内燃機関の燃料噴射方式としては、上述の動力出力装置が備える筒内に直接燃料噴射する筒内燃料噴射式と、内燃機関の吸気ポートに燃料噴射するポート燃料噴射式とがあり、そのいずれの方式の内燃機関も電動機と共に動力出力装置として車両に搭載されている。ところで、内燃機関としては、こうした筒内燃料噴射式とポート燃料噴射式との双方を兼ね備えるものも考えることができる。
本発明の動力出力装置およびこれを搭載する自動車並びにその制御方法は、筒内用燃料噴射弁とポート用燃料噴射弁とを有する内燃機関と電動機とを備える動力出力装置を提供することを目的の一つとする。また、本発明の動力出力装置およびこれを搭載する自動車並びにその制御方法は、筒内用燃料噴射弁とポート用燃料噴射弁とを有する内燃機関と電動機とを備える動力出力装置において、要求動力に応じた動力を出力することを目的の一つとする。さらに、本発明の動力出力装置およびこれを搭載する自動車並びにその制御方法は、筒内用燃料噴射弁とポート用燃料噴射弁とを有する内燃機関と電動機とを備える動力出力装置において、燃料噴射を切り替える際に駆動軸に生じ得るトルク変動を抑制することを目的の一つとする。あるいは、本発明の動力出力装置およびこれを搭載する自動車並びにその制御方法は、筒内用燃料噴射弁とポート用燃料噴射弁とを有する内燃機関と電動機とを備える動力出力装置において、内燃機関の燃料噴射における調整を効率的に行なうことを目的の一つとする。また、本発明の動力出力装置およびこれを搭載する自動車並びにその制御方法は、筒内用燃料噴射弁とポート用燃料噴射弁とを有する内燃機関と電動機とを備える動力出力装置において、要求動力に応じた動力を出力しながら内燃機関の燃料噴射における調整を行なうことを目的の一つとする。
本発明の動力出力装置およびこれを搭載する自動車並びにその制御方法は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
本発明の動力出力装置は、
駆動軸に動力を出力可能な動力出力装置であって、
筒内に燃料を噴射する筒内用燃料噴射弁と吸気ポートに燃料を噴射するポート用燃料噴射弁とを有する内燃機関と、
前記駆動軸に動力を入出力可能な電動機と、
前記電動機と電力のやり取りが可能な蓄電手段と、
を備えることを要旨とする。
この本発明の動力出力装置によれば、状況に応じて内燃機関を筒内用燃料噴射弁からの燃料噴射による運転やポート用燃料噴射弁からの燃料噴射による運転,筒内用燃料噴射弁とポート用燃料噴射弁の双方からの燃料噴射による運転を切り替えて行なうことができる。この結果、エネルギ効率を向上させることもできるし、迅速なトルク変化にも対応することができる。しかも、電動機も備えるから、こうした内燃機関との協調制御を行なうことにより変化に対しても迅速に安定して対応することができる。
こうした本発明の動力出力装置において、操作者の操作に基づいて前記駆動軸に要求される要求動力を設定する要求動力設定手段と、前記設定された要求動力に基づく動力が前記駆動軸に出力されるよう前記内燃機関と前記電動機とを制御する制御手段と、を備えるものとすることもできる。こうすれば、操作者の操作に基づく要求動力に応じた動力を駆動軸に出力することができる。
この要求動力に応じた動力を駆動軸に出力する態様の本発明の動力出力装置において、前記内燃機関からの動力の少なくとも一部を前記駆動軸に伝達可能な動力伝達手段を備えるものとすることもできる。こうすれば、内燃機関からの動力と電動機からの動力を駆動軸に出力することができる。
この内燃機関からの動力を駆動軸に伝達する態様の本発明の動力出力装置において、前記制御手段は、前記筒内用燃料噴射弁からの燃料噴射による筒内噴射運転と前記ポート用燃料噴射弁からの燃料噴射によるポート噴射運転とを含む複数の燃料噴射運転のうち指定された燃料噴射運転により前記内燃機関を運転制御すると共に該内燃機関の燃料噴射運転の切替に伴って前記駆動軸に生じるトルク変動の少なくとも一部を打ち消すよう前記電動機を駆動制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、内燃機関の燃料噴射運転の切替に伴って駆動軸に生じ得るトルク変動を抑制することができる。
また、内燃機関からの動力を駆動軸に伝達する態様の本発明の動力出力装置において、制御手段は、前記内燃機関の燃料噴射に関する所定の調整を行なわない通常時には前記設定された要求動力に基づく動力が前記駆動軸に出力されるよう前記内燃機関と前記電動機とを制御し、前記所定の調整を行なう調整時には該所定の調整に必要な運転が優先して行なわれると共に前記設定された要求動力に基づく動力が前記駆動軸に出力されるよう前記内燃機関と前記電動機とを制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、内燃機関の燃料噴射に関する所定の調整を行なわない通常時には操作者の操作に基づいて設定された要求動力に基づく動力が駆動軸に出力されるよう内燃機関と電動機とを制御し、上述の所定の調整を行なう調整時にはこの所定の調整に必要な運転が優先して行なわれると共に設定された要求動力に基づく動力が駆動軸に出力されるよう内燃機関と電動機とを制御することができる。この結果、駆動軸に要求動力に応じた動力を出力しながら内燃機関の燃料噴射に関する所定の調整を効率的に行なうことができる。
この所定の調整を行なう態様の本発明の動力出力装置において、前記所定の調整は、前記筒内用燃料噴射弁のみからの燃料噴射に基づく第1の調整と前記ポート用燃料噴射弁のみからの燃料噴射に基づく第2の調整と前記筒内用燃料噴射弁および前記ポート用燃料噴射弁の双方からの燃料噴射に基づく第3の調整のうち少なくとも一つの調整を含み、前記制御手段は、前記第1の調整を行なうときには前記筒内用燃料噴射弁のみからの燃料噴射により前記内燃機関が優先して運転されるよう該内燃機関を制御し、前記第2の調整を行なうときには前記ポート用燃料噴射弁のみからの燃料噴射により前記内燃機関が優先して運転されるよう該内燃機関を制御し、前記第3の調整を行なうときには前記筒内用燃料噴射弁および前記ポート用燃料噴射弁の双方からの燃料噴射により前記内燃機関が優先して運転されるよう該内燃機関を制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、各調整(第1ないし第3の調整)をより適正に行なうことができる。
