JP3956498B2 - 生分解性脂肪族ポリエステル発泡体の製造方法 - Google Patents

生分解性脂肪族ポリエステル発泡体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は生分解性脂肪族ポリエステル発泡体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
生分解性樹脂は水中、土中などで分解するため、ゴミ処理問題などの環境対策の点で注目を集めている。特に生分解性樹脂からなる発泡体は、梱包材分野ではポリスチレンおよびポリエチレン発泡体に代わる新しい材料として注目されている。
【0003】
たとえば、特開平6−228354や特開平6−16857などには、デンプン系の生分解性樹脂発泡体が開示されている。これらは発泡倍率は高いものの、樹脂自体がもろいためバラ緩衝材には適するがシート状の緩衝材には適さない。しかも、でんぷんが半分近く含まれるため耐水性が悪く水分に弱いという欠点がある。
【0004】
これに対して、特開平6−287338や特開平9−111025などには合成系の生分解性樹脂発泡体が開示されている。これらの発明では、ブタンガスなどの炭化水素系またはフロン系の発泡剤が用いられている。
【0005】
しかし、ブタンガスなどの炭化水素ガス発泡剤を用いる場合、発泡体製造装置を防爆設備にしなければならないうえに、発泡体製造後も炭化水素ガス発泡剤が大気中の空気と置換されるまで発泡体を防爆設備で養生する必要があるなどの問題点がある。しかも、炭化水素ガスの地球温暖化係数(GWP)は炭酸ガスに比べて大きいという問題がある。
【0006】
また、現在オゾン層破壊の問題から発泡剤としてフロン12やフロン114といった規制対象のフロンを使用することができなくなったが、その代替としてフロン22のような代替フロンが多く使用されている。発泡剤として代替フロンを使用すればオゾン層破壊係数は小さくなるが、その地球温暖化係数は100年積算値で炭酸ガスに比べて約140〜900倍と非常に大きく、地球温暖化に関しては何ら対策となっていない。
【0007】
このため、生分解性樹脂に対して環境に優しい炭酸ガスを発泡剤として用い、真に環境に優しい生分解性樹脂発泡体を製造することが強く要望されている。しかし、これまで発泡剤として炭酸ガスを適用した樹脂発泡体は、ポリオレフィンやポリスチレンなど生分解性のないものしか知られていない。なお、上記の従来技術にも発泡剤の例として炭酸ガスが記載されているが、実際に炭酸ガスを発泡剤として用いた実施例はない。実際に、本発明者らが検討した結果では、上記従来技術に記載されている製造方法において単に発泡剤として炭酸ガスを適用しただけでは、特に発泡倍率が10倍を超える生分解性樹脂発泡体を安定して製造することはできないことが判明している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、生分解性脂肪族ポリエステルに対して発泡剤として炭酸ガスを用い、特性の優れた生分解性脂肪族ポリエステル発泡体を安定して製造できる方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル発泡体の製造方法は、少なくとも第1段の推進機構、第2段の推進機構および押出ダイを有する製造装置を用い、前記第1段の推進機構において融点が70〜190℃であり長鎖分岐を有する生分解性脂肪族ポリエステルを溶融して炭酸ガスを注入し、前記第2段の推進機構または第2段の推進機構以降において炭酸ガスを含む生分解性脂肪族ポリエステルを昇圧し、その後冷却し、前記押出ダイを通して炭酸ガスを含む生分解性脂肪族ポリエステルを大気中に解放して発泡させることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の方法をさらに詳細に説明する。
本発明において用いられる生分解性脂肪族ポリエステルは、融点が70〜190℃であって長鎖分岐を有するものである。本発明における生分解性脂肪族ポリエステルとしては、主に脂肪族グリコールと脂肪族ジカルボン酸(またはその無水物)とから合成されたものであって、重量平均分子量が10万以上のものが好ましい。生分解性脂肪族ポリエステルは、脂肪族グリコールと脂肪族ジカルボン酸とから合成された数平均分子量(Mn)5000以上、好ましくは10000以上のポリエステルプレポリマーを、適当なカップリング剤を用いて結合することにより合成されたものでもよい。長鎖分岐を有する生分解性脂肪族ポリエステル合成の一つの手法としては、ポリエステル合成時に少量の多官能モノマーを添加する方法が挙げられる。
【0011】
グリコール類としては、たとえばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。エチレンオキシドを用いることもできる。これらのグリコール類は2種以上を併用してもよい。
【0012】
脂肪族ジカルボン酸(またはその無水物)としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸、無水コハク酸、無水アジピン酸などが挙げられる。これらの脂肪族ジカルボン酸(またはその無水物)は2種以上を併用してもよい。
【0013】
カップリング剤としては、ジイソシアナート、オキサゾリン、ジエポキシ化合物、酸無水物などが挙げられる。ジイソシアナートを用いた場合、ポリエステルプレポリマーはウレタン結合を介して連鎖構造を形成する。オキサゾリン、ジエポキシ化合物、酸無水物を用いた場合、ポリエステルプレポリマーはエステル結合を介して連鎖構造を形成する。
【0014】
融点が70〜190℃で長鎖分岐を有する生分解性脂肪族ポリエステルの具体例としては、昭和高分子社製脂肪族ポリエステル“ビオノーレ#1903”などが好適である。本発明でいう長鎖分岐を有する生分解性脂肪族ポリエステルとは、後述するように伸張粘度の測定においてストレインハードニングが観測されるものをいう。長鎖分岐を有する生分解性脂肪族ポリエステルは溶融粘度が比較的高いため、高発泡倍率の発泡体を製造するのに好適である。その他の長鎖分岐を有する生分解性脂肪族ポリエステルとして、ポリカプロラクトンまたはポリ乳酸などを用いることもできる。
【0015】
本発明で用いる生分解性脂肪族ポリエステルには、生分解性に影響を及ぼさない範囲で、発泡核剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤などの添加剤を添加しても差し支えない。
【0016】
本発明においては発泡剤として炭酸ガスを用いる。ただし、本発明においては発泡剤の主成分が炭酸ガスであればよく、発泡成形性に大きな影響を及ぼさない範囲で他の発泡剤を含んでいてもよい。他の発泡剤の具体例としては、窒素、圧縮空気、アルゴンなどの不活性ガス;代替フロンガス(フロン22,フロン142b、フロン152a、フロン141b、フロン134aなど);ブタン、プロパンなどの炭化水素ガスが挙げられる。他の発泡剤の含有量は30wt%以下、さらに20wt%以下、さらに15wt%以下とすることが好ましい。炭化水素系ガスまたは代替フロン系ガスを30wt%を越えて含有する発泡剤を用いた場合、成形性は向上するが、環境への影響があるため好ましくない。不活性ガスを30wt%を越えて含有する発泡剤を用いた場合、環境上の観点からは利点があるが、成形性が悪くなる。
