JP3980403B2 - 空気入りタイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転方向を特定した空気入りタイヤ、なかでも、パターンノイズの低減と、トレッド中央域の陸部剛性の確保とを図りつつ、排水性能、耐ハイドロプレーニング性能を向上させるトレッドパターンの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
周溝と傾斜溝とを有し、回転方向を特定されるこの種のタイヤでは、トレッド周方向に連続して延びる周溝によって、タイヤの前後方向の排水を、また、トレッド円周に対して傾斜して延びる傾斜溝によって、タイヤ幅方向への排水を、それぞれ行うこととしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、この種のタイヤでは一般に、排水性を高めるために、傾斜溝を周溝に開口させているので、それには、傾斜溝の溝縁の、路面への衝接等に起因するパターンノイズが発生しやすく、また、トレッド中央域の陸部剛性が低くなるという問題があった。
これがため、パターンノイズの増加なしに、また、トレッド中央域の陸部剛性の低下なしに、ウェット性能、耐ハイドロプレーニング性能を向上させる試みは、種々なされているが、トレッド中央域において、傾斜溝が周溝およびトレッド円周に対してなす延在形態、陸部部分の踏面と、それに隣接する側壁部分の形成形態等に関し、どのようなものが最適であるかについての十分な知見は、いまだ得られていない状況にある。
【0004】
本発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題としてなされたものであり、それの目的は、パターンノイズの低減と、トレッド中央部の陸部剛性の確保とを図りつつ、ウェット性能、耐ハイドロプレーニング性能を向上させた空気入りタイヤを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド踏面に、トレッド周方向に連続して延びる少なくとも一本の周溝を有すると共に、車両への装着姿勢のタイヤの正面視で、下方から上方に向けて相互に離隔する方向に延びる、互いに対をなす傾斜溝を有し、各傾斜溝のトレッド円周に対する鋭角側の角度が、トレッド中央域からトレッド踏面端に向かって次第に大となる、方向性パターンを有するものにおいて、傾斜溝のトレッド中央部側における急傾斜端部分の、トレッド円周に対する鋭角側の平均角度を30度以下とするとともに、その急傾斜端部分を陸部内で終焉させ、急傾斜端部分によって、それのトレッド中央部側に区画される陸部部分の踏面と、それに隣接する側壁部分との、急傾斜端部分の横断面内での挟角を、その急傾斜端部分の終焉部に隣接する位置より、陸部部分の踏面の蹴出側端位置で大きくしたものである。
【0006】
パターンノイズの低減を図りつつ、トレッド中央部分の陸部剛性の確保を図ることを目的に、傾斜溝の、タイヤ赤道線側の端を陸部内で終焉させた場合には、パターンノイズの増加を抑制することはできるが、この一方で、陸部部分の踏面接地域に存在する水を、傾斜溝内へスムーズに、しかも迅速に流入させることが困難になる。これがためここでは、傾斜溝の急傾斜端部分の、トレッド円周に対する鋭角側の平均角度を、トレッド中央域における排水の流線の延在方向にあわせて30度以下とすることによって、その急傾斜端部分への水の円滑なる流入を担保して、より多くの水の、迅速なる排水を行わせて、排水性能を向上させる。
【0007】
しかもここでは、急傾斜端部分のトレッド中央部側に区画される陸部部分の踏面と、それに隣接する側壁部分との、急傾斜端部分の横断面内での挟角を、その急傾斜端部分の終焉部に隣接する位置より、踏面の蹴出側端位置で、大きくすることにより、踏面の蹴出側端位置で挟角を大きくして剛性を高め、急傾斜端部分終焉部に隣接する位置で挟角を小さくして溝体積をなるべく大きくことができる。このように構成すると、急傾斜端部分の溝容積を、踏込側から蹴出側に向かって大きくできるとともに、陸部部分の側壁を、急傾斜端部分への水の導入ガイドとして機能させることができるので、陸部部分の踏面の接地域から急傾斜端部分への水の流入をより円滑にして、排水性能を一層向上させることができる。