また、所定の調整を行なう態様の本発明の動力出力装置において、前記制御手段は、前記所定の調整を行なう要請がなされたときには、前記通常時における前記内燃機関の運転が該所定の調整を行なうのに必要な運転を含む所定運転領域になったときに前記調整時として前記内燃機関と前記電動機とを制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、操作者の予期しないタイミングで所定の調整を行なうために内燃機関が運転されるのを抑制することができる。この結果、操作者の予期しないタイミングで内燃機関が運転されることに伴って操作者に違和感を感じさせるのを抑止することができる。この場合、前記制御手段は、前記所定の調整を行なう要請がなされたときには、前記蓄電手段の状態に基づいて前記所定の調整を実行する手段であるものとすることもできる。こうすれば、所定の調整を完了するために蓄電手段を過充電したり過放電するのを抑止することができると共に所定の調整を未完了の状態で中止するのを抑制することができる。
さらに、所定の調整を行なう態様の本発明の動力出力装置において、前記制御手段は、前記調整時には前記内燃機関が前記所定の調整を行なうのに必要な運転領域で運転されるよう該内燃機関を制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、所定の調整をより適正に行なうことができる。
また、所定の調整を行なう態様の本発明の動力出力装置において、前記所定の調整は、燃料噴射に関連する異常判定を行なうための調整であるものとすることもできるし、燃料噴射に関連する学習を行なうための調整であるものとすることもできるし、前記筒内用燃料噴射弁または前記ポート用燃料噴射弁の機能確保のための調整であるものとすることもできる。
内燃機関からの動力を駆動軸に伝達する態様の本発明の動力出力装置において、前記動力伝達手段は、前記内燃機関の出力軸と前記駆動軸とに接続され、電力と動力との入出力を伴って前記内燃機関からの動力の少なくとも一部を前記駆動軸に出力する手段であるものとすることもできる。この場合、前記動力伝達手段は、前記内燃機関の出力軸と前記駆動軸と第3の軸との3軸に接続され該3軸のうちいずれか2軸に入出力した動力に基づいて残余の軸に動力を入出力する3軸式動力入出力手段と、前記第3の軸に動力を入出力する発電機とを備える手段であるものとすることもできるし、前記内燃機関の出力軸に取り付けられた第1の回転子と前記駆動軸に取り付けられた第2の回転子とを備え、該第1の回転子と該第2の回転子との電磁作用による電力の入出力を伴って該内燃機関からの動力の少なくとも一部を該駆動軸に出力する対回転子電動機であるものとすることもできる。
本発明の自動車は、上述のいずれかの態様の本発明の動力出力装置、即ち、基本的には、駆動軸に動力を出力可能な動力出力装置であって、筒内に燃料を噴射する筒内用燃料噴射弁と吸気ポートに燃料を噴射するポート用燃料噴射弁とを有する内燃機関と、前記駆動軸に動力を入出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやり取りが可能な蓄電手段と、を備える動力出力装置を搭載し、車軸が前記駆動軸に連結されてなることを要旨とする。
この本発明の自動車では、上述のいずれかの態様の本発明の動力出力装置を搭載するから、本発明の動力出力装置が奏する効果、例えば、状況に応じて内燃機関の燃料噴射の形態を切り替えて行なうことによりエネルギ効率を向上させることもできると共に迅速なトルク変化にも対応することができる効果や内燃機関と電動機との協調制御により変化に対して迅速に安定して対応することができる効果、操作者の操作に基づく要求動力に応じた動力を駆動軸に出力することができる効果、内燃機関の燃料噴射運転の切替に伴って駆動軸に生じ得るトルク変動を抑制することができる効果、駆動軸に要求動力に応じた動力を出力しながら内燃機関の燃料噴射に関する所定の調整を効率的に行なうことができる効果などと同様な効果を奏することができる。
本発明の動力出力装置の制御方法は、
筒内に燃料を噴射する筒内用燃料噴射弁と吸気ポートに燃料を噴射するポート用燃料噴射弁とを有する内燃機関と、駆動軸に動力を入出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやり取りが可能な蓄電手段と、を備える動力出力装置の制御方法であって、
(a)操作者の操作に基づいて前記駆動軸に要求される要求動力を設定し、
(b)前記設定された要求動力に基づく動力が前記駆動軸に出力されるよう前記内燃機関と前記電動機とを制御する
ことを要旨とする。
この本発明の動力出力装置の制御方法によれば、状況に応じて内燃機関を筒内用燃料噴射弁からの燃料噴射による運転やポート用燃料噴射弁からの燃料噴射による運転,筒内用燃料噴射弁とポート用燃料噴射弁の双方からの燃料噴射による運転を切り替えて行なうことができると共に操作者の操作に基づく要求動力に応じた動力を駆動軸に出力することができる。この結果、操作者の操作に基づく動力に応じた動力を駆動軸に出力しながらエネルギ効率を向上させることができる。
こうした本発明の動力出力装置の制御方法において、前記動力出力装置は、前記内燃機関からの動力の少なくとも一部を前記駆動軸に伝達可能な動力伝達手段を備え、前記ステップ(b)は、前記筒内用燃料噴射弁からの燃料噴射による筒内噴射運転と前記ポート用燃料噴射弁からの燃料噴射によるポート噴射運転とを含む複数の燃料噴射運転のうち指定された燃料噴射運転により前記内燃機関を運転制御すると共に該内燃機関の燃料噴射運転の切替に伴って前記駆動軸に生じるトルク変動の少なくとも一部を打ち消すよう前記電動機を駆動制御するステップであるものとすることもできる。こうすれば、内燃機関の燃料噴射運転の切替に伴って駆動軸に生じ得るトルク変動を抑制することができる。