【0017】
本発明の方法では、生分解性脂肪族ポリエステルを溶融した状態で炭酸ガスを注入し、炭酸ガスを含む生分解性脂肪族ポリエステルを昇圧し、炭酸ガスを含む生分解性脂肪族ポリエステルを冷却するという工程を経ることにより、生分解性脂肪族ポリエステル中に炭酸ガスを溶解させる。なお、上記の冷却工程では、生分解性脂肪族ポリエステルを昇圧以前の圧力(代表的には第1段の推進機構の出口圧)を越えて加圧したままの状態に維持することが好ましい。その後、炭酸ガスを含む生分解性脂肪族ポリエステルを大気中に解放して発泡させる。
【0018】
本発明の方法は、2段以上の推進機構及び押出ダイを有する製造装置を用いて実施することが好ましい。推進機構の組み合わせは、種々の態様が考えられる。推進機構の組み合わせ方にかかわらず、第1段の推進機構としてはスクリュー式押出機を用いることが好ましい。製造装置の構成例を図1(A)〜(E)を参照して説明する。
【0019】
図1(A)の製造装置は2段の推進機構と押出ダイ200を有する。第1段の推進機構としてスクリュー式押出機110、第2段の推進機構としてギヤポンプ120と冷却機能を有する接続管125との組み合わせが用いられている。この場合の接続管は冷却機能を有するものであれば直管、二重管など特に形状は限定されない。また、接続管内には冷却効率を上げるためにスタティックミキサーを設けることが好ましい。
【0020】
図1(B)の製造装置は、図1(A)のギヤポンプ120および直長管125の代わりに、第2段の推進機構として加圧および冷却(オイル冷却など)が可能なスクリュー式押出機120を用いたものである。
【0021】
図1(C)の製造装置は3段の推進機構と押出しダイ200を有し、図1(A)の直長管125と押出ダイ200との間に第3段の推進機構としてギヤポンプ130を設けたものである。
【0022】
図1(D)の製造装置も3段の推進機構と押出しダイ200を有し、第1段の推進機構としてスクリュー式押出機110、第2段の推進機構としてギヤポンプ120、第3段の推進機構として冷却能力を有するスクリュー式押出機130を設けたものである。
【0023】
図1(E)の製造装置は4段の推進機構と押出しダイ200を有し、図1(D)の第3段の推進機構であるスクリュー式押出機130と押出ダイ200との間に第4段の推進機構としてギヤポンプ140を設けたものである。
【0024】
いずれの製造装置を用いても本発明の方法を実施することができ、所望の効果を得ることができる。
押出ダイは特に限定されず、目的とする商品や用途に応じ、T−ダイ、サーキュラーダイ、パイプダイ、ロッドダイなどを用いることができる。
【0025】
本発明方法の第1工程では、乾燥した生分解性脂肪族ポリエステルのペレットを第1段の推進機構(スクリュー式押出機)のホッパーに供給し、樹脂をスクリューで前方にフィードしてメルティングゾーンで溶融する。この第1段の推進機構の途中で発泡剤である炭酸ガスを注入する。発泡体の発泡倍率は基本的には炭酸ガスの注入量に比例するので、目標とする発泡倍率に応じて炭酸ガスの注入量を決定する。炭酸ガスの注入量は、発泡体の形状や生分解性樹脂の種類にもよるが、本発明で用いられる生分解性脂肪族ポリエステルの場合には樹脂に対して0.6wt%以上とすることが好ましい。0.6wt%未満では発泡倍率5倍以上の発泡体を得ることが困難になる。特に、発泡倍率15倍以上の高発泡倍率発泡体を得るには炭酸ガスの注入量を2wt%以上とすることが好ましい。ダイ出口での気泡成長時の炭酸ガスのロスを考慮すると、炭酸ガスの注入量を1wt%以上、さらに発泡倍率15倍以上の発泡体を得るには2.3wt%以上とすることが好ましい。
【0026】
この第1工程で炭酸ガスを生分解性脂肪族ポリエステルに必要量注入し、混練するためには、第1段の推進機構における樹脂温度を、(融点+5)〜(融点+120)℃とすることが好ましく、(融点+25)〜(融点+90)℃とすることが一層好ましい。たとえば融点が113℃である脂肪族ポリエステルの場合、樹脂温度を120〜230℃、さらに140〜200℃とすることが好ましい。樹脂温度が低すぎると、樹脂粘度が高くなるため、押し出しトルクが上昇して押出成形が困難になる。この場合、強制的に押出成形を行ったとしても、樹脂中への炭酸ガスの注入が不十分になり、発泡体の発泡倍率が高くならないうえに気泡が非常に粗大になって外観が悪くなる。樹脂温度が高すぎると、ダイ出口において樹脂を急激に冷却する必要が生じるなど実用的でない。
【0027】
第1段の推進機構で炭酸ガスと混練された生分解性脂肪族ポリエステルは、第2段以降の推進機構へフィードされる。
本発明方法の第2工程では、第2段の推進機構または第2段の推進機構以降で樹脂を加圧しながら冷却して樹脂中に炭酸ガスを十分に溶解させる。
【0028】
図1(A)の製造装置では、第2段の推進機構であるギヤポンプにおいて樹脂を昇圧させ、直長管において加圧下で樹脂を冷却させて炭酸ガスを溶解させる。また、図1(B)の製造装置では、加圧可能な2段目のスクリュー式押出機だけで昇圧および冷却による炭酸ガスの溶解を行う。
【0029】
図1(D)の製造装置では、第2段の推進機構であるギヤポンプにおいて十分に樹脂を昇圧した後、3段目の推進機構であるスクリュー式押出機において加圧下で冷却して発泡剤である炭酸ガスを十分溶解させる。この製造装置では、2段の推進機構を有する製造装置(図1(A)、(B))で行われる樹脂の昇圧および冷却による炭酸ガスの溶解をより効果的に行うことができる。
【0030】
樹脂中に炭酸ガスを十分に溶解させるためには、第2段の推進機構または第2段の推進機構以降における樹脂圧力を10MPa以上の加圧下に保持することが好ましい。例えば1.0mm以上のシート厚みを基準として、発泡倍率15倍以上の高発泡体を得るためには、樹脂圧力を20〜50MPa、さらに30〜45MPaとすることが好ましい。樹脂圧力が10MPa未満では、発泡剤である炭酸ガスが十分に樹脂中に溶解しないため、粗大な気泡を含む低倍率の発泡体しか得られない。なお、発泡倍率は製品厚みにも依存し、同一条件下なら厚みが厚い方が高倍率になる傾向がある。また、押出機を含む樹脂加工機の設計耐圧は一般に50MPaであるが、特殊鋼などを用いれば100MPaまで設計耐圧を上げることができ、それに応じて樹脂圧力を高くすることができる。樹脂圧力を高くできれば樹脂中に多くの発泡剤を注入できるので、微細で高倍率の発泡体が得るのに有利になる。
【0031】
第2段の推進機構または第2段の推進機構以降において昇圧後の樹脂を冷却するには種々の方法が採用される。
