JPH1180910A - ピストンリング材における耐スカッフィング性および加工性の改善方法 - Google Patents

ピストンリング材における耐スカッフィング性および加工性の改善方法

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JPH1180910A
JPH1180910A JP24225697A JP24225697A JPH1180910A JP H1180910 A JPH1180910 A JP H1180910A JP 24225697 A JP24225697 A JP 24225697A JP 24225697 A JP24225697 A JP 24225697A JP H1180910 A JPH1180910 A JP H1180910A
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JP
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piston ring
workability
weight
ring material
resistance
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JP24225697A
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Kenichi Inoue
謙一 井上
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Hitachi Metals Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 線材製造過程における優れた引抜加工性、圧
延加工性に加え、比較的高硬度の熱処理後硬さを設定し
た場合でも、極めて優れた曲げ加工性を備えかつ、ピス
トンリングとしての特性にも優れたピストンリング材を
達成すべく、その特性の改善方法を提供する。 【課題手段】 重量%にて、C:0.2〜1.2%、C
r:5.0〜25.0%を含有するマルテンサイト系ピ
ストンリング材のCrとCの含有量が、Cr(重量%)
/C(重量%)による値にて15〜45を満足するよう
に化学組成を調整する改善方法である。好ましくは、S
i:0.25%以下、Mn:0.30%以下とし、M
o、W、V、Nbの1種または2種以上:0.3〜2.
5%あるいは、Cu:4.0%以下、Ni:2.0%以
下、Al:1.5%以下を含有せしめることが可能であ
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関に使用さ
れるピストンリング材における耐スカッフィング性およ
び加工性の改善方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年において、内燃機関には、低燃費
化、高性能化、軽量化および排ガスの清浄化等、様々な
改善が加えられている。その中でも、内燃機関の摺動部
であるピストンリングに対しては、エンジンの軽量化な
らびに高回転化に伴うピストンリングの薄肉化のため、
疲労特性、耐摩耗性、耐スカッフィング性等の特性向上
が強く求められ、従来使用されていた鋳鉄製ピストンリ
ングは、強度、疲労特性等に優れた鋼製ピストンリング
に変わりつつある。現在、鋼製ピストンリングには、J
IS SWOSC−V相当のSi−Cr鋼、もしくはマ
ルテンサイト系ステンレス鋼をベースにした素材が主と
して使用されている。
【0003】通常、Si−Cr鋼はCrメッキ処理を施
してピストンリングとして使用されるが、ピストンリン
グ表面に形成されたCrメッキ層は、その使用に要求さ
れる耐摩耗性が不十分である。さらに、高負荷の内燃機
関へ適用した場合には、メッキ部の剥離によって母材が
露出する問題が生じ、その結果、即座にシリンダー内壁
と容易にスカッフィングを起こしてしまう。それに付け
加え、Crメッキ処理には、処理後に発生する廃液に関
する諸問題、例えば環境への悪影響ならびに近年の廃液
処理コストの増加といった問題がある。
【0004】これに対し、上記のマルテンサイト系ステ
ンレス鋼よりなるピストンリングは、その多くが表面に
窒化処理を施して使用される。この窒化層は、Crメッ
キ層に比べ高い耐摩耗性を有しているばかりではなく、
窒化処理が拡散を利用した処理であるために、処理層が
剥離する問題も無いため、ピストンリングとしては極め
て優れた特性を有している。また、窒化処理は、その処
理コストが安価であり、環境への影響度も小さいことか
