JP3954841B2 - ポリエステル樹脂 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、高感度の感熱転写記録媒体用として好適なポリエステル樹脂、およびそれを用いた感熱転写記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
感熱転写記録媒体を用いた記録方式はプリンターに代表されるように文字や画像情報を一般の記録紙に記録する場合の他、プラスチック製ラベルの情報をバーコードとして記録する場合等、種々の分野で幅広く採用されている。
【0003】
感熱転写記録媒体は当初、顔料や染料などの着色剤をワックスや樹脂などのバインダーに分散せしめたインク層を紙又はプラスチックシート等の基材上に担持させたものであった。このうち、ワックス系インク層を担持させた感熱転写記録媒体は、転写感度は比較的高いものの、転写後、特にプラスチックラベルへの転写後の耐摩耗性は著しく低いという欠点を有していた。一方樹脂系インク層を担持させた感熱転写記録媒体は、転写後の耐摩耗性は比較的良好であったが、転写感度に劣り、特に一般の記録紙のように凹凸が激しい受容紙には対応できないという欠点を有していた。
【0004】
このような欠点を解消するため、インク層と基材の間に剥離層を設けて転写時に基材からインク層を容易に剥離するようにしたものや、インク層のさらに上に、接着層を設けて転写後の耐摩耗性を向上させようとしたものが提案されてきた。しかし前者においては、剥離層を設けてインク層の剥離を容易にしても、インクと受容紙との粘着力が不充分であるために、転写不良が生じるという問題点を有していた。また後者においては、感熱転写記録媒体シートをロール巻き状態で保存する際、接着層が重ねた別の基材に転写してしまうという問題点を有していた。
【0005】
こうした事情から、一般の記録紙にも対応できる転写感度を有し、かつ転写後の耐摩耗性、保存性に優れた感熱転写記録媒体及びインク層を構成するポリエステル樹脂が求められてきた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、一般の記録紙にも対応できる転写感度を有し、かつ転写後の耐摩耗性、保存性に優れた感熱転写記録媒体に好適なポリエステル樹脂を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定範囲のガラス転移点及び貯蔵弾性率の変化率を有するポリエステル樹脂を感熱転写記録媒体のインク層に用いることで、転写感度、耐摩耗性、保存性が著しく向上することを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、多価芳香族カルボン酸残基を主体とするカルボン酸残基とグリコール残基とからなる、20℃における極限粘度で0.13dl/g以上0.28dl/g以下の範囲のポリエステル樹脂であって、ガラス転移点(Tg)が37[℃]以上75[℃]以下であって、Tg+10[℃]及びTg+40[℃]における貯蔵弾性率をそれぞれG'i[Pa]及びG'f[Pa]とするとき、次式
K=(LogG'i−LogG'f)/Log30(但し対数の底は10である)
で示されたK値が1.5以上3.5以下であることを特徴とするポリエステル樹脂を要旨とするものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のポリエステル樹脂は、ガラス転移点(Tg)が37[℃]以上75[℃]以下であることが必要で、48[℃]以上64[℃]以下であることが好ましい。Tgが37[℃]未満である場合には本発明のポリエステル樹脂をインク層に使用した感熱転写記録媒体シートの保存性が低下し、またTgが75[℃]を超える場合にはインク層の転写性が低下していずれも好ましくない。
【0011】
さらに本発明のポリエステル樹脂は、Tg+10[℃]及びTg+40[℃]における貯蔵弾性率をそれぞれG'i[Pa]及びG'f[Pa]とするとき、次式
K=(LogG'i−LogG'f)/Log30(但し対数の底は10である)
で示されたK値が1.5以上3.5以下であることが必要で、2.0以上3.0以下であることが好ましい。
【0012】
ここで上記式によって定義されたK値についてさらに詳細に説明する。
一般に非晶性ポリエステルを加熱した場合、ガラス転移点(Tg)を超えると樹脂は軟化しはじめ、その貯蔵弾性率が低下する。したがってこのK値は軟化直後(Tg+10[℃]からTg+40[℃])における貯蔵弾性率の変化率を示すポリエステル樹脂固有の数値であり、本発明のポリエステル樹脂を使用した感熱転写記録媒体のインク層の特性を反映する指標となる。K値が1.5未満である場合には感熱転写記録媒体のインク層の転写性が良好でなく、また3.5を超える場合には耐摩耗性が低下してそれぞれ好ましくない。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂は、多価芳香族カルボン酸残基を主体とするカルボン酸残基とグリコール残基とからなるポリエステル樹脂であって、前記特性を有するものであれば特にその構成成分は制限されない。
【0014】