例えば図1(A)の製造装置では、第1段の推進機構であるスクリュー式押出機110から供給される樹脂を、第2段の推進機構であるギヤポンプ120で加圧した後、スタティックミキサーを配置した直長管125に樹脂をフィードし、直長管125の長さおよびスタティックミキサーのエレメント数を調整することにより、樹脂の滞留時間および冷却能力を調整して冷却する。冷却能力を上げるためには、直長管の周囲にオイルなどの熱媒体を循環させて積極的に熱を奪う方法が挙げられる。図1(B)の製造装置では、スクリュー式押出機120のスクリュー構造を工夫して、樹脂の昇圧および冷却を同時に行う。
【0032】
図1(D)の製造装置では、第1段の推進機構であるスクリュー式押出機110から供給される樹脂を、第2段の推進機構であるギヤポンプ120で昇圧した後、第3段の推進機構であるスクリュー式押出機130において加圧下で十分時間をかけて冷却する。この製造装置では、2段の推進機構を有する製造装置と比べて効果的に樹脂を昇圧させた後に目的温度まで十分冷却することができるので、より好適である。
【0033】
第2段の推進機構または第2段の推進機構以降における樹脂の温度プロファイルは、第1段の推進機構の出口での樹脂温度から後段の押出ダイ出口の樹脂温度まで、なだらかにほぼ一定の割合で変化するように設定することが好ましい。さらに、押出ダイの入口までに目的の樹脂温度に冷却し、ダイ内では樹脂温度を一定に保つように設定することがより好ましい。
【0034】
また、樹脂に炭酸ガスを十分に溶解させるためには、第2段の推進機構または第2段の推進機構以降における樹脂の滞留時間を十分長くする。具体的には、樹脂が10MPa以上の圧力に保持される滞留時間を30sec以上、さらに45sec以上とすることが好ましい。滞留時間が30sec未満の場合には、樹脂中に炭酸ガスが十分に溶解しないため、粗大な気泡が形成され、しかも気泡が連通化するため良好な発泡体は得られない。前述のように例えば製品厚み1.0mm以上を基準として発泡倍率15倍以上の高発泡体を得るためには、樹脂が20MPa以上の圧力に保持される滞留時間を30sec以上、さらに45sec以上とすることがより好ましい。
【0035】
押出ダイの上流側にさらにギヤポンプを設けた製造装置(図1(C)または(E)図示の製造装置)では、第2工程において十分に炭酸ガスが溶解されて冷却された樹脂を、より安定に次工程に供給することができる。この結果、ダイ内の圧力変動、吐出変動を抑制することができ、得られる発泡体の品質(幅方向、吐出方向それぞれの安定した発泡倍率、肉厚分布)が良好となる。しかも、不良率を抑止しながら安定的に連続成形することができ、製造条件範囲(Process Windows)が広がる。
【0036】
本発明方法の第3工程では、第2段の推進機構または第2段の推進機構以降において炭酸ガスを十分に溶解させた樹脂を押出ダイへフィードし、樹脂をダイ出口から大気中へ解放することにより気泡を成長させて発泡体を成形する。
【0037】
前述のように例えば製品厚み1.0mm以上を基準として発泡倍率15倍以上の高発泡体を得るためには、押出ダイ入口での樹脂圧力を10MPa以上、さらに20MPa以上とすることが好ましい。さらに、押出ダイのリップ先端にできるだけ近い位置まで上記の圧力を維持することが好ましい。このようにリップ先端の近傍まで高い樹脂圧力を維持すると、ダイ出口での圧力低下率を大きくすることができ、高発泡体を得ることができる。
【0038】
押出ダイ出口における樹脂温度は、目的とする発泡体の発泡倍率にもよるが、(融点+15)〜(融点−25)℃、さらに融点〜(融点−15)℃の範囲とすることが望ましい。樹脂温度が高すぎると、ダイ出口で生じた気泡が破泡したり、気泡が成長する前に炭酸ガスが抜けて、良好な発泡体が得られない。樹脂温度が低すぎると、ダイ出口での流動が不安定になり、ダイ内で樹脂がかたまってしまうため圧力が異常に上昇して押出不能になり、危険性が増して人的災害につながるおそれもある。
【0039】
さらに、ダイ出口以降に冷却設備などを設け、発泡体の冷却、引取り、巻き取りなど、それぞれの製品に応じたプロセスを経て最終発泡体を製造する。
以上のような本発明の方法を用いれば、生分解性脂肪族ポリエステルに対して発泡剤として炭酸ガスを用い、特性の優れた生分解性脂肪族ポリエステル発泡体を安定して製造することができる。
【0040】
【実施例】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<脂肪族ポリエステルの物性の測定方法>
使用する脂肪族ポリエステルの物性は以下のようにして測定した。
【0041】
(1)結晶融点は、示差走査型熱量計(セイコー電子工業、DSC200)を用い、昇温速度10℃/minで測定した。
(2)分子量は、ゲルクロマトグラフィー(昭和電工(株)製、ShodexGPC System−11)により測定した。溶媒としてCF3 COONaのHFIPA(ヘキサフルオロイソプロピルアルコール)5mmol溶液を用い、樹脂濃度を0.1重量%とした。検量線はPMMA標準サンプル(昭和電工(株)製、Shodex Standard M−75)を用いて作製した。
【0042】
(3)樹脂中の長鎖分岐の有無は以下の方法により確認した。樹脂を180℃に設定したホットプレスでプレスし、30℃に冷却することにより厚さ1mmのシートを作製した。このシートから6mm幅のサンプルを採取し、ベルト式1軸伸張粘度計(レオメトリックス社製)を用い、温度を(樹脂融点+15℃)に設定し、ひずみ速度0.1で伸張粘度を測定した。伸張粘度の測定時間依存性(両対数表示)を示す特性図から、ストレインハードニングが認められた場合にはその樹脂は長鎖分岐を有すると定義し、認められない場合には直鎖状と定義した。
【0043】
<生分解性脂肪族ポリエステル>
使用した生分解性脂肪族ポリエステルは以下の通りである。
(A)脂肪族ポリエステルA
市販の脂肪族ポリエステル(昭和高分子(株)社製、商品名“ビオノーレ#1903”、融点113℃、MFR(190℃)5.0g/10分)を用いた。この脂肪族ポリエステルAについて、128℃、ひずみ速度0.1で伸張粘度を測定した結果を図2の曲線Aで示す。図2に示すように右上がりに屈曲するストレインハードニングを示し、長鎖分岐を含むことが確認された。
【0044】
(B)脂肪族ポリエステルB
80Lの反応器を窒素置換した後、1,4−ブタンジオール17.7kg、コハク酸22.1kg、およびトリメチロールプロパン126g(コハク酸に対して0.5モル%)を仕込んだ。窒素気流中で190℃〜210℃に昇温して3.5時間保持し、さらに窒素を停止して20〜2mmHgの減圧下に5.5時間保持して、脱水縮合によるエステル化反応を行った。試料を採取して分析したところ、酸価が12mg/L、数平均分子量(Mn)が6,700、重量平均分子量(Mw)が13,000であった。
【0045】