ら、Crメッキ処理に比べて有利な処理方法である。な
お、その用途上、Crメッキ処理をしなくてはならない
場合においても、マルテンサイト系ステンレス鋼は、S
i−Cr鋼に比べ、素材自体の耐熱性、耐摩耗性ならび
に耐食性が優れているので、一部の用途においては、C
rメッキ用ピストンリング材としても使用することがで
きる。
【0005】上述してきたごとく、比較的性能重視の高
負荷内燃機関への適用が中心であった従来のピストンリ
ングは、最近の内燃機関の低燃費化、高性能化、軽量化
および排ガスの清浄化等の背景から、高負荷内燃機関に
止まらず徐々にその使用範囲を拡大しつつある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】通常、高Crマルテン
サイト系ステンレス鋼は、その線材製造過程において、
平線もしくは異形線材を一旦900〜1100℃に加熱
し、急冷焼入れを行った後、比較的高目の温度にて焼戻
しを行う。上記熱処理後のマルテンサイト系ステンレス
鋼素材は、所定のリング形状に成形されることとなるの
だが、リング形状への成形性に係る曲げ加工性(カーリ
ング性)を高めるために、その硬さは、Si−Cr鋼の
熱処理後硬さ45〜55HRCに対し、35〜45HR
Cと低めに調整しなければならない。
【0007】本来のごとく、ピストンリングとしての耐
摩耗性、耐スカッフィング性および疲労強度等の特性を
重視するならば、熱処理硬さは高い方が望ましい。しか
し、Si−Cr鋼に比べ残留炭化物量の多いマルテンサ
イト系ステンレス鋼では、その熱処理硬さが高いと、曲
げ加工の際に折損するという問題があるため、特性を多
少犠牲にしても熱処理硬さを低めに調整しなければなら
ないという問題点があった。
【0008】この問題の改善方法としては、特開昭59
−166653号、特開昭63−140066号に開示
される低合金系ピストンリング材が知られている。これ
らの方法は、Cr含有量を2.0〜9.0%と低合金化
するものであり、耐折損性に関しては改善可能である
が、反面、耐スカッフィング性は極端に低下する。その
ため上記成分系では、ピストンリングとしての特性に問
題があるため、広く実用に至っていないのが現状であ
る。
【0009】また、マルテンサイト系ステンレス鋼は、
Si−Cr鋼に比べ、加工硬化も大きいため、平線や異
形線材に仕上げるまでの加工率を大きくすることができ
ない。そのため、引抜加工あるいは圧延加工の工程中に
多数の焼鈍工程を必要とし、結果として、線材製造にか
かるコストが高くなるという問題があった。
【0010】そこで、本発明は、上述した事項に鑑み、
ピストンリングとしての要求特性を損なうことなく、線
材製造時の温間もしくは冷間における引抜加工性や圧延
加工性を向上し、製造コストの低減を図るとともに、さ
らにリング成形時の折損をも減少することが可能である
ピストンリング材を達成すべく、その特性の改善方法を
提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】まず、発明者は、熱間圧
延後の線状ピストンリング素材について、その温間およ
び冷間における加工性に及ぼす各成分の影響について詳
細な検討を行った。さらには、上記素材の熱処理後にお
ける曲げ加工性およびピストンリングとして最も重要な
耐スカッフィング性、耐摩耗性について、その特性に及
ぼす各成分の影響を詳細の渡って研究した。その結果、
ピストンリング材に含まれるCr、Cの含有量におい
て、そのCr(重量%)/C(重量%)による値を15
〜45に調整すれば、ピストンリングとしての要求特性
を低下させることなく、線材製造時および熱処理後にお
いて極めて良好な加工性を達成し得ることを見いだし、
本発明に到達した。
【0012】すなわち、本発明は、ピストンリング材に
おける耐スカッフィング性および加工性の改善方法とし
て、重量%にて、C:0.2〜1.2%、Cr:5.0
〜25.0%を含有するマルテンサイト系ピストンリン
グ材のCrとCの含有量が、Cr(重量%)/C(重量
%)による値にて15〜45を満足するように化学組成
を調整する方法を提案するものである。本発明の改善方
法を適用すれば、Cr:5.0%以上12.0%未満と
いう低Cr系のマルテンサイト系ピストンリング材であ
っても、優れた耐スカッフィング性および加工性を達成
することが可能である。
【0013】なお、本発明の改善方法は、上記手段に加
え、重量%にて、Siを0.25%以下、Mnを0.3
0%以下に調整する方法を適用することで、ピストンリ
ング材の更なる加工性の向上が可能であり、Mo、W、
V、Nbの1種または2種以上を合計で、0.3〜2.
