JP3675345B2 - エンジンの蒸発燃料処理装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、エンジンの蒸発燃料処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンは、エンジン停止中に燃料タンク内で発生した蒸発燃料をキャニスタ内の活性炭に一旦吸着させておき、エンジン始動後の所定の運転条件で吸入負圧を利用して活性炭に吸着した燃料を脱離させ、スロットルバルブ下流の吸気管に導き燃焼処理する蒸発燃料処理装置を備えている。
【0003】
特開平6-264832には、このような蒸発燃料処理装置において、効率的なパージ率設定を行い大量のパージ流量を確保する手段として、積算パージ流量に応じてパージ率を設定する技術が開示されている。具体的には、パージ流量の積算値の増加に従い、パージ流量と吸入空気流量との比であるパージ率を増加させることでキャニスタの吸着状態に応じたパージ率を設定する技術が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとしている問題点】
しかしながら、上記従来技術においては、パージによる蒸発燃料の過供給を防止するため、積算パージ流量に対するパージ率は、キャニスタにその最大容量まで燃料が吸着されている状態(フルチャージ状態)での最適値を設定していた。そのため、キャニスタがフルチャージ状態となっているときは最適なパージ率を設定可能であるが、キャニスタの吸着量が少ない場合には最適なパージ率を設定できないという問題があった。例えば、キャニスタ吸着量が少ない場合は、実際にはもっと大きなパージ率を設定できるにもかかわらず、上記従来技術ではフルチャージの状態を基準とした小さなパージ率が設定されていた。また、積算パージ流量に対して常に決まったパージ率を設定するため、想定していた以上の濃度のパージが供給された場合には対応することができなかった。
【0005】
本発明は、上記従来の蒸発燃料処理装置の技術的課題を鑑みてなされたもので、蒸発燃料処理装置において、エンジンの燃焼安定性、排気エミッションを悪化させずに、大量のパージを行う上で最良のパージ率を設定できるようにすることを目的とする。
【0006】
【問題点を解決するための手段】
第1の発明は、エンジンの蒸発燃料処理装置において、燃料タンクで発生する蒸発燃料を吸着するキャニスタと、前記キャニスタとエンジンの吸気通路とを連通する配管を開閉するパージバルブと、現在の運転条件での最大パージ率を設定する手段と、パージガスの空燃比と、パージ率が変化することにより生じるエンジンの空燃比変動とに基づきパージ率の変化量制限値を設定する手段と、前記パージ率変化量制限値以下の変化量で前記最大パージ率に追従する目標パージ率を演算する手段と、パージ率が前記目標パージ率となるように前記パージバルブを駆動する手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、最大パージ率を設定する手段が、前記パージバルブのサイズから規定されるパージ率上限値以下に前記最大パージ率を設定することを特徴とするものである。
【0008】
第3の発明は、第1または第2の発明において、最大パージ率を設定する手段が、燃料噴射弁の性能から規定されるパージ率上限値以下に前記最大パージ率を設定することを特徴とするものである。
【0009】
第4の発明は、第1から第3の発明において、最大パージ率を設定する手段が、現在の運転領域から移行しうる全ての運転領域を想定し、その想定された運転領域での最小パージ率を予測し、この最小パージ率と前記パージ率変化量制限値とから演算されるパージ率上限値以下に前記最大パージ率を設定することを特徴とするものである。
【0010】
第5の発明は、第1から第4の発明において、最大パージ率を設定する手段が、空燃比フィードバック補正係数が処理限界値以上になるように規定されるパージ率上限値以下に前記最大パージ率を設定することを特徴とするものである。
【0011】
第6の発明は、第1から第5の発明において、パージ率の変化量制限値を設定する手段が、パージ率が変化することによる空燃比変動が前記エンジンのエミッションを悪化させない範囲内に収まるように前記パージ率の変化量制限値を設定することを特徴とするものである。
【0012】
第7の発明は、第1から第6の発明において、
少なくとも、
(a) 前記キャニスタに吸着されている燃料量の前回値及び前記キャニスタから脱離する燃料量の前回値に基づき前記キャニスタに吸着されている燃料量を演算する吸着量演算式と、
(b) 前記吸着量演算式によって演算された吸着量と、前記目標パージ率とに基づき前記キャニスタから脱離する燃料量を演算する脱離量演算式と、
で構成されるキャニスタモデルと、
前記キャニスタモデルを用いて演算される脱離燃料量に基づき前記パージガスの空燃比を演算する手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0013】
第8の発明は、第7の発明において、吸入空気流量に基づき前記演算されたパージガスの空燃比の誤差を演算する手段と、前記演算されたパージガスの空燃比の誤差に基づき前記演算されたパージガスの空燃比を補正する手段とをさらに備えたことを特徴とするものである。
【0014】
第9の発明は、第7または第8の発明において、前記目標パージ率に基づき前記演算されたパージガスの空燃比の誤差を演算する手段と、前記演算されたパージガスの空燃比の誤差に基づき前記演算されたパージガスの空燃比を補正する手段とをさらに備えたことを特徴とするものである。
【0015】
【作用及び効果】
したがって、本発明に係る蒸発燃料処理装置においては、従来同様にキャニスタに吸着された蒸発燃料は吸気通路内の負圧を利用してエンジンに導入され処理されるのであるが、第1の発明によれば、パージ処理時の目標パージ率は、物理的な制限等によって決まる現在の運転条件下で可能な最大パージ率に、パージガスの空燃比(以下、パージ空燃比)等により決まるパージ率の変化量制限値以下の変化量で追従するように設定される。
【0016】
