JP3945329B2 - エンジンの蒸発燃料処理装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、エンジンの蒸発燃料処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンは、エンジン停止中に燃料タンク内で発生した蒸発燃料をキャニスタ内の活性炭に一旦吸着させておき、エンジン始動後の所定の運転条件で吸入負圧を利用して活性炭に吸着した燃料を脱離させ、スロットルバルブ下流の吸気通路に導き燃焼処理する蒸発燃料処理装置を備えている。
【0003】
従来の蒸発燃料処理装置の一例として、本出願人が出願した特開2001−71562号公報に記載の技術がある。この技術は、キャニスタモデルを用いてパージの空燃比への影響を予測し、予め燃料噴射量を補正することによりパージ実施中の空燃比変動を抑制する技術である。
【0004】
【発明が解決しようとしている問題点】
しかしながら、上記従来技術においても、キャニスタを介さずに燃料タンクから直接吸気通路に流入する蒸発燃料(以下、脱離燃料と区別するため通過燃料という。)が発生している場合にはパージ実施中の空燃比変動が抑制できない。これは影響予測が通過燃料について考慮されていないためである。そのため、通過燃料の発生の有無を検出し、通過燃料が発生している場合には、蒸発燃料の処理方法を切り換える必要がある。
【0005】
そこで本発明は、上記従来の蒸発燃料処理装置におけるこのような技術的課題を鑑みてなされたものであり、蒸発燃料処理時にキャニスタを通過せずに吸気通路に流入するしてくる通過燃料の発生を検出することを目的とする。
【0006】
【問題点を解決するための手段】
本発明は、燃料タンクで発生する蒸発燃料の一部を吸着するキャニスタと、このキャニスタとエンジンの吸気通路を接続する通路と、少なくとも、(a)前記キャニスタに吸着されている燃料量の前回値及び前記キャニスタから脱離する燃料量の前回値に基づき前記キャニスタに吸着されている燃料量を演算する吸着量演算式と、(b)前記吸着量演算式によって演算された吸着量と、目標パージ率とに基づき前記キャニスタから脱離する燃料量を演算する脱離量演算式と、で構成されるキャニスタモデルと、前記キャニスタモデルを用いて演算される脱離燃料量に基づき前記燃料噴射量を補正する手段と、を備えたエンジンの蒸発燃料処理装置において、エンジンの空燃比をフィードバック制御する手段と、燃料タンクで発生する蒸発燃料のうち、前記キャニスタに吸着されずに直接的に前記エンジンの吸気通路に導入される通過燃料の有無を判定する手段を備え、前記判定手段は、パージエアの燃料のうち、脱離燃料分の空燃比への影響は、予め補正されているため、通貨燃料分の影響のみが空燃比フィードバック係数に反映される仕組みを利用して、エンジンの所定の運転状態において目標空燃比と実空燃比との差に対応する空燃比フィードバック補正係数が所定値より小さいときに通過燃料有りと判定する。
【0007】
【発明の効果】
したがって、本発明に係る蒸発燃料処理装置においては、エンジンがアイドル運転時に空燃比フィードバック補正係数が所定値以下の場合には通過燃料有りと判定することにより、通過燃料の発生の有無を判定できる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
【0009】
図1は、本発明に係る蒸発燃料処理装置の全体構成を示したものである。
【0010】
この蒸発燃料処理装置はエンジン10の燃料タンク1内で発生する蒸発燃料を処理するためのものであり、キャニスタ4と、キャニスタ4と燃料タンク1を連通する配管2と、キャニスタ4とエンジン10のスロットルバルブ7下流の吸気通路8を連通する配管6とを備える。
【0011】
配管6には、キャニスタ4内の燃料吸着剤(活性炭)4aに吸着している燃料を脱離させるときに開かれるパージバルブ11が設けられる。また、キャニスタ4は大気解放口5を備え、この大気解放口5はドレンカットバルブ12によって開閉される。
【0012】