5%に調整することで、更なる耐スカッフィング性の向
上が可能である。また、必要に応じてCuを4.0%以
下に、または、Niを2.0%以下に、あるいは、Al
を1.5%以下に調整する方法も適用が可能である。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明は、ピストンリングとして
の耐スカッフィング性の改善だけでなく、線材製造時の
加工性に加え、熱処理後の曲げ加工性をも改善し得る方
法を提供するものである。そして、本発明の最大の特徴
は、これらの効果を達成し得る本発明の改善方法とし
て、鋼中のCおよびCr含有量の調整と共に、Cr(重
量%)/C(重量%)による値を的確に調整するところ
にある。以下、本発明の根幹をなす、上記改善方法の構
成要件について詳しく述べる。
【0015】Cは、炭化物を形成して耐スカッフィング
性や耐摩耗性を高めるだけでなく、一部が基地中に固溶
することで強度ならびに疲労特性の向上に寄与する重要
元素である。これらの効果を得るためには、Cは少なく
とも0.2%必要であるが、1.2%を越えると、線材
製造時の温間または冷間における加工性および熱処理後
の曲げ加工性を低下させる。そのため、本発明の改善方
法においては、Cの範囲を0.2〜1.2%に調整す
る。
【0016】C同様、本発明を構成する重要元素の一つ
であるCrは、Cと結合して炭化物を形成するため、耐
スカッフィング性、耐摩耗性の向上に寄与するほか、一
部が基地に固溶し、焼戻しの際の二次硬化元素として働
くことから、ピストンリングの耐熱ヘタリ性の向上に寄
与する。また、窒化処理によって窒化層内で微細な窒化
物を形成するため、ピストンリングの更なる耐スカッフ
ィング性、耐摩耗性の向上が可能である。上記効果を得
るためには、最低5.0%のCrが必要であるが、2
5.0%を越える含有は炭化物の量あるいは粒径の増加
・増大を招き、加工性を極端に低下させる。よって、本
発明の改善方法におけるCr調整量は、5.0〜25.
0%とする。
【0017】そして、本発明の効果を得るに最も重要と
なる改善手段が、鋼中のCおよびCrの含有比:Cr/
Cを、重量比にて15〜45に調整することである。ピ
ストンリングに要求される耐スカッフィング性は、上述
したごとくCr系炭化物に左右されるが、本発明は、こ
の影響度がCr系残留炭化物の種類と、その種類の違い
から生ずるCr系残留炭化物の粒径および分布状態の差
に大きく関係するという知見を得た。そして、更なる研
究の結果、これらCr系残留炭化物の形態は、Cおよび
Cr含有量そのものの調整に併せ、CrとCの含有量比
の調整によってその制御が可能であることを見いだした
のである。
【0018】具体的に述べると、Cr(重量%)/C
(重量%)値が、15以上の時、Cr系残留炭化物の種
類は、M236型が優勢となる。M236型炭化物の特徴
は、その粒径ならびに分布状態を、熱間加工温度および
熱処理条件によって容易に制御が行えるところにある。
つまり、M236型が優勢となる成分系とすれば、残留
炭化物の粒径が微細となりかつ、その分布状態について
も極めて均一な組織とすることが可能となるのである。
【0019】そのため、組織のミクロ的な差、例えば炭
化物量の密な部分と疎な部分の存在に起因する炭化物量
の疎な部分からのミクロ的スカッフィングの発生といっ
た現象が生じにくくなり、結果として、素材の耐スカッ
フィング性を向上させることができる。また、残留炭化
物の粒径が微細であるということは、比較的難加工性を
有す高合金系の素材であっても、線材製造時の温間なら
びに冷間における加工性および熱処理後の曲げ加工性を
向上させることが可能となり、生産効率の向上や製造コ
ストの低減が可能となる。
【0020】一方、Cr(重量%)/C(重量%)値が
15に満たない場合、Cr系残留炭化物の種類はM73
型が優勢となる。M73型の炭化物は、凝固時に粗大な
一次炭化物を形成する。この種の炭化物は、高温でも比
較的安定であるために、M236のように熱間加工温度
および熱処理温度による形態制御が難しいことが特徴で
ある。そのため、組織中の炭化物に上記のような分布状
態差が生じ、それに起因する耐スカッフィング性の極端
な低下を招くだけでなく、粗大なM73型残留炭化物の
存在によって、加工性を極端に低下させる。
【0021】また、Cr(重量%)/C(重量%)値が
45を越えると、残留炭化物の量が極端に減少するた
め、素材そのものの耐摩耗性が低下するばかりでなく、
