JP3956425B2 - カラーフィルタ製造用塗布装置及びカラーフィルタの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス基板や金属板などの平坦な被塗布枚葉部材の表面に塗布液を吐出し、その塗布液の塗膜を形成する塗布装置および塗布方法並びにカラー液晶ディスプレイ用カラーフィルタの製造装置および製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
カラー液晶ディスプレイ用のカラーフィルタは、被塗布部材としてのガラス基板上に3原色の細かな格子模様を有しており、このような格子模様はガラス基板上に黒色の塗膜を形成した後、そのガラス基板上をさらに赤、青、緑の3原色に塗り分けて得られる。
【0003】
それゆえ、カラーフィルタの製造には、ガラス基板上に黒、赤、青、緑の塗布液を順次塗布し、それぞれの塗膜を形成する枚葉塗布工程が不可欠となる。この種の塗布工程には、従来、塗布装置としてスピナー、バーコータあるいはロールコータが使用されていたが、塗布液の消費量の削減や塗膜の物性向上、さらには、カラー液晶ディスプレイの大型化に伴うガラス基板の大板化対応のために、近年に至ってはダイコータの使用が検討されている。
【0004】
ダイコータでは、一般にチキソトロピック性を有した凝集性のある塗布液を被塗布部材表面に塗布する場合、その塗布器いわゆるスリットダイの内部に設けた塗布液を塗布幅方向に拡幅するためのマニホールド内で、特にマニホールドへ塗布液を供給する供給口から離れるにしたがって、塗布液の凝集物やゲル状化物が発生し易くなる問題がある。
【0005】
マニホールド内で塗布液の凝集物やゲル状化物が生じると、塗膜表面に凝集物欠点が発生し、この凝集物がマニホールドからスリット平行部へと繋がるマニホールド下部内壁面に沈降、付着して堆積すると、マニホールドから平行スリット部への塗布液の流れが変化して塗膜表面に縦スジが発生する。
【0006】
そして、これら塗膜表面品位の低下は、製品の歩留まり悪化やスリットダイの内部洗浄、又はスリットダイの交換による塗布装置の稼働率低下を招き、塗布装置の生産性を著しく損ねてしまう。
【0007】
従来より、本問題を解決するために、主として連続走行するウエブ表面に塗膜を形成するためのスリットダイに関しては、例えば特開昭62−95174号公報では、マニホールド内に塗布巾方向に亘って設けた回転円筒によってせん断力を付与しながら塗布液を強制的に攪拌し、塗布液の凝集やゲル状化を抑止する方法が開示されている。
【0008】
また特開平1−266876号公報では、塗布幅方向に亘ってマニホールド内に固定型攪拌手段を設け、塗布液をそれ自身の液圧により攪拌することで塗布液の凝集やゲル状化を抑止する方法が開示されている。
【0009】
さらに、発生した塗布液の凝集物がマニホールドから吐出口に至る接液面に沈降、付着し吐出口が詰まることを抑制する手段として、特開平4−346869号公報には、マニホールドから吐出口に至る接液面を対向する壁面との離間を漸次狭めるなめらかな連続面とする方法等が開示されている。
【0010】
しかし、前記の如き公知の方法では、例えばガラス基板のような枚葉部材表面に厚みの均一な塗膜を順次形成するダイコータには適さず、実用が困難である。つまり、前記特開昭62−95174号公報で開示されている、マニホールド内に回転円筒を有するスリットダイでは、比較的粘度が低い(〜400cp)塗布液において、回転円筒のわずかな回転ムラや、振れの影響で塗布液の吐出圧が変化するため、塗布厚みの均一性が著しく損なわれる。さらに、ダイコータによって各枚葉部材毎に塗布液の枚葉塗布を行なう場合、塗布厚みの均一性を維持するために塗布開始および終了時における塗布厚み制御が不可欠となるが、スリットダイへ塗布液を供給するポンプの送液量変化と連動して回転円筒の回転数を微妙に制御することは困難なため、塗膜面全体で均一な塗布厚みを達成することはできない。
【0011】
同様に、前記特開平1−266876号公報で開示されている、マニホールド内に固定型攪拌手段を有するスリットダイでも、固定型攪拌手段が抵抗となって塗布開始および終了時における前記ポンプの送液量変化がスリットダイ吐出口に伝わりにくく、微妙な塗布液の吐出量制御ができないため、塗膜面全体で均一な塗布厚みを達成することができない。さらに、マニホールド内を流動する液圧に頼って塗布液を攪拌するため、塗膜の薄膜化に伴って塗布液流量が減少すると、マニホールド内の塗布液流動が緩慢になって、固定型攪拌手段の壁面近傍で塗布液の異常滞留が発生し易く、その箇所では逆に塗布液の凝集やゲル状化進行を促進してしまう。また、マニホールド内の構造が複雑になり、接液面積が増加するために、スリットダイ内部の洗浄性が悪く、分解洗浄が必要となるという手間もかかる。
【0012】
そして、前記特開平4−346869号公報で開示されているマニホールドから吐出口に至る接液面が対抗する接液面との離間を漸次狭めるなめらかな連続面としたスリットダイでは、マニホールドと吐出口の間にスリット平行部が設けられていないので、吐出口における塗布幅方向に均一な間隙を機械的に製作することは困難であり、塗布幅方向で高い塗布厚み精度を達成することができない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、一般にチキソトロピック性を有し凝集性のある塗布液を被枚葉部材表面に吐出する場合でも、凝集物欠点や凝集物起因の縦スジのない、高品位な塗膜表面を長期間に亘って順次形成でき、かつ、塗布開始および終了時の塗布膜厚制御性を損なうことなく塗膜厚みを均一にできる塗布装置および塗布方法を提供することにある。さらに、これら塗布装置および塗布方法を用いた製品歩留まりの良い、設備稼働率の高いカラーフィルタの製造装置および製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、上記目的を達成するためには、スリットダイ内部に充填している塗布液をポンプ等の供給手段から新たに供給される塗布液と1回の枚葉塗布工程でほぼ完全に交換(置換)できること、スリットダイ内部のマニホールドを含めた塗布液の流路を塗布膜厚精度が悪化しない範囲で発生した凝集物が塗布器内部壁面へ沈降・付着することのない形状とすること、凝集物の発生を抑制できるようなマニホールド壁面の表面粗さとすることが重要との結論に至った。