燃料タンク1で発生した蒸発燃料は、配管2を介してキャニスタ4に導かれ、燃料成分だけがキャニスタ4内の活性炭4aに吸着され、残りの空気は大気解放口5より外部に放出される。そして、この活性炭4aに吸着された燃料を処理するには、パージバルブ11を開き、スロットルバルブ7下流に発達する吸入負圧を利用して大気解放口5からキャニスタ4内に新気を導入する。これによって新気により活性炭4aに吸着されていた燃料が脱離し、新気とともに配管6を介してエンジン10の吸気通路8内に導入される。また燃料タンク内で蒸発した燃料がキャニスタを通過せずに直接吸気通路8に導入される通過燃料も存在する(以下、この脱離燃料と通過燃料とを吸気通路に導入する処理を「パージ処理」という。)。
【0013】
また、コントローラ21は、エアフローメータ等で検出された吸入空気量に応じて目標空燃比(通常は理論空燃比)を実現するのに必要な燃料量に対応するパルス幅でもって燃料噴射弁15を駆動する。このとき、コントローラ21は、排気通路17に取り付けられた酸素濃度センサ18によって燃焼後の空燃比を検出し、その目標空燃比とのずれに応じて燃料噴射量の補正を行う(以下、「空燃比フィードバック制御」という。)。空燃比フィードバック制御においては目標空燃比と酸素濃度センサ18によって検出された実空燃比とのずれが空燃比フィードバック補正係数αに反映される。
【0014】
また、パージ処理中、コントローラ21はエンジン燃焼安定性、排気エミッションを悪化させない範囲で可能な限り高い目標パージ率(吸入空気流量に対するパージ流量の比率)を設定し、その目標パージ率が実現されるようにパージバルブ11を駆動する。さらに、パージ処理を行っているときは、パージガス中の燃料及び空気がエンジンに供給されることになるので、そのパージ率及びパージ濃度に応じて燃料噴射量の補正を行い、エンジン10の空燃比が変動するのを抑える。
【0015】
以下、コントローラ21が行う制御の具体的な内容について説明する。
【0016】
図2は、コントローラ21が行うパージ処理の内容を示したフローチャートでありパージ実行時に繰り返し実行される。この処理により、パージ処理によってキャニスタ4からエンジン10に供給される燃料量に応じて燃料噴射量(燃料噴射パルス幅)が補正され、パージによる空燃比変動が抑えられる。
【0017】
これについて説明すると、まず、ステップS1では、キャニスタモデル(物理モデル)の内部変数である吸着量の値の校正処理が実行可能か否かが判定される。パージ以外の要因による空燃比外乱が小さく、かつパージによる空燃比フィードバック補正係数αへの影響が比較的大きい場合、すなわち空燃比フィードバック補正係数αの目標値からのずれがほぼ全てパージによる影響とみなすことができる場合に校正処理実行可能と判断される。
【0018】
具体的には、図3に示す、「定常条件」、「パージバルブ精度条件」、「パージ影響度条件」全てが成立した場合に校正処理実行可能と判断され、これらの条件のうち一つでも成立していないと校正処理実行不可と判断される。
【0019】
図3に示すように、「定常条件」としては、失火条件(エンジン10が失火を起こしていないこと)、燃料カット条件(エンジン10の燃料カットが行われていないこと)、ブローバイ条件(ブローバイガスがないこと)、EGR条件(排気還流率が一定であること)、スロットル開口面積及びエンジン回転速度条件(スロットル開口面積、エンジン回転速度が一定であること)、パージ率条件(パージ率が一定であること)といった条件が設定されている。そして、これらの条件が全て成立し、パージ以外の空燃比外乱が小さいと判断された場合に定常条件成立と判断される。
【0020】
また、「パージバルブ精度条件」としてはパージ流量条件(パージ流量が所定量以上であること)が設定されている。パージ流量が少ないときはパージ流量の制御精度が落ち、後述する校正処理における演算精度が落ちることから、パージ流量が所定量よりも小さい場合にはパージバルブ精度条件不成立と判断される。
【0021】
また、「パージ影響度条件」としては、パージ成立条件(パージが行われていること)、パージ濃度条件(パージガスの濃度が所定濃度より濃い、例えば、パージ率1%当たりのα変化量が1%以上)、パージ率条件(パージ率が所定値以上、例えば、パージ率が3%以上)が設定されている。これらの条件がすべて成立し、パージによる空燃比への影響が比較的大きいと判断された場合にパージ影響度条件成立と判断される。
【0022】
