JP2000282177A - ピストンリング用鋼材 - Google Patents

ピストンリング用鋼材

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JP2000282177A
JP2000282177A JP9625899A JP9625899A JP2000282177A JP 2000282177 A JP2000282177 A JP 2000282177A JP 9625899 A JP9625899 A JP 9625899A JP 9625899 A JP9625899 A JP 9625899A JP 2000282177 A JP2000282177 A JP 2000282177A
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piston ring
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Takeshi Kuroda
武司 黒田
Nobuhiko Ibaraki
信彦 茨木
Sunao Yoshihara
直 吉原
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Kobe Steel Ltd
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Kobe Steel Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 ピストンリングの軽量化および低コスト化
に対応可能な、高い性能を有するピストンリング用鋼材
を提供することを目的とする。 【解決手段】 冷間加工および窒化処理されてピスト
ンリングに用いられる鋼材が、 C:0.50〜0.80% 、Si:
1.55〜3.00% 、Mn:0.20〜1.50% 、Cr:0.60〜2.00% 、
V :0.05〜1.00% を含有し、残部Feおよび不可避的不純
物からなり、鋼材の中心部を含む圧延方向断面で、Alま
たはSiの含有量が80% 以上である酸化物系介在物の最大
厚さを30μm 以下とすることである。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車用エンジンなど
の内燃機関において重要な役割を果たす、ピストンリン
グ用鋼材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車用エンジンなどの内燃機関におい
て、ピストンリングは、気密性を保持することが主な役
割である。近年では、エンジンの高速化、高出力化、低
燃費化が一層図られており、この要求に応えるべく、ピ
ストンリングにも動摩擦損失の低減が必要となり、ピス
トンリング自体の軽量化、機械的強度などの性能の向上
が必要となってきている。また、このような性能面の向
上だけではなく、低コストであることも、ピストンリン
グには必要とされている。
【0003】現在のピストンリングは、従来用いられて
きた鋳鉄製のものから、ばね用鋼として主に使用されて
いるSi-Cr 鋼(JIS G4801 SUP12相当) 製や、17Crステン
レス鋼(JIS G4308 SUS440 相当) 製のものに代わってき
ている。
【0004】これらSi-Cr 鋼や17Crステンレス鋼からな
る鋼材は、ピストンリングへの加工性には優れるが、耐
摩耗性や耐焼付性に劣るという問題がある。このため、
耐摩耗性や耐焼付性を付与するために、表面に硬質層を
形成することが行われている。例えば、特公昭58-46542
号、特公昭61-19703号公報等に開示されているように、
Si-Cr 鋼に対しては硬質Crめっきが施され、17Crステン
レス鋼に対しても、窒化処理を行い硬質な窒化層が形成
されて用いられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、Si-Cr 鋼に対
する前記硬質Crめっきは、めっき廃液の処理に大きな設
備コストがかかり、また、硬質Crめっき処理を施すにも
長時間を要するため、生産性が低いという問題がある。
【0006】更に、17Crステンレス鋼も、ピストンリン
グ材としての性能は優れるものの、ステンレス鋼自体の
原料費が非常に高いために、ステンレス鋼製のピストン
リングは高価となり、高級な用途にしか使用できず汎用
性がない。
【0007】また、ピストンリングを、軽量化する際に
は、特に内燃機関と接する方向の厚さの低減が不可避と
なる。通常、これら鋼材を用いてピストンリングを製造
する場合、基本的に、溶製された鋼を鋳造して鋼塊とな
し、この鋼塊を分塊圧延などしてビレット化したもの
