JP2909456B2 - 耐スカッフィング性に優れたピストンリング - Google Patents

耐スカッフィング性に優れたピストンリング

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JP2909456B2 JP5368798A JP5368798A JP2909456B2 JP 2909456 B2 JP2909456 B2 JP 2909456B2 JP 5368798 A JP5368798 A JP 5368798A JP 5368798 A JP5368798 A JP 5368798A JP 2909456 B2 JP2909456 B2 JP 2909456B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関に使用さ
れる耐スカッフィング性に優れたピストンリングに関す
るものである。
【0002】
【従来の技術】近年において、内燃機関には、低燃費
化、高性能化、軽量化および排ガスの清浄化等、様々な
改善が加えられている。その中でも、内燃機関の摺動部
であるピストンリングに対しては、エンジンの軽量化な
らびに高回転化に伴うピストンリングの薄肉化のため、
疲労特性、耐摩耗性、耐スカッフィング性等の特性向上
が強く求められ、従来使用されていた鋳鉄製ピストンリ
ングは、強度、疲労特性等に優れた鋼製ピストンリング
に変わりつつある。現在、鋼製ピストンリングには、J
IS SWOSC−V相当のSi−Cr鋼、もしくはマ
ルテンサイト系ステンレス鋼をベースにした素材が主と
して使用されている。
【0003】通常、Si−Cr鋼はCrメッキ処理を施
してピストンリングとして使用されるが、ピストンリン
グ表面に形成されたCrメッキ層は、その使用に要求さ
れる耐摩耗性が不十分である。さらに、高負荷の内燃機
関へ適用した場合には、メッキ部の剥離によって母材が
露出する問題が生じ、その結果、即座にシリンダー内壁
と容易にスカッフィングを起こしてしまう。それに付け
加え、Crメッキ処理には、処理後に発生する廃液に関
する諸問題、例えば環境への悪影響ならびに近年の廃液
処理コストの増加といった問題がある。
【0004】これに対し、上記のマルテンサイト系ステ
ンレス鋼よりなるピストンリングは、その多くが表面に
窒化処理を施して使用される。この窒化層は、Crメッ
キ層に比べ高い耐摩耗性を有しているばかりではなく、
窒化処理が拡散を利用した処理であるために、処理層が
剥離する問題も無いため、ピストンリングとしては極め
て優れた特性を有している。また、窒化処理は、その処
理コストが安価であり、環境への影響度も小さいことか
ら、Crメッキ処理に比べて有利な処理方法である。な
お、その用途上、Crメッキ処理をしなくてはならない
場合においても、マルテンサイト系ステンレス鋼は、S
i−Cr鋼に比べ、素材自体の耐熱性、耐摩耗性ならび
に耐食性が優れているので、一部の用途においては、C
rメッキ用ピストンリング材としても使用することがで
きる。
【0005】上述してきたごとく、比較的性能重視の高
負荷内燃機関への適用が中心であった従来のピストンリ
ングは、最近の内燃機関の低燃費化、高性能化、軽量化
および排ガスの清浄化等の背景から、高負荷内燃機関に
止まらず徐々にその使用範囲を拡大しつつある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】通常、高Crマルテン
サイト系ステンレス鋼は、その線材製造過程において、
平線もしくは異形線材を一旦900〜1100℃に加熱
し、急冷焼入れを行った後、比較的高目の温度にて焼戻
しを行う。上記熱処理後のマルテンサイト系ステンレス
鋼素材は、所定のリング形状に成形されることとなるの
だが、リング形状への成形性に係る曲げ加工性(カーリ
ング性)を高めるために、その硬さは、Si−Cr鋼の
熱処理後硬さ45〜55HRCに対し、35〜45HR
Cと低めに調整しなければならない。
【0007】本来のごとく、ピストンリングとしての耐
摩耗性、耐スカッフィング性および疲労強度等の特性を
重視するならば、熱処理硬さは高い方が望ましい。しか
し、Si−Cr鋼に比べ残留炭化物量の多いマルテンサ
