mg/Lを越えていても、無添加の場合に比較してセレン除去率が向上している有機化合物では、セレン除去率を高めるためには添加量を増やせばよく、決して排水基準の規定値以下までのセレン除去が不可能というわけではない。しかるに、コハク酸、乳酸、サリチル酸、ニトリロ三酢酸、マンニトール等は、無添加の場合に比較してもセレン除去率が悪く、アルカリ領域での第二鉄イオンのキレート形成能を有しない有機化合物である。
【0050】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、6価セレンを含む被処理液よりセレンを除去する処理方法として、還元−曝気−吸着を常温域で行って固液分離する処理により、短時間で能率よく全セレンを排水基準の規定値以下まで除去可能であり、しかも還元時の繁雑なpH変更等も不要であるため、操作的に簡単であると共に既存の処理設備を殆ど改造せずに利用できるという極めて実用的な方法が提供される。
【0051】
請求項2〜3の発明によれば、上記の処理方法において、より高度のセレン除去を行えるという利点がある。
Claims (3)
- 6価セレンを含有する液中に第一鉄塩を添加して非加熱下で行う還元処理において、アルカリ領域で第二鉄イオンに対するキレート形成能を有する有機化合物を処理液中に存在させると共に、処理液の初期pHを8.5〜9.5に設定して還元を行い、この還元処理後に液のpHを11以上に維持しつつ液中に空気を吹き込んで第一鉄を酸化し、次いで液を中和したのち、沈澱物を固液分離することを特徴とするセレン含有液の処理方法。
- 前記有機化合物がpH7以下で第二鉄イオンとキレートを形成しないものである請求項1記載のセレン含有液の処理方法。
- 前記有機化合物が、グルコン酸、酒石酸、ソルビトール、これらの水溶性塩より選ばれる少なくとも一種からなる請求項1又は2のいずれかに記載のセレン含有液の処理方法。
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