JP5371084B2 - 円柱状部品の熱処理方法 - Google Patents
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Description
図10において、履帯用のピン3のような円柱状部品では、外周表面部(外周表面およびその近傍)31には曲げ応力とねじれ応力に耐えるための強度および耐摩耗性が要求され、芯部32にはせん断応力に耐えるための強度および靭性が要求される。
例えば、低炭素合金鋼を素材とし、「浸炭焼入れ」を行い、次に「低温焼もどし」を施す方法が存在する。係る方法(浸炭焼入れ方法)によれば、SCM415またはSCM420等の低炭素合金鋼を素材とし、これに浸炭を施して外周表面部のみ高炭素合金鋼とし、その後、焼入れおよび低温焼もどしを施している。
しかし、浸炭焼入れ方法によれば、ピンの耐摩耗性および強度を向上するためには浸炭硬化層を深く、浸炭時間を長くする必要があり、コストが嵩むという問題がある。それと共に、浸炭ガスの大量使用等も、コスト高騰を惹起する。
しかし、係る従来技術では、ピンの硬化層深さは、素材の焼入れ性やピンの直径等によって決まってしまうので、焼入れ性の低い素材を使用すると、必要な耐摩耗性および強度が得られなくなる。一方、焼入れ性の高い素材を使用すると、硬化層深さが深くなりすぎ、外周表面の圧縮残留応力が低くなり、ピンの破壊靭性および疲労強度が低くなるという問題がある。
ここで、「全体加熱焼入れ」と「全体加熱高温焼もどし」の2工程を合わせて「素地調質(工程)」という。大型のピン(大径のピン:直径が概ね50mm以上のピン)は、この方法によって熱処理が行われている。
以下、SCM440を素材とするピンを「ピンA」と表現する。なお、ピンAの長さは370mm、直径は70mmである。
図12〜図15において、横軸はピンAの外周表面からの距離を示し、縦軸はロックウェル硬さを示している。
図13は、全体加熱高温焼もどし工程の後における硬さ分布を示している。図13では、高温焼もどしによってピンの外周表面部の硬さはHRC40程度まで低下する。また、中心を含む芯部では、HRC30程度となっている。
図15は、低温焼もどし工程の後における硬さ分布を示している。図15で示すように、低温焼もどしのために外周表面部の硬さがやや下がり、HRC55程度となる。
また、必要な芯部硬さ(素地硬さ)を確保するためには焼入れ性の高い素材を使用する必要があり、そのような素材は価格が高いので、コストアップにつながってしまう。
さらに、必要な芯部硬さ(素地硬さ)が得られないと、過大なせん断応力が負荷された際に、折損する可能性がある。
しかし、係る従来技術(特許文献1)では、二次焼入れ硬化層深さが0.5mm〜0.7mm程度であり、履帯用ピンに要求される耐摩耗性を充足させることができない、という問題が存在する。
「有効硬化層深さ(t)」とは、有効硬化層の厚さ(深さ:半径方向寸法)であり、円柱状部品(3)の「外周表面」(31f)から「有効硬さ位置」(31ff)までの距離である。
「有効硬化層」は、焼入れ第2工程後に有効硬さ以上になる領域(範囲)である。「有効硬さ」は、硬化した(焼入れされた)とみなされる硬さであり、本明細書では、「80%マルテンサイト硬さ(HRC45)を以って硬化した(焼入れされた)とみなしている。
「有効硬さ位置」(31ff)は、「有効硬さ(HRC45)」になる位置(外周表面31fからの深さ)である。
有効硬化層深さ(t)は、必要な耐摩耗性を確保するために、3mm以上であるのが望ましい。
あるいは、前記焼入れ第1工程(S11)の加熱は炉中加熱であるのが好ましい(請求項3)。
但し、前記円柱状部品(3)の直径が50mm未満であっても、本発明を適用することが可能である。
また、第2工程(S12)では外周表面部(31)のみが焼入れ硬化するので、外周表面部(31)に高い圧縮の残留応力が付与され、円柱状部品(3)の疲労強度が向上する。