また、本発明の動力出力装置の制御方法において、前記動力出力装置は、前記内燃機関からの動力の少なくとも一部を前記駆動軸に伝達可能な動力伝達手段を備え、前記ステップ(b)は、前記内燃機関の燃料噴射に関する所定の調整を行なわない通常時には前記設定された要求動力に基づく動力が前記駆動軸に出力されるよう前記内燃機関と前記電動機とを制御し、前記所定の調整を行なう調整時には該所定の調整に必要な運転が優先して行なわれると共に前記設定された要求動力に基づく動力が前記駆動軸に出力されるよう前記内燃機関と前記電動機とを制御するステップであるものとすることもできる。こうすれば、内燃機関の燃料噴射に関する所定の調整を行なわない通常時には操作者の操作に基づいて設定された要求動力に基づく動力が駆動軸に出力されるよう内燃機関と電動機とを制御し、上述の所定の調整を行なう調整時にはこの所定の調整に必要な運転が優先して行なわれると共に設定された要求動力に基づく動力が駆動軸に出力されるよう内燃機関と電動機とを制御するから、駆動軸に要求動力に応じた動力を出力しながら内燃機関の燃料噴射に関する所定の調整を効率的に行なうことができる。
図1は、本発明の一実施例である動力出力装置を搭載したハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、動力出力装置全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
エンジン22は、図2に示すように、筒内に直接ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料を噴射する筒内用燃料噴射バルブ125と、吸気ポートに燃料を噴射するポート用燃料噴射バルブ126とを備える内燃機関として構成されている。エンジン22は、こうした二つの燃料噴射バルブ125,126を備えることにより、エアクリーナ122により清浄された空気をスロットルバルブ124を介して吸入する共にポート用燃料噴射バルブ126からガソリンを噴射して吸入された空気とガソリンとを混合し、この混合気を吸気バルブ128を介して燃焼室に吸入し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギにより押し下げられるピストン132の往復運動をクランクシャフト26の回転運動に変換するポート噴射駆動モードと、同様にして空気を燃焼室に吸入し、吸気行程の途中あるいは圧縮行程に至ってから筒内用燃料噴射バルブ125から燃料を噴射し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させてクランクシャフト26の回転運動を得る筒内噴射駆動モードと、空気を燃焼室に燃焼する際にポート用燃料噴射バルブ126から燃料噴射すると共に吸気行程や圧縮行程で筒内用燃料噴射バルブ125から燃料噴射してクランクシャフト26の回転運動を得る共用噴射駆動モードと、のいずれかの駆動モードにより運転制御される。これらの駆動モードは、エンジン22の運転状態やエンジン22に要求される運転状態などに基づいて切り替えられる。なお、エンジン22からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化装置(三元触媒)134を介して外気へ排出される。
エンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により制御されている。エンジンECU24には、エンジン22の状態を検出する種々のセンサからの信号が図示しない入力ポートを介して入力されている。例えば、エンジンECU24には、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランクポジションやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブ128や排気バルブを開閉するカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカムポジション,スロットルバルブ124のポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサ146からのスロットルポジション,エンジン22の負荷としての吸入空気量を検出するバキュームセンサ148からの吸入空気量,排気管の浄化装置134の上流側(燃焼室側)に設けられた空燃比センサ135aからの空燃比,排気管の浄化装置134の下流側に設けられた酸素センサ135bからの酸素検知信号,筒内用燃料噴射バルブ125に燃料を供給するデリバリパイプに取り付けられた図示しない燃圧センサからの燃圧などが入力ポートを介して入力されている。また、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号が図示しない出力ポートを介して出力されている。例えば、エンジンECU24からは、筒内用燃料噴射バルブ125やポート用燃料噴射バルブ126への駆動信号や、スロットルバルブ124のポジションを調節するスロットルモータ136への駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイル138への制御信号、吸気バルブ128の開閉タイミングの変更可能な可変バルブタイミング機構150への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータを出力する。
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して、最終的には車両の駆動輪63a,63bに出力される。
モータMG1およびモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も演算している。