イト系ステンレス鋼では、その熱処理硬さが高いと、曲
げ加工の際に折損するという問題があるため、特性を多
少犠牲にしても熱処理硬さを低めに調整しなければなら
ないという問題点があった。
【0008】この問題の改善方法としては、特開昭59
−166653号、特開昭63−140066号に開示
される低合金系ピストンリング材が知られている。これ
らの方法は、Cr含有量を2.0〜9.0%と低合金化
するものであり、耐折損性に関しては改善可能である
が、反面、耐スカッフィング性は極端に低下する。その
ため上記成分系では、ピストンリングとしての特性に問
題があるため、広く実用に至っていないのが現状であ
る。
【0009】また、マルテンサイト系ステンレス鋼は、
Si−Cr鋼に比べ、加工硬化も大きいため、平線や異
形線材に仕上げるまでの加工率を大きくすることができ
ない。そのため、引抜加工あるいは圧延加工の工程中に
多数の焼鈍工程を必要とし、結果として、線材製造にか
かるコストが高くなるという問題があった。
【0010】そこで、本発明は、上述した事項に鑑み、
ピストンリングとしての要求特性を損なうことなく、線
材製造時の温間もしくは冷間における引抜加工性や圧延
加工性を向上し、製造コストの低減を図るとともに、さ
らにリング成形時の折損の減少をも達成した耐スカッフ
ィング性に優れたピストンリングを提供することを目的
とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】まず、発明者は、熱間圧
延後の線状ピストンリング素材について、その温間およ
び冷間における加工性に及ぼす各成分の影響について詳
細な検討を行った。さらには、上記素材の熱処理後にお
ける曲げ加工性およびピストンリングとして最も重要な
耐スカッフィング性、耐摩耗性について、その特性に及
ぼす各成分の影響を詳細に亘って研究した。その結果、
ピストンリング材に含まれるCr、Cの含有量におい
て、そのCr(重量%)/C(重量%)による値を15
〜45に調整すれば、ピストンリングとしての要求特性
を低下させることなく、線材製造時および熱処理後にお
いて極めて良好な加工性を達成し得ることを見いだし、
本発明に到達した。
【0012】すなわち、本発明は、ピストンリングにお
ける耐スカッフィング性および製造時の加工性の改善と
して、重量%にて、C:0.2〜1.2%、Cr:5.
0%以上12.0%未満、Si:0.25%以下を含有
するマルテンサイト系ピストンリングのCrとCの含有
量が、Cr(重量%)/C(重量%)による値にて15
〜45を満足するように化学組成を調整する方法を提案
するものである。本発明の改善方法を適用すれば、C
r:5.0%以上12.0%未満という低Cr系のマル
テンサイト系ピストンリングであっても、優れた耐スカ
ッフィング性および製造時の優れた加工性を達成するこ
とが可能である。
【0013】なお、本発明は、上記手段に加え、重量%
にて、Mnを0.30%以下に調整する方法を適用する
ことで、ピストンリング材の更なる加工性の向上が可能
であり、Mo、W、V、Nbの1種または2種以上を合
計で、0.3〜2.5%に調整することで、更なる耐ス
カッフィング性の向上が可能である。また、必要に応じ
てCuを4.0%以下に、または、Niを2.0%以下
に、あるいは、Alを1.5%以下に調整する方法も適
用が可能である。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明は、ピストンリングとして
の耐スカッフィング性の改善だけでなく、線材製造時の
加工性に加え、熱処理後の曲げ加工性をも改善し得る方
法を提供するものである。そして、本発明の最大の特徴
は、これらの効果を達成し得る本発明として、鋼中のC
およびCr含有量の調整と共に、Cr(重量%)/C
(重量%)による値を的確に調整するところにある。以
下、本発明の根幹をなす、上記の構成要件について詳し
く述べる。
【0015】Cは、炭化物を形成して耐スカッフィング
性や耐摩耗性を高めるだけでなく、一部が基地中に固溶
することで強度ならびに疲労特性の向上に寄与する重要
元素である。これらの効果を得るためには、Cは少なく
とも0.2%必要であるが、1.2%を越えると、線材
製造時の温間または冷間における加工性および熱処理後