さらに、従来の方法によるものと比べて、ピンの横断面における最大せん断応力となる位置近傍の硬さが高くなるので、過大なせん断応力が負荷されても折損を防止することができる。そのため、必要な芯部硬さ(素地硬さ)を確保するために焼入れ性の高い素材を使用する必要がなくなり、使用するべき素材として合金元素の添加(量)が少ない素材の使用が可能になり、素材調達のコストが低減する。
一方、本発明において、前記焼入れ第1工程(S11)の加熱が炉中加熱であれば(請求項3)、焼入れ第1工程(S11)の加熱に関するコストが低減する。
加えて、本発明によれば、製造される無限軌道帯用ピン(3)の直径が50mm以上への適用を推奨するが、無限軌道帯用ピン(3)の直径は50mm未満のものにも適用可能である。
本発明に係る円柱状部品の熱処理方法の実施形態を説明するため、円柱状部品として、例えば、油圧ショベルやブルドーザー等の建設機械の無限軌道帯(履帯)10(図8参照)の構成部品である履帯用ピンを例示して、説明する。ただし、円柱状部品は、履帯用ピン(以下、「ピン」と記載する。)に限るものではない。
ここで、小型ピンとは直径が30mm未満のものを意味しており、中型ピンとは直径が30mm以上で50mm未満のものを意味しており、大型ピンとは直径が50mm以上のものを意味している。
そして、履帯用のピン3(図10参照)において、外周表面部(外周表面31fから有効硬さ位置31ffまでの深さがtの範囲)31には、曲げ応力とねじれ応力に耐えるための強度および耐摩耗性、すなわち、硬さが要求される。一方、芯部(外周表面部31を除く部分)32には、せん断応力に耐えるための強度および靭性が要求される。
本願発明の方法では、外周表面部31に要求される硬さと、芯部32に要求されるせん断強度および靭性を熱処理によって獲得するために、中炭素合金鋼から成る素材に熱処理を施すのである。
また、中炭素鋼とは、炭素含有量が質量%で0.30以上0.50以下のものを言う。ちなみに、低炭素鋼とは、炭素含有量が質量%で0.30未満のものを言い、高炭素鋼とは、炭素含有量が質量%で0.50を超えるものを言う。
図2は、本願発明の方法を、図12〜図15を参照して説明した従来技術(全体加熱焼入れ、全体加熱高温焼もどし、高周波焼入れ、低温焼もどしを行う従来技術)に対比させて示している。より詳細には、図2では、本願発明の方法における各工程(製造プロセス)における断面の金属組織を、図12〜図15の従来技術における断面の金属組織と比較して模式的に示している。
それと共に図2では、図3〜図5および図12〜図15を参照することにより、図示の実施形態における各工程(製造プロセス)における断面の硬さ分布と、図12〜図15の従来技術における断面の硬さ分布とを比較することを企図している。
全体焼入れ装置20による加熱は誘導加熱によって行なってもよいし、加熱炉内で行なってもよい。
加熱を加熱炉内で行う場合には、その加熱源(エネルギー)として、重油、軽油、灯油等の化石燃料または電気が用いられる。
Ac3(℃)=908−224×C(%)+30×Si(%)
−34×Mn(%)+439×P(%)−23×Ni(%)
中炭素合金鋼では、Ac3変態点は、加熱炉内での加熱の場合、概略800℃程度(780〜820℃)である。図示しない誘導加熱(急速加熱)の場合には、Ac3変態点は、加熱炉内での加熱の場合よりも100℃程度高くなる。
ここで、周波数f(kHz)と加熱深さd(mm)との間には、
d=(250/f)1/2
なる関係がある。係る関係に従って、周波数fを適宜設定することにより、ピン3の断面全領域をAc3変態点以上の温度に加熱することができる。
Ar3変態点は、中炭素合金鋼の場合、Ac3変態点より100℃程度低い温度になる。
焼入れの際に使用する冷却液(冷却手段)としては、水、水溶性焼入れ液、油等がある。コスト面、環境面を考慮すると、冷却液として水を使用することが望ましい。
この高周波焼入れ工程(焼入れ第2工程)S12では、焼入れ第1工程S11で焼入れされたピン3の外周表面部31のみを、Ac3変態点以上の温度に誘導加熱する。換言すれば、焼入れ第1工程S11ではピン3の断面全領域をAc3変態点以上の温度に加熱したが、焼入れ第2工程S12ではピン3の外周表面部31のみをAc3変態点以上の温度に加熱する。