を、熱間加工 (熱間圧延) して、線材または棒材化し、
本発明が対象とする鋼材とする。続いて、冷間加工 (伸
線または冷間圧延) して、更に、小径化させて線または
棒とする。そして、更に、これら鋼材を調質 (オイルテ
ンパー) およびリングに加工することにより、製造され
る。つまり、前記ピストンリングの内燃機関と接する方
向の厚さの低減は、熱間加工後の線材または棒材として
の鋼材の、あるいは冷間加工後の鋼線または鋼棒の、厚
さなり径なりを、より小さくすることであり、熱間加工
および冷間加工における加工率がより高くなることを意
味する。
【0008】しかし、Si-Cr 鋼や17Crステンレス鋼など
の材料では、普通鋼や低炭素鋼などに比して靱延性に乏
しく、加工率が増すほど加工硬化が激しくなるため、前
記熱間加工および冷間加工においてとれる加工率には限
界がある。このため、前記ピストンリングの内燃機関と
接する方向の厚さの低減に対応した、鋼材、鋼線または
鋼棒の小径化を目的として、高負荷加工を行った場合に
は、鋼に加工割れを生じて、製造自体が不可能となる問
題がある。
【0009】このため、特に前記加工途中において、焼
鈍などの軟化処理を行うことが必須となる。しかし、こ
の軟化処理を行う (導入する) ことによる、製造コスト
の増大や製造効率の低下は避けがたく、前記ピストンリ
ングの低コスト化の要求に答えられない。
【0010】更に、前記ピストンリングの軽量化は、ピ
ストンリングへの負荷荷重の増大をもたらす。このた
め、現状のSi-Cr 鋼や17Crステンレス鋼の材料では、こ
の負荷荷重の増大に対する、疲労強度の不足も重要な課
題となる。
【0011】したがって、前記ピストンリングの低コス
ト化と軽量化および疲労強度などの特性の向上の要求に
応えた、低コストで、かつ疲労強度等に優れたピストン
リング用鋼材は、今まで無かったのが実情である。
【0012】本発明は、このような事情に着目してなさ
れたものであって、これらピストンリングの軽量化およ
び低コスト化に対応可能な、高い性能を有するピストン
リング用鋼材を提供しようとするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、本発明の要旨は、冷間加工および窒化処理されてピ
ストンリングに用いられる鋼材が、 C:0.50〜0.80%(重
量% 、以下同じ) 、Si:1.55〜3.00% 、Mn:0.20〜1.50
% 、Cr:0.60〜2.00% 、V :0.05〜1.00% を含有し、残
部Feおよび不可避的不純物からなり、鋼材の中心部を含
む圧延方向断面で、AlまたはSiの含有量が80% 以上であ
る酸化物系介在物の最大厚さを30μm 以下とすることで
ある。
【0014】即ち、本発明では、低コスト化のために従
来のSi-Cr 鋼を土台とする。そして、熱間圧延や伸線加
工などの加工性や、疲労強度等の特性を向上させるため
に、C やSi等の主要成分を調整する。また、前記加工性
を、更に向上させるために、熱間圧延後の鋼材の段階
(鋼線や鋼棒に冷間加工する前の段階) で、鋼材に必然
的に含まれる酸化物系介在物の最大厚さを、鋼材の中心
部を含む圧延方向断面で規定することを特徴とする。
【0015】但し、酸化物系介在物の最大厚さは、この
熱間圧延後の鋼材の段階での測定および評価するだけで
はなく、熱間圧延の後の冷間加工後の鋼線や鋼棒、或い
はピストンリングに加工された状態で測定しても、評価
することが可能である。これら酸化物系介在物の最大厚
さは、その後の冷間加工が進むに従い、加工率や介在物
組成にもよるが、同等か又は小さくなる。したがって、
冷間加工後の鋼線や鋼棒、或いはピストンリングの状態
でも、AlまたはSiの含有量が80% 以上である酸化物系介
在物の最大厚さが30μm 以下の十分小さい値であれば、
加工時の加工性が優れていたかという点や、ピストンリ
ングの疲労強度等の特性が優れているかという点も考慮
することにより、本発明で規定する熱間圧延後の鋼材の
段階での酸化物系介在物の最大厚さが30μm 以下となっ
ているものと類推することが可能である。
【0016】
【発明の実施の形態】以下に、本発明における各要件の
意義および限定理由について具体的に説明する。 (C:0.50〜0.80%)C は、ピストンリングに必要な硬さと
強度を付与するために必須である。C 含有量が0.50% 未
満では、硬さと強度が不足して、ピストンリング用とし
て不適となる。一方、C 含有量が0.80% を越えると、熱
間加工時に、硬質のマルテンサイト組織が発生しやす
く、熱間加工後の例えば巻き取りなどのハンドリング時
に、鋼材の折損を生じやすくなる。また、マルテンサイ
ト組織が発生すると、靱延性が低下するために、続く冷
間加工性が低下する。したがって、C 含有量は0.50〜0.
