JP7075233B2 - 無限軌道帯用ピン - Google Patents
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Description
そして、径寸法が比較的小さい、いわゆる「中小径」の無限軌道帯用ピンにおいては、摩耗すると強度が低下してしまうので、硬化層厚さ寸法を大きく(例えば5mm以上に)して、摩耗を防止し、強度の劣化を防止する必要がある。
しかし、硬化層厚さを大きく(例えば5mm以上に)設定した場合には、無限軌道帯用ピン表面における領域のみを誘導加熱しても、圧縮残留応力を大きく(例えば550MPa以上にする)ことが出来ず、必要な疲労強度を得ることが出来ない。
また、従来の無限軌道帯用ピンでは、研磨加工を施すことにより表面の粗さを除去して疲労強度を向上しているが、研磨加工を施すには多大な労力及びコストが必要になってしまう、という問題を有している。
また本出願人は、無限軌道帯用ピンの熱処理方法であって、熱伝導によりワーク内部を加熱する技術を提案している(例えば特許文献2)。
本発明の無限軌道帯用ピンは、
ピン表面から80%マルテンサイト硬さとなるまでの半径方向長さである硬化層厚さが5mm以上であり、
550MPa以上の圧縮残留応力を有し、
90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)の差分(H1-H2)だけ50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)より低いロックウェルCスケール硬さ(H3=H2-(H1-H2)=2H2-H1)の差(H1-H3)を、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)以上の硬さの層の厚さ寸法(x1)と、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)の差分(H1-H2)だけ50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)より低いロックウェルCスケール硬さ(H3)以上の硬さの層の厚さ寸法(x3)の差(x3-x1)で除した数値である硬さ分布の傾斜値(m=(H1-H3)/(x3-x1))が7.5HRC/mm以上の領域を有し、表面が研磨加工されていないことを特徴としている。
本発明は、中実円筒形状の無限軌道帯用ピンであるため、中空円筒形状の無限軌道帯用ブッシュは包含しない。
ピン表面から80%マルテンサイト硬さとなるまでの半径方向長さである硬化層と非硬化層の境界領域の単位時間当たりの温度上昇をδt、
硬化層と非硬化層の境界における加熱直後の温度をT1、
冷却直前の温度であってAc3変態点以上の温度をT2として、
加熱後、熱伝導時間(T2-T1)/δtだけ加熱も強制冷却もせず、当該熱伝導時間を経過してから強制冷却することにより熱処理されるのが好ましい。
ピン表面から80%マルテンサイト硬さとなるまでの半径方向長さである硬化層厚さが5mm以上であり、550MPa以上の圧縮残留応力を有する無限軌道帯用ピン(請求項1の無限軌道帯用ピン)の熱処理方法において、
(例えば加熱コイルによる)誘導加熱工程と(例えば冷却ジャケットによる)冷却工程を有し、
硬化層と非硬化層の境界領域の単位時間当たりの温度上昇をδt、
硬化層と非硬化層の境界における加熱直後の温度をT1、
硬化層と非硬化層の境界における冷却直前の温度であってAc3変態点以上の温度をT2として、
90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)の差分(H1-H2)だけ50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)より低い硬さ(H3=H2-(H1-H2)=2H2-H1)の差(H1-H3)を、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)以上の硬さの層の厚さ寸法(x1)と、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)の差分(H1-H2)だけ50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)より低いロックウェルCスケール硬さ(H3)以上の硬さの層の厚さ寸法(x3)の差(x3-x1)で除した数値である硬さ分布の傾斜値(m=(H1-H3)/(x3-x1))が7.5HRC/mm以上の領域を有するために、加熱終了から冷却までの間に、熱伝導時間(T2-T1)/δtだけ加熱も強制冷却もされない伝熱工程を有することを特徴としている。