これにより、実現不可能な目標パージ率が設定されて目標パージ率と実際のパージ率がずれてしまい、エンジンの燃焼安定性や排気エミッションが悪化したり、あるいは、目標パージ率に追従することはできてもパージ率の変化量が大き過ぎて排気エミッション等を悪化させるといったことを防止でき、大量のパージを行う上で最良のパージ率を設定することが可能となる。
【0017】
ここで、最大パージ率を設定するにあたっては、パージバルブのサイズから規定されるパージ率上限値、燃料噴射弁の性能(最小燃料噴射パルス幅)から規定されるパージ率上限値、想定される最小パージ率とパージ率変化量制限値とから演算されるパージ率上限値、空燃比フィードバック補正係数が処理限界値以上になるように規定されるパージ率上限値が考慮される(第2から第5の発明)。
【0018】
パージバルブのサイズから規定されるパージ率上限値を考慮するのは、パージバルブの開度を最大としても実現不可能な目標パージ率が設定されてしまうと目標パージ率と実際のパージ率の間にずれが生じ、排気エミッションの悪化やエンジン燃焼安定性の悪化の原因となるからである。
【0019】
また、燃料噴射弁性能(最小燃料噴射パルス幅)から規定されるパージ率上限値を考慮するのは、パージ率を大きく設定するとパージ処理によってエンジンに供給される燃料量が増え、燃料噴射量(噴射パルス幅)はその分減少補正されるが、燃料噴射パルス幅は噴射精度確保のために規定される最小噴射パルス幅以下には小さくできないからである。
【0020】
また、想定される最小パージ率とパージ率変化量制限値とから演算されるパージ率上限値を考慮するのは、アクセル全開での急加速等の運転領域の急変を受けて目標パージ率が急激に減少した場合に、その変化の直前にあまり大きな目標パージ率が設定されていると新たに設定される小さな目標パージ率に遅れなく追従することができなくなるからである。パージ率の応答性はパージ率変化量制限値の大きさに応じて決まるので、想定される最小パージ率に遅れなく追従できるか否かは想定される最小パージ率とパージ率変化量制限値とに基づき判断される。
【0021】
また、空燃比フィードバック補正係数が所定値以上になるように規定されるパージ率上限値が考慮されるのは、空燃比フィードバック補正係数が前記所定値(例えば80%)近傍で制御されているような場合は、パージ以外の外乱を受けて空燃比フィードバック補正係数が制御範囲(例えば、αが100±25%内)から外れやすくなっているため、空燃比フィードバック補正係数を速やかに所定値以上に復帰させる必要があるからである。
【0022】
一方、パージ率の変化量制限値は、パージ率が変化することによる空燃比変動がエミッションを悪化させない所定範囲内(空燃比フィードバック制御により吸収可能な範囲内)に収まるように設定される(第6の発明)。したがって、目標パージ率の変化量がこの変化量制限値以下になるように目標パージ率を設定するようにすれば、パージ率の変化による空燃比変動は空燃比フィードバック制御で吸収され、排気エミッションの悪化は防止されることになる。
【0023】
また、パージガスの空燃比はHCセンサを用いて検出することもできるが、キャニスタモデルを用いて演算されるキャニスタからの脱離燃料量に基づきパージガスの空燃比を求めるようにすれば、目標パージ率を設定する際に用いるパージ空燃比を安価かつ正確に演算することができる(第7の発明)。
【0024】
さらに、演算されるパージ空燃比は、吸入空気流量が少なくなるほど、また、パージ率が小さくなるほど誤差が大きくなるので、吸入空気流量、パージ率に応じてパージ空燃比を補正するようにすればさらに正確なパージ空燃比を演算することが可能となる(第8、第9の発明)。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明に係る蒸発燃料処理装置の全体構成を示したものである。
【0027】
この蒸発燃料処理装置はエンジン10の燃料タンク1内で発生する蒸発燃料を処理するためのものであり、キャニスタ4と、キャニスタ4と燃料タンク1を連通する配管2と、キャニスタ4とエンジン10のスロットルバルブ7下流の吸気通路8を連通する配管6とを備える。
【0028】
配管2には、燃料タンク1側の通路内が大気圧よりも低くなると開かれるバキュームカットバルブ3と、バイパスバルブ14が並列に設けられており、配管6には、キャニスタ4内の燃料吸着剤(活性炭)4aに吸着している燃料を脱離させるときに開かれるパージバルブ11と、配管内の圧力を測定する圧力センサ13が設けられる。また、キャニスタ4は大気解放口5を備え、この大気解放口5はドレンカットバルブ12によって開閉される。
【0029】
燃料タンク1で発生した蒸発燃料は、配管2を介してキャニスタ4に導かれ、燃料成分だけがキャニスタ4内の活性炭4aに吸着され、残りの空気は大気解放口5より外部に放出される。そして、この活性炭4aに吸着された燃料を処理するには、パージバルブ11を開き、スロットルバルブ7下流に発達する吸入負圧を利用して大気解放口5からキャニスタ4内に新気を導入する。これによって新気により活性炭4aに吸着されていた燃料が脱離し、新気とともに配管6を介してエンジン10の吸気通路8内に導入される(以下、この処理を「パージ処理」という。)。
【0030】
また、コントローラ21は、エアフローメータ9で検出された吸入空気量に応じて目標空燃比(通常は理論空燃比)を実現するのに必要な燃料量に対応するパルス幅でもって燃料噴射弁15を駆動する。このとき、コントローラ21は、排気通路17に取り付けられた酸素濃度センサ18によって燃焼後の空燃比を検出し、その目標空燃比とのずれに応じて燃料噴射量の補正を行う(以下、「空燃比フィードバック制御」という。)。空燃比フィードバック制御においては目標空燃比と酸素濃度センサ18によって検出された実空燃比とのずれが空燃比フィードバック補正係数αに反映される。
【0031】
また、パージ処理中、コントローラ21はエンジン燃焼安定性、排気エミッションを悪化させない範囲で可能な限り高い目標パージ率(吸入空気流量に対するパージ流量の比率)を設定し、その目標パージ率が実現されるようにパージバルブ11を駆動する。さらに、パージ処理を行っているときは、パージガス中の燃料及び空気がエンジンに供給されることになるので、そのパージ率及びパージ濃度に応じて燃料噴射量の補正を行い、エンジン10の空燃比が変動するのを抑える。