窒素気流中、常圧において、触媒としてテトライソプロポキシチタン2.0gを添加した。210〜220℃に昇温し、15〜0.7mmHgの減圧下に4.5時間保持して脱グリコール反応を行い、ポリエステルプレポリマーを合成した。試料を採取して分析したところ、数平均分子量(Mn)が36,200、重量平均分子量(Mw)が82,500であった。理論計算によれば、凝縮水を除いたプレポリマーの収量は35.6kgであった。
【0046】
プレポリマー35.6kgを含む反応器に、160℃で着色防止剤として亜隣酸3.6gを投入した後、抗酸化剤(チバガイギー社製、イルガノックスB225)35.6gおよび滑剤としてステアリン酸カルシウム35.6g加えて30分撹拌を続けた。攪拌を続けながら、ヘキサメチレンジイソシアナート320g(プレポリマー100重量部に対して0.90重量部)を添加し、180〜200℃で2.5時間保持し、200〜400mmHgで30分間脱泡した後、撹拌を停止し、2.0時間静置してカップリング反応(全5.0時間)を行い、脂肪族ポリエステルBを合成した。粘度は急速に増大したがゲルは生じなかった。
【0047】
反応器下部のギヤポンプを稼働させて、190〜200℃に設定したダイから4本のストランドを水中に押し出し、カッターで裁断してペレットにした。90℃で3時間、真空乾燥した。脂肪族ポリエステルBの収量は29kgであった。脂肪族ポリエステルBは白色を呈し、融点が113℃、数平均分子量(Mn)が62,000、重量平均分子量が242,000、MFR(190℃)が2.5g/10分であった。脂肪族ポリエステルBについて、128℃、ひずみ速度0.1で伸張粘度を測定した結果を図2の曲線Bで示す。図2に示すように右上がりに屈曲するストレインハードニングを示し、長鎖分岐を含むことが確認された。
【0048】
(C)脂肪族ポリエステルC
80Lの反応器を窒素置換した後、1,4−ブタンジオール17.4kg、コハク酸17.3kg、アジピン酸5.4kg(モル比でコハク酸:アジピン酸=80:20)、およびトリメチロールプロパン126g(ジカルボン酸に対して0.5モル%)を仕込んだ。窒素気流中で190℃〜210℃にして3.5時間保持し、さらに窒素を停止して20〜2mmHgの減圧下で3.5時間保持して、脱水縮合によるエステル化反応を行った。試料を採取して分析したところ、酸価が9.6mg/L、数平均分子量(Mn)が6,100、重量平均分子量(Mw)が12,200であった。
【0049】
窒素気流中、常圧において、触媒としてテトライソプロポキシチタン2.0gを添加した。210〜220℃に昇温し、15〜0.2mmHgの減圧下に6.5時間保持して脱グリコール反応を行い、ポリエステルプレポリマーを合成した。試料を採取して分析したところ、数平均分子量(Mn)が28,500、重量平均分子量(Mw)が68,550であった。理論計算によれば、凝縮水を除いたプレポリマーの収量は34.8kgであった。
【0050】
プレポリマー34.8kgを含む反応器に、抗酸化剤(チバガイギー社製、イルガノックスB225)35g、および滑剤としてステアリン酸カルシウム35.2g加えて30分撹拌を続けた。撹拌を続けながら、ヘキサメチレンイソシアナート261g(プレポリマー100重量部に対して0.75重量部)を添加し、160〜190℃で2時間保持し、カップリング反応を行い、脂肪族ポリエステルCを合成した。粘度は急速に増大したがゲルは生じなかった。
【0051】
反応器下部のギヤポンプを稼働させて、190〜200℃に設定したダイから4本のストランドを水中に押し出し、カッターで裁断してペレットにした。90℃で3時間、真空乾燥した。脂肪族ポリエステルCの収量は30kgであった。脂肪族ポリエステルCはかすかにアイボリー調の白色を呈し、融点が95℃、数平均分子量(Mn)が52,100、重量平均分子量が221.700、MFR(190℃)が4.7g/10分であった。脂肪族ポリエステルCについて、110℃、ひずみ速度0.1で伸張粘度を測定した結果、ストレインハードニングを示し、長鎖分岐を含むことが確認された(図2には図示せず。)
(D)脂肪族ポリエステルD
比較のために市販の脂肪族ポリエステル(昭和高分子(株)社製、商品名“ビオノーレ#1003”、融点113℃、MFR(190℃)5.5g/10分)を用いた。この脂肪族ポリエステルDについて、128℃、ひずみ速度0.1で伸張粘度を測定した結果を図2の曲線Dで示す。図2に示すようにストレインハードニングを示さず、直鎖状であることが確認された。
【0052】
<発泡剤>
発泡剤として市販の液化炭酸ガス(昭和炭酸(株)製)を用いた。
<発泡シートの製造装置>
代表例として実施例1〜18において使用した製造装置を挙げ、図3(A)〜(C)を参照して説明する。図3(A)は製造装置の構成を示す図、図3(B)は製造装置内の圧力プロファイルを示す図、図3(C)は製造装置内の温度プロファイルを示す図である。
【0053】
図3(A)に示す製造装置は、第1段の推進機構としてスクリュー径40mm、L/D=34の単軸押出機1(池貝株式会社製)、第2段の推進機構として20cc/revのギヤポンプ7(川崎重工社製)および冷却・加圧ゾーンとして接続管8、押出ダイとしてサーキュラーダイ9を有する。第2段の推進機構としては、加圧および冷却が可能な押出機を用いてもよい。
【0054】
なお、比較例2ではギヤポンプ7および接続管8を取り除いた製造装置、比較例3では接続管8を取り除いた製造装置を用いている。
図3(A)の製造装置を用いた発泡シートの製造は以下のようにして行なわれる。樹脂ペレットをホッパー2からバレル3内に供給し、スクリュー4を回転数65rpmで回転させて前方にフィードしながら溶融させて混練する。この間に、液化炭酸ガスボンベ(図示せず)から定量注入ポンプ5を通してガス供給口より炭酸ガスを注入し、バレル3内で樹脂に混合する。混練された樹脂を押出機ヘッドからアダプター6を経由してギヤポンプ7に供給する。ギヤポンプ7を回転数11rpmで回転させて樹脂に所定の圧力を加えて送り、直長管8内に配置したスタティックミキサーを通過する間に冷却することにより、樹脂に炭酸ガスを十分に溶解させる。この樹脂を、サーキュラーダイ9へ送り、ダイ出口から大気中へ解放することにより発泡させ、冷却マンドレル10で冷却することにより発泡シート11を製造する。また、第2段の推進機構として押出機を用いる場合には、上記の説明におけるギヤポンプおよびスタティックミキサーを配置した接続管を押出機に置き換える以外は同様である。以下の実施例1〜18においては、厚み約1.5mm〜2.0mm、幅700mmの発泡シートを製造することを目標としている。
【0055】
上記の製造工程において、炭酸ガスの注入量[樹脂に対する重量%]はボンベの重量減少から直接求められる。
装置内の樹脂圧力に関しては、第1段の押出機のヘッド(出口)圧P1[MPa]、第2段の推進機構を構成するギヤポンプの出口圧P2[MPa]、サーキュラーダイの入口圧P3[MPa]を測定した。
【0056】