窒化処理によって形成される窒化層が極めて割れやすく
なり、ピストンリングとして使用するには極めて危険な
素材になる。
【0022】以上の理由より、本発明の改善方法は、C
r(重量%)/C(重量%)値を15〜45に調整する
ことが非常に重要である。好ましくは、耐スカッフィン
グ性ならびに加工性の改善に加え、更なる耐摩耗性をよ
り改善させる値として、Cr(重量%)/C(重量%)
を18〜30に調整する。
【0023】ここで、本発明の改善方法による耐スカッ
フィング性および加工性の改善効果を、図を持って説明
する。
【0024】図1は、13%Cr系のマルテンサイト鋼
における、Cr(重量%)/C(重量%)値と「スカッ
フ面圧」および「抗折試験によるたわみ量」の関係を示
したものである。図1にて使用した供試材には、それぞ
れC量が異なる13%Cr系のマルテンサイト鋼を10
50℃にて焼入れ後、焼戻しによって硬さ40HRCに
調整したものであり、ピストンリング材の曲げ加工前の
状態を想定したものである。そして、曲げ加工性の評価
として、上記供試材に抗折試験を行ない、そのたわみ量
を測定した。
【0025】また、ピストンリングとして極めて重要な
耐スカッフィング性の評価用供試材については、上記焼
入れ・焼戻し後の供試材に520℃×10時間のガス窒
化処理を実施した後、最表面に形成された脆い窒化物層
を除去する目的で試験片表面を研磨により10〜15μ
m除去したものを用いた。なお、耐スカッフィング性の
評価は、超高圧摩擦摩耗試験機を用いて下記の条件にて
試験を行い、焼付き発生荷重であるスカッフ面圧にて評
価を行った。その試験機試験片部の略図を図2および図
3に示しておく。
【0026】摩擦速度・・・・8m/s 摩擦面圧力・・・初期圧20kgf/cm2、3分毎に
10kgf/cm2づつ上昇 潤滑油・・・・・モーターオイル#30,油温80℃,
ステーターホルダー中心より400ml/min.注油 焼付検出・・・・ロードセルおよび動歪計にて検出 相手材・・・・・JISねずみ鋳鉄(FC250)
【0027】図1に示すように、ピストンリングとして
最も重要な特性である耐スカッフィング性と、ピストン
リング製造時に重要な特性である素材の曲げ加工性を両
立させるには、Cr(重量%)/C(重量%)値を15
〜45に調整することが有効あることがわかる。
【0028】なお、Cr(重量%)/C(重量%)値が
15未満の範囲において、その一部にはスカッフ面圧の
低下が認められないものがある。これは、Cr含有量が
13%の場合では、Cr(重量%)/C(重量%)値の
極端な低下、つまりC量の極端な増加によって、上述し
た組織中のM73型残留炭化物の量ならびに粒径の極端
な増大が起こるためと考えられるが、このM73型残留
炭化物の極端な増加は、曲げ加工性の著しい低下をさせ
るのである。
【0029】つまり、単に素材の耐スカッフィング性の
みを向上させるのであれば、図1のごとく、組織中の残
留炭化物の種類を無視して、その量ならびに粒径の増加
調整を行えば良いわけであるが、それでは、ピストンリ
ング材としての加工性が余りにも低くなりすぎて、現在
のピストンリング製造において実施されている冷間曲げ
加工が不可能となるのである。
【0030】よって、C、Crの含有量調整に加え、C
r(重量%)/C(重量%)値を15〜45に調整する
本発明の改善方法であれば、その適用によって耐スカッ
フィング性および加工性に優れたピストンリング材を提
供できるのである。
【0031】なお、本発明の改善方法は、例えば、加工
性こそ良好であるものの耐スカッフィング性が要求特性
に満たないCr含有量が5.0%以上12.0%未満か
らなる低合金材に適用すれば、加工性を犠牲にすること
なく、耐スカッフィング性を改善することが可能であ
り、ピストンリング材としての優れた加工性と耐スカッ
フィング性を両立させるに優れた改善方法なのである。
【0032】以下、本発明の好ましい改善方法として、
その要件を構成する上記以外の元素の限定理由およびそ
の作用を述べる。
【0033】Siは、本発明の目的の一つである線材製
造時の加工性に加え、熱処理後の曲げ加工性をも更に改
善する元素である。つまり、本発明者は、鋼中への適量
のSi含有が、上述した本発明の目的達成に効果を示す
ことを見いだし、特にSiの含有量が0.25%以下に
なると、該効果が更に顕著になることを突きとめたので
ある。
【0034】その一方で、Siは、精錬工程における脱
酸元素として鋼中に残留する元素であると同時に、特開