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。ここで、トルク変換運転モードは、充放電運転モードにおいてバッテリ50の充放電電力が値0のときであるから、充放電運転モードの一態様として考えることができる。したがって、実施例のハイブリッド自動車20は、モータ運転モードと充放電運転モードとを切り替えて走行することになる。なお、充放電運転モードにおけるエンジン22の運転は、上述したように、ポート噴射駆動モードと筒内噴射駆動モードと共用噴射駆動モードとを切り替えて行なわれる。
次に、実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にエンジン22の燃料噴射を切り替えると共にエンジン22の燃料噴射に関連する調整を実行する際の動作について説明する。ここで、エンジン22の燃料噴射に関連する調整としては、筒内用燃料噴射バルブ125やポート用燃料噴射バルブ126の燃料噴射における経年変化を補正するための学習や空燃比センサ135aや酸素センサ135bの経年変化を補正するための学習など筒内用燃料噴射バルブ125やポート用燃料噴射バルブ126からの燃料噴射制御を伴って行なわれる各種学習、空燃比センサ135aの異常判定や酸素センサ135bの異常判定などのように筒内用燃料噴射バルブ125やポート用燃料噴射バルブ126からの燃料噴射を伴って行なわれる各種センサの異常判定、筒内用燃料噴射バルブ125やポート用燃料噴射バルブ126の定型的な使用に伴って生じる機能低下を回復するために行なわれる燃料噴射、例えばデポジットの付着などを解消するために行なわれる特定運転状態での燃料噴射などのように筒内用燃料噴射バルブ125やポート用燃料噴射バルブ126からの燃料噴射を伴って行なわれる機能回復処置などを挙げることができる。
図3は、こうしたエンジン22の燃料噴射に関連する調整を考慮すると共に燃料噴射モードを考慮した駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、ハイブリッド用電子制御ユニット70により所定時間毎(例えば、8msec毎)に繰り返し実行される。駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accやブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速V,モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,バッテリ50の残容量(SOC),バッテリ50の入出力制限Win,Wout,調整用運転要求,調整用パワー領域P(Rn)など制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2については回転位置検出センサ43,44により検出されるモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいて計算されたものをモータECU40から通信により入力するものとし、バッテリ50の残容量(SOC)についてはバッテリECU52により演算されたものを通信により入力するものとし、バッテリ50の入出力制限Win,Woutについては温度センサ51により検出されたバッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の残容量(SOC)とに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。調整用運転要求や調整用パワー領域P(Rn)については、エンジンECU24により所定時間毎に実行される調整要求処理によって設定されて送信されRAM76の所定領域に格納されたものを読み出すことにより入力するものとした。調整要求処理について簡単に説明する。
調整要求処理は、図4に例示する調整要求ルーチンを実行することにより行なわれる。調整要求処理では、エンジンECU24は、まず、燃料噴射に関連する調整の必要性を判定する(ステップS300)。この判定では、例えば、起動して実行が可能な状態に至ったときに行なわれる学習や異常判定,機能回復処置については起動後から各調整が完了するまでその必要性が判定され、定期的に実行される学習や異常判定,機能回復処置については行なうべき時期に至ったときにその必要性が判定される。ここで、調整は、その内容に応じてエンジン22の運転領域やエンジン22の駆動モードを異にするものである。例えば、アイドル運転領域,軽負荷運転領域,中負荷運転領域,高負荷運転領域の4つの運転領域と上述のポート噴射駆動モード,筒内噴射駆動モード,共用噴射駆動モードの3つの駆動モードとの組み合わせを考えることができる。燃料噴射制御における学習を例にとると、4つの運転領域と3つの駆動モードとのすべてを組み合わせて得られる12の状態における学習結果を用いることによりいずれの運転領域でいずれの駆動モードによって運転しても燃料噴射制御をより適正に行なうことができるものとなるから、12の状態のすべての学習が定期的に必要となる。また、空燃比センサ135aや酸素センサ135bの異常判定を例にとると、浄化装置134が十分に機能できる状態に至ったときに、空燃比がリーン側の所定値となるよう燃料噴射制御を行なって過剰な酸素を浄化装置134に吸収させ、酸素センサ135bにより酸素が検出されたときに空燃比がリッチ側の所定値となるよう燃料噴射制御を行なって浄化装置134に吸収された酸素を除去するアクティブ制御を行ない、空燃比センサ135aの検出結果や酸素センサ135bの検出のタイミングと計算上の値とを比較することにより異常判定を行なうことができるから、所要時間は異なるものの、いずれの運転領域により行なってもよく、また、いずれの駆動モードにより行なってもよいことになる。この場合、比較的短時間に高精度に異常判定を行なうことを考えれば、軽負荷運転領域か中負荷運転領域とするのが好ましい。