JP3968909B2 - 擬紗織物の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、衣料用途、特に和装分野で広く用いられているカラミ織物に類似する擬紗織物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、紗、絽などのカラミ織物は、特に夏物の和装用途や法衣用途として広く使用されてきている。一般織物とは異なり、カラミ織物はタテ糸とヨコ糸を単に交差して組織を形成するのではなく、捩りながらタテ糸とヨコ糸が交錯するため、織物の密度が低くてもタテ糸とヨコ糸がずれる現象、いわゆる目ずれが生じ難い織物を形成することができ、密度が低いことにより、夏物の和装品としては通気性が良く、快適感がある。
【0003】
これらカラミ織物の製造方法は、カラミ綜絖で製織する方法や半綜絖と呼ばれる特殊な綜絖を使用して製織するのが一般的である。しかし、それ故に製織工程の準備段階での作業が繁雑であり、製織時での生産性は著しく低下する。まして、高速での製織は不可能に近い。そのために、自ずとコストが高くなり、一般織物への展開を阻んできた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記のような従来の欠点を解消し、得られる織物の特性がカラミ織物に類似し、かつ安定して生産性を高めるポリエステル系マルチフィラメント糸を使用して、カラミ織物の特性である通気性能や独特の表面変化を具備した擬紗織物の製造方法を提供すること、さらには、本発明によれば、一般的に使用される有杼織機は言うに及ばず、高速製織が可能な無杼織機でも対応が可能となるばかりでなく、安定して高い品位の織物をも提供できることから、従来の方法では製織性の困難であった素材を使用することも可能で、また主に夏物素材として使用されるカラミ織物の特徴である通気性を有する擬紗織物物の製造方法を提供することを課題とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
ポリエステル系マルチフィラメント糸からなる織物であって、密に配列された複数本のタテ糸からなるタテ糸群と、隣接する他の密に配列された他のタテ糸群との間隔が、該タテ糸群を構成するタテ糸同志の間隔よりも大きな間隔を有して配置されている織物を製造するに際し、密に配列された複数本のタテ糸からなるタテ糸群を1単位として、空隙率45〜65%の範囲にある筬に引き通し、タテ糸のカバーファクターKw、タテ糸およびヨコ糸の撚数T(t/m)が下記(1)式および(2)式の範囲となるようにしたことを特徴とする擬紗織物の製造方法である。
【0006】
800≦Kw≦1350 …(1)
撚数T≧9500/D1/2 …(2)
(ただし、Kw=Nw×Dw1/2
Nw:タテ糸密度(本/インチ)
Dw:タテ糸の繊度(デニール)
D:タテ糸またはヨコ糸の繊度(デニール)を表す)
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明は、ポリエステル系マルチフィラメント糸により織物を構成する。
【0008】
本発明のポリエステル系マルチフィラメント糸は、エチレンテレフタレート単位、エチレン5−ソジウムスルフォイソフタレート単位を含み、もしくは、それら以外の構成単位を含んでいてもよい。具体的にはアジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジオール、キシリレングリコール、2,2−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなどの芳香族ジオール、4−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのオキシカルホン酸及びポリエチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコールなどからの構成単位を用いることができる。
【0009】
また、ポリエステル系マルチフィラメント糸は仮撚加工された捲縮糸、複合仮撚加工糸、乱流ノズルやインターレースノズルでループや交絡加工されたものでも良い。さらに繊維の断面については、丸断面、多角断面、多葉断面、およびこれらの断面がミックスされていても良い。
【0010】
次に、カラミ織物について述べる。図3はカラミ織物の組織構造を示す概略図であり、(A)は平面図、(B)は側面断面図である。カラミ織物は普通の織物と異なり、タテ糸は平行しておらず互いに搦みあい、これにヨコ糸1を組織させて形成される。カラミ織のタテ糸には普通に上下する地タテ糸2と、カラミタテ糸3と呼ぶ2種のタテ糸を普通の綜絖と捩り綜絖とによってタテ糸を互いに搦らませるのである。このように互いのタテ糸が搦らんだ構造であるが故に織物密度が極端に低くても、目ずれすることのない通気性の良い織物とすることができるのである。特殊な織物、特殊な製法ゆえに生産性は低く、コスト高になり、和装用途中心に高級分野にのみ採用されているのが現状である。