本発明の無限軌道帯用ピンの熱処理方法において、熱処理を施した無限軌道帯用ピンに、ショットピーニングや超音波衝撃処理を施して圧縮残留応力をさらに高めることも可能であるが、必須ではない。
本発明は、中実円筒形状の無限軌道帯用ピンの熱処理方法であるため、中空円筒形状の無限軌道帯用ブッシュの熱処理方法は包含しない。
ピン表面から80%マルテンサイト硬さとなるまでの半径方向長さである硬化層厚さが5mm以上であり、550MPa以上の圧縮残留応力を有する無限軌道帯用ピン(請求項1の無限軌道帯用ピン)の熱処理システム(10)において、
加熱装置(1:例えば加熱コイル)と冷却装置(2:例えば冷却ジャケット)を備え、
硬化層と非硬化層の境界領域の単位時間当たりの温度上昇をδt、
硬化層と非硬化層の境界における加熱直後の温度をT1、
硬化層と非硬化層の境界における冷却直前の温度であってAc3変態点以上の温度をT2として、
90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)の差分(H1-H2)だけ50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)より低いロックウェルCスケール硬さ(H3=H2-(H1-H2)=2H2-H1)の差(H3-H1)を、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)以上の硬さの層の厚さ寸法(x1)と、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)の差分(H1-H2)だけ50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)より低いロックウェルCスケール硬さ(H3)以上の硬さの層の厚さ寸法(x3)の差(x3-x1)で除した数値である硬さ分布の傾斜値(m=(H1-H3)/(x3-x1))が7.5HRC/mm以上の領域を有するために、ラインを搬送する無限軌道帯用ピンの移動速度に、熱伝導時間(T2-T1)/δtを乗じた数値に相当する距離だけ、加熱装置と冷却装置が離隔していることを特徴としている。
本発明は、中実円筒形状の無限軌道帯用ピンの熱処理に用いられる熱処理システム(10)であるため、中空円筒形状の無限軌道帯用ブッシュの熱処理に用いられる熱処理システムは包含しない。
5mm以上の硬化層厚さを確保することが出来るため、本発明の無限軌道帯用ピンによれば、耐摩耗性が向上し、いわゆる「中小径」の無限軌道帯用ピンであっても、摩耗により強度が劣化することが防止される。また、硬化層厚さ5mm以上を確保しているので、曲げ強度も大きい。
無限軌道帯用ピンの疲労強度が高くなるため、研磨加工をして疲労強度を向上しなくても、従来の研磨ピンと同程度以上の疲労強度を発揮することができる。それと共に、上述した様に硬化層厚さ5mm以上を確保しているので、従来の研磨ピンと同程度以上の曲げ強度を発揮することが出来る。
そのため、本発明によれば、無限軌道帯用ピンの研磨工程を省略することが出来る。そして、研磨加工をしなくても、従来の研磨ピンと同程度の疲労強度、曲げ強度を得ることが出来る。また、研磨加工が不要なので、研磨加工に関するコストを節減できる。
そのため、必要な硬化層深さまで誘導加熱する必要が無く、熱伝導時間の分だけ誘導加熱時間が短縮され、誘導加熱焼入れの急速加熱急速冷却の特性を得ることができて、無限軌道帯用ピンの硬化層厚さが5mm以上であり、硬さ分布の傾斜値(m)が7.5以上の領域を有することになる。
同様に、本発明の熱処理システム(10)においても、加熱装置(1)と冷却装置(2)が離隔している距離は、加熱されたワークが冷却装置に到達するまでの時間が前記熱伝導時間「(T2-T1)/δt」に相当するように設定されているので、誘導加熱時間が短縮され、誘導加熱焼入れの急速加熱急速冷却の特性を得ることができる。それと共に、加熱時にオーバーヒートを防止することが出来るので、研磨工程も省略することが出来る。
図1では、実施形態に係る熱処理システムを示している。
図1において、全体を符号10で示す熱処理システムは、加熱コイル1(加熱装置)と冷却ジャケット2(冷却装置)を備えている。図示しない無限軌道帯用ピン(ワーク)は、加熱用コイル1によって加熱された後(誘導加熱工程において誘導加熱された後)、冷却ジャケット2により冷却される(冷却工程)。
熱処理システム10において、図示しないワーク(無限軌道帯用ピン)が移動(進行)する速度は一定(均一)である。熱処理システム10を熱処理ラインにおいて、ワーク移動速度が均一でない場合には、例えば、ワーク移動速度が遅い部分ではワークの滞留が生じてしまう。また、ワーク移動速度を速くすると、連続するワークの間隔が空いてしまい、加熱や冷却、熱伝導が不均一となりワークの品質が不均一になってしまう。そのため、ワーク移動速度は、熱処理システム10を含む熱処理ライン全体に亘って、或るワークについて均一となっている。