このように調整には、学習や異常判定,機能回復処置が含まれその必要性の判定は各調整についてエンジン22の運転領域や駆動モード毎に行なわれる。燃料噴射に関連する調整の必要性が判定されると(ステップS310)、必要性が判定された調整Rnを実行するのに必要な運転領域を中心として含む調整用パワー領域P(Rn)を設定し(ステップS320)、調整用運転要求と設定した調整用パワー領域P(Rn)をハイブリッド用電子制御ユニット70に向けて送信して(ステップS330)、このルーチンを終了する。ハイブリッド用電子制御ユニット70に送信された調整用運転要求や調整用パワー領域P(Rn)は、RAM76の所定領域に格納される。上述の調整用運転要求や調整用パワー領域P(Rn)の入力処理(図3のルーチンのステップS100)では、こうして格納されたものを読み込むのである。ここで、調整用パワー領域P(Rn)は、調整Rnを実行するのに必要な運転領域に運転者に違和感を生じさせることなく移行することができる領域として設定される。例えば、調整に必要な運転領域がアイドル運転領域のときには、アイドル運転領域に近接する運転領域であるエンジン停止状態や軽負荷運転領域の一部を含めてその調整用パワー領域を設定することができる。一方、いずれの調整についてもその必要性が判定されないときには、調整用運転要求を解除して(ステップS340)、このルーチンを終了する。調整用運転要求の解除は、この解除要求を通信による受け付けたハイブリッド用電子制御ユニット70によりRAM76の所定領域に格納された調整用運転要求を削除することにより行なう。
図3の駆動制御ルーチンに戻る。上述した制御に必要なデータを入力すると、入力したアクセル開度AccやブレーキペダルポジションBPと車速Vとに基づいて車両に要求されるトルクとして駆動輪63a,63bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*と要求パワーP*とを設定する(ステップS110)。要求トルクTr*は、実施例では、アクセル開度AccやブレーキペダルポジションBPと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。図5に要求トルク設定用マップの一例を示す。要求パワーP*は、設定した要求トルクTr*にリングギヤ軸32aの回転数Nrを乗じたものとして計算することができる。なお、リングギヤ軸32aの回転数Nrは、車速Vに換算係数kを乗じることによって求めたり、モータMG2の回転数Nm2を減速ギヤ35のギヤ比Grで割ることによって求めることができる。
続いて、調整用運転要求がなされているかを判定し(ステップS120)、調整用運転要求がなされていないときには、設定した要求パワーP*にバッテリ50が要求する充放電要求パワーPb*とロスLossとを加えてエンジン要求パワーPe*を計算し(ステップS130)、計算したエンジン要求パワーPe*に基づいてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する(ステップS140)。この設定は、エンジン22を効率よく動作させる動作ラインとエンジン要求パワーPe*とに基づいて目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する。エンジン22の動作ラインの一例と目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する様子を図6に示す。図示するように、目標回転数Ne*と目標トルクTe*は、動作ラインとエンジン要求パワーPe*(Ne*×Te*)が一定の曲線との交点により求めることができる。
次に、設定した目標回転数Ne*とリングギヤ軸32aの回転数Nr(Nm2/Gr)と動力分配統合機構30のギヤ比ρとを用いて次式(1)によりモータMG1の目標回転数Nm1*を計算すると共に計算した目標回転数Nm1*と現在の回転数Nm1とに基づいて式(2)によりモータMG1のトルク指令Tm1*を計算する(ステップS210)。ここで、式(1)は、動力分配統合機構30の回転要素に対する力学的な関係式である。動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図を図7に示す。図中、左のS軸はモータMG1の回転数Nm1であるサンギヤ31の回転数を示し、C軸はエンジン22の回転数Neであるキャリア34の回転数を示し、R軸はモータMG2の回転数Nm2に減速ギヤ35のギヤ比Grを乗じたリングギヤ32の回転数Nrを示す。式(1)は、この共線図を用いれば容易に導くことができる。なお、R軸上の2つの太線矢印は、エンジン22を目標回転数Ne*および目標トルクTe*の運転ポイントで定常運転したときにエンジン22から出力されるトルクTe*がリングギヤ軸32aに伝達されるトルクと、モータMG2から出力されるトルクTm2*が減速ギヤ35を介してリングギヤ軸32aに作用するトルクとを示す。また、式(2)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)中、右辺第2項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k2」は積分項のゲインである。
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ−Nm2/(Gr・ρ) …(1)
Tm1*=前回Tm1*+k1(Nm1*−Nm1)+k2∫(Nm1*−Nm1)dt …(2)