昭61−59066号に代表されるCr含有量2.0〜
9.0%の低〜中Crマルテンサイト系ステンレス鋼に
おいては、耐酸化性、耐熱ヘタリ性を向上させる元素と
して、最低でも0.3%以上のSiが必要とされてい
る。しかし、耐酸化性については、実際のピストンリン
グが潤滑油中で使用されるという点の他、窒化処理もし
くはCrメッキ等、何らかの表面処理を施し使用される
という点から、必ずしも重要視する必要が無くなってき
た。
【0035】それに加え、本発明者は、耐熱ヘタリ性を
向上させる目的のもとに添加されるSiの作用について
も詳細なる検討を行った。すなわち、従来からのSiの
添加は、低温焼戻しを行った素材において、その焼戻し
によって析出した炭化物の凝集を遅らせることで、その
効果を著しく表すものである。つまり、析出した炭化物
のほとんどが凝集すると考えられる550〜650℃に
て、焼戻し処理を行うことが一般的であるマルテンサイ
ト系合金鋼製ピストンリング材においては、二次硬化に
付与する他の添加元素の方がその効果は大きく、Siに
ついては著しい効果が認められないという知見を得たの
である。
【0036】なお、近年の製鋼技術の進歩により、Si
脱酸剤の使用量を減じても、酸化物系非金属介在物の低
減は十分に可能である。以上の理由から、本発明のSi
は、線材製造時の加工性に加え、熱処理後の曲げ加工性
をも更に良好にする元素として、0.25%以下に限定
する。望ましいSiの調整範囲は0.05〜0.20%
である。
【0037】以上、Si含有量を的確に調整する本発明
の改善方法を適用すれば、線材製造時の加工性および熱
処理後の曲げ加工性を更に向上させることができる。特
に、本発明の適用によって熱処理後の曲げ加工性が向上
されるということは、従来のピストンリング材に比べて
熱処理硬さを高めに調整できるため、今まで曲げ加工性
の向上のためにある程度妥協してきたピストンリングと
しての耐スカッフィング性、耐摩耗性をより高度なレベ
ルで改善できることが可能となる。
【0038】Mnは、脱酸剤や脱硫剤として、鋼の精錬
に必要な元素の一つである。前述の特開昭61−590
66号によると、強度ならびに硬さの向上のためには、
最低0.5%の含有が必要であることが記載されてい
る。しかし、Mnは0.30%を越えてを含有すると、
焼鈍状態での加工性が低下することを確認した。そのた
め、本発明のMnは、その含有量を0.30%以下に限
定する。
【0039】Mo、W、V、Nbは、それ自体がCと結
びつき硬質の炭化物を形成するだけでなく、一部はCr
炭化物中へ固溶するため、Cr炭化物自身が強化されて
耐摩耗性を向上させる元素である。また、焼戻しの際、
二次硬化元素として付与するため、ピストンリングの耐
熱ヘタリ性の向上にも有効である。しかし、過度の添加
は、硬質の炭化物量の増加を招き、シリンダーの摩耗量
を著しく増加させるだけでなく、加工性の低下をも引き
起こす原因となる。よって、Mo、W、V、Nbの調整
量は、1種または2種以上を合計で0.3〜2.5%と
する。
【0040】Cuは、炭化物や窒化物を形成することな
く、Feと基地中に微細な固溶体を形成することで、基
地の強化および耐熱ヘタリ性の向上に寄与するため、必
要に応じて添加できる。しかし、その含有量が4.0%
を越えると、熱間加工性が極端に低下するため、その上
限を4.0%以下とする。また、上記効果を得るに望ま
しいCu含有量として、0.5〜3.0%とする。
【0041】Niは、必ずしも添加する必要はないが、
ピストンリングとして使用の際に衝撃的な応力の加わる
場合は、靭性向上を目的とする必要に応じた添加が可能
である。しかし、2.0%を越えて添加すると焼鈍状態
での加工性が著しく低下するので、その上限を2.0%
とする。
【0042】Alは、窒化処理の際に進入するNとAl
Nを形成することで窒化層の硬さを増加させ、ピストン
リングの耐摩耗性向上に寄与するため、必要に応じて添
加することができる。しかし、その含有量が1.5%を
越えると、加工性および疲労特性が極端に低下するだけ
でなく、窒化によって析出する硬質のAlNが極端に多
くなり、シリンダーの摩耗量を著しく増加させる。よっ
て、Alの添加量は、その上限を1.5%以下とし、望
ましくは、0.2〜0.6%とする。
【0043】なお、本発明の改善方法は、以上述べてき
た元素以外にも、窒化層の硬さを増加させるTi、Mg
や耐食性の向上に有効なCo等を、必要に応じて添加す
ることが可能である。
【0044】
