JP6945664B2 - 冷間加工性に優れる高硬度・高耐食性用途のマルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法 - Google Patents
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(1)質量%で、
C:0.15%超0.70%以下、
Si:0.1〜2.0%、
Mn:0.15〜1.5%、
S:0.01%未満、
P:0.05%以下、
Ni:1.5%以下、
Cr:10.5〜16.0%、
Mo:0.9〜3.0%、
N:0.14%以下、
Al:0.008%未満、
O:0.004〜0.014%を含有し、
残部Feおよび不純物からなる化学成分を有し、
C+N/2:0.16%超0.70%以下であり、
かつ、1.0μm以上の炭窒化物が1600μm2中に10個以上であり、酸化物の平均直径サイズが1〜5μmであり、(a)式で示されるHv硬さであることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼。
Hv≦60C+170 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(a)
C:C含有量(質量%)
(2)前記Feの一部に替えて、更に質量%で、
Cu:1.5%以下、
W:1.5%以下、
Co:1.5%以下
B:0.01%以下、
Sn:0.3%以下、
Sb:0.3%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする(1)に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。
(3)前記Feの一部に替えて、更に質量%で、
Nb:0.1%以下、
Ti:0.1%以下、
V:0.2%以下、
Ta:0.2%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。
(4)前記Feの一部に替えて、更に質量%で、
Mg:0.01%以下、
Ca:0.01%以下、
Hf:0.01%以下、
REM:0.01%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかひとつに記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。
(5)酸化物の平均Mn濃度が5〜35質量%であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかひとつに記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。
軟化焼鈍処理として、
870℃よりも高く、C濃度と下記(b)式で表される炭化物の固溶温度:Tよりも20〜120℃低い温度範囲で1〜48hの熱処理を施し、引き続き平均60℃/h以下の冷却速度でTよりも250℃低い温度まで徐冷することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかひとつに記載のマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
log(C) = −6100/(T+273) + 4 ・・・・・(b)
(b)式で「C」はC濃度(質量%)、「T」は炭化物の固溶温度(℃)を意味する。
本発明の軟質による冷間加工性向上の効果は、製品の焼入れ処理後の硬さで500Hv以上になる高硬度・高耐食マルテンサイト系ステンレス鋼で著しく発揮される。最高焼入れで500Hv未満の鋼については従来の技術で冷間加工性を十分に確保でき本発明の効果が不明瞭になる。そのため、焼入れ硬さを支配するC,N,C+N/2の含有量を限定し、本発明の効果が明瞭な範囲を規定する。
本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼(軟化焼鈍後)の炭窒化物の分布は、マルテンサイト系ステンレス鋼の軟化焼鈍時の軟化挙動(軟化焼鈍後の軟質化特性)に影響を与える。軟化焼鈍後の鋼中の炭窒化物が微細分散していると、軟化焼鈍後の冷間加工において、転位や結晶粒界の動きをピンニングして冷間加工し難い。炭窒化物サイズは大きい方がよく、1600μm2中に1.0μm以上の炭窒化物個数が10個以上であれば、1.0μm未満の微細な炭窒化物が減少するため、Hv≦(60C+170)の軟質化特性が得られる。
炭窒化物サイズは大きい方がよく、1600μm2中に1μm以上のサイズの炭窒化物個数が10個以上で軟質化特性が得られている。好ましくは、1600μm2中に2μm以上のサイズ以上の炭窒化物が10個以上である。ここで炭窒化物サイズとは、炭窒化物の(長径+短径)/2を示す。
本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼(軟化焼鈍後)の凝固時に生成する2次脱酸生成物である酸化物のサイズは、マルテンサイト系ステンレス鋼の軟化焼鈍時の軟化挙動(軟化焼鈍後の軟質化特性)に影響を与え、この酸化物の平均直径サイズが1μm未満に微細化していると、軟化焼鈍後の冷間加工において、転位や結晶粒界の動きをピンニングして冷間加工し難く、Hv≦(60C+170)の軟質化特性も得られない。酸化物サイズが大きい方がよく、平均直径サイズが1μm以上であれば軟質化特性が得られる。一方、酸化物の平均直径サイズが5μm超になると冷間加工時の割れの起点となるため冷間加工性が劣化する。好ましくは2〜4μmである。ここで2次脱酸生成物である酸化物のサイズとは、2次脱酸生成物の(長径+短径)/2を示し、平均サイズとは任意にサンプリングした30個の平均値を示す。酸化物の評価において、1次脱酸生成物と2次脱酸生成物との区別は、溶鋼中で生成する15μm超のサイズの粗大なものを1次脱酸生成物と判定し、15μm以下のサイズを凝固中に全面に晶出する2次脱酸生成物として判定する。