また、樹脂圧力に関連して、第2段の推進機構以降での樹脂圧力の測定結果と接続管(または第2段押出機)内での滞留時間に基づいて、樹脂が少なくとも所定の圧力(10MPaまたは20MPa)以上に保持される滞留時間t2[s]を求めた。
【0057】
樹脂温度に関しては、第1段の押出機ヘッド(出口)での樹脂温度T1[℃]およびサーキュラーダイ出口での樹脂温度T3[℃]を熱電対式温度計で測定した。装置内の樹脂温度は以下のようにして調整した。第1段の押出機内の樹脂温度は、樹脂の融点に応じてバレルの設定温度を決定することにより調整した。具体的には、樹脂A、B、D(融点はいずれも約113℃)を用いる場合には、バレル設定温度(5ゾーン)を上流側よりそれぞれ130、160、150、150、150℃とした。樹脂C(融点は96℃)を用いる場合には、バレル設定温度(5ゾーン)を上流側よりそれぞれ120、150、140、140、140℃とした。一方、サーキュラーダイの設定温度(サーキュラーダイ出口での樹脂温度T3)を変化させ、これに応じて接続管(または第2段押出機)内での樹脂温度が上記T1からT3へとほぼ一定の割合で変化するように、第2段の推進機構での設定温度を決定した。図2(C)には、装置の設定温度および実際の樹脂温度を示している。
【0058】
<評価方法>
(1)発泡倍率は、電子天秤(メトラー社製、AE−240)を用い、水中置換法により測定した。
【0059】
(2)平均気泡径は、シート断面をTD方向にカットし、その断面の中心部および両サイドより150mmの位置からサンプルを切り出し、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製)により50倍の倍率で断面写真を撮影し、ASTM D3576−77に準拠して測定した。
【0060】
(3)外観の評価基準は以下の通りである。
優:表面平滑性、波打ちともに良好。
良:表面平滑性は良好であるが、多少波打ちあり。
【0061】
不可:表面平滑性が多少悪く、波打ちあり。
劣:表面平滑性が悪く、波打ちが顕著。
(4)連続成形安定性は、発泡倍率が(目標倍率±10%)倍以内で表面状態の良好な発泡シートを連続して押し出し可能であった時間に基づいて評価した。その評価基準は以下の通りである。
【0062】
特優:目標倍率および目標厚みの±5%以内で、かつ1時間以上。
優:1時間以上。
良:30分〜1時間。
【0063】
不可:10分程度。
劣:非常に不安定。
(5)生分解性は、古河電工( 株) 横浜研究所のテニスコート横の深さ10cmの地中に10cm角の発泡シートサンプルを埋め、土中埋設テストを行い評価した。その評価基準は以下の通りである。
【0064】
特優:夏場4ヶ月で50%以上分解。
優:1年以内に50%以上分解。
良:1年以内に30%以上分解。
【0065】
不可:1年間で0〜15wt%未満の分解しかしない。
以下、本発明の実施例をより詳細に説明する。また、これらの実施例における製造条件および評価結果を表1から表6にまとめて示す。
【0066】
<実施例1〜8および比較例1〜3>
これらの実施例および比較例では、いずれもサーキュラーダイのリップ幅を0.4mmに設定した。
【0067】
実施例1
ベース樹脂として脂肪族ポリエステルAのペレット100部およびタルク1.6部をドライブレンドで混合し、ホッパーより第1段の押出機(スクリュー径φ40mm、L/D=34)に供給した。スクリューを65rpmの回転数で回転させて樹脂を前方へフィードしながら溶融させた。上述したようにバレル設定温度(5ゾーン)は上流側より130、160、150、150、150℃とした。バレルの途中において、炭酸ガスを5.0MPaの注入圧力で注入量が1.9wt%となるように樹脂に注入した。押出機ヘッド(スクリュー先端)での樹脂温度T1は157℃、押出機ヘッド(およびギヤポンプ入口)での樹脂圧力P1は4.0MPaであった。第1段の押出機から樹脂をアダプタを経由してギヤポンプに供給した。ギヤポンプを11rpmの回転数で回転させ、樹脂をスタティックミキサーを配置した長さ700mmの接続管に供給した。ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は17MPaであり、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が10MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも80secであった。接続管から樹脂を112℃に設定されたサーキュラーダイに供給し、リップ幅0.4mmのダイ出口から樹脂温度T3が112℃の樹脂を大気中に解放し、冷却マンドレルで冷却して発泡シートを製造した。
【0068】
以上のようにして、厚さ1.5mm、幅700mm、発泡倍率7倍、平均気泡径640nmで、良好な外観を示す発泡シートを連続的に安定して製造することができた。また、この発泡シートは優れた生分解性を示した。
【0069】
以下の実施例2〜8については、設定を変更した条件およびそれに応じて変動した条件を簡単に説明した後、評価結果をまとめて説明する。
実施例2
炭酸ガスの注入圧力を6.0MPaとし、注入量が2.8wt%となるように樹脂に注入した以外は実施例1と同様にして発泡シートを製造した。実施例1と対比すると、押出機ヘッドでの樹脂圧力P1は5MPa、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は16MPaとなった。
【0070】
実施例3
サーキュラーダイの設定温度を下げてダイ出口の樹脂温度T3を110℃とした以外は実施例2と同様にして発泡シートを製造した。実施例2と対比すると、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は17MPaとなった。
【0071】
実施例4
サーキュラーダイの設定温度を上げてダイ出口の樹脂温度T3を115℃とした以外は実施例2と同様にして発泡シートを製造した。実施例2と対比すると、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は14MPaとなった。
【0072】
実施例5
接続管の長さを半分にした以外は実施例2と同様にして発泡シートを製造した。実施例2と対比すると、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は12MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が10MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも40secとなった。
【0073】
実施例6
樹脂として脂肪族ポリエステルBを用いた以外は実施例2と同様にして発泡シートを製造した。実施例2と対比すると、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は18MPaとなった。
【0074】
実施例7
