JP3970350B2 - 光分岐デバイス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、基板上にY型分岐部を有する光導波路を形成してなる光分岐デバイスに関する。
【0002】
【従来の技術】
Y型分岐部を有する光分岐デバイスは、1×Nスプリッタ等の分岐構造として広く使用されている。図7は、この種の光分岐デバイスを使用した1×8スプリッタの一般的な構成を示す図である。
石英基板1に形成された導波路2は、入射端側から出射端側にかけて順次3回の2分岐を繰り返し、トータル8つの出射部を有している。導波路2が2分岐する部分では、Y型分岐部3が構成されている。
【0003】
図8は、従来のY型分岐部3の構造を示す図である。入射側の第1の導波路11は、光をシングルモードで伝送するため断面が8×8μm程度に設定されている。この第1の導波路11に続くテーパ部12は、第1の導波路11を伝搬した光をマルチモードに移行させる。このテーパ部12の幅広の端部に続く直線部13は、マルチモードに移行された光の波面を球面状から平面状に近づけるもので、18μm程度の幅を有する。直線部13の出射端側には、入射端面が直線部13の出射端面と僅かの間隙を介して対向するように、シングルモードの第2の導波路14及び第3の導波路15が配置されている。これら導波路14,15は、入射端から離れるに従って所定の曲率半径Rに沿って互いに離間するように形成されている。
【0004】
この種のY型分岐部3は、直線部13と第2及び第3の導波路14,15との間の結合損失をいかに低減させるかが設計上の重要な課題となる。Y型分岐部の結合損失の低減のための試みとしては、例えば「新構造Y分岐素子の低損失化」(松浦他:1994年電子情報通信学会予稿集C−330;p4−327)や特開平7−174929号等が知られている。これらに開示された技術では、分岐後の第2及び第3の導波路の端部の間隔を通常よりも広めに設定することで、両導波路間の間隙部分に相当する部分の加工を容易にしてこの部分での分岐損を抑えると同時に、第2及び第3の導波路の直線部に対向する端面の全体幅よりも、直線部の幅を大きく設定することにより、分岐後の導波路14,15間の間隙部分での放射損を抑制して電界分布の結合効率を高めるようにしている。しかし、この場合、直線部の端面の両端での放射損は生じる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来の光分岐デバイスでは、分岐前後の位相面が光の進行方向に対して直交する平面であること、即ち位相が揃っていることを想定している。このため、分岐後の第2及び第3の導波路の曲率半径Rは十分に大きく設定する必要があった。
しかしながら、このように、分岐後の導波路の曲率半径Rを大きく設定すると、デバイス全体の長さが長くなってしまうという問題がある。例えば1×8スプリッタの場合、図7に示すように、最終分岐導波路の間隔cが250μmと規定されており、その前段の分岐導波路の間隔bは500μm、更にその前段の分岐導波路の間隔aは0.1mmである。これを現状の曲率半径50mmでつなげると、素子サイズは、35×3mmになってしまう。このようなサイズでは、3インチウェアでは、チップを一列分しか配列することができないため、一枚のウェハからは10乃至15チップしか製造することができない。このため、生産性が悪くコストアップにつながるという問題がある。
また、素子サイズが大きいと、基板の歪みなどにより、接続加工が難しくなったり、素子の強度が低下する等、歩留まり低下の原因にもなる。
【0006】
この発明は、上記事情を考慮してなされたもので、素子サイズを従来よりも大幅に小さくすることができ、これによる生産性及び歩留まりの向上、ひいてはコスト低減を図ることができる光分岐デバイスを提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る光分岐デバイスは、基板と、この基板上に形成されたY型分岐部を有する導波路とを有し、前記Y型分岐部が、シングルモードで光を伝送する第1の導波路と、この第1の導波路に同一幅で接続されてその幅が前記第1の導波路から離れるに従って広がるように形成されて伝送された光をシングルモードからマルチモードに移行させるテーパ部と、一端が前記テーパ部の幅広の端部に接続され前記テーパ部の幅広の端部と同一幅で所定の長さを有し前記マルチモードに移行した光を伝送する直線部と、それぞれの端部が前記直線部の他端と対向するよう配置され前記直線部から離れるに従って所定の曲率で互いに離間するように形成されて前記直線部の他端からの光をシングルモードで伝送する第2及び第3の導波路とを備えた光分岐デバイスにおいて、前記第2及び第3の導波路の端部の曲率半径が50mmよりも小さく、且つ前記直線部の幅及び長さが、前記テーパ部で球面状となった同位相面が平面とならず球面状を保ったまま前記第2及び第3の導波路に入射し、且つ、前記第2及び第3の導波路の端部の曲率半径と端部間の間隙によって決定される理想的な入射電界パターンのピークが、前記直線部の出射端面で得られる電界パターンのピークと一致するよう決定されていることを特徴とする。
【0008】