【0008】
ここで、陸部部分の側壁の全体は、請求項2に記載したように、稜線を介して急傾斜端部分の深さ方向に連続する複数の傾斜面により形成することができ、これによれば、所要の側壁を簡易に構成することができ、陸部部分踏面と隣接する傾斜面となす角度が一様な鈍角となり、陸部剛性を一様に高めることができる。
【0009】
一方、陸部部分の側壁は、請求項3に記載したように、一の捩れ面により形成することもできる。これによれば、陸部部分踏面とそれに隣接する側壁部分との挟角を、その踏面の蹴出側端方向に滑らかに変化させるとともに、急傾斜端部分の溝容積をより増加させて、陸部部分の踏面接地域から急傾斜端部分への水の流れ込みを一層円滑に行わせることができる。
【0010】
また、好ましくは、請求項4に記載したように、急傾斜端部分の、相互に対向する溝底辺のうち、タイヤ赤道線側の溝底辺の、トレッド円周に対する鋭角側の平均角度を、トレッド踏面端側の溝底辺のそれより小さくする。これによれば、トレッド中央域の排水の流線方向に沿って、タイヤ回転方向後方側に向けて、急傾斜端部分の溝幅が次第に広がることになり、急傾斜端部分により多量の水を取り込んでなお円滑に排水することができる。
【0011】
そしてまた、好ましくは、請求項5に記載したように、急傾斜端部分の途中からタイヤ赤道線側に向かって延びる分岐溝を形成する。かかる構成によれば、トレッド中央域陸部列の剛性の、適当なる低下に基づいて、トレッド部の接地性を高めて操縦安定性を向上させることができ、また分岐溝それ本来の作用下で、排水性能をより一層向上させることができる。
【0012】
ところで、このような分岐溝は、請求項6に記載したように、傾斜溝のいずれの部分よりも狭幅とする。これによれば、トレッド中央域陸部列の、剛性の余剰の低下を防止して、すぐれた操縦安定性能を確保することができる他、分岐溝の溝容積を小さくして、ポンピングノイズ、気柱共鳴音等を小さくすることにより、パターンノイズの発生を防止することができる。
【0013】
より好ましくは、請求項7に記載したように、陸部部分の踏面と側壁との境界線と、その側壁の、急傾斜端部分の溝底との境界線と、分岐溝の溝縁とによって囲繞される側壁領域の、車両への装着姿勢のタイヤの正面視による形状を、ほぼ三角形とする。これにより、踏面から溝底に向かって側壁のトレッド周方向の幅が狭くなり、踏面の水を急傾斜端部分および分岐溝に効果的に分岐して流し込むことができ、排水性能をより有利に向上させることができる。
【0014】
ここで、請求項8に記載したように、急傾斜端部分の溝底の、タイヤ赤道線側の辺を、トレッド円周とほぼ平行となるように、急傾斜端部分を構成したときは、陸部部分踏面の接地域から急傾斜端部分内へ流入する水が、側壁の、溝深さ方向の深い方でタイヤ幅方向外側に流れるため、トレッド中央域における流線方向に沿ってより有効な排水が行われる。
【0015】
また、請求項9に記載したように、陸部部分の踏面と側壁との境界線を、トレッド円周とほぼ平行とした場合には、陸部部分の踏面の接地域から急傾斜端部分への水の流入が、側壁の、溝深さ方向の深い方でタイヤ幅方向外側に向かって行われるため、トレッド中央域における流線方向に沿ってより有効な排水が行われる。
【0016】
さらに、請求項10に記載したように、分岐溝を、それよりもタイヤ赤道線側に配置した周溝に開口させた場合は、開口させない場合に比べ、周溝から傾斜溝により多くの水を誘導する等して総排水量を有効に増加させることができるので、タイヤのウェット排水性を一層向上させることができる。
【0017】
また好ましくは、請求項11に記載したように、タイヤ赤道線からその両側に、トレッド幅のほぼ1/4ずつの距離を隔てた位置に、一対の周溝を形成し、周溝と傾斜溝とにより、少なくとも三列の陸部列を区画する。このようにしたときには、トレッド踏面全領域における接地圧の分布を均等にして接地性を向上することができ、加えて、周溝自体の排水性をも向上し、さらに、トレッド踏面端側の陸部列を均一な剛性でトレッド中央部の陸部列から独立させることで、トレッド踏面端側の陸部列の偏摩耗を抑制することができ、駆動および制動性能、接地性能、耐摩耗性能、ウェット性能、耐ハイドロプレーニング性能および操縦安定性能のそれぞれをバランスよく向上させることができる。
