JP3945290B2 - めっき製品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、基材層の表面に、金属めっき層を備えためっき製品の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種のめっき製品としては、基材層、下地層をなすベースコート層、金属めっき層としての銀めっき層及び被覆層をなすトップコート層を備えたものが知られている。前記ベースコート層には、例えば、アルキッド−ポリオールとポリエステル−ポリオールとを主剤とし、アダクト型のTDI(トルエンジイソシアネート)を硬化剤とするウレタン系塗料が使用されている。また、前記トップコート層には、例えばアクリル−ポリオールを主剤とし、イソシアネートを硬化剤とするアクリルウレタン系塗料等が使用されている。
【0003】
この積層品を製造する際には、例えば、以下のような方法を用いることが考えられる。その方法とは、まず基材層の表面に、前記ウレタン系塗料を塗布し、乾燥させて、ベースコート層を形成する。そして、そのベースコート層の表面に、銀鏡反応により銀を析出させるため、塩化スズ[II](SnCl2)水溶液を接触させ、スズ[II]を触媒として担持する。その後、前記ベースコート層の表面に、銀イオンを含有する水溶液を塗布し、銀鏡反応により銀を析出させ、銀めっき層を形成する。そして、前記銀めっき層の表面の洗浄を繰り返し、乾燥させた後、その銀めっき層の表面に前記アクリルウレタン系塗料を塗布し乾燥させて、トップコート層を形成する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、従来の製造方法による積層品では、同積層品の耐久試験を行った結果、銀めっき層とトップコート層との境界面で剥離が生じるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、銀めっき層とトップコート層との付着強度を向上させ、境界面での剥離を防止することができるめっき製品の製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、基材の表面に、ベースコート層、金属めっき層及びトップコート層を備えためっき製品の製造方法において、前記基材の表面に前記ベースコート層及び前記金属めっき層としての銀めっき層を形成した後、前記銀めっき層の表面を還元性溶液として濃度が1〜35重量%の範囲の亜硫酸水素ナトリウムにより処理した後、前記銀めっき層の表面に前記トップコート層を形成することをその要旨とする。
【0007】
これにより、銀めっき層とトップコート層との付着強度を向上させ、前記境界面での剥離を防止することができる。この理由は、金属表面の酸化被膜が還元され、反応性の高い官能基、例えばヒドロキシル基が金属表面に生成しているものと推定される。則ち、水溶液中で亜硫酸イオンが速やかに放出されることから、銀めっき層の表面には、その亜硫酸イオンの還元反応により、極めて極性の高い官能基であるヒドロキシル基が付与される。よって、銀めっき層は、分子間力によるトップコート層との結合点の数を増やすことができる。従って、銀めっき層とトップコート層との付着強度を向上させ、前記境界面での剥離を防止することができる。また、銀めっき層の長期にわたる光輝性が保持されるため、金属めっき品としての高品質性を保つことができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、基材の表面に、ベースコート層、金属めっき層及びトップコート層を備えためっき製品の製造方法において、前記基材の表面に前記ベースコート層及び前記金属めっき層としての銀めっき層を形成した後、前記銀めっき層の表面を濃度が1〜10重量%の範囲の酢酸水溶液により処理した後、前記銀めっき層の表面に前記トップコート層を形成することをその要旨とする。
このようにすることで、銀めっき層の表面では、酢酸がもつカルボキシル基(―COOH)が付与される。カルボキシル基は極めて極性の高い官能基であることから、銀めっき層は、分子間力によるトップコート層との結合点の数を増やすことができる。従って、銀めっき層とトップコート層との付着強度をより向上させ、前記境界面での剥離をよりいっそう抑制することができる。また、銀めっき層の長期にわたる光輝性が保持されるため、金属めっき品としての高品質性を保つことができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体化した実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、めっき製品11には、合成樹脂製の基材層12の表面(意匠面)上に、下地層としてのベースコート層13、金属めっき層としての銀めっき層14及び被覆層としてのトップコート層15が形成されている。
【0024】