【0032】
図2は、コントローラ21が行う制御のうちパージ制御に関連する部分の概要を示したブロック図である。
【0033】
各構成部分について説明すると、目標パージ率設定部B1はパージ制御に関連する部品の性能限界等に基づき現在の運転領域で設定可能な最大パージ率を演算し、この最大パージ率に追従するように目標パージ率を設定する。ただしパージ率の急激な変化は空燃比の変動を招き、エミッション悪化等の原因となるので、パージ率を急激に変化させないようにパージ率の変化量は所定量(パージ率変化量制限値)以下に制限される。また、デューティ比演算部B2はその目標パージ率を実現するために必要なパージバルブ11のデューティ比を演算する部分であり、パージバルブ駆動部B3はデューティ比演算部B2で演算されたデューティ比でもってパージバルブ11を駆動する部分である。
【0034】
一方、脱離量演算部B4は後述するキャニスタ4の物理モデル(以下、キャニスタモデル」という。)を用いて上記目標パージ率でパージを行った場合にキャニスタ4から脱離してくる燃料の量を演算する部分であり、パージ分補正係数演算部B5はこの推定された脱離量に基づきパージによる空燃比変動が縮小されるように燃料噴射パルス幅の補正係数FHOSを演算する部分である。遅れ補正部B6はこの補正係数FHOSに対して無駄時間補正及びなまし処理からなる遅れ補正を施し、燃料噴射パルス幅演算部B7は運転条件に応じて設定された燃料噴射パルス幅に対し前記遅れ補正後の補正係数FHOSに基づき燃料噴射パルス幅の補正を行う部分である。燃料噴射弁駆動部B8は遅れ補正後の燃料噴射パルス幅で燃料噴射弁15を駆動し燃料噴射を行う部分である。
【0035】
さらに、キャニスタモデルはキャニスタの脱離特性を高い精度で表現するものであるが、あくまで近似モデルであるため、これを用いて演算される値(脱離量、吸着量等)は実際の値から幾らかずれた値となる。また、キャニスタモデルは後述するように前回の演算結果を用いてキャニスタ4から新たに脱離してくる燃料量を演算するので、モデル動作時間が長くなるにつれて誤差が積分されて演算値と実際値とのずれが増大する。そこで、コントローラ21は、このずれを較正しモデルの演算精度を高く維持すべく、較正判定部B9によって較正処理実行可能と判定されると、キャニスタモデルの内部変数の一つであるキャニスタ4の吸着量の値を較正する(較正部B10)。
【0036】
具体的には、較正判定部B9は、空燃比変動(空燃比フィードバック制御により吸収され、空燃比フィードバック補正係数αの変動として現れる。)がほぼ全てパージによるものと見なすことができる条件が成立したときに較正処理実行可能と判定し、較正処理実行可能と判定されると、較正部B10はそのときの空燃比変動(空燃比フィードバック補正係数αの変動)からキャニスタ4からの燃料の脱離量を推定し、推定された脱離量から吸着量を逆算する。そして、この値でもってキャニスタモデルが持っている吸着量の値の較正を行う。
【0037】
以下、コントローラ21が行う制御の具体的な内容について説明する。
【0038】
図3は、コントローラ21が行うパージ処理(モデル規範パージ処理)の内容を示したフローチャートでありパージ実行時に繰り返し実行される。この処理により、パージ処理によってキャニスタ4からエンジン10に供給される燃料量に応じて燃料噴射量(燃料噴射パルス幅)が補正され、パージによる空燃比変動が抑えられる。
【0039】
これについて説明すると、まず、ステップS1では、キャニスタモデルの内部変数である吸着量の値の較正処理が実行可能か否かが判定される。パージ以外の要因による空燃比外乱が小さく、かつパージによる空燃比フィードバック補正係数αへの影響が比較的大きい場合、すなわち空燃比フィードバック補正係数αの目標値からのずれがほぼ全てパージによる影響とみなすことができる場合に較正処理実行可能と判断される。
【0040】
具体的には、図4に示す、「定常条件」、「パージバルブ精度条件」、「パージ影響度条件」全てが成立した場合に較正処理実行可能と判断され、これらの条件のうち一つでも成立していないと較正処理実行不可と判断される。この判定処理は図2中の較正判定部B9における処理に対応する。
【0041】
図4に示すように、「定常条件」としては、失火条件(エンジン10が失火を起こしていないこと)、燃料カット条件(エンジン10の燃料カットが行われていないこと)、ブローバイ条件(ブローバイガスがないこと)、EGR条件(排気還流率が一定であること)、スロットル開口面積及びエンジン回転速度条件(スロットル開口面積、エンジン回転速度が一定であること)、パージ率条件(パージ率が一定であること)といった条件が設定されている。そして、これらの条件が全て成立し、パージ以外の空燃比外乱が小さいと判断された場合に定常条件成立と判断される。
【0042】
また、「パージバルブ精度条件」としてはパージ流量条件(パージ流量が所定量以上であること)が設定されている。パージ流量が少ないときはパージ流量の制御精度が落ち、後述する較正処理における演算精度が落ちることから、パージ流量が所定量よりも小さい場合にはパージバルブ精度条件不成立と判断される。
【0043】
また、「パージ影響度条件」としては、パージ成立条件(パージが行われていること)、パージ濃度条件(パージガスの濃度が所定濃度より濃い、例えば、パージ率1%当たりのα変化量が1%以上)、パージ率条件(パージ率が所定値以上、例えば、パージ率が30%以上)が設定されている。これらの条件がすべて成立し、パージによる空燃比への影響が比較的大きいと判断された場合にパージ影響度条件成立と判断される。
【0044】
この様にしてステップS1で較正処理が実行可能と判断されれば、ステップS3へ進んで較正処理が実行される。較正処理では、空燃比フィードバック補正係数αの変化からキャニスタ4からの脱離した燃料量を推定し、さらに推定した脱離量から逆演算によってキャニスタ4に吸着していた燃料量を演算し、キャニスタモデルの内部変数である吸着量の値をこの逆演算によって求めた吸着量の値に較正する(詳しくは後述する。)。