こうしてモータMG1の目標回転数Nm1*とトルク指令Tm1*とを計算すると、エンジン22の駆動モードが切り替えられる否かを判定する(ステップS212)。このエンジン22の駆動モードは、エンジン22の燃料噴射に関連する調整を実行していないときには、図示しない駆動モード設定処理により、エンジン22の運転状態やエンジン22に要求されるエンジン要求パワーPe*,車速Vなどによりポート噴射駆動モードと筒内噴射駆動モードと共用噴射駆動モードのいずれかに設定され、エンジン22の燃料噴射に関連する調整を実行しているときには調整を行なう制御ルーチン(後述の調整時運転制御ルーチン)により設定される。エンジン22の駆動モードの切り替えが行なわれないときには、カウンタトルクTcntに値0を設定し(ステップS214)、エンジン22の駆動モードがポート噴射駆動モードや共用噴射駆動モードから筒内噴射駆動モードに切り替えられるときにはカウンタトルクTcntにトルクTset1を設定し(ステップS216)、エンジン22の駆動モードが筒内噴射駆動モードや共用噴射駆動モードからポート噴射駆動モードに切り替えられるときにはカウンタトルクTcntにトルクTset2を設定する(ステップS218)。ここで、カウンタトルクTcntは、エンジン22の駆動モードを切り替える際にエンジン22に供給される混合気の空燃比が目標空燃比からズレることにより駆動軸としてのリングギヤ軸32aに生じ得るトルク変動を抑制するためにモータMG1から出力すべきトルクとして設定されるものである。実施例では、筒内噴射駆動モードへの切り替えの際のトルクTset1とポート噴射モードへの切り替えの際のときのトルクTset2とについては、実験によりエンジン22の駆動モードを切り替える際にリングギヤ軸32aに出力されるトルク変動を求め、これを打ち消すトルクを計算し、さらに、この計算したトルクに減速ギヤのギヤ比Grを考慮して設定した。
こうしてカウンタトルクTcntを設定すると、バッテリ50の入出力制限Win,Woutと計算したモータMG1のトルク指令Tm1*に現在のモータMG1の回転数Nm1を乗じて得られるモータMG1の消費電力(発電電力)との偏差をモータMG2の回転数Nm2で割ることによりモータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmax,Tminを次式(3)および式(4)により計算すると共に(ステップS220)、要求トルクTr*とトルク指令Tm1*と動力分配統合機構30のギヤ比ρとカウンタトルクTcntとを用いてモータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを式(5)により計算し(ステップS230)、計算したトルク制限Tmax,Tminの範囲内となるよう仮モータトルクTm2tmpを制限してモータMG2のトルク指令Tm2*として設定する(ステップS240)。このようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定することにより、駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力する要求トルクTr*を、バッテリ50の出力制限の範囲内で制限したトルクとして設定することができると共にエンジン22の駆動モードの切り替えの際にリングギヤ軸32aに生じ得るトルク変動を抑制することができる。なお、式(5)は、前述した図7の共線図から容易に導き出すことができる。
Tmax=(Wout−Tm1*・Nm1)/Nm2 …(3)
Tmin=(Win−Tm1*・Nm1)/Nm2 …(4)
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr+Tcnt …(5)
こうしてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定すると、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*についてはエンジンECU24に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40にそれぞれ送信して(ステップS250)、駆動制御ルーチンを終了する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによって示される運転ポイントで運転されるようにエンジン22における燃料噴射制御や点火制御などの制御を行なう。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
ステップS120で調整用運転要求がなされていると判定すると、現在調整中であるか否かを判断し(ステップS150)、調整中ではないときには、要求パワーP*がいずれかの調整用パワー領域P(Rn)に該当するか否かを判定する(ステップS160)。要求パワーP*がいずれかの調整用パワー領域P(Rn)に該当するときには、対応する調整を行なうためにエンジン22を調整用の運転ポイントに移行させても運転者に違和感を与えることがないと判断し、対応する調整の許容SOC範囲(S1,S2)を入力し(ステップS170)、バッテリ50の残容量(SOC)が許容SOC範囲内にあるかを判定する(ステップS180)。ここで、許容SOC範囲は、対応する調整を完了するまでに予測される充放電電力によりバッテリ50が過放電されたり過充電されたりしない範囲として設定されており、バッテリ50の容量や調整に必要なエンジン22の運転ポイント,調整に必要な時間などにより調整毎に設定することができる。したがって、バッテリ50の残容量(SOC)が許容SOC範囲内のときには、対応する調整を完了するまで過不足するパワーについてはバッテリ50からの充放電電力により賄うことができると判定することができ、逆にバッテリ50の残容量(SOC)が許容SOC範囲外のときには、対応する調整を完了するまで過不足するパワーについてはバッテリ50からの充放電電力によっては賄うことができないと判定することができる。バッテリ50の残容量(SOC)が許容SOC範囲内のときには、対応する調整の開始を許可し(ステップS190)、対応する調整に必要な運転ポイントをエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*として設定する(ステップS200)。