JP3952328B2 - 耐スカッフィング性および加工性に優れたピストンリング材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関に使用されるピストンリング材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年において、内燃機関には、低燃費化、高性能化、軽量化および排ガスの清浄化等、様々な改善が加えられている。
中でも、内燃機関の摺動部であるピストンリングに対しては、エンジンの軽量化ならびに高回転化に伴うピストンリングの薄肉化のため、疲労特性、耐摩耗性、耐スカッフィング性等の特性向上が強く求められ、従来使用されていた鋳鉄製ピストンリングは、強度、疲労特性等に優れた鋼製ピストンリングに変わりつつある。
現在、鋼製ピストンリングには、JIS SWOSC−V相当のSi−Cr鋼もしくは、12〜21%のCrを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼(以下高Crマルテンサイト系ステンレス鋼と記す)をベースにした材質が主として使用されている。
【0003】
通常、Si−Cr鋼からなるピストンリングは、その表面にCrメッキ処理を施して使用されるが、ピストンリング表面に形成されたCrメッキ層は、その使用に要求される耐摩耗性が不十分である。
さらに、高負荷の内燃機関へ適用した場合には、メッキ部の剥離によってリング母材が露出する問題が生じ、その結果、即座にシリンダー内壁と容易にスカッフィングを起こしてしまう。
それに付け加え、Crメッキ処理には、処理後に発生する廃液に関する諸問題、例えば、環境への悪影響ならびに近年の廃液処理コストの増加といった問題がある。
【0004】
これに対し、上記の高Crマルテンサイト系ステンレス鋼よりなるピストンリングは、その多くが表面に窒化処理を施して使用される。
この窒化層は、Crメッキ層に比べ高い耐摩耗性を有しているばかりでなく、窒化処理が拡散を利用した処理であるために、処理層が剥離する問題も無いため、ピストンリングとしては極めて優れた特性を有している。
また、窒化処理は、その処理コストが安価であり、環境への影響度も小さいことから、Crメッキ処理に比べて有利な処理方法である。
なお、その用途上、Crメッキ処理を施さなければならない場合においても、高Crマルテンサイト系ステンレス鋼は、Si−Cr鋼に比べて素材自体の耐熱性、耐摩耗性ならびに耐食性が優れているので、その一部にCrメッキを施せば十分である。
【0005】
上述してきたごとく、比較的性能重視の高負荷内燃機関への適用が中心であった従来のピストンリングは、最近の内燃機関の低燃費化、高性能化、軽量化および排ガスの清浄化等が要求される背景から、高負荷内燃機関に止まらず徐々にその使用範囲を拡大しつつある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
高Crマルテンサイト系ステンレス鋼は、そのピストンリング材としての製造過程において、通常、平線もしくは異形線材とした素材を一旦900〜1100℃に加熱し、急冷焼入れを行った後、比較的高めの温度にて焼戻しを行う。
上記熱処理後の高Crマルテンサイト系ステンレス鋼素材は、所定のリング形状に成形されることとなるのだが、このリング形状への成形に係る曲げ加工性(カーリング性)を高めるために、その硬さは、Si−Cr鋼の熱処理後硬さ45〜55HRCに対し、35〜45HRCと低めに調整しなくてはならない。
【0007】
本来のごとく、ピストンリングとしての耐摩耗性、耐スカッフィング性および疲労強度等の特性を重視するならば、熱処理硬さは高い方が望ましい。
しかし、残留炭化物量の多い高Crマルテンサイト系ステンレス鋼では、その熱処理硬さが高いと、曲げ加工の際に折損するという問題があるため、特性を多少犠牲にしてでも熱処理硬さを低めに調整しなければならないという問題点があった。
【0008】
この問題の改善方法としては、特開昭59−166653号、特開昭63−140066号に提案される低合金系ピストンリング材が知られている。
これらの方法は、Cr含有量を2.0〜9.0%と低合金化するものであり、耐折損性に関しては改善可能であるが、反面、耐スカッフィング性が極端に低下する。そのため上記に提案される成分系では、ピストンリングとしての特性に問題があるため,広く実用に至っていないのが現状である。
【0009】
また、高Crマルテンサイト系ステンレス鋼は、Si−Cr鋼に比べて加工硬化も大きいため、平線や異形線材に仕上げるまでの加工率を大きくすることができない。