【0015】
上記の目的を達成する本発明の構成は以下の通りである。すなわち、
(1)本発明のカラーフィルタ製造用塗布装置は、塗布液を供給する供給手段と、この供給手段からの塗布液の供給を受け、供給された前記塗布液の全量を一方向に延びる吐出口から塗布液を吐出可能な塗布器と、この塗布器および被塗布部材のうちの少なくとも一方を相対的に移動させて、その被塗布部材の表面に塗布液の塗膜を形成する移動手段とを備え、その塗布器は、被塗布枚葉部材の相対的な進行方向でみて前後に結合されたフロントリップおよびリアリップと、これらリップ間に形成され、供給手段から供給された塗布液を吐出口と同一方向に拡幅するためのマニホールドと、マニホールドから吐出口へ塗布液を導くためのスリット平行部と、スリット平行部を形成するフロントおよびリアリップのリップ接液面とを有し、前記塗布液は、顔料分散液であって、この塗布器のマニホールドの容積V1(mm3)は、被塗布枚葉部材1枚の表面への1回の塗布に必要な塗布液量V2(mm3)に対して、
0.05≦V1/V2≦1.0
の範囲であり
前記塗布器の前記スリット平行部の塗布液押出方向の長さをL1(mm)としたとき、
15<L1≦70
の範囲であり、
対向する壁面との離間を漸次狭めて前記スリット平行部へと繋がる前記マニホールド下部内壁面の塗布押出方向の長さをL2(mm)としたとき、
0.05≦L2/L1≦0.5
の範囲であり、
前記マニホールド下部内壁面における各位置の塗布液押出方向接線とスリット平行部における塗布液押出方向線とを結ぶ角度をθ(゜)としたとき、
5≦θ≦40
を満たしていることを特徴とする。
上記本発明のカラーフィルタ製造用塗布装置によれば、被塗布枚葉部材1枚の表面へのほぼ1回の塗布で塗布器内部に充填されている塗布液がポンプより新たに供給される塗布液と速やかに置換することができるため、塗布器のマニホールドにおいて塗布液の凝集物が発生して滞留することもない。したがって、各枚葉塗布開始時には常に新しい塗布液が塗布器のマニホールドに充填されているため、表面に凝集物欠点や凝集物起因の縦スジのない高品位な塗膜を被塗布枚葉部材表面に長期間に亘って順次形成することができる。さらに、塗布器内部の流路に余分な抵抗物等がないため、枚葉塗布開始および終了時の膜厚制御において、何ら悪影響を及ぼすことがないため、塗布厚みの均一性を損なうこともない。
また、上記の塗布装置によれば、マニホールド内部の塗布液押出方向における塗布液の異常滞留が抑止でき、塗布器内部に充填されている塗布液を新たに供給される塗布液と速やかに置換することができるので、塗布液の凝集進行を防ぐことができる。また、仮にマニホールド内で塗膜表面品質を損なわない程度の極微少な凝集核が発生した場合でも、この凝集核がマニホールド内壁面へ沈降、付着して成長することなくスリット平行部を通じて吐出口より円滑に吐出されるため、被塗布枚葉部材へ凝集物欠点や凝集物起因の縦スジがない高品位な塗膜表面を長期間に亘って順次形成できる。さらに、マニホールド内を流動する塗布液の圧損が無視できる程度の圧損を稼ぐのに必要充分な長さをもつスリット平行部がマニホールドから連続的に設けられているため、吐出口における間隙の塗布幅方向の均一性を容易に向上することができる。したがって、例えばカラーフィルタ用の塗膜に要求されるような高い塗布膜厚精度が実現できる塗布装置に適用可能となる。
【0018】
(2)また、本発明の塗布装置は、塗布器のマニホールド内壁面の算術平均粗さ(Ra)が、0.001〜0.4(μm)の範囲に設定されていることが好ましい。
【0019】
上記の塗布装置によれば、マニホールド内壁面の微小キズや凹凸に塗布液固形分がこびりついて凝集核となり、これが成長して凝集物が発生することを抑制できる。したがって、被塗布枚葉部材へ凝集物欠点や凝集物起因の縦スジがない高品位な塗膜表面を長期間に亘って順次形成することができる。
【0020】
(3)また、本発明の塗布装置は、スリット平行部の間隙幅が、0.05〜0.3(mm)の範囲に設定されていることが好ましい。
【0021】
この場合、スリット平行部の間隙幅は、例えばカラーフィルタ用の塗膜に要求されるような塗布膜厚を実現でき、且つ塗布液固形分の凝集物が詰まることもなく、凝集欠点や凝集物起因の縦スジがない高品質な塗膜表面を被塗布部材表面に長期間に亘って順次形成することができる。
(4)また、機械加工の難易度や精度を考慮すれば直線的に離間を漸次狭めるテーパ形状がより好ましい。
【0022】
(5)また、本発明のカラーフィルタの製造方法は、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の塗布装置を用い、塗布器および被塗布部材のうちの少なくとも一方を相対的に移動させて被塗布部材の表面に塗布液の塗膜を形成するものである。
上記のカラーフィルタの製造方法によれば、前記(1)〜(4)の塗布装置と同様な作用、つまり、表面品位が高く塗布幅方向に膜厚が均一な塗膜を長期間に亘って安定に形成できる。
また、本発明のカラーフィルタの製造方法は、ガラス基板などの透明基板に所定の塗膜を順次形成し、これにより、カラーフィルタを歩留まり良く製造することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
