JP3989241B2 - 中空円筒状熱処理部品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、パワーショベル、ブルドーザーなどの建設機械の履帯の構成部品であるブッシュなどの中空円筒状熱処理部品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
建設機械の履帯の構成部品であるブッシュは、短尺のパイプ状の部品である。 従来、履帯用ブッシュは、中炭素鋼または中炭素合金鋼からなる圧延パイプまたは圧延丸棒を素材とし、該素材を所定長に切断し、外周部、内周部、軸方向端部に機械加工を施してブッシュ形状にしたのち、外周部および内周部の誘導加熱焼入れまたは外周部からの誘導加熱全肉厚焼入れ、および焼もどし等の熱処理を施し、その後、必要に応じて外周面に研磨を施して使用していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来方法には、つぎの問題があった。
イ.圧延パイプを素材とする場合
イ−1. 圧延パイプは概して高価である。
イ−2. 圧延パイプは、内径と外径との同心度および内径の寸法精度が悪い上に、内周表面近傍および外周表面近傍はパイプ圧延工程の加熱により脱炭しているため、所定の寸法にし、かつ、内周表面近傍および外周表面近傍の脱炭層を除去するための機械加工工程が必要となる。このため、素材の歩留りが悪いばかりでなく、機械加工工程の分コスト高となる。
ロ.圧延丸棒を素材とする場合
ロ−1. 圧延丸棒のうちくり抜かれた部分はブッシュとして利用されないため、素材の歩留りが悪い。
ロ−2. 機械加工によりバイプ状にするため、生産性が悪い。
ハ.素材に中炭素鋼または中炭素合金鋼からなる鋼材を用いているため、焼入れでは高硬度が得られず、良好な耐摩耗性が得られない。
本発明の目的は、素材の歩留りが向上し、良好な耐摩耗性を有する中空円筒状熱処理部品の製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明はつぎのとおりである。
(1) (i) 低炭素鋼または低炭素合金鋼のみからなる、履帯用ブッシュに適用される、溶接鋼管を所定長さに切断して履帯用ブッシュの素材とし、
(ii) ついで、該素材の必要な部位に、圧延時に表面に形成された脱炭層を除去するための機械加工を除く機械加工を施して中空円筒状部品とし、
(iii) ついで、該中空円筒状部品に、浸炭、焼入れ、低温焼もどしからなる熱処理を施して、履帯用ブッシュである、溶接鋼管製の、中空円筒状熱処理部品とする、
中空円筒状熱処理部品の製造方法。
【0005】
上記(1)の中空円筒状熱処理部品の製造方法では、素材として低炭素鋼または低炭素合金鋼からなる溶接鋼管を用いるので、素材の内外径の同心度および内径の寸法精度が向上し(その理由は、肉厚一定のため内径、外径の偏心が生じないからである)、素材の歩留りが向上する。また、素材の同心度および内径の寸法精度が向上するため、機械加工工程における内径および外径の切削を省略するか、あるいは最小にすることができる。さらに、浸炭、焼入れ、低温焼もどしからなる熱処理であるため、機械加工工程において素材の内周表面近傍および外周表面近傍の脱炭層を除去する必要がなくなり、機械加工工程の生産性向上およびコスト低減をはかることができる。また、浸炭、焼入れ、低温焼もどしからなる熱処理であるため、内周面表面近傍および外周面表面近傍で高硬度が得られ、良好な耐摩耗性を有する中空円筒状熱処理部品が得られる。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の中空円筒状熱処理部品の製造方法の実施例として履帯用ブッシュをとりあげ、図1〜図3を参照して説明する。
【0007】
本発明実施例の中空円筒状熱処理部品の製造方法は、図1に示すように、