本発明のポリエステル樹脂を構成するカルボン酸残基としては、多価芳香族カルボン酸からなる各残基を主体とすることが必要であり、90モル%以上がこれらの残基であることが好ましい。具体的には、オルトフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられ、中でも、テレフタル酸、イソフタル酸からなる残基が好適に用いられる。なお、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸からなる各残基や、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テルペンのマレイン酸付加物などの脂環族ジカルボン酸からなる各残基を本発明の効果を損ねない範囲で共重合してもよい。
【0015】
さらに三次元構造を導入し他の配合成分と架橋反応させる場合に、その架橋密度を高める目的のために、トリカルバリル酸、ブタントリカルボン酸、ヘキサントリカルボン酸、ヘプタンテトラカルボン酸、ジシクロヘキサントリカルボン酸、トリメリット酸やピロメリット酸などに代表される3官能以上のカルボン酸残基を、カルボン酸成分全体に対し、0.2〜10モル%含有せしめることができる。0.2モル%以下では添加した効果が発現せず、10モル%を超える量を含有せしめた場合には、ゲル化点を超え、ポリエステル樹脂の分子量を実用上充分に上げることができず、好ましくない。これらは必ずしも1種類で用いる必要はなく、複数種以上混合して用いることが可能である。
【0016】
また、本発明のポリエステル樹脂を構成するグリコール残基としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,17−ヘプタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの脂肪族グリコールからなる各残基や、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAエチレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールAPエチレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールFエチレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールSエチレンオキシド付加物、水素化ビフェノールエチレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールAPプロピレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールFプロピレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールSプロピレンオキシド付加物、水素化ビフェノールプロピレンオキシド付加物、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−ヒドロキシシクロヘキシル−メタノール、3−ヒドロキシシクロヘキシル−メタノール、4−ヒドロキシシクロヘキシル−メタノール、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールAP、水素化ビスフェノールF、水素化ビスフェノールS、水素化ビフェノール、4,8−ビス(ヒドキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6]−デカンなどの脂環族グリコールからなる各残基や、1,2−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、ビスフェノールAエチレンオキシド付加物、ビスフェノールAPエチレンオキシド付加物、ビスフェノールFエチレンオキシド付加物、ビスフェノールSエチレンオキシド付加物、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールAPプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールFプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールSプロピレンオキシド付加物、ビフェノールプロピレンオキシド付加物等の芳香族グリコールからなる各残基を挙げることができる。中でも1,2−プロパンジオール、ビスフェノールSエチレンオキシド付加物、4,8−ビス(ヒドキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6]−デカンからなる各残基を全グリコール成分中20モル%以上含有すると、ポリエステル樹脂のTgとK値とを規定の範囲に制御しやすいので好ましい。とりわけ1,2−プロパンジオールが好ましい。また、ビスフェノールSエチレンオキシド付加物は、エチレンオキシド2モル付加体を使用することが好ましい。
【0017】