そのため、引抜加工あるいは圧延加工の工程中に多数の焼鈍工程を必要とし、結果として、線材製造にかかるコストが高くなるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、上述した事項に鑑み、ピストンリングとしての要求特性を損なうこと無く、線材製造時の温間もしくは冷間における引抜加工性や圧延加工性を向上しすることで製造コストの低減を図ると共に、リング成形時の折損をも減少することが可能であるピストンリング材を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
まず、発明者は、熱間圧延後の線状ピストンリング素材について、その温間および冷間における引抜・圧延加工性に及ぼす各成分の影響について詳細な検討を行った。
さらには、上記素材の熱処理後における曲げ加工性およびピストンリングとして最も重要な耐スカッフィング性、耐摩耗性について、その特性に及ぼす各成分の影響を詳細に渡って研究した。
その結果、ピストンリング材に含まれている元素として、Siを特定値以下に制限しかつ、Cr/Cを17〜45に制限することで、ピストンリングとしての要求特性を低下させること無く、線材製造時および熱処理後においても極めて良好な加工性を有するに最適な成分系を見いだし、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明のピストンリング材は、重量%にて、C:0.2〜0.7%、Si:0.25%以下、Mn:0.45%以下、Cr:5.0%以上12.0%未満、残部Feおよび不純物からなりかつ、Cr(重量%)/C(重量%):17〜45に、好ましくは、18〜30に調整することで、優れた耐スカッフィング性および加工性を達成するものである。
【0013】
なお、本発明のピストンリング材は、上記手段に加え、重量%にて、Mnを0.30%以下に、あるいは、Mo、W、V、Nbの1種または2種以上を合計で、0.3〜2.5%に調整することで、ピストンリング材に要求される特性の更なる向上が可能であり、Cuを4%以下に、あるいは、Niを2%以下に調整することも可能である。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明のピストンリング材は、線材製造時の加工性に加え、熱処理後の曲げ加工性をも改善しかつ、従来材に比べて低合金でありながらも優れた耐スカッフィング性を有するものである。
そして、本発明の最大の特徴は、これら本発明の優れた特性を達成する手段として、鋼中のC、SiおよびCr含有量の調整と共に、Cr(重量%)/C(重量%)による値を適確に調整するところにある。
以下、本発明の根幹をなす、上記の構成要件について詳しく述べる。
【0015】
Cは、炭化物を形成して耐スカッフィング性や耐摩耗性を高めるだけでなく、一部が基地中に固溶することで強度ならびに疲労特性の向上に寄与する本発明の重要元素の一つである。
これらの効果を得るためには、Cは少なくとも0.2%必要であるが、0.7%を越えると線材製造時の温間または冷間における加工性および熱処理後の曲げ加工性を低下させる。よって、本発明では、Cの含有量を0.2〜0.7%に限定する。
【0016】
Cと同様、本発明を構成する重要元素の一つであるSiは、その適確な含有量の調整によって、本発明の目的の一つである線材製造時の加工性に加え、熱処理後の曲げ加工性をも改善する元素である。
つまり、本発明者は、鋼中への適量のSi含有が、上述した本発明の目的達成に多大な効果を示すことを見いだし、特に、Siの含有量が0.25%以下になると、該効果が顕著になることを突きとめたのである。
【0017】
その一方で、Siは精練工程における脱酸元素として鋼中に残留する元素であると同時に、特開昭61−59066号に代表されるCr含有量2.0〜9.0%の低〜中Crマルテンサイト系ステンレス鋼においては、耐酸化性、耐熱ヘタリ性を向上させる元素として、最低でも0.3%以上の添加が必要とされている。
しかし、耐酸化性については、実際のピストンリングが潤滑油中で使用されるという点の他、窒化処理もしくはCrメッキ等、なんらかの表面処理を施し使用されるという点から、最重要特性として考慮する必要は無くなってきた。
【0018】
それに加え、本発明者は、耐熱ヘタリ性を向上させる目的のもとに添加されるSiの作用についても、詳細なる検討を行なった。