80% の範囲とする。
【0017】(Si:1.55〜3.00% )Siは、焼戻し軟化抵抗
性に優れ、鋼の窒化処理時の硬さの低下を抑制するため
に必須である。また、ピストンリングに必要な耐熱へた
り性を付与する。更には、鋼の溶製中に脱酸剤として作
用し、その後の酸化物系介在物の組織制御により、介在
物の無害化を図る上で効果がある。Si含有量が1.55% 未
満では、これらの効果が不足し、ピストンリング用とし
て不適となる。一方、Si含有量が3.00% を越えると、靱
性が劣化し、冷間加工性が低下する。また、介在物の組
織制御が困難となり、硬質で有害なSiO2を主とする介在
物が鋼中に残存しやすくなる。このSiO2を主とする介在
物は、冷間加工時の折損起点となり、高負荷加工 (強加
工)ができなくなるとともに、鋼の疲労強度も低下させ
る。したがって、Si含有量は1.55〜3.00% の範囲とす
る。
【0018】(Mn:0.20〜1.50%)Mnは、Siと同様に、鋼
の溶製中に脱酸剤として作用し、その後の酸化物系介在
物の組織制御により、介在物の無害化を図る上で効果が
ある。また、熱処理時の鋼の硬さの低下を抑制するため
にも必須である。Mn含有量が0.20% 未満では、これらの
効果が不足し、ピストンリング用として不適となる。一
方、Mn含有量が1.50% を越えると、熱間圧延時に、硬質
のマルテンサイト組織が発生しやすく、熱間圧延後の例
えば巻き取りなどのハンドリング時に、鋼材の折損を生
じやすくなる。また、マルテンサイト組織が発生する
と、靱延性が低下するために、続く冷間加工性が低下す
る。したがって、Mn含有量は0.20〜1.50% の範囲とす
る。
【0019】(Cr:0.60〜2.00%)Crは窒化処理時の鋼表
層の硬さの上昇、窒化層の深さの拡大に有効であり、更
に、鋼材芯部の硬さ低下を抑制するためにも必須であ
る。Cr含有量が0.60% 未満では、これらの効果が不足
し、ピストンリング用として不適となる。一方、Cr含有
量が2.00% を越えると、鋼材の靱延性が低下し、冷間加
工性が劣化する。したがって、Cr含有量は0.60〜2.00%
の範囲とする。
【0020】(V:0.05〜1.00%)V は窒化処理時の鋼表層
の硬さの上昇、窒化層の深さの拡大に有効である。ま
た、結晶粒微細化の効果により、鋼材の靱延性を向上さ
せ、高負荷加工を可能ならしめる。V 含有量が0.05% 未
満では、これらの効果が不足し、ピストンリング用とし
て不適となる。一方、V 含有量が1.00% を越えても効果
は変わらず、不経済となる。したがって、V 含有量は0.