の曲げ加工性を低下させる。そのため、本発明において
は、Cの範囲を0.2〜1.2%に調整する。
【0016】C同様、本発明を構成する重要元素の一つ
であるCrは、Cと結合して炭化物を形成するため、耐
スカッフィング性、耐摩耗性の向上に寄与するほか、一
部が基地に固溶し、焼戻しの際の二次硬化元素として働
くことから、ピストンリングの耐熱ヘタリ性の向上に寄
与する。また、窒化処理によって窒化層内で微細な窒化
物を形成するため、ピストンリングの更なる耐スカッフ
ィング性、耐摩耗性の向上が可能である。上記効果を得
るためには、最低5.0%のCrが必要であるが、2
5.0%を越える含有は炭化物の量あるいは粒径の増加
・増大を招き、加工性を極端に低下させる。なお、本発
明は、Cr:5.0%以上12.0%未満という低Cr
系のマルテンサイト系ピストンリングであっても、優れ
た耐スカッフィング性および製造時の優れた加工性を達
成するものである。よって、本発明におけるCr調整量
は、5.0%以上12.0%未満とする。
【0017】そして、本発明の効果を得るに最も重要と
なる改善手段が、鋼中のCおよびCrの含有比:Cr/
Cを、重量比にて15〜45に調整することである。ピ
ストンリングに要求される耐スカッフィング性は、上述
したごとくCr系炭化物に左右されるが、本発明は、こ
の影響度がCr系残留炭化物の種類と、その種類の違い
から生ずるCr系残留炭化物の粒径および分布状態の差
に大きく関係するという知見を得た。そして、更なる研
究の結果、これらCr系残留炭化物の形態は、Cおよび
Cr含有量そのものの調整に併せ、CrとCの含有量比
の調整によってその制御が可能であることを見いだした
のである。
【0018】具体的に述べると、Cr(重量%)/C
(重量%)値が、15以上の時、Cr系残留炭化物の種
類は、M236型が優勢となる。M236型炭化物の特徴
は、その粒径ならびに分布状態を、熱間加工温度および
熱処理条件によって容易に制御が行えるところにある。
つまり、M236型が優勢となる成分系とすれば、残留
炭化物の粒径が微細となりかつ、その分布状態について
も極めて均一な組織とすることが可能となるのである。
【0019】そのため、組織のミクロ的な差、例えば炭
化物量の密な部分と疎な部分の存在に起因する炭化物量
の疎な部分からのミクロ的スカッフィングの発生といっ
た現象が生じにくくなり、結果として、素材の耐スカッ
フィング性を向上させることができる。また、残留炭化
物の粒径が微細であるということは、比較的難加工性を
有す高合金系の素材であっても、線材製造時の温間なら
びに冷間における加工性および熱処理後の曲げ加工性を
向上させることが可能となり、生産効率の向上や製造コ
ストの低減が可能となる。
【0020】一方、Cr(重量%)/C(重量%)値が
15に満たない場合、Cr系残留炭化物の種類はM73
型が優勢となる。M73型の炭化物は、凝固時に粗大な
一次炭化物を形成する。この種の炭化物は、高温でも比
較的安定であるために、M236のように熱間加工温度
および熱処理温度による形態制御が難しいことが特徴で
ある。そのため、組織中の炭化物に上記のような分布状
態差が生じ、それに起因する耐スカッフィング性の極端
な低下を招くだけでなく、粗大なM73型残留炭化物の
存在によって、加工性を極端に低下させる。
【0021】また、Cr(重量%)/C(重量%)値が
45を越えると、残留炭化物の量が極端に減少するた
め、素材そのものの耐摩耗性が低下するばかりでなく、
窒化処理によって形成される窒化層が極めて割れやすく
なり、ピストンリングとして使用するには極めて危険な
素材になる。
【0022】以上の理由より、本発明は、Cr(重量
%)/C(重量%)値を15〜45に調整することが非
常に重要である。好ましくは、耐スカッフィング性なら
びに加工性の改善に加え、更なる耐摩耗性をより改善さ
せる値として、Cr(重量%)/C(重量%)を18〜
30に調整する。
【0023】ここで、本発明による耐スカッフィング性
および加工性の改善効果を、図を持って説明する。
【0024】図1は、13%Cr系のマルテンサイト鋼
における、Cr(重量%)/C(重量%)値と「スカッ
フ面圧」および「抗折試験によるたわみ量」の関係を示