【0018】
ここで、トレッド幅とは、TRA、ETRTO、JATMA等の規格に適用される標準リムに装着され、同規格に記載されている適用サイズにおける単輪の最大荷重に対応する空気圧を内圧充填し、同規格に記載されている適用サイズにおける単輪の最大荷重を負荷した条件で接地させた状態において測定した最大接地幅である。
【0019】
なお、請求項12に記載したように、傾斜溝を、トレッド踏面端に開口させ、そのトレッド踏面端の近傍での傾斜溝とトレッド円周とのなす鋭角側角度を、70〜85度の範囲としたときは、トレッド踏面端部における傾斜溝の延在方向を、側方に排水するトレッド踏面端部の排水流線の延在方向と一致させて、その傾斜溝の、トレッド踏面端への開口とあいまって、水の円滑なる側部排出をもたらすことができ、また、コーナリング時のサイドフォースの入力方向に対して、傾斜溝が略平行であることにより、トレッド踏面端部の陸部の捩れを防止して、偏摩耗を抑制することができる。
【0020】
そしてさらに、請求項13に記載したように、陸部部分の踏面と側壁との境界線と分岐溝とによる挟角を10〜40度の範囲とすることにより、陸部部分隅部の剛性確保と、排水性の向上とを、両立させることができる。
すなわち、それが、10度未満では、陸部部分が鋭角になり過ぎて剛性の確保が困難となり、40度を超えると、分岐溝と急傾斜端部分のなす挟角が大きくなりすぎて排水性が悪化する。
【0021】
またここで、請求項14に記載したように、分岐溝の溝幅を、0.5〜2.5mmの範囲とした場合には、製作の容易性と、陸部剛性の確保とをうまく両立させることができる。すなわち、これによれば、溝幅を適度に狭くすることで、トレッド中央域陸部列の、剛性の余剰の低下を防止して、すぐれた操縦安定性能を確保することができる。
ここで、 溝幅を、0.5mm未満とするときは加硫成形時等における成形が困難となり、一方それが2.5mmを超えると、接地面内で、周方向に隣接した陸部部分が互いに接触できなくなって、陸部剛性が大きく低下するおそれがある。
【0022】
さらに好ましくは、請求項15に記載したように、陸部部分の踏面と、それに隣接する側壁部分との、急傾斜端部分の横断面内での挟角を 、急傾斜端部分の終焉部に隣接する位置で85〜95度の範囲とし、陸部部分の踏面の蹴出側端位置で100〜135度の範囲として 、排水性能の向上と併せて、陸部剛性を確保する。
急傾斜端部分の陸部内終焉部分近傍部分での挟角を、85度未満としたときは陸部の剛性が不足し、95度を超えると、溝容積が減少し排水性が低下するおそれがある。また、踏面の蹴出側端位置での挟角を、100度未満としたときは剛性が不足し、135度を超えると溝容積が減少し排水性が低下するおそれがある。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を、図面に示すところに基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態を、車両への装着姿勢のタイヤの正面視で示すトレッドパターンの展開図である。
ここでは、トレッド踏面部1に、タイヤ赤道線Cを隔てて位置して、トレッド周方向に直線状に連続して延在する一対の周溝2を比較的近接させて設けるとともに、タイヤ赤道線Cからその両側にトレッド幅Wのほぼ1/4ずつの距離を隔てた位置に、他の一対の周溝3を設ける。
【0024】
またここでは、図示のタイヤ姿勢で、下方から上方に向けて相互に離隔する方向に延びて、互いに対をなす傾斜溝4を設けて、各傾斜溝4のトレッド円周に対する鋭角側の角度を、トレッド中央域からトレッド踏面端に向けて次第に大きくする。
【0025】