ワークの移動する速度が一定であるため、加熱コイル1で加熱されたワークが冷却用ジャケット2まで到達する時間が定まれば、加熱コイル1から冷却用ジャケット2までの距離(例えばL1或いはL2)が決定される。
加熱コイル1で加熱されたワークが冷却用ジャケット2まで到達する時間については、図2を参照して後述する。
一方、加熱完了から水噴射冷却始めまでの時間が短すぎると、無限軌道帯用ピンの表面から硬化層境界付近へ伝導される熱量が少ないため、硬化層境界付近の温度は加熱完了直後に比べて殆ど上昇しないので、加熱時間を短縮することは期待できない。
図2を参照して、誘導加熱完了から水噴射による冷却を開始するまでの時間をどのように制御すれば良いのか、換言すれば、所望の焼入れ特性(急速加熱急速冷却)を実行することが出来るのかについて、図2を参照して説明する。
図2において、横軸は円周表面からの距離、縦軸は温度を示している。そして図2の横軸左端が無限軌道帯用ピンの円周表面を示し、右端が無限軌道帯用ピンの中心を表している。
そして図2において、必要な硬化層厚さ(ピン表面からの距離)を符号Dで示し、無限軌道帯用ピン表面からの距離Dにおける半径方向位置(必要な厚さを有する硬化層のピン中心側の位置)を符号Rcで示し、位置Rcにおける加熱完了直後の温度を符号T1で示し、位置Rcにおいて噴射冷却を開始する直前(噴射冷却始め直前)の温度を符号T2、温度T2と温度T1の温度差を符号△Tで示している。
また、位置Rcの領域(ピンの円周表面から距離Dだけ半径方向内側の領域)は熱伝導によって加熱される。そのため、加熱完了直後の位置Rcの領域の温度T1よりも、熱伝導後のRcの領域の温度T2(図2の「噴射冷却始め直前」の位置Rcの温度T2)の方が高温である。ここで、温度T1がAc3変態点よりも高温であるということは、加熱時間が長過ぎることを意味している。したがって、
T2≧Ac3(変態点)>T1
Nt=△T/δt=(T2-T1)/δt
ここで、伝熱による単位時間当たりの温度上昇(伝熱速度)δtは、無限軌道帯用ピンの材料、寸法、加熱条件が決まれば一定であり、予め計測しておくことが可能である。
したがって、熱処理ライン上を無限軌道帯用ピン(ワーク)が移動する速度を符号Vwとすれば、図1における距離L1(或いはL2)、すなわち誘導加熱コイル1から冷却ジャケット2までの距離は、次式の様に示すことが出来る。
L1(L2)=Vw×Nt=Vw×(T2-T1)/δt
そして、図1に示す実施形態の熱処理システム10において、誘導加熱コイル1から冷却ジャケット2までの距離L1或いはL2は、上述した通り、
L1(or L2)=Vw×Nt=Vw×(T2-T1)/δt である。
そのため、図2における半径方向位置Rcにおける温度は、無限軌道帯用ピンが誘導加熱コイル1で誘導加熱された後、冷却ジャケット2まで移動する間に、伝熱により、(冷却ジャケット2における噴射冷却の直前には)Ac3変態点以上の温度T2まで昇温している。
そのため、冷却ジャケット2で噴射冷却された際に、Ac3変態点以上の温度T2まで昇温している領域、すなわち、無限軌道帯用ピンの円周表面から半径方向位置Rcまでの領域は、焼入れされて硬化層となる。その旨は、図2における円周表面からの距離(横軸)と硬さ(縦軸)との特性(温度分布特性と共に示されている特性)からも明らかであり、無限軌道帯用ピンの円周表面から半径方向位置Rcまでの領域までは概略一定の硬さであり、位置Rcよりも半径方向内側(図2では右側)の領域では、硬さが急激に減少している。
上述した様に、図1、図2で説明した態様で熱処理を行うため、冷却ジャケット2で冷却する直前に、表面から必要な硬化層厚さ(図2の距離D)に相当する領域(硬化層境界Rcまでの領域)が、Ac3変態点以上に加熱されている。そのため、図示の実施形態では、表面から必要な硬化層厚さD(表面から半径方向内方へ5mm以上)の領域に図2における半径方向位置Rcを設定している。
冷却ジャケット2で冷却することにより、誘導加熱によりAc3変態点以上に加熱された領域、すなわち、表面から位置Rcまでの領域(必要な硬化層厚さに相当する領域:表面から半径方向内方へ5mm以上の領域)は焼入れされる。
その結果、図示の実施形態によれば、無限軌道帯用ピンは5mm以上の硬化層厚さを確保することが出来る。そのため耐摩耗性が向上し、いわゆる「中小径」の無限軌道帯用ピンであっても、摩耗により強度が劣化することが防止される。さらに、硬化層厚さ5mm以上を確保しているので、曲げ強度も大きい。