樹脂として脂肪族ポリエステルC(融点96℃)を用い、バレル設定温度(5ゾーン)を上流側よりそれぞれ120、150、140、140、140℃として押出機ヘッドでの樹脂温度T1を145℃とし、サーキュラーダイ出口での樹脂温度T3を93℃とした以外は実施例2と同様にして発泡シートを製造した。この場合、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は15MPaとなった。
【0075】
実施例8
ギヤポンプおよび接続管の代わりに、スクリュー径55mm、L/D=32の単軸押出機(スクリューの体積圧縮比[通常1.0]を1.6に変更)を設けた以外は、実施例2と同様にして発泡シートを製造した。実施例2と対比すると、第1段の押出機ヘッドでの樹脂圧力P1は8MPa、第2段の押出機入口での樹脂圧力P2は14MPa、第2段の押出機以降で樹脂が10MPa以上の圧力を保持した時間は250secとなった。
【0076】
以上の実施例2〜8でも、厚さ約1.5mm、幅700mm、発泡倍率7〜13倍、平均気泡径480〜610nmで、良好な外観を示す発泡シートを連続的に安定して製造することができた。また、これらの発泡シートも優れた生分解性を示した。特に、脂肪族ポリエステルCを用いた実施例7の発泡シートは非常に優れた生分解性を示した。
【0077】
比較例1
直鎖状の脂肪族ポリエステルDを用いた以外は実施例2と同様にして発泡シートを製造した。実施例2と対比すると、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は19MPaとなった。
【0078】
この場合、製造された発泡シートは気泡径のばらつきが大きく、1mmを超える巨大気泡も多数存在した。また、経時的な発泡倍率のばらつきも2〜7倍と大きかった。具体的には、1時間の成形時間のうちほとんどの時間で得られた発泡シートの発泡倍率は2〜5倍の低倍率であり、5〜7倍と発泡倍率の高いシートは非定常的にしか得られなかった。
【0079】
比較例2
ギヤポンプおよび接続管を取り除いて第1段の押出機に直接サーキュラーダイを取り付けた以外は実施例2と同様にして発泡シートの製造を試みた。この場合、第1段の押出機ヘッドでの樹脂圧力P1が18MPaまで上がり、ガス注入口で樹脂のバックフローが生じた。この結果、炭酸ガス注入量が大きく変動し、それに伴いダイにおける樹脂圧力が大きく変動し始め、発泡シートを安定して製造することができなかった。
【0080】
比較例3
接続管を取り除いてギヤポンプに直接サーキュラーダイを取り付けた以外は実施例2と同様にして発泡シートを製造した。実施例2と対比して、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は14MPa(この場合にはダイ入口での樹脂圧力も同じ値になる)となり、ギヤポンプ以降で樹脂が10MPa以上の圧力に保持される時間t2は15sec程度しか確保できなかった。また、ギヤポンプだけでは樹脂を十分に冷却できないため、ダイ出口での樹脂温度T3は125℃となった。この結果、得られた発泡シートは気泡径のばらつきが大きく、発泡倍率も4.5倍であった。
【0081】
また、第1段の押出機およびサーキュラーダイの設定温度を下げて発泡シートの製造を試みたが、設定温度を下げるほど製造が不安定になった。
<実施例9〜18>
これらの実施例では、第2段の推進機構での樹脂圧力を高めて発泡シートの発泡倍率を高めるために、サーキュラーダイのリップ幅を0.2mm以下に設定した。一部の実施例では、さらに発泡倍率を高めるために炭酸ガスの注入量を増加した。
【0082】
実施例9
サーキュラーダイのリップ幅を0.2mmとし、ダイ出口での樹脂温度T3を110℃とした以外は実施例2と同様にして発泡シートを製造した。実施例2と対比すると、ギヤポンプ出口の樹脂圧力P2は26MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも80secとなった。また、ダイ入口での樹脂圧力P3は17MPaであった。
【0083】
実施例10
サーキュラーダイのリップ幅を0.15mmとし、ダイ出口での樹脂温度T3を111℃とした以外は実施例9と同様にして発泡シートを製造した。実施例9と対比すると、ギヤポンプ出口の樹脂圧力P2は31MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも80sec、ダイ入口での樹脂圧力P3は22MPaとなった。
【0084】
実施例11
炭酸ガスの注入圧力を7.0MPaとし、注入量が3.5wt%となるように樹脂に注入した以外は実施例9と同様にして発泡シートを製造した。実施例9と対比すると、押出機ヘッドでの樹脂圧力P1は6.5MPa、ギヤポンプ出口の樹脂圧力P2は24MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも65sec、ダイ入口での樹脂圧力P3は15MPaとなった。
【0085】
実施例12
ダイ設定温度を下げてダイ出口での樹脂温度T3を108℃とした以外は実施例11と同様にして発泡シートを製造した。実施例11と対比すると、ギヤポンプ出口の樹脂圧力P2は25MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも80sec、ダイ入口での樹脂圧力P3は16MPaとなった。
【0086】
実施例13
ダイ設定温度を上げてダイ出口での樹脂温度T3を112℃とした以外は実施例11と同様にして発泡シートを製造した。実施例11と対比すると、ギヤポンプ出口の樹脂圧力P2は22MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも45sec、ダイ入口での樹脂圧力P3は13MPaとなった。
【0087】
実施例14
接続管の長さを半分にし、ダイ出口での樹脂温度T3を111℃とした以外は実施例9と同様にして発泡シートを製造した。実施例9と対比すると、ギヤポンプ出口の樹脂圧力P2は21MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも35sec、ダイ入口での樹脂圧力P3は16MPaとなった。
【0088】
実施例15
脂肪族ポリエステルBを用い、ダイ出口での樹脂温度T3を108℃とした以外は実施例11と同様にして発泡シートを製造した。実施例11と対比すると、押出機ヘッドでの樹脂圧力P1は7.1MPa、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は32MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも80sec、ダイ入口での樹脂圧力P3は20MPaであった。
【0089】
実施例16