さらに三次元構造を導入し他の配合成分と架橋反応させる場合に、その架橋密度を高める目的のために、3官能以上のアルコールをグリコール成分全体に対し、0.2〜10モル%含有せしめることができる。0.2モル%以下では添加した効果が発現せず、10モル%を超える量を含有せしめた場合には、ゲル化点を超え、ポリエステル樹脂の分子量を実用上充分に上げることができず、好ましくない。3官能以上のアルコールとして、例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、α−メチルグルコース、マニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトールが挙げられる。これらは必ずしも1種類で用いる必要はなく、複数種以上混合して用いることが可能である。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂を得るための製造方法としては、直接エステル化法、エステル交換法などの溶融重合法による公知の製造方法によって製造することができる。
【0019】
直接エステル化法での製造方法をさらに詳細に説明すると、本発明のポリエステル樹脂の原料である多価アルコールと多価カルボン酸及び触媒を一括して反応器に仕込み、系内の空気を排出し、窒素置換する。その後エステル化温度(200〜240℃)になるまで昇温し、攪拌しながら2〜8時間反応を行う。エステル化反応終了後、重合温度(220〜290℃)まで昇温し、さらに系内を減圧にし高真空下で重合反応を行う。反応時間は製造する樹脂種によって異なるが、通常1〜20時間である。重合反応終了後、系内に窒素を封入し減圧を解除し、樹脂を払い出すことでポリエステル樹脂が得られる。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂は、前記特性を有するものであれば特にその分子量を限定されるものではないが、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒(質量比6/4)を溶媒とし、20℃における極限粘度で0.13dl/g以上0.28dl/g以下の範囲のものが好適に使用され、0.16dl/g以上0.22dl/g以下の範囲のものがさらに好適に使用される。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂の分子量を制御する方法としては、重合時のポリエステル溶融物を所定の粘度で重合を終了する方法や一旦分子量の高いポリエステルを製造したのち解重合剤を添加する方法、さらに単官能アルコール、(例えばセチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オクチルアルコール、ステアリルアルコール)や安息香酸などの単官能カルボン酸を予め添加する方法などが挙げられる。
【0022】
本発明のポリエステル樹脂は上記のいかなる方法によって分子量を制御してもよいが、重合時のポリエステル樹脂溶融物を所定の粘度で制御する方法または解重合剤を添加する方法が好適に用いられる。
【0023】
また、アルコール性水酸基(またはカルボキシル基)を増やす場合には、ポリエステル樹脂の分子量を目標以上に重合反応を進めておき、多官能アルコール性水酸基(または多官能カルボキシル基)を有する低分子物質にて解重合する方法が好ましい。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂を製造する際に使用することができる触媒として、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、テトラブチルチタネ−トなどの有機チタン酸化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の酢酸塩、ヒドロキシブチルスズオキサイドなどの有機錫化合物を挙げることができる。また触媒使用量は、生成する樹脂質量に対し、0.01〜1.0質量%の範囲にあることが好ましい。0.01質量%未満ではポリエステルが所望の分子量に到達しないことがあり、一方1.0質量%を超える場合には樹脂の分子量については実用上問題のない程度まで上昇するが、金属成分が還元されて沈殿したり、他の配合成分への溶出が懸念され好ましくない。
【0025】
次に、本発明の感熱転写記録媒体について説明する。
本発明の感熱転写記録媒体は、基材上に剥離層、インキ層を順次積層した感熱転写記録媒体を基本的構成とし、インク層のバインダーとして前述のポリエステル樹脂を用いる。
【0026】
本発明の感熱転写記録媒体のインキ層は、着色剤とバインダーからなり、さらに必要に応じて分散剤、帯電防止剤など、種々の添加剤を加えたものでよい。
【0027】
インキ層に用いるバインダーには、一般の記録紙にも対応できる転写感度を有し、かつ転写後の耐摩耗性、保存性に優れた感熱転写記録媒体とするために、そのインク層には、ガラス転移点(Tg)が37[℃]以上75[℃]以下であって、前記K値が1.5以上3.5以下であることを特徴とする前述のポリエステル樹脂を使用することが必要である。その他、従来から使用されているアクリル系樹脂、セルロース系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエンゴム等の熱可塑性エラストマーを配合してもよい。
【0028】