焼入れ第1工程S11の加熱は全体加熱であるのに対し、焼入れ第2工程S12の加熱は、外周表面部31のみを加熱するので、いわゆる部分加熱である。外周表面部31のみの加熱(いわゆる部分加熱)を行うために、焼入れ第2工程S12における加熱は、誘導加熱(例えば高周波誘導電源による加熱)によらなければならない。
「有効硬化層深さt」は「有効硬化層の厚さ(深さ:半径方向寸法)」であり、図10における円柱状部品3の外周表面31fから有効硬さ位置31ffまでの距離である。さらに、「有効硬化層」は、焼入れ第2工程後に有効硬さ以上になる領域(範囲)であり、「有効硬さ」は、硬化した(焼入れされた)とみなされる硬さであり、本願発明の方法では、「80%マルテンサイト硬さ(HRC45)」を以って、「硬化した(焼入れされた)」とみなしている。そして、「有効硬さ位置31ff」は、「有効硬さ(HRC45)」になる位置である。
有効硬化層深さtがR/10よりも小さいと、ピン3が早期に摩耗してしまう。一方、有効硬化層深さtがR/2よりも大きいと、ピン3の外周表面の圧縮残留応力が小さくなり、後述する効果(ピンに作用する引張応力を下げる効果)が得られないからである。
有効硬化層深さtが R/10≦t≦R/2(Rはピン3の半径)であり、かつ、有効硬化層深さtが3mm以上となるように、ピン3の外周表面部31がAc3変態点以上の温度に加熱されるように、誘導加熱による加熱深さdを決定し、周波数f(kHz)と加熱深さd(mm)との関係式 d=(250/f)1/2 に従って、周波数を決定するのである。
ここで、焼入れ第1工程S11が誘導加熱装置によって加熱される場合、焼入れ第2工程S12の誘導加熱装置の周波数は、焼入れ第1工程S11の誘導加熱装置と同一の周波数を使用してもよい。この際、加熱時間や電流密度などの調整によって、必要な加熱深さを得る。
外周表面部31の芯部側近傍では400〜700℃(高温焼もどし温度に相当)となり、さらに芯部側(半径方向内方)の領域では150〜250℃(低温焼もどし温度に相当)となる。
上述した通り、Ar3変態点は、中炭素合金鋼の場合、Ac3変態点より約100℃低い温度になる。
高周波焼入れ工程(焼入れ第2工程)S12においても、焼入れ第1工程S11と同様に、焼入れの際に用いられる冷却液(冷却手段)としては、コスト面、環境面からは水を使用することが望ましい。但し、水溶性焼入れ液、油等を用いてもよい。
また、ピン3の芯部32における外周表面部31近傍の領域では、高周波焼入れの際に400〜700℃に加熱されるため、高温焼もどしが施される。
さらに、芯部32側の中心側(半径方向内方)領域では、高周波焼入れの際に150〜250℃に加熱されるので、低温焼もどしが施される。
この低温焼もどし工程(S2)においても、加熱は加熱炉(低温焼もどし炉)内で行ってもよく、図示しない誘導加熱装置によってもよい。
加熱炉内で低温焼もどしを行う場合は、150〜250℃にて加熱される。加熱源(エネルギー)としては、電気または重油、軽油、灯油等の化石燃料が用いられる。
加熱後の冷却は、自然放冷でもよい。あるいは、低温焼もどし装置40に冷却装置を設けて、強制冷却を行ってもよい。
以上により、ピン3の熱処理が完了する。
図示の実施形態の熱処理方法は、図2でも明らかなように、従来技術に対して、円柱状部品の素地高温焼もどしの工程を省略(廃止)している。すなわち、従来の4工程からなる熱処理工程を、3工程に削減している。
この工程削減は、円柱状部品の製造時間の短縮のみならず、従来あった素地高温焼もどし工程に費やされていた熱エネルギーを不要とし、製造コストの大幅な削減につながる。
図3〜図5は、それぞれ、本願発明の方法における素地焼入れ(焼入れ第1工程)後のピンの断面における硬さ分布(図3)、表面部焼入れ(焼入れ第2工程、すなわち図2における「高周波焼入れ+焼もどし」)後のピンの断面における硬さ分布(図4)、低温焼もどし後のピンの断面における硬さ分布(図5)を示している。