【0045】
一方、ステップS1で較正処理実行不可と判断された場合はステップS2へ進み、ステップS2では過去に較正処理を実行したことがあるかが判定される。このような判定を行うのは、較正処理を一度も行ったことがない場合はキャニスタモデルを動作させるのに必要な初期値(初期吸着量)がまだ存在しないので、そのような場合はキャニスタモデルに基づくパージ処理を行わないようにするためである。判定の結果、過去に較正処理を一度でも行っていればステップS4へ進み、一度も較正処理を行っていない場合は本ルーチンを終了する。
【0046】
なお、一度も較正処理を行っていない場合はパージが行われないというわけではなく、後述するキャニスタモデルを用いないパージ処理(図15、ブートアップ制御)によってパージ処理が実行される。
【0047】
ステップS4ではキャニスタモデルを用いてキャニスタ4からの脱離量が演算される。具体的には、図10に示すフローに従って、キャニスタ4から脱離してくる燃料の量が演算される(詳しくは後述する。)。
【0048】
ステップS5では脱離量と吸入空気流量に基づきパージ分補正係数FHOSが演算される。パージ分補正係数FHOSは、キャニスタモデルにより演算された脱離量がエンジン10に供給されることにより予想される空燃比変動(空燃比フィードバック補正係数αの変化)に対応して演算される。具体的には、例えば、キャニスタ4からの脱離量が多くなってエンジン10に供給される燃料量が多くなると、エンジン10の空燃比はリッチ側にシフトし、これを元に戻そうと空燃比フィードバック補正係数αは小側に変化すると予想されることから、これに対応して予め燃料噴射量が減らされるようにパージ分補正係数FHOSとして小さな値が演算される。演算された補正係数FHOSはコントローラ21内の所定のデータ格納場所(図8参照)に順次格納される。
【0049】
ステップS6ではパージ分補正係数FHOSに対して無駄時間補正及びなまし処理で構成される遅れ補正が施される。無駄時間補正を行うのは、パージバルブ11が開かれてからパージガスがエンジン10のシリンダに到達するまでにはパージガスの移行速度及びパージバルブ11とエンジン10のシリンダ間の距離に応じた遅れがあるからであり、また、なまし処理を行うのはキャニスタ4から脱離した燃料がエンジン10のシリンダに到達するまでには燃料の拡散があるからである。
【0050】
図5は遅れ補正の内容を示したフローチャートであり、図2中の遅れ補正部B6における処理に対応する。
【0051】
これについて説明すると、ステップS21ではエアフローメータ9の出力から吸入空気流量を検出し、ステップS22、S23ではそれぞれ図6、図7に示すテーブルを参照して無駄時間及びなまし係数を求める。吸入空気流量が多くなるほど吸気流速は速くなるので無駄時間には小さな値が設定され、また、吸入空気流量が多くなって吸気流速が速くなると、脱離した燃料が拡散する速度も速くなることからなまし係数には大きな値が設定される。
【0052】
ステップS24では無駄時間からパージガスの移動速度相当値が演算される。このパージガス移動速度相当値はステップS22で求めた無駄時間の逆数として演算される。
【0053】
ステップS25では、パージバルブ11とエンジン10のシリンダの間の距離に相当するコントローラ21内のデータ格納場所(図8参照)に格納されているパージ分補正係数FHOSが読み込まれ、ステップS26で前記パージガスの移動速度相当値分だけデータがシリンダ側にシフトされる。ステップS27ではデータのシフトにより上記データ格納場所からオーバーフローしたデータの平均値が求められる。
【0054】
ステップS28では、ステップS27で求められたオーバーフローデータの平均値に対して、ステップS22で求めたなまし係数を用いてなまし処理が施される。なお、なまし処理は一般的な一次遅れ系によるなまし処理であり、なまし係数が小さくなるほどなましの度合いが大きくなる。
【0055】
図8はその遅れ補正における無駄時間補正の概要を示した図であり、図中黒丸、白丸はそれぞれ上記データシフト前のデータ、データシフト後のデータを示す。
【0056】
これに示すように、コントローラ21のメモリにはパージバルブ11からエンジン10のシリンダ間の距離に相当するデータ格納場所が用意されており、キャニスタ4から脱離する燃料量に応じて演算される補正係数FHOSが順次格納場所に格納される。上記無駄時間補正では、これらのデータがパージガスの移行速度相当分(無駄時間の逆数)だけシリンダ側にシフトされ、このデータシフトによりデータ格納場所からオーバーフローした分がシリンダ内に到達、供給されたパージガスに対応する補正係数とされる。そして、このオーバーフローしたデータの平均値に対してなまし処理を施した値が後述する燃料噴射パルス幅Tiの補正に用いられる。このように、無駄時間補正となまし処理を組み合わせることによりパージガスの到達遅れを正確に補正できる。
【0057】
図3に戻り、ステップS7では燃料噴射パルス幅(燃料噴射弁駆動パルス幅)Tiが演算される。具体的には、次式(1)、
Ti=Tion×FHOS×α×K+TB ・・・(1)
Tion:基準パルス幅
FHOS:パージ分補正係数(遅れなまし処理後の値)
α:空燃比フィードバック補正係数
K:燃料噴射弁係数
TB:燃料噴射弁無効パルス幅
により、基準パルス幅Tionを空燃比フィードバック補正係数α、パージ分補正係数FHOSによって補正し、燃料噴射弁15の噴射パルス幅Tiが演算される。ここで基準パルス幅Tionは目標とする空燃比が実現されるように吸入空気流量、気筒数等に応じて設定される。また、空燃比フィードバック補正係数αは目標空燃比と酸素濃度センサ18によって検出された空燃比が一致しているときに100%(=1)に設定されるが、検出された空燃比が目標空燃比よりも濃いときに100%よりも小さな値、検出された空燃比が目標空燃比よりも薄いときに100%よりも大きな値に設定され、実空燃比を目標空燃比に近づけるように燃料噴射量が補正される。また、燃料噴射弁無効パルス幅TBは、燃料噴射弁15に駆動電圧が印加されて弁が開かれ、燃料が噴射されるまでの動作遅れを補正するためのものである。