この様にしてステップS1で校正処理が実行可能と判断されれば、ステップS3へ進んで校正処理が実行される。校正処理では、空燃比フィードバック補正係数αの変化からキャニスタ4からの脱離した燃料量を推定し、さらに推定した脱離量から逆演算によってキャニスタ4に吸着していた燃料量を演算し、キャニスタモデルの内部変数である吸着量の値をこの逆演算によって求めた吸着量の値に校正する(詳しくは後述する。)。
【0023】
一方、ステップS1で校正処理実行不可と判断された場合はステップS2へ進み、ステップS2では過去に校正処理を実行したことがあるかが判定される。このような判定を行うのは、校正処理を一度も行ったことがない場合はキャニスタモデルを動作させるのに必要な初期値(初期吸着量)がまだ存在しないので、そのような場合はキャニスタモデルに基づくパージ処理を行わないようにするためである。判定の結果、過去に校正処理を一度でも行っていればステップS4へ進み、一度も校正処理を行っていない場合は本ルーチンを終了する。
【0024】
なお、一度も校正処理を行っていない場合はパージが行われないというわけではなく、後述するキャニスタモデルを用いないパージ処理によってパージ処理が実行される。
【0025】
ステップS4ではキャニスタモデルを用いてキャニスタ4からの脱離量が演算される。具体的には、図10に示すフローに従って、キャニスタ4から脱離してくる燃料の量が演算される(詳しくは後述する。)。
【0026】
ステップS5では脱離量と吸入空気流量に基づきパージ分補正係数FHOSが演算される。パージ分補正係数FHOSは、キャニスタモデルにより演算された脱離量がエンジン10に供給されることにより予想される空燃比変動(空燃比フィードバック補正係数αの変化)に対応して演算される。具体的には、例えば、キャニスタ4からの脱離量が多くなってエンジン10に供給される燃料量が多くなると、エンジン10の空燃比はリッチ側にシフトし、これを元に戻そうと空燃比フィードバック補正係数αは小側に変化すると予想されることから、これに対応して予め燃料噴射量が減らされるようにパージ分補正係数FHOSとして小さな値が演算される。演算された補正係数FHOSはコントローラ21内の所定のデータ格納場所(図8参照)に順次格納される。
【0027】
ステップS6では燃料噴射パルス幅(燃料噴射弁駆動パルス幅)Tiが演算される。具体的には、次式(1)、
Ti=Tion×FHOS×α×K+TB ・・・(1)
Tion:基準パルス幅
FHOS:パージ分補正係数(遅れなまし処理後の値)
α:空燃比フィードバック補正係数
K:燃料噴射弁係数
TB:燃料噴射弁無効パルス幅
により、基準パルス幅Tionを空燃比フィードバック補正係数α、パージ分補正係数FHOSによって補正し、燃料噴射弁15の噴射パルス幅Tiが演算される。ここで基準パルス幅Tionは目標とする空燃比が実現されるように吸入空気流量、気筒数等に応じて設定される。また、空燃比フィードバック補正係数αは目標空燃比と酸素濃度センサ18によって検出された空燃比が一致しているときに100%(=1)に設定されるが、検出された空燃比が目標空燃比よりも濃いときに100%よりも小さな値、検出された空燃比が目標空燃比よりも薄いときに100%よりも大きな値に設定され、実空燃比を目標空燃比に近づけるように燃料噴射量が補正される。また、燃料噴射弁無効パルス幅TBは、燃料噴射弁15に駆動電圧が印加されて弁が開かれ、燃料が噴射されるまでの動作遅れを補正するためのものである。
【0028】
次に、上記ステップS3で行われる校正処理の内容について具体的に説明する。図4はその校正処理の内容を示したフローチャートである。
【0029】
これについて説明すると、まず、ステップS11ではパージ実行中かどうかが判定される。このようにパージ実行中かどうかを判定するのは、後に続くステップS12、S13における演算処理がパージ実行中であることを前提としているので、パージ非実行時にこれらの処理を行ってしまうと正しい校正ができなくなるからである。したがって、実行中でないと判定されれば本ルーチンを終了し、校正処理は行われない。
【0030】
パージ実行中であると判定されると次のステップS12へ進み、吸入空気流量と吸気温度等から求まる吸入空気重量、パージ率、パージ分補正係数FHOS、空燃比フィードバック補正係数αから次式(2)、
Dg=K1×(1−DLT+K2×PR)×Qg ・・・(2)
Dg:脱離量