図1を参照すると、カラーフィルタの製造に適用された塗布装置いわゆるダイコータが示されており、ダイコータは基台2を備えている。基台2上には一対のガイド溝レール4が設けられており、これらガイド溝レール4には、ステージ6が配置され、このステージ6の上面はサクション面として構成されている。ステージ6は、一対のスライド脚8を介してガイド溝レール4上を水平方向に往復動自在となっている。
【0026】
一対のガイド溝レール4間には、ガイド溝レール14に沿って延びるケーシング12が配置されており、このケーシング12は送り機構を内蔵している。送り機構は、図2に示されているようにボールねじからなるフィードスクリュー14を有しており、フィードスクリュー14はステージ6の下面に固定されたナット状のコネクタ16にねじ込まれ、このコネクタ16を貫通して延びている。フィードスクリュー14の両端部は図示しない軸受に回転自在に支持されており、その一端にはACサーボモータ18が連結されている。なお、ケーシング12の上面又は側面にはコネクタ16の移動を許容する開口が形成されているが、図1中その開口は省略されている。
【0027】
なお、ここでは、ステージ6が往復動する構成となっているが、これに限らず、後述するスリットダイ40がステージ6に対して往復動する構成であってもよい。要は、ステージ6およびスリットダイ40のうちの少なくとも一方が往復動すればよい。
【0028】
基台2の上面にはその一端側に逆L字形のセンサ支柱20が配置されている。センサ支柱20はその先端が一方のガイド溝レール4の上方まで延びており、その先端には電動型の昇降アクチュエータ21が取り付けられている。この昇降アクチュエータ21には厚みセンサ22が下向きにして取り付けられており、この厚みセンサ22としてはレーザ変位計、電子マイクロ変位計、超音波厚さ計などを使用することができる。
【0029】
さらに、基台2の上面にはセンサ支柱20よりも基台2の中央側に同じく逆L字形をなしたダイ支柱24が配置されている。ダイ支柱24の先端は一対のガイド溝レール4間の上方、つまり、ステージ6の往復動経路の上方に位置し、その先端には昇降機構26が取り付けられている。図1中には詳細に示されていないけれども、昇降機構26は昇降ブラケットを備えており、この昇降ブラケットは一対のガイドロッドに昇降自在に取り付けられている。これらガイドロッド間にはボールねじからなるフィードスクリューが配置されており、このフィードスクリューは昇降ブラケットのナット部にねじ込まれ、このナット部を貫通して延びている。フィードスクリューの上端部にはACサーボモータ30が連結されており、このACサーボモータ30はケーシング28の上面に取り付けられている。なお、前述したガイドロッドおよびフィードスクリューはケーシング28に収容され、軸受を介して回転自在に支持されている。
【0030】
昇降ブラケットには支持軸(図示しない)を介してコ字形をなしたダイホルダ32が垂直面内で回転自在に取り付けられており、このダイホルダ32は一対のガイド溝レール4の上方をこれらガイド溝レール4間に亘って水平に延びている。さらに、昇降ブラケットにはダイホルダ32の上方に水平バー36が固定されており、この水平バー36はダイホルダ32に沿って延びている。水平バー36の両端部には、空圧型の調整アクチュエータ38がそれぞれ取り付けられている。この調整アクチュエータ38は水平バー36の下面から突出した伸縮可能なロッドを有しており、これら伸縮ロッドの下端はダイホルダ32の両端それぞれに当接されている。
【0031】
ダイホルダ32内には塗布器としてのスリットダイ40が取り付けられている。図2に示されているようにスリットダイ40からは塗布液の供給ホース42が延びており、この供給ホース42の先端はシリンジポンプ44における電磁切り換え弁46の供給ポートに接続されている。電磁切り換え弁46の吸引ポートからは吸引ホース48が延びており、この吸引ホース48の先端部は、塗布液を蓄えたタンク50内に挿入されている。
【0032】
シリンジポンプ44のポンプ本体52は、電磁切り換え弁46の切り換え作動により供給ホース42および吸引ホース48の一方に選択的に接続可能となっている。そして、これら電磁切り換え弁46およびポンプ本体52はコンピュータ54に電気的に接続され、このコンピュータ54からの制御信号を受けて、それらの作動が制御されるようになっている。また、コンピュータ54は前述した昇降アクチュエータ21および厚みセンサ22もまた電気的に接続されている。
【0033】
さらに、シリンジポンプ44の作動を制御するため、コンピュータ54にはシーケンサ56もまた電気的に接続されている。このシーケンサ56は、ステージ6側のフィードスクリュー14のACサーボモータ18や、昇降機構26つまりそのACサーボモータ30の作動をシーケンス制御するものであり、そのシーケンス制御のために、シーケンサ56にはACサーボモータ18,30の作動状態を示す信号、ステージ6の移動位置を検出する位置センサ58からの信号、スリットダイ40の作動状態を検出するセンサ(図示しない)からの信号などが入力され、一方、シーケンサ56からはシーケンス動作を示す信号がコンピュータ54に出力されるようになっている。なお、位置センサ58を使用する代わりに、ACサーボモータ18にエンコーダを組み込み、このエンコーダから出力されるパルス信号に基づき、シーケンサ56にてステージ6の位置を検出することも可能である。また、シーケンサ56にコンピュータ54による制御を組み込むことも可能である。
【0034】