例えば、対応する調整がエンジン22の600rpmによるアイドル運転を要求するときには目標回転数Ne*として600rpmが設定されると共に目標トルクTe*として値0が設定される。こうして目標回転数Ne*と目標トルクTe*を設定すると、設定した目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを用いてステップS210以降の処理を実行する。これらの処理については前述した。なお、ステップS160で要求パワーP*がいずれの調整用パワー領域P(Rn)にも該当しないときやステップS180でバッテリ50の残容量(SOC)が許容SOC範囲外のときには、対応する調整の開始許可はなされず、前述したステップS130およびS140によりエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とが設定される。また、調整の開始許可がなされると、次回からはステップS150により現在調整中と判定され、ステップS200により調整用の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とが設定されてステップS210以降の処理を行なう。
図8は、調整の開始許可がなされたときにエンジンECU24により実行される調整時運転制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンでは、まず、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを入力し(ステップS400)、対応する調整を実行するための燃料噴射バルブを設定する(ステップS410)。例えば、対応する調整が筒内用燃料噴射バルブ125を用いた燃料噴射制御における学習である場合には筒内用燃料噴射バルブ125による燃料噴射を設定し、ポート用燃料噴射バルブ126を用いた燃料噴射制御における学習である場合にはポート用燃料噴射バルブ126による燃料噴射を設定するのである。そして、エンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とにより設定される運転ポイントで運転されるよう設定した燃料噴射バルブによる燃料噴射制御を開始し(ステップS420)、調整開始の制御信号をハイブリッド用電子制御ユニット70に送信する(ステップS430)。これにより、ハイブリッド用電子制御ユニット70は現在調整中であることを判定することができる。そして、調整が完了するのを待って(ステップS440)、調整完了をハイブリッド用電子制御ユニット70に送信し(ステップS450)、設定した燃料噴射バルブによる燃料噴射制御を解除して(ステップS460)、本ルーチンを終了する。
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、筒内用燃料噴射バルブ125とポート用燃料噴射バルブ126とを有するエンジン22を備えるから、状況に応じてエンジン22を筒内用燃料噴射バルブ125とからの燃料噴射による運転やポート用燃料噴射バルブ126からの燃料噴射による運転、筒内用燃料噴射バルブ125とポート用燃料噴射バルブ126の双方からの燃料噴射による運転を切り替えることができる。この結果、より適正な燃料噴射を行なうことができ、エネルギ効率を向上させることができる。もとより、3軸式の動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とを備えるから、運転者が要求する動力をエンジン22を効率のよい運転ポイントで運転しながら駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力することができる。
また、実施例のハイブリッド自動車20によれば、エンジン22の駆動モード(ポート噴射駆動モード,筒内噴射駆動モード,共用噴射駆動モード)の切り替えの際には、駆動モードの切り替えに応じたカウンタトルクTcntをモータMG1から出力することにより、駆動モードの切り替えに伴って駆動軸としてのリングギヤ軸32aに生じ得るトルク変動を抑制することができる。したがって、エンジン22の駆動モードを切り替える際に乗り心地をよくすることができる。
さらに、実施例のハイブリッド自動車20によれば、筒内用燃料噴射バルブ125とポート用燃料噴射バルブ126とを備えるエンジン22の燃料噴射に関連する調整を運転者の要求する駆動力を出力しながら行なうことができる。しかも、調整に必要なエンジン22の運転領域や駆動モードを考慮して行なうから、エンジン22の燃料噴射に関連する調整をきめ細やかに行なうことができる。また、バッテリ50の残容量(SOC)を調整を完了するのに必要な許容SOC範囲内にあるかを判定して行なうから、バッテリ50を過充電や過放電することがなく、調整を途中で中断するのを抑制することができる。この結果、調整をより効率的に行なうことができる。さらに、調整の必要性が判定されなくなるまで調整用運転要求を行なうから、すべての調整を行なうことができる。また、要求パワーP*が調整用パワー領域P(Rn)に該当するときに対応する調整を行なうから、調整の実行に伴ってエンジン22の運転ポイントを変更する際でも運転者に違和感が生じるのを抑制することができる。
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の燃料噴射に関連する調整を行なうか否かに拘わらず、エンジン22の駆動モードの切り替えの際には駆動モードの切り替えに応じたカウンタトルクTcntをモータMG1から出力するものとしたが、エンジン22の燃料噴射に関連する調整を行なっているときにはエンジン22の駆動モードの切り替えに応じたカウンタトルクTcntをモータMG1から出力しないものとしても構わない。