【0011】
本発明により得られる擬紗織物はカラミ織物の外観と通気性の特性を併せ持つ普通構造の織物であるため、生産性も高く、低コストで生産が可能である。図1は本発明により得られる擬紗織物の組織構造の一例を示す概略図である。タテ糸4の複数本(図の例ではタテ糸3本)が密接して一つのタテ糸群5を構成し、一つのタテ糸群5と隣接する他のタテ糸群5′との間がある間隔Hを保有していることが重要である。
【0012】
すなわち、本発明においては、密に配列された複数本のタテ糸4からなるタテ糸群5を構成するタテ糸4同志の間隔hよりも、タテ糸群5と他のタテ糸群5′との間隔Hが、大きな間隔を有して配置されていることが重要である。
【0013】
このようにすることにより、織物構造的には普通の織物でありながら外観はカラミ織り風の様相を呈するのである。このように複数本のタテ糸を密接させて束状にするには、織物を構成するタテ糸、ヨコ糸に施す撚糸数と織物を製造するときに使用する筬の空隙率が重要なポイントである。後者については後で詳しく述べる。
【0014】
本発明で使用するタテ糸およびヨコ糸の撚糸数TがT≧9500/D1/2 を満足するように施撚することが重要である。糸に撚が付与されていると糸表面に撚条痕が現れ、これが糸と糸の摩擦を高めることになるからである。
【0015】
すなわち、織物のタテ糸とヨコ糸が交錯したとき滑りにくくなり、従って、織物密度が低くても目ずれすることがなく、通気性の高い織物とすることができるのである。例えば、150Dの糸を使用する場合、約780t/m以上の撚数、75Dであれば約1000t/m以上の撚数を付与する。これより撚数が少ないと目ずれが発生しやすくなる。
【0016】
一方、使用する糸に捲縮やループなどが存在すると、撚条痕と相まって摩擦係数を高めるため好ましい。さらに、糸断面については多角形、多葉断面も同様の効果があり施撚と併用すればより好ましい。
【0017】
織物のタテ糸のカバーファクターKwは、タテ糸密度Nw(本/in)と使用する糸の繊度Dw(デニール)によりNw×Dw1/2 で表す。このカバーファクターの数値が大きくなることは、ある一定面積内の糸の占める割合が大きいことであり、織物は詰まったものとなる。逆に、数値が小さいときは織物は目の透いたものである。本発明でのタテ糸のカバーファクターKwの範囲は次式の範囲にあることが重要である。
【0018】
800≦Kw=Nw×Dw1/2 ≦1350
タテ糸のカバーファクターKwが800未満であると、通気性は満足するものの、たとえ上述の撚数を満足していても目ずれが発生し易くなる。
【0019】
また、1350を越えると目ずれはしにくくなるが、通気性が著しく低下するのみならず、カラミ織物の外観をも損なうこととなる。カラミ織物の特徴である通気性能を持ち、目ずれしない擬紗織物を形成するには以上の条件を満足することが重要である。
【0020】
複数本のタテ糸を密に配列するためには、タテ、ヨコ糸の撚数が重要であることは前述したとおりであるが、これだけでは不十分であり、筬の空隙率が重要となる。以下詳細に述べる。
【0021】
織物を織るとき、筬と呼ばれる金属製の櫛状のものが使用される。図2はその概略図である。タテ糸4は筬羽6と筬羽6′の間に引き込まれており、図示しない綜絖により開口された杼口にヨコ糸が挿入され、続いてこの筬が前後運動することによりヨコ糸とタテ糸がしっかりと交錯し織物構造を形成する。筬はタテ糸密度をきめる重要な役目がある。例えば78羽/鯨寸(3.787cm)の筬といえば、1鯨寸(3.787cm)あたり78羽の筬羽が存在する筬密度を意味する。このとき、図3においてs+tは3.787cm/78羽=0.049cm/羽である。一般に筬の空隙率K(%)=s/(s+t)×100で表す。空隙率K=60%ならば、sすなわちタテ糸が引き込まれる部分の距離は約0.03cmであり、tすなわち筬のワイヤの厚みは約0.019cmである。空隙率が大きいということはタテ糸が引き込まれる空間距離が大きく、筬を形成するワイヤの厚みが薄いということである。本発明での筬の空隙率は45〜65%であることが好ましい。空隙率が大きすぎると引き込まれたタテ糸が筬羽内で動きやすい状態となり、織物に形成されたときタテ糸が密に配列しにくくなり、搦み織物様の外観となりにくくなる。また小さすぎるとタテ糸が密にはなるものの、糸糸間或いは糸金属間の摩擦が大きくなり、毛羽を誘発することになり、製織性を著しく悪化させる。従って、筬の空隙率は45〜65%の範囲が好ましい。
【0022】
【実施例】
以下、本発明の擬紗織物の製造方法の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