これらのことによって、両周溝2間に、比較的狭幅のセンターリブ5を区画するとともに、周方向にほぼ等間隔に配設した傾斜溝4と、それぞれの周溝2、3とにより、そのセンターリブ5のそれぞれの側部に、二列ずつの陸部列6、7を区画する。図では、センターリブ5を含んで、それぞれ五列の陸部列を構成することにより、トレッド踏面全領域における接地圧の分布を均等にして接地性を向上することができ、加えて、周溝自体の排水性をも向上し、さらに、トレッド踏面端側の陸部列を均一な剛性でトレッド中央部の陸部列から独立させることで、トレッド踏面端側の陸部列の偏摩耗を抑制することができ、駆動および制動性能、操縦安定性能、耐摩耗性能、排水性能のそれぞれをバランスよく向上させることができる。
【0026】
また、各傾斜溝4のタイヤ赤道線側の端を、周溝2、3間の陸部列6内で終焉させ、その終焉端の近傍部分を、トレッド円周に対する鋭角側の角度が特に小さくなる急傾斜端部分8とするとともに、この急傾斜端部分8の、トレッド円周とのなす鋭角側の平均角度をほぼ30度以下とする。
これによれば、傾斜溝4を陸部列6内で終焉させることにより、陸部剛性の低下を防いで、パターンノイズを低減させることができる。また、トレッド中央域の踏面内における排水の流線方向はほぼ30度以下であるため、急傾斜端部分8のトレッド円周に対する鋭角側角度もこれにあわせることにより、トレッド踏面部の接地面圧が高く、排水水圧も高くなる、そのトレッド中央域での乱流の発生を防止し、トレッド周方向の排水を急傾斜端部分8により多く担わせ、排水性能を向上させることができる。
【0027】
好ましくは、このような傾斜溝4をトレッド踏面端に開口させ、そのトレッド踏面端部での傾斜溝4とトレッド円周とのなす鋭角側角度を、70〜85度の範囲とする。これによれば、傾斜溝4の延在方向を、側方に排水するトレッド踏面の側縁近傍の流線方向と一致させて排水性能の向上を担保すると共に、コーナリング時のサイドフォースの入力方向とも略一致させることにより、トレッド踏面端部での陸部の捩れを防止して、偏摩耗を抑制することができる。
【0028】
そして、この図に示すところでは、急傾斜端部分8の途中からタイヤ赤道線側に向かって延在して周溝2に開口する分岐溝9を設け、この分岐溝9を、トレッド円周となす角度が急傾斜端部分8よりも大きくなるように、ほぼ直線状に延在させる。これにより、周溝2、3間の陸部列6は、それらの溝2、3と、傾斜溝4および分岐溝9とで区画されるブロック10によって構成されることになる。ここで、この分岐溝9は、タイヤ幅方向の排水性能および、トレッド中央域の接地性能を向上させるべく機能する。
【0029】
ところで、このような分岐溝9の溝幅は、傾斜溝4のどの部分よりも狭幅とし、0.5〜2.5mmの範囲とすることが好ましく、これによれば、トレッド中央域陸部列の、剛性の余剰の低下を防止して、すぐれた操縦安定性能を確保することができる他、分岐溝の溝容積を小さくして、ポンピングノイズ、気柱共鳴音等を小さくすることにより、パターンノイズの発生を防止することができる。
ここで、 溝幅を、0.5mm未満とするときは加硫成形時等における成形が困難となり、一方それが2.5mmを超えると、接地面内で、周方向に隣接した陸部部分が互いに接触できなくなって、陸部剛性が大きく低下するおそれがある。
【0030】
ここにおいて、各ブロック10の、急傾斜端部分8と分岐溝9とにより挟まれるブロック部分11の、急傾斜端部分側の側壁12は、例えば図2に示すように、急傾斜端部分8の深さ方向に稜線を介して連続する二つの傾斜面13、14により、またはそれ以上の傾斜面により形成することができる。
ここで、傾向的に、ブロック部分11の先細り端部分側に位置する傾斜面13は、ブロック部分11の踏面15と側壁12との境界線から、陸部部分の尖鋭隅部に向けて高さを漸減する三角形状の平面からなり、また、傾向的にブロック部分11の基部側に位置する傾斜面14は、傾斜面13に比して溝底側にあって、ブロック部分11の尖鋭隅部に向けて幅を漸減する、傾斜面13よりは垂直面に近い、三角形状の平面からなる。
【0031】
側壁12をこのように形成することにより、その側壁12は、急傾斜端部分8の終焉部に隣接する位置および、踏面15の蹴出側端位置のそれぞれにおいて、図3に、急傾斜端部分8の中心線と直交する横断面図で示すような形態をとることになる。