【実施例】以下、本発明の効果を実施例により説明す
る。まず、大気中の高周波誘導溶解によって所定の組成
に調整した30kg鋼塊を作製した。次に、熱間加工を経
て、上記の鋼塊を直径8mmの線状素材にし、860℃
で焼鈍を行った。得られた焼鈍材の組成を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】次に、得られた焼鈍材の一部を、平行部長
40mm、平行部直径6mmの引張試験片形状に加工
し、線材の引抜きおよび圧延加工性の評価を目的とし
て、引張り試験を行った。また、同時に硬さの測定も行
った。残りの線状素材については、室温で直径5.5m
mの線材になるまで引抜加工を行い、ついで、1050
℃にて焼入れ後、焼戻しにて硬さを調整した。なお、該
調整後の硬さは、No.11〜20の本発明適用材およ
びNo.25〜28の比較材が38〜40HRC、その
他の本発明適用材および比較材は48〜50HRCであ
る。そして、硬さを調整したこれらの熱処理材より、3
mm×3mmの断面形状を有する曲げ試験片を作成し、
曲げ加工性の評価として抗折試験を行った。
【0047】続いて、本発明適用材(以下、本発明材と
呼ぶ)および比較材について、その表面に形成される窒
化層の特性の優劣を評価するため、上記熱処理材から各
評価用試験片を採取し、熱処理後、所定形状に加工され
たピストンリングに通常実施される窒化処理を想定し
て、520℃×10時間のガス窒化処理を行った。その
後、最表面に形成された脆い窒化物層を除去する目的
で、試験片表面を研磨により10〜15μm除去してか
ら、窒化層最表面の硬さ測定、窒化層のミクロ観察なら
びに耐スカッフィング試験を行った。
【0048】なお、上記耐スカッフィング試験は、先述
の超高圧摩擦摩耗試験機を用い同条件にて行った。各試
験結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】表2より、本発明材は、焼鈍後における絞
り値が、同Cr含有量の比較材と比べて大きく、冷間加
工性が極めて改善されていることがわかる。また、熱処
理後のたわみ量についても、本発明材は、比較材に比べ
高い値を示すことがわかる。つまり、本発明を適用すれ
ば、熱処理後の硬さを高目に調整しても曲げ加工中の折
損が発生し難いので、高硬さ調整による耐スカッフィン
グ性、耐摩耗性の優れた改善効果をも得ることが可能と
なる。
【0051】次に、窒化処理後の特性、つまり、実際に
使用されるピストンリングそのものに要求される特性に
ついてその評価結果を述べる。本発明材の窒化層表面
は、いずれも980HV以上の硬さを有しており、ピス
トンリングとして十分な耐摩耗性が達成できている。ま
た、比較材No.24で認められるような窒化層の割れ
も発生していない。さらに、本発明材は、スカッフィン
グ試験によるスカッフ面圧値も高く、ピストンリングと
して極めて良好な耐スカッフィング性を有していること
がわかる。
【0052】特に、本発明材No.1〜10について
は、Cr含有量が12%未満とピストンリング材として
は比較的低合金鋼であるにも係らず、Cr(重量%)/
C(重量%)を適正な値に調整することで、同成分系の
比較材No.21〜24に比べ、耐スカッフィング性が
大幅に改善されていることがわかる。これより、本発明
の適用が、先述した「耐スカッフィング性が要求特性に
満たない5%以上12%未満のピストンリング材」の特
性向上にも、その効果を発揮することがわかる。
【0053】なお、比較材No.27、28は、Cr
(重量%)/C(重量%)の値が本発明の規定範囲より
低いにも係らず、耐スカッフィング性が良好である。こ
れは、先述したごとく、Cr(重量%)/C(重量%)
値の極端な低下、つまりC量の極端な増加によって、組
織中のM73型残留炭化物の量ならびに粒径が極端に増
大したためと考えられる。しかし、M73型残留炭化物
の極端な増加は、素材の加工性を著しく低下させるた
め、比較材No.27、28は、そのたわみ量に劣るこ
とがわかる。
【0054】単に材質の耐スカッフィング性のみを向上
させるのであれば、比較材No.27、28のように、
組織中の残留炭化物の種類を無視して、その量ならびに
粒径の増加を行えば良いわけであるが、先述したよう
に、それでは、ピストンリング材としての加工性が余り
にも低くなりすぎて、現在のピストンリング製造におい
て実施されている冷間曲げ加工が不可能となるのであ
る。
【0055】比較材No.21、22は、特開平8−1