基材層12は、例えばABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、PC(ポリカーボネート)、PC/ABSアロイ、PP(ポリプロピレン)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)またはオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)等により構成され、例えば公知の射出成形法により成形される。
【0025】
ベースコート層13は、基材層12の表面にベースコート剤を塗布または浸漬させた後に乾燥させることによって積層形成される。前記ベースコート剤としては、アルキッド変性アクリルポリオール等を主剤とし、例えばビューレット型のHMDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)を硬化剤とする2液硬化型ポリウレタン樹脂、あるいはエポキシ樹脂が好適に使用される。
【0026】
ここで、銀めっき層14の形成に先立って、ベースコート層13上に助触媒としてスズ[II]を担持させるために、塩化スズ[II]及び塩酸を含む第1の前処理液が塗布される。ベースコート層13の水洗後、助触媒が担持されたベースコート層13上に塩化パラジウム[II]溶液を塗布することで、ベースコート層13の表面に、銀めっき層14の銀の初期核形成を促す触媒としてパラジウム[II]を担持させている。
【0027】
銀めっき層14は、銀鏡反応を利用した化学めっき法(無電解めっき法)を用いてベースコート層13の表面に積層形成されている。詳しくは、アンモニア性硝酸銀([Ag(NH3)2]+OH-)溶液(トレンス試薬)と還元剤溶液とをベースコート層13の表面上で混合されるように塗布して酸化還元反応を引き起こし、金属めっき層を構成する金属としての銀(Ag)を析出させる。前記還元剤溶液としては、グリオキサール等のアルデヒド基を有する有機化合物(R―CHO)、亜硫酸ナトリウムまたはチオ硫酸ナトリウム等の水溶液が好適に使用される。
【0028】
トップコート層15は、銀めっき層14を保護すべく、同銀めっき層14の表面にトップコート剤を塗布または浸漬させた後に乾燥させることによって積層形成される。前記トップコート剤としては、撥水性の高いシリコンアクリル樹脂が好適に使用される。そして、このトップコート層15では、シリコンアクリル樹脂の塗布乾燥後、さらに架橋を進行させ、そのガラス転移温度(Tg)が60℃以上となるようにしている。
【0029】
次に、このめっき製品11の製造方法について以下に記載する。
図3に示すように、上記めっき製品11を製造する際には、まず、ステップS20において基材層12を所定形状に射出成形した後、S30のベースコート塗装工程(BC塗装工程)を行う。
【0030】
このS30のベースコート塗装工程は、成形後の基材層12の表面に、ベースコート剤からなるベースコート層13を形成させる工程である。このベースコート塗装工程では、まず、S31の前処理工程において、イソプロパノール等の洗浄剤を用いて前記成形後の基材層12の表面(意匠面)を充分に洗浄する。続いて、S32のベース塗装工程において、前記洗浄後の基材層12の意匠面上にベースコート剤を均一に被覆させる。このS32におけるベースコート剤の被覆方法としては、塗布または浸漬のいずれの方法を用いてもよいが、被覆が容易であることからスプレー塗布するのが好ましい。このベースコート剤としては、例えば、大橋化学工業株式会社製の「771」(主剤の主鎖がアクリル−ポリオール(70%)、分枝鎖がアルキッド−ポリオール(30%)であり、硬化剤をビューレット型HMDIとし、NCO/OH比が1/1であるような2液硬化型ウレタン塗料)またはオリジン電気株式会社製の「E―1」(主剤をエポキシ樹脂、硬化剤をアミン化合物とするエポキシ系塗料)が好適に使用される。
【0031】
続いて、S33の乾燥工程において、前記基材層12の意匠面上に被覆されたベースコート剤を乾燥させる。ここで、ベースコート剤として前記「E―1」を用いた場合には、80℃の温度で60分間乾燥させる。または、ベースコート剤として前記「771」を用いた場合には、80℃の温度で30分間乾燥させる。こうして、S33の乾燥工程を行った後、次のS40のめっき塗装工程の処理を行う。
【0032】
このS40のめっき塗装前工程は、S50のめっき塗装後工程において銀を析出させ易くするために、ベースコート層13の表面に前処理を行う工程である。まず、S41の銀鏡前処理工程(1)において、乾燥後のベースコート層13の表面に助触媒を含有する第1の前処理薬液を塗布または浸漬させ、その助触媒をベースコート層13の表面に担持させる。ここで、前記助触媒としては、例えばスズ[II]が好適に用いられ、また、第1の前処理薬液として塩酸を含有する塩化スズ[II](SnCl2)溶液が好適に用いられる。
【0033】
続いて、S42の水洗工程において、イオン交換水または蒸留水(好ましくは導電率が3μS/m以下)を用いてベースコート層13の表面を水洗し、ベースコート層13の表面に担持されなかった過剰の塩化スズ[II]を取り除く。