05〜1.00% の範囲とする。
【0021】(Ni:0.10〜0.50% 、Mo:0.05〜0.50% 、A
l:0.10〜1.00%)Ni、Mo、Alは、鋼材の靱延性を向上さ
せて、より高負荷加工を可能ならしめるために、また、
高い窒化特性を得るために、選択的に添加する元素であ
る。この共通した効果の他に、Moは、窒化処理時の鋼芯
部の硬さ低下を抑制して確保する効果を有する。また、
Alは、窒化処理時の鋼表層の硬さを上昇させる効果を有
する。
【0022】Ni 含有量が0.10% 未満、Mo含有量が0.05%
未満、Al含有量が0.10% 未満では、各々前記効果を発
揮できない。一方、Ni含有量が0.50% を越える、或いは
Mo含有量が0.50% を越えると、熱間圧延時に、硬質のマ
ルテンサイト組織が発生しやすく、熱間圧延後の例えば
巻き取りなどのハンドリング時に鋼材の折損を生じやす
くなる。また、マルテンサイト組織が発生すると、靱延
性が低下するために、冷間加工性が低下する。更に、Al
含有量が1.00% を越えると、介在物の組織制御が困難と
なり、硬質で有害なアルミナ(Al2O3) 系介在物が鋼中に
残存しやすくなり、冷間加工時の折損起点となり、高負
荷加工ができなくなるとともに、鋼の疲労強度も低下さ
せる。また、鋳造時にAlN が粒界に析出しやすくなり、
鋳造時や加工時に割れを生じやすくなる。
【0023】したがって、各々の含有量は、それぞれ、
Ni:0.10〜0.50% 、Mo:0.05〜0.50% 、Al:0.10〜1.00
% の範囲とする。そして、これらNi、Mo、Alを複合して
含有させる場合の総量も、前記熱間加工時の硬質のマル
テンサイト組織発生を抑制する観点から、1.0%以下とす
る。
【0024】(Ti:5ppm〜50ppm 、 B:5ppm〜50ppm)T
i、 Bは、特に鋼中のN を固定する作用が有る。この作
用により、特にAlを含有させる場合の、前記鋳造時のAl
N の粒界析出を抑制することができる。この効果は、各
々、5ppm以上の含有量で発揮される。しかし、Al含有量
が1.00% を越えた場合には、Ti、 Bの含有量を多くして
も、鋳造時のAlN の粒界析出を抑制することができな
い。また、Al含有量が所定範囲内の場合には、Ti、 Bの
含有量が50ppm を越えても効果は変わらない。
【0025】この他、本発明では、鋼材の諸特性を向上
させるために、かつ、本発明で意図するピストンリング
用としての鋼材の特性を劣化させない範囲で、耐食性向
上のためにCu(0.01 〜1.0%) 、La、Ce、ミッシュメタ
ル、Ca等(0.001〜0.1%) 、熱処理後の強度、硬さの向上
のためにCo(0.01 〜5.0%) 、W (0.01 〜1.0%) 等の元素
を含有することを許容する。
【0026】また、不純物元素について、P 、S は、粒
界偏析を起こし、粒界強度を低下させ、粒界型の遅れ破
壊を促進させので、この抑制のためには、好ましくはP
、Sを0.02% 以下、より好ましくは0.01% 以下とする。
【0027】(酸化物系介在物)次に、本発明の特徴であ
る酸化物系介在物の規定について説明する。まず、本発
明では、規定される介在物を、AlまたはSiの含有量が80
% 以上である酸化物系介在物と特定する。本発明鋼材に
おいても、種々の介在物は存在するが、この介在物の
内、延性を有する介在物は、熱間圧延や冷間伸線などの
加工工程で、延伸、粉砕乃至変形されて小型化 (小径
化) し、無害化される。しかし、アルミナのような硬質
の介在物は、加工工程でも変形しない。このため、伸線
加工中に、介在物と鋼材料との境界から、カッピーと呼
ばれる欠陥が発生し、伸線加工中の断線の原因となる。
また、このような加工性だけではなく、ピストンリング
の特性として重要な疲労強度も低下させる。
【0028】このような問題を生じる硬質介在物は、種
々の介在物の内でも、最も鋼中の量が多い、SiO2やAl2O
3 等の酸化物を主体とする介在物である。一方、SiO2
Al2O 3 等の酸化物を含んでいる介在物であっても、SiO2
やAl2O3 等の酸化物含有量が少なければ、延性を有して