すなわち、従来からのSiの添加は、低温による焼戻しを行った材質においてその効果を期待するものであり、その焼戻しによって析出した炭化物の凝集を遅らせる作用を得る元素として添加されるものである。
つまり、析出した炭化物のほとんどが凝集すると考えられる550〜650℃にて、焼戻し処理を行なうことが一般的であるマルテンサイト系ステンレス鋼製ピストンリング材においては、二次硬化に寄与する他の添加元素の方がその効果への影響が大きく、Siについては、著しい効果が認められないという知見を得たのである。
【0019】
なお、近年の製鋼技術の進歩により、Si脱酸剤の使用量を減じても、酸化物系非金属介在物の低減は十分に可能である。
以上の理由から、本発明のSiは、線材製造時の加工性に加え、熱処理後の曲げ加工性をも良好にする含有量として、0.25%以下に限定する。望ましいSiの範囲は、0.05〜0.20%である。
【0020】
以上、Si含有量を適確に調整する本発明であれば、線材製造時の加工性および熱処理後の曲げ加工性を向上させることが可能となる。
特に、熱処理後の曲げ加工性が向上されるということは、従来のピストンリング材に比べて、熱処理硬さを高めに調整できるため、今まで曲げ加工性の向上のため、ある程度妥協してきたピストンリングとしての耐スカッフィング性、耐摩耗性をより高度なレベルで発揮できることが可能となる。
【0021】
Crは、Cと結合して炭化物を形成するため、耐スカッフィング性、耐摩耗性の向上に寄与するほか、一部が基地に固溶し、焼戻しの際の二次硬化元素として働くことから、ピストンリングの耐熱ヘタリ性の向上に寄与する。
また、窒化処理によって窒化層内で微細な窒化物を形成するため、ピストンリングの更なる耐スカッフィング性、耐摩耗性の向上が可能である。
上記の効果を得るためには、最低5.0%のCrが必要であるが、12.0%以上の含有は炭化物の量あるいは粒径の増加・増大を招き、加工性を低下させる。よって、本発明のCrは、その含有量を5.0%以上12.0%未満とする。
【0022】
そして、上記元素の含有量調整に加え、本発明の効果を得るに最も重要となる手段が、鋼中のCおよびCrの含有量比:Cr/Cを、重量比にて17〜45に調整することである。
ピストンリングに要求される耐スカッフィング性は、上述したごとくCr系炭化物に左右されるが、本発明者は、この影響度がCr系残留炭化物の種類と、その種類の違いから生ずるCr系残留炭化物の粒径および分布状態の差に大きく関係するという知見を得た。
そして、更なる研究の結果、これらCr系残留炭化物の形態は、CおよびCr含有量そのものの調整に併せ、CrとCの含有量比の調整によってその制御が可能であることを見いだしたのである。
【0023】
具体的に述べると、Cr(重量%)/C(重量%)値が17以上の時、Cr系残留炭化物の種類は、M23C6型が優勢となる。
M23C6型炭化物の特徴は、その粒径ならびに分布状態を、熱間加工温度および熱処理条件によって容易に制御が行えるところにある。
つまり、M23C6型が優勢となる成分系とすれば、残留炭化物の粒径やその分布状態が極めて均一な組織とすることが可能となるため、組織のミクロ的な差、例えば炭化物量の密な部分と疎な部分の存在に起因する炭化物量の疎な部分からのミクロ的スカッフィングの発生といった現象が生じにくくなり、結果として、材質の耐スカッフィング性を向上させることができる。
【0024】
一方、Cr(重量%)/C(重量%)値が17に満たない場合、Cr系残留炭化物の種類はM7C3型が優勢となる。
M7C3型の炭化物は、凝固時に粗大な一次炭化物を形成する。この種の炭化物は、高温でも比較的安定であるため、M23C6のように熱間加工温度および熱処理温度による形態制御が難しいことが特徴である。
そのため、組織中の炭化物に上記のような分布状態差が生じ、耐スカッフィング性の極端な低下を招く。
【0025】
また、Cr(重量%)/C(重量%)値が45を越えると、残留炭化物の量が極端に減少するため、材質そのものの耐摩耗性が低下するばかりでなく、窒化処理によって形成される窒化層が極めて割れやすくなり、ピストンリングとして使用するには極めて危険な材質になる。
【0026】
以上の理由より、本発明のピストンリング材は、Cr(重量%)/C(重量%)による値を17〜45に調整することが非常に重要であり、望ましくは、18〜30に調整するものである。
【0027】
以下、本発明のピストンリング材を構成する上記以外の元素について、その限定理由と作用を述べる
【0028】
Mnは、脱酸剤や脱硫剤として、鋼の精錬に必要な元素の一つである。
