JP4145431B2 - セレン含有排水の処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、6価及び4価のセレンを含有する排水中よりセレンを除去する処理方法、特に常温域で大気と接触する環境下でも全セレンを確実に排水基準の規定値以下まで除去し得る実用的な処理方法に関する。
【0002】
【従来技術とその課題】
各種工場の排煙脱硫装置の吸収塔、石炭火力発電所、金属精錬所、セレン整流器や着色ガラスの製造工場等より発生する排水中には、有毒なセレンが比較的高濃度で含まれている。このセレンの排水基準による規定値は0.1mg/L以下であるから、上記排水についてはセレンを該規定値以下まで除去する処理を施す必要があり、またセレンは稀少資源であるために回収して再利用することが望ましい。
【0003】
しかるに、このようなセレン含有排水の処理について従来より数多くの提案がなされているにも関わらず、未だに満足すべき処理方法は確立されていない。その原因は、各種排水中に含まれるセレンが一般的にSeO3 2- (4価セレン)とSeO4 2- (6価セレン)の形態で共存しており、前者の4価セレンが水酸化第二鉄等で簡単に吸着除去できるのに対し、後者の6価セレンについては直接に除去する手段がないため、一般的に還元剤を用いて6価セレンを4価セレンに還元する手法が採用されるが、従来の提案技術ではこの還元を効率よく行えないことによる。
【0004】
従来より提案されているセレン含有排水の処理方法として、例えば次のようなものがある。特開平9−150164号の処理方法では、予備処理において、40〜80℃に加熱した排水中に、本処理後の固液分離にて得られる水酸化第一鉄を含む沈澱物と中和剤を加えて予備還元し、沈降処理して沈澱物を濾過し、濾過残渣を除去する一方、濾液を沈降処理の上澄み液と共に本処理に供し、本処理で液温を上記範囲に維持して硫酸第一鉄と中和剤を加えて還元し、沈降処理及び濾過を行い、濾過残渣を予備処理に供すると共に、濾液と沈降処理の上澄み液を排出する。また特開平9−299964号の処理方法では、液温を50〜95℃とした排水中に第一鉄塩を加え、次いでpHを7〜13に調整して一定時間保持したのち、上記液温を維持しつつpHを前よりも2以上低く設定して一定時間保持させ、かくして還元されたセレンを固液分離により除去する。更に、特開平9−155363号の処理方法では、排水をフェロセレンの如きセレン合金に接触させて6価セレンを還元し、この還元後の被処理液中に第一鉄塩を加え、次いで中和して空気を吹き込むことにより、セレンを析出する鉄成分と共沈させて固液分離により除去する。
【0005】
しかしながら、これらの処理方法は、最終的にセレンを排水基準の0.1mg/L以下まで除去できるとしているものの、実際には安定的に高い除去率が得られない上、大量に発生する排水の処理に適用する上で到底現実的な手段とは言い難い。すなわち、前二者の処理方法は、共に被処理液を高温に維持した状態で反応させる必要があり、大量の排水を昇温させるためには膨大な熱エネルギーの消費を余儀なくされ、加えて還元剤としての鉄塩の使用量も多く、大量の処理残渣を生じることから、処理コストならびに環境保全の両面より採用困難である。また、後一者の処理方法は、高価なセレン合金を用いる必要があり、大量に発生する排水の処理にはコスト的に到底見合わず、しかも還元に数十時間といった長時間を要するため、やはり非現実的である。
【0006】
なお、脱窒微生物を利用して生物学的還元を行うという特異な処理法も検討されているが、実際的な処理法として確立する見込みは薄いようである。また、他にもセレン含有排水の処理に関して多くの提案がなされているが、いずれも処理コストやセレン除去効率の面で難点があるため、実際的な処理法として認知されていない。
【0007】
上述の情況から、本発明者らは先に、綿密な実験研究のもとに、従来の第一鉄塩による還元処理において6価セレンが充分に還元されない要因を調べた。その結果、第一鉄塩は基本的に硫酸イオンが共存する排水においても常温下で6価セレンを四価セレンに還元し得る能力を持つが、実際の処理では、第一鉄塩にて還元された4価セレンが以降の処理過程で酸素と接触し、酸化されて再び6価セレンに戻るという先祖帰り現象を生じることが判明した。そこで、この知見に基づいて更に鋭意検討を重ねることにより、第一鉄塩を用いた処理方法として、先祖帰り現象を生起させずに排水中のセレンを効率よく除去できる二通りの方法を確立し、これらを既に特願平10−109014号及び同10−182722号として提案している。