したものである。なお、図1の主旨は、本願発明のCr
(重量%)/C(重量%)調整による効果を説明するた
めのものである。今回は、その参考として13%Cr系
のものを挙げたが、本効果の優位性は本願発明の12%
未満Cr系のものにあっても同等である。図1にて使用
した供試材には、それぞれC量が異なる13%Cr系の
マルテンサイト鋼を1050℃にて焼入れ後、焼戻しに
よって硬さ40HRCに調整したものであり、ピストン
リング材の曲げ加工前の状態を想定したものである。そ
して、曲げ加工性の評価として、上記供試材に抗折試験
を行ない、そのたわみ量を測定した。
【0025】また、ピストンリングとして極めて重要な
耐スカッフィング性の評価用供試材については、上記焼
入れ・焼戻し後の供試材に520℃×10時間のガス窒
化処理を実施した後、最表面に形成された脆い窒化物層
を除去する目的で試験片表面を研磨により10〜15μ
m除去したものを用いた。なお、耐スカッフィング性の
評価は、超高圧摩擦摩耗試験機を用いて下記の条件にて
試験を行い、焼付き発生荷重であるスカッフ面圧にて評
価を行った。その試験機試験片部の略図を図2および図
3に示しておく。
【0026】摩擦速度・・・・8m/s 摩擦面圧力・・・初期圧20kgf/cm2、3分毎に
10kgf/cm2づつ上昇 潤滑油・・・・・モーターオイル#30,油温80℃,
ステーターホルダー中心より400ml/min.注油 焼付検出・・・・ロードセルおよび動歪計にて検出 相手材・・・・・JISねずみ鋳鉄(FC250)
【0027】図1に示すように、ピストンリングとして
最も重要な特性である耐スカッフィング性と、ピストン
リング製造時に重要な特性である素材の曲げ加工性を両
立させるには、Cr(重量%)/C(重量%)値を15
〜45に調整することが有効あることがわかる。
【0028】なお、Cr(重量%)/C(重量%)値が
15未満の範囲において、その一部にはスカッフ面圧の
低下が認められないものがある。これは、Cr含有量が
13%の場合では、Cr(重量%)/C(重量%)値の
極端な低下、つまりC量の極端な増加によって、上述し
た組織中のM73型残留炭化物の量ならびに粒径の極端
な増大が起こるためと考えられるが、このM73型残留
炭化物の極端な増加は、曲げ加工性の著しい低下をさせ
るのである。
【0029】つまり、単に素材の耐スカッフィング性の
みを向上させるのであれば、図1のごとく、組織中の残
留炭化物の種類を無視して、その量ならびに粒径の増加
調整を行えば良いわけであるが、それでは、ピストンリ
ング材としての加工性が余りにも低くなりすぎて、現在
のピストンリング製造において実施されている冷間曲げ
加工が不可能となるのである。
【0030】よって、C、Crの含有量調整に加え、C
r(重量%)/C(重量%)値を15〜45に調整する
本発明であれば、その適用によって耐スカッフィング性
および製造時の加工性にも優れたピストンリングを提供
できるのである。
【0031】なお、本発明は、例えば、加工性こそ良好
であるものの耐スカッフィング性が要求特性に満たない
Cr含有量が5.0%以上12.0%未満からなる低合
金材に適用すれば、加工性を犠牲にすることなく、耐ス
カッフィング性を改善することが可能であり、ピストン
リング材としての優れた加工性と耐スカッフィング性を
両立させるに優れた手段なのである。
【0032】Siは、本発明の目的の一つである線材製
造時の加工性に加え、熱処理後の曲げ加工性をも更に改
善する元素である。つまり、本発明者は、鋼中への適量
のSi含有が、上述した本発明の目的達成に効果を示す
ことを見いだし、特にSiの含有量が0.25%以下に
なると、該効果が更に顕著になることを突きとめたので
ある。
【0033】その一方で、Siは、精錬工程における脱
酸元素として鋼中に残留する元素であると同時に、特開
昭61−59066号に代表されるCr含有量2.0〜
9.0%の低〜中Crマルテンサイト系ステンレス鋼に
おいては、耐酸化性、耐熱ヘタリ性を向上させる元素と
して、最低でも0.3%以上のSiが必要とされてい
る。しかし、耐酸化性については、実際のピストンリン
グが潤滑油中で使用されるという点の他、窒化処理もし
くはCrメッキ等、何らかの表面処理を施し使用される