前述の特開昭61−59066号によると、強度ならびに硬さの向上のためには,最低0.5%の含有が必要であることが記載されている。
しかし、Mnは0.45%を越えてを含有すると、Si量の低減による影響ほどでないにしても、焼鈍状態での加工性を劣化させることを確認した。そのため、本発明のMnは、その含有量を0.45%以下、好ましくは0.30%以下に限定する。
【0029】
Mo、W、V、Nbは、それ自体がCと結びつき硬質の炭化物を形成するだけでなく、一部はCr炭化物中へ固溶するため、Cr炭化物自身が強化されて耐摩耗性を向上させる元素である。
また、焼戻しの際、二次硬化元素として寄与するため、ピストンリングの耐熱ヘタリ性の向上にも有効である。
しかし、過度の添加は、硬質炭化物の増加を招き、シリンダーの摩耗量を著しく増加させるだけでなく、加工性の低下をも引き起こす原因となる。よって、本発明は、Mo、W、V、Nbの1種または2種以上を合計で0.3〜2.5%とする。
【0030】
Cuは、炭化物や窒化物の形成なく、Feと基地中に微細な固溶体を形成することで、基地の強化および耐熱ヘタリ性の向上に寄与するため、必要に応じて添加できる。
しかし、その含有量が4%を越えると、熱間加工性が極端に低下するため、その上限を4%以下とする。よって、本発明では、上記効果を得るに望ましいCu含有量として、4%以下、さらに望ましくは0.5〜3.0%とする。
【0031】
Niは、必ずしも添加する必要はないが、ピストンリングとして使用の際に衝撃的な応力の加わる場合は、靭性の向上を目的とする必要に応じた添加が可能である。
しかし、2.0%を越えて添加すると焼鈍状態での加工性が著しく低下するので、その上限を2.0%とする。
【0032】
なお、本発明のピストンリング材は、以上に述べてきた元素以外にも、窒化層の硬さを増加させるAl、Ti、Mgや更なる耐食性の向上に有効なCo等を、必要に応じて添加することが可能である。
【0033】
【実施例】
以下、本発明の効果を実施例により説明する。
まず、大気中の高周波誘導溶解によって所定の組成に調整した30kg鋼塊を作製した。次に、熱間加工を経て、上記の鋼塊を直径8mmの線状素材にし、860℃にて焼鈍を行った。得られた焼鈍材の組成を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
次に、得られた焼鈍材の一部を、平行部長40mm、平行部直径6mmの引張試験片形状に加工し、線材の引抜きおよび圧延加工性の評価を目的として、引張り試験を行った。また、同時に、硬さの測定も行なった。
残りの焼鈍材については、室温で直径5.5mmの線材になるまで引抜加工を行い、ついで、1050℃にて焼入れ後、硬さが48〜50HRCになるように焼戻しを行った。
この時、No.24〜26の従来材については、現状のピストンリング材として多く用いられている硬さ:38〜40HRCに調整したものをNo.24(A)、25(A)、26(A)とし、本発明材程度の硬さにまで調整したものをNo.24(B)、25(B)、26(B)とした。
そして、硬さを調整したこれらの熱処理材より、3mm×3mmの断面形状を有する曲げ試験片を作製し、曲げ加工性の評価として抗折試験を行った。
【0036】
そして、本発明材、比較材および従来材について、その表面に形成される窒化層の特性の優劣を確認するため、上記熱処理材から各評価用試験片を採取し、熱処理後、所定形状に加工されたピストンリングに通常、実施される窒化処理を想定して、520℃×10時間のガス窒化処理を行いた。
その後、最表面に形成された脆い窒化物層を除去する目的で、試験片表面を研磨により10〜15μm除去してから、窒化層最表面の硬さ測定、窒化層のミクロ観察ならびに耐スカッフィング試験を行った。
【0037】
なお、上記耐スカッフィング試験は、超高圧摩擦摩耗試験機を用いることで下記の条件にて試験を行い、焼付き荷重にて評価を行った。その試験機試験片部の概略を図1および図2に示しておく。
摩擦速度・・・・8m/s
摩擦面圧力・・・初期圧:20kgf/cm2、3分毎に10kgf/cm2づつ上昇
潤滑油・・・・・モーターオイル#30、油温80℃、ステーターホルダー中心より400ml/min.にて注油
焼付検出・・・・ロードセルおよび動歪計にて検出
相手材・・・・・JISねずみ鋳鉄(FC250)
各試験結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2より、本発明材は、いずれも焼鈍後における絞り値が70%以上と大きく、従来材と比較しても冷間加工性が極めて良好であることがわかる。
