JP3970394B2 - 炭化珪素質焼結体の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は炭化珪素質焼結体、更に詳しくは密度が高く、加工が容易な、比較的大型の炭化珪素質焼結体とその安定的な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭化珪素質焼結体は高温強度に優れ、優れた耐食性、高い熱伝導率、低い熱膨張率を有しており、構造用材料として広く使われている。
炭化珪素質焼結体は、通常、SiC粉末を焼結して製造される。SiC粉末の焼結方法としては加圧焼結法及び常圧焼結法が知られている。加圧焼結法は複雑な形状の焼結体の製造が困難であったり、生産性が悪いという欠点を有する。これに対し、常圧焼結法はSiC粉末を常温で成形後、無加圧下で焼成する方法であり、生産性に優れているという長所を有する。
【0003】
炭化珪素は難焼結性材料であり、常圧焼結で緻密化させるには焼結助剤を添加することが必要である。例えば、炭化珪素質焼結体はβ型SiC粉末に焼結助剤としてB及びCを添加することにより得られる(特公昭57−32035号公報)。
【0004】
特公昭58−14390号公報によれば、α型SiC粉末に対してもB及びCの添加が有効であり、緻密な炭化珪素質焼結体が得られている。また、特公昭60−34515号公報によれば、SiC粉末に酸化アルミニウムを添加し、常圧焼結することにより緻密な炭化珪素質焼結体が得られることが報告されている。更に、特開62−65974号公報によれば、SiCにC、B、Alを添加した密度3.05g/cm 以上の炭化珪素質焼結体が報告されている。
【0005】
焼結助剤を添加して緻密な焼結体を製造するには、SiC粉末原料に焼結助剤を均一に混合することが必要である。混合はSiC粉末と焼結助剤の粉末にバインダー、分散剤等を加え、溶媒中に均一に懸濁させてスラリー状にした後、スプレードライヤーで噴霧乾燥する方法が工業的に最も一般的である。SiCの焼結助剤として重要である炭素については合成樹脂、タール、カーボンブラックなどが炭素源として知られるが、SiC粉末に均一に混合させる目的に対してはフェノール樹脂などの合成樹脂が特に優れており、多用されている。従来はフェノール樹脂等の合成樹脂を溶解させるために、スラリーの溶媒としてアルコール等の有機溶媒が用いられてきたが、スラリーの噴霧乾燥の際に、防爆対策を考慮しなければならないなど、取り扱い上問題があった。更に、除臭等の環境対策、使用溶剤の回収等の付帯設備が必要であるなど、各種の問題を有しており、これらの問題を解決するため特開平3−23266号公報では、水溶性フェノール樹脂等の水溶性含炭素化合物を水系溶媒に溶解し、スラリーを噴霧乾燥することを提案している。
【0006】
以上のように、SiCの常圧焼結に対しては、焼結助剤の選択とその均一混合により、高密度の焼結体が得られている。しかしながら、SiCの焼結に当たっては、焼結中にガスが発生し、焼結体が大型になると高密度のものが得られないという欠点があった。すなわち、B−C系助剤を添加したSiCの焼結においては、以下のようにSiC粒子表面のSiO2 がCと反応して、SiOやCOガスが発生することが知られている。
SiO2 +C → SiO+CO
【0007】
さらに、焼結助剤としてアルミナを添加した場合には、高温下でのアルミナの揮発や、SiCとアルミナの反応によりSiOやAl2 O、CO等のガスが発生することが報告されている〔J.Mater.Sci.,29,934−938(1994).〕。高密度の炭化珪素質焼結体を製造するには、焼結中に発生するこれらのガスを系外に放出する必要があるが、焼結体が大型になると、ガスの放出が不十分となり、気孔として残るため焼結体の密度が低下するという問題があった。
【0008】