【0058】
次に、上記ステップS3で行われる較正処理の内容について具体的に説明する。図9はその較正処理の内容を示したフローチャートであり、図2中の較正部B9における処理に対応する。
【0059】
これについて説明すると、まず、ステップS31ではパージ実行中かどうかが判定される。このようにパージ実行中かどうかを判定するのは、後に続くステップS32、S33における演算処理がパージ実行中であることを前提としているので、パージ非実行時にこれらの処理を行ってしまうと正しい較正ができなくなるからである。したがって、実行中でないと判定されれば本ルーチンを終了し較正処理は行われない。
【0060】
パージ実行中であると判定されると次のステップS32へ進み、吸入空気流量と吸気温度等から求まる吸入空気重量、パージ率、パージ分補正係数FHOS、空燃比フィードバック補正係数αから次式(2)、
Dg=K1×(1−DLT+K2×PR)×Qg ・・・(2)
Dg:脱離量
DLT:全空燃比偏差(=α×FHOS/100−100%)
PR:パージ率
K1:係数(脱離燃料の性質により決まる定数)
K2:係数(空気の性質により決まる定数)
Qg:吸入空気重量
により脱離量(質量)が演算される。この式(2)は、基準値に対する空燃比のずれ(右辺第1項及び第2項)と、そのときのパージ率(右辺第3項)及び吸入空気重量からキャニスタ4からの脱離する燃料量を演算する式である。すなわち、基準値に対する空燃比フィードバック補正係数αのずれをすべてパージによるものとみなし、空燃比のずれから脱離量が推定される。
【0061】
そして、ステップS33では、ステップS32で演算した脱離量とパージ流量から次式(3)、
Yr=KD×Dg^(1/n(T)) ・・・(3)
n(T):脱離指数
KD:脱離係数
T:活性炭温度
により、キャニスタ4の吸着量Yr(質量)が演算される。この式(3)は後述するキャニスタモデルを構成する式の一つである式(5)の逆演算である。
【0062】
ステップS34では、キャニスタモデルに基づき脱離量を演算する際に使用する吸着量の値YをステップS33で演算した吸着量Yrに置き換える。これにより、キャニスタモデルで用いる吸着量の値を正しい値に較正することができ、以後の脱離量の演算精度を向上させることできる。
【0063】
さらに、図3のステップS4におけるキャニスタモデルを用いた脱離量の演算処理の内容を図10に示すフローチャートを参照しながら説明する。この処理は図2の脱離量演算部B4における処理に相当する。
【0064】
これよると、まず、ステップS41では、次式(4)によりキャニスタに吸着されている燃料量の今回値Yが演算される。
【0065】
[吸着量演算式]
Y=Yz−Dgz ・・・(4)
Yz:吸着量の前回値
Dgz:脱離量の前回値
この吸着量演算式は、吸着量の前回値Yzから前回脱離した量Dgzを差し引いて現在の吸着量Y(質量)を演算するものである。但し、図9に示した較正処理が実行された場合は、式(4)の演算は行われず、あるいは式(4)で演算された値は無視され、以後の演算では上記較正処理によって演算された吸着量Yrが吸着量Yとして用いられる。
【0066】
ステップS42では次式(5)により基準パージ流量時の脱離量Dgkが演算される。
【0067】
[基準パージ流量での脱離量演算式]
Dgk=(Y/A)^n(T) ・・・(5)
Y:吸着量
A:脱離定数
n(T):脱離指数
T:活性炭温度
この式(5)は吸着脱離現象(フロイントリッヒ(Freundlich)の式)の考え方をキャニスタ脱離現象に応用したものであり、これによってキャニスタ4からの燃料脱離特性をほぼ正確に表現することができる。なお、フロイントリッヒの式に関しては「表面における理論II」(丸善、塚田著)のp.25-p.27、p.108-p115に記載がある。
【0068】
ステップS43では次式(6)より脱離量が演算される。
【0069】
[パージ流量に応じた脱離量演算式]
Dg=k×PQ×Dgk ・・・(6)
K:定数
PQ:パージ流量(=パージ率×吸入空気流量)
Dgk:基準流量時脱離量
このパージ流量に応じた脱離量演算式(6)は、パージ流量と脱離量がほぼ比例することから、直線近似により脱離量Dgを演算するものである。なお、ここでは式(5)によって基準流量時の脱離量を求め、式(6)でこれにパージ流量を掛けることによって脱離量を演算しているが、式(5)、(6)を一つの式にまとめてもよい。
【0070】
ステップS44では次式(7)により活性炭温度Tが演算される。
【0071】
[活性炭温度演算式]
T=Tz−Kt1×(Yz2−Yz)+Kt2×(Tz−Ta) ・・・(7)
Tz:活性炭温度の前回値
Kt1:吸熱分係数
Yz2:吸着量の前々回値
Yz:吸着量の前回値
Kt2:熱伝達分係数
Ta:キャニスタ雰囲気温度
この活性炭温度演算式は、過去の温度(右辺第1項)と、脱離による温度低下分(右辺第2項)と、熱伝達による温度上昇分(右辺第3項)とで構成される。このように活性炭温度Tを演算するのは、式(5)中の脱離指数n(T)が活性炭温度Tの影響を受け、特に、脱離量が多いときは活性炭温度Tの降下量が大きく、これがキャニスタ4における燃料の脱離特性に与える影響を無視することができないからである。
【0072】
したがって、キャニスタモデルは上記式(4)から(7)の4つの式、式(5)と式(6)とをまとめた場合は3つの式で構成されることになる。これを図示すると図11に示すようになり、キャニスタモデルは吸着量演算部B41、基準脱離量演算部B42、流量相当脱離量演算部B43、活性炭温度演算部B44で構成され、各部分がそれぞれ式(4)から(7)に対応する。
【0073】
続いて目標パージ率の設定処理について説明する。
【0074】
図12は目標パージ率の設定処理の内容を示したフローチャートであり、図2中の目標パージ率設定部B5における処理に対応する。パージバルブ11はこの処理により設定された目標パージ率が実現されるようなデューティ比でもって駆動される。
【0075】