即ち、一般に導波路の曲線部では、光の電界分布のピーク値が曲線の外径側に移動することが知られており、曲率半径が小さくなればなるほどピーク値は曲線の外側に位置する。従って、分岐後の導波路(第2及び第3の導波路)の分岐端面での理想的な電界パターンの2つのピーク値は、曲率半径が小さいほど両導波路の間隙部側に寄る。この分岐端部での電界パターンと整合する電界パターンの光を直線部の出射端面側から出射すれば、分岐部での結合損失を最も小さくすることができる。
【0009】
直線部を伝搬するマルチモードの光の電界パターンは、モード間の位相速度の差によって脈動する。このため、理想的な2つのピークを持つ電界パターンが出射端面で得られるように直線部の長さを決定し、且つ分岐後の導波路の曲率半径に応じた位置にピーク値が位置するように直線部の幅を決定すればよい。
また、分岐部の曲率半径が小さい場合には、結合端での理想的な同位相面は、平面よりもむしろ球面状となる。このため、理想的な同位相面も直線部の幅及び長さによって決定することができる。
【0010】
なお、この他、テーパ部のテーパ角は、直線部での高次モードの励振強度を決定するので、直線部の幅及び長さと共に、設計上の主要なパラメータとなるが、曲率半径との関係は無視できる程度に小さいため、この発明では任意パラメータとしている。
【0011】
本発明では、分岐後の導波路の曲率半径を50mmより小さい、例えば20mm程度とした場合、電界パターンの2つのピーク値を理想的な位置に寄せるため、例えば直線部の幅を第2及び第3の導波路の端部の外側の側壁面間の幅よりも小さく設定している。
【0012】
このように本発明によれば、曲率半径を従来よりも小さくできたことにより、チップサイズを従来よりも小型化することができ、チップの生産性向上と歩留まり向上を図ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、この発明の実施例を説明する。
図1はこの発明の一実施例による光分岐デバイスのY分岐部の構成を示す図である。
このY型分岐部は、図7に示した1×8スプリッタ等に適用されるもので、従来とほぼ同様に、入射側の第1の導波路21に続くテーパ部22、これに続く直線部23並びに直線部23と所定ギャップG1を介して対向する第2及び第3の導波路24,25により構成されている。これらは、図3(a)に図1のA−A断面、図3(b)に同じくB−B断面を示すように、例えば石英系基板型光回路からなるもので、石英基板31上にホトリソグラフにより形成された石英からなる導波路を上部石英クラッド層32で覆う構造となっている。
【0014】
この実施例の光分岐デバイスが従来のものと異なる点は、第1に分岐後の導波路24,25の曲率半径が20mmに設定されている点と、直線部23と導波路24,25との間の結合損を最小値に抑えるように、テーパ部22のテーパ角θ、直線部23の幅W及び長さL並びにギャップG1,G2等が最適な値に設定されている点である。
具体的に説明すれば、第1〜第3の導波路21,24,25は、例えば波長1.31μmの光をシングルモードで伝送可能にするため、クラッド層32との屈折率差を0.27%程度とし、コアサイズを8×8μmとしている。テーパ部22及び直線部23の厚さは8μmに設定されている。直線部23と第2及び第3の導波路24,25との間隙G1は2μm、第2及び第3の導波路24,25間の結合端面でのギャップG2は2μm、結合端部の曲率半径Rは20mmとしている。テーパ角θ、直線部23の幅W、長さLについては後述する。
【0015】
図1には、このY型分岐部を進行する光の電界パターンも示されている。シングルモードの導波路21を伝搬した光は、テーパ部22でマルチモードに移行して直線部23を進行中に脈動する。このとき、テーパ角θは高次モードの励起強度を決定する。直線部23によって、高次モードによる2つのピークが最も強く現れる位置で導波路24,25に光を伝達するのが理想的な結合である。
図4に、導波路24,25の曲率半径Rが大のときと小のときの導波路24,25の結合端面での理想的な受光電界パターンを示す。曲率半径Rが小さい場合には、大きい場合よりも2つのピークの位置が中央に位置する。これは、導波路24,25の曲率半径が小さいほど、光のピーク値が曲線の外側に移動して光が進行するからである。そこで、直線部23の幅Wを小さくすることにより、前述した高次モードによる2つのピーク位置を中央に寄せることができる。
【0016】
一方、図2は、このY型分岐部を進行する光の同位相面を示す図である。直線部23の長さが長くなると、テーパ部22で球面状となった同位相面が平面に近づいてくる。直線部23の出射端で同位相面が平面であると、導波路24,25の曲率半径Rをあまり小さく設定することができない。位相面が不整合になって結合損を増加させるからである。この実施例では、同位相面が平面になる前に直線部23を終了させることにより、導波路24,25の曲率半径Rが小さくても、結合損が大きくならないようにしている。
【0017】
本発明者は、テーパ部22のテーパ角を1°とし、直線部23の幅Wを15μm、16μm、18μmと順次変え、それぞれについて直線部23の長さLを50μmから150μmまで変化させて、それぞれの分岐損失をビーム伝搬法によるシミュレーションによって求めた。その結果を図5に示す。