【0034】
次に、S43の銀鏡前処理工程(2)において、乾燥させたベースコート層13の表面に触媒を含有する第2の前処理薬液を塗布または浸漬させ、前記助触媒と置換させることで、ベースコート層13の表面に触媒を担持させている。ここで、ベースコート層13の表面に担持させる触媒としては、例えばパラジウム[II]が好適に用いられている。また、第2の前処理薬液として塩化パラジウム[II](PdCl2)溶液または奥野製薬製の「アクチベーター」が好適に用いられる。このようにして、前記ベースコート層13の表面に、銀めっき層14の銀の初期核形成を促す触媒を担持させている。上記めっき塗装前工程において、めっき層を形成させる基板上にパラジウム[II]を触媒として担持させるのは、ニッケルめっき層形成の場合と同じである。
【0035】
続いて、S44の水洗工程において、イオン交換水または蒸留水(好ましくは導電率が3μS/m以下)を用いてベースコート層13の表面を水洗し、ベースコート層13の表面に担持されなかった過剰の塩化パラジウム[II]を取り除く。
【0036】
上記方法によりS40のめっき塗装前工程が行われた後に、S50のめっき塗装後工程が行われる。このめっき塗装後工程では、銀鏡反応を用いた銀めっき層14の形成及び銀めっき層14の後処理が行われる。
【0037】
S51の銀鏡塗装工程では、前記触媒が担持されたベースコート層13の表面に、アンモニア性硝酸銀溶液と還元剤溶液とを同時に塗布することにより、ベースコート層13上で両溶液を反応させて銀を析出させている。そして、その析出された銀が、ベースコート層13の表面に担持されているパラジウム[II]を中心にベースコート層13の表面に析出されて積層し、銀めっき層14が形成される。この銀鏡塗装工程では、例えば、ダイテック製の「LA」及び「LB]が好適に使用される。なお、この銀鏡塗装工程においては、双頭スプレーガンまたは同芯スプレーガンを利用して、前記アンモニア性硝酸銀溶液と還元剤溶液とを塗布すると便利である。
【0038】
続いて、S52の水洗工程において、イオン交換水又は蒸留水を用いて銀めっき層14の表面を水洗し、その銀めっき層14の表面上に残留する銀鏡反応後の溶液等を取り除いた後、S53の銀鏡後処理工程を行う。
【0039】
S53の銀鏡後処理工程は、S61のトップ塗装工程で形成されるトップコート層15との付着強度を向上させるために、銀めっき層14の表面に後処理溶液を塗布する工程である。つまり、この工程では、S61で形成されるトップコート層15との結合点の数を増やすために、後処理溶液を塗布することで、銀めっき層14の表面に極性の高い官能基を付与している。その結果、銀めっき層14とトップコート層15との境界面において、極性基間の相互作用による分子間力が大きくなり、銀めっき層14とトップコート層15との付着強度を向上させている。本実施形態では、後処理溶液として還元性溶液または有機カルボン酸溶液が使用される。
【0040】
還元性溶液としては、亜硫酸、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩等の物質を含む溶液が好適に使用される。これらの物質は、溶液中において亜硫酸イオンを速やかに放出することができる。亜硫酸イオン(HSO3 -)は還元性が強いことでよく知られている。図2に示すように、亜硫酸イオンを含む還元性溶液を塗布することで、銀めっき層14の表面を覆う酸化被膜は速やかに還元され、それと同時に硫酸イオン(SO4 2-)が放出される。その結果、銀めっき層14の表面には、極めて極性の高い官能基であるヒドロキシル基が付与される。
【0041】
銀めっき層14上に形成されるトップコート層15は、後述するS60のトップコート塗装工程(TC塗装工程)において、シリコンアクリル系塗料をトップコート剤として形成される。この場合、トップコート層15は多数のヒドロキシル基を有しており、銀めっき層14は、その表面に新たにヒドロキシル基が付与されることで、分子間力によるトップコート層15との結合点の数を増やすことができる。このようにして、銀めっき層14は、このS53の銀鏡後処理工程を経ることにより、トップコート層15との付着強度を向上させている。
【0042】
還元性溶液は、亜硫酸イオンを含む溶液に限定されるものではない。例えば、還元性溶液は2価の金属イオンを含む溶液であってもよい。2価の金属イオンは、亜硫酸イオンと同様に還元性が強いことで知られている。このため、2価の金属イオンを含む還元性溶液を銀めっき層14に塗布することで、銀めっき層14の表面を覆う酸化被膜は速やかに還元される。その結果、銀めっき層14の表面には、極めて極性の高い官能基であるヒドロキシル基が付与される。具体的には、還元性の強い2価の金属塩として、Sn(II)の塩またはFe(II)の塩等が挙げられる。また、還元性溶液は有機酸であってもよく、表面が酸化被膜により覆われた銀めっき層14を有機酸により処理することで、上記内容とほぼ同等の作用が発揮される。その他にも、還元性溶液としては、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ホスフィン酸ナトリウム、二酸化チオ尿素、塩化ヒドラジニウム、L(+)−アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、過酸化水素水等のいずれかを含むものであってもよい。