炭酸ガスの注入圧力を8.0MPaとし、注入量が4.5wt%となるように樹脂に注入した以外は実施例15と同様にして発泡シートを製造した。実施例15と対比すると、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は29MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも80sec、ダイ入口での樹脂圧力P3は17MPaとなった。
【0090】
実施例17
ダイ設定温度を下げてダイ出口での樹脂温度T3を103℃とした以外は実施例16と同様にして発泡シートを製造した。実施例16と対比すると、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は35MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも80sec、ダイ入口での樹脂圧力P3は23MPaとなった。
【0091】
実施例18
脂肪族ポリエステルC(融点96℃)を用い、バレル設定温度(5ゾーン)を上流側よりそれぞれ120、150、140、140、140℃として押出機ヘッドでの樹脂温度T1を145℃とし、サーキュラーダイ出口の樹脂温度を93℃とした以外は実施例9と同様にして発泡シートを製造した。この場合、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は25MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも80sec、ダイ入口での樹脂圧力P3は18MPaとなった。
【0092】
上記の実施例9〜18のいずれでも第2段の推進機構での炭酸ガスの溶解を促進することにより、厚さ約1.5mm、幅700mmで、発泡倍率が15〜25倍と非常に高く、平均気泡径350〜490nmで良好な外観を示す発泡シートを連続的に安定して製造することができた。また、これらの発泡シートも優れた生分解性を示した。特に、脂肪族ポリエステルCを用いた実施例18の発泡シートは非常に優れた生分解性を示した。
【0093】
<実施例19、20>
以下の2つの実施例では、図3(A)の製造装置の接続管8とサーキュラーダイ9の間に、第3段の推進機構として20cc/revのギヤポンプ(川崎重工社製)を加えた製造装置(図1(C)に相当する)で実験を行った。
【0094】
実施例19
図1(C)で示される製造装置を用い、実施例1と同じ条件で発泡シートを製造した。その結果、第2の推進機構である1台目のギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は18MPaとなり、このギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が10MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも85secとなった。また、実施例1に比べ連続して安定に製造できる時間がより長くなったうえに、製造された発泡シートは発泡倍率、シート厚みとも目標値に対して±5%以内になった。
【0095】
実施例20
図1(C)で示される製造装置を用い、実施例9と同じ条件で発泡シートを製造した。その結果、第2の推進機構である1台目のギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は27MPaとなり、このギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも85secとなった。また、実施例9に比べ連続して安定に製造できる時間がより長くなったうえに、製造された発泡シートは発泡倍率、シート厚みとも目標値に対して±5%以内になった。
【0096】
<実施例21〜24>
以下の4つの実施例では、図3(A)の製造装置の接続管8の代わりに、ギヤポンプの直後にアダプタを介して、第3段の推進機構としてスクリュー径65mm、L/D=32の単軸押出機(東芝機械社製)を設けた製造装置(図1(D)に相当する)で実験を行った。
【0097】
実施例21
図1(D)で示される製造装置を用い、実施例16と同じ条件で発泡シートを製造した。その結果、第2の推進機構であるギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は33MPaとなり、このギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも600secとなった。
【0098】
実施例22
図1(D)で示される製造装置を用い、実施例17と同じ条件で発泡シートを製造した。その結果、第2の推進機構であるギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は38MPaとなり、このギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも600secとなった。
【0099】
実施例23
炭酸ガスの注入量を6wt%に上げた以外は実施例22と同じ条件で発泡シートを製造した。その結果、第2の推進機構であるギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は34MPaとなり、このギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも600secとなった。
【0100】
実施例24
図1(D)で示される製造装置を用い、脂肪族ポリエステルC(融点96℃)を用いて炭酸ガスの注入量を4.5%とし、サーキュラーダイ出口の樹脂温度を85℃に設定して発泡シートを製造した。その結果、第2の推進機構であるギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は35MPaとなり、このギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも600secとなった。
【0101】
上記の実施例21〜24のいずれでも、厚さ1.8〜2.0mm、幅700mmで、発泡倍率が24〜34倍と非常に高く、平均気泡径360〜510nmで良好な外観を示す発泡シートを連続的に安定して製造することができた。また、これらの発泡シートも優れた生分解性を示した。特に、脂肪族ポリエステルCを用いた実施例24の発泡シートは非常に優れた生分解性を示した。
【0102】
<実施例25、26>
以下の2つの実施例では、図3(A)の製造装置の接続管8の代わりに、ギヤポンプの直後にアダプタを介して、第3段の推進機構としてスクリュー径65mm、L/D=32の単軸押出機(東芝機械社製)を設け、さらにこの単軸押出機とサーキュラーダイの間に第4の推進機構として20cc/revのギヤポンプ(川崎重工社製)を設けた製造装置(図1(E)に相当する)で実験を行った。
【0103】
実施例25