すなわち、図1および図2のA−A線に沿う断面を示す図3(a)および、それらの図のB−B線に沿う断面を示す図3(b)から明らかなように、急傾斜端部分8の陸部内終焉部近傍における、踏面15とそれに隣接する側壁部分、すなわち、傾斜面14とのなす角度αは、踏面15の蹴出側端位置における、踏面15とそれに隣接する側壁部分、すなわち、傾斜面13とのなす角度βより小さくなる。
【0032】
これによれば、踏面15の蹴出側端位置での溝容積が、急傾斜端部分8の陸部内終焉部に隣接する位置における溝容積よりも大きくなり、踏面接地域の水を側壁12により、より滑らかかつ効果的に、急傾斜端部分8内に誘導することができる。ここで好ましくは、角度αを85〜95度の範囲とし、角度βを100〜135度の範囲とする。これによれば、より効果的に、排水性能を向上させるとともに、踏面15と傾斜面13とのなす挟角が一様な鈍角となり、陸部部分の剛性を一様に確保することができる。
しかも、この場合には、側壁12を急傾斜端部分8の深さ方向に連続する傾斜面13、14で形成することにより、タイヤ製造時における成形を容易にしている。
【0033】
また、側壁12は、上述したところに代えて、図4に示すように、一つの捩れ面により形成することもできる。
すなわち、この側壁12は、急傾斜端部分8の終焉端近くでは、その溝底に対してほぼ直立姿勢となる面が、踏面15の、図の蹴出側端に向けて、次第に拡開方向に連続的に変化し、その上方端で溝容積を最大とする一つの捩れ面よりなる。
【0034】
このように形成した側壁12もまた、急傾斜端部分8の終焉部に隣接する位置、および踏面15の蹴出側端位置のそれぞれにおいて、先の場合と同様の傾向を示すことになり、図5(a)、(b)のそれぞれに、図4のA−A線に沿う断面および、それの図のB−B線に沿う断面を示すように、急傾斜端部分8の陸部内終焉部近傍における踏面15とそれに隣接する側壁12の側壁部分とのなす角度γが、踏面15の蹴出側端位置における踏面15とそれに隣接する側壁12の側壁部分とのなす角度δより小さくなる。
【0035】
これによれば先の場合と同様に、踏面15の蹴出側端位置での溝容積が、急傾斜端部分8の陸部内終焉部に隣接する位置における溝容積よりも大きくなるので、陸部表面の水を側壁12により、より滑らかかつ効果的に、急傾斜端部分8内に誘導することができる。
ここでも、より好ましくは、角度γは85〜95度の範囲とし、角度δは100〜135度の範囲とする。
【0036】
そしてまた、図1に示すところでは、このような側壁12の輪郭形状を、車両への装着姿勢のタイヤの正面視で、ブロック10の踏面15と側壁12との境界線と、その側壁12が分岐溝9に接する辺と、急傾斜端部分8のタイヤ赤道線側の溝底辺とによって囲繞されるほぼ三角形とする。これによれば、踏面15から溝底に向かって側壁12の幅が狭くなることにより、踏面15表面の水を急傾斜端部分8および分岐溝9に効果的に分岐して流し込むことができ、排水性能をより有利に向上させることができる。
なおこのことは、図4に示す側壁についても同様である。
【0037】
ここで好ましくは、ブロック部分の踏面15の側壁12との境界線を、トレッド円周に対しほぼ平行とする。これによれば、踏面15から急傾斜端部分8への水が側壁12の溝深さ方向の深いほうで、トレッド幅方向外側に流れるため、トレッド中央域における流線方向に沿ってより有利な排水を行うことができる。
【0038】
また好ましくは急傾斜端部分8の、相互に対向する溝底辺のうち、タイヤ赤道線側の溝底辺の、トレッド円周に対する鋭角側角度を、反対側の溝底辺のそれに比べて小さくする。これによれば、急傾斜端部分8の溝幅が、トレッド中央域の排水の流線方向に沿って、蹴出側に向けて次第に広がることになり、排水性能が向上する。
【0039】
さらに好ましくは、図1に示す陸部部分11の踏面15と側壁12との境界線と分岐溝9とによる挟角θを10度から40度とする。ここでは約15度としている。これによれば、陸部部分隅部の剛性確保と、排水性能の向上とを両立させることができる。
【0040】
さらに、図1に示すところでは、急傾斜端部分8の途中から分岐して周溝3に交差するとともに、トレッド踏面端に開口する狭幅傾斜溝16を設けて、この狭幅傾斜溝16を傾斜溝4とほぼ平行に延在させるとともに、その溝幅を傾斜溝4よりも狭くする。