図示されていないが、ダイコータには、ステージ6上に被塗布部材としての枚葉部材、つまり、カラーフィルタのためのガラス基板Aを供給するローダや、ステージ6からガラス基板Aを取り外すためのアンローダが備えられており、これらローダおよびアンローダにはその主要構成部分に例えば円筒座標系産業用ロボットを使用することができる。
【0035】
図1から明らかなように、前述したスリットダイ40は、ステージ6の往復動方向と直行する方向、すなわち、ステージ6の幅方向に水平に延びており、その両端がダイホルダ32に支持されている。ここで、スリットダイ40の水平調整は、前述した水平バー36の両端に設けた調整アクチュエータ38の伸縮ロッドを伸縮させ、ダイホルダ32をその支持軸回りに回転させることで行うことができる。
【0036】
図3および図4を参照すれば、第1〜第3実施例において基本的構成が共通なスリットダイ40の詳細が示されている。このスリットダイ40は長尺なブロックであるフロントリップ58およびリアリップ60を備えており、これらフロントおよびリアリップ58、60はステージ6の往復動方向前後にシム62を介して結合され、図では一部省略しているが、互いに複数の連結ボルト64により一体的に結合されている。
【0037】
より詳しくは、フロントリップ58の調整ボルト90が設けられている部分より下側が下方に向けてさらに突出して吐出口74へと連なっており、一方、リアリップ60の後面下部も吐出口74からさらにフロントリップ58の下面に連なるようにして下向きの傾斜面が形成されている。これにより、スリットダイ40の下面中央にはその幅方向に延びるノズル部66が形成されている。
【0038】
図4から明らかなように、リアリップ60の内面にはその中央部分に位置してマニホールド68が形成されている。このマニホールド68は溝から形成されており、この溝はスリットダイ40の幅方向に水平に延びている。
【0039】
なお、マニホールド68は前述した塗布液の供給ホース42に内部通路70を介して常時接続されており、この内部通路70はマニホールド68の中央上部に位置付けられている。
【0040】
本実施例では、マニホールドがリアリップの片側にだけある場合を示しているが、本発明はこれに限定されるものでなく、マニホールド68はフロントリップ58の片側のみに形成されても、フロントおよびリアリップ58、60の両側に形成されてもよい。
【0041】
シム62は、全体に亘って厚みが基準値から偏差2%以内に収められている薄い板状をなし、マニホールド68自体およびマニホールド68の下方部に対応した部分が切り欠かれている。したがって、シム62は、フロントリップ58とリアリップ60との間にマニホールド68に連なる垂直なスリット平行部72(図3参照)を形成しており、このスリット平行部72の下端開口はノズル部66の下面すなわちリップ下面66aに開口する吐出口74となっている。この吐出口74もまたマニホールド68と同様にステージ6の往復動方向と直行する方向、すなわち、ステージ6の幅方向に延びている。
【0042】
フロントおよびリアリップ60の内面において、スリット平行部72を規定する部分はそれぞれリップ接液面76となっており、これらリップ接液面76間の間隙(スリット平行部72の隙間)は、スリット平行部72の上下方向(図5中矢印B方向)及び吐出口74の長手方向(図5中矢印E方向)のそれぞれに亘り、つまり、リップ接液面76の全域に亘り、基準値から偏差が4%以内に収められている。ここで、スリット平行部72の間隙、つまり、その基準値はシム62の厚みによって決定され、その間隙は例えば0.05mmから0.3mmに設定されている。
【0043】
ここで、この間隙が0.05mm以上に確保されていると、差動ボルトで構成される調整ボルト90によってその間隙調整が容易に行え、これに対し、その間隙が0.3mmを越えてしまうと、スリット平行部72およびマニホールド68内の塗布液の吐出圧を十分に保つことが困難となり、吐出口74から一様に塗布液Lを吐出することができなくなってしまう。
【0044】
図5および図6に示されているようにステージ6の幅方向に沿う吐出口74の吐出幅は、前述の説明から明らかなようにマニホールド68における両端間の長さ(図5参照)、つまり、シム62における両脚部62a間の間隔(図6参照)によって規定されており、その吐出幅は図5、6中、参照符号Wで示されている。なお、図6では、シム62は斜線を施して示されている。
【0045】
また、シム62の切欠き形状は、フロントおよびリアリップ58、60をシム62を介して結合する際、マニホールド68に対応するシム62の切欠き部上側稜線63はマニホールド68の上側稜線69よりも下側(図6参照)に位置するような形状をしていなければならない。これは、仮にシム62の切欠き部がマニホールド68の上側稜線69よりも上側にある場合、この部分でフロントおよびリアリップ58、60との間にシム62の厚みに相当する隙間ができ、毛管現象によって塗布液が流れ込んで塗布液の凝集が生じやすくなるのを防ぐためである。
【0046】
さらに、このシム62にはその表裏が認識できるよう、上側片端の角に面取りの目印61が付けられている(図4、6参照)。目印は何であっても構わないが、その目的はシム62の表裏を区別することにより、フロントおよびリアリップ58、60を一度分解して再組立する際にも、スリット平行部72の間隙プロファイルが変わらないようにするためである。
【0047】
図8には、第1実施例のリアリップ60におけるマニホールド68の容量V1(mm3 )と被塗布枚葉部材表面へ1回塗布するのに必要な塗布液量V2(mm3 )との関係を示す。
【0048】
マニホールド容量V1(mm3 )は、1枚の被塗布枚葉部材表面に1回塗布する塗布液量V2(mm3 )に対して
0.05≦V1/V2≦1.0
の範囲に収められている。したがって、1回の塗布工程によってマニホールド68の内部に充填している塗布液のほぼ全量を消費することができ、新たに供給する塗布液と置換することができる。したがって、被塗布枚葉部材(ガラス基板A)表面へは、常に新鮮な塗布液による塗膜を順次形成することができる。