【0008】
しかるに、本発明者らによる前記提案技術は、常温下で全セレンを排水基準の規定値である0.1mg/L以下まで確実に除去できる方法ではあるが、処理過程で大気との遮断を要する点やpH調整と処理時間制御等から、取扱いがかなり専門的となり、また設備的にもやや高価につくといった難点があり、様々な発生源からのセレン含有排水に一様に適用する上で充分なものとは言えなかった。
【0009】
本発明は、上述の状況に照らし、セレン含有排水の処理方法として、常温域での処理により全セレンを排水基準の規定値以下まで確実に除去できる上、操作手順が極めて簡単で、処理コスト的にも有利であり、また既存の一般的な処理設備をも利用可能とする、極めて実用的な手段を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の請求項1に係るセレン含有排水の処理方法は、非加熱下で3価以下のイオン数を有するチタン化合物を添加し、このチタン化合物によって6価及び4価のセレンを還元することを特徴とするものである。
【0011】
また、上記請求項1のセレン含有排水の処理方法においては、チタン化合物の添加による還元処理を酸性領域で行う請求項2の構成、チタン化合物の添加による還元後の液のpHを5〜11に設定する請求項3の構成、この還元後のpHを5〜11に設定した液中に空気を吹き込んで曝気処理する請求項4の構成、をそれぞれ好適態様としている。
【0012】
更に、本発明の請求項5に係るセレン含有排水の処理方法は、6価及び4価のセレンを含有する排水に非加熱下で水酸化第二鉄を添加することにより、6価及び4価のセレンを水酸化第二鉄に吸着させる第一段の吸着処理を行ったのち、処理液中に非加熱下で3価以下のイオン数を有するチタン化合物を添加することにより、残余の6価及び4価のセレンを該チタン化合物によって還元する第二段の還元処理を行うことを特徴とするものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明に係るセレン含有液の第一の処理方法では、既述のように、6価及び4価のセレンを含有する排水に3価以下のイオン数を有するチタン化合物を添加することにより、排水中の6価セレン及び4価セレンを還元するが、この反応は常温下でも極めて急速に進行することが確認されており、しかもセレンは金属セレンと亜セレン酸チタンの混合物と推測される赤褐色の沈澱物を形成し、液中に溶存する全セレンは排水基準の規定値である0.1mg/Lを充分に下回る低い濃度となることが判明している。
【0014】
上記の還元に使用する3価以下のイオン数を有するチタン化合物としては、特に制約はなく、例えば三塩化チタン、硫酸チタン、塩化チタン、硝酸チタン等の3価及び2価の無機チタン化合物の他、有機酸チタンも挙げられるが、特に三塩化チタンが入手の容易さから好適である。なお、4価チタンは極めて安定であるために6価及び4価のセレンを還元する能力はない。
【0015】
しかして、3価以下のイオン数を有するチタン化合物の添加量は、排水中に含まれる6価及び4価のセレンの量に応じて、次の反応にてセレンを金属まで還元可能な理論量よりも多めに設定すればよい。ただし、排水中にセレンと同様に還元を受ける共存成分が含まれる場合は、その共存成分の還元による消費量に見合う分だけ多く添加すべきことは言うまでもない。
【0016】
Se6++6Ti3+→Se+6Ti4+
Se4++4Ti3+→Se+4Ti4+
【0017】
上記の共存成分の代表的なものとしては、セレンと同じVI(A)族のテルルがある。このテルルは、金属精錬の廃液等ではセレンと共に6価及び4価のイオンとしてかなりの割合で含まれることが多いが、本発明の還元処理によってセレンと同様に還元されて沈澱を形成するため、セレンとの同時除去が可能である。しかして、この6価及び4価のテルルをセレンと共に還元して除去できることは、本発明の大きな利点の一つである。
【0018】
前記の還元処理における被処理液は、アルカリ環境でも還元処理が進行するために特にpHの制約はないが、pHが4を越えると水酸化チタンの沈澱を生じて還元が固液反応になることと、アルカリ環境では酸素との反応が急速に進行してチタンの効力を減じることから、酸性環境とすることが望ましい。すなわち、酸性領域での還元処理では、水酸化チタンの沈澱は殆ど観察されず、沈澱物は略全量が金属セレンと亜セレン酸チタンの混合物と想定されることから、この還元処理を終えた段階での固液分離によってセレンを濃縮状態で回収でき、後に回収物よりセレンを精製する際に有利となる。