【0018】
この図に示すように、W=15μmのとき、L=100μmで分岐損失が0.187dBと最小となることが明らかになった。このときの直線部の幅W=15μmは、導波路24,25の直線部23への対向端面の全体幅20μmよりも小さくなっている。このため、先に示した従来例のように、直線部23の出射端面の両側面近傍からの放射損失も生じない。
【0019】
なお、このように曲率半径Rが小さくなると、分岐後の導波路の曲げ損が増大することが予想されるが、本発明者の実験によれば、図6に示すように、各導波路25,26,27の変曲点で、結合部をシフト量sだけシフトさせることにより、曲率半径Rが20mmでも曲げ損失を0.35から0.1dBまで低減することが確認された。
【0020】
このような構成により、図7に示したような1×8スプリッタを構成すると、従来35mmであった素子長を17mmと1/2以下にすることができ、1ウェハからとれるチップの数は2倍以上とすることができた。この結果、チップの生産性と歩留まりとを格段に向上させることができた。また、Y分岐部の曲げ損と結合損とを合わせて0.3dB以下とすることができ、1×8スプリッタ全体でも0.9dB以下に抑えることが確認できた。
【0021】
なお、以上の実施例で示した数値は一例であって、曲率半径Rを例えば40mmにしたときの直線部の最適幅は15〜16μm、最適長さは150μmで、得られる1×8スプリッタのチップ長さは25mmであった。また、曲率半径Rを20mmとして1×16スプリッタを構成すると、チップサイズは26.4mmにすることができる。
【0022】
このように、曲率半径Rを従来の50mmよりも小さい値に設定し、その値から求められる理想的な結合電界パターンにより、直線部の幅及び長さを最適値に設定することにより、結合損を最小にした状態で小さなチップを製造することができる。また、チップサイズが半分となることで、強度は4倍となる。更に、基板の内部応力に起因した歪み(反り)も1/4となるので、端面での接続の際の調芯時間も短縮することができる。
【0023】
なお、上記実施例では、石英基板を使用した例について説明したが、Si基板、サファイヤ基板、アルミナ基板等を使用し、その上にガラスの導波路を形成した光分岐デバイスにも本発明を適用可能である。
【0024】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、曲率半径を従来よりも小さく設定し、これにより発生する分岐損失は分岐手前の直線部の幅、長さを最適化することにより抑制しているので、チップサイズを従来よりも小型化することができ、チップの生産性向上と歩留まり向上とを図ることができ、チップのコスト低減を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の一実施例に係る光分岐デバイスのY分岐部の構成を示す平面図である。
【図2】 同分岐部における光の同位相面の進行状態を模式的に示す図である。
【図3】 図1におけるA−A断面及びB−B断面を示す断面図である。
【図4】 同分岐部の分岐端部における電界パターンを示す図である。
【図5】 同分岐部における直線部の幅及び長さと分岐損失との関係を示すグラフである。
【図6】 同光分岐デバイスの曲線部の構造を示す図である。
【図7】 Y分岐部を使用した1×8スプリッタの構成を示す平面図である。
【図8】 従来のY分岐部の構造を示す平面図である。
【符号の説明】
1,31…基板、2,26,27…導波路、3…Y分岐部、11,21…第1の導波路、12,22…テーパ部、13,23…直線部、14,24…第2の導波路、15,25…第3の導波路、32…クラッド層。
Claims (1)
- 基板と、この基板上に形成されたY型分岐部を有する導波路とを有し、
前記Y型分岐部が、シングルモードで光を伝送する第1の導波路と、この第1の導波路に同一幅で接続されてその幅が前記第1の導波路から離れるに従って広がるように形成されて伝送された光をシングルモードからマルチモードに移行させるテーパ部と、一端が前記テーパ部の幅広の端部に接続され前記テーパ部の幅広の端部と同一幅で所定の長さを有し前記マルチモードに移行した光を伝送する直線部と、それぞれの端部が前記直線部の他端と対向するよう配置され前記直線部から離れるに従って所定の曲率で互いに離間するように形成されて前記直線部の他端からの光をシングルモードで伝送する第2及び第3の導波路とを備えた光分岐デバイスにおいて、
前記第2及び第3の導波路の端部の曲率半径が50mmよりも小さく、且つ前記直線部の幅及び長さが、
前記テーパ部で球面状となった同位相面が平面とならず球面状を保ったまま前記第2及び第3の導波路に入射し、且つ
前記第2及び第3の導波路の端部の曲率半径と端部間の間隙によって決定される理想的な入射電界パターンのピークが、前記直線部の出射端面で得られる電界パターンのピークと一致するよう決定されている
ことを特徴とする光分岐デバイス。
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