【0049】
また、第1実施例のスリットダイは、図9で示すようにマニホールド下部内壁面93において、任意の塗布液押出方向接線(例えばa1、a2、a3)とスリット平行部72における塗布液押出方向線bとを結ぶ角度θが40°より大きくなっている箇所があり、一般的にはTダイと呼ばれるものである。むろん、本発明が提案する塗布装置における塗布器、すなわちスリットダイは、そのマニホールド容量が上記範囲内であれば前述のTダイだけに限定されるものではなく、一般的なコートハンガーダイまたは多数のマニホールドから構成される多段マニホールドダイであっても、その他のダイでも形式は問わない。
【0050】
仮に、マニホールド容量V1を上記範囲より小さくした場合、マニホールドの塗布幅方向を流動する塗布液の圧損が大きくなりすぎて、塗布液を幅方向に均一吐出することが難しくなる。
【0051】
逆に、マニホールド容量V1を上記範囲よりも大きくすると、スリットダイ40の内部に充填されている塗布液のほぼ全量が1回の枚葉塗布工程で新たに供給される塗布液と置換されず、その一部は幾度の枚葉塗布を経てもマニホールド内に滞留するため、その滞留箇所で塗布液固形分が凝集物やゲル化物となる。このために、短期間で塗膜表面に凝集物欠点や凝集起因の縦スジが発生するので製品歩留まりが悪く、スリットダイ内部を溶媒等で頻繁に洗浄することが必要となるので塗布装置の稼働率も低下する。
【0052】
図10には、第2実施例のリアリップ60におけるマニホールド形状の詳細を示している。通常、スリット平行部72を流動する塗布液の圧損が高く、その流れが層流状態であるほど塗布幅方向における塗布液の均一吐出が可能となる。圧損を高めて、流れを層流状態にするためにはスリット平行部72の間隙幅を狭めることが一番効果的であり、次いでスリット平行部72の上下方向の長さをできるだけ長くすることが好ましい。
【0053】
しかし、スリット平行部72の間隙幅を狭くするにも、機械製作精度や塗布液に混入する異物の詰まり防止の点で制約があるため、前述した0.05mmが範囲が限界である。したがって、塗布幅方向における塗布液の均一吐出をより実現しやすくするためは、スリット平行部72の上下方向の長さL1(mm)をスリットダイの重量や機械的寸法が許される範囲内で適切な長さにすることが好ましく、
15<L1≦70
の範囲に設定するのが好ましい。
【0054】
このL1が上記範囲より短い場合、前述したスリット平行部72の間隙幅の範囲内では必要な圧損を稼げず、塗布液の流れも完全な層流状態にはならないため、塗布液を塗布幅方向で均一吐出することは困難となる。逆にL1が上記範囲より長くなるとスリットダイのサイズが大きくなりすぎて重量が増加したり、スリット72で塗布液に混入する異物が詰まりやすくなり、かつ、この詰まった不純物を清掃することも難しくなる。
【0055】
対向する壁面との離間を漸次狭めてスリット平行部72へと繋がるマニホールド下部内壁面93の上下方向の長さL2(mm)は、スリット平行部72の上下方向の長さL1(mm)に対して、
0.05≦L2/L1≦0.5
の範囲に設定されている。
【0056】
L2が上記範囲より長くなるとマニホールド容量が大きくなって塗布液の置換性が悪化するために塗布液の凝集物やゲル状化物が発生しやすくなる。逆にL2が上記範囲より小さくなるとマニホールド68内を塗布幅方向に流動する塗布液の圧力分布を均一化して、かつ円滑に上下方向の流動に変えることが難しくなり、スリット平行部72より塗布液の塗布幅方向における均一吐出が難しくなる。
また、マニホールド下部内壁面93の対抗する壁面との離間を漸次狭める形状は、直線もしくは曲線のどちらでもよいが、機械加工の難易度や精度を考慮すれば直線的に離間を漸次狭めるテーパ形状がより好ましい。
【0057】
さらに、このマニホールド下部内壁面93における各位置の接線aとスリット平行部72における塗布液押出方向線bとを結ぶ角度θ(゜)は、
5≦θ≦40
の範囲に設定されていることが好ましい。
【0058】
角度θが大きすぎると、マニホールド下部内壁面93付近の塗布液の流れは二次流動によって渦状の循環流となりやすく、マニホールド内で発生した微小凝集物がマニホールド下部内壁面93で沈降・付着して成長することにより、スリット平行部72の隙間を塞ぎ、凝集物起因の縦スジが発生しやすくなる。逆に角度θが小さすぎると、上述したL2の範囲ではマニホールド68の容量が小さくなり、スリット平行部72を流動する塗布液の圧損に対してマニホールド68内を流動する塗布液の圧損が無視できなくなるため、スリット平行部72から塗布幅方向で塗布液を均一吐出することが難しくなる。
【0059】
マニホールド68全域の内壁面の表面粗さが悪いと、粗さの隙間に塗布液の固形分が入り、これが凝集核として成長するので、凝集物が発生しやすくなる。
【0060】
様々な評価のすえ、第1および第2実施例におけるリアリップ60のマニホールド68の内壁面の表面粗さは算術平均粗さ(Ra)が0.4μm以下の範囲で加工されることが好ましいことが分かった(第3実施例)。また、逆に良すぎると加工費がかさむため、0.001μmが限界である。
【0061】
本発明で規定する算術平均粗さ(Ra)とは、JIS B 0601(1994)に準拠して測定される数値である。すなわち、算術平均粗さ(Ra)は、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さ(L)だけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をY=f(X)で表したときに、次の[式1]によって求められる値をマイクロメートル単位(μm)で表したものをいう。