DLT:全空燃比偏差(=α×FHOS/100−100%)
PR:パージ率
K1:係数(脱離燃料の性質により決まる定数)
K2:係数(空気の性質により決まる定数)
Qg:吸入空気重量
により脱離量(質量)が演算される。この式(2)は、基準値に対する空燃比のずれ(右辺第1項及び第2項)と、そのときのパージ率(右辺第3項)及び吸入空気重量からキャニスタ4からの脱離する燃料量を演算する式である。すなわち、基準値に対する空燃比フィードバック補正係数αのずれをすべてパージによるものとみなし、空燃比のずれから脱離量が推定される。
【0031】
そして、ステップS13では、ステップS12で演算した脱離量とパージ流量から次式(3)、
Yr=KD×Dg^(1/n(T)) ・・・(3)
n(T):脱離指数
KD:脱離係数
T:活性炭温度
により、キャニスタ4の吸着量Yr(質量)が演算される。この式(3)は後述するキャニスタモデルを構成する式の一つである式(5)の逆演算である。なお、数式において符号^はべき乗を示す。
【0032】
さらに、図2のステップS4におけるキャニスタモデルを用いた脱離量の演算処理の内容を図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0033】
これよると、まず、ステップS21では、図2のステップS3の校正処理判定結果を参照し、校正処理可能であればステップS22へ進み、実行不可であればステップS23へと進む。
【0034】
ステップS22では、図4で示した校正処理で算出した吸着量を読み込み、キャニスタモデルの吸着量と置き換え、ステップS24に進む。またステップS23では、過去の吸着量と脱離量のデータから、次式(4)によりキャニスタに吸着されている燃料量の今回値Yが演算される。
【0035】
[吸着量演算式]
Y=Yz−Dgz ・・・(4)
Yz:吸着量の前回値
Dgz:脱離量の前回値
この吸着量演算式は、吸着量の前回値Yzから前回脱離した量Dgzを差し引いて現在の吸着量Y(質量)を演算するものである。但し、図9に示した校正処理が実行された場合は、式(4)の演算は行われず、あるいは式(4)で演算された値は無視され、以後の演算では上記校正処理によって演算された吸着量Yrが吸着量Yとして用いられる。
【0036】
続くステップS24では次式(5)により基準パージ流量時の脱離量Dgkが演算される。
【0037】
[基準パージ流量での脱離量演算式]
Dgk=(Y/A)^n(T) ・・・(5)
Y:吸着量
A:脱離定数
n(T):脱離指数
T:活性炭温度
この式(5)は吸着脱離現象(フロイントリッヒ(Freundlichの式)の考え方をキャニスタ脱離現象に応用したものであり、これによってキャニスタ4からの燃料脱離特性をほぼ正確に表現することができる。なお、フロイントリッヒの式に関しては「表面における理論II」(丸善、塚田著)の25頁から27頁、108頁から115頁に記載がある。
【0038】
ステップS25では次式(6)より脱離量が演算される。
【0039】
[パージ流量に応じた脱離量演算式]
Dg=K×PQ×Dgk ・・・(6)
K:定数
PQ:パージ流量(=パージ率×吸入空気流量)
Dgk:基準流量時脱離量
このパージ流量に応じた脱離量演算式(6)は、パージ流量と脱離量がほぼ比例することから、直線近似により脱離量Dgを演算するものである。なお、ここでは式(5)によって基準流量時の脱離量を求め、式(6)でこれにパージ流量を掛けることによって脱離量を演算しているが、式(5)、(6)を一つの式にまとめてもよい。
【0040】
ステップS26では次式(7)により活性炭温度Tが演算される。
【0041】
[活性炭温度演算式]
t=Tz−Kt1×(Yz2−Yz)+Kt2×(Tz−Ta) ・・・(7)
Tz:活性炭温度の前回値
Kt1:吸熱分係数
Yz2:吸着量の前々回値
Yz:吸着量の前回値
Kt2:熱伝達分係数
Ta:キャニスタ雰囲気温度
この活性炭温度演算式は、過去の温度(右辺第1項)と、脱離による温度低下分(右辺第2項)と、熱伝達による温度上昇分(右辺第3項)とで構成される。このように活性炭温度Tを演算するのは、式(5)中の脱離指数n(T)が活性炭温度Tの影響を受け、特に、脱離量が多いときは活性炭温度Tの降下量が大きく、これがキャニスタ4における燃料の脱離特性に与える影響を無視することができないからである。