おり、前記した通り、加工工程で無害化される。本発明
者らの知見によれば、介在物の有害・無害性を左右す
る、介在物中のSiO2やAl 2O3 等の酸化物量は、介在物の
AlまたはSiの含有量として80% であった。即ち、Alまた
はSiの含有量が80% 未満の介在物の場合には、延性を有
しており加工工程で無害化されることを知見した。これ
とは逆に、AlまたはSiの含有量が80% 以上の介在物の場
合には、伸線加工における断線や鋼の疲労強度の低下を
生じることを知見した。したがって、問題となる介在物
のAlまたはSiの含有量の限界 (上限値) を80% と定め
る。これにより、伸線加工等の冷間加工前の鋼材の段階
で、前記問題を生じる硬質介在物の大部分を規制するこ
とが可能となる。
【0029】(酸化物系介在物の最大厚さ)一方、これら
SiO2やAl2O3 等の酸化物を主体とする介在物を無くすこ
と自体はできないので、本発明では、問題を生じる硬質
介在物の形態を制御する。より具体的には、鋼材の中心
部( 圧延方向の鋼材中心部) を含む、圧延方向断面 (鋼
材の圧延方向に対して平行な縦断面) で、AlまたはSiの
含有量が80% 以上である酸化物系介在物の形態を、酸化
物系介在物の最大厚さとして30μm 以下に規制する。こ
こで言う、酸化物系介在物の厚さとは、圧延方向(ST 方
向) に伸長した酸化物系介在物の長さ方向に対し、これ
と垂直な方向 (圧延方向に垂直な方向) の酸化物介在物
の厚さ (幅) であり、この厚さの内でも最大の厚さを30
μm 以下と規定する。
【0030】鋼材中に存在する、AlまたはSiの含有量が
80% 以上である、酸化物系介在物の最大厚さ (最も大き
い介在物の厚さ) が30μm を越えた場合には、前記伸線
加工中の断線を生じるとともに、ピストンリングとして
の疲労強度を低下させる。言い換えると、鋼材の冷間加
工性とピストンリングとしての疲労強度を確保するため
には、AlまたはSiの含有量が80% 以上である酸化物系介
在物の最大厚さを30μm 以下とする必要がある。特に、
ピストンリングでは、鋼材の長手方向 (圧延方向) に曲
げ応力が作用するため、この長手方向に垂直な鋼材の厚
さ方向が鋼材の疲労強度を支配する。そして、この点
は、伸線加工でも同様であって、鋼材の長手方向 (圧延
方向) に引張応力が作用するため、鋼材の厚さ方向が加
工性 (応力感受性) を支配する。そして、鋼材の厚さ方
向のこれら疲労強度や加工性に対し、大きく影響してい
るのが、酸化物系介在物の鋼材の厚さ方向の幅、即ち、
圧延方向断面の酸化物系介在物の厚さである。これに対
し、酸化物系介在物の圧延方向に伸長する長さは、鋼の
疲労強度や加工性に対し、酸化物系介在物の厚さほどに
は大きく影響しない。したがって、本発明では、酸化物
系介在物の最大厚さを30μm 以下と規定する。
【0031】これら介在物の測定方法は特に限定されな
いが、JIS G 0555の方法のように、鋼材の中心部を含
み、圧延方向断面を検査面とする試験片を採取して、樹
脂に埋め込み、研磨して、前記検査面(検鏡面)を有す
るサンプルを作製する。そして、例えば400 倍の光学顕
微鏡により当該検査面を観察する。そして、視野内に観
察される個々の介在物の厚さを測定して、厚さ30μm 以
上の介在物が存在する場合には、当該介在物をEPMAで組
成を調査し、AlまたはSiの含有量が80% 以上であるか否
かを判定する。そして、仮に、当該介在物のAlまたはSi
の含有量が80% 以上であれば、酸化物系介在物の最大厚
さが、本発明で規定する30μm を越えていると判断す
る。一方、視野内に観察される酸化物系介在物の最大厚
さが30μm を越えていても、当該介在物のAlまたはSiの
含有量が80% 未満であれば、或いは、AlまたはSiの含有
量が80% 以上であっても、当該介在物の最大厚さが、本
発明で規定する30μm 以下であれば、酸化物系介在物の
最大厚さは、本発明で規定する範囲内(30 μm 以下) で
あると判断する。なお、光学顕微鏡で観察する視野の範
囲は、鋼材の組織を代表するためには、3600mm2 以上あ
れば十分である。
【0032】本発明鋼材は、Si-Cr 鋼に窒化処理を適用