【0062】
【式1】
カラーフィルタのような顔料分散液を超精密塗布する場合には、マニホールド68全域の内壁面にごく僅かな傷でもあると塗布液固形分(分散顔料)がマニホールド壁面にこびり付きやすくなるため、表面粗さの最大高さ(Ry)を0.4μm以下の範囲に収まるように加工されるほうがより好ましいことが分かった。この場合でも、逆に良すぎると加工費がかさむため、0.001μmが限界である。
【0063】
本発明で規定される表面粗さの最大高さRyとは、JIS B 0601(1994)に準拠して測定される数値である。すなわち、最大高さRyは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の山頂線と谷底線との間隔を粗さ曲線の縦倍率方向に測定し、この値をマイクロメートル単位(μm)で表したものをいう。
【0064】
次に、カラーフィルタの製造に係わる一工程、つまり、上述したダイコータを使用して行われる塗布方法を説明する。
【0065】
図1、図2において、まず、ダイコータにおける各作動部の原点復帰が行われると、ステージ6は厚みセンサ22の下方に位置付けられ、また、タンク50から吸引ホース48および供給ホース42を経て、スリットダイ40内のマニホールド68およびスリット平行部72内に至る経路内に塗布液が満たされる。さらに、塗布準備動作として、シリンジポンプ44の電磁切り換え弁46がそのポンプ本体52に吸引ホース48と接続すべく切り換え作動され、そして、ポンプ本体52にタンク50内の塗布液を吸引ホース48を通じて吸引する吸引動作を行わせる。シリンジポンプ44内に所定量の塗布液が吸引されると、シリンジポンプ44の電磁切り換え弁46はポンプ本体52と供給ホース42とを接続すべく切換作動される。
【0066】
この状態で、図示しないローダからステージ6上にガラス基板Aが供給され、このガラス基板Aはステージ6上にサクション圧を受けて保持される。ここで、ガラス基板Aは、スリットダイ40における吐出口74の吐出幅Wよりも広い幅寸法を有している。このようにしてガラス基板Aのローディングが完了すると、厚みセンサ22が所定の位置まで加工され、ガラス基板Aの厚みが厚みセンサ22により測定される。測定後、厚みセンサ22は元の位置まで上昇される。
【0067】
ガラス基板Aのローディングが完了すると、ステージ6はスリットダイ40に向けて移動して、スリットダイ40の直前で停止される。この後、スリットダイ40が下降され、スリットダイ40、すなわち、そのノズル部66の下面とガラス基板Aの上面との間に所定のクリアランス、すなわち、形成すべき塗膜の厚さTに対して数倍となる、例えば0.1mmのクリアランスH(図7参照)が確保される。クリアランスHは、厚みセンサ22により測定したガラス基板Aの厚さを考慮し、ステージ6とスリットダイ40との間の距離を測定する距離センサ(図示しない)からの出力信号に基づき、スリットダイ40の下降位置が位置決めされ得ることで正確に設定される。
【0068】
次に、ステージ6をさらに移動させ、ガラス基板Aの上面にて、塗膜の形成を開始すべきスタートラインがスリットダイ40の吐出口74の直下に位置づけされて現時点で、ステージ6を一旦停止させる。
【0069】
このステージ6の一旦停止と実質的に同時に、シリンジポンプ44に塗布液の吐出動作を開始させ、塗布液をスリットダイ40に向けて供給する。したがって、スリットダイ40の吐出口74からガラス基板A上に塗布液Lが吐出される。ここで、吐出口74はその間隙がスリットダイ40の長手方向、つまり、ステージ6の往復動方向に沿って一定であるから、吐出口74からはガラス基板Aのスタートラインに沿って一様に塗布液Lが吐出され、この結果、スリットダイ40とガラス基板Aとの間にはメニスカスと称される液溜まりC(図7参照)がスタートラインに沿って形成される。
【0070】
このような液溜まりCの形成と同時に、吐出口74からの塗布液Lの吐出を継続しながら、ステージ6を一定の速度で往復動方向に進行させると、図2および図7に示されるようにガラス基板Aの上面に塗布液Lの塗膜Dが連続性適正される。
【0071】
なお、塗膜Dの形成にあたっては、ステージ6の移動を一旦停止することなく、ガラス基板Aののスタートラインがスリットダイ40の吐出口74を通過するタイミングにて、吐出口74から塗布液Lを吐出するようにしてもよい。
【0072】
ステージ6の進行に伴い、ガラス基板A上にて塗膜Dの形成を終了すべきフィニッシュラインがスリットダイ40の吐出口74の直前位置に到達すると、この時点で、シリンジポンプ44の吐出動作が停止される。このようにしてスリットダイ40の吐出口74から塗布液Lの吐出が停止されても、ガラス基板A上の液溜まりCの塗布液を消費しながら、塗膜Dの形成がフィニッシュラインまで継続される。なお、ガラス基板A上のフィニッシュラインがスリットダイ40の吐出口74を通過した時点で、シリンジポンプ44の吐出動作を停止するようにしてもよい。
【0073】
ガラス基板A上のフィニッシュラインが吐出口74を通過する時点又は通過した時点で、シリンジポンプ44の吸引動作がわずかに行われ、これにより、スリットダイ40のスリット平行部72内の塗布液Lはマニホールド68側に吸引される。
【0074】
同時に、スリットダイ40は元の位置まで上昇され、スリットダイ40から塗布液Lの吐出工程が終了する。次に、シリンジポンプ44に吸引動作と同じ量だけ吐出動作を与えて、スリットダイ40のスリット平行部72に空気が残らないようにした後、シリンジポンプ44の電磁切り換え弁46はポンプ本体52と吸引ホース48とを接続すべく切り換え動作され、そして、ポンプ本体52にタンク50内の塗布液を吸引ホース48を通じて吸引する吸引動作を行わせる。シリンジポンプ44内に所定量の塗布液が吸引されると、シリンジポンプ44の電磁切り換え弁46はポンプ本体52と供給ホース42とを接続すべく切り換え作動される。なお、スリットダイ40の上昇位置にて、その下端面に付着している塗布液Lがクリーナ(図示しない)により拭き取られる。