という点から、必ずしも重要視する必要が無くなってき
た。
【0034】それに加え、本発明者は、耐熱ヘタリ性を
向上させる目的のもとに添加されるSiの作用について
も詳細なる検討を行った。すなわち、従来からのSiの
添加は、低温焼戻しを行った素材において、その焼戻し
によって析出した炭化物の凝集を遅らせることで、その
効果を著しく表すものである。つまり、析出した炭化物
のほとんどが凝集すると考えられる550〜650℃に
て、焼戻し処理を行うことが一般的であるマルテンサイ
ト系合金鋼製ピストンリングにおいては、二次硬化に付
与する他の添加元素の方がその効果は大きく、Siにつ
いては著しい効果が認められないという知見を得たので
ある。
【0035】なお、近年の製鋼技術の進歩により、Si
脱酸剤の使用量を減じても、酸化物系非金属介在物の低
減は十分に可能である。以上の理由から、本発明のSi
は、線材製造時の加工性に加え、熱処理後の曲げ加工性
をも更に良好にする元素として、0.25%以下に限定
する。望ましいSiの調整範囲は0.05〜0.20%
である。
【0036】以上、Si含有量を的確に調整する本発明
を適用すれば、線材製造時の加工性および熱処理後の曲
げ加工性を更に向上させることができる。特に、本発明
の適用によって熱処理後の曲げ加工性が向上されるとい
うことは、従来のピストンリングに比べて熱処理硬さを
高めに調整できるため、今まで曲げ加工性の向上のため
にある程度妥協してきたピストンリングとしての耐スカ
ッフィング性、耐摩耗性をより高度なレベルで改善でき
ることが可能となる。
【0037】以下、本発明の好ましい手段として、その
要件を構成する上記以外の元素の限定理由およびその作
用を述べる。
【0038】Mnは、脱酸剤や脱硫剤として、鋼の精錬
に必要な元素の一つである。前述の特開昭61−590
66号によると、強度ならびに硬さの向上のためには、
最低0.5%の含有が必要であることが記載されてい
る。しかし、Mnは0.30%を越えてを含有すると、
焼鈍状態での加工性が低下することを確認した。そのた
め、本発明のMnは、その含有量を0.30%以下に限
定する。
【0039】Mo、W、V、Nbは、それ自体がCと結
びつき硬質の炭化物を形成するだけでなく、一部はCr
炭化物中へ固溶するため、Cr炭化物自身が強化されて
耐摩耗性を向上させる元素である。また、焼戻しの際、
二次硬化元素として付与するため、ピストンリングの耐
熱ヘタリ性の向上にも有効である。しかし、過度の添加
は、硬質の炭化物量の増加を招き、シリンダーの摩耗量
を著しく増加させるだけでなく、加工性の低下をも引き
起こす原因となる。よって、Mo、W、V、Nbの調整
量は、1種または2種以上を合計で0.3〜2.5%と
する。
【0040】Cuは、炭化物や窒化物を形成することな
く、Feと基地中に微細な固溶体を形成することで、基
地の強化および耐熱ヘタリ性の向上に寄与するため、必
要に応じて添加できる。しかし、その含有量が4.0%
を越えると、熱間加工性が極端に低下するため、その上
限を4.0%以下とする。また、上記効果を得るに望ま
しいCu含有量として、0.5〜3.0%とする。
【0041】Niは、必ずしも添加する必要はないが、
ピストンリングとして使用の際に衝撃的な応力の加わる
場合は、靭性向上を目的とする必要に応じた添加が可能
である。しかし、2.0%を越えて添加すると焼鈍状態
での加工性が著しく低下するので、その上限を2.0%
とする。
【0042】Alは、窒化処理の際に進入するNとAl
Nを形成することで窒化層の硬さを増加させ、ピストン
リングの耐摩耗性向上に寄与するため、必要に応じて添
加することができる。しかし、その含有量が1.5%を
越えると、加工性および疲労特性が極端に低下するだけ
でなく、窒化によって析出する硬質のAlNが極端に多
くなり、シリンダーの摩耗量を著しく増加させる。よっ
て、Alの添加量は、その上限を1.5%以下とし、望
ましくは、0.2〜0.6%とする。
【0043】なお、本発明は、以上述べてきた元素以外
にも、窒化層の硬さを増加させるTi、Mgや耐食性の
向上に有効なCo等を、必要に応じて添加することが可
能である。
【0044】
【実施例】以下、本発明の効果を実施例により説明す