また、炭化珪素質焼結体は難加工性材料であり、製品の製造コストを下げるために、成形体や仮焼体に粗加工を施した後、本焼成を行い、仕上げ加工を行う工夫がなされている。加工コストの低減には成形体や仮焼体の粗加工の割合を多くし、本焼結後の加工を少なくすることが有効であるが、そのためには焼成時の焼成収縮率を厳密に制御する必要がある。焼結助剤の炭素源としてフェノール樹脂等の合成樹脂を用いた場合、造粒粉中の樹脂が時間とともに硬化するため、成形性が悪くなり、焼成収縮率が一定しないという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように緻密な炭化珪素質焼結体を製造するために種々の焼結助剤が提案されているが、大型の焼結体の焼結密度を上げるには更に検討が必要である。
また、大型で複雑形状の製品に関しては焼成収縮のばらつきが寸法精度のばらつきに直結するため、ばらつきを極力小さくすることが重要であり、その点も従来技術では不十分である。
【0010】
本発明は、比較的大型の炭化珪素質焼結体でも密度が高く、しかも焼成収縮のばらつきが非常に小さく、焼結後も加工が容易な炭化珪素質焼結体とその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる従来技術の問題点に鑑み鋭意検討の結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、
(1)SiC粉末100重量部に対し、水系溶媒中に分散可能な炭素質添加剤を炭素含有量に換算して1〜3重量部と、CまたはBNのうち少なくとも1種をB換算で0.2〜0.5重量部と、Al−Si−N−O系アルミニウムナイトライドポリタイプまたはAl−O−N系酸窒化アルミニウムをAl換算で0.3〜1.0重量部添加した原料組成物の粉末を水中に均一分散させたスラリーを調整し、噴霧乾燥して造粒し、成形した生成形体を不活性ガス雰囲気中で1900〜2200℃の温度で常圧焼結させることを特徴とする炭化珪素質焼結体の製造方法。
(2)前記炭素質添加剤がカーボンブラックであることを特徴とする(1)項記載の炭化珪素質焼結体の製造方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明において、遊離炭素の量を1〜3重量部、Bを0.2〜0.5重量部としたのは、CおよびBの量をこの範囲以外としたときには焼結体の密度が低下するためである。すでに公知のように、SiCはBおよびCのみを助剤として添加した場合でも焼結が可能である。しかしながら、BとCのみを添加して得られた炭化珪素質焼結体は結晶粒が小さく、難加工であり、工具の摩耗が激しかったり、加工時にチッピングが起こりやすいという問題点を有する。
【0013】
本発明においてAlを加えるのは焼結性を高めることに加え、加工性を改善するのが目的である。すなわち、Alの添加は粒成長を促進し、結果的に結晶粒が比較的大きな焼結体が得られ、焼結体の加工が容易となる。本発明においてAl量を0.3〜1.0重量部の範囲としたのは、Al量を0.3重量部より少なくした場合には、焼結体粒子(柱状粒子)の平均粒径が短軸で3μmよりも小さく、長軸で15μmよりも小さくなり、加工性改善の効果が小さくなるためであり、1.0重量部よりも多くした時には過焼成による異常粒成長の発生により焼結密度が低下するとともに、フェザー粒子(巨大粒子)が多く発生し、機械的強度が低下するためである。
【0014】
ここで、本発明請求項1に記載した微細組織とは、焼結体を構成する粒子、粒界、気孔等の三次元構造をいうが、本発明で得られる焼結体の粒子は通常、アスペクト比の大きな柱状粒子となる。各々の粒子の最大長、最小長の平均径の測定は、焼結体表面を平滑にし、粒界をエッチング後、光学顕微鏡で拡大して観察される像より測定できるものとし、それぞれの粒子の最大長と最小長の算術平均値を求める。これらは通常300個以上の粒子について求めれば十分である。
【0015】