【0075】
一方、ステージ6の往動は、塗布液Lの吐出工程が終了しても継続されており、ステージ6がガイド溝レール4の終端に到達した時点で、その往動が停止される。この、状態で、塗膜Dが形成されたガラス基板Aは、そのサクションによる吸着が解除されて後、アンローダによりステージ6上から取り外される。この後、ステージ6は往動され、図1に示す初期位置に戻されて一連の塗布工程が終了する。初期位置にて、ステージ6は新たなガラス基板がローディングされるまで待機する。
【0076】
上述したガラス基板A上への塗膜Dの形成に関し、スリットダイ40におけるマニホールド68の容量はガラス基板A上へ1回塗布するのに消費される塗布液量に対してほぼ同等以下に設定されているため、1回の塗布工程間で新たに供給される塗布液により、マニホールド68に充填されている塗布液のほぼ全量が凝集物やゲル状化物を発生することなく速やかに吐出口74より吐出される。
【0077】
また、マニホールド下部内壁面93を前述のような形状としておけば、仮に塗布液の凝集物がマニホールド68内で発生したとしても、この凝集物が壁面に沈降・付着して成長することによりスリット平行部72を塞ぐことがないため、長期間に亘って枚葉塗布工程を繰り返しても塗膜D表面に凝集物起因の縦スジが発生することもない。
【0078】
さらに、マニホールド68の内壁面の表面粗さの算術平均粗さ(Ra)、より好ましくは最大高さ(Ry)を前述の範囲に設定しておけば、マニホールド壁面の傷に塗布液固形分が付着し、これが核となって成長することによる凝集物発生も未然に防ぐことができる。
【0079】
したがって、本発明における塗布装置および塗布方法によって、カラーフィルタの製造を長期間に亘って歩留まり良く、かつ、設備稼働率良く行うことができる。
【0080】
【実施例】
前述したように、一般にチキソトロピック性を有した凝集性のある塗布液を被塗布枚葉部材へ塗布する場合、塗布厚み精度を悪化することなく塗膜表面に凝集物欠点や凝集起因の縦スジが発生することを長期間に亘って抑制するには、塗布器のマニホールドの容量、形状、壁面の表面粗さを適切にすることが重要である。
【0081】
図11には、塗布幅は300mmから650mmと様々であるが、前述した塗布方法でガラス基板に塗布液を塗布して約25000枚のカラーフィルタを製造する際、ガラス基板1枚へ1回塗布するのに必要な塗布液量で正規化した塗布器のマニホールド容量Vと、塗膜表面に凝集物欠点や凝集物起因の縦スジが発生してその塗布器の内部洗浄や塗布器自体の交換といった塗布装置の停機が必要になるまで連続的に枚葉塗布できたガラス基板枚数の関係を示している。
【0082】
また、本実施例では塗布液として、ピグメントレッド177とガラスビーズをγ−ブチロラクトンへホモジナイザーによって分散処理した後、濾過によりガラスビーズを除去した顔料分散液にポリアミック酸のγ−ブチロラクトン溶液を添加混合したカラーペーストを使用し、その粘度比は2.56であった。(東京計器(株)製ELD型粘度計の回転数を変えて25℃で測定を行い、(0.5rpmの粘度指示値)/(2.5rpmの粘度指示値)の比を粘度比とした。なお、粘度比が1に近いほど顔料の分散性が良く塗布液はニュートン流体になる)
対向する壁面との離間を漸次狭めて平行スリット部へと繋がるマニホールド下部内壁面が前述した図9のような形状をなし、かつマニホールド容量Vが、
0.05≦V≦1.0
の範囲にある第1実施例の塗布器を備えた塗布装置では、5000枚のガラス基板に順次枚葉塗布を行ってもその塗膜表面には凝集物欠点が発生せず(○印)、凝集物起因の縦スジが発生するのも7500枚以上のガラス基板に塗布した後であった(△印)。また、マニホールド容量Vが上記範囲内で小さくなるほど、凝集物起因の欠点や縦スジのない高品位な塗膜表面を形成できるガラス基板枚数は増加した。
【0083】
なお、図11で示している縦軸方向の点線よりも小さなマニホールド容量V、すなわちマニホールド容量Vを0.05未満とした場合、リップ間隙を調整しても塗布器の塗布幅方向の塗布厚み精度が10%以上となって、カラーフィルタの品質上好ましくないため評価するには至らなかった。
【0084】
マニホールド容量Vが上記範囲内で同じならば、前述した図10に示すような第2実施例の塗布器を備えた塗布装置では、10000枚のガラス基板に順次枚葉塗布を行ってもその塗膜表面には凝集物欠点が発生しなかった(●印)。そして、評価したガラス基板枚数では凝集物起因の縦スジが塗膜表面に発生しなかった。
【0085】
マニホールド容量Vが上記範囲内で同じであり、前述した図10に示すような第2実施例のスリットダイにおいて、0.8μm以上あったマニホールドの内壁面の算術平均粗さ(Ra)を0.4μm以下までに向上した第3実施例の塗布器を備えた塗布装置では、14000枚のガラス基板に順次枚葉塗布を行ってもその塗膜表面には凝集物欠点が発生しなかった(◎印)。そして、この第3実施例のスリットダイでも、評価したガラス基板枚数では凝集物起因の縦スジが塗膜表面に発生しなかった。
【0086】
これに対して、マニホールド容量Vが1.0よりも大きく、図9で示すマニホールド形状を成した実施例の塗布器を備えた塗布装置では、凝集物起因の欠点や縦スジのない高品位な塗膜表面を順次形成できるガラス基板の枚数は2500枚以下であり、塗布した25000枚のガラス基板全数を塗布する間、頻繁な塗布器の内部洗浄や塗布器自体の交換が必要であった。