図1(E)で示される製造装置を用い、実施例22と同じ条件で発泡シートを製造した。その結果、第2の推進機構である1台目のギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は39MPaとなり、このギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも600secとなった。また、実施例22に比べ連続して安定に製造できる時間がより長くなったうえに、製造された発泡シートは発泡倍率、シート厚みとも目標値に対して±5%以内になった。
【0104】
実施例26
図1(E)で示される製造装置を用い、実施例23と同じ条件で発泡シートを製造した。その結果、第2の推進機構である1台目のギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は35MPaとなり、このギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも600secとなった。また、実施例23に比べ連続して安定に製造できる時間がより長くなったうえに、製造された発泡シートは発泡倍率、シート厚みとも目標値に対して±5%以内になった。
【0105】
<その他の実施例>
実施例27
図3(A)と同じ装置構成で、ギヤポンプ及びギヤポンプ以降の設備材料を約100MPaの圧力まで対応できるように改良し、更に先端に平行部を設けたクリアランス0.2mmのリップを取り付けた製造装置を用いた。ベース樹脂として脂肪族ポリエステルBを用い、ダイ出口での樹脂温度T3を100℃とし、ガス注入量を10wt%とした以外は実施例16と同様にして発泡シートを製造した。実施例16と対比すると、押出機ヘッドでの樹脂圧力P1は9.1MPa、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は59MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも80secであった。製造された発泡シートの発泡倍率は約45倍であった。
【0106】
実施例28
図1(D)で示される製造装置を用い、純粋な炭酸ガスの代わりに、ベント口2箇所から炭酸ガス4.2wt%、窒素0.3wt%をそれぞれ注入して押出機内で混合した以外は実施例21と同じ条件で発泡シートを製造した。その結果、、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は30MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも600sec、ダイ入口での樹脂圧力P3は18MPaとなった。製造された発泡シートの発泡倍率は約23倍であった。
【0107】
実施例29
図1(D)で示される製造装置を用い、純粋な炭酸ガスの代わりに、ベント口2箇所から炭酸ガス4.2wt%、フロン134a0.3wt%をそれぞれ注入して押出機内で混合した以外は実施例21と同じ条件で発泡シートを製造した。その結果、、ギヤポンプ出口での樹脂圧力P2は29MPa、第2の推進機構であるギヤポンプ以降で昇圧後の樹脂が20MPa以上の圧力を保持した時間t2は少なくとも600sec、ダイ入口での樹脂圧力P3は17MPaとなった。製造された発泡シートの発泡倍率は約26倍であった。
【0108】
【表1】
Figure 0003956498
【0109】
【表2】
Figure 0003956498
【0110】
【表3】
Figure 0003956498
【0111】
【表4】
Figure 0003956498
【0112】
【表5】
Figure 0003956498
【0113】
【表6】
Figure 0003956498
【0114】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明の方法を用いれば、生分解性の脂肪族ポリエステルに対して発泡剤として従来の炭化水素系発泡剤やフロン系発泡剤に比べて地球温暖化係数(GWP)が小さく環境に優しい炭酸ガスを用い、表面性、発泡倍率ともに良好な生分解性脂肪族ポリエステル発泡体を連続的に安定して製造できる。こうした生分解性脂肪族ポリエステル発泡体は汎用プラスチック発泡体に比べて地球環境の保護に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明において用いられる製造装置の構成例を示す図。
【図2】本発明において用いられた生分解性脂肪族ポリエステルの伸長粘度の時間依存性を示す図。
【図3】本発明の実施例において用いられた発泡シートの製造装置、ならびにその圧力プロファイルおよび温度プロファイルを示す図。
【符号の説明】
1…単軸押出機
2…ホッパー
3…バレル
4…スクリュー
5…定量注入ポンプ
6…アダプター
7…ギヤポンプ
8…スタティックミキサーを配置した接続管
9…サーキュラーダイ
10…冷却マンドレル
11…発泡シート
110…第1段の推進機構
120…第2段の推進機構
125…接続管
130…第3段の推進機構
140…第4段の推進機構
200…押出ダイ

Claims (5)

  1. 少なくとも第1段の推進機構、第2段の推進機構および押出ダイを有する製造装置を用い、前記第1段の推進機構において融点が70〜190℃であり長鎖分岐を有する生分解性脂肪族ポリエステルを溶融して炭酸ガスを注入し、前記第2段の推進機構または第2段の推進機構以降において炭酸ガスを含む生分解性脂肪族ポリエステルを昇圧し、その後冷却し、前記押出ダイを通して炭酸ガスを含む生分解性脂肪族ポリエステルを大気中に解放して発泡させることを特徴とする生分解性脂肪族ポリエステル発泡体の製造方法。
  2. 第2段の推進機構以降でかつ押出ダイの上流側に第3の推進機構としてギヤポンプを設けることを特徴とする請求項1記載の生分解性脂肪族ポリエステル発泡体の製造方法。
  3. 第1段の推進機構、第2段の推進機構、冷却機能を持つ第3段の推進機構および押出ダイを有する製造装置を用い、前記第1段の推進機構において融点が70〜190℃であり長鎖分岐を有する生分解性脂肪族ポリエステルを溶融して炭酸ガスを注入し、前記第2段の推進機構において炭酸ガスを含む生分解性脂肪族ポリエステルを昇圧し、前記第3段の推進機構において該樹脂を昇圧以前の圧力を越えて加圧したまま冷却した後、押出ダイを通し該生分解性脂肪族ポリエステルを大気中に解放して発泡させることを特徴とする請求項1記載の生分解性脂肪族ポリエステル発泡体の製造方法。
  4. 第3段の推進機構以降でかつ押出ダイの上流側に第4段の推進機構としてギヤポンプを設けることを特徴とする請求項3記載の生分解性脂肪族ポリエステル発泡体の製造方法。
  5. 第2段の推進機構またはその下流側において生分解性脂肪族ポリエステルを10MPa以上の圧力に30sec以上保持することを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の生分解性脂肪族ポリエステル発泡体の製造方法。
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