【0019】
還元に用いたチタンの除去を行うには、前記の還元処理後の液のpHを水酸化アルカリの添加等によって5〜11程度に設定すればよく、これによって液中に溶存していた4価及び3価のチタンが沈澱するから、固液分離によってチタンを液中から除去できる。なお、このようなpH設定は、前記のように酸性領域での還元処理後に固液分離によってセレン沈澱物を除去した上で行ってもよいし、還元処理後の液に直接に行ってもよい。後者の場合はpH設定後の固液分離によってセレンとチタンを同時に沈澱物として除去することになる。
【0020】
更に、本発明の処理方法においては、上記の還元処理後のpHを5〜11に設定した液中に空気を吹き込んで曝気処理してもよい。この工程の導入によって、曝気を行わなかった場合よりも除去効果が高まる傾向が認められ、空気酸化後のpHを6前後に調整することによって更に処理効果が向上することが確認されている。その理由は明確ではないが、4価セレンが水酸化第一鉄に殆ど吸着されず、水酸化第二鉄に吸着されること、水酸化第二鉄による吸着もpHがアルカリ側にシフトするに従って低下してゆくことが知られており、これらより水酸化チタンも鉄と同様な性状を有していることが推測される。
【0021】
なお、固液分離には、シックナー等による沈降処理、適当な濾材による濾過、沈降処理とその沈澱物の濾過の組合せ等を採用でき、その際に固液分離を促進するための適当な凝集剤や沈降剤を添加してもよい。
【0022】
上述した本発明の第一の処理方法では、6価及び4価のセレンを含有する排水を対象として、常温下での処理により、しかも硫酸イオンの高濃度の存在下でも6価セレンを急速に4価以下まで還元することが可能であり、全セレンを排水基準の規定値である0.1mg/Lを十分に下回る低い濃度まで確実に再現性よく除去できる。そして、セレン回収を主目的とする場合は、液中セレン濃度に対応する量のチタン化合物の添加により、セレンを高濃度に回収できる利点を有している。しかるに、三塩化チタン等のチタン化合物は従来のセレン処理に主として使用されている硫酸第一鉄等に比較して高価であることから、セレンの除去だけで回収を目的とせず、且つ高濃度のセレンを含む排水を処理する場合には、本発明の第二の処理方法が処理コスト面で有利である。
【0023】
本発明の第二の処理方法は、6価及び4価のセレンを含有する排水に水酸化第二鉄を添加して第一段の吸着処理を行ったのち、処理液中に3価以下のイオン数を有するチタン化合物を添加して第二段の還元処理を行うことを特徴とするものである。すなわち、この第二の処理方法では、一般に6価セレンよりも格段に高濃度で排水中に含まれている4価セレンの大部分は第一段の吸着処理にて除去できるから、第二段の還元処理で用いるチタン化合物は残余の4価セレンと6価セレンに見合う少量でよく、もって第一の処理方法に比較して処理コストを大幅に低減できることになる。
【0024】
しかして、この第一段の吸着処理と第二段の還元処理は連続して行ってもよいし、第一段の還元処理後に固液分離し、沈澱物を除去した液を対象として第二段の還元処理を行ってもよい。また、第二段の還元処理後には、前記第一の処理方法と同様のpH調整と曝気処理を行うことが推奨される。
【0025】
【実施例】
実施例1
全セレン ・・・・・・50mg/L
6価セレン(Se6+として) ・・・・・・50mg/L
硫酸ナトリウム ・・・15000mg/L
塩化ナトリウム ・・・15000mg/L
上記組成の模擬排水(ほぼ中性)を調製し、この模擬排水に非加熱下(室温24℃)で三塩化チタン(TiCl3)をTiとして理論量(182mg/L)よりも多めの350mg/Lの割合で添加して5分間の攪拌を行ったところ、液中に赤褐色の沈澱が生成した。次いで、この液を水酸化ナトリウムにてpH10に調整し、20分間の空気曝気を行ったのち、No.5C濾紙にて濾過し、濾液中の全セレンと6価セレンの濃度を測定した。その結果、全セレン濃度(T−Se)及び6価セレン濃度(Se6+)は共に0.05mg/L以下という値が得られた。また濾液のpHは6.73であった。
【0026】
実施例2
全セレン ・・・・1540mg/L
6価セレン(Se6+として) ・・・・・・90mg/L