同様に、従来技術における表面部焼入れ(図2の「高周波焼入れ」)後のピンの断面における硬さ分布は(図14、図15参照)、境界部分B2(硬さが急激に低下している部分)と中心との間の領域における硬さがHRC30程度であるのに対して、本願発明の方法における表面部焼入れ(図2における「高周波焼入れ+焼もどし」)後のピンの断面における硬さ分布では(図4、図5参照)、境界部分B1(硬さが急激に低下している部分)と中心との間の領域における硬さが、HRC32〜40程度であり、従来技術に比較して硬くなっている。
また、必要な芯部硬さ(素地硬さ)を確保するために焼入れ性の高い素材を使用する必要がなくなり、高価な素材を必要としなくなるため、素材調達に係るコストが低減する。
なお、図2の高周波焼入れにおける符号Qは、高周波焼入れによって形成された(外周)表面硬化層を示している。
図6から明らかなように、本願発明の方法で製造されたピンの表面圧縮残留応力は、従来技術で製造されたピンに比べて、円周方向においては同程度であるが、軸方向においては大きくなった。すなわち、本発明の方法で製造されたピンにおいては、軸方向の圧縮残留応力が大きくなるという作用効果を奏する。
そのため、ピン3に過大な負荷が作用して、その表面に引張応力が生じても、従来技術で製造されたピンに比較して、増加した圧縮残留応力の分だけ当該引張応力は減少する。
図7から明らかなように、本願発明の方法で製造されたピンの曲げ強度(図7では曲げ荷重)は、従来の方法で製造されたピンに比べて高くなっている。
あるいは、焼入れ第1工程S11の加熱を炉中加熱とすれば、誘導加熱炉に比べ、投入するエネルギーが削減でき、焼入れ第1工程S11の加熱のコストが低減する。
例えば、図示の実施形態では、建設機械の無限軌道帯用10の大型ピン3を例にとって図示の実施形態を説明したが、小型、中型のピンにも適用することが可能である。さらには、無限軌道帯用ピン以外の円柱状部品の熱処理にも適用することが可能である。
2・・・履板
3・・・円柱状部材(履帯用ピン)
4・・・ブッシュ
20・・・全体加熱焼入れ装置
30・・・部分加熱焼入れ装置
31・・・外周表面部
31f・・・外周表面
32・・・芯部
40・・・低温焼もどし装置
Claims (3)
- 中炭素合金鋼から成る無限軌道帯用ピン(3)の熱処理方法において、該熱処理方法は焼入れ工程(S1)と、該焼入れ工程の後に施される焼もどし工程(S2)とを有し、前記焼入れ工程(S1)は、焼入れ第1工程(S11)と、焼入れ第1工程の後に施される焼入れ第2工程(S12)とを有し、前記焼入れ第1工程(S11)は前記無限軌道帯用ピン(3)の外周表面(31f)から芯部(32)までの前記無限軌道帯用ピン(3)の全体をAc3変態点以上の温度に加熱して焼入れする工程であり、前記焼入れ第2工程(S12)は前記焼入れ第1工程(S11)で焼入れされた前記無限軌道帯用ピン(3)の外周表面部(31)のみをAc3変態点以上の温度に誘導加熱して焼入れする工程であり、前記焼もどし工程(S2)は、前記焼入れ工程で(S1)焼入れされた前記無限軌道帯用ピン(3)を低温焼もどしする工程であり、前記焼入れ第2工程(S12)における外周表面部(31)の深さ(t)が、無限軌道帯用ピンの半径(R)の1/10以上で、無限軌道帯用ピンの半径(R)の1/2以下であり、外周表面部(31)と芯部(32)の境界部分(B1)よりも外周表面部(31)側の領域の方が境界部分(B1)よりも芯部(32)側の領域よりも硬く、当該境界部分(B1)近傍で硬さが急激に低下しており、外周表面部(31)と芯部(32)の境界部分(B1)と中心との間の領域における硬さがHRC32〜40程度であり、最大せん断力に対する強度を増加し、軸方向の圧縮残留応力を大きくして、曲げ強度を高くすることを特徴とする無限軌道帯用ピンの熱処理方法。
- 前記焼入れ第1工程(S11)の加熱が誘導加熱である請求項1の無限軌道帯用ピンの熱処理方法。
- 前記焼入れ第1工程(S11)の加熱が炉中加熱である請求項1の無限軌道帯用ピンの熱処理方法。
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