る。まず、大気中の高周波誘導溶解によって所定の組成
に調整した30kg鋼塊を作製した。次に、熱間加工を経
て、上記の鋼塊を直径8mmの線状素材にし、860℃
で焼鈍を行った。得られた焼鈍材の組成を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】次に、得られた焼鈍材の一部を、平行部長
40mm、平行部直径6mmの引張試験片形状に加工
し、線材の引抜きおよび圧延加工性の評価を目的とし
て、引張り試験を行った。また、同時に硬さの測定も行
った。残りの線状素材については、室温で直径5.5m
mの線材になるまで引抜加工を行い、ついで、1050
℃にて焼入れ後、焼戻しにて硬さを調整した。なお、該
調整後の硬さは、No.25〜28の比較材が38〜4
0HRC、その他の本発明適用材および比較材は48〜
50HRCである。そして、硬さを調整したこれらの熱
処理材より、3mm×3mmの断面形状を有する曲げ試
験片を作成し、曲げ加工性の評価として抗折試験を行っ
た。
【0047】続いて、本発明適用材(以下、本発明材と
呼ぶ)および比較材について、その表面に形成される窒
化層の特性の優劣を評価するため、上記熱処理材から各
評価用試験片を採取し、熱処理後、所定形状に加工され
たピストンリングに通常実施される窒化処理を想定し
て、520℃×10時間のガス窒化処理を行った。その
後、最表面に形成された脆い窒化物層を除去する目的
で、試験片表面を研磨により10〜15μm除去してか
ら、窒化層最表面の硬さ測定、窒化層のミクロ観察なら
びに耐スカッフィング試験を行った。
【0048】なお、上記耐スカッフィング試験は、先述
の超高圧摩擦摩耗試験機を用い同条件にて行った。各試
験結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】表2より、本発明材は、焼鈍後における絞
り値が、同Cr含有量の比較材と比べて大きく、冷間加
工性が極めて改善されていることがわかる。また、熱処
理後のたわみ量についても、本発明材は、比較材に比べ
高い値を示すことがわかる。つまり、本発明を適用すれ
ば、熱処理後の硬さを高目に調整しても曲げ加工中の折
損が発生し難いので、高硬さ調整による耐スカッフィン
グ性、耐摩耗性の優れた改善効果をも得ることが可能と
なる。
【0051】次に、窒化処理後の特性、つまり、実際に
使用されるピストンリングそのものに要求される特性に
ついてその評価結果を述べる。本発明材の窒化層表面
は、いずれも980HV以上の硬さを有しており、ピス
トンリングとして十分な耐摩耗性が達成できている。ま
た、比較材No.24で認められるような窒化層の割れ
も発生していない。さらに、本発明材は、スカッフィン
グ試験によるスカッフ面圧値も高く、ピストンリングと
して極めて良好な耐スカッフィング性を有していること
がわかる。
【0052】特に、本発明材No.1〜10について
は、Cr含有量が12%未満とピストンリングとしては
比較的低合金鋼であるにも係らず、Cr(重量%)/C
(重量%)を適正な値に調整することで、同成分系の比
較材No.21〜24に比べ、耐スカッフィング性が大
幅に改善されていることがわかる。これより、本発明の
適用が、先述した「耐スカッフィング性が要求特性に満
たない5%以上12%未満のピストンリング」の特性向
上にも、その効果を発揮することがわかる。
【0053】なお、比較材No.27、28は、Cr
(重量%)/C(重量%)の値が本発明の規定範囲より
低いにも係らず、耐スカッフィング性が良好である。こ
れは、先述したごとく、Cr(重量%)/C(重量%)
値の極端な低下、つまりC量の極端な増加によって、組
織中のM73型残留炭化物の量ならびに粒径が極端に増
大したためと考えられる。しかし、M73型残留炭化物
の極端な増加は、素材の加工性を著しく低下させるた
め、比較材No.27、28は、そのたわみ量に劣るこ
とがわかる。
【0054】単にピストンリングの耐スカッフィング性
のみを向上させるのであれば、比較材No.27、28
のように、組織中の残留炭化物の種類を無視して、その
量ならびに粒径の増加を行えば良いわけであるが、先述
したように、それでは、ピストンリング材としての加工
性が余りにも低くなりすぎて、現在のピストンリング製