【0042】
これまでパージによる空燃比への影響分を考慮し、燃料噴射量を補正することについて説明したが、これまでの説明で明らかなようにパージ量についてはキャニスタからの脱離燃料のみを考慮してその影響を演算したため、キャニスタを通過せずに燃料タンクから直接に吸気通路に導入される蒸発燃料である通過燃料についての影響については考慮されていなかった。
【0043】
そこで本発明のポイントである通過燃料の発生の有無を判定する手法について以下、詳しく説明する。
【0044】
図1に示したパージシステムにおいて本発明の通過燃料の有無判定の方法は、アイドル時の空燃比フィードバック補正係数αの変動に基づき実施する。ここで空燃比フィードバック補正係数αの変動は、脱離燃料と通過燃料の影響により変動するものであるが、脱離燃料と通過燃料との分離が困難なために前述したように脱離燃料のみの影響に基づき空燃比への影響を判定していた。しかしながら本発明においては、キャニスタモデルにて予め脱離燃料分を考慮して燃料噴射量を補正しておくことで、通過燃料による空燃比への影響が空燃比フィードバック補正係数αの偏差として算出されるため、空燃比フィードバック補正係数αを検出することにより、通過燃料の有無を判定することができる。
【0045】
また空燃比フィードバック補正係数αに偏差を生じる要因としては、蒸発燃料(パージ)以外の要因でも変動する。パージ以外の要因での空燃比フィードバック補正係数αの変動を検出するためにパージカット前後で空燃比フィードバック補正係数αの偏差を算出し、算出された偏差に基づいて通過燃料の有無を判定することで、他の要因による空燃比変動か否かを判定し、より精度よく通過燃料の有無を判定することができる。
【0046】
図6のフローチャートは、キャニスタモデルにて予め脱離燃料分を考慮して燃料噴射量を補正しておく場合の通過燃料の有無を判定するコントローラ21が行う制御内容を示す。この演算ルーチンは、一定時間毎(例えば、10msec)に実施される。
【0047】
まずステップS31で、過去のキャニスタモデルの校正処理の有無を判定し、過去に校正処理が実施された場合にはステップS32に進み、実施されたことがない場合には制御を終える。
【0048】
次にステップS32でエンジンの運転状態を判定する。アイドル状態であれば通過燃料判定可能として、ステップS33に進み、アイドル状態でない場合にはステップS38に進む。
【0049】
ステップS33では、空燃比フィードバック補正係数αを検出し、補正係数αが所定値以下の場合にステップS34に進み、所定値より大きい場合にはステップS38に進む。
【0050】
ステップS34では、空燃比フィードバック補正係数αが所定値以下の場合にカウントアップするカウンタを1だけ増加させてステップS35に進み、ステップS35では、カウンタ数を確認し、所定カウンタ数以上であれば、ステップS36に進み、所定カウンタ数未満であれば制御を終了する。カウンタ数を判定することで、補正係数αが所定値以下の状態となる期間が所定時間維持されていることを検出でき、通過燃料の有無を判定することができる。
【0051】
ステップS36ではカウンタ数をクリアしてステップS37に進み、ステップS37で、通過燃料有りと判定し、制御を終了する。
【0052】
ステップS38では、カウンタ数をクリアして制御を終了する。
【0053】
以上の制御内容を時系列的に記載したものが図7のタイミングチャートである。説明すると、時刻t1でエンジンの運転状態がアイドル運転であることが判定されてアイドルスイッチがオンに切り替わる(ステップS32)。このタイミングから空燃比フィードバック補正係数αは100%から減少を開始し、時刻t2で所定値に達し、空燃比フィードバック補正係数αのカウンタ数のカウントが開始される。
【0054】
そして時刻t3でカウンタ数が所定カウンタ数に達したなら、パージ率を低下して空燃比フィードバック補正係数αを増大させるとともに、カウンタ数をクリアし、通過燃料判定結果として通過燃料有りの判定を下す。
【0055】
このように、キャニスタモデルを用いて演算された脱離燃料量に基づいて空燃比補正を行うシステムにおいて、エンジンがアイドル運転時に空燃比フィードバック補正係数が所定値以下の場合には通過燃料有りと判定することにより、通過燃料の影響を直接的に判定に用いることができるため、高精度の判定を行うことができる。また、燃料タンク内に燃料温度センサを設置する必要がなく、システムの低価格化を図ることができる。