[実施例1]
熱可塑性ポリエステルマルチフィラメント糸75デニール24フィラメント仮撚加工糸に1300t/mの撚をかけタテ糸とし、ヨコ糸には同様の150デニール48フィラメント糸に800t/mの撚をかけた。織密度142×62本/in、織組織は平織とし、使用した筬は68羽/鯨寸の空隙率55%で、1羽あたりの引き込み本数を3本とした。ついで減量加工、分散染料で染色加工した。
【0023】
得られた織物の密度は146×71本/inでありこの時のタテ糸のカバーファクターKwは1264であった。織物の外観は3本のタテ糸が密に配列されてカラミ織物様であった。ついで、織物の目ずれの測定を試みた。
【0024】
測定方法は10cm×17cmの試験片をタテ、ヨコ方向にとり、長辺方向を布目と平行に合わせその端から1cm内側のところを規定の縫製条件1)で布目に沿って本縫いし、ついで引張試験機のつかみ間隔を7.6cmとし、試験片の縫い目がつかみ間の中央になるように上下つかみに固定した。引張速度30cm/minで5kgの荷重になるまで引っ張った後、試験片を取り外し、平らな台に水平状態で1時間放置した。放置後試験片の縫い目に対し直角方向に初荷重0.5kgを加え、縫い目の最大滑り巾を読みとり縫目滑脱距離とした。この結果、タテ、ヨコの縫い目ずれはそれぞれ1.8mm、0.5mmと満足のいく結果が得られた。
【0025】
さらに、通気性の評価をした。測定方法はフラジール型試験機を用い、試験布帛を通過する空気量を測定した結果、189cc/cm2 /秒であり、これについても満足のいくものであった。
1)縫製条件 ・ミシン機種:JUKI DDL−227
・ミシン針 :#11(普通針)DBX1 ORGAN
・ミシン糸 :ポリエステルフィラメント縫い糸 70DX3
・縫目の大きさ:5針/cm(本縫い)
・ミシン速度:3000〜3500針/min
[比較例1]
実施例1と同様の糸を用いタテ糸には800t/mの撚をかけ、ヨコ糸には500t/mの撚をかけて同様の織密度、織組織、筬にて製織した。染色加工後得られた織物のタテ糸は束状を呈することなく、織物の外観はカラミ織物様とはほど遠いもので普通の織物であった。また、目ずれしやすく所望の織物は得られなかった。
[比較例2]
実施例1と同様の糸を用いタテ糸には1300t/m、ヨコ糸には800t/mの撚をかけ、168×44本/inの織密度で織組織は平織とし、使用した筬は80羽/鯨寸の空隙率55%、1羽あたりの引き込み本数を3本とした。ついで減量加工、分散染料で染色加工した。得られた織物の密度は173×50本/inであった。この時のタテ糸のカバーファクターKwは1498であった。得られた織物はタテ糸密度が高すぎて束状の密のタテ配列がなく、カラミ織物の外観を呈していなかった。また、目ずれはクリアしたものの、通気性は98cc/cm2 /秒と低い値であった。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、カラミ織物の低生産性、高コストを一挙に解決するため、布帛のタテ糸のカバーファクター、使用する糸の撚数、さらには製織時の筬の空隙率を考慮することにより、カラミ織物独特の外観と最大の特徴である通気性を兼ね備え、しかも安定した品位、高生産性、低コストで作り出す新規な擬紗織物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る擬紗織物の織物構造の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に係る筬の空隙率を説明するための概略図である。
【図3】カラミ織物を説明するためのカラミ織物構造のモデル図である。
【符号の説明】
1:ヨコ糸
2:地タテ糸
3:カラミタテ糸
4:タテ糸
5,5′:タテ糸群
6,6′:筬羽

Claims (1)

  1. ポリエステル系マルチフィラメント糸からなる織物であって、密に配列された複数本のタテ糸からなるタテ糸群と、隣接する他の密に配列された他のタテ糸群との間隔が、該タテ糸群を構成するタテ糸同志の間隔よりも大きな間隔を有して配置されている織物を製造するに際し、密に配列された複数本のタテ糸からなるタテ糸群を1単位として、空隙率45〜65%の範囲にある筬に引き通し、タテ糸のカバーファクターKw、タテ糸およびヨコ糸の撚数T(t/m)が下記(1)式および(2)式の範囲となるようにしたことを特徴とする擬紗織物の製造方法
    800≦Kw≦1350 …(1)
    撚数T≧9500/D1/2 …(2)
    (ただし、Kw=Nw×Dw1/2
    Nw:タテ糸密度(本/インチ)
    Dw:タテ糸の繊度(デニール)
    D:タテ糸またはヨコ糸の繊度(デニール)を表す)
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