(i) 低炭素鋼または低炭素合金鋼からなる溶接鋼管を所定長さに切断して素材1とする工程101と、
(ii)ついで、該素材1の必要な部位に機械加工を施して中空円筒状部品2とする工程102と、
(iii) ついで、該中空円筒状部品2に、浸炭、焼入れ、低温焼もどしからなる熱処理を施して中空円筒状熱処理部品3とする工程103と、
を有する。
【0008】
上記工程のうち低炭素鋼または低炭素合金鋼からなる溶接鋼管を所定長さに切断して素材1とする工程は、低炭素鋼または低炭素合金鋼からなる粗鋼を製造する工程と、該粗鋼から平鋼または帯鋼を圧延する工程と、該平鋼または帯鋼を丸めて継目を溶接して溶接鋼管(電縫管)とする工程と、からなる。
溶接鋼管は、電気抵抗溶接鋼管、サブマージアーク溶接鋼管、自動アーク溶接鋼管の何れであってもよい。また、溶接鋼管の継目溶接線は管と平行に延びる1本の溶接線であってもよいし、スパイラル状に延びる溶接線であってもよい。溶接鋼管の製造方法は従来の方法による。
【0009】
また、低炭素鋼とは、炭素含有率が0.30wt%未満の鋼をいう。なお、中炭素鋼とは、炭素含有率が0.30wt%以上で0.50wt%未満の鋼をいい、高炭素鋼とは、炭素含有率が0.50wt%以上の鋼をいう。また、低炭素合金鋼とは、低炭素鋼に、必要に応じて、Mn、Cr、Mo、Bなどの元素を添加したものをいう。
【0010】
粗鋼を、従来の中炭素鋼または中炭素合金鋼から、本発明の低炭素鋼または低炭素合金鋼に変更したことにより、溶接鋼管の製造が可能となる。
溶接鋼管の製造可否は、
・ 粗材である平鋼または鋼帯の硬さ
・ t/D(溶接鋼管の粗材である平鋼または鋼帯の板厚/製造された溶
接鋼管の外径)
で決まる。
ここで、低炭素鋼または低炭素合金鋼→中炭素鋼または中炭素合金鋼→高炭素鋼または高炭素合金鋼になるにしたがって平鋼または鋼帯は硬くなり、製造(造管)が困難になる。
【0011】
また、t/D値が高くなると、外径に比して肉厚が厚いということになり、製造(造管)が困難になる。
履帯用ブッシュのt/D値は、おおよそ「0.2」であり、高レベルである。その上、従来の粗材は、中炭素鋼または中炭素合金鋼であったため、溶接鋼管の製造(造管)が不可能であったが、本発明では粗鋼として低炭素鋼または低炭素合金鋼を用いたので、履帯用ブッシュのようなt/D値の高い中空円筒状部品でも、溶接鋼管の製造(造管)が可能となる。
【0012】
また、熱処理を施して使用する部品を「熱処理部品」という。
焼入れしたときの表面硬さは、粗材の炭素含有率と正の相関関係がある。
すなわち、低炭素鋼または低炭素合金鋼→中炭素鋼または中炭素合金鋼→高炭素鋼または高炭素合金鋼になるにしたがって、焼入れしたときの表面硬さも高くなる。
粗材として低炭素鋼または低炭素合金鋼を用いることにより、溶接鋼管の製造(造管)が可能となるが、低炭素鋼または低炭素合金鋼からなる中空円筒状部品に焼入れを施しても、得られる中空円筒状熱処理部品の表面硬さは低く、履帯用ブッシュとして使用に耐えない。
【0013】
そこで、熱処理硬化方法を、従来の「誘導加熱焼入れ・焼もどし」→本発明の「浸炭・焼入れ・焼もどし」に変更する。
焼入れ前に浸炭を施すことにより、表面近傍部分は、高炭素鋼または高炭素合金鋼になるので、その後の焼入れ・焼もどし工程を経て得られる中空円筒状熱処理部品の表面硬さは、従来品より高く、すぐれた耐摩耗性を有する中空円筒状熱処理部品が得られる。
【0014】
従来の方法では、素材の表面近傍は、圧延工程の加熱により脱炭しているため、表面近傍は、低炭素鋼または低炭素合金鋼になっている。そのまま熱処理を施すと、熱処理後の表面硬さは低くなる。そのため、熱処理前の機械加工により表面近傍の脱炭層を除去する必要があった。
これに対し、本発明の方法では、浸炭により素材の表面近傍に炭素(原子)を侵入させるので、熱処理前の機械加工工程により表面近傍の脱炭層を除去することが不要になり、素材(溶接鋼管)の内径および外径の切削加工を省略するか、または、切削量を最小にすることができる。これにより、機械加工工程の生産性が向上し、コストも低減する。