また、熱処理後のたわみ量についても、本発明材は、その高い硬さにも関わらず、従来材の中でも曲げ加工性が良好であるとされているNo.24(A)、25(A)および26(A)とほぼ同等、あるいは、それ以上の特性値を示している。そして、本発明材程度の硬さにまで調整したNo.24(B)、25(B)および26(B)については、本発明材に比べて、そのたわみ量が極端に小さくなることがわかる。
つまり、本発明材であれば、熱処理後の硬さを高目に調整しても、曲げ加工中の折損が発生し難いので、耐スカッフィング性、耐摩耗性の向上にも有利である。
【0040】
次に窒化処理後の特性、つまり、実際に使用されるピストンリングそのものに要求される特性についてその評価結果を述べる。
本発明材の表面窒化層の硬さは、従来材に比べてほぼ同等のピストンリングとして十分な耐摩耗性が達成できている。また、比較材No.23に認められるような窒化層の割れも発生していない。
さらに、本発明材は、スカッフィング試験によるスカッフ面圧値も高く、ピストンリングとして極めて良好な耐スカッフィング性を有していることがわかる。
【0041】
その一方、Siの低減を行わなかった比較材No.19〜22は、焼鈍状態での絞り値ならびに熱処理後のたわみ量が低く、線材の製造過程における引抜加工性、圧延加工性ならびに熱処理後の曲げ加工性に劣ることがわかる。
また、Si量を低減した比較材No.16〜18、23は、焼鈍状態における絞り値が大きく、線材の引抜加工性および圧延加工性にこそ優れてはいる。しかし、No.23については、窒化層に割れが発生しただけではなく、それに起因した耐スカッフィング性の極端な低下が生じ、No.16〜18については、耐スカッフィング性が従来材に比べ極めて低いために、いずれもピストンリング材としてはその特性に問題がある。
【0042】
特に、特開平8−109445号にて提案された「加工性に優れたピストンリング材」と同等の成分系である比較材No.16、17は、比較材No.18と共に、本発明のCr(重量%)/C(重量%)値を満足しないものであり、本発明のCr/C重量比を満たすことが、耐スカッフィング性の向上に大きく寄与することがわかる。
【0043】
【発明の効果】
本発明であれば、ピストンリングとしての優れた特性を有することはもちろんのこと、線材製造過程における引抜加工性、圧延加工性にも優れかつ、比較的高硬度の熱処理後硬さを設定した場合でも、極めて優れた曲げ加工性を達成できることから、諸特性に優れたピストンリング材を安価に供給することが可能である。
よって、生産効率の向上や生産コストの低減など、その工業上の有益度は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】超高圧摩擦摩耗試験機における試験片部の断面図である。
【図2】図1のA−A矢視断面図である。
【符号の説明】
1.試験片(5mm角×10L)、2.円板(相手材・・・FC250)、3.ステータホルダー、4.ロータ、5.試験片保持具、6.潤滑油注入口、7.ロードセル、8.動歪計、P:摩擦圧力
Claims (6)
- 重量%にて、C:0.2〜0.7%、Si:0.25%以下、Mn:0.45%以下、Cr:5.0%以上12.0%未満、残部Feおよび不純物からなりかつ、Cr(重量%)/C(重量%):17〜45であることを特徴とする耐スカッフィング性および加工性に優れたピストンリング材。
- Cr(重量%)/C(重量%):18〜30であることを特徴とする請求項1に記載の耐スカッフィング性および加工性に優れたピストンリング材。
- 重量%にて、Mn:0.30%以下であることを特徴とする請求項1ないし2に記載の耐スカッフィング性および加工性に優れたピストンリング材。
- 重量%にて、Mo、W、V、Nbの1種または2種以上:0.3〜2.5%であることを特徴とする請求項1ないし3に記載の耐スカッフィング性および加工性に優れたピストンリング材。
- 重量%にて、Cu:4%以下であることを特徴とする請求項1ないし4に記載の耐スカッフィング性および加工性に優れたピストンリング材。
- 重量%にて、Ni:2%以下であることを特徴とする請求項1ないし5に記載の耐スカッフィング性および加工性に優れたピストンリング材。
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JP2001011577A (ja) | 内燃機関用ピストンのセカンドリング材 |
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