【0041】
その上ここでは、周溝2と分岐溝9とに挟まれる、ブロック10の鋭角隅部17および、急傾斜端部分8と狭幅傾斜溝16とに挟まれる鋭角隅部18のそれぞれを、踏込側に向かってブロック高さを漸減させたほぼ三角形状の傾斜踏面とし、これをもって、それらの鋭角隅部17、18の剛性を確保し、併せて、ウェット走行時の排水水流が乱れて気泡が発生することに起因する、排水性能の低下を防止する。
なおこの傾斜踏面は、平面または曲面状の傾斜面により形成することができる。
【0042】
図6は、本発明における他の実施の形態を、車両への装着姿勢のタイヤの正面視で示すトレッドパターン展開図である。
ここでは、トレッド踏面部1に、タイヤ赤道線上に位置してトレッド周方向に直線状に連続して延在する周溝19を設け、この周溝19の両側に、それから小許の間隔をおいて位置してトレッド周方向に直線状に連続して延在する、周溝19よりはるかに狭幅の一対の狭幅周溝20を設けるとともに、タイヤ赤道線Cからその両側にトレッド幅Wのほぼ1/4ずつの距離を隔てた位置に、他の一対の周溝3を設ける。
【0043】
またここでは、図示のタイヤ姿勢で、下方から上方に向けて相互に離隔する方向に延びて、互いに対をなす、先に述べたと同様の傾斜溝4を設けて、各傾斜溝4のトレッド円周に対する鋭角側の角度を、トレッド中央域からトレッド踏面端に向けて次第に大きくする。この傾斜溝4は、狭幅周溝20と周溝3との間に区画される陸部内で終焉させ、その終焉端近傍部分を急傾斜端部分8とし、その他端側はトレッド踏面端側に開口させる。
そしてまた、急傾斜端部分8の途中から延在して狭幅周溝20に開口する、傾斜溝4のどの部分よりも狭幅の分岐溝9を設ける。
【0044】
これらのことによって、周溝19と両狭幅周溝20との間に、比較的狭幅の二条のセンターリブ21を区画するとともに、周方向にほぼ等間隔に配設した傾斜溝4および分岐溝9と、それぞれの狭幅周溝20と周溝3とにより、それらのセンターリブ21のそれぞれの側部に、二列ずつの陸部列、ここではブロック列6、7を区画する。
これにより、図1に示すトレッドパターンに比べ、主にはトレッド中央域の陸部剛性を高めることができる。ただし、それ以外の部分の構成および作用効果は同図に示すタイヤとほぼ同じであるため、以下、構成の概略のみを述べる。
【0045】
各ブロック10の、急傾斜端部分8と分岐溝9とにより挟まれるブロック部分11の、急傾斜端部分側の側壁12は、例えば図2に示すように、二つの傾斜面13、14により形成することができ、急傾斜端部分8の陸部内終焉近傍における踏面15と側壁12のなす角度αは、踏面15の蹴出側端位置における角度βより小さくなる。また、図4に示すように、一つの捩れ面により形成することもでき、急傾斜端部分8の陸部内終焉近傍における踏面15と側壁12のなす角度γは、踏面15の蹴出側端位置における角度δより小さくなる。いずれの場合も、急傾斜端部分8は踏込側から蹴出側に向かって溝体積が大きくなるように形成する。
【0046】
そしてまた、このような側壁12の輪郭形状を、車両への装着姿勢のタイヤの正面視で、ほぼ三角形とする。
ここで好ましくは、陸部部分の踏面15の側壁12との境界線を、トレッド円周に対してほぼ平行とし、急傾斜端部分8の、タイヤ赤道線側の溝底辺の、トレッド円周に対する鋭角側角度を、反対側の溝底辺のそれに比べて小さくする。
【0047】
さらに好ましくは、図6に示す陸部部分11の踏面15と側壁12との境界線と分岐溝9とによる挟角ηを10度から40度とする。ここでは約15度としている。これによれば、陸部部分隅部の剛性確保と、排水性能の向上とを両立させることができる。
【0048】
さらに、急傾斜端部分8の途中から分岐して周溝3に交差するとともに、トレッド踏面端に開口する狭幅傾斜溝16を設ける。
その上ここでは、狭幅周溝20と分岐溝9とに挟まれる、ブロック10の鋭角隅部17および、急傾斜端部分8と狭幅傾斜溝16とに挟まれるブロック10の鋭角隅部18のそれぞれを、踏込側に向かってブロック高さを漸減させたほぼ三角形状の傾斜踏面とする。
【0049】
【実施例】