その他、必要に応じて、耐久性を阻害しない程度に、ワックス成分を混合し使用することができる。ワックスとしては、例えば、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス等がある。更に、フィッシャートロプシュワックス、各種低分子量ポリエチレン、木ロウ、ミツロウ、鯨ロウ、イボタロウ、羊毛ロウ、セラックワックス、キャンデリラワックス、ペトロラクタム、ポリエステルワックス、一部変性ワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等、種々のワックスが挙げられる。これらのワックスは針入度2以下のものが好ましい。
【0029】
インキ層の形成は、後述する着色剤成分及びバインダー成分、さらに、これに必要に応じて水、有機溶剤等の溶媒成分を配合調整したインク着色層形成用塗工液を、従来公知のホットメルトコート、ホットラッカーコート、グラビアダイレクトコート、グラビアリバースコート、ナイフコート、エアコート、ロールコート等の方法により、乾燥状態で厚さ0.1〜1.5μm、好ましくは0.2〜1.0μmを設けるものである。乾燥塗膜の厚さが、0.1μm未満の場合、十分な濃度を出すのが困難になる。また、厚さが1.5μmを越えた場合、印字転写の際に、高エネルギーが必要となり、特殊な感熱転写プリンターでしか印字できなかったり、または、印字の感度不足となる。
【0030】
着色剤としては、有機または無機の顔料もしくは染料のうち、記録材料として良好な特性を有するもの、例えば、十分な着色濃度を有し、光、熱、温度等により変褪色しないものが好ましい。このような着色剤としては、カーボンブラック、有機顔料、無機顔料、又は各種染料から適当なものを選択して用いることができ、例えば、カーボンブラック、ニグロシン染料、ランプブラック、ス−ダンブラックSM、ファスト・エローG、ベンジン・エロー、ピグメント・エロー、インドファストオレンジ、イルガジン・レッド、パラニトロアニリン・レッド、トルイジンレッド、カーミンFB、パーマネント・ボルドーFRR、ピグメント・オレンジR、リソール・レッド2G、レーキ・レッドC、ローダミンFB、ローダミンBレ−キ、メチルバイオレットBレーキ、フタロシアニングブルー、ピグメントブルー、ブリリアント・グリーンB、フタロシアニングリ−ン、オイルイエロ−GG、ザボンファストエローCGG、カヤセットY963、スミプラストエローGG、ザボンファストオレンジRR、オイルスカーレット、スミプラストオレンジG、オラズールブラウンG、ザボンファストスカ−レットCG、アイゼンスピロンレッドF4R、ファストゲンブルー5007、スーダンブルー、オイルピーコックブルーなど従来から公知の着色剤を1種又は2種以上混合して使用する。
【0031】
本発明の感熱転写記録媒体で用いられる基材としては、従来の感熱転写記録媒体に使用されているものと同じ基材をそのまま用いることができ、特に制限されないが、好ましい基材の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン、セロハン、ポリカーボネート、酢酸セルロース、トリアセチルセルロース、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ナイロン、ポリイミド、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、塩化ゴム、アイオノマー等のように比較的耐熱性の良いプラスチック、コンデンサー紙、パラフィン紙等の紙類、不織布等があり、又、これらを複合した基材であってもよい。この基材の厚さは、その強度及び熱伝導性が適切になるように材料に応じて適宜変更することが出来るが、その厚さは、好ましくは、例えば、2〜25μmである。
【0032】
本発明の感熱転写記録媒体では、基材とインキ層との間に剥離層を形成する。剥離層は基材に隣接して設けられる層であり、融点又は軟化点が70℃〜120℃のワックスを主体としている。この層は熱印加時に基材とインキ層間の剥離性を良くする為に設ける層であり、その為サーマルヘッドによる熱印加で溶融して低粘度液体になるような成分で構成されるのが望ましく、又加熱部分と非加熱部分の界面近くで層が容易に切れるように層成分を調整すると良い。剥離層に使用されるワックスを具体的に例示すると、蜜蝋、鯨蝋、木蝋、米ぬか蝋、カルナバワックス、キャンデリラワックス、モンタンワックス等の天然ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、酸化ワックス、オゾケライト、セレシン、エステルワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス;マルガリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、フロイン酸、ベヘニン酸等の高級飽和脂肪酸;ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級飽和一価アルコール;ソルビタンの脂肪酸エステル等の高級エステル;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド等が挙げられる。又、剥離層に弾力性を持たせて感熱転写記録媒体と被転写体との密着を良くすることも可能であり、この目的を達成する為、剥離層にイソプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム等のゴム類が添加される。