以上詳述したように、公知技術よりも軟質化して複雑形状へ冷間加工して効果が著しく発揮されるためには、本発明のステンレス鋼(軟化焼鈍後)のHv硬さについて、下記(a)式で示されるHv硬さに限定する。更に、Hv≦(60C+160)のHv硬さになると、複雑形状の大型部品への冷間鍛造も可能となり、飛躍的に工業的・経済的な効果が大きくなるため、好ましくは、(60C+160)以下のHv硬さ以下である。
Hv≦60C+170 ・・・・・・・・・・・・・・・・(a)
C:C含有量(質量%)
脱酸生成物は熱間圧延時に分解・微細化するため軟化焼鈍時の素材の軟質化を抑制する。そのため、脱酸元素であるMn,Si量、さらにO量や凝固速度の調整によって脱酸生成物の組成を制御することで、脱酸生成物の熱間圧延時の分解・微細化を抑制でき、転位や結晶粒界をピン止めせずに冷間加工割れを誘発しないサイズに安定的に制御することができ、軟質化を促進することができるので好ましい。具体的には、酸化物の平均Mn濃度を5〜35質量%とすることにより、脱酸生成物を熱的に安定化して、熱間圧延時の1μm未満サイズへの分解・微細化の抑制に寄与する。
酸化物中の平均組成とは、非金属介在物中のS元素を除いてOを含めて質量%で換算して求めた値である。Mn含有の熱力学的に安定(熱間圧延時に分解して微細化しない)な脱酸生成物を生成させることにより、軟化焼鈍後の冷間加工時に、転位や結晶粒界の動きをピンニングし難くするので、軟化焼鈍時の軟質化促進に有効である。
本発明のステンレス鋼は、上述してきた元素以外は、Feおよび不純物からなる化学成分から構成される。さらに、前記成分組成に加え、Feの一部に替えて、選択的に以下に示す元素を含有しても良い。
REM(希土類元素)は、一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。単独で含有させてもよいし、混合物であってもよい。
また、任意添加元素について、代表的なものを上記(3)〜(5)で規定しているが、本明細書中に記載されていない元素であっても、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
次に、本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
第一に、軟化焼鈍処理条件について説明する。
前記のように、1.0μm以上の炭窒化物が1600μm2中に10個以上となる鋼として軟質化するためには、前記本発明の好適な鋼成分組成を有するとともに、軟化焼鈍処理として、870℃以上の高温で、かつ、(b)式で計算される炭化物の固溶温度:Tよりも20〜120℃低い温度範囲で1〜48hの保定熱処理を施し、引き続き平均60℃/h以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。保定熱処理時間が1hよりも短いと炭素窒化物サイズが微細となり、軟質化が期待できず、逆に48hよりも長いと効果は飽和するし、工業的に経済合理性を失う。そのため、保定熱処理時間を1〜48hに限定する。好ましい範囲は、2〜10hである。なお、(b)式でC量による炭化物の固溶温度を計算できる。
log(C)=―6100/(T+273)+4 ・・・・・(b)
(b)式で「C」はC濃度(質量%)、「T」は炭化物の固溶温度(℃)を意味する。
鋼中の微細な2次脱酸生成物である酸化物は凝固時に生成する。酸化物が熱力学的に不安定な場合、熱間圧延等の熱加工で分解・微細化が進み、軟化焼鈍時に転位や結晶粒界の動きをピンニングして軟化を阻害する。マルテンサイト系ステンレス鋼の場合、Mn,Si,O含有量の適正制御に加え、鋳造時の平均冷却速度を5〜500℃/sの範囲とすることにより、凝固時に生じる2次脱酸生成物の平均サイズが1μm以上5μm以下となって分解・微細化を抑制することによって軟質化することができる。一方、平均冷却速度が5℃/sよりも遅くなると脱酸生成物が5μmを超えて粗大化し、本発明の軟質化効果が不明瞭となるばかりか、冷間加工性も劣化する。一方、500℃/sよりも平均冷却速度が大きいと1μm未満への分解・微細化が進み、素材の軟質化を促進し難くなる。そのため、本発明で規定する軟質化し易い微細な熱力学的に安定な酸化物のサイズを得るには5〜500℃/sの平均冷却速度で凝固させることが必要になる。好ましくは10℃/s以上、400℃/s未満である。
150kgの真空溶解炉にて表1〜表3に示す化学組成の鋼を約1600℃で溶解した後、鋳型に鋳造した。なお、Al,Si,Mn等の脱酸元素添加量と脱酸元素の溶鋼への投入から鋳型への出鋼時間でO量を変化させた。鋳型として、各種サイズ(φ20〜φ250mm)、材質(鉄系,マグネシア系,シリカ系)のものを用いることにより、凝固時の平均冷却速度を変化させた。なお、凝固時の平均冷却速度は、同じ条件で溶解・凝固させたSUS304のサンプルの鋳片の断面の1/4部および中央部の2次デンドライトアーム間隔:λを測定し、その平均値で平均冷却速度(℃/s)=(110/λ)2.2を見積もった。