本発明で最も重要な点はNを含有させたことであり、これにより大型のSiCを焼成した場合でも焼結密度の低下を抑制することができる。Nの量を0.1〜0.7重量部に限定したのは、N量をこの範囲外にした場合には、大型品における密度低下の抑制効果が少ないためである。
【0016】
次に、本発明の炭化珪素質焼結体の製造方法について、詳しく説明する。
まず、主成分であるSiC粉末はα型でもβ型でも良く、焼結性の面から平均粒径が0.5〜2μm程度であることが望ましい。次に、焼結助剤についてであるが、本発明の炭化珪素質焼結体を得るには焼結助剤のC源、B源、Al源に関して種々の組み合わせを考えることができる。まず、C源としてはフェノール樹脂などの合成樹脂やタール、カーボンブラックなどが挙げられる。但し、スラリーの溶媒として水を用いる場合にはタールや合成樹脂の多くは使用できない。水溶性フェノール樹脂等の水溶性含炭素化合物を水系溶媒で使用することは可能であるが、前述のように焼成収縮のばらつきが大きくなり、大型製品、複雑形状製品の製造では歩留りが低下するなどの問題が起こる。これに対し、カーボンブラックは適当な分散剤を選択することにより、水系溶媒中に分散させることが可能である。本発明者等はカーボンブラックを用いると、焼成収縮のばらつきを非常に小さくできることを見い出しており、C源としてはカーボンブラックを使用することを推奨する。
【0017】
次に、B源とAl源であるが、窒素を含有させる目的から、B源あるいはAl源の何れかを窒素含有化合物とする必要がある。B源としては金属硼素、B4 C、BNが考えられるが、金属硼素は水系溶媒中では不安定であるため推奨できない。Al源としてはAl2 3 、AlN、Al−Si−N−O系アルミニウムナイトライドポリタイプ(21R等)、酸窒化アルミニウム(Al−O−N)などが考えられる。但し、AlNは水系溶媒中では分解するため使用できない。従って、水系溶媒中で使用できるB源およびAl源の焼結助剤の組み合わせとしては、B4 Cと(Si−)Al−O−N系化合物、BNと(Si−)Al−O−N系化合物、BNとAl2 3 などが考えられ、いずれも好ましい結果が得られる。なかでも、B4 CまたはBNと(Si−)Al−O−N系化合物を用いた場合に、大型品における密度低下の抑制効果が非常に大きく、好ましい助剤系であることが分かった。
【0018】
本発明における炭化珪素質焼結体は通常のセラミックス製品の製造方法に基づいて製造することができる。まず、所定量の焼結助剤とSiC粉末にバインダー、分散剤等を加え、水系溶媒中で混合し、スラリーを調製する。混合にはボールミル、アトライターなどを用いることができる。スラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥し、造粒粉を作製する。この造粒粉を一軸プレスやCIP等により成形後、必要により加工を施し、不活性ガス雰囲気中で1900〜2200℃の温度で常圧焼結して、焼結体を得る。最後に仕上げ加工を行い、検査後、製品とする。
【0019】
本発明は主として製品の最大部分の大きさが200mm以上の比較的大型の炭化珪素製品に関するものであるが、これに限らず小型の炭化珪素製品を製造する場合においても、炉内の焼成温度の揺らぎによる製品形状のばらつきが小さいなど、有益な効果が得られる。
【0020】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(実施例1〜11、比較例1〜9)
平均粒径0.8μmのα−SiC粉末に対し、B4 CをB換算で0.3重量部、アルミニウムナイトライドポリタイプの21RをAl換算で0.5重量部、カーボンブラックを2.0重量部添加し、バインダー、分散剤を加え、水を溶媒としてボールミル混合した。得られたスラリーをスプレードライヤーにより噴霧乾燥し、平均粒径67μmの造粒粉を得た。この造粒粉をCIP成形し、直径250mm、高さ25mmの円柱状の成形体を得た。この成形体を2100℃で焼成し、焼結体密度を測定した。また、焼結体の微細組織を光学顕微鏡により観察し、300個の粒子の最大長、最小長の値からその平均値を求めた。結果を表1の実施例1に示す。