硫酸 ・・・36000mg/L
実廃液を10倍に希釈した上記組成の排水(pH1.1)に非加熱下(室温24℃)で三塩化チタンをTiとして理論量(3847mg/L)よりも多めの4700mg/Lの割合で添加して5分間の攪拌を行ったところ、液中に赤褐色の沈澱が生成した。次いで、この液を水酸化ナトリウムにてpH10に調整し、20分間の空気曝気を行ったのち、No.5C濾紙にて濾過し、濾液中の全セレンと6価セレンの濃度を測定した。その結果、全セレン濃度(T−Se)及び6価セレン濃度(Se6+)は共に0.04mg/L以下という値が得られた。また濾液のpHは8.72であった。なお、本実施例で実廃液を10倍に希釈しているのは、還元後のpH調整時に硫酸塩の多量の沈澱形成があることによる。
【0027】
実施例3
セレン精錬の洗浄廃液2種を混合した下記セレン濃度の被処理液(pH1.1);
全セレン ・・・・1490mg/L
6価セレン(Se6+として) ・・・・・・38.5mg/L
に、塩化第二鉄をFeとして2000mg/Lの割合で添加して第一段の還元処理を行ったのち、処理液のpHを5に調整し、No.5C濾紙にて濾過し、その濾液中の全セレンと6価セレンの濃度を測定したところ、全セレン濃度(T−Se)は51.0mg/L、6価セレン濃度(Se6+)は38.2mg/Lであった。次に、この濾液に対して三塩化チタンをTiとして750mg/L(理論量では170mg/L)の割合で添加して20分間の第二段の還元処理(pH1.17)を行った。そして、処理液のpHを水酸化ナトリウムにて10に調整し、10分間の空気曝気を行って処理を終了した。処理後の液中の全セレン濃度を測定したところ、0.05mg/L以下であった。なお、三塩化チタンによる処理のみで全セレンを金属まで還元するのに必要なTiの理論量は3663mg/Lである。
【0028】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、様々な発生源から生じる6価及び4価のセレンを含む排水を処理対象として、常温下での処理によって全セレンを排水基準の規定値以下まで確実に再現性よく除去できる上、処理過程を通じて第一鉄塩による還元処理のような大気との遮断を大前提とした装置構成を必要とせず、操作手順が極めて簡単であると共に、既存の排水処理設備を大幅な改変なく利用できる処理方法が提供される。
【0029】
請求項2の発明によれば、上記の処理方法において、特に稀少資源であるセレンを高濃縮状態で回収することが可能になるという利点がある。
【0030】
請求項3の発明によれば、上記の処理方法において、セレンと共に還元剤として使用したチタンを高濃度で回収できるという利点がある。
【0031】
請求項4の発明によれば、上記の処理方法において、還元剤に用いたチタンとセレンの除去率が共により向上するという利点がある。
【0032】
請求項5の発明によれば、6価及び4価のセレンを含む排水を処理対象として、第二鉄塩による第一段の吸着処理にて4価セレンの大部分を除去した上で、3価以下のチタン化合物による第二段の還元処理を行うことから、常温下での処理によって全セレンを排水基準の規定値以下まで確実に再現性よく除去でき、しかも処理コストを大きく低減できる処理方法が提供される。
Claims (5)
- 6価及び4価のセレンを含有する排水に非加熱下で3価以下のイオン数を有するチタン化合物を添加し、このチタン化合物によって6価及び4価のセレンを還元することを特徴とするセレン含有排水の処理方法。
- チタン化合物の添加による還元処理を酸性領域で行う請求項1記載のセレン含有排水の処理方法。
- チタン化合物の添加による還元後の液のpHを5〜11に設定する請求項1又は2に記載のセレン含有排水の処理方法。
- 還元後のpHを5〜11に設定した液中に空気を吹き込んで曝気処理する請求項3記載のセレン含有排水の処理方法。
- 6価及び4価のセレンを含有する排水に非加熱下で水酸化第二鉄を添加することにより、6価及び4価のセレンを水酸化第二鉄に吸着させる第一段の吸着処理を行ったのち、処理液中に非加熱下で3価以下のイオン数を有するチタン化合物を添加することにより、残余の6価及び4価のセレンを該チタン化合物によって還元する第二段の還元処理を行うことを特徴とするセレン含有排水の処理方法。
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