これについて説明すると、まず、ステップS51では、キャニスタモデルに基づき演算された脱離量と、パージ流量とに基づきパージガスの空燃比(パージ空燃比)が演算される。なお、パージ空燃比はHCセンサによって検出するようにしてもよいが、キャニスタモデルに基づき演算される脱離量等に基づき演算によって求めればパージ空燃比を安価かつ正確に演算することができる。
【0076】
次のステップS52では、運転状態、例えばエンジン回転速度、エンジン負荷、吸入空気流量などのパラメータから、パージ空燃比の誤差が推定される。パージ空燃比誤差の推定は、例えば、図13に示すテーブルを参照して求められ、吸入空気流量が少なくなるほど、またパージ率が小さくなるほどパージ空燃比誤差は大きくなる。あるいは、パージ空燃比誤差は、図14に示すようにパージ空燃比とパージ空燃比誤差の関係を規定したテーブルを参照して求めるようにしても良い。パージ空燃比誤差が求まったらステップS53に進み、ステップS51で求めたパージ空燃比がこの誤差に基づき補正される。
【0077】
ステップS54では誤差補正後のパージ空燃比に基づきパージ率変化量制限値が演算される。パージ率が変化するとエンジン10の空燃比が変化するが、このときのエンジン10の空燃比変動が許容幅以内に収まるようにパージ率変化量制限値が演算される。空燃比変動の許容幅は空燃比空燃比フィードバック制御により吸収可能な、エミッションを悪化させない幅に設定される。
【0078】
ステップS55では、パージバルブ11のサイズから規定されるパージ率上限値PVMXが演算される。このようなパージ率上限値PVMXを求めるのは、目標パージ率がパージバルブ11を最大開度として得られるパージ率よりも大きな値に設定されてしまうと、パージ率と目標パージ率との不一致が生じ、FHOSの演算の誤差が大きくなるため、空燃比変動が増加する。これにより、エミッション悪化等の問題が生じるからである。具体的には、パージバルブサイズが一定の場合、パージバルブの前後差圧が大きいほど流せるパージガスの流量も多くなることから、パージバルブの前後差圧が大きいときにパージ率上限値PVMXとして大きな値が演算される。
【0079】
ステップS56では、燃料噴射弁15の性能に応じて決まる燃料最小噴射パルス幅、目標パージ率の前回値、パージ分補正係数との関係から燃料噴射弁15の性能に基づくパージ率上限値TIMNMXが演算される。パージ率が高くなるとパージによってエンジン10に供給される燃料量が増加するので、燃料噴射弁15からの燃料噴射量がその分だけ減らされるように燃料噴射パルス幅は短く補正されるが、燃料噴射弁15の噴射精度を確保するためには噴射パルス幅は所定の最小パルス幅よりも大きくなくてはならない。言い換えれば、燃料噴射パルス幅を最小パルス幅より大きくするためにはパージ率はある値よりも小さくなくてはならない。このような理由から、燃料噴射弁15の噴射性能によってもパージ率の上限が規定される。
【0080】
また、ステップS57では、現在の運転領域から想定しうる全ての運転領域を想定し、その中での最小パージ率を予測し、この最小パージ率とパージ率変化量制限値とからパージ率上限値PRMNMXを演算する。例えば、アクセル全開で加速した場合に目標パージ率はごく小さな値に設定されるが、このアクセルを全開とする直前に目標パージ率が大きな値に設定されていると、パージ率の変化量が変化量制限値以下に制限されていることからパージ率を目標パージ率に追従させることができなくなる。この追従遅れはエミッション増大の原因等となることから、かかる追従遅れを生じないように想定しうる最小パージ率からもパージ率の上限を規定する必要がある。
【0081】
また、ステップS58では、空燃比フィードバック補正係数αをモニタし、所定値以下であれば空燃比フィードバック補正係数αを所定値以上とするパージ率のうち最も大きな値をパージ率上限値ALPMXとして演算する。このような上限値ALPMXを設けるのは、空燃比フィードバック制御では空燃比フィードバック補正係数αは100±25%に収まるように制御されているが、空燃比フィードバック補正係数αが前記制限値(例えば80%)近傍で制御されているような場合は、大量のパージを行っているとパージ以外の外乱を受けて前記制御範囲から外れやすくなるからである。
【0082】
ステップS59では上記4つの上限値PVMX、TIMNMX、PRMNMX、ALPMXから最も小さい値を選択し、その値を最大パージ率に設定する。
【0083】
ステップS60、S61では目標パージ率の前回値と最大パージ率との比較を行い、目標パージ率の前回値と最大パージ率とが等しいときは目標パージ率を前回値のままとし(ステップS63)、目標パージ率の前回値が最大パージ率よりも大きいときは目標パージ率をその前回値からパージ率変化量制限値を引いた値とし(ステップS64)、目標パージ率の前回値が最大パージ率よりも小さいときは目標パージ率をその前回値にパージ率変化量制限値を加えた値とする(ステップS62)。
【0084】
したがって、目標パージ率は、最大パージ率を目標としてパージ率変化量制限値の範囲内でこれに追従するように設定され、排気エミッションを悪化させずに大量のパージを行う上で最良のパージ率が設定される。また、最大パージ率を設定する際に、物理的な制限、現在の運転領域等で決まる上限値PVMX、TIMNMX、ALPMXだけでなく、運転領域が変化した場合でも遅れなくその領域での最大パージ率に移行できるように決定される上限値PRMNMXも考慮されるので、運転条件が変化しても排気エミッションを悪化させずに大量パージを行う上で最良のパージ率を設定することができる。
【0085】
ところで、上記キャニスタモデルを中心としたパージ処理(モデル規範パージ処理)は、較正処理がまだ実行されておらず上述したキャニスタモデルで用いる初期値(初期吸着量)が存在しない間は実行することができない。しかし、大量パージを実現するためには、たとえ較正処理実行前であってもパージ処理を実行する必要がある。そこで較正処理が実行されるまでは、上記処理に代えて以下の図15に示す処理(ブートアップ制御)によりパージ率を設定し、設定されたパージ率でもってパージ処理を実行する。なお、このブートアップ制御では、パージによる空燃比変動は空燃比フィードバック制御によって吸収され、燃料噴射量の補正は行われない。
【0086】