【0087】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明の塗布装置および塗布方法によれば、塗布器内部に充填されている塗布液の全量が新たに供給される塗布液とほぼ1回の枚葉塗布で速やかに置換され、発生した塗布液の凝集物がマニホールド下部内壁面に沈降・付着してスリット平行部を塞ぐほど成長することもなく、また塗布液の凝集自体の発生も抑制できる。よって、一般にチキソトロピック性を有した凝集性のある塗布液を被塗布枚葉部材へ塗布する場合でも、凝集物混入のない新鮮な塗布液を常に塗布器より吐出し、長期間に亘って高品質な塗膜表面を順次形成することが可能となるため、製品の歩留まりや塗布装置自体の生産性が向上する。さらに、枚葉塗布において重要な塗布開始および終了時の膜厚制御において、何ら悪影響を及ぼすことがないため、塗膜厚みの均一性を損なうこともない。
【0088】
また、本発明の塗布装置によれば、塗布器の吐出口の開度を適切な範囲に抑えることができ、塗布器マニホールド内で発生した凝集物がスリット平行部を塞いで縦スジが発生することなく、塗布液を吐出口より塗布幅方向で均一に吐出することが可能になる。
【0089】
さらに本発明のカラーフィルタの製造装置および製造方法によれば、設備稼働率が向上するとともに高品質なカラーフィルタを歩留まり良く製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ダイコータを示した概略斜視図である。
【図2】図1のダイコータを塗布液の供給系をも含めて示した概略構成図である。
【図3】スリットダイを一部破断して示した側面図である。
【図4】第1〜第3実施例において、基本的構成が共通なスリットダイを示した分解斜視図である。
【図5】図4に示したリアリップの拡大図である。
【図6】リアリップとシムとの関係を示す図である。
【図7】図5中VII 部におけるスリットダイの拡大断面図である。
【図8】第1実施例のマニホールド容量と塗布液量を示したスリットダイの概略斜視図である。
【図9】第1実施例および比較例のスリットダイの断面図である。
【図10】第2実施例のスリットダイの断面図である。
【図11】凝集性のある塗布液について、1回の枚葉塗布に消費する塗布液量によって正規化されたマニホールド容量Vと塗布液の凝集起因の塗膜欠陥が発生するまでに順次枚葉塗布できたガラス基板枚数の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
6:ステージ
14:フィードスクリュー
40:スリットダイ(塗布器)
44:シリンジポンプ(供給手段)
50:タンク
58:フロントリップ
60:リアリップ
62:シム
62a:シム両脚部
63:シム切欠き部上側稜線
66a:リップ下面
68:マニホールド
69:マニホールド上側稜線
70:供給口
72:スリット平行部
74:吐出口
76:リップ接液面
90:調整ボルト
93:マニホールド下部内壁面
A:ガラス基板(被塗布枚葉部材)
Claims (5)
- 塗布液を供給する手段と、
前記供給手段からの塗布液の供給を受け、供給された前記塗布液の全量を一方向に延びる吐出口から塗布液を吐出可能な塗布器と、
前記塗布器または被塗布枚葉部材の少なくとも一方を相対的に移動させ、前記被塗布枚葉部材の表面に塗布液の塗膜を形成する移動手段とを具備する塗布装置であって、
前記塗布器は、前記被塗布枚葉部材の相対的な進行方向でみて前後に結合されたフロントリップおよびリアリップと、これらリップ間に形成され、前記供給手段から供給された塗布液を前記吐出口と同一方向に拡幅するためのマニホールドと、前記マニホールドから前記吐出口へ塗布液を導くためのスリット平行部と、前記スリット平行部を形成する前記フロントおよびリアリップのリップ接液面とを有し、
前記塗布液は、顔料分散液であって、
前記塗布器の前記マニホールドの容量V1(mm3)は、前記塗布器から前記被塗布枚葉部材1枚の表面への1回の塗布に必要な塗布液量V2(mm3)に対して、
0.05≦V1/V2≦1.0
の範囲であり
前記塗布器の前記スリット平行部の塗布液押出方向の長さをL1(mm)としたとき、
15<L1≦70
の範囲であり、
対向する壁面との離間を漸次狭めて前記スリット平行部へと繋がる前記マニホールド下部内壁面の塗布押出方向の長さをL2(mm)としたとき、
0.05≦L2/L1≦0.5
の範囲であり、
前記マニホールド下部内壁面における各位置の塗布液押出方向接線とスリット平行部における塗布液押出方向線とを結ぶ角度をθ(゜)としたとき、
5≦θ≦40
を満たしている
ことを特徴とするカラーフィルタ製造用塗布装置。 - 前記マニホールド内壁面の算術平均粗さ(Ra)が、
0.001〜0.4(μm)
の範囲であることを特徴とする請求項1記載のカラーフィルタ製造用塗布装置。 - 前記スリット平行部の前記被塗布部材の相対的な進行方向の間隙幅が、0.05〜0.3(mm)の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のカラーフィルタ製造用塗布装置。
- 対向する壁面との離間を漸次狭めて前記スリット平行部へと繋がる前記マニホールド下部内壁面が、直線的に離間を漸次狭めるテーパ形状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のカラーフィルタ製造用塗布装置。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のカラーフィルタ製造用塗布装置を用い、塗布器および被塗布部材の少なくとも一方を相対的に移動させて前記被塗布部材の表面に塗布液の塗膜を形成することを特徴とするカラーフィルタの製造方法。
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