換言すれば、伝熱により無限軌道帯用ピンの円周表面から半径方向位置Rcまでの領域がAc3変態点以上に昇温するので、加熱コイル1により、必要な硬化層厚さ(5mm以上)に相当する領域の全域をAc3変態点以上に誘導加熱する必要は無い。
そのため、加熱コイル1で誘導加熱する時間が短縮される。その結果、誘導加熱焼入れの急速加熱急速冷却の特性が発揮できる程度に加熱時間が短くなる。
発明者は、誘導加熱焼入れの急速加熱急速冷却の特性を得るためには、軸方向残留応力と硬さ分布の傾斜値mとの関係(特性)を考慮するべきであることを見出した。
無限軌道帯用ピンの表面(外周)から半径方向内方への距離と硬さとの特性を示す図3において、硬さを示す縦軸における符号「H1」は90%マルテンサイト組織の硬さ、符号「H2」は50%マルテンサイト組織の硬さであり、符号「H3」は「H1」と「H2」の差分だけ「H2」よりも低い硬さである。
H3=H2-(H1-H2)=2×H2-H1
図3において、外周からの距離を示す横軸における「x1」はH1以上の硬さの硬化層の厚さであり、「x2」はH2以上の硬さの硬化層の厚さであり、「x3」はH3以上の硬さの硬化層の厚さである。
図3から明らかな様に、硬さ分布の傾斜の値(傾斜値)mは、次式で示すことが出来る。
m=(H1-H3)/(x3-x1)
図4における軸方向残留応力と硬さ分布の傾斜値mとの関係を特性図として示すのが図5である。図5から明らかな様に、無限軌道帯用ピンとして必要な残留応力550MPa以上を得るためには、硬さ分布の傾斜値mは7.5以上が必要であり、望ましくは10以上である。
換言すれば、誘導加熱焼入れの急速加熱急速冷却の特性である残留応力550MPa以上を得るためには、硬さ分布の傾斜値mは7.5以上が必要であり、望ましくは10以上である。
また、上述した様に硬化層厚さ5mm以上を確保しているので、従来の研磨ピンと同程度以上の曲げ強度を発揮することが出来る。
無限軌道帯用ピンの疲労強度が高くなるため、研磨加工をして疲労強度を向上しなくても、従来の研磨ピンと同程度以上の疲労強度を発揮することができる。それと共に、上述した様に硬化層厚さ5mm以上を確保しているので、従来の研磨ピンと同程度以上の曲げ強度を発揮することが出来る。
そのため、無限軌道帯用ピンの研磨工程を省略することが出来、研磨加工をしなくても、従来の研磨ピンと同程度の疲労強度、曲げ強度を得ることが出来る。また、研磨加工が不要なので、研磨加工に関するコストを節減できる。
そのため、必要な硬化層深さまで加熱用コイル1で誘導加熱する必要が無く、熱伝導時間の分だけ誘導加熱時間が短縮され、誘導加熱焼入れの急速加熱急速冷却の特性を得ることができる。
以下に記載する各種実験例では、実験例に係る試料としては、図6に示す直径、材料の異なる3種類の試料(無限軌道帯用ピン)を用いた。図6で示す3種類の試料(無限軌道帯用ピン:実験例)における材料とその組成分は、図7に示す通りである。図6、図7で示す直径38mmの無限軌道帯用ピンは以下「試料1」と記載し、直径47.6mmの無限軌道帯用ピンは以下「試料2」と記載し、直径57mmの無限軌道帯用ピンは以下「試料3」と記載する。
各試料は図1~図5の実施形態に基づいて熱処理された無限軌道帯用ピンであり、研磨加工をしていないピンである。
図9(図8)に示す様に、試料1~3の硬化層厚さは何れも「5mm以上」である。
図10は、各試料の表面付近(電解研磨深さ:0.1μm)の圧縮残留応力の測定結果を示している。図10において、領域「実施例の測定値」で示すのが各試料の測定結果である。図10における特性線は、公知の硬化層厚さ-圧縮残留応力特性である。
図10における圧縮残留応力の測定は、PSPC-MSF-3M測定装置を使用して行った。X線照射面積は2mm×2mm、管電圧は30kV、管電流は10mAであった。圧縮残留応力は試料の軸方向及び円周方向の双方について測定した。
図8及び図10において、実験例(試料1~試料3)の軸方向圧縮残留応力はそれぞれ691、605、656MPa、試料1~試料3の円周方向圧縮残留応力はそれぞれ753、607、828MPaであり、何れも目標値「550MPa以上」を満たしている。
なお、図10には、日本機械学会論文集(A)(Vol.67、No.659、2001)に掲載された超急速加熱高周波焼入れした切欠材の疲労強度試験の結果(機論A-2001)、及び日本機械学会講演論文集(No.00-1、2000)に掲載された高周波焼入れした切欠材の疲労強度試験の結果(機講論2000)が併記されている。
図11に示す三点曲げ疲労試験において、試料1(直径38mm)、試料2(直径47.6mm)、試料3(直径57mm)は、何れも従来の炉加熱により焼入れを行ったFQ研磨ピンと同等以上の曲げ疲労強度を有することが確認出来た。
換言すれば、本発明の実験例に係る試料1~試料3(研磨レスピン)は、従来の炉加熱により焼入れを行ったFQ研磨ピンと同等以上の疲労強度を有することが分かった。