このほか、剥離層の脱落防止の為、接着性の強い樹脂類を該層に添加することも可能であり、このために添加される樹脂としてはエチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン−エチルアクリレート共重合体が好適である。剥離層の形成は、剥離層形成用塗工液を、従来公知のホットメルトコート、ホットラッカーコート、グラビアダイレクトコート、グラビアリバースコート、ナイフコート、エアコート、ロールコート等の方法により、乾燥状態で厚さ0.05〜2μm程度を設けるものである。乾燥塗膜の厚さが、0.05μm未満の場合、基材とインキ層の接着力が大きくなり、逆に良好な剥離効果が得られない。また、厚さが2μmを越えた場合、印字時の転写感度が低下する傾向がある。
【0033】
また本発明の感熱転写記録媒体には必要に応じて基材の裏面に保護層を設けても良い。保護層はサーマルヘッドによる熱印加時に基材を高温から保護するための層であり、言い換えれば、サーマルヘッドの粘着を防止し、かつ、滑り性を良くするための層で、耐熱性の高い熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のほか、紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂も使用可能である。なお、保護層形成に好適な樹脂はフッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フエノール樹脂、メラミン樹脂等であり、これらの樹脂を薄膜状で使用すればよい。又、保護層の設置によって基材の耐熱性を著しく向上させることができるため、該層の設置によって従来は不適とされていた材料を基材にすることも可能になる。この保護層は、上記のバインダー樹脂に滑り剤、界面活性剤、無機粒子、有機粒子、顔料等を添加したものを、好適に使用し、形成される。保護層を形成する手段は、上記のごとき、バインダー樹脂に滑り剤、界面活性剤、無機粒子、有機粒子、顔料等を添加した材料を、適当な溶剤中に溶解または分散させて、塗工液を調製し、この塗工液をグラビアコーター、ロールコーター、ワイヤーバーなどの慣用の塗工手段により、塗工し、乾燥するものである。
【0034】
剥離層、インク層、保護層に使用する樹脂やワックスを希釈する際に使用することが可能な溶媒を具体的に例示すると、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系の溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼンなどに代表される塩素系の溶媒、酢酸エチル、イソホロン、γ−ブチロラクトン、セロソルブアセテート、カルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンに代表されるケトン系の溶媒、ジエチルエーテル、ブチルセルソルブ、エチルセルソルブ、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンなどの脂肪族炭化水素、ソルベッソ100、ソルベッソ150などの芳香族炭化水素などが挙げられる。これらは単独で使用することも可能であるが、複数種以上混合して使用することも可能である。この中で、トルエン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、イソプロパノールが好適に用いられる。
【0035】
【実施例】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形及び応用が可能である。
【0036】
a)樹脂の特性値の評価方法
a−1)組成分析
樹脂の組成分析を、日本電子製プロトンNMR、装置名JOEL LAMDBA300WBを用いて行った。
a−2)ガラス転移点(Tg)
装置にはパーキンエルマー社製DSC7を用い、昇温速度20℃/minで行った。
a−3)極限粘度
フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒(質量比6/4)に溶解し、測定温度は20℃で測定し、dl/g単位で示した。
a−4)貯蔵弾性率G’及びK値
装置としてレオメトリックサイエンティフィックファーイースト社製レオメータSR−5000を用い、パラレルプレート(25.0mm径、ギャップ1.50mm)、周波数1.0Hzの線形領域で、昇温速度2℃/分の条件にて動的粘弾性を測定し、Tg+10℃、Tg+40℃における貯蔵弾性率を調べ、これらをそれぞれ、G'i[Pa]及びG'f[Pa]とし、次式で示される数値をK値とした。
K=(LogG ' i −LogG ' f )/Log30(但し対数の底は10である)
【0037】
b)感熱転写記録媒体の評価方法
b−1)転写性
白PET(Bekk平滑度25000秒)と一般紙(Bekk平滑度2000秒)を受容紙とし、 熱転写ラベルプリンターZ−90xi(ゼブラ社製)を用い、印加エネルギー16mJ/mm2下 での転写画像を下記の基準にて評価した。
◎ ボイド、カスレが無く、画像のエッジがシャープである。