【0043】
また、S53の銀鏡後処理工程において、有機カルボン酸を還元性溶液としてではなく、銀めっき層14の表面にカルボキシル基を付与する目的として使用することもできる。図4に示すように、銀めっき層14に有機カルボン酸溶液を塗布すると、銀めっき層14の表面には、有機カルボン酸がもつカルボキシル基が付与される。カルボキシル基は、ヒドロキシル基と同様に極めて極性の高い官能基である。このため、銀めっき層14は、S53の銀鏡後処理工程で多数のカルボキシル基が付与されることにより、トップコート層15との結合点の数を増やすことができる。そして、銀めっき層14は、分子間力による結合点の数を増やすことで、S61で形成されるトップコート層15との付着強度を向上させている。この場合、有機カルボン酸として、シュウ酸、蟻酸、マロン酸、酢酸、コハク酸、プロピオン酸、グルタル酸、酪酸等が好適に使用される。このように、比較的酸強度の低い酸を使用することで、銀めっき層14の表面のエッチング効果を小さく抑えることができる。
【0044】
次に、S54の水洗工程において、銀めっき層14の表面をイオン交換水又は蒸留水を用いて水洗した後、S55の水切りブロー工程において、銀めっき層14の表面に付着している水滴をエアブローにて吹き飛ばす。続いて、S56の乾燥工程において、70℃の温度で30分間乾燥させた後、S60のトップコート塗装工程(TC塗装工程)を行う。
【0045】
このS60のトップコート塗装工程は、銀めっき層14の表面にトップコート剤からなるトップコート層15を形成させる工程である。このトップコート塗装工程では、まず、S61のトップ塗装工程において、トップコート剤を銀めっき層14の表面に均一に塗布する。このトップコート剤としては、例えば、藤倉化成株式会社製の「PTC―02UH(10B)」(シリコンアクリル系塗料)またはオリジン電気株式会社製の「オリジツーク#100」(アクリルシリコン系塗料)が好適に使用される。このことから、図3、図4に示すように、銀めっき層14とトップコート層15との境界面には、ケイ素と酸素が交互に結びついたシロキサン結合が生成されている。シロキサン結合は、熱的にも化学的にも安定な無機結合であり、主にガラスの基本骨格として生成されている。
【0046】
続いて、S62の乾燥工程において、前記銀めっき層14上に塗布されたトップコート剤を乾燥させ、トップコート層15を形成させる。ここで、トップコート剤として前記「PTC―02UH(10B)」を用いた場合には、80℃の温度で60分間乾燥させる。または、トップコート剤として前記「オリジツーク#100」を用いた場合には、80℃の温度で45分間乾燥させる。
【0047】
前述の構成を有するめっき製品11は、例えば、メータークラスター、センタークラスター、レジスター、センターコンソール、エンブレム等の自動車の内装部品、ホイールキャップ、バンパーモール、ホイルガーニッシュ、グリルラジエータ、バックパネル、エンブレム等の自動車の外装部品に好適に適用することができる。さらには、エアコンハウジング、携帯電話、ノートパソコン等の自動車部品以外の用途に用いられる各種めっき製品も好適に適用することができる。
【0048】
上記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)銀めっき層14の表面を還元性溶液により処理することで、酸化被膜に覆われた銀めっき層14の表面を容易に還元することができる。この場合、銀めっき層14の表面には還元反応により極性の高い官能基が付与されるため、銀めっき層14は、分子間力によるトップコート層15との結合点の数を増やすことができる。よって、銀めっき層14とトップコート層15との付着強度を向上させ、前記境界面での剥離を防止することができる。
【0049】
(2)還元性溶液は、水溶液中において亜硫酸イオンを放出する物質を含む。この場合、亜硫酸イオンは極めて還元性が強いことから、酸化被膜に覆われた銀めっき層14の表面を容易に還元することができる。このため、銀めっき層14の表面には、亜硫酸イオンの還元反応により、極めて極性の高い官能基であるヒドロキシル基が付与される。従って、銀めっき層14とトップコート層15との付着強度をさらに向上させ、前記境界面での剥離をよりいっそう防止することができる。
【0050】