図15に示す処理について説明すると、まず、ステップS71では積算パージ流量(パージを開始してからの総パージ流量)とパージ配管容積(キャニスタ4からパージバルブ11までの配管の容積)を比較し、積算パージ流量がパージ配管容積を超えている場合はステップS72へ進み、超えていない場合はステップS75へ進む。
【0087】
ステップS75では目標パージ率を初期パージ率(1%以下の小さな値)が設定される。このような小さな値に設定するのは、積算パージ流量がパージ配管容積に達してない場合はパージ開始前にパージ配管内のガスがエンジン10に供給されることになるが、このパージ配管内のガスの空燃比が不明であり、このままステップS72以降に示す目標パージ率設定処理を行うとエンジン10の燃焼安定性悪化等の問題を生じるからである。
【0088】
つまり、パージ開始時にパージ配管中に存在する低濃度のパージガスが供給され、これによる空燃比変動が小さいと、さらに大量のパージが可能であると判断されて大きなパージ率が設定されるが、このようにして大きなパージ率が設定されてしまうと、配管内の低濃度のガスが全て供給されて本来の高パージガスが供給されるときに大量の脱離燃料が突然供給されることになり、エンジン10の燃焼安定性等を悪化させる原因となるからである。
【0089】
積算パージ流量が配管容積を超えたらステップS72に進み、実空燃比フィードバック偏差と目標空燃比フィードバック偏差との差が演算される。ここで、目標空燃比フィードバック偏差とは、空燃比フィードバック補正係数の目標値tαと空燃比フィードバック補正係数の基準値(100%)との偏差(=|tα−100|%)をいい、実空燃比フィードバック偏差とは実際の空燃比フィードバック補正係数αと空燃比フィードバック補正係数の基準値との偏差(=|α−100|%)をいう。例えば、パージによる空燃比変動を空燃比フィードバック制御で十分吸収できる範囲内で大量のパージ流量を確保することを目的として空燃比フィードバック補正係数αの目標値が80%に設定されると、目標空燃比フィードバック偏差は20%に設定される。
【0090】
ステップS73では図16に示すテーブルを検索することで上記目標空燃比フィードバック偏差と実空燃比フィードバック偏差との差に応じたパージ率変化量が求められる。パージ率変化量は、目標空燃比フィードバック偏差と実空燃比フィードバック偏差の差の絶対値が大きくなるほど大きな値が設定され、目標値への収束性が高められるのであるが、目標空燃比フィードバック偏差と実空燃比フィードバック偏差の差の正負によって、偏差の絶対値が同じであっても異なる値が設定され、空燃比フィードバック偏差の差が負側にずれた場合の方がパージ変化量は大きな値(絶対値)が設定される。
【0091】
このようにパージ変化量を空燃比フィードバック偏差の正負で異なる特性とするのは、空燃比フィードバック偏差の差が負側にずれている場合は空燃比フィードバック補正係数αが目標とする80%よりも小さな値になっており、逆の正側にずれている場合と比べてパージ以外の外乱によってエンジン安定性、エミッションの悪化を招きやすく、不利な状態あるといえるからである。つまり、パージ変化量を空燃比フィードバック偏差の差の正負に応じて特性を変えるのは、エンジンの燃焼安定性及びエミッション悪化防止の観点から、制御点を速やかに安全側に復帰させるためである。
【0092】
以上のようにしてパージ率変化量を演算したらステップS74に進み、本ルーチン前回実行時に求めた目標パージ率にステップS73で演算したパージ率変化量を付加し、新たな目標パージ率が演算される。また、ステップS76では目標パージ率と吸入空気流量からパージ流量が求められ、積算パージ流量の値が更新される。
【0093】
したがって、この処理によると、キャニスタ4の吸着状態によらず、最適なパージ率を設定することができ、また、想定以上の濃度のパージが供給された場合でも、それによる空燃比変動を受けて目標パージ率が適宜変更され、常に最適なパージ率を設定することができる。
【0094】
なお、この実施形態では較正処理によりキャニスタモデルの初期値が演算されるまでは図15に示した処理が行われ、較正処理実行後はキャニスタモデルに基づくパージ処理(モデル規範パージ処理)を行うとしているが、常時図15に示した処理によってパージを行うことも可能である。
【0095】
次に、上記制御を行うことによる全体的な作用について説明する。
【0096】
本発明に係る蒸発燃料処理装置においては、パージ処理時、目標パージ率はエンジン燃焼安定性低下、エミッション増大を起こさない範囲でできる限り大きな値が設定され、この目標パージ率が実現されるようにパージバルブ11が駆動される。
【0097】
パージ処理中はエンジン10にキャニスタ4から脱離した燃料を含んだパージガスが供給されることになるので、コントローラ21はキャニスタ4から脱離してくる燃料量を推定することでパージによって供給される燃料によって生じるエンジン10の空燃比変動を予測し、この空燃比変動を抑えるように燃料噴射弁15への燃料噴射パルス幅を補正する。
【0098】
このときキャニスタ4からの脱離燃料量は、式(4)から式(7)で表されるキャニスタモデルを用いて推定され、脱離量は短時間でかつ正確に推定される。ここで、キャニスタモデルに基づき演算される脱離量等は誤差を含んでおり、キャニスタモデルの動作時間が長くなるにつれこの誤差が積算され大きくなるので、コントローラ21は空燃比フィードバック補正係数αの変化からキャニスタ4から脱離された燃料量を推定し、この推定した脱離量から逆演した吸着量でもってキャニスタモデルの内部変数である吸着量の値を較正する。この較正処理は、パージ以外の空燃比外乱が小さく空燃比変動(空燃比フィードバック係数αの変化)をほぼ全てパージによるものとみなすことができ、かつ、パージによる空燃比への影響が比較的大きいときに実行される。
【0099】
また、パージバルブ11が開かれてから脱離燃料がエンジン10のシリンダに到達するまでには遅れがあり、また到達するまでに燃料の拡散もあるので、燃料噴射パルス幅の補正はこの遅れとなまし作用を考慮して行われる。
【0100】