また、前記熱伝導時間Ntを「(T2-T1)/δt」に設定して、加熱時のオーバーヒートを防止して、研磨工程を省略することが出来る。
2・・・冷却ジャケット(冷却装置)
10・・・熱処理システム
Claims (3)
- ピン表面から80%マルテンサイト硬さとなるまでの半径方向長さである硬化層厚さが5mm以上であり、
550MPa以上の圧縮残留応力を有し、
90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)の差分(H2-H1)だけ50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)より低いロックウェルCスケール硬さ(H3)の差(H1-H3)を、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)以上の硬さの層の厚さ寸法(x1)と、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)の差分(H1-H2)だけ50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)より低いロックウェルCスケール硬さ(H3)以上の硬さの層の厚さ寸法(x3)の差(x3-x1)で除した数値である硬さ分布の傾斜値が7.5HRC/mm以上の領域を有し、表面が研磨加工されていないことを特徴とする無限軌道帯用ピン。 - 請求項1の無限軌道帯用ピンの熱処理方法において、
誘導加熱工程と冷却工程を有し、
硬化層と非硬化層の境界領域の単位時間当たりの温度上昇をδt、
硬化層と非硬化層の境界における加熱直後の温度をT1、
硬化層と非硬化層の境界における冷却直前の温度であってAc3変態点以上の温度をT2として、
90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)の差分(H1-H2)だけ50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)より低いロックウェルCスケール硬さ(H3)の差(H1-H3)を、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ以上の硬さ(H1)の層の厚さ寸法(x1)と、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)の差分(H1-H2)だけ50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)より低いロックウェルCスケール硬さ(H3)以上の硬さの層の厚さ寸法(x3)の差(x3-x1)で除した数値である硬さ分布の傾斜値が7.5HRC/mm以上の領域を有するために、加熱終了から冷却までの間に、熱伝導時間(T2-T1)/δtだけ加熱も強制冷却もされない伝熱工程を有することを特徴とする無限軌道帯用ピンの熱処理方法。 - 請求項1の無限軌道帯用ピンの熱処理システムにおいて、
加熱装置と冷却装置を備え、
硬化層と非硬化層の境界領域の単位時間当たりの温度上昇をδt、
硬化層と非硬化層の境界における加熱直後の温度をT1、
硬化層と非硬化層の境界における冷却直前の温度であってAc3変態点以上の温度をT2として、
90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)の差分(H1-H2)だけ50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)より低いロックウェルCスケール硬さ(H3)の差(H1-H3)を、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)以上の硬さの層の厚さ寸法(x1)と、90%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H1)と50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)の差分(H1-H2)だけ50%マルテンサイト組織のロックウェルCスケール硬さ(H2)より低いロックウェルCスケール硬さ(H3)以上の硬さの層の厚さ寸法(x3)の差(x3-x1)で除した数値である硬さ分布の傾斜値が7.5HRC/mm以上の領域を有するために、ラインを搬送する無限軌道帯用ピンの移動速度に、熱伝導時間(T2-T1)/δtを乗じた数値に相当する距離だけ、加熱装置と冷却装置が離隔していることを特徴とする無限軌道帯用ピンの熱処理システム。
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