造において実施されている冷間曲げ加工が不可能となる
のである。
【0055】比較材No.21、22は、特開平8−1
09445号にて提案された「加工性に優れたピストン
リング材」と同等の成分系であるが、本発明のCr(重
量%)/C(重量%)値を満足しないものであり、本発
明のCr/C重量比を満たすことが耐スカッフィング性
の向上に大きく寄与することがわかる。
【0056】
【発明の効果】以上より、本発明を適用すれば、ピスト
ンリングとしての特性が改善できることはもちろんのこ
と、線材製造過程における引抜加工性、圧延加工性をも
改善できかつ、比較的高硬度の熱処理硬さを設定した場
合でも、極めて優れた曲げ加工性をも達成できることか
ら、諸特性に優れたピストンリング素材をも安価に供給
することが可能である。そして、ピストンリングとして
の特性に問題のあったCr含有量12%未満の低合金鋼
においても、本発明の改善方法を適用することで、その
優れた加工性に加えて耐スカッフィング性の改善が可能
となる。よって、本発明の適用は、更なる生産性の向上
およびコストの低減につながり、その有益性は非常に高
い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明および比較例を適用した13%Cr含有
マルテンサイト系合金鋼における、Cr(重量%)/C
(重量%)と耐スカッフィング性および曲げ加工性の関
係を示す図である。
【図2】超高圧摩擦摩耗試験機における試験部の断面図
である。
【図3】図1のA−A矢視断面図である。
【符号の説明】
1.試験片(5mm角×10L)、2.円板(相手材・・
・FC250)、3.ステータホルダー、4.ロータ、
5.試験片保持具、6.潤滑油注入口、7.ロードセ
ル、8.動歪計、P:摩擦圧力
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C22C 38/00 - 38/60 F02F 5/00 F16J 9/26

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 曲げ加工され、表面窒化層を形成したマ
    ルテンサイト系鋼よりなるピストンリングであり、重量
    %にて、C:0.2〜1.2%、Cr:5.0%以上1
    2.0%未満、Si:0.25%以下を含有し、Crと
    Cの含有量が、Cr(重量%)/C(重量%)による値
    にて15〜45を満足することを特徴とする耐スカッフ
    ィング性に優れたピストンリング。
  2. 【請求項2】 Cr(重量%)/C(重量%)による値
    が18〜30を満足することを特徴とする請求項1に記
    載の耐スカッフィング性に優れたピストンリング。
  3. 【請求項3】 重量%にて、Mn:0.30%以下を満
    足することを特徴とする請求項1または2に記載の耐ス
    カッフィング性に優れたピストンリング。
  4. 【請求項4】 重量%にて、Mo、W、V、Nbの1種
    または2種以上が合計で0.3〜2.5%を満足するこ
    とを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の耐
    スカッフィング性に優れたピストンリング。
  5. 【請求項5】 重量%にて、Cu:4.0%以下を満足
    することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記
    載の耐スカッフィング性に優れたピストンリング。
  6. 【請求項6】 重量%にて、Ni:2.0%以下を満足
    することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記
    載の耐スカッフィング性に優れたピストンリング。
  7. 【請求項7】 重量%にて、Al:1.5%以下を満足
    することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記
    載の耐スカッフィング性に優れたピストンリング。
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