する以外は、基本的には、前記Si-Cr 鋼のピストンリン
グへの通常の製造方法により製造される。即ち、溶製さ
れた鋼を鋳造して鋼塊となし、この鋼塊を必要により鍛
造や分塊圧延などしてビレット化したものを、熱間圧延
して、線材または棒材化し、本発明が対象とする鋼材と
する。続いて、冷間伸線や冷間圧延などの冷間加工で、
更に小径化させて鋼線または鋼棒とする。そして、更
に、これらの線または棒をオイルテンパーなどの調質処
理を施した後、リングに加工し、窒化処理することによ
り製造する。
【0033】しかし、鋼材中に存在する、AlまたはSiの
含有量が80% 以上である、酸化物系介在物の最大厚さ
(最も大きい介在物の厚さ) が、30μm を越えないよう
にするためには、鋼の溶製を真空下や非酸化性の雰囲気
下で行うことが好ましい。例えば、大気雰囲気下で溶製
した場合、鋼中のSiやAlの酸化により、AlまたはSiの含
有量が80% 以上である酸化物系介在物が粗大および多量
に生成しやすい。
【0034】
【実施例】以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説
明する。表1 に化学成分を示す、発明例No.A1 〜A9およ
び比較例No.B1 〜B8の鋼 (P 、S は全て0.02% 以下) を
真空中で溶製、および比較例No.B9 の鋼のみは大気中で
溶製後、鋳造し、鋳塊を1000℃に加熱後、115mm 角のビ
レットに熱間鍛造した。このビレットを熱間圧延して、
φ6.4mm 径の鋼線材 (鋼材) を作製し、コイルに結束し
た。更に、この鋼線材をφ2.0mm 径の鋼線まで伸線加工
(冷間加工) を行った。その後、この鋼線にオイルテン
パー処理を実施した後に、ガス窒化処理を行った。な
お、比較例No.B3 のみはオイルテンパー処理を実施した
後に、従来のSi-Cr 鋼を模擬して、窒化処理の代わり
に、クロムめっきを行った。
【0035】この際、大気中で溶製した比較例No.B7 の
鋼材には、ビレット作製の熱間鍛造中に割れが発生し、
その後の加工が不可能であった。この理由は、比較例N
o.B7はAl量が上限を越えているために、鋳造時にAlN が
粒界に多量に析出したためである。
【0036】また、比較例No.B4 、B6、B8の鋼材は、熱
間圧延後の線材の結束時に断線し、その後の伸線加工が
不可能であった。比較例No.B4 はC 量が上限を越え、比
較例No.B6 はMo量が上限を越え、比較例No.B8 はNi、M
o、Alの総量が1.0%の上限を越えたために、熱間加工中
にマルテンサイト組織が生成したものである。
【0037】更に、比較例No.B5 、B9の鋼線材には、伸
線加工時に断線が発生し、鋼線化できなかった。比較例
No.B5 はNi量が上限を越えたために、熱間圧延中にマル
テンサイト組織が生成し、熱間圧延中は問題無かったも
のの、伸線加工時に影響したものである。また、比較例
No.B9 は、成分組成は本発明の規定範囲内であるもの
の、大気溶製したために、最大厚さが30μm を越えるAl
またはSiの含有量が80%以上の酸化物系介在物が生成し
て、伸線加工性を劣化させたものである。したがって、
これらNo.B4 〜B9までの鋼材は、鋼線まで伸線加工 (冷
間加工) できず、後述する鋼線の諸特性も測定出来なか
った。
【0038】そして、これらの比較例を含め、熱間圧延
後のφ6.4mm 径の鋼線材の、中心部を含む圧延方向断面
で、AlまたはSiの含有量が80% 以上である酸化物系介在
物の厚さを測定した。介在物の測定は前記した、JIS G
0555の方法により行い、鋼材の中心部を含む圧延方向断
面から試験片を採取して、樹脂に埋め込み、研磨してサ
ンプルを作製して、400 倍の光学顕微鏡により観察し
た。そして、介在物のST方向の幅を厚さとして測定し
て、30μm 以上の介在物が存在する場合に、当該介在物
をEPMAで組成を調査し、AlまたはSiの含有量が80% 以上
である酸化物系介在物の最大厚さ (μm)を測定した。光
学顕微鏡で観察する視野の範囲は5000mm2 とした。これ
らの結果を表2 に示す。なお、表2 では、最大厚さが30