(3)還元性溶液は、水溶液中において2価の金属イオンを放出する物質を含む。この場合、2価の金属イオンは極めて還元性が強いことから、酸化被膜に覆われた銀めっき層14の表面を容易に還元することができる。このため、銀めっき層14の表面には、2価の金属イオンの還元反応により、極めて極性の高い官能基であるヒドロキシル基が付与される。従って、銀めっき層14とトップコート層15との付着強度をさらに向上させ、前記境界面での剥離をよりいっそう防止することができる。また、還元性溶液が有機酸の水溶液である場合においても、有機酸の還元作用により、酸化被膜に覆われた銀めっき層14の表面を還元することができる。このため、銀めっき層14の表面には、有機酸の還元反応によりヒドロキシル基が付与され、銀めっき層14とトップコート層15との付着強度をさらに向上させることができる。
【0051】
(4)銀めっき層14の表面を有機カルボン酸で処理することにより、銀めっき層14の表面にはカルボキシル基が付与される。この場合、カルボキシル基はヒドロキシル基と同じく極めて極性の高い官能基であることから、銀めっき層14は、分子間力によるトップコート層15との結合点の数を増やすことができる。従って、銀めっき層14とトップコート層15との付着強度を向上させ、前記境界面での剥離を防止することができる。
【0052】
(5)有機カルボン酸は比較的酸強度の低い酸であることから、銀めっき層14の表面におけるエッチング効果を小さく抑えることができる。このため、有機酸を所定値以下の濃度にすることで、銀めっき層14は、その鏡面の光輝性を消失することなく、トップコート層15との付着強度を向上させることができる。また、有機カルボン酸は酸強度の低い酸であるため、溶液の取り扱いが容易になることから作業上の安全性も確保することができる。
【0053】
(6)この実施形態のめっき製品11の製造方法では、前記(1)〜(5)に記載の効果を有している。このようにすることで、銀めっき層14は、その鏡面の光輝性を消失させることなく、トップコート層15との付着強度を向上させることができる。その結果、銀めっき層14の長期にわたる光輝性が保持される。従って、このようなめっき製品11は、自動車の外装部品等、過酷な環境下で使用される部材に適用することができる。
【0054】
(実施例)
以下、前記実施形態を具体化した実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
ABSにより四角板状に形成された基材層12としての基材を射出成形した後、その基材の表面(意匠面)にイソプロパノールを用いてスプレー洗浄することによりS31の前処理工程を行った。続いて、ベースコート剤として2液硬化型ポリウレタン樹脂(オリジン電気製)を基材の表面にスプレー塗布してS32のベース塗装工程を行った。その後、80℃の乾燥炉内で60分間乾燥工程(S33)を行うことによって、基材の表面に約20μmの均一な厚さのベースコート層13が形成された。
【0055】
次に、ベースコート層13の表面に、3重量%の塩化すず[II]及び1重量%の塩酸を含有する塩化すず[II]溶液をスプレー塗布してS41の銀鏡前処理工程(1)を行った後、イオン交換水(好ましくは導電率が3μS/m以下)を用いてベースコート層13の表面をスプレー洗浄し、S42の水洗工程を行った。続いて、塩化パラジウム溶液(奥野製薬製「アクチベーターの5重量%溶液」)をスプレー塗布してS43の銀鏡前処理工程(2)を行った後に、イオン交換水(好ましくは導電率が3μS/m以下)を用いてベースコート層13の表面をスプレー洗浄し、S44の水洗工程を行った。続いて、トレンス試薬とグリオキサールとを双頭スプレーガンを用いてベースコート層13の表面に同時にスプレー塗布してS51の銀鏡塗装工程を行うことによって、ベースコート層13の表面に約1000Åの均一な厚さの銀めっき層14が形成された。その後、イオン交換水を用いて銀めっき層14の表面をスプレー洗浄し、S52の水洗工程を行った。
【0056】
次に、銀めっき層14の表面に後処理溶液として1重量%の亜硫酸水素ナトリウムをスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行った後、イオン交換水を用いて銀めっき層14の表面をスプレー洗浄してS54の水洗工程を行った。続いて、銀めっき層14の表面に圧縮空気を吹き付けてS55の水切りブロー工程を行った後、70℃の乾燥炉内で30分間乾燥工程(S56)を行った。
【0057】
最後に、銀めっき層14の表面に、シリコンアクリル系トップコート剤(藤倉化成株式会社製「PTC―02UH(10B)」)をスプレー塗布してS61のトップ塗装工程を行った後、80℃の乾燥炉内で60分間乾燥工程(S62)を行うことによって、銀めっき層14の表面に約20μmの均一な厚さのトップコート層15が形成された。得られためっき製品11は、基材の表面にベースコート層13、銀めっき層14及びトップコート層15が形成されている。そして、得られためっき製品11をプルオフ試験(JIS・K5400・8・7項)に供し、銀めっき層14とトップコート層15との付着強度を単位面積当たりの引張強度として表示した。また、上記製造方法により形成されためっき製品11の外観を目視にて判定した。
【0058】