【0056】
図8に示すフローチャートは、空燃比変動が通過燃料によるものか他の要因によるものかを判定するためのコントローラ21が実施するフローチャートである。
【0057】
まずステップS41で、過去のキャニスタモデルの校正処理の有無を判定し、過去に校正処理が実施された場合にはステップS42に進み、実施されたことがない場合には制御を終える。
【0058】
ステップS42でエンジンの運転状態を判定し、アイドル状態であれば、ステップS43に進み、アイドル状態でない場合にはステップS58に進む。ステップS43でパージカットフラグの状態を判定する。フラグが立っている場合にはステップS44に進み、空燃比の判定を行い、フラグが立っていない場合にはステップS51に進む。
【0059】
ステップS44では空燃比が所定範囲内にあるか否かを判定し、範囲内にあるときにステップS45に進み、空燃比用のカウンタのカウンタ数を1アップする。一方、空燃比が所定範囲内にない場合にはステップS57に進み、空燃比用のカウンタ数をクリアして制御を終える。
【0060】
ステップS45に続くステップS46では、空燃比用のカウンタ数が所定カウンタ数以上か否かを判定し、所定値以上の場合にはステップS47に進み、パージカットフラグをクリアする。一方、カウンタ数が所定カウンタ数未満の場合には、そのまま制御を終了する。
【0061】
ステップS48では、空燃比用のカウンタ数をクリアし、ステップS49でパージカット時の空燃比フィードバック補正係数αと現時点(パージ制御時)の空燃比フィードバック補正係数αとの差を算出し、その差が所定値以上か否かを判定する。条件が成立する場合にはステップS50に進み、不成立の場合にはステップS58に進む。
【0062】
ステップS50では、通過燃料有りの判定を行い、制御を終了する。
【0063】
一方、エンジンの運転条件がアイドル状態に無い場合(ステップS42)、あるいはパージカット時とパージ時との空燃比フィードバック補正係数αの差が所定値未満の場合(ステップS49)に進むステップS58では、空燃比用のカウンタ数をクリアし、ステップS59で空燃比フィードバック補正係数αのカウンタ数をクリアし、さらにステップS60でパージカットフラグをクリアして制御を終える。
【0064】
またステップS43でパージカットフラグが設定されていない場合にはステップS51に進み、空燃比フィードバック補正係数αが所定値以下かどうかを判定し、以下の場合にはステップS52に進み、大きい場合にはステップS56に進む。
【0065】
ステップS52では、空燃比フィードバック補正係数αのカウンタ数を1アップし、続くステップS53でカウンタ数が所定値以上かどうかを判定する。所定値以上の場合には続いてステップS54に進み、所定値未満の場合には制御を終了する。
【0066】
ステップS54では、パージカット時の空燃比フィードバック補正係数αをストアし、続くステップS55では、パージカットフラグを立てる。さらにステップS56では、空燃比フィードバック補正係数α用のカウンタ数をクリアして制御を終える。
【0067】
以上の制御内容のうち、ステップS42からステップS50を時系列的に記載したものが図9のタイミングチャートである。説明すると、時刻t1でエンジンの運転状態がアイドル運転であることが判定されてアイドルスイッチがオンに切り替わる(ステップS42)。
【0068】
そして時刻t4でパージカットプラグの状態を判定し、このプラグが立っており(パージ中止状態)、空燃比が所定範囲内にある場合(ステップS43、S44)、空燃比用のカウンタのカウント数を1アップする(ステップS45)。
【0069】
カウント数が所定値以上になったら(時刻t5)、パージカットプラグをクリアし(パージ開始)、パージカット前後での空燃比フィードバック補正係数αの差Δαを算出し、差Δαが所定値以上のとき蒸発燃料有りの判定を行う。
【0070】