浸炭・焼入れ・焼もどしは従来の方法による。
【0015】
浸炭・焼入れ・焼もどし後、中空円筒状熱処理部品3の軸方向端部のみを誘導加熱焼もどしする。これは、端部に大きな荷重がかかりやすいので、端部の割れを防止するためのものである。ただし、軸方向端部のみを誘導加熱焼もどしする工程は省略してもよい。
本発明の方法により、耐摩耗性と靱性にすぐれた中空円筒状熱処理部品を安価に製造することができる。
【0016】
上記の中空円筒状熱処理部品3の製造方法は、たとえば、建設機械の履帯用ブッシュの製造に利用できる。その場合、中空円筒状熱処理部品3は履帯用ブッシュ(中空円筒状熱処理部品と同じ部品のため符号は3)であり、中空円筒状熱処理部品3の製造方法は履帯用ブッシュの製造方法となる。
履帯用ブッシュは内径20mm未満のブッシュ(超小型ブッシュ)であってもよい。すなわち、本発明方法では圧延パイプを用いないで溶接鋼管を切断して素材を製造するので、超小型ブッシュであっても、本発明の方法により製造することができる。圧延パイプでは、内径20mm未満のパイプの製造は困難であり、また内外径の同心度も悪い。
【0017】
図2は建設機械の履帯10を示している。履帯10は、一対のリンク11をピン12とブッシュ3により帯状に連結し、各対のリンク11にシュー13を固定したものから構成される。図3はブッシュ3を取り出して示している。
上記では、中空円筒状熱処理部品3として、履帯用ブッシュを例にあげて説明したが、中空円筒状熱処理部品は履帯用ブッシュに限るものではなく、建設機械に用いられる他の中空円筒状部品、および建設機械以外の中空円筒状部品であってもよい。
【0018】
【発明の効果】
請求項1の中空円筒状熱処理部品の製造方法によれば、素材として低炭素鋼または低炭素合金鋼からなる溶接鋼管を用いるので、素材の内外径の同心度および内径の寸法精度が向上し、素材の歩留りが向上する。また、素材の同心度および内径の寸法精度が向上するため、機械加工工程における内径および外径の切削を省略するか、あるいは最小にすることができる。さらに、浸炭、焼入れ、低温焼もどしからなる熱処理であるため、機械加工工程において素材の内周表面近傍および外周表面近傍の脱炭層を除去する必要がなくなり、機械加工工程の生産性向上およびコスト低減をはかることができる。また、浸炭、焼入れ、低温焼もどしからなる熱処理であるため、内周面表面近傍および外周面表面近傍で高硬度が得られ、良好な耐摩耗性を有する中空円筒状熱処理部品が得られる。
請求項1の中空円筒状熱処理部品の製造方法によれば、素材の歩留りが向上し、良好な耐摩耗性を有する履帯用ブッシュを製造でき、また、超小型の履帯用ブッシュであっても製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の中空円筒状熱処理部品の製造方法の工程図である。
【図2】 建設機械の履帯の分解斜視図である。
【図3】 建設機械の履帯用ブッシュの断面図である。
【符合の説明】
1 素材
2 中空円筒状部品
3 中空円筒状熱処理部品
10 履帯
11 リンク
12 ピン
13 シュー
Claims (1)
- (i) 低炭素鋼または低炭素合金鋼のみからなる、履帯用ブッシュに適用される、溶接鋼管を所定長さに切断して履帯用ブッシュの素材とし、
(ii) ついで、該素材の必要な部位に、圧延時に表面に形成された脱炭層を除去するための機械加工を除く機械加工を施して中空円筒状部品とし、
(iii) ついで、該中空円筒状部品に、浸炭、焼入れ、低温焼もどしからなる熱処理を施して、履帯用ブッシュである、溶接鋼管製の、中空円筒状熱処理部品とする、
中空円筒状熱処理部品の製造方法。
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