<プルオフ試験>
プルオフ試験とは、塗面上に引張用の治具をエポキシ系接着剤で接着し、塗面に対し垂直方向に引張り、塗膜が被塗物から破断する荷重を求めるという方法である。本実施形態では、めっき製品11の表面に定格の治具をエポキシ系接着剤で接着し、この表面に対し垂直方向に引っ張り、トップコート層15が銀めっき層14から剥離するときの引張強度を求める。
【0059】
(実施例2)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液として10重量%の亜硫酸水素ナトリウムをスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0060】
(実施例3)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液として35重量%の亜硫酸水素ナトリウムをスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0061】
(実施例4)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液として1重量%の酢酸をスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0062】
(実施例5)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液として10重量%の酢酸をスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0063】
(実施例6)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液として30重量%の酢酸をスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0064】
(実施例7)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液として60重量%の酢酸をスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0065】
(実施例8)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液として80重量%の酢酸をスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0066】
(実施例9)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液として1重量%の亜硫酸水素カルシウムをスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0067】
(実施例10)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液として1重量%のシュウ酸をスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0068】
(実施例11)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液として1重量%の亜硫酸水素ナトリウムをスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行った。その後、S61のトップ塗装工程において、トップコート剤としてオリジン電気製「E−1」を使用し、S62の乾燥工程において、80℃の温度で45分間乾燥させることでトップコート層15を形成したものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0069】
(比較例1)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液を塗布しないものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0070】
(比較例2)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液として0.1重量%の亜硫酸水素ナトリウムをスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0071】
(比較例3)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液として0.1重量%の酢酸をスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0072】
(比較例4)
前記実施例1における銀鏡塗装工程を経て形成された銀めっき層14表面の後処理溶液として1重量%の塩酸をスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0073】