○ ボイド、カスレがほとんどない。
△ ややボイド、カスレがある。
× まったく転写しない。
b−2)耐摩耗性
98MPaの荷重をかけて50回往復で画像をラブテストし、下記の基準で評価した。
◎ 画像がまったく破壊されない。
○ 画像がほとんど破壊されない。
△ 画像がやや破壊される。
× 画像が完全に破壊される。
b−3)保存性
感熱転写記録媒体を重ね、0.196MPa の荷重をかけ、40℃、80%の環境に48時間放置後、感熱転写記録媒体の背面への裏移りを目視にて、観察し、評価した。
◎:裏移りが全く無い。
○:裏移りが殆ど無い。
△:半分程度裏移りする。
×:完全に裏移りする。
【0038】
実施例1
(ポリエステル樹脂Aの製造)
テレフタル酸166kg、1,2−プロパンジオール104kg、エチレングリコール16kgさらに触媒としてヒドロキシブチルスズオキサイドを21gを反応器に仕込み、系内を窒素に置換した。仕込み原料を30rpmで撹拌しながら、反応器を0.4MPaに加圧し、240℃で加熱し、内容物を溶融させた。反応器内温度が240℃に到達してから4時間エステル化反応を進行させた。エステル化反応終了後、系内を245℃に上昇させかつ減圧にした。系内が高真空に到達してから3時間重合反応を行って極限粘度0.470dl/gの高重合度のポリエステルを合成した後、エチレングリコール5kgを添加して温度235℃にて1時間解重合反応を行なった。重合反応終了後、系内に窒素を封入することで常圧に戻し、生成した樹脂を系外に払い出した。
(感熱転写記録媒体の作製)
下記に示す剥離層及びインク層の各組成物を溶解または分散して、それぞれ塗工液を作成した。基材として4.8μm厚のPETフィルムを用い、基材側から順に下記に示す剥離層(乾燥後膜厚1.0μm)、インク層(乾燥後膜厚1.0μm)の各塗工液を塗布乾燥し、感熱転写記録媒体を作製し、得られた感熱転写記録媒体を前述の方法で評価した。結果を表1に示す。
〈剥離層〉
カルナウバワックス 95質量部
エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂 5質量部
トルエン 100質量部
メチルエチルケトン 100質量部
〈インク層〉
ポリエステル樹脂A 80質量部
カーボンブラック 20質量部
トルエン 100質量部
メチルエチルケトン 100質量部
【0039】
実施例2〜及び実施例1〜5
表1記載のポリエステル樹脂の特性が得られるように、実施例1と同様な製造条件にして、ポリエステル樹脂B〜及びP〜Tを製造し、これを用いて感熱転写記録媒体を作製し、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1〜実施例については、いずれも、転写性、耐摩耗性、保存性はおおむね良好であった。比較例1は、ガラス転移点(Tg)が37℃未満のポリエステル樹脂Pをインク層に使用したため、熱転写記録媒体の保存性に劣るものとなった。比較例2は、ガラス転移点(Tg)が75℃を超え、K値が1.5未満のポリエステル樹脂Qをインク層に使用したため、熱転写記録媒体の転写性に劣るものとなった。比較例3は、K値が1.5未満のポリエステル樹脂Qをインク層に使用したため、熱転写記録媒体の一般紙に対する転写性に劣るものとなった。比較例4は、ガラス転移点(Tg)が75℃を超えるポリエステル樹脂Rをインク層に使用したため、熱転写記録媒体の転写性にやや劣るものとなった。比較例5は、ガラス転移点(Tg)が37℃未満であり、K値が3.5を超えるポリエステル樹脂Sをインク層に使用したため、熱転写記録媒体の耐摩耗性及び保存性に劣るものとなった。
【0042】
【発明の効果】
本発明のポリエステル樹脂は、温度変化に対して敏感に貯蔵弾性率を変化させるのに優れた性能を有しているため、一般の記録紙にも対応できる高感度な転写性能を有し、かつ耐摩耗性、保存性に優れた感熱転写記録媒体のインク層に使用することができる。

Claims (3)

  1. 多価芳香族カルボン酸残基を主体とするカルボン酸残基と、1,2−プロパンジオール、ビスフェノールSエチレンオキシド付加物、4,8−ビス(ヒドキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6]−デカンから選ばれた少なくとも1種のグリコールの残基を20モル%以上含有する、20℃における極限粘度で0.13dl/g以上0.28dl/g以下の範囲のポリエステル樹脂であって、ガラス転移点(Tg)が37[℃]以上75[℃]以下であって、Tg+10[℃]及びTg+40[℃]における貯蔵弾性率をそれぞれG'i[Pa]及びG'f[Pa]とするとき、次式K=(LogG'i−LogG'f)/Log30(但し対数の底は10である)で示されたK値が1.5以上3.5以下であることを特徴とするポリエステル樹脂。
  2. 感熱転写記録媒体用であり、かつ、熱転写インク層バインダー用である請求項1記載のポリエステル樹脂。
  3. 基材上に少なくとも剥離層と熱転写インク層とをこの順に設けてなる感熱転写記録媒体において、前記熱転写インク層が請求項1記載のポリエステル樹脂を含有することを特徴とする感熱転写記録媒体。
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