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の駆動モードの切り替えに応じたカウンタトルクTcntをモータMG1から出力する駆動モード切替時の制御とエンジン22の燃料噴射に関連する調整との双方を行なうものとしたが、駆動モード切替時の制御は行なうがエンジン22の燃料噴射に関連する調整は行なわないものとしてもよいし、エンジン22の燃料噴射に関連する調整は行なうが駆動モード切替時の制御は行なわないものとしてもよい。また、駆動モード切替時の制御もエンジン22の燃料噴射に関連する調整も行なわないものとしても構わない。
実施例のハイブリッド自動車20では、対応する調整が終了するまで調整に必要な運転ポイントでエンジン22を運転するものとしたが、運転者の操作に応じて調整を中断してエンジン22の運転ポイントを変更するものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、要求パワーP*が調整用パワー領域P(Rn)に該当するときに対応する調整を実行するものとしたが、要求パワーP*が調整に対応するパワーに一致したときに調整を実行するものとしてもよい。また、要求パワーP*に拘わらず、調整を実行するものとしても構わない。
実施例のハイブリッド自動車20では、バッテリ50の残容量(SOC)が調整を完了するのに必要な許容SOC範囲内にあるときに調整を開始するものとしたが、バッテリ50の残容量(SOC)に拘わらず、調整を開始するものとしても差し支えない。
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の動力を減速ギヤ35により変速してリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図9の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aが接続された車軸(駆動輪63a,63bが接続された車軸)とは異なる車軸(図9における車輪64a,64bに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の動力を動力分配統合機構30を介して駆動輪63a,63bに接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、走行中にエンジンの運転ポイントを自由に変更することができるハイブリッド自動車であれば、如何なる構成としても構わない。例えば、図10の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22と、エンジン22のクランクシャフト26に接続されたインナーロータ232と駆動輪63a,63bに動力を出力する駆動軸に接続されたアウターロータ234とを有し、エンジン22の動力の一部を駆動軸に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230と、駆動軸に取り付けられたモータMG2と、を備える構成としてもよい。
実施例のハイブリッド自動車20では、走行中にエンジンの運転ポイントを自由に変更することができるハイブリッド自動車としたが、完全にエンジンの運転ポイントを自由に変更できるものでなくてもよい。例えば、図11の変形例のハイブリッド自動車320に示すように、エンジン22をクラッチを介してモータ330が取り付けられた駆動軸に接続し、エンジン22やモータ330からの動力を変速機340を介して駆動輪63a,63bに出力する構成としてもよい。
実施例や上述の変形例のハイブリッド自動車20,120,220,320では、エンジン22からの動力の少なくとも一部を駆動軸に出力することができるものとして構成したが、筒内用燃料噴射バルブとポート用燃料噴射バルブとを有するエンジンと駆動軸に動力を出力することができるモータとを備えるものであれば、如何なる構成としてもよい。例えば、図12の変形例のハイブリッド自動車420に例示するように、エンジン22からの動力を用いて発電機430により発電し、この電力やバッテリからの電力を用いて走行用のモータ440を駆動するもの、即ち、いわゆるシリーズハイブリッド自動車の構成としても差し支えない。
以上、本発明をハイブリッド自動車の形態として説明したが、ハイブリッド自動車に限定されるものではなく、ハイブリッド自動車に搭載された動力出力装置の形態としてもよい。この動力出力装置の形態とする場合、自動車以外の列車などの車両に搭載したり、車両以外の航空機や船舶などの移動体に搭載したり、移動しない建設設備などの動力源として組み込むものとしてもよい。また、動力出力装置の制御方法の形態としてもよい。
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
20,120,220,320,420 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35,減速ギヤ、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、60 ギヤ機構、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b,64a,64b 駆動輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、122 エアクリーナ、124 スロットルバルブ、125 筒内用燃料噴射バルブ、126 ポート用燃料噴射バルブ、128 吸気バルブ、130 点火プラグ、132 ピストン、134 浄化装置、135a 空燃比センサ、135b 酸素センサ、136 スロットルモータ、138 イグニッションコイル、140 クランクポジションセンサ、142 水温センサ、144 カムポジションセンサ、146 スロットルバルブポジションセンサ、148 バキュームセンサ、150 可変バルブタイミング機構、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ 234 アウターロータ、330 モータ、340 変速機、430 発電機、440 モータ、MG1,MG2 モータ。