μm 以上で、AlまたはSiの含有量が80% 以上である、酸
化物系介在物が存在するか否か (有り、無し) で示して
いる。
【0039】また、前記鋼線を作り得なかった比較例を
除き、ガス窒化処理を行った鋼線およびクロムめっきを
行った鋼線の、表層の硬さ(HV)、深部硬さ(HV)、硬化深
さ(mm)を測定した。硬さは、鋼線の表層と中心部を採取
して、ビッカース硬度計( 荷重300g) で測定した。ま
た、これら鋼線の、疲労強度、耐摩耗性、耐温間へたり
性についても評価した。疲労強度は、中村式回転曲げ試
験にて行い、107 における疲労強度を求めた。摩耗試験
は、大越式摩耗試験機を用い、SUJ2製回転リブに試験体
を10分押しつけた際の摩耗量を測定して行った。なお、
潤滑剤には鉱油を用い、負荷荷重6.3kgf、摩擦速度0.5m
/secの条件で行った。温間曲げ試験は、試験体を4 点支
持による曲げ応力を加えて、150 度×90Hr保持し、その
後の試験体の曲がり( そり) を測定した。これらの結果
を表2 に示す。但し、これらの摩耗量と温間曲げ量は、
B3の例を100 とした場合の相対的な比較で示している。
【0040】表1 、2 から明らかな通り、成分組成と介
在物が本発明範囲内にある発明例A1〜A9は、熱間加工性
および冷間加工性に優れ、疲労強度、耐摩耗性、耐温間
へたり性などのピストンリングとして必要な特性につい
ても優れている。これに対し、C 量、Si量が下限を外れ
る比較例No.B1 、Cr量が下限を外れる比較例No.B2 、Si
量が下限を外れる比較例No.B3 は、発明例に比して、疲
労強度、耐摩耗性、耐温間へたり性などのピストンリン
グとして必要な特性が著しく劣っている。したがって、
これらの結果から、本発明の化学成分組成と、介在物の
規定の臨界的な意義が裏付けられる。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【発明の効果】以上説明した通り、本発明によれば、ピ
ストンリングの低コスト化と軽量化および疲労強度など
の特性の向上の要求に応えた、低コストで、かつ疲労強
度等に優れたピストンリング用鋼材を提供することがで
きる。したがって、鋼材のピストンリングへの用途を拡
大することができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) F02F 5/00 F02F 5/00 L F16J 9/26 F16J 9/26 Z (72)発明者 吉原 直 兵庫県神戸市灘区灘浜東町2番地 株式会 社神戸製鋼所神戸製鉄所内 Fターム(参考) 3J044 AA06 BA03 BB06 BC06 DA09

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 冷間加工および窒化処理されてピストン
    リングに用いられる鋼材であって、 C:0.50〜0.80%(重
    量% 、以下同じ) 、Si:1.55〜3.00% 、Mn:0.20〜1.50
    % 、Cr:0.60〜2.00% 、V :0.05〜1.00% を含有し、残
    部Feおよび不可避的不純物からなり、鋼材の中心部を含
    む圧延方向断面で、AlまたはSiの含有量が80% 以上であ
    る酸化物系介在物の最大厚さが30μm 以下であることを
    特徴とするピストンリング用鋼材。
  2. 【請求項2】 前記鋼材が、更に、Ni:0.10〜0.50% 、
    Mo:0.05〜0.50% 、Al:0.10〜1.00% の一種または二種
    以上を、これらの元素の総量で1.0%以下含む請求項1に
    記載のピストンリング用鋼材。
  3. 【請求項3】 前記鋼材が、更に、Ti:5ppm〜50ppm 、
    B:5ppm〜50ppm の一種または二種を含むとともに、前
    記Alを含む場合には、Tiおよび/ または Bの前記範囲で
    の含有を必須とする請求項1または2に記載のピストン
    リング用鋼材。
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