(比較例5)
前記実施例1における銀鏡塗装工程を経て形成された銀めっき層14表面の後処理溶液として1重量%の硫酸をスプレー塗布し、S53の銀鏡後処理工程を行ったプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0074】
プルオフ試験による引張強度及びめっき製品11の外観判定の結果を表1に示す。
(比較例6)
前記実施例1における銀めっき層14の表面に後処理溶液を塗布しないで、S53の銀鏡後処理工程を行った。その後、S61のトップ塗装工程において、トップコート剤としてオリジン電気製「E−1」を使用し、S62の乾燥工程において、80℃の温度で45分間乾燥させることでトップコート層15を形成したものをプルオフ試験及び外観判定に供した。
【0075】
【表1】
銀めっき層14の後処理溶液として使用した亜硫酸水素ナトリウムの濃度とプルオフ試験による引張強度の関係を図5、図6に示す。そして、表1及び図5、図6の結果を、実施例1〜3と比較例1、2とに基づいて説明する。
【0076】
亜硫酸水素ナトリウムの濃度が0.1重量%以下である場合、プルオフ試験による引張強度は1MPa以下しか得ることができないのに対し、亜硫酸水素ナトリウムの濃度を1重量%以上にすると1.3MPa以上の引張強度を得ることができる。図5に示すように、亜硫酸水素ナトリウムの濃度が1、10、35重量%と高くなるに従い引張強度も大きくなる。しかし、亜硫酸水素ナトリウムの濃度を35重量%よりも高くすると水に溶解しなくなることから、銀めっき層14の後処理溶液としては、亜硫酸水素ナトリウムの濃度を35重量%以下に調整する必要がある。また、実施例1〜3と比較例1、2とから、いずれの場合においても外観判定では良好な結果が得られている。このような理由から、銀めっき層14の後処理溶液として、亜硫酸水素ナトリウムの濃度は1〜35重量%の範囲を適用範囲とすることができる。
【0077】
次に、銀めっき層14の後処理溶液として酢酸を使用した場合の結果を、実施例4〜8と比較例1、3とに基づいて説明する。酢酸の濃度が0.1重量%以下である場合、プルオフ試験による引張強度は1MPa以下しか得ることができないのに対し、酢酸の濃度を1重量%以上にすると1.3MPa以上の引張強度を得ることができる。ところが、酢酸の濃度が30、60、80重量%の場合、銀めっき層14の表面の光沢度が低下し、めっき製品11の外観判定で良好な結果を得ることはできなかった。これは、酢酸の酸濃度が高くなると、銀めっき層14の表面でエッチング効果が生じ、鏡面が消失したものと考えられる。酢酸の濃度が1、10重量%の場合、外観判定で良好な結果が得られることから、銀めっき層14の後処理溶液として、酢酸の濃度は1〜10重量%の範囲を適用範囲とすることができる。
【0078】
次に、銀めっき層14の後処理溶液に比較的酸強度の弱い酢酸を使用した場合と、酸強度の強い塩酸または硫酸を使用した場合との比較を、実施例4と比較例4、5とに基づいて説明する。銀めっき層14の後処理溶液として濃度が1重量%の塩酸、硫酸を使用した場合、プルオフ試験による引張強度は1MPa未満しか得ることができない。また、外観判定では銀めっき層14の表面の光沢度が低下しており、良好な結果を得ることができず、これは、塩酸、硫酸の酸濃度が高いことから、銀めっき層14の表面でエッチング効果が生じ、鏡面が消失したものと考えられる。一方、銀めっき層14の後処理溶液として濃度が1重量%の酢酸を使用した場合、プルオフ試験による引張強度は1.3MPa以上得ることができ、また外観判定でも良好な結果を得ることができる。
【0079】
その他の実施例として、銀めっき層14の後処理溶液として濃度が1重量%の亜硫酸水素カルシウムまたはシュウ酸を使用した場合の結果を、実施例9、10に基づいて説明する。亜硫酸水素カルシウムは亜硫酸イオンを容易に放出することから、銀めっき層14の表面には、極めて極性の高いヒドロキシル基が付与され、その結果としてトップコート層15との付着強度を向上させている。また、シュウ酸は比較的酸強度の弱い有機酸であることから、濃度を所定値以下にすることで、銀めっき層14の表面には、鏡面を消失させることなくヒドロキシル基が付与され、その結果としてトップコート層15との付着強度を向上させている。よって、銀めっき層14の後処理溶液として濃度が1重量%の亜硫酸水素カルシウムまたはシュウ酸を使用した場合、プルオフ試験による引張強度は1.2MPa以上得ることができ、また外観判定では良好な結果を得ることができる。
【0080】
更に、トップコート剤としてオリジン電気製「E−1」を使用した場合の結果を、実施例11と比較例6とに基づいて説明する。銀めっき層14の表面に後処理溶液として1重量%の亜硫酸水素ナトリウムを塗布した場合、プルオフ試験による引張強度は1.5MPa得ることができるのに対し、後処理溶液を塗布しない場合、引張強度は0.8MPaしか得ることができない。尚、外観判定では、実施例11、比較例6の結果より、いずれの場合においても良好な結果を得ることができる。このことから、銀めっき層14の表面に、所定の濃度の亜硫酸水素ナトリウムを塗布すれば、トップコート剤としてオリジン電気製「E−1」を使用したとしても、藤倉化成株式会社製「PTC―02UH(10B)」の場合とほぼ同等の効果を得ることができる。