更に、実施例1と同様の方法で、焼結助剤の種類と量を変えて成形、焼成を行った。それらの結果を表1の実施例2〜9に比較例とともに示す。
【0021】
本実施例からわかるように、本発明の炭化珪素質焼結体は、比較例に示した本発明の範囲外の焼結体に比べて高密度であることがわかる。なお、比較例6のように焼結助剤としてAl源を含まない試料についても比較的高密度の焼結体が得られたが、後で実施例13で述べる様に、本発明の試料に比べて焼結体の加工が困難であり、工具摩耗量が多くなったり、チッピングを生じやすいという問題があった。また、カーボンブラックを添加した試料(実施例1〜3、5〜9)に関しては、数個ずつ焼成を行っても、焼成収縮率のばらつきは非常に小さかった。
【0022】
【表1】
Figure 0003970394
【0023】
(実施例12)
平均粒径0.8μmのα−SiC粉末に対し、B4 CまたはBNをB換算で0.3重量部、Al2 3 または21RをAl換算で0.5重量部、カーボンブラックを2.5重量部添加し、実施例1〜9と同様の方法により大きさ60〜70μm程度の造粒粉を得た。この造粒粉をCIP成形し、直径25mm、高さ15mmおよび直径250mm、高さ20mmの円柱状の成形体を作製した。この成形体を2100℃で焼成し、焼結体密度を測定し、焼結体の大きさによる密度の違いを比較した。その結果を図1に示す。焼結助剤中にNを含まないB4 C−Al2 3 添加系では小さい試料では高密度であるのに対し、試料が大型になると密度が大きく低下した。これに対し本発明のように、焼結助剤にNを含むB4 C−21R、BN−21RおよびBN−Al2 3 添加系では小型試料の密度はB4 C−Al2 3 添加系より若干劣るものの、大型の試料ではB4 C−Al2 3 添加系よりも密度が非常に高くなった。特に、B4 C−21R添加系では密度の低下が殆ど無く、BN−21R添加系とともに大型試料の焼成に最適な助剤系であることが分かる。
【0024】
(実施例13)
本発明のSiC焼結体の加工性を評価するため、ボーリング穴開け研削加工(軸心注水)、使用砥石としてメタルボンドダイヤモンドコアドリル砥石(#120、φ8mm)、砥石周速を60m/分、切り込みを40mm/分、総切り込みを10mm×10回という条件で加工を行い、キスラー動力計で動力抵抗値を測定した。その結果、Alを含まない比較例6(表1)の焼結体は1030Nの抵抗値であったのに対し、本発明の焼結体の抵抗値は390〜510Nの範囲にあり、抵抗値が1/2以下で、加工性が非常に良いことが明らかとなった。
【0025】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば密度が高く、加工が容易な、比較的大型の炭化珪素質焼結体を安定的に製造することができ、産業上非常に有益である。
【図面の簡単な説明】
【図1】各種Al−B系焼結助剤を含む炭化珪素質焼結体の密度を示した図である。

Claims (2)

  1. SiC粉末100重量部に対し、水系溶媒中に分散可能な炭素質添加剤を炭素含有量に換算して1〜3重量部と、CまたはBNのうち少なくとも1種をB換算で0.2〜0.5重量部と、Al−Si−N−O系アルミニウムナイトライドポリタイプまたはAl−O−N系酸窒化アルミニウムをAl換算で0.3〜1.0重量部添加した原料組成物の粉末を水中に均一分散させたスラリーを調整し、噴霧乾燥して造粒し、成形した生成形体を不活性ガス雰囲気中で1900〜2200℃の温度で常圧焼結させることを特徴とする炭化珪素質焼結体の製造方法。
  2. 前記炭素質添加剤がカーボンブラックであることを特徴とする請求項記載の炭化珪素質焼結体の製造方法。
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