09445号にて提案された「加工性に優れたピストン
リング材」と同等の成分系であるが、本発明のCr(重
量%)/C(重量%)値を満足しないものであり、本発
明のCr/C重量比を満たすことが耐スカッフィング性
の向上に大きく寄与することがわかる。
【0056】
【発明の効果】以上より、本発明の改善方法を適用すれ
ば、ピストンリングとしての特性が改善できることはも
ちろんのこと、線材製造過程における引抜加工性、圧延
加工性をも改善できかつ、比較的高硬度の熱処理硬さを
設定した場合でも、極めて優れた曲げ加工性をも達成で
きることから、諸特性に優れたピストンリング素材を安
価に供給することが可能である。そして、ピストンリン
グとしての特性に問題のあったCr含有量12%未満の
低合金鋼においても、本発明の改善方法を適用すること
で、その優れた加工性に加えて耐スカッフィング性の改
善が可能となる。よって、本発明の改善方法の適用は、
更なる生産性の向上およびコストの低減につながり、そ
の有益性は非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明および比較例を適用した13%Cr含有
マルテンサイト系合金鋼における、Cr(重量%)/C
(重量%)と耐スカッフィング性および曲げ加工性の関
係を示す図である。
【図2】超高圧摩擦摩耗試験機における試験部の断面図
である。
【図3】図1のA−A矢視断面図である。
【符号の説明】
1.試験片(5mm角×10L)、2.円板(相手材・・
・FC250)、3.ステータホルダー、4.ロータ、
5.試験片保持具、6.潤滑油注入口、7.ロードセ
ル、8.動歪計、P:摩擦圧力

Claims (9)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%にて、C:0.2〜1.2%、C
    r:5.0〜25.0%を含有するマルテンサイト系ピ
    ストンリング材のCrとCの含有量が、Cr(重量%)
    /C(重量%)による値にて15〜45を満足するよう
    に化学組成を調整することを特徴とするピストンリング
    材における耐スカッフィング性および加工性の改善方
    法。
  2. 【請求項2】 Cr(重量%)/C(重量%)による値
    が18〜30を満足するように化学組成を調整すること
    を特徴とする請求項1に記載のピストンリング材におけ
    る耐スカッフィング性および加工性の改善方法。
  3. 【請求項3】 重量%にて、Cr:5.0%以上12.
    0%未満を満足するように化学組成を調整することを特
    徴とする請求項1ないし2に記載のピストンリング材に
    おける耐スカッフィング性および加工性の改善方法。
  4. 【請求項4】 重量%にて、Si:0.25%以下を満
    足するように化学組成を調整することを特徴とする請求
    項1ないし3に記載のピストンリング材における耐スカ
    ッフィング性および加工性の改善方法。
  5. 【請求項5】 重量%にて、Mn:0.30%以下を満
    足するように化学組成を調整することを特徴とする請求
    項1ないし4に記載のピストンリング材における耐スカ
    ッフィング性および加工性の改善方法。
  6. 【請求項6】 重量%にて、Mo、W、V、Nbの1種
    または2種以上が合計で0.3〜2.5%を満足するよ
    うに化学組成を調整することを特徴とする請求項1ない
    し5に記載のピストンリング材における耐スカッフィン
    グ性および加工性の改善方法。
  7. 【請求項7】 重量%にて、Cu:4.0%以下を満足
    するように化学組成を調整することを特徴とする請求項
    1ないし6に記載のピストンリング材における耐スカッ
    フィング性および加工性の改善方法。
  8. 【請求項8】 重量%にて、Ni:2.0%以下を満足
    するように化学組成を調整することを特徴とする請求項
    1ないし7に記載のピストンリング材における耐スカッ
    フィング性および加工性の改善方法。
  9. 【請求項9】 重量%にて、Al:1.5%以下を満足
    するように化学組成を調整することを特徴とする請求項
    1ないし8に記載のピストンリング材における耐スカッ
    フィング性および加工性の改善方法。
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