このように、キャニスタモデルを用いて演算された脱離燃料量に基づいて空燃比補正を行うシステムにおいて、エンジンがアイドル運転時で空燃比フィードバック補正係数αが所定値以下の場合に、空燃比フィードバック補正係数αのパージ前後の変化を算出し、変化量が所定値以上の場合に通過燃料有りと判定することにより、通過燃料の影響を直接的に判定に用いることができるため、高精度の判定を行うことができる。またパージカット前後での空燃比フィードバック補正係数αの変化を検出することで、空燃比フィードバック補正係数αを変動するパージ以外の要因があっても正確に通過燃料の有無を判定することができる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記実施形態の構成は本発明が適用される構成の一例を示したものであり、本発明の範囲を上記構成に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る蒸発燃料処理装置のシステム構成図である。
【図2】キャニスターモデルの全体フローチャートである。
【図3】キャニスターモデルの校正タイミング判定の条件概要図である。
【図4】キャニスターモデルの校正処理のフローチャートである。
【図5】キャニスターモデルの蒸発燃料脱離量演算のフローチャートである。
【図6】通過燃料の有無判定のフローチャートである。
【図7】同じくそのタイミングチャートである。
【図8】第2の実施形態の通過燃料の有無判定のフローチャートである。
【図9】同じくそのタイミングチャートである。
【符号の説明】
1 燃料タンク
2 配管
4 キャニスタ
6 配管
8 吸気通路
9 エアフローメータ
10 エンジン
11 パージバルブ
15 燃料噴射弁
17 排気通路
18 空燃比センサ
21 コントローラ
Claims (3)
- 燃料タンクで発生する蒸発燃料の一部を吸着するキャニスタと、
このキャニスタとエンジンの吸気通路を接続する通路と、
少なくとも、
(a)前記キャニスタに吸着されている燃料量の前回値及び前記キャニスタから脱離する燃料量の前回値に基づき前記キャニスタに吸着されている燃料量を演算する吸着量演算式と、
(b)前記吸着量演算式によって演算された吸着量と、目標パージ率とに基づき前記キャニスタから脱離する燃料量を演算する脱離量演算式と、
で構成されるキャニスタモデルと、
前記キャニスタモデルを用いて演算される脱離燃料量に基づき前記燃料噴射量を補正する手段と、
を備えたエンジンの蒸発燃料処理装置において、
エンジンの空燃比をフィードバック制御する手段と、
燃料タンクで発生する蒸発燃料のうち、前記キャニスタに吸着されずに直接的に前記エンジンの吸気通路に導入される通過燃料の有無を判定する手段を備え、
前記判定手段は、エンジンの所定の運転状態において目標空燃比と実空燃比との差に対応する空燃比フィードバック補正係数が所定値より小さいときに通過燃料有りと判定することを特徴とするエンジンの蒸発燃料処理装置。 - 燃料タンクで発生する蒸発燃料の一部を吸着するキャニスタと、
このキャニスタとエンジンの吸気通路を接続する通路と、
少なくとも、
(a)前記キャニスタに吸着されている燃料量の前回値及び前記キャニスタから脱離する燃料量の前回値に基づき前記キャニスタに吸着されている燃料量を演算する吸着量演算式と、
(b)前記吸着量演算式によって演算された吸着量と、目標パージ率とに基づき前記キャニスタから脱離する燃料量を演算する脱離量演算式と、
で構成されるキャニスタモデルと、
前記キャニスタモデルを用いて演算される脱離燃料量に基づき前記燃料噴射量を補正する手段と、
を備えたエンジンの蒸発燃料処理装置において、
エンジンの空燃比をフィードバック制御する手段と、
燃料タンクで発生する蒸発燃料のうち、前記キャニスタに吸着されずに直接的に前記エンジンの吸気通路に導入される通過燃料の有無を判定する手段を備え、
前記燃料判定手段は、エンジンの所定の運転状態において目標空燃比と実空燃比との差に対応する空燃比フィードバック補正係数が所定値より小さい場合に、蒸発燃料供給前後の空燃比フィードバック補正係数の差が所定値以上のときに通過燃料有りと判定することを特徴とする請求項1に記載の蒸発燃料処理装置。 - 前記エンジンの所定運転状態は、アイドル状態であることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸発燃料処理装置。
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