【0081】
(変形例)
なお、本実施形態は、次のように変形して具体化することも可能である。
・本発明を、ゴム、ガラス、陶磁器等を含む各種のセラミックス、木材、紙等からなる各種の形状の基材層12上の表面に、直接またはベースコート層13を介して銀以外の金属めっき層及びトップコート層15を積層する構成に具体化してもよい。また、基材層12を、熱可塑性樹脂に替えて熱硬化性樹脂から形成してもよい。また、基材層12を、前記実施形態に列記された以外の熱可塑性樹脂から形成してもよい。
【0082】
・前記実施形態において、めっき製品11は、ベースコート層13が省略された構成であってもよい。なお、ベースコート層13が省略される場合には、S30のベースコート塗装工程は省略され、銀めっき層14は、S40のめっき塗装工程により基材層12の表面上に直接形成される。
【0083】
・前記実施形態において、めっき製品11の金属めっき層は、銀以外の金属からなる構成であってもよい。例えば、ニッケル、金、亜鉛、クロム、銅等の金属が挙げられる。
【0084】
・前記実施形態において、銀めっき層14は、スプレーガンを用いる方法に限らず、例えば電気めっき法や浸漬めっき法等により形成してもよい。
・前記実施形態において、銀めっき層14の形成に際に用いられる触媒は、触媒の担時に先立って、助触媒として、例えばスズ[II]等を基材層12またはベースコート層13の表面上に担持して、その助触媒と置換させることで、パラジウム[II]を担持させていた。しかし、この触媒は、パラジウム[II]に限定されるものではない。同触媒としては、例えばバナジウム[IV]、クロム[VI]、鉄[III]、銅[II]、ヒ素[III]、モリブデン[VII]、ルテニウム[II]、ルテニウム[III]、ロジウム[III]、アンチモン[III]、テルル[IV]、テルル[VI]、ヨウ素[0]、レニウム[III]、レニウム[IV]、レニウム[VI]、レニウム[VII]、オスミウム[IV]、イリジウム[III]、白金[II]、水銀[II]、タリウム[III]、ビスマス[III]等のいずれかを含むものであってもよい。
【0085】
前記実施形態、並びに変形例の記載から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に記載する。
(1)前記基材層を合成樹脂により構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法により製造されためっき製品。
従って、請求項1又は請求項2に記載の発明の効果に加えて、めっき製品の軽量化を図ることができるとともに、めっき製品の形状の自由度を高めることができる。
【0088】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1又は請求項2に記載の発明によれば、銀めっき層とトップコート層との付着強度を向上させ、境界面での剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態におけるめっき製品の一部を模式的に示す断面図。
【図2】銀めっき層を還元性溶液で処理した場合におけるトップコート層との結合点を模式的に示す図。
【図3】本実施形態におけるめっき製品の製造方法に関するフローチャート。
【図4】銀めっき層を有機カルボン酸溶液で処理した場合におけるトップコート層との結合点を模式的に示す図。
【図5】亜硫酸水素ナトリウムの濃度とプルオフ試験による引張強度との関係を示す図。
【図6】酢酸の濃度と引張強度との関係を示す図。
【符号の説明】
11…めっき製品、12…基材層、13…ベースコート層、14…銀めっき層、15…トップコート層。
Claims (2)
- 基材の表面に、ベースコート層、金属めっき層及びトップコート層を備えためっき製品の製造方法において、
前記基材の表面に前記ベースコート層及び前記金属めっき層としての銀めっき層を形成した後、前記銀めっき層の表面を還元性溶液として濃度が1〜35重量%の範囲の亜硫酸水素ナトリウムにより処理した後、前記銀めっき層の表面に前記トップコート層を形成することを特徴とするめっき製品の製造方法。 - 基材の表面に、ベースコート層、金属めっき層及びトップコート層を備えためっき製品の製造方法において、
前記基材の表面に前記ベースコート層及び前記金属めっき層としての銀めっき層を形成した後、前記銀めっき層の表面を濃度が1〜10重量%の範囲の酢酸水溶液により処理した後、前記銀めっき層の表面に前記トップコート層を形成することを特徴とするめっき製品の製造方法。
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