また、上記キャニスタモデルを用いたパージ処理(モデル規範パージ処理)は、較正処理によって吸着量の初期値が求まるまではその効果を発揮することができないが、キャニスタモデルの初期値が演算されるまでは目標空燃比フィードバック偏差と実空燃比フィードバック偏差との差に応じて目標パージ率が設定され、この目標パージ率が実現されるようにパージバルブ11が駆動される。これにより、較正処理によって初期値が演算される前であってもパージ処理を行うことができ、全領域で効果的なパージを行うことができる。
【0101】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記実施形態の構成は本発明が適用される構成の一例を示したものであり、本発明の範囲を上記構成に限定するものではない。上述した通り、上記実施形態においては、キャニスタモデルによるパージ処理が可能となるまでは、図15に示したパージ処理が補助的に実行されるが、図15に示したパージ処理を継続して用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る蒸発燃料処理装置の全体構成図である。
【図2】コントローラにおけるパージ処理の概要を示したブロック図である。
【図3】パージ処理の内容を示したフローチャートである。
【図4】較正処理可能条件を示したフローチャートである。
【図5】遅れなまし処理の内容を示したフローチャートである。
【図6】吸入空気流量と無駄時間の関係を規定したテーブルである。
【図7】吸入空気流量となまし係数の関係を規定したテーブルである。
【図8】遅れ補正における無駄時間処理の概要を示した図である。
【図9】較正処理の内容を示したフローチャートである。
【図10】キャニスタモデルに基づく脱離量の演算処理の内容を示したフローチャートである。
【図11】キャニスタモデルの構成を示したブロック図である。
【図12】目標パージ率設定処理の内容を示したフローチャートである。
【図13】吸入空気流量及びパージ率に対するパージ空燃比誤差の関係を規定したマップである。
【図14】パージ空燃比に対するパージ空燃比誤差の関係を規定したテーブルである。
【図15】キャニスタモデルが起動するまでの目標パージ率設定処理を示したフローチャートである。
【図16】空燃比フィードバック偏差の差(=目標空燃比フィードバック偏差−実空燃比フィードバック偏差)とパージ率変化量の関係を規定したテーブルである。
【図17】従来の空燃比フィードバック制御の概要を示したブロック図である。
【符号の説明】
1 燃料タンク
2 配管
4 キャニスタ
6 配管
8 吸気通路
9 エアフローメータ
10 エンジン
11 パージバルブ
15 燃料噴射弁
17 排気通路
18 空燃比センサ
21 コントローラ
Claims (9)
- 燃料タンクで発生する蒸発燃料を吸着するキャニスタと、
前記キャニスタとエンジンの吸気通路とを連通する配管を開閉するパージバルブと、
現在の運転条件での最大パージ率を設定する手段と、
パージガスの空燃比と、パージ率が変化することにより生じるエンジンの空燃比変動とに基づきパージ率の変化量制限値を設定する手段と、
前記パージ率変化量制限値以下の変化量で前記最大パージ率に追従する目標パージ率を演算する手段と、
パージ率が前記目標パージ率となるように前記パージバルブを駆動する手段と、
を備えたことを特徴とするエンジンの蒸発燃料処理装置。 - 前記最大パージ率を設定する手段は、前記パージバルブのサイズから規定されるパージ率上限値以下に前記最大パージ率を設定することを特徴とする請求項1に記載の蒸発燃料処理装置。
- 前記最大パージ率を設定する手段は、燃料噴射弁の性能から規定されるパージ率上限値以下に前記最大パージ率を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の蒸発燃料処理装置。
- 前記最大パージ率を設定する手段は、現在の運転領域から移行しうる全ての運転領域を想定し、その想定された運転領域での最小パージ率を予測し、この最小パージ率と前記パージ率変化量制限値とから演算されるパージ率上限値以下に前記最大パージ率を設定することを特徴とする請求項1から3のいずれかひとつに記載の蒸発燃料処理装置。
- 前記最大パージ率を設定する手段は、空燃比フィードバック補正係数が処理限界値以上になるように規定されるパージ率上限値以下に前記最大パージ率を設定することを特徴とする請求項1から4のいずれかひとつに記載の蒸発燃料処理装置。
- 前記パージ率の変化量制限値を設定する手段は、パージ率が変化することによる空燃比変動が前記エンジンのエミッションを悪化させない範囲内に収まるように前記パージ率の変化量制限値を設定することを特徴とする請求項1から5のいずれかひとつに記載の蒸発燃料処理装置。
- 少なくとも、
(a) 前記キャニスタに吸着されている燃料量の前回値及び前記キャニスタから脱離する燃料量の前回値に基づき前記キャニスタに吸着されている燃料量を演算する吸着量演算式と、
(b) 前記吸着量演算式によって演算された吸着量と、前記目標パージ率とに基づき前記キャニスタから脱離する燃料量を演算する脱離量演算式と、
で構成されるキャニスタモデルと、
前記キャニスタモデルを用いて演算される脱離燃料量に基づき前記パージガスの空燃比を演算する手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれかひとつに記載の蒸発燃料処理装置。 - 吸入空気流量に基づき前記演算されたパージガスの空燃比の誤差を演算する手段と、
前記演算されたパージガスの空燃比の誤差に基づき前記演算されたパージガスの空燃比を補正する手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項7に記載の蒸発燃料処理装置。 - 前記目標パージ率に基づき前記演算されたパージガスの空燃比の誤差を演算する手段と、
前記演算されたパージガスの空燃比の誤差に基づき前記演算されたパージガスの空燃比を補正する手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項7または8に記載の蒸発燃料処理装置。
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