以下に、本発明に係る装置のタイヤの、耐ハイドロプレーニング性能、発生騒音特性、操縦安定性能に関する実施例について説明する。
【0050】
供試タイヤとして、サイズがPSR205/55 R16で、トレッド幅が170mmの、二種類の実施例タイヤと、一種類の比較例タイヤを用意した。実施例タイヤ1は図1に示したトレッドパターン、表1および表2に示す寸法諸元を有するものとした。表1および表2に示す符号は、図1および図2中の各構成部分の符号である。
また、実施例タイヤ2は図6に示したトレッドパターンおよび表3および表4に示す寸法諸元を有するものとし、表3および表4に示す符号は、図6および図2中の符号と対応するものとした。
ここで、実施例タイヤ1および2は両方とも、側壁部分の形状は図2に示した、急傾斜端部分8の深さ方向に連続する二つの傾斜面で形成している。
さらに、比較例タイヤは図7に示すトレッドパターンおよび表5に示す寸法諸元を有するものとした。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
供試タイヤのJATMAに規定される標準リムにリム組すると共に、充填空気圧を2.3kgf/cm2とし、2名乗車に相当する荷重を付加した状態で実車走行を行い、耐ハイドロプレーニング性能は、水深5mmのウェット路面を直線走行によって通過するときの、ハイドロプレーニング現象の発生限界速度をフィーリング評価することにより求め、発生騒音特性は、直進平滑路を100km/hから惰性走行したときの車室内騒音を、フィーリング評価することにより求め、そして操縦安定性能は、乾燥したサーキットコースを、各種の走行モードでスポーツ走行したときの、テストドライバーのフィーリング評価によって求め、その結果を表6に指数をもって示す。なお、表6中の指数値は大きいほど優れた結果を示すものとした。
【0057】
【表6】
【0058】
表6に示すところによれば、実施例タイヤ1および2は、耐ハイドロプレーニング性能、発生騒音特性、操縦安定性能全ての測定項目において、従来の比較例タイヤの性能を上回っていることが分かる。
【0059】
【発明の効果】
以上に述べたところから明らかなように、本発明によれば、タイヤ赤道線のそれぞれの側部において、傾斜溝がトレッド円周となす鋭角側角度が最小かつ一定となる急傾斜端部分を形成し、急傾斜端部分とトレッド円周のなす鋭角側角度は、ほぼ30度以下とし、該急傾斜端部分は陸部内で終焉させてなり、急傾斜端部分によってそれぞれのトレッド中央部側に区画される陸部部分の踏面と、それに隣接する側壁部分との、急傾斜端部分の横断面内での挟角が、その急傾斜端部分の終焉部に隣接する位置より、陸部部分の蹴出側端位置で大きくした空気入りタイヤとすることにより、パターンノイズの発生の低減とトレッド中央部分の剛性確保を図りつつ、ウェット性能、耐ハイドロプレーニング性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態を示すトレッドパターンの展開図である。
【図2】 側壁を二つの傾斜面で形成した態様を示すトレッドの部分斜視図である。
【図3】 急傾斜端部分の終焉部および陸部上方端のそれぞれにおける横断面図である。
【図4】 側壁を一の捩れ面で形成した態様を示すトレッドの部分斜視図である。
【図5】 急傾斜端部分の終焉部および踏面上方端のそれぞれにおける横断面図である。
【図6】 この発明の他の実施の形態を示すトレッドパターンの展開図である。
【図7】 比較例タイヤのトレッドパターンの展開図である。
【符号の説明】
1 踏面部
2 周溝(タイヤ赤道線側)
3 周溝(トレッド踏面端部側)
4 傾斜溝
5 センターリブ
6 陸部列(タイヤ赤道線側)
7 陸部列(トレッド踏面端部側)
8 急傾斜端部分
9 分岐溝
10 ブロック
11 ブロック部分
12 側壁
13 傾斜面(踏面側)
14 傾斜面(急傾斜端部側)
15 踏面
16 狭幅傾斜溝
17 鋭角隅部(周溝側)
18 傾斜壁面(急傾斜端部側)
19 周溝(タイヤ赤道線上)
20 狭幅周溝
21 センターリブ
Claims (15)