その後、1200℃加熱後に熱間鍛造して直径14mmの棒鋼に熱間加工し、常温まで空冷した。その後、軟化焼鈍を行うに際し、表4〜表6に示す各温度で5hの保定熱処理を施し、20℃/hで650℃まで徐冷した。そして、軟質化状況、冷間加工性および炭窒化物や微細酸化物の状態に及ぼす成分の影響について調査した。表4〜表6に製造条件および評価結果について示す。
また、任意に20個の酸化物を選定して組成分析を実施した。なお、熱間鍛造材についても同様に酸化物の組成分析を実施し、本焼入れ処理で酸化物の状態が変化していないことを確認している。EDS分析にてOとAl,Mn,Si,Fe,Cr,Ti等の組成が主体の非金属介在物を酸化物とし、Sを除いたものの合計を100%換算し、Mnの質量%を算出した。
高硬度特性については、冷間加工後にT+50℃の温度から空冷の焼き入れを行い、Hv硬さ評価を行った。Hv500以上であれば本発明の要件を具備している。実施例において、焼き入れ後にHv500未満の場合に表6の備考欄に「焼き入れ硬さ不足」と記載した。
耐食性特性については、冷間加工後にT+50℃の温度から空冷の焼き入れを行い、表面を#500研磨後にJISの中性塩水噴霧試験で24hの塩水噴霧で耐食性評価を行い、赤錆が発生しなければ良好な耐食性を具備している。実施例において、赤錆びが発生した場合(端部除く)に表6の備考欄に「耐食性不足」と記載した。
比較例1、3は凝固冷却速度が速く、比較例9はMnが過少であり、いずれも酸化物の平均直径サイズが過小であるため、Hvが高くなり、冷間加工性が不良であった。比較例2、4は凝固冷却速度が遅く、酸化物の平均直径サイズが過大であるため、冷間加工性が不良であった。
比較例6,8、(9、10)、13、17、21は、それぞれC、Si、Mn、Ni、Mo、C+N/2がの範囲が外れており、Hvが高くなり、冷間加工性が不良であった。加えて比較例6、8、17、21は炭窒化物の分散状態も不良であった。
比較例5はCが過少であり、比較例15はCrが過多であり、焼入れ硬さ不足となった。比較例14はCrが過少であり、比較例16はMoが過少であり、耐食性不足となった。
比較例7はSiが過少であり、比較例18、19はAlが過多であり、比較例22はOが過多であり、粗大な酸化物が形成されるとともに、冷間加工性が不良であった。
次に、軟化焼鈍材の製造方法の影響を調査した。前述で製造した本発明鋼Aの熱間鍛造材のφ14mm棒鋼(発明例3と同じ鋳造・鍛造条件)について、種々の条件で軟化焼鈍を施し、軟質化、冷間加工性および炭窒化物の状態に及ぼす製造方法の影響について調査した。なお、軟化焼鈍時には微細酸化物の状態は変化しないため本実施例では酸化物の調査は実施していない。表7に軟化焼鈍材の製造方法と調査結果を示す。
Claims (6)
- 質量%で、
C:0.15%超0.70%以下、
Si:0.1〜2.0%、
Mn:0.15〜1.5%、
S:0.01%未満、
P:0.05%以下、
Ni:1.5%以下、
Cr:10.5〜16.0%、
Mo:0.9〜3.0%、
N:0.14%以下、
Al:0.008%未満、
O:0.004〜0.014%を含有し、
残部Feおよび不純物からなる化学成分を有し、
C+N/2:0.16%超0.70%以下であり、
かつ、1.0μm以上の炭窒化物が1600μm2中に10個以上であり、酸化物の平均直径サイズが1〜5μmであり、(a)式で示されるHv硬さであることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼。
Hv≦60C+170 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(a)
C:C含有量(質量%) - 前記Feの一部に替えて、更に質量%で、
Cu:1.5%以下、
W:1.5%以下、
Co:1.5%以下
B:0.01%以下、
Sn:0.3%以下、
Sb:0.3%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。 - 前記Feの一部に替えて、更に質量%で、
Nb:0.1%以下、
Ti:0.1%以下、
V:0.2%以下、
Ta:0.2%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。 - 前記Feの一部に替えて、更に質量%で、
Mg:0.01%以下、
Ca:0.01%以下、
Hf:0.01%以下、
REM:0.01%以下の内、1種類以上を含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。 - 酸化物の平均Mn濃度が5〜35質量%であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。
- 鋳造時の凝固時の平均冷却速度が5〜500℃/sであり、
軟化焼鈍処理として、
870℃よりも高く、C濃度と下記(b)式で表される炭化物の固溶温度:Tよりも20
〜120℃低い温度範囲で1〜48hの熱処理を施し、引き続き平均60℃/h以下の冷却速度でTよりも250℃低い温度まで徐冷することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
log(C) = −6100/(T+273) + 4 ・・・・・(b)
(b)式で「C」はC濃度(質量%)、「T」は炭化物の固溶温度(℃)を意味する。
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