- トレッド踏面部に、トレッド周方向に連続して延びる少なくとも一本の周溝を有すると共に、車両への装着姿勢のタイヤの正面視で、下方から上方に向けて相互に離隔する方向に延びる、互いに対をなす傾斜溝を有し、各傾斜溝のトレッド円周に対する鋭角側の角度が、トレッド中央域からトレッド踏面端に向かって次第に大となる、方向性パターンを有する空気入りタイヤであって、傾斜溝のトレッド中央部側の急傾斜端部分の、トレッド円周に対する鋭角側の平均角度を30度以下とするとともに、その急傾斜端部分を陸部内で終焉させ、急傾斜端部分によって、それのトレッド中央部側に区画される陸部部分の踏面と、それに隣接する側壁部分との、急傾斜端部分の横断面内での挟角を、その急傾斜端部分の終焉部に隣接する位置より、陸部部分の踏面の蹴出側端位置で大きくしてなる空気入りタイヤ。
- 陸部部分の側壁の全体を、稜線を介して急傾斜端部分の深さ方向に連続する複数の傾斜面により形成してなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
- 陸部部分の側壁の全体を、一の捩れ面により形成してなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
- 急傾斜端部分の、相互に対向する溝底辺のうち、タイヤ赤道線側の溝底辺の、トレッド円周に対する鋭角側の平均角度を、トレッド踏面端側の溝底辺のそれより小さくしてなる請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
- 急傾斜端部分の途中から、タイヤ赤道線側に向かって延びる、分岐溝を形成してなる請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
- 分岐溝の溝幅を、傾斜溝よりも狭幅としてなる請求項5に記載の空気入りタイヤ。
- 陸部部分の踏面と側壁との境界線と、その側壁の、急傾斜端部分の溝底との境界線と、分岐溝の溝縁とによって囲繞される領域の形状を、ほぼ三角形としてなる請求項5もしくは6に記載の空気入りタイヤ。
- 急傾斜端部分の溝底の、タイヤ赤道線側の辺を、トレッド円周とほぼ平行としてなる請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
- 陸部部分の踏面と側壁との境界線を、トレッド円周とほぼ平行としてなる請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
- 分岐溝を周溝に開口させてなる請求項5〜9のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
- タイヤ赤道線から、その両側にトレッド幅のほぼ1/4ずつの距離を隔てた位置に一対の周溝を形成し、周溝と傾斜溝とにより少なくとも3列の陸部列を区画してなる請求項1〜10のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
- 傾斜溝をトレッド踏面端に開口させ、トレッド踏面端の近傍での傾斜溝とトレッド円周とのなす鋭角側角度を、70〜85度の範囲としてなる請求項1〜11のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
- 陸部部分の踏面と側壁との境界線と分岐溝とによる挟角を10〜40度の範囲としてなる請求項5〜12のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
- 分岐溝の溝幅を、0.5〜2.5mmの範囲としてなる請求項5〜13のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
- 陸部部分の踏面と、それに隣接する側壁部分との、急傾斜端部分の横断面内での挟角を、急傾斜端部分の終焉部に隣接する位置で85〜95度の範囲とし、陸部部分の踏面の蹴出側端位置で100〜135度の範囲としてなる請求項1〜14のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
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